別紙

 1 本件各債権の帰属
原処分庁 審査請求人
 本件滞納会社は、自らの警備業務を請求人に移行させるべく書面及び契約書を作成しているが、これらは、請求人を使って債務の支払を免れようとして、取引先との関係であくまで形式上、契約名義を請求人に変えただけであるから、本件各債権は、請求人に帰属するものではなく、本件滞納会社に帰属するものであることは明らかである。  請求人は、本件滞納会社及び請求人が作成した書面及び契約書に従い、本件各債権に係る警備業務を行った主体であり実体があるから、本件各債権は、請求人に帰属するものである。
(1) 請求人の実質的な支配者
イ 本件滞納会社について
 本件滞納会社は、Sが資本金1,000万円全額を出資している同族会社であり、○○信用金庫○○支店での聴取事項及びWの申述によれば、Sが全権を掌握しているワンマン会社であることが認められる。
(1) 請求人の実質的な支配者
イ 本件滞納会社について
 Sは本件滞納会社に対し強い指導力を有してはいるが、本件滞納会社の重要事項は、役員会を開催し、役員全員が協議した上、ときには従業員も参加して決定していた。本件滞納会社は、人的にも物的にも飛躍的に規模が拡大し、S一人の能力と判断だけでは動かせなくなっており、完全なワンマン会社ではない。
ロ 請求人について
 請求人の平成17年11月30日現在の出資割合は、Sが全権を掌握している本件滞納会社が50%、Sが30%である。そして、「請求人の出資者は、平成17年11月以後、変更となったと聞いているが、誰に変更となったかは分からない」旨、また、「そもそも自分は雇われ社長であり、請求人の実体はSにある」旨のWの申述からすると、代表取締役であるWが請求人の実権を掌握しているとは認められず、請求人の実質的な代表者は、Sであると認められる。
ロ 請求人について
 Wは、60口(3,000,000円)のうち12口(600,000円)を請求人へ出資している。そして、分社化に当たり1平成17年10月に代表取締役に就任した後、請求人の整備等を中心となって進めてきたこと、2役員会において、Sその他役員らと納得のいくまで議論を尽くしてきたこと、3請求人の従業員に対し、自ら経営方針を説明し、平成18年8月以降は、独自の支店統廃合、大幅な人事異動等を主導して、月間約○○○○円の経費削減を実現させたことからすれば、形式的な社長ではなく、実質上も、請求人の経営のトップであった。
(2) 請求人と本件滞納会社の関係
 本件滞納会社と請求人は、法形式上は別人格であっても、次のように極めて不自然な行為が認められるのは、実質的には、Sが両社の全権を掌握しているからである。
(2) 請求人と本件滞納会社の関係
 次のとおり、請求人と本件滞納会社とは別個の独立した存在である。
イ 事業所について
 Wは、本件滞納会社の所有の事業所を請求人が借用しているが、賃料を支払っておらず、また、他の事業所についても本件滞納会社に家賃を支払っていないはずであると申述しており、請求人の事務所は、形式的なもので、その実体は、本件滞納会社の事務所そのものであると認められる。
イ 事業所について
 請求人は、事務所を、本件滞納会社の事務所とはっきり区分して使用していた。請求人の事業所及び他の事業所は本件滞納会社より賃借又は転借し、請求人の総勘定元帳の記載に明らかなように賃料も支払っている。また、請求人は、所轄警察署に対し、本件滞納会社と同所の事業所において業務を行う旨警備業法上の届出もしている。
ロ 電話番号について
 請求人の住所及び電話番号が本件滞納会社と全く同一である。
ロ 電話番号について
 請求人は、本件滞納会社から事務所と電話設備を借り受けてその使用料も支払っているのであるから、問題はない。
ハ 経理担当者について
 本件滞納会社の経理と請求人の経理は、名義のみを別々にしているだけで、実質的には本件滞納会社の経理も請求人の経理も同一の者が行っていたと認められる。
ハ 経理担当者について
 請求人の経理担当者はfであり、本件滞納会杜の経理担当者は、総務・財務本部長m、従業員z、○○及び元経理部長tであって、それぞれ別の者が経理を担当していた。
ニ 振込口座について
 各支店・営業所の振込口座は4月1日以降も同じ口座を使用する旨記載されていることから、移行とは名ばかりで、本件滞納会社から請求人へ形式的に経理事務を移行させているにすぎない。
ニ 振込口座について
 各支店・営業所の振込口座は、従来から各支店長及び営業所長の個人口座を利用しており、請求人と支店長及び営業所長との間は新規に雇用契約が締結されているから、業務移行により口座を変更する必要性はなく、むしろ口座を変更する方が不合理である。
ホ 経理処理について
