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(平15.7.3裁決、裁決事例集No.66 353頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、会社役員である審査請求人(以下「請求人」という。)が納付した自動車重量税について、当該自動車重量税に係る普通乗用車が盗難に遭い抹消登録されたことが還付請求の理由になるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、原処分庁に対し、平成15年1月7日付の書面をもって、請求人所有の自動車(自動車登録番号「○○○○」、以下「本件自動車」という。)が盗難によって平成14年11月22日付で抹消登録されたから、納付した自動車重量税のうち31,500円を還付すべきであるとして、被災自動車に係る自動車重量税の還付請求をした。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成15年1月29日付で還付をしない旨の通知処分をした(以下、当該通知処分を「本件通知処分」という。)。
ハ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成15年2月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年3月17日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年3月27日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 自動車重量税法(以下「重量税法」という。)第2条《定義》第1項第2号は、検査自動車とは道路運送車両法(以下「車両法」という。)第60条《新規検査の場合の自動車検査証の交付》第1項等の規定による自動車検査証の交付又は返付を受ける自動車をいう旨規定している。なお、車両法第60条第1項は、国土交通大臣は新規検査の結果、当該自動車が保安基準に適合すると認めるときは自動車検査証を当該自動車の使用者に交付しなければならない旨規定している。
ロ 重量税法第3条《課税物件》は、検査自動車及び届出軽自動車はこの法律により自動車重量税を課する旨規定している。
ハ 重量税法第4条《納税義務者》第1項は、自動車検査証の交付等を受ける者及び車両番号の指定を受ける者は当該検査自動車及び届出軽自動車につき自動車重量税を納める義務がある旨規定している。
ニ 重量税法第8条《検査自動車についての印紙納付》は、自動車検査証の交付等を受ける者は、その自動車検査証の交付を受ける時までに当該検査自動車につき課されるべき自動車重量税の額に相当する金額の自動車重量税印紙を政令で定める書類にはり付けて当該自動車検査証の交付等を行う国土交通大臣若しくはその権限の委任を受けた地方運輸局長、運輸監理部長若しくは運輸支局長又は協会に提出することにより自動車重量税を国に納付しなければならない旨規定している。
ホ 重量税法第16条《過誤納の確認等》第1項は、自動車重量税を納付した後に自動車検査証の交付等又は車両番号の指定を受けるのをやめたとき、又は過大に納付して自動車検査証の交付等又は車両番号の指定を受けたときは、その該当することとなった日から1年を経過する日までに、政令で定めるところにより国土交通大臣等に申し出て自動車重量税の額その他政令で定める事項について確認を求め、証明書の交付を求めることができる旨、そして、同条第3項は、自動車重量税に係る過誤納金の還付を受けようとする者は同条第1項の証明書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない旨規定している。
