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(平15.12.12裁決、裁決事例集No.66 341頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項の規定(以下「簡易課税制度」という。)を選択していた審査請求人(以下「請求人」という。)が、同法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項の規定(以下「本則課税」という。)を適用して消費税額を計算することが認められるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成14年7月1日から同年9月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に、別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成14年12月27日付で、別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成15年1月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月21日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年5月19日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 消費税法第5条《納税義務者》第1項は、事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある旨規定している。
ロ 消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項は、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が3,000万円以下である者については、その課税期間中に行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する旨、ただし、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない旨規定し、同条第4項は、同条第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除されることとなる事業者(以下「免税事業者」という。)が、その基準期間における課税売上高が3,000万円以下である課税期間につき、第1項本文の規定の適用を受けない旨を記載した届出書(以下「課税事業者選択届出書」という。)をその納税地を所轄する税務署長(以下「所轄税務署長」という。)に提出した場合には、当該提出をした事業者が当該提出をした日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間(その基準期間における課税売上高が3,000万円を超える課税期間を除く。)中に国内において行う課税資産の譲渡等については、同項本文の規定は適用しない旨規定している。
ハ 消費税法第19条《課税期間》第1項第4号は、事業年度が3月を超える法人が所轄税務署長に課税期間を短縮する旨の届出書(以下「課税期間特例選択届出書」という。)を提出した場合の課税期間は、その事業年度をその開始の日以後3月ごとに区分した各期間となる旨規定している。
ニ 消費税法第30条第1項は、事業者(同法第9条第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において課税仕入れ及び保税地域からの課税貨物の引取り(以下「課税仕入れ等」という。)を行った場合には、その課税仕入れ等を行った日等の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額の合計額を控除する旨規定している。
ホ 消費税法第37条第1項は、事業者(同法第9条第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除されている事業者を除く。)が、所轄税務署長に、その基準期間における課税売上高が2億円以下である課税期間について、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書(以下「簡易課税制度選択届出書」という。)を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間については、同法第30条から第36条までの規定により課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額は、これらの規定にかかわらず、当該事業者の当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額を控除した残額の100分の60(政令で定める事業を営む事業者にあっては、当該事業の種類ごとに政令で定める率。以下「みなし仕入率」という。)を乗じて計算した金額とする旨規定し、この場合において、当該金額は、当該課税期間における仕入れに係る消費税額とみなす旨規定している。
ヘ 消費税法第37条第2項は、簡易課税制度選択届出書を提出した事業者は、簡易課税制度の適用を受けることをやめようとするとき又は事業を廃止したときは、その旨を記載した届出書(以下「簡易課税制度選択不適用届出書」という。)を所轄税務署長に提出しなければならない旨、同条第4項は、簡易課税制度選択不適用届出書の提出があったときは、その提出のあった日の属する課税期間の末日の翌日以後は、簡易課税制度選択届出書の提出の効力は失われる旨規定している。
ト 消費税法施行令第57条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項第1号は、第一種事業に該当する事業のみなし仕入率は100分の90である旨、同条第5項第1号は、第一種事業とは卸売業をいう旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件課税期間の仕入れに係る消費税額を、本則課税を適用して計算し、本件確定申告書を提出している。
 これに対し、原処分庁は、同消費税額について、簡易課税制度を適用して計算し、本件更正処分を行っている。
ロ 請求人は、平成6年1月31日に設立された資本金1,000万円、決算期3月末日のコンピュータ部品の卸売を業とする法人である。
ハ 請求人は、平成7年3月23日に適用開始課税期間を平成7年4月1日から平成8年3月31日までとする簡易課税制度選択届出書を原処分庁に提出している。
ニ 請求人は、平成14年6月24日に適用開始日を平成14年7月1日とする課税期間特例選択届出書及び課税事業者選択届出書を原処分庁に提出している。
ホ 請求人は、平成14年12月24日に簡易課税制度選択不適用届出書を原処分庁に提出しているが、同日前に同届出書を提出した事実はない。
ヘ 請求人の本件課税期間に係る基準期間である平成12年4月1日から平成13年3月31日までの課税売上高は13,603,987円である。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、簡易課税制度選択届出書を提出した課税期間の翌課税期間(平成7年4月1日から平成8年3月31日まで)から簡易課税制度の選択を継続している。
ロ 請求人が簡易課税制度を選択した課税期間は、その基準期間の課税売上高が3,000万円を超えており、課税事業者であることから同制度を選択して仕入れに係る消費税額の計算を行うこととしたものであり、免税事業者であれば、簡易課税制度を選択することもないし、消費税法第37条の法的効力も有しない。
ハ 請求人の本件課税期間に係る基準期間における課税売上高は13,603,987円であり、消費税法第9条第1項本文の規定の適用により本件課税期間については免税事業者となることから、課税事業者選択届出書を提出することにより、免税事業者の権利を放棄して課税事業者となったものである。
ニ 免税事業者が課税事業者選択届出書を提出した場合は、免税期間のみ有効な届出であり、消費税法第30条第1項及び同法第37条第1項の仕入れに係る消費税額の計算は、当該各条項のかっこ書きにより免税事業者には適用されないことから、その計算は新たな次元での納税者について判断する必要がある。すなわち、仕入れに係る消費税額の計算に係る同法第37条の規定は、中小事業者のための救済特例規定であり、原則は同法第30条の規定である。また、免税事業者に係る同法第9条第1項本文の規定も特例規定であり、原則は同法第5条の規定である。そうすると、同法第9条第4項の規定に基づき、この特例規定の適用を受けることを放棄した事業者については、上記の各原則規定のみ適用があるとみるのが相当であり、それが法の趣旨にも合致している。
ホ したがって、請求人の本件課税期間の仕入れに係る消費税額の計算は、請求人が免税事業者であるにもかかわらず、消費税法第9条第1項本文の特例規定の適用を放棄し、課税事業者選択届出書を提出している以上、消費税法第37条の規定の適用はなく、原則計算である同法第30条の規定により行うこととなる。

