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(平19.2.26、裁決事例集No.73 226頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が美容業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)に対して行った平成14年分ないし平成16年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税に係る推計による各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)並びに平成14年分及び平成15年分の過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)について、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。
 争点は、次の5点である。
争点1 調査手続が違法か否か。
争点2 推計の方法による課税の必要性が認められるか否か。
争点3 推計の方法による課税に合理性が認められるか否か。
争点4 請求人の実額主張が認められるか否か。
争点5 寡婦控除が認められるか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成18年8月18日)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。

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2 主張及び判断

(1) 争点1(調査手続が違法か否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)が行った調査手続は、法令の規定に従って適法に行われている。  本件調査は、次のことから、違法である。
(イ) 調査日時の事前通知
 納税者に調査日時を事前に通知しなければならないことを定めた法令の規定はない。
(イ) 調査日時の事前通知
 事前通知がなされていない。
(ロ) 調査理由の開示
 納税者に個別的、具体的な調査理由の開示をしなければならないことを定めた法令の規定はない。
(ロ) 調査理由の開示
 調査担当職員は、個別的、具体的な調査理由を開示しなかった。
(ハ) 第三者の立会い
 調査に関係のない第三者の立会いを認めなければならないことを定めた法令の規定はない。
(ハ) 第三者の立会い
 請求人が依頼した第三者の立会いについて、調査担当職員は、守秘義務が守れないとの理由で同席を拒み排除を求めたが、同席拒否を正当とする法的根拠がないから、調査担当職員は、第三者の立会いの排除を強要できない。請求人は、本件調査を拒否したわけではなく、調査担当職員が勝手に打ち切っただけで、事実誤認であり、請求人に責任はない。
(ニ) 取引先に対する調査に当たっての同意
 取引先に対する調査に当たり、納税者の同意を得なければならないことを定めた法令の規定はない。
(ニ) 取引先に対する調査に当たっての同意
 調査担当職員は、請求人の同意を得ないで一方的に取引先に対する調査を行った。

ロ 判断
(イ) 質問検査の範囲等
 税務調査における質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との比較衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択にゆだねられており、この場合、日時場所の事前通知、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知並びに取引先に対する調査に当たっての納税者の同意などは、質問検査を行う上で法律上一定の要件とされているものではないと解されている。
(ロ) 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 調査担当職員は、平成17年8月30日午後、請求人の自宅に臨場し、請求人に身分証明書を呈示した上、税務調査に臨場した旨を告げた。その際、請求人から本日は都合が悪いとの申出があり、所得税の調査について、同年9月13日に日時の変更を行っている。
B 調査担当職員は、請求人から調査理由の開示を求められたことに対し、「所得金額の確認である」と説明している。
C 調査担当職員は、請求人から調査に関係のない第三者の立会いを求められたことに対し、請求人及び取引先の営業に関する事項等の秘密を守ることなどへの配慮から、法律上守秘義務を負っていると確認できない第三者の同席を認めなかった。
D 調査担当職員は、請求人からの申出により上記Aの日時を変更した平成17年9月20日及び同年10月18日に事業所や自宅に臨場し、調査に必要な帳簿書類の提示を求めたが、請求人は、第三者の立会いを要求するのみで、これに応じなかった。このことから、調査担当職員は、取引先に対する調査を実施した。
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)の各事実からすると、請求人が違法であると主張する事前通知、調査理由の開示、第三者の同席拒否及び取引先に対する調査にかかわる調査担当職員の判断は、いずれも社会通念上相当な、合理的なものであると認められる。
(ニ) したがって、本件調査は適法と認められ、請求人の主張には理由がない。