ヘ 災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律(以下「災免法」という。)第8条《還付》第1項は、自動車の販売業者又は自動車分解整備事業者が自動車の使用者のために自動車検査証の交付等又は車両番号の指定を受ける目的で保管している自動車のうち、当該保管をしている間に自動車重量税が納付され自動車検査証の交付等又は車両番号の指定を受けたもので災害による被害を受けたことにより当該自動車検査証の交付を受けた後走行の用に供されることなく使用の廃止がされたもの(政令の定めるところにより使用の廃止がされたことが明らかにされる自動車に限る。以下「被災自動車」という。)については政令の定めるところにより当該被災自動車につき当該自動車検査証の交付等又は車両番号の指定を受ける際に納付された自動車重量税の額に相当する金額を当該被災自動車に係る自動車重量税の納税義務者に還付する旨規定している。
ト 地方税法第150条《自動車税の納税義務の発生、消滅等に伴う賦課》は、第1項で自動車税の賦課期日後に納税義務が発生した者にはその発生した月の翌月から月割りをもって自動車税を課すると規定し、第2項で前項の賦課期日後に納税義務が消滅した者にはその消滅した月まで月割りをもって自動車税を課する旨規定している。
チ 災免法第8条が規定する自動車重量税の取扱いについて、昭和58年4月1日付国税庁長官通達「災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律等の一部改正(昭和58年3月)に伴う自動車重量税の取扱いについて」は、災免法第1条に規定する災害には、震災、風水害、落雷、雪害等の天災のほか、自己の意思によらない火災又は自己の責に帰すことができない人為的災害を含み、盗難は含まないものとして取り扱う旨定めている。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成13年7月3日に、○○陸運局○○運輸支局において、本件自動車に係る自動車重量税として56,700円を印紙により納付し、自動車検査証の交付を受けた。
ロ 本件自動車の検査証の主な記載事項
(イ)自動車登録番号は「○○○○」である。
(ロ)所有者及び使用者は請求人である。
(ハ)交付年月日は平成13年7月3日、有効期間の満了する日は平成16年7月2日である。
(ニ)初年度登録は平成13年7月である。
(ホ)自動車の種別は普通自動車で、用途は乗用の自家用車である。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 重量税法の立法趣旨は、自動車の走行によって道路が傷むことから道路の改修費用等に充てるため、自動車の使用者が、自動車の重量に応じて、自動車検査証の有効期間分の自動車重量税を前払い負担するというものである。
ロ 本件自動車が盗難に遭ったことによって自賠責保険料や地方税である自動車税はその未経過期間に応じて月割で還付されたのに、国税である自動車重量税が還付されないのは納得できない。
ハ 請求人が所有する本件自動車が盗難に遭った場合にも、災免法第8条第1項の規定の適用を認めるべきであり、納付済みの重量税に対する本件自動車の自動車検査証の有効期間のうち未経過期間20ヶ月分に相当する金額31,500円は、還付されるべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 自動車重量税は、自動車が検査を受け又は届出を行うことにより走行可能になるという法的地位あるいは利益を受けることに着目して課税される一種の権利創設税であると解されるから、いったん有効に自動車検査を受けた自動車については、その後、その自動車が廃車された場合においても税を還付することはなじまず、過誤納の場合及び災害による被害を受けた自動車のうち一定のものは別として、還付する旨の規定等は設けられていない。
ロ 請求人は、本件自動車について盗難による被害を受けたことを理由としているが、盗難による被害は、災免法第8条で規定されている災害として取り扱うことはできないから、同法の適用は認められない。

