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(平19.2.27、裁決事例集No.73 376頁)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、A税務署長が、海外子会社から○○用器具を購入する審査請求人(以下「請求人」という。)の取引について、租税特別措置法(平成13年3月31日以前の事業年度の法人税については、同年法律第7号による改正前のもの。同年4月1日以降の事業年度の法人税については、平成14年法律第79号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第3章法人税法の特例第7節の2国外関連者との取引に係る課税の特例(以下、同特例に係る税制を「移転価格税制」という。)第66条の4《国外関連者との取引に係る課税の特例》の規定を適用し、租税特別措置法施行令(平成16年政令第105号による改正前のもの。以下「措置法施行令」という。)第39条の12《国外関連者との取引に係る課税の特例》第8項に規定する方法(以下「利益分割法」という。)により算定した独立企業間価格で行われたものとみなされるとして、請求人に対し、法人税の再更正処分等をしたところ、請求人が、A税務署長の採った独立企業間価格の算定方法には誤りがあるから、同処分等は違法であるとして、その全部の取消しを求めた事案である。
(2) 審査請求に至る経緯等
イ 請求人は、A税務署長に対し、平成12年4月1日から平成13年3月31日まで及び同年4月1日から平成14年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成13年3月期」及び「平成14年3月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書を、いずれも提出期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの。)までに提出した。
ロ A税務署長は、B国税局に所属する調査担当者の調査に基づき、請求人に対し、本件各事業年度の法人税について、平成15年3月28日付で別表1の「更正処分等」欄記載の各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をし、さらに、平成17年3月30日付で同表の「再更正処分等」欄記載の各再更正処分(以下「本件各再更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、同処分と本件各再更正処分とを併せて「本件各再更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、本件各再更正処分等を不服として、平成17年5月17日に審査請求をした。なお、当審判所は、平成15年3月28日付でされた本件各事業年度の法人税の各更正処分についても、あわせて審理した。
(3) 関係法令等
イ 措置法第66条の4第1項は、法人が、昭和61年4月1日以後に開始する各事業年度において、当該法人に係る国外関連者(外国法人で、当該法人との間にいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式の総数又は出資金額の100分の50以上の株式の数又は出資の金額を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める特殊の関係のあるもの)との間で資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引を行った場合に、当該取引(以下「国外関連取引」という。)につき、当該法人が当該国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないとき、又は当該法人が当該国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは、当該法人の当該事業年度の所得及び解散による清算所得に係る法人税法その他法人税に関する法令の規定の適用については、当該国外関連取引は、独立企業間価格で行われたものとみなす旨規定している。