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(2) 争点2(推計の方法による課税の必要性が認められるか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 本件調査の際、調査担当職員が請求人に対し、再三にわたり所得金額の計算に必要な帳簿書類を提示して調査に応じるよう求めたにもかかわらず、請求人は、第三者の立会いを理由に、これに応じなかった。
 このような状況の下では、請求人の各年分の事業所得の金額を取引実額に基づく損益計算の方法により算定することができないため、やむを得ず、推計の方法で計算した。
 各年分の事業所得の金額は、各年分の確定申告書に記載したとおりであり、原処分庁は、各年分の事業所得の金額を取引実額に基づく損益計算の方法による実額で計算すべきであるにもかかわらず、取引先に対する調査により把握した結果を基に推計の方法により課税したのは違法である。
 また、請求人が帳簿書類を提示できなかったのは、調査担当職員が請求人の依頼した第三者の立会いを認めなかったからである。

ロ 判断
(イ) 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、調査担当職員は、平成17年9月20日、同年10月18日、同年11月29日、平成18年1月24日及び同月31日に請求人の事業所又は自宅に臨場し、その都度、請求人に対して、実額計算に必要な帳簿書類等の提示を求めたが、請求人は、上記(1)のロの(ロ)のDのとおり、調査を拒否する正当な理由となり得ない第三者の立会いを要求し、これに応じなかったことが認められる。
(ロ) 上記(イ)の事実からすると、調査担当職員において、請求人の事業所得の金額を実額で算定することが極めて困難であったと認められる。
 したがって、原処分庁が推計の方法により本件各更正処分を行ったことは適法であり、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(推計の方法による課税に合理性が認められるか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 推計の方法による所得金額の算定には、次のとおり合理性がある。  推計の方法による所得金額の算定には、次のとおり合理性を欠いている。
(イ) 各年分の仕入金額
 各年分の仕入金額は、本件調査において、請求人の取引先に対する調査により把握した各年分の取引金額から材料以外の金額を除いて算定したものであり、別表2の「原処分庁主張額」欄の合計額のとおり、平成14年分が○○○○円、平成15年分が○○○○円、平成16年分が○○○○円である。
(イ) 各年分の仕入金額
 原処分庁は、各年分の取引総額から仕入れに該当しないものを除いて仕入相当額を算定しているが、その仕入相当額は、請求人が実際に証拠資料を基に計算した金額と異なる。
(ロ) 各年分の売上原価の額
 各年分の売上原価の額は、請求人から各年分の期首及び期末の棚卸高に係る資料の提示がなく、また、請求人の各年分の事業内容・規模等に著しい変動が認められないことから、期首及び期末の棚卸高を同額として算定したものであり、上記(イ)の仕入金額と同額である。
 
(ハ) 各年分の総収入金額
 各年分の総収入金額は、上記(ロ)の各年分の売上原価の額を、請求人と業種、業態及び事業規模が類似すると認められる青色申告者(以下「本件同業者」という。)の各年分の売上原価率の平均値(その算定過程は別表3−1の「売上原価率」欄のとおりであり、平成14年分は○○%、平成15年分は○○%、平成16年分は○○%である。以下「平均売上原価率」という。)で除して算定したもので、別表5の「原処分庁主張額」欄の総収入金額のとおりである。
(ロ) 各年分の総収入金額
 各年分の総収入金額は、各年分の確定申告書に記載したとおりである。
(ニ) 各年分の事業所得の金額
 各年分の事業所得の金額は、上記(ハ)の各年分の総収入金額に、本件同業者の各年分の総収入金額に対する青色申告特典控除前の所得金額の割合の平均値(その算定過程は別表3−1の「特前所得率」欄のとおりであり、平成14年分は○○%、平成15年分は○○%、平成16年分は○○%である。以下「平均特前所得率」という。)を乗じて算定した金額で、別表5の「原処分庁主張額」欄の事業所得の金額のとおり、平成14年分が○○○○円、平成15年分が○○○○円、平成16年分が○○○○円である。
(ハ) 各年分の事業所得の金額
 各年分の事業所得の金額は、各年分の確定申告書に記載したとおり、平成14年分が○○○○円、平成15年分が○○○○円、平成16年分が○○○○円である。

