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(平19.5.15、裁決事例集No.73 64頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税について、原処分庁が賃貸不動産の譲渡を自己の居住用不動産の譲渡とする等の隠ぺい又は仮装の行為があったとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、事前に原処分庁所属の相談担当職員に対し、当該不動産に請求人等は居住していなかったこと等を明らかにしていることから、隠ぺい又は仮装の事実はなくなったとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

 請求人の審査請求(平成18年7月25日)に至る経緯等は、別表のとおりである。

(3) 争いのない事実

イ 請求人は、P市p町a番及びb番の土地並びに同所b番地所在の建物(以下「本件建物」といい、土地と併せて「本件物件」という。)をA、B(以下、2名を併せて「Aら」という。)及びCに譲渡する契約(以下「本件契約」という。)を平成14年4月10日付で締結し、同年11月9日に本件物件を引き渡した(以下、この譲渡を「本件譲渡」という。)。
ロ 請求人は、昭和54年8月に本件建物を新築し、昭和56年7月ころまで本件物件に居住していたが、それ以降、請求人及び請求人の親族が本件物件に居住したことはない。
ハ 請求人は、平成14年分の所得税の確定申告(以下「本件確定申告」という。)において、本件譲渡に係る所得(以下「本件譲渡所得」という。)について、租税特別措置法(平成16年法律第14号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項の規定(以下、この規定による特例措置を「本件特例」という。)を適用し、住民票の除票及び戸籍の附票を添付した確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を法定申告期限内にD税務署に提出した。
ニ 請求人は、原処分庁の調査担当者から、本件譲渡所得について本件特例の適用はできないこと及び本件建物の取得費の計算における償却費相当額(以下「本件償却費相当額」という。)の計算に誤りがあり取得費の金額が過大であること並びに本件物件の賃貸に係る不動産所得(以下「本件不動産所得」という。)の金額が過少であること等を指摘されたことから、平成18年1月30日に平成14年分の所得税の修正申告書を提出した。

(4) 関係法令の要旨

 国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、過少申告加算税を課する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙のとおりである。

