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(平19.6.19、裁決事例集No.73 278頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、同族会社の役員で不動産貸付業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、当該同族会社に貸し付けている土地の賃料に係る不動産所得について所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、請求人と当該同族会社との間で設定された当該土地の賃料は請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるから、原処分庁が算定した適正賃料によるべきであるとして、所得税法第157条《同族会社等の行為又は計算の否認等》第1項の規定を適用して所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことから、請求人が上記各処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

 別表1記載のとおり

(3) 関係法令

 所得税法第157条第1項は、税務署長は、同族会社(法人税法第2条《定義》第10号に規定する会社をいう。)等の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主若しくは社員である居住者又はこれと特殊な関係にある居住者(以下「株主等」という。)の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その株主等の所得金額及び納付すべき税額を計算することができる旨規定している。

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(4) 基礎事実(当事者間に争いがなく、当審判所の調査によっても認められる事実)

イ G社と請求人との関係等
(イ) G社(本店所在地:P市q町r−○○番地)は、不動産の管理等を目的として、請求人及びその親族の出資により設立された同族会社である。
(ロ) 請求人は、G社が設立された昭和47年8月○日から現在に至るまで同社の代表取締役を務めている。
ロ 本件各年分における請求人とG社との土地賃貸借
(イ) 請求人は、本件各年分において、請求人が所有するP市q町r−○○番、○○番、○○番、○○番、○○番、○○番、○○番及び○○番の土地の合計7,994.69平方メートルのうち7,179.87平方メートル(2,171.91坪)の土地(以下「本件各土地」という。)を、G社に月額2,400,000円(1坪当たり1,105円であり、以下「本件各土地月額賃料」という。)で賃貸している。
 G社は、平成8年10月14日、保証金200,000,000円(以下「本件各土地賃貸保証金」という。)を請求人に支払った。
(ロ) 上記(イ)の本件各土地の賃貸は、請求人とG社との間で締結された平成8年10月14日付の本件各土地に係る土地賃貸借契約(以下「本件各土地賃貸契約」という。)に基づくものであり、当該契約に係る契約書には要旨次のとおり記載されている。
A 請求人は、本件各土地をG社の営業活動に必要な敷地として使用させる目的でG社に賃貸する。
B 賃貸条件
(A) 契約期間は、平成8年10月21日から平成38年10月20日までの満30年間とする。
(B) 本件各土地月額賃料は、月額2,400,000円とする。
(C) 本件各土地賃貸保証金は、200,000,000円とする。
ハ 本件各土地の賃料の申告
 請求人は、本件各土地の年間賃料28,800,000円(以下「本件各土地賃料」という。)を、本件各年分に係る不動産所得の総収入金額(別表1の「修正申告」欄の「不動産所得の金額」欄の「総収入金額」欄記載の額)に、それぞれ含めて申告している。
ニ 本件各年分におけるG社とH社との土地賃貸借
(イ) G社は、本件各年分において、G社が所有するP市q町r−s番の土地826.47平方メートル(250.00坪であり、以下「本件s番土地」という。)及びP市q町r−t番の土地826.47平方メートル(250.00坪であり、以下、本件s番土地と併せて「本件s番等土地」という。)並びに請求人から賃借している本件各土地の全部7,179.87平方メートルの合計8,832.81平方メートル(2,671.91坪であり、以下、これらの土地を併せて「本件転貸等各土地」という。)を、H社(本店所在地:U市v町○○番地)に月額5,176,629円で賃貸している。
(ロ) 上記(イ)の本件転貸等各土地の賃貸は、G社とH社との間で締結された平成8年10月14日付の本件転貸等各土地に係る土地賃貸借契約(以下「本件転貸等契約」という。)並びに平成12年10月30日付及び平成15年6月24日付の覚書に基づくものであり、当該契約に係る契約書及び覚書には要旨次のとおり記載されている。
A 本件転貸等契約に係る契約書
(A) G社は、本件転貸等各土地を、H社の営業のための商業ビル所有の目的、H社の営業活動及びそれに付帯する業務に必要な敷地として使用させる目的で、H社に賃貸する。
 また、H社が建設する建物その他の工作物の位置、その他の土地の使用方法はH社において定めるものとする。
(B) 賃貸条件
a 賃貸借期間は、平成8年10月21日から平成38年10月20日までの満30年間とする。
b 本件転貸等各土地に係る賃料は、月額5,076,629円(1坪当たり月額1,900円)とし、開店から満3年間は増減せず、第1回目の改定は4年目とし、以後3年経過ごとに双方が協議し決定する。
c 保証金は、400,000,000円(以下「本件転貸等保証金」という。)とし、賃貸借契約終了時の土地の引渡しと引換えにG社はH社に速やかに全額一括して返還する。なお、契約期間中は無利息とする。
d 本件転貸等各土地の保有に係る公租公課等の費用はG社が負担し、本件転貸等土地を使用することによって生じる費用はH社の負担とする。
B 本件転貸等契約に係る覚書
(A) 平成12年10月30日付の覚書
 本件転貸等契約に基づく月額転貸等賃料(5,076,629円)を、月額5,176,629円に改定し(1坪当たり月額1,937円であり、以下、改定後の月額賃料を「本件月額転貸等賃料」という。)、平成12年9月25日から適用する。
(B) 平成15年6月24日付の覚書
 本件月額転貸等賃料(5,176,629円)は、次の協議まで据え置く。
ホ 本件各土地をG社に賃貸することとなった経緯等
(イ) W県に本店を有していたG社の前身であるgは、大正7年にP市q町r地区に創業し、大正8年に請求人の養父であるJが経営に参加してからは、隣接地を買収するなどして徐々に事業規模を拡大し、大規模な工場を有するに至った。
 その後、Jの他界(昭和41年)に伴って、請求人と請求人の兄が工場の跡地を相続し、ボウリング場を建設するなどした。
(ロ) G社は、昭和50年、K店として郊外型ショッピングセンターの営業を計画していたH社に対し、改装整備されたボウリング場の建物を賃貸することとなった。
 これに伴い、G社は、当該建物の敷地のうち請求人が所有する土地を又貸し方式によりH社に賃貸する業務を行うこととなった。
(ハ) 平成8年10月14日、H社は、K店をL店としてリニューアルオープンするため、K店の敷地に係る土地賃貸借契約を解約し、新たにG社との間で本件転貸等契約を締結し、G社は、請求人との間で本件各土地賃貸契約を締結した(以下、本件各土地賃貸契約と本件転貸等契約を併せて「本件両契約」という。)。

