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(平18.11.29、裁決事例集No.72 495頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人K及びL(以下「請求人ら」という。)が、被相続人であるMの死亡に伴い生じる有料老人ホームの入居一時金、追加入居一時金及び健康管理費に関する返還金及び返還見込額は、すべて相続財産に該当するとして原処分庁が相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことに対し、当該金員の一部は相続財産ではないとして、違法を理由にその一部の取消しを求めた事案であり、争点は、入居一時金、追加入居一時金及び健康管理費に関する返還金及び返還見込額が、相続財産となるか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯等

 審査請求(平成17年12月20日請求)に至る経緯及び内容は、別表のとおりである。
 なお、請求人らは、平成18年1月18日に当審判所に対し、Lを総代とする旨の選任届出書を提出した。

(3) 関係法令等

イ 相続税法(平成15年法律第8号による改正前のもの。以下同じ。)第2条《相続税の課税財産の範囲》第1項は、第1条《相続税の納税義務者》第1号の規定に該当する者については、その者が相続又は遺贈に因り取得した財産の全部に対し、相続税を課する旨規定している。
ロ 相続税法第11条の2《相続税の課税価格》第1項は、相続又は遺贈に因り財産を取得した者が第1条第1号の規定に該当する者である場合においては、その者については、当該相続又は遺贈に因り取得した財産の価額の合計額をもって、相続税の課税価格とする旨規定している。
ハ 相続税法第22条《評価の原則》は、相続、遺贈又は贈与に因り取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ M及びK(以下「Mら」という。)は、平成14年4月2日に株式会社N(以下「N社」という。)との間で、要旨以下の内容の「○○○」入居契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
(イ) N社は、社団法人全国有料老人ホーム協会(以下「有料老人ホーム協会」という。)が定める倫理綱領を遵守し、Mらに対し、厚生労働省類型・介護付終身利用型有料老人ホーム「○○○」(所在地:○○県○○市○○町○−○、以下「本件老人ホーム」という。)を終身利用させるとともに、本件契約に定める各種サービスを提供する。入居者は、本件契約に定めるところを承認し、かつ、本件契約に定める必要な費用をN社に支払う(第1条)。
(ロ) 入居者の一般居室及び他の入居者と共用するスペースは、以下のとおりである(第2条)。
A 一般居室

(A) 部屋番号 ○○号室
(B) 間取・タイプ 間取り(洋×2、和)、タイプ(○○)
(C) 住居面積 ○○平方メートル
(D) バルコニー ○○平方メートル 

B 共用スペース

(A) 日常生活施設 フロント、ロビー、男女大浴場、ゲストルーム等
(B) 教養娯楽施設 和室、ラウンジ、ビリヤードコーナー等
(C) 医療介護施設  館内医務室、本件老人ホームロイヤルケア(介護居室、介助浴室等)