3 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所が調査したところによると、次の事実が認められる。
イ 請求人の戸籍の附票及び住民票には、請求人及び請求人の配偶者であるEの住所は、平成3年3月26日から平成14年4月19日まで、Q市q町○○番に、平成14年4月19日に本件物件の所在地であるP市p町c番(以下「本件住所」という。)に、同年10月25日にR市r町○○番に、さらに、平成15年5月23日にQ市q町○○番に異動したとする記載がある。
ロ 認定事実
 請求人の平成10年分から平成14年分の収支内訳書(不動産所得用)によれば、不動産所得の金額の計算において、本件建物を含むすべての建物の減価償却費は、従来から定率法で算出され、平成14年分の本件建物に係る減価償却費の「本年中の償却期間」欄には4か月とされ、また、本件物件に係る平成14年分の家賃収入は、賃貸契約期間を14年4月14日までとし364,000円が計上されていることが認められる。
ハ 請求人が本件確定申告書に添付して提出した本件物件に係る譲渡所得の内訳書(以下「本件譲渡所得の内訳書」という。)によれば、本件物件の利用状況は「自己の居住用」であると記載され、本件償却費相当額は定額法により計算されている。
ニ 平成14年中に譲渡された、S市s町○○番に所在する賃貸用Fマンション○○号に係る譲渡所得の内訳書には、譲渡所得の取得費の計算における償却費相当額について、不動産所得の金額の計算において採用していた定率法による減価償却費の累計額が記載されている。
ホ 請求人が当審判所に提出した「売買契約に基づく清算書」と題する書面には、「敷金、家賃の清算」として、「1預り敷金420,000円、24月1日〜11月8日までの家賃381,500円、3よって、返戻金38,500円」旨の記載がある。
ヘ 原処分庁が開設していた申告相談会場におけるEに係る確定申告記載指導の記録である「受付票」(以下「受付票」という。)には、要旨次の記載がある。
(イ) 年月日「平成15年2月○日、午前」
(ロ) 申告者住所「R市r町○○番」
(ハ) 申告者氏名「○○○○(請求人の氏名)、職業会社員」
(ニ) 受付に来られた方「氏名:E/続柄:配偶者」
(ホ) 備考欄「平11.Aに貸していた物件 本人は居住用として申告したい旨申し立てるが、聴き取りによると転勤族で居住していない様子であり措置法35条は無理(新築当時は住んでいたが1年くらい。)」
(ヘ) 担当者の押印
ト 請求人は、当審判所に対し要旨次のとおり答述した。
(イ) 平成14年4月10日付で本件契約を締結し、同年11月9日に本件物件を引き渡したのは、本件譲渡に係る手付金を同年4月中にもらいたかったこと、本件特例を適用するためには半年程度は本件住所に住民登録をしておく必要があったこと及びAらの金策の都合もあったことの理由によるものである。
(ロ) また、本件特例を受けるため、請求人等の住民票を本件住所に異動させる目的で当時本件物件の賃借人であったAらに他所に住民登録を異動してもらった。
チ Eは、当審判所に対し要旨次のとおり答述した。
(イ) 平成15年2月にG税務署が開設している申告相談会場において相談担当者(以下「本件相談担当者」という。)に対し、請求人の代理として確定申告の相談を行い、本件物件には請求人及び請求人の親族の居住の事実はなかったこと及び請求人及びEの住民登録を本件住所に異動させた旨を説明し、本件特例が適用できるかと質問したところ、本件相談担当者から「本件物件に居住していないことから、本件特例の適用はできない。」旨の説明を受けた。
 しかしながら、重ねて、本件建物を建築後2〜3年は居住したがその後は転勤等で居住できなかったこと、貸家にしていたこと及び経済的事情を縷々説明したところ、本件相談担当者から、「転勤の多いサラリーマンには特例があり、認められるか認められないか分からないが申告書を出してみれば」ということ及びその特例を受けるためには戸籍の附票の添付が必要であるとの説明を受けた。
(ロ) 本件相談担当者に対し、本件譲渡所得に係る取得費の計算方法について質問したところ、同担当者から「本件不動産所得の計算における残存価額が本件建物の取得費になる」との説明を受けたが、当該残存価額では実際の建物の価値と差があるように思え、また、本件不動産所得の計算における定率法より定額法による経過年数を基にした計算の方が取得費が高額になり有利であること、また、空き家にしていた期間の計算方法が分からなかったこと及び取得費の「記載」欄が狭く複雑な計算を記入するのが面倒であったこと等から定額法により経過年数を基にして取得費となる本件建物の残存価額を計算した。
(ハ) 本件物件の家賃は、平成14年1月から3月まで月額105,000円を振込みによりもらっていたが、平成14年3月末に、Aらとの間で本件契約の概要がまとまった際に、同年4月以降引渡しまでの家賃は、月額52,500円とし敷金で賄うという約束になった。
リ Aは、原処分庁の調査担当者に対し、本件物件の敷金420,000円については、最後の数か月分の家賃を支払わないでいいという形で清算した旨申述した。
ヌ 本件相談担当者は、当審判所に対し要旨次のとおり答述した。
(イ) Eから相談を受けた記憶はないが、受付票の「担当者」欄の押印及び筆跡から、私がEに対し申告書の記載指導を行ったことは間違いがないと思う。
(ロ) 受付票の備考欄に「Aに貸していた物件、本人は居住用として申告したい旨申し立てるが、聴き取りによると転勤族で居住していない様子であり措置法35条は無理(新築当時は住んでいたが1年くらい。)」との記載があり、記載指導時に、はっきり本件特例の適用は不可という判断をしていることから、このような場合において請求人の主張するような「認められるか認められないか分からないが申告書を提出してみれば」との説明をすることは、私の資産税事務経験年数等からいっても、まず考えられない。しかし、「転勤の多いサラリーマンには特例があり」という部分の説明については、本件特例の適用に当たって、「転勤、転地療養などのため、社会通念上同居することが通常である配偶者等と離れ、単身で他に起居している場合であっても、転勤などの事情が解消した後は配偶者等と同居することとなると認められるときにおいては、所有者が居住している家屋に該当するものと認められる。」旨の措置法関係通達の説明であると考えられるから、転勤等で住めなかったというEの事情の説明に対し、当該通達の内容を一般的に説明したかもしれないと思う。

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(2)  ところで、通則法第68条第1項の規定の趣旨は、納税者が過少申告をするについて、事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われたと判断された場合に、違反者に対して特に重い負担を課することで、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものであるから、重加算税は、隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したという、通則法第68条第1項所定の課税要件を充足することにより成立する。