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2 争点

(1) 本件各更正処分の適法性

イ 所得税法の課税標準に係る規定振りからみて、原処分庁が所得税法第157条第1項を適用して請求人の不動産収入(金額)を認定できるか否か(争点1−1)
ロ 原処分庁が所得税法第157条第1項の「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められる場合の「不当性」について、客観的・具体的判断基準を示さないまま同規定を適用したことは適法か否か(争点1−2)
ハ 原処分庁が算定した適正賃料は合理性があるか否か(争点1−3)
ニ 本件各土地賃料は、同族会社の行為又は計算として、経済的に不合理、不自然といえるか否か。また、本件各土地賃料は、請求人の所得税の負担を不当に減少させるか否か(争点1−4)
ホ 請求人に所得税法第157条第1項を適用した場合に、G社に対して法人税を減額する更正処分を行う必要があるか否か(争点1−5)

(2) 本件各賦課決定処分の適法性

 所得税法第157条第1項を適用する場合において、過少申告加算税を課すことができるか否か(争点2)

3 争点に対する当事者の主張

(1) 本件各更正処分の適法性

イ 争点1−1(所得税法の課税標準に係る規定振りからみて、原処分庁が所得税法第157条第1項を適用して請求人の不動産収入(金額)を認定できるか否か)について
(イ) 原処分庁
 所得税法第157条第1項は、税負担の公平を維持するため、株主等の所得税の負担を不当に減少させるような行為や計算が行われた場合にそれを正常な行為や計算に引き直して更正又は決定を行うものであり、法律上(契約上)収入すべき権利(又は収入すべき事実)や担税力の基礎となるべき資産の増加をとらえて行うものではない。そして、本件各更正処分は、所得税法第157条第1項に基づき、請求人のG社への本件各土地の賃貸について、特殊関係のない当事者間で通常行われると認められる取引行為に引き直して、その引き直した取引行為に基づき請求人の本件各年分の所得金額及び納付すべき税額を計算して行ったものであり、何ら適用誤りではない。
(ロ) 請求人
 我が国の所得税法は、居住者における課税の範囲を第1編第3章第7条《課税所得の範囲》第1項第1号において「すべての所得」と規定し、抽象的なその「所得」を具体的な課税標準として明確化するため、1非課税所得(第3章第9条《非課税所得》以下)、2課税標準、所得の種類及び各種所得の金額の計算(第2編第2章以下)等の規定を設けている。
 そして、所得税法第157条第1項は、税務署長にこれらの規定振りを超えて、新たな収入又は所得を認定(創出)することまで認めたものではない。
 請求人には、1権利確定主義の観点からみれば、法律上(契約上)収入すべき権利(又は収入とすべき事実)が存在しないにもかかわらず、また、2所得の認定の原則である担税力の基礎となるべき資産の増加も認められないにもかかわらず、原処分庁が所得税法第157条第1項を適用して、請求人の本件各土地賃料と比準同業者の平均賃料との差額を不動産収入(所得)と認定したことは、税法の根本原理を覆すこととなり、所得税法の規定振りからみても、誤りである。
ロ 争点1−2(原処分庁が所得税法第157条第1項の「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められる場合の「不当性」について、客観的・具体的判断基準を示さないまま同規定を適用したことは適法か否か)について
(イ) 原処分庁
 所得税法第157条第1項は、同族会社が少数の株主等によって支配されているため、当該会社又はその関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいことにかんがみ、税負担の公平を維持するため、そのような行為や計算が行われた場合にそれを正常な行為や計算に引き直して更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものである。
 そして、所得税法第157条第1項は「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがある」ことを要件とするものであるところ、当該要件に該当するか否かは、専ら経済的、実質的見地において、当該行為又は計算が経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるかどうかを基準として判断されるべきものであり、その不当性についての客観的・具体的基準が示されている必要はなく、個々に判断するものであるから、原処分庁が「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」と判断して本件各更正処分を行ったことは何ら誤りではない。
 また、原処分庁は、所得税法第157条第1項に従い、本件各更正処分を行ったものであるから、租税法律主義に反するものではない。
(ロ) 請求人
 所得税法第157条第1項は、一般的租税回避禁止規定であるとともに、税額確定の例外規定であり、また、同規定を適用する場合の納税者の予測可能性の観点からも、課税要件である不当性についての客観的・具体的基準を示さないまま同規定を根拠として課税することは誤りであり、租税法律主義にも反するものである。
ハ 争点1−3(原処分庁が算定した適正賃料は合理性があるか否か)について
(イ) 原処分庁
 比準同業者の平均賃貸料を算定するに当たっては、比準同業者の抽出が合理的であれば、比準同業者間に通常存在する程度の個別的な諸条件の差異は平均化され得るものであり、納税者の個別具体的な事情のいかんは当該平均値による算定自体を全く不合理とする程度に顕著なものでない限りしんしゃくすることを要しないというべきである。請求人には、当該算定を全く不合理とする程度に顕著な個別具体的な事情があるとは認められず、また、原処分庁が採用した比準同業者は、本件各土地の近隣において請求人と類似の条件で土地を貸し付けていると認められる者であり、その抽出は合理的に行われているから、原処分庁が行った適正賃料の算定に合理性を欠いた点はない。
(ロ) 請求人
 原処分庁は比準同業者6件を用いて適正賃料を算定したとするが、当該比準同業者の賃貸土地に係る1本件各土地との距離の程度、2預り保証金の多寡、3その他類似の条件及び4抽出過程等について、守秘義務に反しない範囲でその合理性について具体的に主張・立証すべきであるにもかかわらず、それがなされないのは、請求人の反論の機会を奪うものであり、その合理性に疑いを免れ得ないものである。