ロ 判断
(イ) 推計方法の合理性
A 所得税の課税標準である所得金額の認定は、帳簿書類等に基づいて行うのが原則であるが、納税者が、帳簿書類の備付けをしておらず、あるいは税務調査に際してこれらの提示を拒むなどして、その調査ができない場合等において、税務署長が課税を放棄することは、正しい申告をしている誠実な納税者との比較において、租税負担の公平の見地から許されるべきではないなどの見地から、一定の基礎数値に基づいて推計の方法により課税することが許容されているということから考察すれば、推計の方法として要求される合理性の程度については、実際の所得に一致する必要がなく、当該事案の具体的な状況の下において、税務署長が入手し得る推計の基礎事実及び資料等を前提として、一応の合理性をもって足りると解するのが相当である。
B 原処分庁は、上記イのとおり、取引先の調査から把握し得た各年分の仕入金額を基礎として、各年分の売上原価の額を算定し、その額を各年分の平均売上原価率で除して各年分の総収入金額を算定し、その各年分の総収入金額に各年分の平均特前所得率を乗ずるという推計の方法により各年分の事業所得の金額を算定しているところ、業種、業態及び規模等において類似性がある同業者にあっては、特段の事情のない限り、経験則上、同程度の売上原価からは同程度の収入が得られ、また、同程度の収入からは同程度の所得が得られるものであり、そして、同業者間に通常存する程度の営業条件の差異については、各同業者の比率からその平均値を算定する過程において捨象されるものと認められることから、原処分庁が採用した上記の推計方法は、本件同業者に類似性が認められ、かつ、その基礎数値等が正確なものである限り、一応の合理性を有するものと認めるのが相当である。
(ロ) 本件同業者の類似性並びに平均売上原価率及び平均特前所得率の算定方法の合理性
A 原処分関係資料によれば、原処分庁は、各年分においてJ税務署管内に事業所を有して美容業を営む者で、1青色申告書により所得税の確定申告書を提出していること、2兼業していないこと、3年間を通じて事業を営んでいること、4売上原価の額が請求人の0.5倍以上2倍以内であること、5対象年分の所得税について不服申立て又は訴訟が係属中でないこと、6立地条件が類似する者であること、のすべてに該当する者をもって請求人の同業者としたこと、これに基づき機械的に選定された者が、別表3−1のとおり、平成14年分はAないしFの6名、平成15年分及び平成16年分はAないしEの5名であったことが認められる。
B 上記Aによれば、業種及び業態の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性等からして、原処分庁が採用した選定基準は、請求人との類似性を判別する要件として一応の合理性を有するもので、また、その選定過程も適切なものであり、そして、平均売上原価率及び平均特前所得率の算定に使用した資料は、いずれも帳簿書類の整っている青色申告者の決算報告書で、その内容についても納税者と税務署長との間で争いのないものであるからその信頼性ないし正確性は高いものであり、さらに、5名ないし6名という件数も、一応、各同業者の個別性を平均化するに足りるものということができるため、本件同業者と請求人との間には類似性があり、また、原処分庁が主張する平均売上原価率及び平均特前所得率の算定方法には合理性があると認めるのが相当である。
 なお、特段の事情の存在については、請求人からの主張はなく、当審判所の調査によっても認められないところである。
(ハ) 各年分の仕入金額及び売上原価の額について
 原処分庁は、各年分の仕入金額及び売上原価の額について、上記イの(イ)及び(ロ)のとおり主張しているところ、当審判所においても、その方法自体は相当であると認められる。
 ただし、仕入金額の集計に誤りがあり、平成14年分が○○○○円、平成15年分が○○○○円、それぞれ過大となっているため、これを訂正した別表2の「審判所認定額」欄の合計額(平成14年分が○○○○円、平成15年分が○○○○円、平成16年分が○○○○円)をもって、各年分の仕入金額及び売上原価の額とするのが相当である。
(ニ) 各年分の事業所得の金額
A 各年分の総収入金額
(A) 原処分庁は、平均売上原価率について、上記イの(ハ)のとおり主張しているところ、当審判所の調査においても、その計算は相当と認められる。
 したがって、平均売上原価率は、別表3−2の「売上原価率」欄の各平均値のとおり、平成14年分が○○%、平成15年分が○○%、平成16年分が○○%となる。
 そして、上記(ハ)の各年分の売上原価の額を上記の各年分の平均売上原価率で除するという方法により各年分の総収入金額を算定すると、平成14年分は○○○○円、平成15年分は○○○○円、平成16年分は○○○○円となる。
(B) なお、この点に関し、請求人は、各年分の総収入金額は確定申告書に記載のとおりである旨主張するが、請求人の確定申告書には総収入金額が記載されていないため、請求人の主張は失当である。
B 各年分の事業所得の金額
 原処分庁は、平均特前所得率について、上記イの(ニ)のとおり主張しているところ、当審判所の調査によれば、平成14年分及び平成15年分は相当と認められるが、平成16年分については、計算誤りにより0.04%低く算定されていることが認められる。そこで、当審判所において、これを訂正した別表3−2の「特前所得率」欄の各平均値(平成14年分が○○%、平成15年分が○○%、平成16年分が○○%。以下、「改定平均特前所得率」という。)をもって、各年分の平均特前所得率とするのが相当である。
 そして、上記Aの(A)の各年分の総収入金額に改定平均特前所得率を乗ずるという方法により各年分の事業所得の金額を算定すると、別表5の「審判所認定額」欄のとおり、平成14年分は○○○○円、平成15年分は○○○○円、平成16年分は○○○○円となる。