ロ 措置法第66条の4第2項第1号は、国外関連取引が棚卸資産の販売又は購入である場合の独立企業間価格とは、(イ)独立価格比準法(特殊の関係にない売手と買手が、国外関連取引に係る棚卸資産と同種の棚卸資産を当該国外関連取引と取引段階、取引数量その他が同様の状況の下で売買した取引の対価の額に相当する金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法)、(ロ)再販売価格基準法(国外関連取引に係る棚卸資産の買手が特殊の関係にない者に対して当該棚卸資産を販売した対価の額から通常の利潤の額を控除して計算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法)、(ハ)原価基準法(国外関連取引に係る棚卸資産の売手の購入、製造その他の行為による取得の原価の額に通常の利潤の額を加算して計算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法)及び(ニ)上記(イ)ないし(ハ)の方法(以下、これらを併せて「基本三法」という。)に準ずる方法その他政令で定める方法により算定した金額をいい、(ニ)の方法は、基本三法を用いることができない場合に限り、用いることができる旨規定している。
ハ 措置法施行令第39条の12第8項は、上記ロの(ニ)の政令で定める方法は、国外関連取引に係る棚卸資産の法第66条の4第1項の法人又は当該法人に係る同項に規定する国外関連者(以下「国外関連者」という。)による購入、製造、販売その他の行為に係る所得が、当該棚卸資産に係るこれらの行為のためにこれらの者が支出した費用の額、使用した固定資産の価額その他これらの者が当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因に応じて当該法人及び当該国外関連者に帰属するものとして計算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法とする旨規定している。
ニ 租税特別措置法関係通達(法人税編)(平成16年12月20日課法2−14ほかによる改正前のもの。以下「措置法通達」という。)66の4(4)−1《利益分割法の意義》は、利益分割法は、原則として、国外関連取引に係る棚卸資産の販売等により法人及び国外関連者に生じた営業利益の合計額(以下「分割対象利益」という。)を措置法施行令第39条の12第8項に規定する要因により分割する方法をいうことに留意する旨定めている。
ホ 移転価格事務運営要領(平成17年4月28日査調7−3ほかによる改正前のもの。以下「事務運営要領」という。)3−2《利益分割法における共通費用の取扱い》は、利益分割法の適用に当たり、法人又は国外関連者の売上原価、販売費及び一般管理費その他の費用のうち国外関連取引及びそれ以外の取引の双方に関連して生じたもの(以下「共通費用」という。)がある場合には、これらの費用の額を、個々の取引形態に応じて、例えば当該双方の取引に係る売上金額、売上原価、使用した資産の価額、従事した使用人の数等、当該双方の取引の内容及び費用の性質に照らして合理的と認められる要素の比に応じて按分し、当該国外関連取引の分割対象利益を計算すること並びに分割対象利益の配分に用いる要因(以下「分割要因」という。)の計算を費用の額に基づいて行う場合にも、共通費用については上記に準じて計算することにそれぞれ留意する旨定めている。
(4) 基礎事実
以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、肩書地に本店を有し、P県p市にC研究所及びD研究所という2つの研究開発機関を設置するなどして、○○用器具及び××用品の製造・販売等を営む法人であり、請求人、その子会社及び関連会社で構成される企業グループ(以下「Eグループ」という。)の中核をなす企業である。
ロ 請求人は、平成13年4月○日に、請求人から仕入れた○○用器具及び××用品を国内市場において販売していた連結子会社のF社を吸収合併した上で、これを請求人の○○用器具開発・営業開発部と統合してG事業部とするなどの組織改変をし、H社からE社(請求人の社名)に商号を変更した。
ハ 請求人は、本件各事業年度において、Q国に本店を有し、○○用器具の製造業を営むJ社の発行済株式の総数の100%を直接に保有していた。
ニ 請求人は、本件各事業年度において、J社からその製造に係るa製品、b製品、c製品及びd製品(以下、これらを併せて「本件4製品」という。)を含む計10数種類の○○用器具(もっとも、ここでいう製品の種類は、単一の製品ではなく、この種の製品群という意味である。)を購入し、国内市場及び海外市場において販売する事業を行っていた。請求人からJ社に支払われた本件4製品の対価の額は、別表2−1及び別表2−2の「対象製品の対価の額」欄記載のとおりである。