 特に、保証金と賃料とは特別の関連があるのが通例であり、請求人は、G社から本件各土地賃料28,800,000円の約7倍に相当する200,000,000円もの本件各土地賃貸保証金を預かっており、このことは、比準同業者の抽出において、しんしゃくすべき顕著な個別具体的な事情に該当する。
ニ 争点1−4(本件各土地賃料は、同族会社の行為又は計算として、経済的に不合理、不自然といえるか否か。また、本件各土地賃料は、請求人の所得税の負担を不当に減少させるか否か)について
(イ) 原処分庁
A 本件各土地賃料は、本件各土地の賃貸人と賃借人との関係が同族会社と株主等という特殊な関係にない場合に通常設定されるであると認められる適正賃料と比較すると、別表2のとおり、著しく低額であると認められる。
 このことは、G社と請求人とが同族会社とその株主かつ代表取締役という関係にあるがゆえに可能な行為又は計算の結果であり、このような特殊な関係にない当事者間で行われる通常の取引を基準とした場合、本件各土地賃料は、著しく低額で経済的合理性を欠く不自然・不合理なものといわざるを得ない。
B 「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められるか否かは、同族会社の行為又は計算に基づいて計算された所得税額と通常あるべき行為又は計算に引き直して計算された所得税額とのかい離によって判断すべきものであり、経済的合理性を欠いた行為又は計算の結果として所得税の負担が減少していれば十分である。
 請求人はG社から受領する賃料を著しく低額にすることにより、別表3の「不当に減少した納付すべき税額」欄記載のとおり、平成14年分が4,103,600円、平成15年分が4,359,000円、平成16年分が4,358,900円と、本件各年分の所得税の負担をそれぞれ不当に減少させていたと認められる。
(ロ) 請求人
A 元来、個人は経済的合理性のみで行動するものではなく、自己の資産運用・保全に係る思惑、その他家庭の事情等を考慮して行動するものであり、同族会社に対する低額貸付けをもって直ちに不合理・不自然な行為と断定することは、法の適用・解釈を誤っている。
 請求人は、gの跡地を賃貸する話があった時、伝統あるgの名を残したいとの直接的動機があり、1不動産の賃貸であれば安定的利益が継続的に確保できること、2法人設立の法的手続もすべて適法に行うことができること、3法人成による節税効果も期待できることもあって、本件のような転貸方式を採ったものであり、gの継承者としてだけではなく、通常の経営者、経済人として極めて自然かつ合理的な決断によるものである。
 また、所得税法第157条第1項を適用するか否かの判断で中核的概念となる「不当性」の具体的内容については、平成9年4月25日の東京地方裁判所判決(以下「東京地裁判決」という。)では、「通常の経済活動としては不合理・不自然で、結果として株主等の所得税額が不当に減少すれば、特段の事情がない限り、それ自体が不当と評価される」とし、特段の事情の例を「株主等の経済的利益の不発生又は減少により同族会社の経済的利益を得させることが社会通念上相当と解される場合には不当と評価するまでもない」と判示している。
 本件は上記のとおり、社会通念上相当と解される特段の事情があったのであり、原処分は、これについて調査・検討をすることなく又は看過したまま行われたものである。
B 仮に原処分庁が算定した適正賃料が正しいとしても、本件各更正処分の更正通知書別表の「納付すべき税額」(予定納税額を差し引いた後の金額で、平成14年分及び平成15年分は○38欄、平成16年分は○37欄)の更正前と更正後の比較において、申告割合は平成14年分が○○%、平成15年分が○○%及び平成16年分が○○%(各年分ともに小数点第2位以下切捨て)であり、次の判決からみても、請求人の所得税の減少の程度は「不当」とまではいえない。
(A) 株主等が所有する不動産を同族会社が又貸しをしていたことについて所得税法第157条第1項の適用事例となった平成4年5月14日の福岡地方裁判所判決では、3年間の申告割合が、それぞれ17.8%、8.7%及び19.3%である。
(B) 東京地裁判決では、「所得税の減少の程度が軽微であった場合には不当と評価するまでもない」と判示している。
 なお、この事件は、減少させたとされる所得税の額も各年分9,000,000,000円にも達する事件である。
ホ 争点1−5(請求人に所得税法第157条第1項を適用した場合に、G社に対して法人税を減額する更正処分を行う必要があるか否か)について
(イ) 原処分庁
 所得税法第157条第1項は、同族会社は株主等によって支配されているため、当該会社又は株主等の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいことにかんがみ、税負担の公平を維持するため、そのような行為や計算が行われた場合にそれを正常な行為や計算に引き直して更正又は決定を行う権限を税務署長に認めるものである。したがって、飽くまで租税負担の公平を図るのが目的であって、租税負担を回避しようとした者に通常以上の税を負担させるといったような制裁的な目的はない。
 しかし、個人と法人とは適用される税法を異にし、それぞれ全く別個の課税主体として規定されていること、所得税法第157条第1項が「不当に減少させる結果」となるかどうかを問題としているのは、当該行為計算と直接関係のある株主等の所得税だけであると考えるのが同規定の文理上自然な解釈であることから、その適用に当たっては個人と法人を通じた総合的税負担の減少を考える必要はなく、所得税の課税主体(個人)を単位とした税負担の減少の結果を考えれば足りるものと解される。
 よって、所得税法第157条第1項の適用に当たり、G社の法人税を考慮する必要はない。
(ロ) 請求人
 請求人の予備的主張として、請求人に対して所得税法第157条第1項を適用して本件各更正処分を行うことが適法であるとしても、二重課税を回避する必要があり、本件各更正処分と同時にG社の法人税について減額する更正処分を行うべきである。
 所得税法第157条第1項が同族会社の減額更正を義務付けていないとしても、減額更正という調整を禁止したものではなく、既存の制度(国税通則法(以下「通則法」という。)第24条《更正》の規定による税務署長の更正義務)にゆだねられていると考えられ、このことは、平成18年度の税制改正において、同族会社等の行為又は計算の否認に係る関係税法の適用関係について明確化措置が講じられ、法人税法第132条《同族会社等の行為又は計算の否認》の改正で、所得税法第157条第1項を適用して所得税の増額計算が行われる場合には、税務署長に法人税における反射的な計算処理を行う権限があることが明定されたことからも明らかである。