(3) これを本件についてみると次のとおりである。

イ 上記(1)のイ及び同トの(ロ)のとおり、請求人及び請求人の親族が本件物件を居住の用に供していないにもかかわらず、請求人は本件特例を適用する意図を持って、本件物件に居住しているAらの住民登録のみを異動させた旨自認し、また、請求人及びEの住民登録を本件住所に異動し、住民票の除票等を本件確定申告書に添付することにより、本件物件を自己の居住用と仮装したことが認められ、これらの行為は、通則法第68条第1項に規定する「隠ぺい又は仮装」に該当する。
ロ また、上記(1)のロないしニ及び同チの(ロ)のとおり、Eが、本件相談担当者から本件不動産所得における減価償却費の累計額が本件償却費相当額であるとの説明を受け、他の賃貸不動産の譲渡所得の金額の計算における償却費相当額は、従来から採用している定率法による当該不動産の減価償却費の累計額としているところ、本件譲渡所得の計算においては、請求人が賃貸している不動産であるにもかかわらず、本件譲渡所得の内訳書に本件物件の利用状況を「自己の居住用」と記載した上で、自己の居住用建物の譲渡における取得費の計算に用いる定額法により本件償却費相当額を算出し、本件譲渡所得の金額を過少に申告したことが認められ、これらの行為は、通則法第68条第1項に規定する「隠ぺい又は仮装」に該当する。
ハ さらに、上記(1)のロ、同ホ及び同リのとおり、請求人は、本件物件の平成14年4月1日から同年11月8日の間に係る家賃381,500円は敷金で清算することを当事者間で合意し実行しているにもかかわらず、平成14年分収支内訳書(不動産所得用)において、賃貸契約期間を4月14日までと記載し、本件物件の家賃収入を同年4月14日までの364,000円と計上することにより、平成14年4月15日から11月8日までの期間の家賃収入を除外し、また、家賃収入を除外したことに整合性を持たせるために、本件物件に係る減価償却費の償却期間についても事業の用に供していたとする平成14年1月から同年4月までの4か月と記載し、本件不動産所得を過少に申告していることが認められ、これらの行為も、通則法第68条第1項に規定する「隠ぺい又は仮装」に該当する。
 なお、請求人は、本件相談担当者に平成14年4月10日が本件物件の売買契約の成立日であると説明され、同年4月10日以降の家賃を計上するのはおかしいのではと考え、同年4月10日以降の本件物件の家賃を本件不動産所得に係る総収入金額に算入しなかったものである旨主張するが、請求人は、本件物件の平成14年1月1日から同年11月8日までの間の家賃を収受しているところ、売買契約成立日と本件不動産所得に係る収入金額の計算とは何ら関連がなく、同年4月15日以降の家賃を計上しなかったことに理由はないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ニ そうすると、本件譲渡を自己の居住用不動産の譲渡と仮装し、本件特例を適用することに整合性を持たせる目的で一連の行為を行ったものと認められ、上記イないしハのとおり、請求人は、本件確定申告に当たり、本件譲渡所得及び本件不動産所得に係る課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき本件譲渡所得及び本件不動産所得を過少に記載した本件確定申告書を提出したとみるのが相当である。
ホ なお、請求人は、本件譲渡所得に関する相談の際に、Eが本件相談担当者に対し、請求人及び請求人の親族が本件物件に居住していなかったこと及び本件特例の適用のために請求人及びEの住民登録を本件住所に異動したことを説明しているから、通則法第68条第1項に規定する「隠ぺい又は仮装」の事実はこの時点でなくなったものである旨主張する。
 しかしながら、重加算税については、「隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出した」という通則法第68条第1項所定の課税要件を充足することにより成立するのであり、たとえ、納税申告書の提出等の時点において、納税者が課税庁等に対し、その隠ぺい又は仮装の事実を知らせていたとしても、重加算税の課税要件に何ら影響を与えるものではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ また、請求人は、本件相談担当者からEに対し「本件特例が認められるかどうか分からないが、住民票の除票等のほか戸籍の附票を添付し、D税務署に出してみれば」との説明があったことから、認められない場合は、早期に税務署から連絡があると思い申告したものであるにもかかわらず、原処分庁が早期の調査を行わなかったことは不当であり、それを原因として、重加算税、多額の延滞税が発生する等の不利益が請求人に生じた旨主張する。
 しかしながら、本件相談担当者が、本件譲渡所得については本件特例の適用ができないと判断してその旨説明したことは、上記(1)のヘ、同チの(イ)及び同ヌからも明らかであり、当該判断をした上で同担当者が「本件特例を適用して申告書を出してみれば」という指導をしたとは考えられず、また、確定申告書の内容に係る調査の実施時期について法令の規定はなく、課税庁の裁量にゆだねられているから、調査及び修正申告の時期により延滞税が多額になったとしても不当となるものではなく、さらに、調査の時期は重加算税の賦課に関する課税要件ではないから、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
ト 以上のとおり、原処分庁が通則法第68条第1項の規定に基づき行った原処分は適法である。

(4) なお、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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