(2)原処分庁

 原処分は、適法に行われており、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 簡易課税制度選択届出書を提出した課税事業者は、簡易課税制度選択不適用届出書の提出があった日の属する課税期間までは、基準期間における課税売上高が2億円を超える場合を除き、簡易課税制度を適用して仕入れに係る消費税額を計算することとなるところ、請求人は、簡易課税制度選択届出書を提出した上で課税事業者選択届出書を提出している。そして、本件課税期間については、その基準期間の課税売上高は2億円以下であり、また、本件課税期間の開始の日の前日までに簡易課税制度選択不適用届出書を提出していないので、本件課税期間においては、簡易課税制度を適用したところで仕入れに係る消費税額を計算することとなる。
ロ 請求人は、課税事業者選択届出書を提出することにより、消費税法第9条第4項の別段の定めにより同条第1項本文の規定が適用されなくなる結果、本件課税期間において免税事業者に該当しない。すなわち、課税事業者選択届出書を提出している場合は、基準期間の課税売上高が3,000万円以下であっても免税事業者ではなく課税事業者に該当する。
ハ 以上のとおり、本件課税期間の消費税等の納付すべき税額の計算は、簡易課税制度を適用して行うこととなり、これに基づき計算すると、本件更正処分の金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

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3 判断

 本件は、簡易課税制度選択届出書及び課税事業者選択届出書を提出している事業者が基準期間における課税売上高が3,000万円以下である課税期間において仕入れに係る消費税額の計算を行う場合に適用する計算方式は本則課税か、簡易課税制度かを争点とするものであることから、以下審理する。

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によると、次の事実が認められる。
イ 請求人は、上記1の(4)のニのとおり、適用開始日を平成14年7月1日とする課税期間特例選択届出書及び課税事業者選択届出書を提出していることから、本件課税期間は課税事業者に該当する。
ロ 請求人の本件課税期間の基準期間における課税売上高は、上記1の(4)のヘのとおり13,603,987円であり、簡易課税制度を適用する課税売上高の上限である2億円を下回っている。
ハ 請求人は、上記1の(4)のロのとおりコンピュータ部品の卸売業を営んでおり、当該事業は、簡易課税制度の適用上、第一種事業に該当する。
ニ 請求人及び原処分庁は、本件課税期間の消費税の課税標準額を6,872,000円と算出しているが、課税標準額の集計に際して以下のとおり誤りが認められたので、再計算したところ、当該課税標準額の正当額は6,910,000円となる。

