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(平15.12.17裁決、裁決事例集No.66 309頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、課税事業者である審査請求人(以下「請求人」という。)が行った立木の譲渡が、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の課税対象となるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、農業及び不動産貸付業を営む個人の消費税課税事業者であるが、平成11年1月1日から平成11年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税等について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成15年3月27日付で別表の「更正処分等」欄のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として平成15年4月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月4日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年6月30日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 消費税法第4条《課税の対象》第1項は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課すると規定している。
ロ 消費税法第5条《納税義務者》第1項は、事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務があると規定している。
ハ 消費税法第2条《定義》第1項第8号は、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨規定している。
 そして、消費税法基本通達5−1−1《事業としての意義》は、上記規定の「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われることをいう旨定めている。
 また、同法第2条第1項第9号は、課税資産の譲渡等とは、資産の譲渡等のうち、同法第6条《非課税》第1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう旨規定している。
ニ 所得税法第32条《山林所得》第1項は、山林所得とは、山林の伐採又は譲渡による所得をいうと規定し、同条第3項は、山林所得の金額は、その年中の山林所得に係る総収入金額から必要経費を控除し、その残額から山林所得の特別控除額を控除した金額とすると規定している。
ホ 租税特別措置法(平成13年法律第7号による改正前のもの。以下同じ。)第30条の2《山林所得に係る森林計画特別控除》第1項は、個人がその有する山林につき森林法(平成13年法律第109号による改正前のもの。以下同じ。)第11条《森林施業計画》第5項の規定による市町村の長の認定を受けた同法第11条第1項に規定する森林施業計画に基づいてその山林の全部又は一部の伐採をし、又は譲渡をした場合には、当該伐採又は譲渡の日の属する年分の当該伐採又は譲渡に係る山林所得の金額に対する所得税法第32条第3項の規定の適用については、同項に規定する必要経費を控除した残額は、当該残額に相当する金額から当該山林に係る森林計画特別控除額を控除した残額に相当する金額とする旨規定している。
ヘ 森林法第11条第1項は、森林所有者は、省令で定めるところにより、5年を一期とする森林施業計画を作成し、これを当該森林施業計画の対象とする森林の所在地の属する市町村の長に提出して、当該森林施業計画が適当であるかどうかにつき認定を求めることができると規定している。
ト 森林法第11条第3項は、森林施業計画には、次に掲げる事項を記載しなければならないと規定している。
第1号 その対象とする森林についての所在場所別の面積、人工植栽に係る森林とその他の森林との区別、樹種又は林相、林齢及び立木の材積
第2号 伐採する森林についての所在場所別の伐採時期、伐採面積、伐採立木材積及び伐採方法(間伐に関する事項を除く。)
第3号 造林する森林についての所在場所別の造林時期、造林面積、造林樹種及び造林方法
第4号 間伐を実施する森林についての所在場所別の間伐時期、間伐面積、間伐立木材積及び間伐方法
第5号 保育の種類別の面積
第6号 その他省令で定める事項
チ 森林法第11条第5項は、市町村の長は、第1項の規定による認定の請求があった場合において、当該森林施業計画の内容が次に掲げる要件のすべてを満たすときは、当該森林施業計画が適当である旨の認定をするものとすると規定している。
第1号 森林施業計画の対象とする森林の規模に応じ、森林生産の保続及び森林生産力の増進を図るために必要なものとして、政令で定める樹種又は林相の改良、植栽、間伐その他の森林施業の合理化に関する基準に適合していること。
第2号 市町村森林整備計画の内容に照らして適当であると認められること。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 平成11年12月13日に請求人とS森林組合が取り交わした「立木売買契約書」には、次の内容の記載があること。

(イ)立木の表示
字名P市Q町
林小班 14林班85、90、230、231小班
面積8.00haの内3分の2
樹種カラマツ及び区域内に生林する全ての立木
本数約2,370本
材積約961立方メートル
(ロ)立木代金 4,330,000円
(内消費税及び地方消費税の合計額206,190円也)
(ハ)代金支払方法 契約締結後同日全額一括支払
(ニ)買人住所P市R町○○番地○
氏名S森林組合
代表理事組合長 G
(ホ)売人住所P市R町○○番地
氏名H(請求人)

ロ 請求人が、租税特別措置法第30条の2の規定に基づく山林所得に係る森林計画特別控除の適用を受けたいとして、P市長に申請し、同市長が証明した「立木の伐採(譲渡)証明申請書」の記載内容は次のとおりであること