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3 判断

 本件通知処分の適否について以下審理する。

(1)認定事実

 請求人は、当審判所に対して、本件自動車の抹消登録までの使用状況等について次のとおり答述した。
イ 本件自動車は、平成14年10月20日に盗難に遭い、登録時から盗難に遭った日までの本件自動車の走行距離はおよそ17,000キロメートルである。
ロ 本件自動車が盗難に遭った当日、A警察署に盗難届出書を提出し、盗難受付番号は○○○○である。
 なお、本件自動車の登録を抹消したのは、本件自動車が発見されなかったからである。

(2)盗難を理由とする自動車重量税の還付の可否

イ 重量税法の趣旨
(イ)自動車重量税は、道路をはじめとする交通関係の社会資本を整備充実する目的で、昭和46年に導入されたものであり、自動車がその走行により道路の建設、改良、維持をはじめとして、交通渋滞、交通安全、交通事故等に関連して社会に多くのコストをもたらしていることから、交通政策上、道路整備等に要する費用の負担を自動車の所有者又は使用者に求めるのが相当であるとの受益者負担あるいは原因者負担の考え方から、自動車の使用者等に対し、その自動車の重量に応じて課税することとしたものである。
(ロ)前記関係法令等のとおり、重量税法は、「検査自動車及び届出軽自動車には、この法律により、自動車重量税を課する」(第3条)と規定しており、この検査自動車とは、車両法所定の規定による検査証の交付等を受ける自動車をいうとされ(第2条1項2号)、検査証の交付を受ける者等は、その検査証の交付等を受ける時までに、当該検査自動車につき課されるべき自動車重量税の額に相当する金額の自動車重量税印紙を政令で定める書類にはり付けて、当該検査証の交付等を行う国土交通大臣若しくはその権限の委任を受けた地方運輸局長若しくは地方運輸局陸運支局長又は軽自動車検査協会に提出することにより、自動車重量税を納付しなければならないとされている(第4条1項、第8条)。
(ハ)以上のような自動車重量税が創設された趣旨や同税の納税手続に係る規定に照らすと、同税は、自動車が検査を受け、又は届出を行うことによって、走行可能となるという法的地位あるいは利益を受ける権利を取得することに着目して課税される一種の権利創設税であると解するのが相当であるから、自動車重量税は、同じ自動車に対する課税であっても、自動車の所有の事実に担税力を求める固定資産税的な性格をもつ財産税としての自動車税と、その性格を異にしている。
ロ 自動車重量税の還付
(イ)上記イからすると、自動車の使用者等が検査証の交付等を受けて当該自動車が走行可能になるという法的地位あるいは利益を受ける権利をいったん取得した以上、その後に生じた事情により検査証を返還したとしても、当該法的地位あるいは権利を取得した事実自体が消滅することはあり得ないから、納付した自動車重量税の還付を認める根拠はないといわざるを得ない。
 そして、重量税法が、「重量税を納付した後自動車検査証の交付等又は車両番号の指定を受けることをやめたとき」(第16条1項1号)にのみ自動車重量税を還付するとしているのは、正にこの趣旨によるものと考える。
(ロ)もっとも、災免法第8条の規定において、例外的に検査証の交付後であっても自動車重量税の還付を認めているが、この場合は、被災自動車は現実に走行の用に供されておらず、いまだ自動車の販売業者又は自動車分解整備事業者のもとにとどまっているため、使用者が、走行可能となるという法的地位あるいは利益を受ける権利を現実には取得するに至っていないと考えられることから、自動車重量税の還付が受けられることを特に定めたものと解されるから、災免法第8条は、自動車重量税の上記性格と矛盾するものではない。
ハ 災免法第8条の適用を受けることができる「災害」
(イ)災免法第1条では、同法の適用されるべき災害として「震災、風水害、落雷、火災その他これらに類する災害」が挙げられており、この「その他これらに類する災害」は具体的に挙示されている事由からみると、これらと同視すべき自然界に生じた災害を指すものであって、「盗難」が「災害」に該当しないことは明らかである。
(ロ)また、災免法は、所定の災害によって被害を被った納税義務者について、一般的な租税法による税負担を例外的に減免する等の軽減措置を認めたものであるから、明示された事由(自然災害)を越えて同法をその余の事由にまで準用ないし類推適用することは、税負担の公平や統一的課税の面からもできないと解すべきである。
(ハ)上記災免法の規定の趣旨からすると、昭和58年4月1日付の国税庁長官通達「災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律等の一部改正(昭和58年3月)に伴う自動車重量税の取扱いについて」の1《災害の範囲》において、上記災免法第1条の規定する「災害」には、震災、風水害、落雷、雪害等の天災のほか、自己の意思によらない火災又は自己の責に帰すことのできない人為的災害を含み、盗難は含まないものとして取り扱うとされていることには合理性があると認められるから、盗難の場合には、災免法第8条の適用はないと解すべきである。

(3)請求人の主張について

イ 請求人は、重量税法の趣旨が自動車検査証の有効期間分の前払いであるから、還付されないのは納得できない旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のイのとおり、自動車重量税の性格は、当該自動車が車両法による検査を受け、走行可能となるという法的地位あるいは利益を受ける権利を取得することに着目して課税される一種の権利創設税であると解されるのであり、自動車を走行させた期間に応じて負担すべきものとはいえないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ロ また、請求人は、盗難の場合も災免法第8条の規定の適用を認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、前記(2)のハのとおり、盗難の場合は、災免法第1条の規定する「震災、風水害、落雷、火災その他これらに類する災害」に含めることはできないから、上記(1)の認定事実のとおり、本件自動車が登録された後、盗難に遭ったことが認められるとしても、災免法第8条の被災自動車に該当しないので、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(4)以上のとおり、本件自動車重量税に係る還付の請求に対して行った本件通知処分は、適法である。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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