ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.72 >> (平18.11.27、裁決事例集No.72 246頁)

(平18.11.27、裁決事例集No.72 246頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、源泉徴収義務者から過大に徴収された源泉所得税の額を源泉徴収税額として所得税法第120条《確定所得申告》第1項第3号に掲げる算出所得税額(以下「算出所得税額」という。)から控除して行った所得税の申告について、原処分庁が、申告の手続において過大に徴収された額を算出所得税額から控除することはできないとして所得税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、源泉徴収されるべき正当な税額を超える額も同項第5号に規定する「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」に含まれるので算出所得税額から控除すべきであるなどとして、同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

トップに戻る

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成14年分、平成15年分及び平成16年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書(以下「本件各確定申告書」という。)に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までにそれぞれ申告した。
ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、平成14年分及び平成15年分の所得税について、別表1の「修正申告等」欄のとおりとする修正申告書(以下、上記イの本件各確定申告書と併せて「本件各申告書」という。)を平成16年12月3日に提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成17年1月28日付で、平成14年分及び平成15年分の所得税について、別表1の「修正申告等」欄のとおりの過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ニ その後、原処分庁は、平成17年8月31日付で、本件各年分の所得税について、別表1の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ホ 請求人は、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を不服として平成17年10月19日に異議申立てをしたところ、3月を経過しても異議決定がされなかったため、異議決定を経ないで平成18年2月8日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 所得税法第120条第1項第5号は、居住者は、その年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額が雑損控除その他の控除の額の合計額を超える等一定の場合において、同法第123条《確定損失申告》第1項の規定による申告書を提出する場合を除き、その年の翌年2月16日から3月15日までの期間において、税務署長に対し、総所得金額若しくは退職所得金額又は純損失の金額の計算の基礎となった各種所得につき源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額(以下「源泉徴収税額」という。)がある場合には、算出所得税額からその源泉徴収税額を控除した金額を記載した申告書を提出しなければならない旨規定している。
ロ 所得税法第155条《青色申告書に係る更正》第2項は、税務署長は、居住者の提出した青色申告書に係る年分の総所得金額、退職所得金額若しくは山林所得金額又は純損失の金額の更正(不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額以外の各種所得の金額の計算又は同法第69条《損益通算》から同法第71条《雑損失の繰越控除》までの規定の適用について誤りがあったことのみに基因するものを除く。)をする場合には、その更正に係る国税通則法(以下「通則法」という。)第28条《更正又は決定の手続》第2項に規定する更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない旨規定している。
ハ 所得税法第221条《源泉徴収に係る所得税の徴収》は、第1章から第5章まで(源泉徴収)の規定により所得税を徴収して納付すべき者がその所得税(以下「源泉所得税」という。)を納付しなかったときは、税務署長は、その所得税をその者から徴収する旨規定している。
ニ 所得税法第222条《不徴収税額の支払金額からの控除及び支払請求等》は、上記ハの規定により源泉所得税を徴収された者が、その徴収された源泉所得税の額の全部又は一部につき第1章から第5章まで(源泉徴収)の規定による徴収をしていなかった場合又はこれらの規定により源泉所得税を徴収して納付すべき者がその徴収をしないでその源泉所得税をその納付の期限後に納付した場合には、これらの者は、その徴収をしていなかった源泉所得税の額に相当する金額を、その徴収をされるべき者に対して上記ハの規定による徴収の時以後若しくは当該納付をした時以後に支払うべき金額から控除し、又は当該徴収をされるべき者に対し当該源泉所得税の額に相当する金額の支払を請求することができる旨規定し、この場合において、その控除された金額又はその請求に基づき支払われた金額は、当該徴収をされるべき者については、第1章から第5章までの規定により徴収された金額とみなす旨規定している。
ホ 通則法第111条《教示》第1項は、異議審理庁は、異議申立てがされた日の翌日から起算して3月を経過しても当該異議申立てが係属しているときは、当該異議申立てに係る処分が審査請求をすることができないものである場合を除き、遅滞なく、当該処分について直ちに審査請求をすることができる旨を書面でその異議申立人に教示しなければならない旨規定している。