ホ 請求人は、毎年10月ころに、翌年の4月1日に開始する事業年度における請求人及びEグループの予算を策定し、事業計画を立てていたが、その際に外貨建取引を円貨に換算するためのレート(以下「予算レート」という。)をあらかじめ決定し、J社との間で、同レートに基づき、米ドル建てで○○用器具の購入価格を決定していた。そして、請求人は、外貨建取引を会計帳簿に記録する際の円貨換算レート(以下「社内レート」という。)としては、取引銀行であるK銀行の当該外貨建取引日の前月末日における公示相場の仲値の円未満を四捨五入したものを使用していた。
ヘ A税務署長は、請求人がJ社から本件4製品を購入し、国内市場において販売する取引(以下「本件国外関連取引」という。)について、請求人がJ社に支払う対価の額が利益分割法により算定した独立企業間価格を超えるから、本件国外関連取引は当該独立企業間価格で行われたものとみなされるとして、本件各再更正処分等をした。なお、本件国外関連取引については、基本三法により独立企業間価格を算定する場合の基礎となる比準取引(以下「比較対象取引」という。)は存在しない。
(5) 争点
争点1 | 営業損失は措置法施行令第39条の12第8項の「所得」に含まれるか。 |
争点2 | 予算レートと社内レートとの差により算出される金額は、措置法施行令第39条の12第8項の「所得」に含まれるか。 |
争点3 | C研究所及びD研究所の販売費及び一般管理費は、利益分割法の適用に当たり、本件国外関連取引に関連して支出された費用とみるべきか |
2 主張
当事者の主張は、別紙のとおりである。
3 判断
(1) 認定事実
原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査によれば、以下の事実が認められる(文末括弧内の記載は、事実認定に採用した証拠の標目である。)。
イ Eグループは、請求人が連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則第15条の2《セグメント情報の注記》に基づき作成し、開示した同情報に基づく分類によれば、本件各事業年度において、L部門(○○用器具の製造・販売)、M部門(××用品の製造・販売)、N部門(△△製器材及びゴム栓等の製造・販売)、S部門(他の4部門での取扱製品以外の物品の販売等)並びにT部門(○○用器具製造機械の製作・販売等)の5部門に区分される事業を営んでいた(有価証券報告書)。
ロ J社は、本件各事業年度において、請求人がU工場(R県r市)で製造した本件4製品の原材料の一部となるゴム栓とD研究所で製作した同製品を製造する機械を購入した上で、同製品を製造していた(有価証券報告書、請求人の取締役経理部長Vの答述)。
ハ 平成13年3月期の本件4製品に係る製造・販売経路は、請求人のX事業部第二営業部が、J社から仕入れた本件4製品を直接又は同事業部営業開発部を経由して、国内販売子会社であるF社に販売し、同社が国内市場において同製品を販売するというものであった。また、平成14年3月期の本件4製品に係る製造・販売経路は、請求人がF社を吸収合併し、組織改変をしたことから、請求人のY事業部第一営業部、同事業部第二営業部及び同事業部国際業務課がJ社から仕入れた本件4製品をさらに、G事業部が上記各部課から仕入れた上で、国内市場において同製品を販売するというものであった(有価証券報告書、組織図、会社案内、PGCC分類別製造区分別売上表、Vの答述)。
ニ 請求人は、本件各事業年度において、事業部制を採用し、各事業部別に損益を管理していたことから、本件国外関連取引に係る損益を計上している請求人(平成13年3月期についてはF社を含む。)の事業部は、平成13年3月期については、X事業部第二営業部、同事業部営業開発部及びF社であり、平成14年3月期については、Y事業部第一営業部、同事業部第二営業部及び同事業部国際業務課並びにG事業部であった(有価証券報告書、業績推移表、PGCC分類別製造区分別売上表、Vの答述)。
ホ C研究所は、本件各事業年度において、××用品の試験、開発、研究など、もっぱら××用品の研究開発業務を行っていた(D研究所・C研究所のパンフレット、有価証券報告書、会社案内、Vの答述)。