(2) 本件各賦課決定処分の適法性

 争点2(所得税法第157条第1項を適用する場合において、過少申告加算税を課すことができるか否か)について
イ 原処分庁
 通則法第65条《過少申告加算税》第1項に規定する過少申告加算税は、申告納税方式の国税について、当初、期限内申告書の提出があり、その後、修正申告書の提出又は更正が行われ、当初申告が結果的に過少となったときに、正当な理由がある場合を除いて課されるものであるところ、本件各更正処分により増加した納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、いずれも正当な理由があるとは認められず、また、更正処分が所得税法第157条第1項を適用して行われたものであっても、過少申告加算税を賦課しない場合にはなり得ない。
 本件各年分の過少申告加算税の額は、通則法第65条第1項の規定に従いそれぞれ正しく計算されているので、本件各賦課決定処分は適法に行われている。
ロ 請求人
(イ) 本件各更正処分が適法であるとしても、上記(1)のイの(ロ)で述べたように、法律上(契約上)収入とすべき権利も存在せず、資産の増加(裏付け)もない請求人においては認識不可能な所得を、特別規定である所得税法第157条第1項を適用して認定し、納税者が申告納税制度にのっとって申告し確定した納税額を、いわば賦課課税方式によって「税務署長の認めるところにより」変更したものであるから、過少申告加算税の賦課決定は当然のことながらできない。
(ロ) 仮に、上記(イ)の主張が認められないとしても、請求人は、課税庁の公的見解である所得税基本通達の不動産収入の確定時期に従い、G社との契約に基づいて、同法人から受け取るべき不動産収入の金額を年額28,800,000円であると認識し、長年にわたって申告を続けてきたものであるから、本件各更正処分により原処分庁が認定した申告額を超える部分の不動産収入について、これを請求人が認識し、かつ、申告することを期待することは、法的解釈上も、実務上も不可能であるから、通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の「正当な理由」があるというべきである。