 資金請求、稟議、伝票処理等は、従来どおりの方法で行うが、あて先名は請求人とし、今後の請求書及び領収書等についても、請求人に順次変更していくこととされており、あて先等の形式的な面だけを請求人にしたものと認められる。
ホ 経理処理について
 資金請求、稟議、伝票処理が従来どおりの方法であることは、本件滞納会社のノウハウを引き継いだまでのことであり、決裁は、常にWが請求人の代表取締役として責任をもって行っていた。また、本件移行書面Cに記載されている請求書及び領収書については、契約主体が請求人に変わるのであるから当然のことである。よって、経理事務は請求人が独自に行っており、形式的移行などではないことは明らかである。
ヘ 業務委託料について
 本件滞納会社は、本件委託契約書に基づくならば、本件覚書Aにより得意先から受領した売上金の○○%を業務委託料として請求人に支払うべきところ、請求人に対し貸付金として資金を提供し、また、請求人も、短期借入金として受入処理している。
 したがって、本件滞納会社は、発注者に対しては請求人へ業務を委託した事実を知らせず、請求人と本件委託契約書を交わした。そして、本件滞納会社と請求人との間ではあたかも業務委託契約があったかのように形式的に従業員を請求人に移籍させているが、当該従業員の給与は実質的には本件滞納会社が資金提供していたことになる。
へ 業務委託料について
 請求人は、請求人の総勘定元帳で明らかなとおり、本件委託契約書及び本件覚書Aに基づき、本件滞納会社から業務委託料の支払を受けている。
 本件滞納会社から請求人への資金貸付は、警備員の給与が、請求人が警備員を雇用した平成18年4月1日直後から日々発生するところ、取引先からの売上金の入金は、締め日及び請求日との関係で後日となり、業務委託料の支払を待ったのでは上記給与の支払に間に合わず、その補完のために行った。
 したがって、請求人が、本件滞納会社から、業務委託料の支払を受け、一方で資金借入をしたことは、別個のもので理由があり、本件滞納会社及び請求人の経理処理に不自然なところはなく、業務委託契約には実体があった。
ト 従業員の移籍について
 従業員の移籍は、一般に、雇用される従業員にとって非常に重要な事項であり、従業員は、元の会社から解雇通知を受け雇用契約を解消すると、規程に基づき退職金を受領した上、移籍先の会社と新たに書面で雇用契約を結ぶのが通常である。
 しかしながら、本件滞納会社は、本件における従業員への移籍の伝達をSとWのほか各現場責任者からの口頭により行い、書面で解雇通知を交付したのではないとし、また、退職金の支給もなく、請求人と本件滞納会社の従業員との間に新たに雇用契約も締結されていない。
 そうすると、請求人は、平成18年4月から本件滞納会社の警備員の給与を支給したとして給与所得に係る源泉所得税を納税しているが、本件滞納会社は、形式的に給与の振込者を本件滞納会社から請求人に変更したにすぎないと認められる。
ト 従業員の移籍について
 民法上雇用契約の終了及び新たな締結は口頭での意思表示で足り、規模の大きくない企業では、雇用契約締結などはわざわざ書簡など作成せず口頭で行われるのが通常で、本件についても、各現場の責任者を通じ、各従業員との間で、本件滞納会社との雇用契約の解消及び請求人との雇用契約締結につき口頭で申込みと承諾がなされた。
 退職金は、通常転籍をする場合に支払われるが、本件の場合は同一グループ内及び同一の雇用条件での転籍であり、使用者と被用者の間で、退職金を支給せず、また特段これを請求しない合意がされたことは不自然ではない。
 警備員の指揮・監督は、請求人の従業員の手で行われ、警備員の給与支給に関する経理処理も、請求人の事務所内で、請求人の経理担当者により、請求人の負担で行われた。さらに、請求人は、各事業所を管轄する警察署に対し、それぞれ従業員を使用して警備業務を行う旨警備業法上の届出をしており、請求人が警備員を雇用していた実体は存している。
チ 取引先への通知について
 建設工事業や警備業のように、受注者が発注者に人を派遣するような業務で、受注した業務を下請けや外注する場合、受注者は、発注者に対して、その旨伝えるのが通常であるところ、本件滞納会社は、本件委託契約書により平成18年4月1日から請求人に業務委託しているが、発注者に対し、平成18年6月に本件挨拶状を送付し、同年8月ころに初めて本件滞納会社との契約を請求人に変更してほしい旨伝えたのみで、業務委託の事実は一切伝えていない。
チ 取引先への通知について
 建設工事等については、業務委託することを受注先に対して通知するという慣行があるかもしれないが、警備業については、警備業法上通知が必要とされるわけではなく、また、必ずしも通知をする慣行があるというわけでもないから、原処分庁の主張には理由がない。
リ 本件提携契約書について