トップに戻る

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件各年分において、A社の代表取締役であり、同社から毎月13,000,000円の役員報酬の支給を受けていた。このほか、請求人は、本件各年分の給与等に係る収入金額として、本件各更正処分において原処分庁が同社からの報酬として認定した金額(平成14年分○○○○円、平成15年分○○○○円、平成16年分○○○○円)及びB社からの監査役報酬額として毎年○○○○円を得ていた。
ロ 本件各年分において、A社は、請求人から源泉所得税を過大に徴収して納付し、源泉徴収票の「源泉徴収税額」欄に当該過大徴収税額である別表2の1欄の金額を記載して、請求人に交付した。
ハ 上記イの認定報酬についてA社が徴収すべき源泉所得税の額は、別表2の2欄の金額であり、同社が請求人について徴収すべき正当な税額は、別表2の3欄の金額である。また、本件各年分において、B社は、別表2の4欄のとおり、正当な源泉所得税額を徴収して、当該各金額を源泉徴収票の「源泉徴収税額」欄に記載して、請求人に交付した。
ニ 請求人は、本件各申告書の作成を、当時A社の顧問税理士でもあったC税理士に依頼した。
ホ 請求人は、同人の本件各年分の源泉徴収税額は、A社及びB社から交付された源泉徴収票に記載の金額を合計した金額であるとして、これらの金額を本件各申告書の「源泉徴収税額」欄に記載して申告した。
ヘ 原処分庁は、本件各更正処分に係る調査後の本件各年分の請求人の源泉徴収税額は、A社及びB社が徴収すべき正当な源泉所得税額の合計額であるとして、本件各更正処分において、これらの金額を超える部分の控除又は還付を否認した。
ト 平成14年分及び平成15年分の各更正通知書には、次のとおり更正の理由が附記されているが、源泉徴収税額に係る更正の理由の附記はない。なお、平成16年分の同通知書(以下、平成14年分及び平成15年分の各更正通知書と併せて、「本件各更正通知書」という。)には、処分の理由が附記されていない。
(イ) あなたが備え付けている帳簿書類等を調査した結果、あなたが申告された不動産所得の金額には誤りがあると認められましたので、以下のとおり不動産所得の金額を算定し、更正しました。
(ロ) 総収入金額
 あなたは、D社からの賃貸料収入があるとして、○○○○円を総収入金額に含めていますが、調査の結果、あなたに同社からの賃貸料収入があるとは認められませんので、同額を総収入金額から減算します。
チ 異議審理庁は、上記(2)のホの異議申立てについて、異議決定をしておらず、また、請求人に対し、通則法第111条第1項に規定する教示も行っていない。

トップに戻る

2 主張

(1) 請求人

 原処分は、次の理由によりいずれも違法であるから、その全部又は一部の取消しを求める。
イ 異議審理手続について
 請求人がした異議申立てに対する異議決定がなく、異議申立てから3月を経過しても通則法第111条第1項に規定する教示がなかったから、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分はいずれも違法である。
ロ 更正の理由附記について
 原処分庁は、本件各更正通知書に源泉徴収税額を本件各更正処分に係る調査後の金額とした理由について附記しておらず、所得税法第155条第2項に規定する要件を満たさないから、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分はいずれも違法である。
ハ 本件各更正処分について
 源泉徴収制度は、徴収義務者が一定の所得税額を天引徴収して納付する手続であり、源泉徴収によって納付された所得税は、原則的に確定申告によって清算され、給与等の支払者が誤って過大に徴収納付した金額は、所得税法第120条第1項第5号に規定する「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」に含まれると解することに法文上の支障はない。このように誤った徴収納付がされた場合には、納税義務者は確定申告において清算調整することができると解すべきであり、これを支持する学説もある。したがって、本件各更正処分において認定した源泉徴収税額は誤りである。
ニ 本件各賦課決定処分について
 上記ハのとおり、本件各更正処分は違法であり、その一部が取り消されるべきであるから、本件各賦課決定処分についても、その一部の取消しを求める。
 仮に、源泉徴収税額の解釈及びその取扱いが原処分庁の主張のとおりであるとしても、請求人には、複数の所得があり、給与の収入金額が2,000万円を超えていることから確定申告をしたのであって、源泉徴収税額の過不足の清算を目的としておらず、本件各年分の給与所得の源泉徴収票の「源泉徴収税額」欄の金額に誤りがあるとの認識は一切ないままに当該源泉徴収票が正しいものとして本件各申告書を作成し提出したのであるから、請求人の責めに帰すべき事由は認められず、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある」場合に該当するから、本件各賦課決定処分は誤りである。