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4 判断

(1) 認定事実

イ 原処分庁による本件各土地に係る適正賃料の算定方法
(イ) 原処分関係書類及び当審判所の調査の結果によれば、原処分庁が算定した本件各土地に係る適正賃料(以下「原処分庁主張適正賃料」という。)は、本件各土地の近隣において、請求人と類似の条件で土地を貸し付けていると認められる者を比準同業者として、当該比準同業者の平均賃料を適用する方法により算定したものであり、本件各年分に係る原処分庁主張適正賃料は、別表2の「原処分庁主張適正賃料」欄記載のとおり、平成14年分が39,891,348円、平成15年分及び平成16年分がいずれも40,580,616円である。
(ロ) 原処分庁が採用した比準同業者(6件)は、1本件各土地の近隣にある店舗(以下「比準店舗」という。)の敷地を賃貸している青色申告者で、2比準店舗は当該敷地の賃借人が所有する建物で、簡易な建物や一時的なものではなく、3比準店舗の敷地の賃貸人と賃借人とは親族間又は同族会社とその株主等の関係にはなく、かつ、4比準店舗の敷地の1平方メートル当たりの固定資産税評価額が本件各土地の1平方メートル当たりの固定資産税評価額の0.5倍以上2倍以内であるという一定の基準によって抽出されたものであり、その抽出は機械的に行われたものであると認められる。
ロ 本件各土地に係る転貸料の算定
 本件月額転貸等賃料(5,176,629円)には、G社所有に係る本件s番等土地の賃貸借の対価も含まれているが(前記1の(4)のニ)、G社とH社の間で、本件各土地と本件s番等土地とを一団の土地として本件転貸等契約を締結し、賃料設定についても上記各土地を区分した事実はうかがえないこと(前記1の(4)のニ及び下記ホの(ハ))に照らし、本件転貸等各土地の所有区分にかかわらず、請求人所有に係る本件各土地と、G社所有に係る本件s番等土地の面積あん分により計算した上で、本件各土地の転貸料を算出することができるというべきである。そして、本件転貸等各土地に係る年間転貸賃料に本件各土地の本件転貸等各土地に対する面積割合を乗じると、別表4記載のとおり、本件各年分に係る本件各土地の転貸料は、50,494,989円(1円未満の端数切捨て)となる(以下「本件各土地転貸料」という。)。
ハ 本件各土地転貸料と本件各土地賃料との差額
 本件各土地転貸料と本件各土地賃料との差額(以下「本件転貸差額」という。)を算定すると、別表4記載のとおり、本件各年分に係る本件転貸差額は、21,694,989円となる。
ニ 本件各土地月額賃料及び本件各土地賃貸保証金の金額の算定根拠等
 請求人の答述によれば、本件各土地月額賃料及び本件各土地賃貸保証金の決定の経緯は、次のとおりであると認められる。
(イ) 本件各土地月額賃料の算定については、具体的な根拠はなく、G社がH社から受け取る月額賃料のおおむね半分程度を目安としたものである。
(ロ) 本件各土地賃貸契約の締結に当たり、本件各土地月額賃料については、特に変更すべき理由がないことから、それまでの月額2,400,000円を引き継いだものである。
(ハ) 本件各土地賃貸保証金については、1本件転貸等各土地のうち請求人が所有する本件各土地は養父母からの相続財産で請求人には取得に係る経済的負担がないこと及び2本件各土地月額賃料は本件月額転貸等賃料の半分程度を目安としていることから、本件転貸等保証金400,000,000円の半分である200,000,000円としたものである。
ホ 本件月額転貸等賃料及び本件転貸等保証金の金額の算定根拠等
 L店の建設計画に係るH社の社内稟議文書、請求人の原処分庁及び異議審理庁に対する申述並びに請求人及びH社の管財部の担当者の当審判所に対する答述によれば、本件月額転貸等賃料及び本件転貸等保証金の決定の経緯は、次のとおりであると認められる。
(イ) H社は、本件転貸等契約の締結に当たり、ある程度の保証金を支払ってでも、従前程度に賃料をできる限り抑えたいとの意向を持っていた。
(ロ) 本件転貸等契約に基づく1坪当たりの本件転貸等各土地に係る月額転貸等賃料(1,900円)は、本件転貸等契約を締結する直前のK店の敷地に係る土地賃貸借契約において定められた1坪当たりの月額転貸等賃料約1,899円を基に、H社が提示した1,900円で合意に至ったものである。
(ハ) 請求人、G社及びH社は、本件転貸等契約の締結に当たって、本件転貸等各土地である本件各土地と本件s番等土地を一団の土地として認識し交渉に当たっていた。
(ニ) 本件転貸等保証金については、1契約期間が30年と長期にわたること、2本件転貸等契約を機に、本件s番土地についてG社を買主、H社を売主、売買代金を150,000,000円とする売買契約が成立し、G社の当該購入代金の支払は本件転貸等保証金の支払と相殺したいとの意向があったことなどの事情から、特に具体的な算出根拠はなく、G社の申出に従って400,000,000円で合意に至ったものである。
ヘ G社の業務等
 本件両契約に係る各契約書、請求人の原処分庁及び異議審理庁への申述並びに請求人及びH社の担当者の当審判所に対する答述によれば、本件転貸等各土地に関するG社の業務等は、次のとおりであると認められる。
(イ) 本件両契約締結の時点では、請求人、G社及びH社において、G社が負うべき業務又は経済的負担(土地の保有に係る固定資産税及び都市計画税等の負担を除く。以下同じ。)はほとんど生じないと想定していた。
(ロ) 本件両契約締結後、本件各年分までの間に、実際にG社が負った業務又は経済的負担は、1覚書を取り交わすこと(前記1の(4)のニの(ロ)のB)、2H社がL店の敷地内に構築物を設置する際に承諾をすること(平成12年及び平成13年)、3L店の特別なイベント等を行う旨の連絡を受けること及び4本件各土地月額賃料を請求人に振り込む際の振込手数料を負担する程度であった。
ト G社の設立及び事業計画についての請求人の認識等
 G社の設立届及び法人税申告書並びに請求人の当審判所に対する答述によれば、G社の設立及び事業計画に係る請求人の認識等については、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、1Jの努力で守り育てられてきたgに愛着があり、何とかgという名称を将来に残したい、2P市の主要産業が衰退し、周囲の工場用地も所有者の手を離れていく中、Jから相続した土地については何としても手放すことなく守っていきたいとの思いを強く抱いていた。
(ロ) 請求人は、G社を設立した後は、当面、請求人個人所有の不動産の管理・運用を同法人の業務とすることで経営基盤を安定させ、いずれは、同法人所有の不動産の管理、売買、仲介及び不動産活用のコンサルティングなどにも業務を広げていくことを計画し、G社は、その後、本件s番等土地を購入するなどして、同法人所有の不動産の運用業務を行うに至った。
チ 本件転貸差額に対する請求人の認識等
 請求人の原処分庁及び異議審理庁に対する申述並びに当審判所に対する答述によれば、又貸し方式によって生じる本件転貸差額に対する請求人の認識等は、次のとおりであると認められる。
(イ) G社の設立当初から、本件転貸差額が生ずるようにしたのは、G社の法人としての経済活動を安定化させ、同法人を育てていきたいというのが主な動機である。
(ロ) その後、G社は、自ら不動産を購入して管理・賃貸しているが、その不動産購入の主な資金は借入金であり、その元金及び利息を支払っていくためにも本件転貸差額が必要であった。
(ハ) 本件転貸差額は、転貸料の半分程度と考えていた。