売上年月日平成14年9月24日
品名等ケース400コ
請求人算出額 4,202,000円
審判所調査額4,240,000円
集計誤り額40,000円

(注)上表中の価額は、消費税等を含む。

(2)本件更正処分について

イ 上記1の(3)のホ及びへのとおり、消費税法は、事業者(消費税法第9条第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、所轄税務署長に簡易課税制度選択届出書を提出した場合には、その課税期間の基準期間における課税売上高が2億円以下である課税期間については、仕入れに係る消費税額の計算を簡易課税制度を適用して行う旨、簡易課税制度の適用をやめようとするときは簡易課税制度選択不適用届出書を所轄税務署長に提出しなければならない旨規定している。
ロ これを本件についてみると、請求人は、原処分庁に対し、平成7年3月23日に簡易課税制度選択届出書を提出した後、平成14年12月24日に簡易課税制度選択不適用届出書を提出しているが、それ以前に簡易課税制度選択不適用届出書を提出した事実は認められず、また、請求人は、平成14年6月24日に適用開始日を本件課税期間の開始日とする課税期間特例選択届出書を提出した上で、本件課税期間について課税事業者選択届出書を提出していること、請求人の本件課税期間に係る基準期間における課税売上高は上記(1)のロのとおり2億円以下であることから、請求人が本件課税期間において簡易課税制度の適用を受ける事業者であることは明らかである。
ハ この点について、請求人は、本件課税期間に係る基準期間における課税売上高は13,603,987円で、課税事業者選択届出書を提出していなければ免税事業者に該当する事業者であり、消費税法第9条第1項の特例規定の権利を放棄した事業者であることから、特例規定の権利を放棄した事業者については、同じく特例規定である同法第37条の簡易課税制度の適用はないと解釈することが法の趣旨に合致する旨主張する。
 しかしながら、消費税法第9条第4項に規定する課税事業者選択届出書を提出した事業者は、同条第1項本文の規定の適用はないのであるから、同法第37条第1項のかっこ書きにある「同法第9条第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除されている事業者を除く」の規定により同法37条の規定が適用されないと解する余地はないといわざるを得ず、請求人の主張は独自の見解に基づくものであるから、採用することはできない。
ニ  以上のとおり、原処分庁が、請求人の本件課税期間の消費税等につき簡易課税制度を適用し仕入れに係る消費税額を算出したことは相当と認められるので、納付すべき消費税額等について再計算を行ったところ、以下のとおり本件更正処分の金額を上回るので、本件更正処分は適法である(別表の「審判所認定額」欄参照)。
(イ)課税標準額及び課税標準額に対する消費税額
 上記(1)のニのとおり、本件課税期間の課税標準額は、6,910,000円であるから、これに対する消費税額は税率(4%)を乗じて算出される276,400円である。
(ロ)控除対象仕入税額及び納付すべき消費税額
 仕入れに係る消費税額は、簡易課税制度を適用して算定した金額であるところ、上記(1)のハのとおり、請求人の営む事業は卸売業であることから、簡易課税制度の適用上、第一種事業に該当する。
 したがって、本件課税期間における仕入れに係る消費税額とみなされる金額(すなわち控除対象仕入税額)は、本件課税期間の課税標準額に対する消費税額276,400円に100分の90を乗じて計算した248,760円であり、納付すべき税額は、課税標準額に対する消費税額276,400円から控除対象仕入税額248,760円を差し引いた残額の27,600円(100円未満の端数切捨て後)である。
(ハ)差引納付すべき消費税額
 差引納付すべき消費税額は、上記(ロ)の27,600円に、本件確定申告書に記載された消費税の控除不足還付税額438,985円を加算した合計額466,500円(100円未満の端数切捨て後)である。
(ニ)地方消費税の課税標準となる消費税額
 地方消費税の課税標準となる消費税額は、上記(ロ)の納付すべき税額27,600円と同額である。
(ホ)地方消費税の譲渡割額
 地方消費税の譲渡割額は、上記(ニ)の地方消費税額の課税標準となる消費税額27,600円に100分の25を乗じて計算した金額6,900円(100円未満の端数切捨て後)である。
(ヘ)差引納付すべき地方消費税の譲渡割額
 差引納付すべき地方消費税の譲渡割額は、上記(ホ)の地方消費税の譲渡割額6,900円に本件確定申告書に記載された地方消費税の譲渡割還付金額109,746円を加算した合計額116,600円(100円未満の端数切捨て後)である。

(3)本件賦課決定処分について

 上記(2)のとおり、本件更正処分は適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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