別紙

当事者の主張
原処分庁 請求人ら
 原処分に違法はなく、審査請求は棄却されるべきである。
 原処分は、次のとおり違法であるので、取得した財産の価額○○○○円を超える部分に相当する税額に係る相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを行うべきである。
1 Mらは、本件契約により、本件老人ホームの施設を利用することができる権利を取得したものであり、それは、入居者の退居や死亡により返還請求権に転化することで資産的価値の発生する権利である。
 当該権利は、相続税法第2条に規定する本来の相続財産であり、具体的には、1被相続人の死亡により実際に受け取る追加入居一時金及び健康管理費、2被相続人の死亡時に本件契約を解除するとした場合に返還を受けることができる入居一時金及び健康管理費で構成されるものである。
1 Mらは、本件契約により、入居一時金等を支払うことによって、本件老人ホームの施設を終身利用できる権利、すなわち終身利用権を取得した。
 したがって、生前に解約の申入れをしていないMが相続時点で有している権利は、入居一時金(それに対する返還請求権を含む)ではなく、施設を終身利用できる権利(終身利用権)である。
 終身利用権は、契約上の所定のサービスの提供を要求することはできるが、預託者に所有権のある預け金等の金銭債権とは違い、そのまま返還金を請求する権利ではない。
 終身利用権は、それ自体に入居一時金の返還請求権を内包しているのではなく、解約等の効力要件が実現して、初めて終身利用権が消滅し、代わりに、入居一時金の返還請求権が発生するのである。すなわち、終身利用権と入居一時金の返還請求権が併存することはありえない。
 また、一身専属性を有し、相続の対象とならない終身利用権と金銭債権として相続、譲渡も可能な返還請求権とは、全く別個の法律関係であることからも、終身利用権に返還請求権が内包していると解することはできない。
 入居一時金の返還請求権が、相続対象になるのは、生前に、Mが解約の申入れをしていた場合のみである。
2 本件契約によれば、2人入居の場合において、2人のうちいずれかが死亡により退居するときは、追加入居一時金及び健康管理費に係る返還金が返還されることとなるが、他の1人は引き続き、本件老人ホームの施設を利用することができる。
 また、その後も、他の1人は、所定の期間内であれば、本件契約を解除することにより、入居一時金及び健康管理費のうち、本件契約に規定する算式等により算出した返還金の返還を受けることができる。
 このことからすると、2人入居の場合で、1人が死亡した場合には、他の入居者は、入居一時金及び健康管理費の支払によって生じた本件契約に係る権利を承継することになる。
 したがって、本件契約によれば、Mが死亡した場合、Kは、上記1の1及び2の財産を受け取ることとなるから、本件契約の内容は、いわば、死因贈与契約と同一視することができる。
 そうすると、当該財産は、相続又は遺贈により取得したものであるから、相続税法第2条に規定する本来の相続財産に該当する。
2 終身利用権は、契約上の権利ではあるが、相続も譲渡もできない権利であり、いわゆる、民法上の相続財産には該当しない帰属上の一身専属権であると認められるから、相続税法第2条に規定する本来の相続財産には、該当しない。
3 入居一時金及び追加入居一時金は入居期間が満15年以内、健康管理費は入居期間が満2年以内の場合に、所定の算式により算出した金額が返還されることとなっており、その返還金は、相続開始日において、本件契約を解除することによって返還を受けることができる金額(52,763,000円)という金銭に見積もることのできる経済的価値を有する財産であると認められる。 3 本来解約を前提としていない終身利用権について、解約可能額で評価するということは、終身利用権を入居から15年で消滅する権利と考えていることになり、論理的に矛盾がある。解約をすれば返金があるというのは、いわば終身利用権に付随しているオプションのようなものであり、終身利用権の本質を成すものではない。
4 そうすると、Mに帰属する相続財産として計上すべき金額は、Mが死亡したことに伴いKが受け取った8,478,000円と52,763,000円の合計額61,241,000円に、入居一時金等としてMらが支払った金額の合計額77,810,000円のうちに占めるMが支出した金額65,610,000円の割合を乗じて計算した額51,638,889円と認めるのが相当である。 4 なお、Mが死亡したことに伴いKが受け取った8,478,000円に、入居一時金等としてMらが支払った金額の合計額77,810,000円のうちに占めるMが支出した金額65,610,000円の割合を乗じて計算した額7,148,715円が、相続財産であることは認める。

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