ヘ D研究所は、本件各事業年度において、○○用器具等の研究開発、○○用器具及び××用品に関する検査・試験業務並びに○○用器具、××用品及び△△製器材(上記イののN部門に属するもの)の製造機械の製作等の業務を行っていた(D研究所・C研究所のパンフレット、有価証券報告書、会社案内、機械製作原価明細表、Vの答述)。
(2) 争点1(営業損失は措置法施行令第39条の12第8項の「所得」に含まれるか。)について
イ 請求人は、利益分割法は、事業活動の直接の結果である所得、すなわち、純資産の増加を対象にして独立企業間価格を算定する方法であるところ、営業損失は、純資産の減少をもたらすものであり、措置法施行令第39条の12第8項の解釈通達である措置法通達66の4(4)−1は、利益分割法における分割の対象を営業利益とする旨定めているから、措置法施行令第39条の12第8項の「所得」には、営業損失は含まれない旨主張する。
しかしながら、措置法通達66の4(4)−1は、利益分割法が、国外関連取引に関与した各関連者の当該取引において果たした機能の相対的価値(寄与度)に基づき、当該取引から発生したすべての利益を各関連者に分割することにより、独立企業間価格を算定する方法であることから、利益分割法における分割の対象は、原則として、売上総利益や当期純利益ではなく、事業活動の直接の結果を示す営業利益を用いることが合理的であることを明らかにしたものであって、当審判所もその取扱い自体は相当と認めるが、同通達の定めは、営業損失を分割の対象から排除すべきか否かについて直接言及したものではない。
そうすると、請求人の上記主張のうち、措置法通達66の4(4)−1が、利益分割法における分割の対象を営業利益と定めているから、営業損失は、措置法施行令第39条の12第8項の「所得」に含まれない旨をいう部分は、採用できない。
ロ 企業の会計規範となるべき企業会計原則によれば、損益計算書には、営業損益計算、経常損益計算及び純損益計算の区分を設け、営業損益計算の区分は、当該企業の営業活動から生ずる費用及び収益を記載して、営業利益を計算する(第二損益計算書原則二《損益計算書の区分》)こととなるが、営業損益計算は、一会計期間に属する売上高と売上原価とを記載して売上総利益を計算(売上高から売上原価を控除)し、売上総利益から販売費及び一般管理費を控除して、営業利益を表示する(同三《営業利益》)ものであるとされる。企業の営業利益は、以上のような営業損益計算の結果として算出されるものであるから、仮に、その計算結果が負の値(営業損失)になったとしても、これが表示されるべきことはいうまでもなく、企業会計原則に「営業利益を計算する」あるいは「営業利益を表示する」と定められているからといって、損益計算書に営業損失を表示する必要がないわけではない。
ハ ところで、移転価格税制の趣旨は、法人とその海外子会社との間の取引が、取引条件その他の事情を同一又は類似のものとし、支配従属関係にない企業間で行われた場合に成立するであろう対価の額(独立企業間価格)と異なる価格で行われた結果、同取引に係る課税所得が国内から国外に移転し(以下、移転された課税所得を「国外移転所得」という。)、当該法人の租税負担がゆがめられたときは、その取引を正常な状態、すなわち、独立企業間価格で行われたものとみなし、法人税に関する法令の規定を適用して課税所得を算定することにより、その租税負担のゆがみを是正するところにある。
移転価格税制は、このように法人と国外関連者との取引に係る対価の額に着眼するものであり、国外関連取引により利益が生じているか否かを直接の問題としているわけではないから、基本三法により独立企業間価格が算定できる場合には、たとえ、当該取引により損失が生じていたとしても、同法により独立企業間価格を算定すべきこととなる。これに対し、措置法第66条の4第2項第1号の規定によれば、利益分割法は、比較対象取引が存在しない等の理由により、基本三法を用いることができない場合に限り、用いることができる独立企業間価格の算定方法である。そうすると、利益分割法により独立企業間価格を算定せざるを得ない国外関連取引について、単に損失が生じているというだけで、同法の適用を除外し、その結果として、移転価格税制の適用自体をも排除されるとすれば、納税者間の課税の公平を著しく損なうこととなる。そして、それは、企業グループ内の価格操作により、国外関連者に過分の利益が生じ、わが国において法人税の納税義務を負う法人に損失が生じている場合において、特に顕著である。