(ハ) 入居者は、第31条第2号又は第3号に基づく契約の終了がない限り、本件契約に定めるところに従い、居室及び共用スペースを終身にわたり利用することができる(第3条)。
(ニ) 入居者は、N社から第11条ないし第17条に定めるサービスを受けることができる(第4条)。
(ホ) 入居者は、N社に対し、入居一時金として60,310,000円、追加入居一時金として7,000,000円を支払う(第5条第1項)。
(ヘ) 入居者は、N社に対し、健康管理費として各5,250,000円を支払う(第5条第2項)。
(ト) 健康管理費は、第11条ないし第13条の各サービスに充当する(第5条第3項)。
(チ) N社は、別に定める管理運営規程に従い、入居者の日常生活に必要な諸業務を処理するとともに、建物及び付帯施設の維持管理を行う(第8条第1項)。
(リ) N社が別に定める管理運営規程については、本件契約に付随するものとしてN社及び入居者共に遵守する(第9条第1項)。
(ヌ) N社は、本件契約の履行に伴って生じる諸種の問題に関する意見交換の場として、運営懇談会を設置する(第10条)。
(ル) 各種サービス
A N社は、入居者の健康状態に留意し、館内医務室及び協力医療機関において医師、看護婦による健康相談と健康診断を実施し、入居者の健康の維持に助力する(第11条)。
B N社は、入居者が罹病、負傷等により治療が必要になった場合、医療機関又は本件老人ホームにおいて必要な治療が受けられるよう、医療機関との連絡・紹介を、管理運営規程に定める医療機関においては受診手続の協力を行う(第12条)。
C 入居者が介護を必要とする場合、居室又本件老人ホームロイヤルケアの居室において介護を受けることができる(第13条第1項)。
D N社は、栄養士その他の職員を配置して1日3食の食事を毎日提供する(第14条第1項)。
E 入居者は、生活全般に関する諸問題について、N社等に対し、相談、助言を求めることができる(第15条)。
F N社は、入居者の生活必需品の購入、代金の支払、官公署等への届出等につき、便宜を図る(第16条)。
G N社は、入居者に対し、運動、娯楽等のレクリエーションの実施について、その便宜を供する(第17条)。
(ヲ) 費用の負担
A 入居者は、第8条に定める本件老人ホームの管理運営、第10条に定める運営懇談会の費用及び第15条ないし第17条に定める諸サービスの費用として、N社が定める月額の管理費を毎月支払う(第18条第1項)。
B 入居者は、第14条により提供を受けた食費については、管理運営規程に定める方法により支払う(第18条第2項)。
C 入居者が居室で使用した水道、電気、ガスの料金、電話料及び個人的サービス等の費用は、自己負担とし、それぞれの指定日にN社又は関係業者等に支払う(第18条第3項)。
D 入居者の治療に係る費用は、自己負担とする(第18条第4項)。
E 入居者に供される第11条ないし第13条の各サービスのうち、公的介護保険の要支援・要介護認定前のサービスの費用は、入居時に支払った健康管理費で賄う。公的介護保険の要支援・要介護認定の後は、特定施設入所者生活介護の給付金をN社が保険者より代理受領すると同時に、入居者の自己負担分をN社が入居者に請求し、介護の費用に充当する。
 また、入居者は、公的介護保険の要支援・要介護認定を受けずに、介護サービスを利用する場合、要支援・要介護度に相当する特定施設入所者生活介護の給付金及び自己負担額を支払う(第18条第5項)。
F 入居者の居室についての小修理、ふすまの取替え等の費用は、自己負担とする。ただし、設計、施工に起因する補修、改修費についてはこの限りでない(第18条第6項)。
G 管理費、食費並びに第3項及び第5項に定める費用等の支払方法の詳細は、管理運営規程による(第18条第7項)。
(ワ) 入居者は、第三者に対し、居室の全部又は一部を転貸、若しくは居室の利用権を譲渡し、又は、居室を他の入居者の居室と交換してはならない(第24条第1項)。
(カ) 契約の終了
A 以下の一に該当する場合には、本件契約は終了する(第31条)。
(A) 入居者が死亡した時(入居者が2名の場合には、いずれもが死亡した時。)(第31条第1号)。
(B) N社が第32条に基づき解除を通告し、予告期間が終了した時(第31条第2号)。
(C) 入居者が第33条に基づき解除を通告し、予告期間が終了した時(第31条第3号)。
B N社は、入居者が管理費その他の費用の支払をしばしば遅滞するなどし、それが本件契約における当事者間の信頼関係を著しく害するものである場合には、入居者に対し、6か月の予告期間をおいて、本件契約の解除を通告できる(第32条第1項)。
C 入居者は、本件契約を解除しようとするときは、30日以上の予告期間をもってN社が定める契約解除届を同社に提出するものとし、本件契約は、当該契約解除届に記載された予告期間満了日をもって解除される(第33条第1項)。