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(4) 争点4(請求人の実額主張が認められるか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 各年分の事業所得の金額を請求人の帳簿書類に基づき実額で計算することができないから、やむを得ず推計により事業所得の金額を算定したものである。 各年分の事業所得の金額を実額計算の方法により算定すべきである。
(イ) 各年分の総収入金額は、美容(技術)売上と店販品売上に区分して売上計上し、これらを合わせた金額で、別表4のとおり、平成14年分が○○○○円、平成15年分が○○○○円、平成16年分が○○○○円である。
(ロ) 美容(技術)売上に係る売上原価率は、平成14年分が○○%、平成15年分が○○%、平成16年分が○○%であり、自家消費及び期首・期末棚卸高を計上した場合の総収入金額に係る売上原価率は、平成14年分が○○%、平成15年分が○○%、平成16年分が○○%である。
(ハ) 各年分の必要経費は、それぞれ別表4の30欄の金額である。また、取引額のうち仕入金額に計上したもの以外は、消耗品費及び雑費に計上している。

ロ 判断
 請求人は、上記イの主張を根拠づける資料として、当審判所に対し、B4版3枚の各年分の「損益計算書」と題する書面を提出したのみであり、その基となった帳簿書類等を全く提示しなかった。
 したがって、請求人の各年分の事業所得の金額を実額により計算することができないことは明らかであるから、請求人の主張を採用することはできない。

(5) 争点5(寡婦控除が認められるか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 所得税法第2条《定義》第1項第30号に規定する寡婦とは、夫と死別し若しくは離婚した後婚姻をしていないこと又は夫の生死の明らかでない者等である旨規定しており、ここでいう「夫」とは、民法で規定する配偶者を指すものと解されている。請求人は、夫と死別又は離婚等の事実がないことから、寡婦に該当しない。  請求人は、戸籍法上、婚姻はしていないが、事実婚(以下「事実婚」という。)をして離婚もしている。所得税法第2条が規定する寡婦の定義には戸籍法のことは書かれていない。
 母子法、生活保護法には事実婚を認める規定もあるから、各年分の寡婦控除は認められるべきである。