ニ 以上によれば、措置法施行令第39条の12第8項の「所得」とは、国外関連取引に参加したすべての関連者に生じた当該取引に係る損益(原則として営業損益)の総和をいうと解するのが相当である。そうすると、上記「所得」には、営業損失も含まれるというべきであるから、請求人の上記イの主張は採用できない。
したがって、平成13年3月期のJ社のc製品並びに平成14年3月期の請求人のb製品及びd製品に係る各営業損失が措置法施行令第39条の12第8項の「所得」に含まれるとしてされた本件各再更正処分に違法はない。
(3) 争点2(予算レートと社内レートとの差により算出される金額は、措置法施行令第39条の12第8項の「所得」に含まれるか。)について
イ 請求人は、利益分割法における分割の対象は、事業活動の直接の結果として生じ、かつ、分割要因の寄与に基づく所得に限られると解されるところ、本件国外関連取引は、米ドル建てであり、本件4製品の価格は、事業年度ごとに定めた予算レートに基づいてあらかじめ設定され、社内レートが変動すれば、それに応じて請求人及びJ社の営業利益は大きく変動するが、これは、為替相場の変動による所得であり、事業活動の直接の結果といえるものではないから、予算レートと社内レートとの差により算出される金額は、措置法施行令第39条の12第8項の「所得」に含まれない旨主張する。
ロ ところで、外貨建取引等について企業の会計規範となるべき外貨建取引等会計処理基準によれば、外貨建取引は、原則として、当該取引発生時の為替相場による円換算額をもって記録し(同処理基準《一外貨建取引》1取引発生時の処理)、外貨建金銭債権債務については、決算時の為替相場による円換算額を付し(同2決算時の処理(1)換算方法外貨建金銭債権債務(外貨預金を含む。))、決算時における換算によって生じた換算差額は、原則として、当期の為替差損益として処理し(同(2)換算差額の処理)、外貨建金銭債権債務の決済(外国通貨の円転換を含む。)に伴って生じた損益は、原則として、当期の為替差損益として処理することとなる(同3決済に伴う損益の処理)。また、その後に制定された外貨建取引等会計処理基準注解によれば、取引発生時の為替相場は、取引が発生した日における直物為替相場又は合理的な基礎に基づいて算定された平均相場(例えば、取引の行われた月又は週の前月又は前週の直物為替相場を平均したもの等)、直近の一定期間の直物為替相場に基づいて算出されたもの、あるいは、取引が発生した日の直近の一定の日における直物為替相場(例えば、取引の行われた月若しくは週の前月若しくは前週の末日又は当月若しくは当週の初日の直物為替相場)によるべきこととなる(同注解《注2取引発生時の為替相場》)。
ハ 財務会計上、為替相場の変動による所得とは、上記ロのような取引発生時と決算時の円換算差額や外貨建金銭債権債務の決済に伴って生じた損益など、取引発生時と決算時又は決済時という2つの時点における為替相場の変動による換算レートの差から算出されるいわゆる為替差損益をいう。これは、企業の主要な経営活動(購入・製造・販売)を財務的に補助し、調整するいわゆる財務活動により生じたものであり、財務会計上の営業外損益に属するものである。
これに対し、措置法施行令第39条の12第8項の「所得」は、上記(2)のニで述べたとおり、原則として、国外関連取引により法人及び国外関連者に生じた営業利益(営業損失)の合計額であり、営業利益(営業損失)は、企業の損益計算の結果として算出されるものであるから、為替差損益は、上記「所得」には含まれないこととなる。そして、税務上も、措置法通達66の4(3)―3《為替差損益》が、措置法第66条の4の規定の適用上、取引日の外国為替の売買相場と当該取引の決済日の外国為替の売買相場との差額により生じた為替差損益は、独立企業間価格には含まれないことに留意すると定めている。
ニ これを本件についてみるのに、上記1の(4)のホによれば、請求人は、社内レートとして、外貨建取引日の前月末日における取引銀行の公示相場の仲値の円未満を四捨五入したものを使用していたのであるから、上記ロの外貨建取引等会計処理基準及び同注解に従った円換算処理を行い、外貨建取引である本件国外関連取引を会計帳簿に記録していたものと認められる。他方、請求人が使用していた予算レートは、あくまで請求人及びEグループの予算の策定や事業計画の立案等を目的とし、対象事業年度開始の日のおよそ6か月前に決定されるものであるから、たとえ、対象事業年度において為替相場に変動があったとしても、これが変更されるわけではない。そして、請求人の本件国外関連取引に係る損益計算は、まさに社内レートにより換算され、記録された本件4製品の対価の額に基づいて行われるのであるから、予算レートと社内レートとの差により算出される金額は、請求人及びJ社にとって、当初に策定した予算や事業計画を管理し又は見直す、いわゆる管理会計上では算出されるべきものであったとしても、財務会計上これが認識されることはあり得ない。