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(2) 法令解釈

イ 所得税法第157条第1項の規定は、同族会社の選択した行為又は計算が実在し、それが私法上有効であっても、その私法上許された形式を濫用し、通常の経済人の行為として不合理、不自然であり、同族会社だからこそなし得た行為又は計算を選択した場合において、それが株主その他の同族会社と所定の関係にある個人の「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められる場合には、税務署長は、いわゆる実質課税の原則及び租税負担公平の原則の見地から、これを通常あるべき行為又は計算に引き直し、納付すべき税額を算定しようとするものである。
ロ そして、所得税法第157条第1項の規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められるか否かは、同族会社の行為又は計算に基づいて算出された所得税額と、通常あるべき行為又は計算に引き直して算定された所得税額とのかい離によって判断すべきである。
ハ さらに、所得税法第157条第1項の適用のためには、経済的合理性を欠いた行為又は計算の結果として所得税額の負担が減少していれば十分であり、租税回避の意図や所得税の負担を減少させる意図が存在することまでは要しないと解するのが相当である。

(3) 判断

イ 本件各更正処分の適法性
(イ) 争点1−1(所得税法の課税標準に係る規定振りからみて、原処分庁が所得税法157条第1項を適用して請求人の不動産収入(金額)を認定できるか否か)について
 所得税法第157条第1項は、上記(2)のイのとおり、同族会社の選択した行為又は計算が、通常の経済人の行為として不合理、不自然であり、それを容認した場合には、その株主等個人の「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められるときには、いわゆる実質課税の原則及び租税負担公平の原則の見地から、これを通常あるべき行為又は計算に引き直して、納付すべき税額を算定し、所得税の更正又は決定の処分を行う権限を税務署長に認めているものであるから、同規定が所得税法の課税標準及び各種所得金額の計算に係る規定と別途規定されていることは何ら問題なく、法律上(契約上)収入すべき権利(又は収入すべき事実)や担税力の基礎となるべき資産の増加の事実を課税要件とするものではないから、同規定の課税要件を満たすものである限り、税務署長は同規定に基づき所得税の更正又は決定の処分を行うことができるのは明らかである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ) 争点1−2(原処分庁が所得税法第157条第1項の「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められる場合の「不当性」について、客観的・具体的判断基準を示さないまま同規定を適用したことは適法か否か)について
 上記(2)のロのとおり、同族会社の行為又は計算が株主等個人の「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められるか否かは、同族会社の行為又は計算に基づいて算出された所得税額と、通常あるべき行為又は計算に引き直して算定された所得税額とのかい離によって判断すべきものであり、課税要件である「不当性」についての客観的・具体的判断基準が示されていないことをもって、租税法律主義に反するとはいえず、また、本件各更正処分が違法となるものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ) 争点1−3(原処分が算定した適正賃料は合理性があるか否か)について
A 上記(2)のロのとおり、同族会社の行為又は計算が株主等個人の「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められるか否かは、同族会社の行為又は計算に基づいて算出された所得税額と、通常あるべき行為又は計算に引き直して算定された所得税額とのかい離によって判断することになる。
B そこで、本件においては、G社は、請求人から賃借している本件各土地をH社に転貸するなどし(前記1の(4)のロ及びニ)、それに伴う業務及び経済的負担を負うとともに(上記(1)のヘ)、本件各土地転貸料を得ているのであるから(前記1の(4)のニ)、実質的にみれば、本件各土地転貸料と本件各土地賃料との差額が、G社が請求人から取得する本件各土地の管理の対価、すなわち管理料相当額(以下「本件管理料相当額」という。)とみることができる。したがって、本件各土地賃料の額が不当に低額であるか否かは、本件管理料相当額が適正か否かを基準に判断すべきであると解される(以下、この基準により適正賃料を算定する方法を「適正管理料置換方式」という。)。
C なお、この点、本件においては、原処分庁は、上記(1)のイのとおり、土地を貸し付けていると認められる者を比準同業者として、本件各土地の適正賃料を算定している(本件各年分に係る原処分庁主張適正賃料の額は別表2の「原処分庁主張適正賃料」各欄記載のとおり)ので、原処分庁主張適正賃料に合理性を認めることはできない。よって、原処分庁主張適正賃料に基づき算定された所得税額は、通常あるべき行為又は計算に引き直したものと認めることはできない。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張は理由がない。
(ニ) 争点1−4(本件各土地賃料は、同族会社の行為又は計算として、経済的に不合理、不自然といえるか否か。また、本件各土地賃料は、請求人の所得税の負担を不当に減少させるか否か)について
A 本件各土地賃料は、その行為又は計算において、経済的に不合理、不自然といえるか否か
(A) 適正賃料の算定
a 比準同業者の選定
 当審判所において、1P市内に土地を所有し、又は土地及び建物を所有し、2個人でその賃貸業を営み、3不動産管理業を営む同族関係にない法人に対してその土地及び建物の管理を委託し、その管理料を支払っている青色申告者で、かつ、4本件各年分について、委託管理の対象となる土地及び建物の貸付けに係る収入金額が、本件各土地転貸料の0.5倍以上2倍以内の者を対象に検討し、8件の比準同業者を選定した。
b 本件各土地に係る適正管理料の算定
 上記aで選定した比準同業者の賃貸料収入の額に占める管理料の割合の平均値をもって適正管理料割合とし、当該適正管理料割合を本件各土地転貸料に乗じることにより本件各土地に係る適正管理料(以下「本件適正管理料」という。)を算定すると、別表5の「本件適正管理料」欄各欄記載のとおり、本件各年分に係る本件適正管理料の額は、平成14年分が2,398,511円、平成15年分が2,302,571円、平成16年分が2,428,808円となる。