トップに戻る

(2) 原処分庁

 原処分は、次の理由によりいずれも適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 異議審理手続について
 通則法第111条第1項に規定する審査請求をすることができる旨の教示は、制度及び法令について国民が不知のために救済の機会を失することがないようにとの配慮から定められたものであるから、この手続が履践されなかったといってそれだけで本件各更正処分及び本件各賦課決定処分が違法となることはない。なお、請求人は現に審査請求を行っており、権利救済の道は本件審査請求によって開かれているから、教示がなくても違法ではない。
ロ 更正の理由附記について
 所得税法第155条第2項が青色申告に対する更正について更正通知書にその理由を附記しなければならないと規定するのは、青色申告の承認があった所得については、その計算を法定の帳簿書類に基づいて行わせ、実額調査によらないで更正されることがないように保障していることから、更正に当たってはそれが帳簿書類に基づき、あるいは帳簿書類の記載を否定できるほどの信ぴょう力のある資料によったという具体的根拠を明確にする必要があるからである。そうすると、この理由附記は、青色申告の承認があった所得についての更正に限られるべきであり、請求人が青色申告の承認を受けているのは不動産所得についてであるところ、当該不動産所得金額の異同についての理由は附記されており、給与所得金額や源泉徴収税額に係る更正の部分について本件各更正通知書にその更正の理由を附記しなかったことは違法ではない。
ハ 本件各更正処分について
 居住者に対して課される所得税の額は、一暦年間におけるすべての所得の金額を総合して課税総所得金額等を計算した上、これに所定の税率等を適用して算出するものとされ(所得税法第2編第1章から第3章まで)、同法第120条第1項の規定により確定申告をする居住者は、総所得金額若しくは退職所得金額又は純損失の金額の計算の基礎となった各種所得につき同項第5号に規定する「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」がある場合には、これを算出所得税額から控除して納付すべき所得税の額を計算し、その結果、納付すべき税額があるときは、これを国に納付しなければならないものとされ(同号及び同法第128条《確定申告による納付》)、また、この計算上控除しきれなかった金額があるときは、その金額に相当する所得税の還付を受けることができるものとされている(同法第120条第1項第6号及び同法第138条《源泉徴収税額等の還付》第1項)。
 そして、最高裁判所平成4年2月18日第三小法廷判決は、所得税法第120条第1項第5号に規定する「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」とは、所得税法の源泉徴収の規定(所得税法第4編)に基づき正当に徴収をされた又はされるべき所得税の額を意味するものであり、給与その他の所得についてその支払者がした所得税の源泉徴収に誤りがある場合に、その受給者が、確定申告の手続において、支払者が誤って徴収した金額を算出所得税額から控除し、又はその誤って徴収した金額の全部若しくは一部の還付を受けることはできない旨判示している。
 請求人は、自己が代表取締役を務め、かつ、給与の支払者であるA社が誤って徴収した源泉所得税の額を算出税額から控除して確定申告をしているところ、この申告方法を正当とする請求人の主張は、上記の判決に明らかに反するものである。
ニ 本件各賦課決定処分について
 通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある」場合とは、例えば、税法の解釈に関して申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い修正申告し、若しくは更正を受けた場合、又は災害若しくは盗難等に関し、申告当時損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金等の支払を受け、若しくは盗難品の返還を受けたため修正申告し、若しくは更正を受けた場合など申告当時適法とみられた申告がその後の事情の変更により、納税者の故意又は過失に基づかずして過少申告となった場合のように、当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、こうした納税者に過少申告加算税を課すことが不当又は酷になる場合を意味するものであり、また、申告は飽くまで納税者の責任で行うものであるから、税理士等の過誤によって過少申告となったとしても、納税者がそのことを理由に過少申告についての責任を免れるものではないと解されている。
 請求人は、C税理士に対して、A社の経理及び本件各確定申告書の作成を依頼し、同税理士に雇用されているEが、源泉徴収票の作成の基となるA社の所得税源泉徴収簿及び本件各確定申告書を作成したものであるとしても、申告は飽くまで納税者である請求人本人の責任で行うのであるから、請求人がそのことを理由に過少申告の責任を免れ得るものではない。
 したがって、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある」場合には該当しない。