ホ 以上によれば、予算レートと社内レートとの差により算出される金額は、営業外損益となる為替差損益などではなく、措置法施行令第39条の12第8項の「所得」に含まれるものというべきであるから、請求人の上記イの主張は採用できず、これを前提としてされた本件各再更正処分に違法はない。
(4) 争点3(C研究所及びD研究所の販売費及び一般管理費は、利益分割法の適用に当たり、本件国外関連取引に関連して支出された費用とみるべきか。)について
イ 事務運営要領3−2について
(イ) 事務運営要領3−2は、利益分割法の適用に当たり、法人及び国外関連者が支出した売上原価並びに販売費及び一般管理費の中には、国外関連取引及びそれ以外の取引の双方に関連して生じたもの(共通費用)がある場合があるから、国外関連取引に係る営業利益を正確に算出するためには、これを当該双方の取引の内容及び費用の性質に照らし、国外関連取引とそれ以外の取引とに合理的に按分した上で、分割対象利益を計算する必要があり、また、費用の額を分割要因として用いる場合にも、これと同様の処理をする必要性があることを示したものである。そして、当審判所も、その取扱いを相当と認める。
(ロ) 原処分庁は、請求人が、各事業部別に損益を管理しており、各事業部に直接関係する研究開発費は、関係各事業部に配賦しているところ、C研究所及びD研究所の販売費及び一般管理費は、直接これと関係する事業部がないことから、各事業部の費用としては配賦されず、両研究所の営業損益は、いずれもマイナスとなっているが、C研究所及びD研究所の販売費及び一般管理費は、請求人の本件各事業年度における損益計算上の営業費用であるから、これらは、事務運営要領3−2に定める共通費用とみて、売上高の割合に応じ、本件国外関連取引とその他の取引に配賦すべきである旨主張する。
しかしながら、事務運営要領3−2は、上記(イ)のとおり、分割対象利益及び分割要因として用いる費用の額の計算に当たり、国外関連取引及びそれ以外の取引の内容並びに費用の性質を考慮すべきことを前提としているから、A税務署長が、本件国外関連取引とC研究所及びD研究所の業務内容との関連性を具体的に検討することなく、単に請求人がその損益計算上の営業費用である両研究所の販売費及び一般管理費を各事業部の費用として配賦していないことのみをもって、これを事務運営要領3−2に定める共通費用とみたことは相当でない。
そうすると、原処分庁の上記主張のうち、この点に関する部分は採用できない。
(ハ) 請求人は、仮に、C研究所及びD研究所の販売費及び一般管理費が共通費用に該当するとすれば、事務運営要領3−2に定める共通費用は、請求人及びJ社の双方に関連して発生したものであり、かつ、双方に配分されなければならないものであると解されるから、A税務署長がこれを請求人のみに配賦したことは、上記事務運営要領の取扱いに反している旨主張する。
しかしながら、事務運営要領3−2は、その文理上、国外関連取引とその他の取引の双方に共通して支出された費用を共通費用といい、その取扱いを定めたものであることは明らかである。そして、C研究所及びD研究所の販売費及び一般管理費は、本件国外関連取引との間に関連性があるか否かについてはひとまず置くとして、いずれも両研究所を設置する請求人から支出されたもの(営業費用)であるから、請求人が本件国外関連取引において果たした機能の相対的価値(寄与度)を示すものではあっても、J社が同取引において果たした機能の相対的価値(寄与度)を示すものではない。
そうすると、利益分割法の適用に当たり、両研究所の販売費及び一般管理費がJ社に配賦される余地はないというべきであるから、請求人の上記主張は採用できない。
ロ C研究所の販売費及び一般管理費について
本件4製品(a製品、b製品、c製品及びd製品)は、いずれも○○用器具であり、本件国外関連取引は、請求人が海外子会社からこれを購入する取引であるから、上記(1)のイで述べたEグループのL部門の事業に属するものと認められる。これに対し、上記(1)のホによれば、C研究所は、本件各事業年度において、××用品の試験、開発、研究など、もっぱら××用品の研究開発業務を行っていたのであるから、その業務内容は、上記(1)のイで述べたEグループのM部門の事業に属するものと認められる。そうすると、本件国外関連取引とC研究所の業務内容とは、事業セグメントを異にするものというべきである。