ロ 判断
(イ) 原処分関係資料及び当審判所の調査によると、次の事実が認められる。
A 請求人は、各年分の確定申告書の「所得から差し引かれる金額」の「老年者、寡婦、寡夫控除」欄に、350,000円とそれぞれ記載している。
B 戸籍に記録されている事項の全部を証明した書面及び住民票によれば、請求人には、戸籍法上の夫の記載がなく、また、婚姻及び離婚の届出があったとの記載はない。
(ロ) 寡婦控除における夫について
 所得税法(平成16年法律第14号による改正前のもの。以下同じ。)第81条《寡婦(寡夫)控除》第1項は、居住者が寡婦又は寡夫である場合には、その者のその年分の総所得金額等から27万円を控除する旨を、同法第2条第1項第31号は、同法にいう「寡婦」とは、夫と死別し若しくは夫と離婚した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、扶養親族その他その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有するもの(同号イ)、及び同号イに掲げる者のほか、夫と死別した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、合計所得金額が500万円以下であるもの(同号ロ)で、老年者に該当しないものをいう旨規定し、また、租税特別措置法第41条の17《寡婦控除の特例》(平成16年法律第14号による改正前のもの。)第1項は、居住者が、所得税法第2条第1項第31号イに掲げる者(同項第34号に規定する扶養親族である子を有するものに限る。)に該当し、かつ、同項第30号の合計所得金額が500万円以下であって、同号に規定する老年者に該当しない場合には、同法第81条第2項に規定する寡婦控除の額は、同条第1項の規定にかかわらず、同項に規定する金額に8万円を加算した額とする旨規定している。
 このように、「夫と死別し若しくは夫と離婚した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者」、あるいは「夫と死別した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者」に該当することが「寡婦」たる要件の一つとされているところ、ここにいう「夫」の意義については、所得税法及び租税特別措置法において格別の定義規定が設けられていないことからすれば、身分法の基本法たる民法が定める婚姻関係(以下「法律婚」という。)にある男子を意味するものと解するのが相当であり、この点に関する請求人の主張は採用できない。
 なお、請求人は、母子法及び生活保護法には事実婚を認める規定もあるから、請求人の各年分の寡婦控除は認められるべきである旨主張し、母子及び寡婦福祉法第6条《定義》第1項及び生活保護法による保護の実施要領には、事実婚の配偶者を法律婚の配偶者と同様に取り扱うものとする旨が定められているが、これらは、事実婚と法律婚とを同様に取り扱うこととする特別の定めであるから、それらの定めが存在することをもって、請求人が主張するように解することはできない。
(ハ) 寡婦控除の適用の有無
 上記(イ)のBの事実によると、請求人が、戸籍上、婚姻をしていた事実はなく、法律婚にあったことはなかったと認められるため、その余の要件について判断するまでもなく、上記(ロ)により、請求人は寡婦に該当しないことになるため、寡婦控除を適用することはできない。
(ニ) したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。

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(6) 本件各更正処分について

イ 各年分の事業所得の金額
 各年分の事業所得の金額は、上記(3)のロの(ニ)のBのとおり、平成14年分が○○○○円、平成15年分が○○○○円、平成16年分が○○○○円である。
ロ 各年分の所得から差し引かれる金額
 所得から差し引かれる金額については、当審判所の調査によっても、原処分庁が算定した金額(平成14年分は○○○○円、平成15年分は○○○○円、平成16年分は○○○○円)が相当であると認められる。
ハ 各年分の課税される所得金額
 上記イの事業所得の金額から上記ロの所得から差し引かれる金額を控除した金額に国税通則法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)第118条《国税の課税標準の端数計算等》第1項の規定(千円未満の端数の切捨て)を適用して算定すると、平成14年分が○○○○円、平成15年分が○○○○円、平成16年分が○○○○円となる。
ニ 各年分の納付すべき税額
 上記ハの各年分の課税される所得金額に基づき、各年分の納付すべき税額を算定すると、平成14年分は○○○○円、平成15年分は○○○○円、平成16年分は○○○○円となり、別表1の「更正処分等」欄の納付すべき税額の金額との比較から明らかなように、これらの金額は、いずれも本件各更正処分の納付すべき税額と同額であるか又は上回ることから、本件各更正処分は適法である。

(7) 本件各賦課決定処分について

 上記(6)のとおり、本件各更正処分は適法であり、かつ、同処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないため、同条第1項の規定に基づきなされた本件各賦課決定処分は適法である。

(8) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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