(イ)伐採
A 伐採時期平成12年5月
B 伐採面積合計8.00ha
C 樹種カラマツ
D 林齢33〜44年
E 伐採立木材積合計2,503立方メートル
(ロ)譲渡契約内容
A 譲渡時期平成11年12月
B 譲渡契約における伐採時期 平成12年5月
C 伐採面積合計8.00ha
D 樹種カラマツ
E 林齢33〜44年
F 伐採立合計1,441立方メートル

ハ 請求人は、上記イの立木の譲渡(以下「本件譲渡」という。)による山林所得の金額について、上記ロの「立木の伐採(譲渡)証明申請書」を添付し、租税特別措置法第30条《山林所得の概算経費控除》及び同法第30条の2を適用したところで計算した金額を記載した平成11年分の所得税の確定申告書を平成12年3月14日に原処分庁へ提出したこと。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)消費税法第4条第1項は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、同法により消費税を課する旨規定し、また、同法第5条第1項は、事業者は国内において行った課税資産の譲渡等につき、同法により消費税を納める義務がある旨規定している。
 さらに、課税資産の譲渡等とは、消費税法第2条第1項第9号の規定において、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供のうち、同法第6条第1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいうこととされている。
(ロ)この場合の「事業として」とは、資産の譲渡等が反復、継続かつ独立して行われることをいうが、山林の育成には通常長期間かかることから、山林の譲渡が事業として行われるものであるか否かは、譲渡の準備行為ともいえる山林の育成、管理の度合も加味して総合的に判断する必要があり、山林の育成、管理が十分に行われている場合には事業に該当することとなる。
 したがって、譲渡を行うことを予定して育成、管理していた山林を譲渡した場合には、たとえその者における譲渡が数十年に1回しか行われない場合にも、事業として行う資産の譲渡等に該当することとなる。
(ハ)そこで、本件譲渡についてみると、〔1〕カラマツの場合、植林後の約25年間は間伐等の管理が必要とされるものの、その後の伐採までの15年前後は放置されるのが通例であるところ、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)に対し、毎年ではないが、過去において、本件譲渡に係るカラマツ等の育成、管理が必要な時期には手入れを行ったことがある旨申述していること、〔2〕本件譲渡に係る売買契約によれば、売買対象となった山林は主にカラマツであり、これが通常の価額で売買されていることから、育成、管理を十分に行っていたと認められること、〔3〕森林法第11条に規定する森林施業計画とは、森林所有者が森林施業(伐採、造林、保育等)に関する長期の計画を作成し、市町村の長の認定を受けた上で、これに従って計画的な伐採、造林を行うことを骨子とするものであるところ、請求人は、租税特別措置法第30条の2の適用を受けるため、P市長に対し「立木の伐採(譲渡)証明申請書」を提出し、本件譲渡が森林施業計画に基づくものであるとの証明を受けていることからすれば、本件譲渡に係るカラマツ等は、当初から譲渡を行うことを予定して育成、管理されていたものと認められるから、本件譲渡は「事業として対価を得て行われる資産の譲渡等」に該当することとなる。
 したがって、本件更正処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

(2)請求人

イ 本件更正処分について
 次の理由により、本件譲渡は「事業として対価を得て行われる資産の譲渡等」には該当しない。
 したがって、本件更正処分は違法であるから、その一部の取消しを求める。
(イ)「事業として行う資産の譲渡」というには、反復、継続が必須であるところ、請求人は、今回の譲渡前40年間は1度もなく初めて譲渡したものであって反復、継続してはいない。また、今回譲渡したカラマツは、当初3年程下草刈りをした後、10年後位に1回間伐しただけであり、以後27年間程度は何の手入れもしていないなど十分な育成、管理を行っていないことから、反復、継続の蓋然性があるともいえない。
(ロ)通常価額で売却できれば反復、継続的に育成、管理されているとの推認は、あまりにも短絡的である。
 なぜなら、売却価額により消費税の課税、不課税が左右されるということであり、これでは消費税制度の根幹を歪めることとなる。
(ハ)森林施業計画に係る森林の伐採の届出書は、育成、管理したことを証明するものではなく、あくまで施業計画によって伐採、譲渡したかどうかであるから、森林施業計画の認定を受けたカラマツを伐採、譲渡したことをもって、反復、継続的に育成、管理していたとはいえない。
(ニ)なお、立木の売却を予定しているか否かで、課税、不課税を区別する法律は消費税法にはない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分はその全部を取り消すべきである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件譲渡が消費税等の課税対象となるか否かにあるので、審理したところ、以下のとおりである。