D 第32条又は第33条の規定により本件契約が解除され、予告期間が満了した場合、入居の日から予告期間の満了までの期間が満15年以内であれば、N社は入居者に返還金を返還する(第36条第1項)。
E 入居者の死亡により本件契約が終了した場合、入居の日から終了までの期間が満15年以内の場合は、N社は入居者の返還金受取人に返還金を返還する(第36条第2項)。
F 前第1項及び第2項に規定する返還金は、以下のとおり返還する(第36条第3項)。
(A) 入居一時金に係る返還金は、次の算式により計算するものとする(端数1,000円未満は切り上げて1,000円とする。)。ただし、入居期間が満15年を超える場合は返還しない。
 入居一時金に係る返還金 計算式
(B) 健康管理費に係る返還金は、入居期間が満2年以内の場合は、50パーセントを返還するものとする。ただし、入居期間が満2年を超える場合は返還しない。
G 2人入居の場合において、2人のうちいずれかにつき第32条又は第33条に規定する解除事由が発生し、解除による退居をするときは、その者の追加入居一時金及び健康管理費を対象として、返還金をその者に返還する(第36条第4項)。
H 2人入居の場合において、2人のうちいずれかにつき、第31条第1号に規定する契約終了により退居するときは、その者の追加入居一時金及び健康管理費を対象として、返還金をその者の返還金受取人に返還する(第36条第5項)。
I 本条第4項及び第5項に規定する返還金の算出については、同第3項に準じる(第36条第6項)。
J 本条第3項及び第6項の場合、入居の日、予告期間満了日及び契約終了日が属する月は、それぞれ1月として計算するものとし、返還金は無利息とする(第36条第7項)。
(ヨ) Mらは、身元引受人として、また、所定の算式による返還金の返還金受取人として、長男であるLを定める。
 なお、特約事項として、2人入居の場合に、そのうちの一方が死亡した時は、他の一方が追加入居一時金の返還金受取人とする(表記)。
ロ Kは、平成14年2月18日にN社に対し、申込金として200,000円を支払った。
ハ Mは、平成14年3月29日にS銀行T支店(現U銀行T支店。以下「U銀行T支店」という。)の同人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)から15,610,000円及び同人名義の貯蓄預金口座(口座番号○○○○)から50,000,000円を出金し、Kは、同日に同支店の同人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)及び貯蓄預金口座(口座番号○○○○)から、それぞれ6,000,000円ずつ出金した。
また、Mらは、平成14年3月29日にN社に対し、申込金を差し引いた上記イの(ホ)及び(ヘ)の支払として、上記のとおり出金した現金77,610,000円を、Mを振込人として、S銀行V支店(現U銀行V支店)のN社名義の普通預金口座(口座番号○○○○)に振り込む方法で支払った。
 なお、本件契約に係る入居一時金、追加入居一時金及び健康管理費の合計額77,810,000円のうち、Mの出捐額は65,610,000円であり、Kの出捐額は、平成14年2月18日に申込金として支払った200,000円を含め12,200,000円である。
ニ Mらは、平成14年4月4日に本件老人ホームに入居したが、Mは、同年8月○日に死亡した。
ホ N社は、平成14年8月14日付の「返還金計算書」と題する書面で、Kに対し、Mの死亡退居により、Mの入居期間が同年4月から同年8月までの5月間であったことに基づき、追加入居一時金に係る返還金5,853,000円及び健康管理費に係る返還金2,625,000円の合計額8,478,000円を、同年10月29日にK指定の銀行口座に振り込む方法で支払う旨連絡した。
ヘ N社は、平成14年10月29日にKに対し、上記ホの返還金8,478,000円をU銀行T支店のK名義の普通預金口座(口座番号○○○○)に振り込む方法で支払った。
ト 請求人らが相続により取得した財産の価額のうち、入居一時金、追加入居一時金及び健康管理費に関する返還金及び返還見込額以外の財産の価額は、○○○○円である。
チ Kが受け取った追加入居一時金に係る返還金5,853,000円及び健康管理費に係る返還金2,625,000円の合計額8,478,000円のうち、7,148,715円(8,478,000円×(65,610,000円/77,810,000円))は、相続財産として、同人が認める金額である。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙のとおりである。

3 判断

(1) 法令解釈

 相続税は、相続又は遺贈によって取得した財産に対して課税するものであり(相続税法第1条第1号)、何を相続税の課税財産とみるかは、原則として、民法等の一般私法の定めるところに基づいて、私法上の法律関係を前提として判断されるものである。しかしながら、相続税が財産の無償取得により生じる担税力の増加を課税の根拠としていることからすると、相続税の課税財産、すなわち相続財産とは、法律上の権利の有無にかかわらず、金銭に見積もることができる経済的価値のある被相続人に係るすべての財産をいうものであると解される。

(2) 認定事実

 請求人らからの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる(なお、認定に用いた資料は、文末括弧内に記載したものであり、また、文中の括弧内には本件契約の条数を記載している。)。
イ 本件老人ホームに2人で入居する場合の入居条件は、原則夫婦で、かつ両者とも満60歳以上であることとなっている(本件老人ホームに関する重要事項説明書)。
ロ 入居者は、本件契約を締結し、入居一時金、追加入居一時金及び健康管理費並びに月額規定費用(管理費、食費等)をN社へ支払うことにより、契約に定める本件老人ホームの居室等を終身にわたって利用し、各種サービスを享受する権利を取得する(N社○○担当取締役W(以下「W取締役」という。)の答述)。
ハ N社は、有料老人ホーム協会に加入しており、本件契約は、同協会作成の標準入居契約(以下「標準入居契約」という。)に準拠して作成されたものである(W取締役の答述)。
ニ 入居一時金及び追加入居一時金について(W取締役の答述)
(イ) 入居一時金及び追加入居一時金のうち14%相当額は、入居者が目的施設を利用する権利を購入するための負担費用、すなわち、一種の入会金的性格のものであることから、非返還対象としている。
(ロ) 入居一時金のうち上記(イ)以外の部分は、想定居住期間(15年)における専用居室の家賃及び共用施設の利用料の前払分として、入居者から無利息の預り金として受け取ったものであり、当該一時金は、入居年数が経過するごとに、専用居室の家賃及び共用施設の利用料に充当されていく。したがって、本件契約においては、入居期間15年以内に契約が終了した場合には、入居者に対し、入居経過月数に応じ当該一時金を返還することとしている。
(ハ) 追加入居一時金のうち上記(イ)以外の部分は、想定居住期間(15年)における共用施設の利用料の前払分として、入居者から無利息の預り金として受け取ったものであり、当該一時金は、入居年数が経過するごとに、共用施設の利用料に充当されていく。したがって、本件契約においては、15年以内に契約が終了した場合には、入居者に対し、入居経過月数に応じ当該一時金を返還することとしている。
(ニ) 2人で入居し、そのうちの1人が先に退居する場合には、追加入居一時金を先に清算することとしているのは、共用施設の利用料として預かっている追加入居一時金を清算することとしているからである。
(ホ) 入居一時金及び追加入居一時金に係る想定居住期間15年は、男女各70歳の平均余命期間等を勘案して決定したものである。
ホ 健康管理費について(W取締役の答述)
(イ) 健康管理費は、想定居住期間(15年)における本件契約所定の1健康相談及び健康診断の実施(第11条)、2罹病、負傷等により治療が必要となった場合の医療機関との連絡・紹介又は受診手続の協力(第12条)、3介護が必要となった場合の介護サービス(第13条)の各サービスの費用(介護保険で給付されるサービスを超えるサービスの費用)並びにこれらのサービスに要する事務費及び人件費等の前払分として、入居者から無利息の預り金として受け取ったものである。