トップに戻る

3 判断

(1) 異議審理手続について

 請求人は、異議決定及び通則法第111条の教示がなかったとして、異議審理手続の違法を主張する。
 しかしながら、通則法第75条第5項は、異議申立て後3か月を経過しても異議申立てについての決定がないときは、当該異議申立てに係る処分について、決定を経ないで、国税不服審判所長に対して審査請求をすることができる旨規定しており、このような場合に異議申立てに係る処分が直ちに違法となるものではない。
 また、通則法第111条第1項が、異議審理庁は、異議申立て後3か月を経過しても当該異議申立てが係属しているときは、当該異議申立てに係る処分が審査請求をすることができないものである場合を除き、遅滞なく、当該処分について直ちに審査請求をすることができる旨を書面でその異議申立人に教示しなければならないと規定しているのは、不服申立ての制度及び法令についての不知のために救済の機会を失することのないようにという趣旨であり、請求人は、適法に本件審査請求をしているのであるから、請求人に対して同条の教示がなされなかったからといって、それだけで異議申立てに係る処分が違法となることはない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(2) 更正の理由附記について

 請求人は、更正の理由附記が不十分であるから、本件各更正処分は取り消されるべきである旨主張する。
 確かに、上記1の(4)のトのとおり、本件各更正通知書には、原処分庁が源泉徴収税額を本件各更正処分に係る調査後の金額とした理由は附記されていない。
 しかしながら、所得税法第155条第2項は、青色申告書に係る更正処分が不動産所得、事業所得及び山林所得の金額の計算についての誤りに基因する場合は更正通知書に更正の理由を附記しなければならないと規定しているのであるから、その反対解釈として、上記以外の各種所得金額の計算誤り又は損益通算若しくは損失の繰越控除の規定の適用誤りのみに基因する更正処分については、理由を附記しなくとも違法ではないと解される。そして、不動産所得の金額の計算誤りに関する更正処分が行われた平成14年分及び平成15年分の各更正通知書には、不動産所得の金額の計算誤りに係る更正の理由は附記されており、平成16年分については、不動産所得の金額については更正されていないから、同年分の更正通知書に理由が附記されていなくとも、本件各更正通知書に法の要求する理由附記として欠けるところはない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

トップに戻る

(3) 本件各更正処分について

イ 所得税法上、源泉所得税については、徴収・納付の義務を負う者は源泉徴収の対象となるべき所得の支払者とされ、その納税義務は、当該所得の受給者に係る申告所得税の納税義務とは別個のものとして成立、確定し、これと並存するものであり、そして、源泉所得税の徴収・納付に不足がある場合には、不足分について、税務署長は源泉徴収義務者たる支払者から徴収し(同法第221条)、支払者は源泉納税義務者たる受給者に対して求償すべきものとされており(同法第222条)、また、源泉所得税の徴収・納付に誤りがある場合には、支払者は国に対し当該誤納還付を請求することができ(通則法第56条)、他方、受給者は何ら特別の手続を経ることを要せず直ちに支払者に対し、本来の債務の一部不履行を理由として、誤って徴収された金額の支払を直接に請求することができる(最高裁判所昭和45年12月24日第一小法廷判決・民集24巻13号2243頁参照)。
 このように源泉所得税と申告所得税との各租税債務の間には同一性がなく、源泉所得税の納税に関しては、国と法律関係を有するのは支払者のみで、受給者との間には直接の法律関係を生じないものとされていることからすれば、所得税法第120条第1項第5号の源泉徴収税額の控除の規定は、申告により納付すべき税額の計算に当たり、算出所得税額から源泉徴収の規定に基づき徴収すべきものとされている所得税の額を控除することとし、これにより源泉徴収制度との調整を図る趣旨のものと解されるのであり、その税額の計算に当たり、源泉所得税の徴収・納付における過不足の清算を行うことは所得税法の予定するところではない。のみならず、給与等の支払を受けるに当たり誤って源泉徴収をされた(給与等を不当に一部天引控除された)受給者は、その不足分を即時かつ直接に支払者に請求して追加支払を受ければ足りるのであるから、このように解しても、その者の権利救済上支障は生じない。
 そうすると、所得税法第120条第1項第3号に掲げる算出所得税額から控除すべき同項第5号に規定する「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」とは、所得税法の源泉徴収の規定に基づき、正当に徴収された又はされるべき所得税の額を意味するものであり、給与その他の所得についてその支払者がした所得税の源泉徴収に誤りがある場合に、その受給者が、所得税の確定申告の手続において、支払者が誤って徴収した金額を算出所得税額から控除し又は誤徴収額の全部若しくは一部の還付を受けることはできないと解するのが相当である(最高裁判所平成4年2月18日第三小法廷判決・民集46巻2号77頁参照)。
ロ この点について、請求人は、A社が超過徴収した源泉所得税額は所得税法第120条第1項第5号に規定する源泉徴収税額に含まれ、確定申告の手続によりその誤りを清算することができる旨主張するが、独自の見解であって、採用できない。
ハ 以上に基づき、本件各年分の請求人の納付すべき税額又は還付金の額に相当する税額を計算すると、本件各更正処分の額といずれも同額となるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