もっとも、当審判所の調査によれば、本件4製品は、いずれも本件各事業年度においてC研究所で研究開発の対象となっていた××用品との間に、例えば、使用上の関連性といったものを見いだせなくはない。しかしながら、利益分割法の適用に際して問題とすべきであるのは、本件国外関連取引から発生した利益との関連性であり、上記のような関連性で足りるものではないというべきである。そして、本件各事業年度におけるC研究所の業務内容と本件国外関連取引から発生した利益との関連性については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを認めることはできない。
したがって、C研究所の販売費及び一般管理費は、利益分割法の適用に当たり、本件国外関連取引に関連して支出された費用とみるべきではないから、原処分庁の上記イの(ロ)の主張のうち、この点に関する部分は採用できない。
ハ D研究所の販売費及び一般管理費について
請求人は、D研究所は、将来の新しい○○用器具や××用品の研究開発を行っており、その販売費及び一般管理費は、当該研究開発に費消されたものばかりであるのに対し、本件4製品は、平成10年4月1日から平成11年3月31日までの事業年度において、既にJ社により製造されていたから、本件各事業年度における同研究所の販売費及び一般管理費は、本件国外関連取引に関連して支出された費用とみるべきではない旨主張する。そして、なるほど、本件4製品は、平成13年3月期には既に製品化され、商品として販売されていたのであるから、同製品の主要な研究開発業務は、本件各事業年度においては既に終了していたものと容易に推認できる。
しかしながら、本件の場合には、上記ロで述べたとおり、請求人が海外子会社から本件4製品(a製品、b製品、c製品及びd製品)を購入する本件国外関連取引は、上記(1)のイで述べたEグループの各事業のうち、L部門の事業に属するものと認められるところ、上記(1)のヘによれば、本件各事業年度において、D研究所で研究開発が行われていたのは、○○用器具であり、これらの製品は、本件4製品と同じく、いずれも上記(1)のイで述べたEグループのL部門の事業に係る製品であるから、D研究所の研究開発業務には、同部門に属する業務が含まれていたものと認められる。
さらに、上記(1)のロ及びヘによれば、D研究所は、本件各事業年度において、上記の研究開発業務のみならず、○○用器具に関する検査・試験業務や、上記(1)のイで述べた請求人自身のセグメント分類によれば、EグループのT部門の事業に属するものの、本件4製品を製造する機械の製作をもその業務としていた。しかも、D研究所・C研究所のパンフレット及びVの答述によれば、本件各事業年度において、本件4製品には改良が加えられていたことが認められるが、この限りにおいて、D研究所の研究開発が生かされていたともいうことができる。
以上によれば、D研究所の販売費及び一般管理費は、利益分割法の適用に当たっては、本件国外関連取引に関連して支出された費用とみて、分割対象利益及び分割要因を計算することが相当であるから、請求人の上記主張は採用できない。
(5) D研究所の販売費及び一般管理費の配賦等について
イ 当審判所の調査によれば、A税務署長は、請求人の本件4製品に係る各営業利益を算出するに際し、同製品ごとに、平成13年3月期については、X事業部第二営業部及び同事業部営業開発部の各売上高の合計(分子)を、平成14年3月期については、G事業部の各売上高(分子)を、いずれもEグループ全体の連結売上高(分母)により除してその割合を計算し、これにD研究所の販売費及び一般管理費の額を乗ずることにより、本件国外関連取引に配賦すべき同研究所の販売費及び一般管理費の額を算出(共通費用の按分)した上で、その金額を請求人に配賦し、これを分割要因としても用いたことが認められる。
ロ しかしながら、上記(1)のイ及びヘによれば、D研究所の業務内容は、本件各事業年度において、EグループのL部門、M部門、N部門及びT部門の各事業との関連性は認められるものの、S部門の事業とは、何ら関連性が認められないというべきである。そうすると、A税務署長が採った上記イの計算方法のうち、Eグループ全体の連結売上高により除した部分(分母)は相当ではないから、これに代え、同売上高からS部門の連結売上高を除外したもの、すなわち、EグループのL部門、M部門、N部門及びT部門の各連結売上高の合計を分母として用いるべきこととなる。