 本件提携契約書においては、請求人が取引先から業務を受注することが必要であり、その前提として、請求人は本件滞納会社から事業を譲り受けなければならない。
 しかし、1Wは、本件滞納会社と請求人との間で、事業の譲渡に関しての契約は交わしていない旨、また、本件滞納会社の得意先を引き継いだときのいきさつは分からない旨申述していること、2原処分庁の調査において、本件滞納会社と請求人との間で、本件滞納会社の事業を請求人に譲渡する旨の契約書は確認できず、また、本件滞納会社が事業の譲渡について株主総会の特別決議を経た旨の議事録も確認できないことが認められ、これらのことから、本件滞納会社と請求人との間では事業の譲渡に係る契約を交わしていないと認められる。
リ 本件提携契約書について
 今回の契約の変更は、法的には本件滞納会社と顧客との契約は終了し、新たに請求人と顧客が契約を締結しただけであり、請求人が取引先から業務を受注するに当たって事業譲渡の必要性はない。
 仮に、事業譲渡であるとしても、本件は株主総会の特別決議が必要な事業譲渡ではなく、事業譲渡が書面の形式を要するという法律の規定もない。また、経済活動の中で、関連会社間では口頭のみで事業譲渡が行われることもある。
 なお、得意先を引き継いだときのいきさつが分からない旨Wが申述した事実はない。
 したがって、事業譲渡契約書や株主総会議事録の存在が確認できないことは、請求人が各取引先との間で警備委託契約を締結し、警備業務を行ったことの効力を否定する理由とはならず、実際に本件提携契約書に定められたノウハウの提供や営業支援等の対価として、金員の移動があるのであるから、当該契約書に基づく提携契約には実体がある。
(3) 業務を移行させた目的
 次に述べるとおり、本件滞納会社が債務の支払を免れようとして業務を移行させたものである。
(3) 業務を移行させた目的
 次に述べるとおり、業務の移行は債務免脱を目的としたものではない。
イ 本件滞納会社及び請求人が、後継者の育成を目的としていたならば、等々力が本件滞納会社の代表取締役に就任すれば足り、本件のような業務の移行という方法をとる必要はない。 イ 本件滞納会社には、1Sが高齢、かつ健康面でも社長という激務の継続に不安があり、後継者を育成する必要と、2業務地域の拡大化、警備員数の増大化に伴う経営管理上の問題があり、解決する方法として、最終的に地域ごとに分社化させた各社に警備業を引き継がせ、本件滞納会社を持株会社(ホールディングス)にすることを計画し、順次実行しようとしたものである。
ロ 本件滞納会社には、平成18年3月末現在、本件滞納国税のほかに金融機関等から約○○○○円の借入金がある一方、請求人には、平成17年11月30日現在、銀行からの借入金はなく、多額の債務を負っている本件滞納会社から、債務が少ない請求人に事業を移行させ、本件滞納会社を整理し、本件滞納会社の債務の支払を免れることを目論んでいたとも考えられ、本件滞納会社が、真に後継者の育成や経営の合理化のみを目的として、本件滞納会社の警備事業を請求人に移行したとは、到底認められない。 ロ 請求人は、平成18年2月28日、Wを連帯保証人として○○銀行から金○○○○円の融資を受けており、請求人には実体がある。
 また、本件滞納会社の現場サイドには、多数の警備員を抱え警備会社として優良な会社である本件滞納会社が、本業とは無関係ないわゆるバブル期の不動産投資などにより、金融機関に対する多額の負債を抱えていることにつき、自らの労働で稼ぎ出した利益が十分に還元されないのではないかという潜在的な不安と、Sの後継者がいないことに対する今後の経営への強い不安を持っており、これらを解消する必要性も上記イの背景にあった。
ハ 債務を負う会社は、法的整理又は私的整理のいずれにしろ、その債権者から債務弁済について意見を求めた上で事業継続の可否を検討すべきであり、別会社に積極財産のみを承継させるのは債務免脱行為と言わざるを得ず、本件滞納会社が債務の支払を免れようとしていたことは、次のとおり明白である。
 すなわち、本件滞納会社にとって、経営の合理化、分社化及び業務の他社への移行という極めて重要な事項につき、滞納国税の納付相談に当たり原処分庁の徴収担当職員(以下「本件徴収職員」という。)に説明せず、次のような事実があった。1Sは、平成17年7月以降平成18年9月までに本件徴収職員と面接及び電話で7回接触したにもかかわらず、請求人が主張する経営の合理化等、さらに、請求人の存在すら全く言及しなかった。2S及び関与税理士2名は、平成18年9月14日、本件滞納会社の本社事務所において本件徴収職員と面接した際、「売上・入金予定表2006年7月分8月分9月分」と題する出力票を本件徴収職員に提出し、当該出力票に計上されている売上を本件滞納会社の9月以降の入金予定として、本件滞納会社の収入を説明した。3本件徴収職員が、平成18年10月24日に本件滞納会社の本社事務所に臨場し、m及び○○に対し本件滞納会社の売上・入金予定表の出力を要求したが、同人らはパソコンの操作担当者の不在を理由に拒否し、翌25日に本件徴収職員が再び出力要請したが、入力が不完全として再度拒否した。4本件徴収職員が、mに対し、パソコンから出力できなければ、売上・入金に係る基礎資料の提示を求めるに至り、mが本件滞納会社の業務を請求人に移行した旨を明かし、Wが業務移行への経緯等を説明し、初めて本件徴収職員は請求人の存在を知った。