(ロ) 上記(イ)の各サービスについては、標準入居契約の介護等一時金のサービス内容より広い範囲でのサービスを提供することとしていること、想定居住期間(15年)内に当該サービスを必要とする者もいれば必要としない者もおり、当該サービスを必要とする者の中でも、入居時に健康管理費として受け取った額以上の費用を要する者もいればそうでない者もいること並びに入居一時金及び追加入居一時金と同様の返還方法をとれば、入居時に健康管理費として受け取った額以上の費用を要する者に対しても、入居経過月数に応じた返還をしなくてはならず、経営上の負担が大きくなることなどにかんがみ、本件契約においては、入居期間2年以内に契約が終了した場合には、入居者に対し、健康管理費の50%を返還することとしている。
ヘ N社は、本件契約時に、2人入居の場合において、どちらか1人が亡くなり、返還金が生じたときは、追加入居一時金に係る返還金と健康管理費に係る返還金の両方とも、もう1人の入居者に支払うことをMらに説明し、同人らは、そのことを了承した上で本件契約を締結したものであるから、健康管理費に係る返還金がある場合には、当該返還金は、Kに返還することになる(W取締役の答述)。
ト 有料老人ホーム協会は、入居一時金及び介護一時金について、同協会作成の「有料老人ホーム標準入居契約書及び解説・関連資料集」において、要旨以下のとおり解説している(同書類)。
(イ) 入居一時金は、1居室や各種の共用施設の平均的な使用期間を想定して、この期間の居住の前払分としての性格(想定居住期間内の家賃相当分)の部分、2初期開業費や開業後のホームの維持管理・大規模修繕、想定居住期間を超える利用者の費用回収のために事業者が取得する部分、3ホームでの各種のサービスを享受するための地位を購入する対価の部分に整理される。1については、いわば無利息の預り金としての性格を持ち、入居された月ごとに事業者は預り金からその月の家賃相当分を取得することとなり、逆に、想定居住期間内に契約が終了した場合には、当然に預り金の残額を返還すること(返還対象分)となるが、2及び3については、一種の入会金や権利金としての性格を持ち、これらは、居住開始と同時に事業者が取得することとなるから、返還の対象とはならない(非返還対象分)。
(ロ) 介護等一時金は、「特定施設入所者生活介護を受ける要介護者等の介護保険給付対象外サービス」部分の対価と、「要介護者等以外の入居者に対する生活支援サービス」の各サービスの対価としての費用に充てられるものと考えられ、「返還対象分」については、償却期間内における前記介護の対価の前払分を「預り金」として受領したものと位置付け、「非返還対象分」については、入居者が目的施設において介護を受ける権利を購入するための負担費用(一種の入会金的性格)として位置付けられてきたとし、その返還対象分の算定については、入居一時金と同様の算定を行うこととしている。
チ 国は、入居一時金及び介護一時金について、有料老人ホームの設置及び運営等に関する「有料老人ホームの設置運営標準指導指針について」と題する指針(以下「指導指針」という。)において、要旨以下の内容を定めている(同指針の写し)。
(イ) 有料老人ホームが、家賃相当額について、終身にわたって受領すべき家賃相当額の全部又は一部を前払金として一括して受領する場合には、入居者が一定期間内に死亡又は退居したときの入居月数に応じた返還金の算定方式を明らかにしておくとともに、一時金の返還債務を確実に履行し、また、一時金のうち返還対象とならない部分を適切な割合とする。
(ロ) 有料老人ホームが、介護費用(介護保険対象外の費用)について、終身にわたって受領すべき介護費用の全部又は一部を前払金として一括して受領する場合には、入居者が一定期間内に死亡又は退居したときの入居月数に応じた返還金の算定方式を明らかにしておくとともに、一時金の返還債務を確実に履行し、また、一時金のうち返還対象とならない部分を適切な割合とする。