トップに戻る

(4) 本件各賦課決定処分

イ 通則法第65条第4項は、修正申告書の提出又は更正に基づき納付すべき税額に対して課される過少申告加算税につき、その納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、その事実に対応する部分についてはこれを課さないこととしている。
 過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対し課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置であり、主観的責任の追及という意味での制裁的な要素は重加算税に比して少ないものである。このような過少申告加算税の趣旨に照らせば、通則法第65条第4項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁判所平成18年4月20日第一小法廷判決)。
ロ これを本件についてみると、所得税法の解釈上、同法第120条第1項第3号に掲げる算出所得税額から控除すべき同条項第5号に規定する「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」とは、同法の源泉徴収の規定に基づき、正当に徴収された又はされるべき所得税の額を意味するものであり、給与その他の所得についてその支払者がした所得税の源泉徴収に誤りがある場合に、その受給者が、所得税の確定申告の手続において、支払者が誤って徴収した金額を算出所得税額から控除し又は誤徴収額の全部若しくは一部の還付を受けることができないと解されていることは、上記(3)のイの最高裁判所の判例が存在することから明らかである。
 そして、申告納税制度の下においては、納税義務者において自ら課税標準及び税額を正確に確定し申告しなければならないのであるから、請求人は、上記の「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」を適正に算出した上で、これを確定申告書に記載しなければならないのであって、請求人が源泉徴収票に記載された源泉徴収税額が過大であることに気付かずにこれを本件各申告書に記載して提出した結果、過少申告となったとしても、それは、自ら課税標準及び税額を正確に確定し申告しなければならないのにこれを怠ったことに基因するものであるというほかない。
 そうすると、請求人が源泉徴収票に記載された源泉徴収税額が過大であることに気付かずにこれを本件各申告書に記載して提出したことは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情には当たらず、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷となるものとまでいうことはできないから、通則法第65条第4項にいう「正当な理由があると認められるものがある」場合には該当しない。
ハ この点について、請求人は、本件各年分の給与所得の源泉徴収票の「源泉徴収税額」欄の金額に誤りがあるとの認識は一切なく、当該源泉徴収税額が正しいものとして本件各申告書を作成、提出しており、請求人の責めに帰すべき事由がない旨主張する。
 しかしながら、請求人が主張する事情は、上記ロのとおり、そもそも、請求人が本件各年分の給与所得の源泉徴収票に記載された源泉徴収税額を正しいものと信じ、誤りがあるとの認識をもたなかったという請求人の主観的事情にすぎないから、「真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情」には該当しない。
 また、1上記1の(4)のイ及びニのとおり、請求人は、源泉徴収義務者であるA社の代表取締役であり、専門家である税理士に依頼して本件各申告書を作成し提出しているにもかかわらず、源泉徴収票に記載された源泉徴収税額が適正に算出されたものであるか否かを確認していなかったこと、2本件各年分においてA社の源泉所得税の計算を担当していたF会計事務所所属のEは、当審判所に対し、本件各年分において、請求人に係る源泉所得税が過大に徴収されたのは、昔の税額表を使って税額を計算したことによるものであり、請求人は年末調整の対象者ではないため、最終的には翌年3月の確定申告により所得税額が確定することから、毎月の源泉所得税の額については、あまり気をつけて見ていなかったことによるものである旨答述していることからすると、請求人が本件各年分の給与所得の源泉徴収票に記載された源泉徴収税額を正しいものと信じ、誤りがあるとの認識をもたなかったことについては、請求人の落ち度も見受けられる。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ニ したがって、通則法第65条第1項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る