ハ 本件滞納会社は持株会社として存続し、子会社を支援し、より合理的かつ健全な事業活動を行う予定であったのであり、滞納国税については、分割で完納する目処が立っていたはずであり、原処分庁が主張する債務の支払を免れようとしていた事実はない。一般論として、債務を負っている会社が財務状態の健全な会社に事業承継させることは、ままあることで、それのみをもって債務免脱目的があるとは到底主張し得ない。
 また、会社の法的整理又は私的整理のいずれにしても、債務者が債権者の意見を求める場合の「債権者」には、会社更生法等極めて限られた法令の適用がある場合以外には租税公課の債権者は含まれない。
 仮に、国税を滞納している法人が会社整理において国税債権者に意見を求めれば、ほぼ間違いなく、事業継続及び会社存続の生命線である売掛金債権を差し押さえられてしまうのであるから、国税債権者に意見を求めることが一般論であるなどということはあり得えず、国税債権者に意見を求めるのは事業継続を断念するときである。
 加えて、仮に、本件滞納会社については債務整理処理を行い存続させないことが前提であるならば、業務の引継ぎが終了後、直ちに債務整理手続に入るのがスムーズな方法であるところ、平成18年8月10日付で警備業務に関するノウハウの提供、作業標準化等の支援、請求人の営業支援を行うことを定めた提携契約を締結し、また、請求人は本件滞納会社に対しロイヤリティの支払を行っているのであるから、本件提携契約書に基づく提携契約は紛れもなく実体を伴うもので、カムフラージュといった類のものではない。

 2 第三債務者の手続的保障について
原処分庁 審査請求人
 請求人は、本件各債権の第三債務者には手続的保障が与えられていない旨主張するが、1原処分庁と第三債務者との関係は、民事執行による債権差押の場合と基本的には異なるものではなく、2第三債務者は、差押債権者たる原処分庁が提起する給付訴訟において、差押え前から本件滞納者に対して有するすべての異議、抗弁をもって、原処分庁に対抗することができるのであり、また、第三債務者自ら債務不存在の訴えを提起することによって究極的に地位の確定を図ることができる。  請求人の主張が認められた場合には、請求人は、なお第三債務者に対して弁済請求できるのであり、第三債務者は債権の準占有者に対する弁済として、善意、無過失を立証しない限り、弁済を免れない。通常、かかる場合に第三債務者が採り得る弁済供託というリスク回避手段も、本件においては制度上閉ざされており、第三債務者に手続保障が与えられていない。

 3 租税法律主義について
原処分庁 審査請求人
 本件各債権は、上記1のとおり本件滞納会社に帰属することは明らかであり、原処分庁は法律の規定に基づき本件差押処分を行っているのであるから、租税法律主義に違背することはない。  原処分庁は、法人の実在性を確認しているのであるから、請求人に帰属する債権又は債権の帰属に疑いのある場合については徴収法第37条又は第38条の規定によって、請求人に対し第二次納税義務を課してから処分すべきであり、本件差押処分は、その手続を怠って、法律の規定のない処分を行ったものであるから、租税法律主義に違背する重大な瑕疵があり、違法又は無効である。

 4 取立済の債権に係る審査請求について
原処分庁 審査請求人
 取立済の債権に係る審査請求については、処分が存在しないため、それぞれ却下されるべきである。  債権が取立てにより消滅したことで審査請求が却下されるならば、債権の帰属について争う請求人としては訴訟のほかに争うすべがなくなるから、簡易迅速な救済と行政処分の見直し機能を有し、もって行政処分の適正性を担保するための国税不服審判制度は機能不全に陥る。したがって、債権の取立てが終了しても、請求人には、なお審査請求をする利益が存する。
 また、上記2のとおり、本件各債権の第三債務者の手続保障の面でも余りに酷な結果である。
 したがって、取立済の債権に係る差押処分についても、なお審査請求を続行する必要性があり、却下されるべきではない。

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