(1)認定事実

 T広域森林組合のJ総務部長(以下「J総務部長」という。)は、調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述していること。
イ 森林法第11条に規定する森林施業計画の認定を受けるのは、伐採、譲渡することが目的であると思うし、また、市町村の長から認定を受けた場合は、整備する義務はあると思う。
ロ 一般的な管理としては、植林後、3〜7年間は下草刈りを毎年行い、10年経過頃から5年刻みで間伐を行うこととなる。この間、必要に応じて年1〜2回殺そ剤を散布するが、25年位までに手入れを終えて、それから10〜15年位は放置しておくのが理想である。
 なお、1回の間伐の目安は立木の20%程度である。
ハ 立木、山の状況を見れば手入れをしていたかどうかは分かる。
 請求人が今回譲渡した立木は、成長も悪くなく、手入れしていたということは、はっきり分かった。

(2)本件更正処分について

イ 消費税法第4条第1項は、上記1の(3)のイのとおり、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、消費税を課すると規定しており、ここでいう資産の譲渡等とは、上記1の(3)のハのとおり、消費税法第2条第1項第8号において、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨規定している。
 さらに、上記1の(3)のハのとおり、消費税法基本通達5−1−1では、「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われることをいう旨定めているところ、当審判所においても、この解釈は妥当と認められる。
 そうすると、山林の育成には長期間を要するのが通例であることから、山林の伐採又は譲渡が毎年継続して行われていないとしても、その山林について、育林、伐採、譲渡等が反復、継続、独立して行われることの蓋然性が認められる場合には、消費税法第2条第1項第8号の「事業として」に該当すると解するのが相当である。
 すなわち、山林の伐採又は譲渡が消費税法第2条第1項第8号の「事業として」に該当するかどうかは、伐採又は譲渡の反復性、継続性のみにより判断するのではなく、伐採又は譲渡の準備行為ともいえる山林の育成、管理の度合いも加味して総合的に判断すべきものと解されるところ、山林の育成、管理が十分な程度行われており、その育成、管理がされた山林を伐採、譲渡した場合には、たとえその者において山林の伐採又は譲渡が数十年に1回しか行われない場合であっても、同号の「事業として」に該当すると解するのが相当である。
ロ 上記1の(4)の基礎事実によれば、本件譲渡は、樹齢40年前後のカラマツを請求人がS森林組合へ譲渡したものであるところ、請求人は、本件譲渡には反復性、継続性がない旨主張する。
 しかしながら、森林法第11条第1項は、森林施業計画につき認定を受けるかどうかは申請者の任意によるところ、当該森林施業計画は、5年を1期として上記1の(3)のトの事項を記載して申請し、市町村の長は、同チに掲げる要件のすべてを満たすときに、当該森林施業計画の内容が適当である旨の認定をすることとなっていることから、森林施業計画を定期的に作成し市町村の長にその認定を求めることは、将来的に伐採、譲渡することも視野に入れながら、自ら認定を申請した森林施業計画に則り、育成、管理をしていると考えるのが一般的である。
 そうすると、上記1の(4)のロ及びハのとおり、請求人がP市長に対し「立木の伐採(譲渡)証明申請書」を提出し、本件譲渡が森林施業計画に基づくものであるとの証明を受けていること及び上記(1)のハのJ総務部長の申述からすると、本件譲渡に係るカラマツは、森林施業計画に基づき反復、継続的な育成、管理が行われていたものと認めるのが相当である。
ハ 上記イのとおり、本件譲渡が消費税法第2条第1項第8号の「事業として」に該当するかどうかは、伐採又は譲渡の反復、継続性のみにより判断するのではなく、伐採又は譲渡の準備行為ともいえる山林の育成、管理の度合いも加味して総合的に判断すべきところ、上記ロのとおり、本件譲渡に係るカラマツは、森林施業計画に基づき反復、継続的な育成、管理が行われていたものを譲渡したと認めるのが相当であるから、本件譲渡は、消費税法第2条第1項第8号に規定する「事業として対価を得て行われる資産の譲渡」に該当すると認められ、請求人の主張には理由がない。
ニ したがって、本件譲渡を消費税法第2条第1項第8号に規定する「事業として対価を得て行われる資産の譲渡」に該当するとした本件更正処分は適法である。

(3)本件賦課決定処分について

 上記(2)のとおり本件更正処分は適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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