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(3) 判断

イ 本件契約に基づきMらに生じる権利等について
(イ) 上記1の(4)のイによれば、Mらは、平成14年4月2日にN社との間で、本件契約に定める専用居室、共用スペースを終身にわたり利用できること及び契約に定める各種サービスを終身にわたって受けることを目的として、当該目的に必要な入居一時金、追加入居一時金及び健康管理費などの費用を支払うことを約する本件契約を締結したと認められる。
(ロ) また、上記1の(4)のイの(カ)のとおり、本件契約は、入居者であるMらの死亡により契約が終了するものであるとともに、同人らの自由な意思により、いつでも本件契約を解約できること、解約された場合、同人らがN社に支払った入居一時金、追加入居一時金及び健康管理費については、入居一時金及び追加入居一時金は入居日から15年以内、健康管理費は入居日から2年以内に限定されるものの、N社が同人らに対し、返還金として契約に定める所定の金員を支払う旨の特約付きであったことがそれぞれ認められる。
(ハ) さらに、上記(2)のニないしチによれば、N社が、本件契約において、本件契約に定める一定期間内に契約が終了した場合に、一定額を除く入居一時金、追加入居一時金及び健康管理費を本件契約に定める計算に基づき返還するとしているのは、入居一時金、追加入居一時金は、想定居住期間(15年)における専用居室の家賃及び共用施設の利用料の前払分として、入居者から無利息の預り金として受け取とったものであること及び健康管理費は、本件契約に定める各サービスの費用並びにこれらのサービスに要する事務費及び人件費等の前払分として入居者から無利息の預り金として受け取ったものであることによるものと認められる。
(ニ) 以上事実にかんがみれば、Mらには、本件契約の締結日時点において、今後、契約に定める本件老人ホームの居室等を終身にわたって利用し、各種サービスを享受する権利とともに、同人らの死亡又は解約権の行使を停止条件とする金銭債権が生じていると認めるのが相当である。そして、当該金銭債権は、金銭に見積もることができる経済的価値のある権利である。
ロ M死亡時点におけるMらが有する金銭債権の額について
(イ) 上記1の(4)のイの(カ)及び上記(2)のヘのとおり、2人入居の場合において、2人のうちいずれかが死亡により退居するときは、入居期間経過月数に応じて、追加入居一時金及び健康管理費が返還金として返還され、また、本件契約を解約すれば、入居期間が15年以内であれば入居一時金が、入居期間が2年以内であれば健康管理費が、それぞれ入居期間経過月数に応じて、返還金として返還されることとなる。
 そして、上記1の(4)のニのとおり、Mは平成14年8月○日に死亡しており、上記1の(4)のイの(カ)のE及びJ並びにニによれば、当該死亡に係る返還金の計算の基礎となる入居期間経過月数は5月となり、上記1の(4)のイの(カ)のC、D及びJ並びにニによれば、Kが相続開始日において契約の解除をN社に通告した場合、返還金の計算の基礎となる入居期間経過月数は6月となる。そして、当該事実及び上記1の(4)のイの(カ)のFに基づいて、Mらに返還されるべき金員は、以下のA及びBの合計額の61,241,000円となる。
A 死亡により返還される返還金
(A) 追加入居一時金
 7,000,000円×0.86×((180−5)/180)=5,853,000円(千円未満切上げ)
(B) 健康管理費
 5,250,000円×1/2=2,625,000円
B 解約した場合に返還される返還金
(A) 入居一時金
 60,310,000円×0.86×((180−6)/180)=50,138,000円(千円未満切上げ)
(B) 健康管理費
 5,250,000円×1/2=2,625,000円
(ロ) 上記(イ)の61,241,000円は、Mらが入居一時金、追加入居一時金及び健康管理費を負担したことによって生じたものであるところ、上記1の(4)のロ及びハのとおり、同人らがN社に支払った入居一時金、追加入居一時金及び健康管理費は、ほとんどが一括して支払われていることからすれば、その負担割合に応じてそれぞれの金銭債権が構成されているものとみるのが相当である。
 そうすると、M死亡時点におけるMらが有する金銭債権の額は、Mが51,638,889円、Kは9,602,111円となる。
ハ 上記(2)のヘ及び本件契約の内容並びに上記イ及びロからすると、本件契約に基づき生じる入居一時金、追加入居一時金及び健康管理費に関する金銭債権のうち51,638,889円はMに係る相続財産であり、Kは、Mが死亡したことにより、当該金員を死亡時点で本件契約の内容等により取得したと認めるのが相当である。
したがって、原処分庁が行った相続税の更正処分には違法はない。
ニ 請求人らは、Mが相続時点で有していた権利は、返還請求権を含む入居一時金ではなく、本件老人ホームの施設を終身利用できる権利であるから、相続も譲渡もできない権利であり、民法上の相続財産には該当しない帰属上の一身専属権であり、相続税法第2条に規定する本来の相続財産には該当しない旨主張する。
しかしながら、上記イの(ニ)で示したとおり、Mが死亡時点で有していた権利は、契約に定める本件老人ホームの居室等を終身にわたって利用し、各種サービスを享受する権利とともにMらの死亡又は解約権の行使を停止条件とする金銭債権であり、当該金銭債権は、財産的権利として本来の相続財産に該当する。また、当該金銭債権は、財産的権利であり、身分法上の権利とも性質を異にするから、一身専属的権利ということはできない。
したがって、請求人らの上記主張は採用できない。

(4) 加算税の賦課決定処分を含む原処分のその他の部分については、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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