c 本件各土地賃貸保証金に係る運用益相当額について
 本件各土地賃貸契約に基づき、本件各土地賃貸保証金(200,000,000円)がG社から請求人に対して支払われている(前記1の(4)のロの(イ))ところ、適正管理料置換方式は、本件各土地賃貸契約を管理委託契約という契約形式に置き換えるものであるから、本件各土地に係る適正賃料の算定に当たっては、管理委託契約では生じない本件各土地賃貸保証金の差し入れを加味するのが相当であり、当該本件各土地賃貸保証金の運用益相当額(以下「本件運用益相当額」という。)を、本件各土地転貸料の額から本件適正管理料の額を控除した後の金額から控除するのが相当である。
 そして、本件運用益相当額の算定に当たっては、定期借地権の設定による保証金の経済的利益の課税に当たって適正な利率として用いられている10年長期国債の年平均利率によるのが相当である。
 そこで、当審判所において、本件運用益相当額について、10年長期国債の年平均利率により算定すると、別表5の「本件運用益相当額」欄各欄記載のとおり、本件各年分に係る本件運用益相当額は、平成14年分が2,560,000円、平成15年分が1,980,000円、平成16年分が3,000,000円となる。
d 本件各土地に係る適正賃料の額
 本件各土地に係る適正賃料の額は、本件各土地転貸料の額から本件適正管理料の額及び本件運用益相当額を控除した後の金額(当該金額を以下「審判所認定適正賃料」という。)であり、本件各年分に係る審判所認定適正賃料の額は、別表5の「審判所認定適正賃料」欄各欄記載のとおり、平成14年分が45,536,478円、平成15年分が46,212,418円、平成16年分が45,066,181円となる。
(B) 審判所認定適正賃料と本件各土地賃料との比較・検討
 上記(A)のとおり、審判所認定適正賃料の額は、平成14年分が45,536,478円、平成15年分が46,212,418円、平成16年分が45,066,181円であり、これを本件各土地賃料の額28,800,000円と比較すると、本件各土地賃料は著しく低額であることが明らかである(本件各年分の審判所認定適正賃料と本件各土地賃料の差額は別表5の「7不動産所得の総収入金額に加算すべき金額」欄各欄記載のとおりである。)。
 なお、請求人は、本件両契約は、伝統あるgの名を残したいとのことが直接的動機であり、gの承継者としてだけではなく、通常の経営者、経済人として極めて自然かつ合理的なものである旨主張する。
 しかしながら、所得税法第157条第1項は、上記(2)のイ及びハのとおり、飽くまでも税負担の公平を図ろうとする趣旨の規定であり、租税回避の意図や所得税の負担を減少させる意図が存在することまで要しないと解されているから、請求人にそのような意図がなかったとしても、本件各土地賃料は審判所認定適正賃料と比較して著しく低額であることが明らかである以上、本件各土地賃料を設定した本件各土地賃貸契約は、G社と請求人が同族会社とその株主等という関係でなければ結ばれ得ないものであり、客観的にみて経済的に合理性を欠く、不自然、不合理なものといわざるを得ない。
 また、請求人が指摘する、亡Jの努力で守り育てられてきたgに対する請求人の愛着やgの名称を将来に残したいことからG社を設立したとの請求人の心情、認識(上記(1)のト)についても、東京地裁判決の指摘する「株主等の経済的利益の不発生又は減少により同族会社の経済的利益を増加させることが社会通念上相当と解される場合」には該当するとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B 本件各土地賃料は、請求人の所得税の負担を不当に減少させるか否か
 請求人の本件各年分の所得税について、当審判所が上記Aの(A)のdの審判所認定適正賃料を基に算定した所得税額(後記(ヘ)のE記載の税額であり、平成14年分が○○○○円、平成15年分が○○○○円、平成16年分が○○○○円である。)と請求人が修正申告書に記載した所得税額(別表1の「修正申告」欄記載の税額であり、平成14年分が○○○○円、平成15年分が○○○○円、平成16年分が○○○○円である。)を比較すると、これらの所得税額には、別表6の「不当に減少した納付すべき税額」欄記載のとおり、平成14年分が6,192,300円、平成15年分が6,442,500円、平成16年分が6,018,400円と、著しいかい離があると認められることから、本件各土地賃料は、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるといわざるを得ない。
 なお、請求人は、前記3の(1)のニの(ロ)のBのとおり、申告割合なる点に着目すべきと主張するが、上記(2)のロのとおり、所得税法第157条第1項の「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められるか否かは、同族会社の行為又は計算に基づいて算出された所得税額と、通常あるべき行為又は計算に引き直して算定された所得税額とのかい離によって判断すべきであり、請求人の主張は独自の見解に基づくものであって、採用の限りでない。
C よって、請求人の本件各年分の所得税について、所得税法第157条第1項の規定を適用するのは相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ホ) 争点1−5(請求人に所得税法第157条第1項を適用した場合に、G社に対して法人税を減額する更正処分を行う必要があるか否か)について
A 請求人は、予備的主張として、所得税法第157条第1項は同族会社の減額更正を義務付けていないとしても減額更正の調整を禁止したものではなく、このことは平成18年法律第10号(以下「平成18年改正法」という。)による改正後の法人税法第132条(以下「改正後の法人税法第132条」という。)の規定によっても明らかであるから、本件各更正処分が適法であるとしても、本件各更正処分と併せてG社に対して法人税を減額する更正処分を行うべき旨主張する。
B しかしながら、所得税法第157条第1項が不当に減少させるか否かを問題としているのは、同族会社の行為又は計算と直接関係のある株主等個人の所得税だけであると解され、同条の文理解釈上、同条の適用に当たっては、所得税の課税主体(個人)を単位として税負担の減少の結果を考えれば足りるから、同条を適用して更正処分をしたからといって、G社の法人税を減額する更正処分をしなければならないものではない。