ハ また、上記(1)のハ及びニによれば、X事業部第二営業部及び同事業部営業開発部は、平成13年3月期については、最終的にF社に対して本件4製品を販売し、同社が国内市場において同製品を販売していたのであるから、上記各部の同製品に係る各売上高は、いずれもEグループ全体の連結売上高を構成しないことが明らかである。そうすると、A税務署長が採った上記イの計算方法のうち、上記各部の同製品に係る各売上高の合計を除する対象とした部分(分子)は相当ではなく、これに代え、F社の同製品に係る売上高を分子として用いるべきこととなる。
ニ 以上によれば、本件国外関連取引に利益分割法を適用するに当たり、請求人に配賦すべきD研究所の販売費及び一般管理費の額は、別表3−1及び別表3−2の記載のとおりとなる。そうすると、本件4製品に係る請求人の営業利益の額は、別表4−1及び別表4−2の記載のとおりとなり、また、本件4製品の独立企業間価格を算定するに当たり採用すべき請求人の分割要因の額は、同記載のとおりとなる。
(6) 当審判所の認定額について
イ 上記(2)ないし(5)で判断したところに基づき、本件各事業年度における本件4製品(平成13年3月期のc製品を除く。)の独立企業間価格を算定すると、別表4−1及び別表4−2の記載のとおりとなる。なお、平成13年3月期のc製品の取引については、別表4−1のとおり、請求人には○○○○円の営業利益が発生しているのに対し、J社には○○○○円の営業損失が発生しているのであるから、具体的にその独立企業間価格を算定するまでもなく、同取引により請求人からJ社への国外移転所得は発生していないものと認められる。そうすると、平成13年3月期のc製品の取引については、移転価格税制を適用すべきではない。
ロ また、本件国外関連取引のうち、平成13年3月期のb製品並びに平成14年3月期のa製品、b製品及びd製品の各取引に係る対価の額は、いずれも当審判所が算定した独立企業間価格を上回るから、上記各取引について国外移転所得が発生しているものと認められるのに対し、平成13年3月期のa製品及びd製品並びに平成14年3月期のc製品に係る対価の額は、いずれも当審判所が算定した独立企業間価格を下回ることとなる。
ところで、当審判所の調査によれば、A税務署長は、本件各再更正処分において、別表2−1及び別表2−2のとおり、本件4製品ごとに独立企業間価格(ただし、上記各表のは、請求人に帰属すべき分割対象利益の額を意味するものである。)を算定したにもかかわらず、同製品が同一の法律により規定された機械器具に該当することなどを理由に、最終的には同製品に係る各取引を1つの国外関連取引とみて、上記各表のに算出された値を合算し、国外移転所得金額を算定したことが認められる。しかしながら、本件4製品に係る各取引をそれぞれ別個のものとして独立企業間価格を算定したにもかかわらず、その対価の額が算定した独立企業間価格を超えない取引についても、移転価格税制の適用対象としたことに合理的な理由は認められない。
ハ 以上によれば、本件国外関連取引のうち、平成13年3月期のb製品並びに平成14年3月期のa製品、b製品及びd製品の各取引について、移転価格税制が適用されるべきこととなり、その対価の額(別表4−1及び別表4−2の記載の金額)と当審判所が算定した独立企業間価格(同記載の金額)との差額(同記載の金額)について、国外移転所得が発生しているものと認められる。
そうすると、本件各事業年度における請求人の所得金額及び納付すべき税額は、別表5の「審判所認定額」欄の該当項目記載のとおり、平成13年3月期については○○○○円及び○○○○円であり、平成14年3月期については○○○○円及び○○○○円であると認められる。
(7) 結語
以上によれば、当審判所が認定した本件各事業年度における請求人の所得金額及び納付すべき税額は、いずれも本件再更正処分の額を上回ることとなるから、同処分は適法というべきである。
また、過少申告加算税を含む本件各再更正処分等のその他の部分及びあわせ審理した各更正処分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
別表2−1 再更正処分における国外移転所得金額等の算定(平成13年3月期)
別表2−2 再更正処分における国外移転所得金額等の算定(平成14年3月期)
別表3−1 請求人に配賦すべきD研究所の販売費及び一般管理費の額等(平成13年3月期)