C なお、改正後の法人税法第132条は、所得税法第157条第1項を適用して株主等の所得税の増額計算を行った場合における反射的に生ずる同族会社の法人税の減額計算を行う権限が税務署長にある旨の確認規定であるから、当審判所は、改正後の法人税法第132条に基づきG社に対して法人税を減額する更正処分を行うべきか否かを判断する立場にはない。
(ヘ) 本件各更正処分の適法性
A 総所得金額
(A) 不動産所得の金額
a 総収入金額
 請求人の本件各年分に係る不動産所得の総収入金額は、上記(ニ)のAの(A)のdの審判所認定適正賃料の額から本件各土地賃料の額を控除した金額を、請求人が平成18年1月20日に提出した修正申告書に記載した不動産所得の総収入金額に加算した金額であり、別表7記載のとおり、平成14年分が○○○○円、平成15年分が○○○○円、平成16年分が○○○○円となる。
b 必要経費の額
 本件各年分の必要経費の額は、当事者間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても相当と認められ、平成14年分が○○○円、平成15年分が○○○○円、平成16年分が○○○○円となる。
c 不動産所得の金額
 本件各年分の不動産所得の金額は、上記aの総収入金額から上記bの必要経費の額を差し引いて計算すると、別表7記載のとおり、平成14年分が○○○○円、平成15年分が○○○○円、平成16年分が○○○○円となる。
(B) 総所得金額
 請求人の本件各年分の配当所得、給与所得及び雑所得の各金額については、当事者間に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもこれを不相当とする理由はないから、上記(A)のcの不動産所得の金額にこれらを加算すると、本件各年分に係る総所得金額は、別表8記載のとおり、平成14年分が○○○○円、平成15年分が○○○○円、平成16年分が○○○○円となる。
B 分離長期譲渡所得の金額
 請求人の平成14年分の分離長期譲渡所得の金額については、当事者間に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもこれを不相当とする理由はないから、○○○○円となる。
C 分離株式等譲渡所得の金額
 請求人の平成16年分の分離株式等譲渡所得の金額については、当事者間に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもこれを不相当とする理由はないから、○○○○円の損失となる。
D 所得控除の額
 請求人の本件各年分の所得控除の額は、当事者間に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもこれを不相当とする理由はないから、平成14年分が○○○○円、平成15年分が○○○○円、平成16年分が○○○○円となる。
E 納付すべき税額
 上記Aの(B)の総所得金額、上記Bの分離長期譲渡所得の金額及び上記Dの所得控除の額を基に、法令に従って請求人の本件各年分に係る納付すべき税額を計算すると、別表8記載のとおり、平成14年分が○○○○円、平成15年分が○○○○円、平成16年分が○○○○円となる。
F 本件各更正処分の適法性
 本件各更正処分に係る納付すべき税額は、別表8記載のとおり、請求人の本件各年分に係る納付すべき税額をいずれも下回るから、本件各更正処分は、いずれも適法である。
ロ 本件各賦課決定処分の適法性
 争点2(所得税法第157条第1項を適用する場合において、過少申告加算税を課すことができるか否か)について
(イ) 請求人は、本件各更正処分が適法であるとしても、法律上(契約上)収入とすべき権利も存在せず、資産の増加もない請求人において認識不可能な所得を、原処分庁が所得税法第157条第1項を適用して認定し、納税者が申告納税制度にのっとって申告し確定した納税額を、「税務署長の認めるところにより」変更したものであるから、過少申告加算税の賦課決定は当然できない旨主張する。
 しかしながら、過少申告加算税は、平成18年改正法による改正前の通則法第65条(以下「改正前の通則法第65条」という。)第1項の規定により、期限内申告があった場合において、修正申告書の提出又は更正があり、かつ、これにより納付すべきこととなる税額がある場合に課されるものであるところ、上記イの(ヘ)のFのとおり、本件各更正処分はいずれも適法であるから、請求人に同条第4項に規定する正当な理由があると認められない限り、本件各更正処分に伴い生ずる納付すべき税額に対して過少申告加算税が課されるというほかない。
 なお、所得税法第157条第1項は、上記イの(イ)のとおり、法律上(契約上)収入すべき権利(又は収入すべき事実)や担税力の基礎となるべき資産の増加の事実を課税要件とするものではない。
(ロ) さらに、請求人は、所得税基本通達に従い、G社との契約に基づいて、本件各土地賃料を年額28,800,000円であると認識し、長年にわたって申告を続けてきたのであるから、本件各更正処分に係る不動産所得の収入金額のうち本件各土地賃料の額を超える部分について、これを請求人が不動産所得の収入金額と認識し、かつ、申告することを期待することは、法的解釈上も、実務上も不可能であるから、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」がある旨主張する。
 しかしながら、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」とは、納税者の故意又は過失に基づかず、真にやむを得ないもので、過少申告加算税の賦課が不当若しくは酷になる場合を指すものとされ、納税者の法の不知や法令解釈の誤解・見解の相違等は正当な理由とはならないと解されているから、請求人が主張する理由は、同項に規定する「正当な理由」には該当しない。
(ハ) したがって、請求人の上記主張にはいずれも理由がない。
(ニ) 上記イの(ヘ)のFのとおり、本件各更正処分は適法であり、また、上記(ロ)のとおり、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、請求人には、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
 そして、過少申告加算税の額は、改正前の通則法第65条第1項の規定に基づき、正しく計算されている。
 したがって、本件各賦課決定処分は適法である。
ハ 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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