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(平19.3.30、裁決事例集No.73 565頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、R株式会社(以下「本件滞納会社」という。)の滞納国税を徴収するため、審査請求人(以下「請求人」という。)と第三債務者の間で締結した警備委託契約に基づいて生じた債権について、実質的には本件滞納会社に帰属するものであるとして差押処分を行ったのに対し、請求人が、当該債権は契約当事者間で発生した債権にほかならず、請求人に帰属するものであるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成10年2月26日から平成18年10月23日までの間に、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、本件滞納会社に係る別表1の各滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)について、それぞれの滞納が発生した都度、T税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ロ 原処分庁は、平成17年7月5日、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第151条《換価の猶予》第1項第1号の規定に基づき、本件滞納会社の代表取締役Sの納税保証を担保として、本件滞納会社の滞納国税について平成17年7月11日から平成18年7月10日まで換価の猶予をしたが、当該猶予期間中に滞納国税は完納に至らなかった。
ハ 原処分庁は、平成18年10月27日付、同月30日付及び同月31日付で、本件滞納国税を徴収するため、別表2の各債権(以下「本件各債権」という。)についてそれぞれ差押処分(以下「本件差押処分」という。)を行った。
ニ 請求人は、平成18年12月6日、本件差押処分を不服として審査請求した。

(3) 関係法令

イ 国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項は、国税局長は、必要があると認めるときは、その管轄区域内の地域を所轄する税務署長からその徴収する国税について徴収の引継ぎを受けることができる旨規定している。
ロ 徴収法第47条《差押の要件》第1項第1号は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定している。
ハ 徴収法第62条《差押の手続及び効力発生時期》第1項は、債権の差押えは、第三債務者に対する債権差押通知書の送達により行う旨規定している。
ニ 徴収法第67条《差し押えた債権の取立》第1項は、徴収職員は、差し押さえた債権の取立てをすることができる旨規定している。

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(4) 基礎事実

イ 請求人について
(イ) 請求人は、平成16年12月○日、警備業務及び労働者派遣業務等を目的に、T社の商号で、P市p町○○を本店所在地とし、資本金300万円で設立された。
 請求人は、Uがその資本金300万円を全額出資して設立した同族会社であり、設立時には同人が取締役に就任していたが、平成17年2月25日、同人は取締役を辞任し、Vが取締役に就任し、同年7月14日、現在の商号に変更し、同年10月13日、Wが代表取締役に就任した。
(ロ) 請求人が、平成18年1月26日、X税務署長に対して提出した平成16年12月7日から平成17年11月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)に係る法人税の確定申告書の別表二(同族会社の判定に関する明細書)には、請求人の全出資金60口(3,000,000円)のうち、本件滞納会社が30口(1,500,000円)を、Sが18口(900,000円)を所有している旨記載がある。
(ハ) 本件事業年度に係る法人税の確定申告書に添付された決算報告書には、同事業年度において、売上○○○○円、給与手当○○○○円が計上されている。
(ニ) 請求人の議長取締役Vの記名押印がある平成17年10月12日付「臨時社員総会議事録」には、要旨次のとおり記載がある。
A 平成17年10月12日午前11時00分より当会社本店において臨時社員総会を開催した。
B 第1号議案「出資社員の移動に伴う定款変更の件」として、定款第6条につき「社員の氏名及び住所並びにその出資口数を次のとおりとする」旨満場一致により可決確定した。
(A) 本件滞納会社 30口
(B) S         18口
(C) W        12口
ロ 本件滞納会社について
(イ) 本件滞納会社は、昭和57年7月○日、警備業等を目的に、P市p町□□を本店所在地とし、資本金300万円で設立された後、平成10年6月1日、P市p町△△へ、平成13年1月18日、P市p町××へ移転し、現在に至る。
(ロ) 本件滞納会社が昭和57年7月21日X税務署長に対して提出した「法人設立届出書」に添付されている「株主名簿」には、S(持株数30株、150万円)、Y(持株数18株、90万円)、取締役Zら6名(持株数計12株、60万円)との記載がある。
 本件滞納会社は、その後、資本金が1,000万円に増額され、そのすべてをSが出資しており、代表取締役には、設立時から現在に至るまでSが就任している。
(ハ) 本件滞納会社が、平成18年5月29日X税務署長に対して提出した平成17年4月1日から平成18年3月31日までの事業年度に係る法人税の確定申告書に添付されている決算報告書には、金融機関等からの借入金○○○○円が計上されている。
ハ 警備業務の移行に関する書面
(イ) 本件滞納会社及び請求人名義で作成された平成18年3月20日付「警備委託契約書」(以下「本件委託契約書」という。)には、要旨次のとおり記載がある。
A 本件滞納会社が請求人に委託する警備業務の内容は、「警備実施要領」に記載の警備対象における歩行者及び一般車両の監視・誘導等の警備業務(以下、本契約書において「警備業務」という。)とする。〔第2条(警備業務の範囲)第1項〕
B 警備業務を遂行するために必要な警備上の権限は、本件滞納会社が請求人に付与し、かつ警備に関する運営並びに指揮の権限は、請求人が有するものとする。〔第2条(警備業務の範囲)第2項〕
C 警備業務の発注は、本件滞納会社が請求人に対して行うものとする。〔第3条(発注)〕
D 警備業務の対価は、本件滞納会社・請求人協議の上、これを定めるものとする。〔第8条(警備業務の対価)〕
E 本契約の有効期限は、本契約締結の日から1年とする。
 ただし、期間満了1か月前までに本件滞納会社又は請求人から文書による解約の申入れがないときは自動的に更に1年間延長されるものとし、以後も同様とする。〔第17条(有効期限)第1項〕
(ロ) 本件滞納会社及び請求人名義で作成された平成18年4月1日付「覚書」(以下「本件覚書A」という。)には、要旨次のとおり記載がある。
A 本件滞納会社と請求人とは、本件委託契約書に関し、以下のとおり覚書を締結する。〔前文〕
B 本件委託契約書の第8条(警備業務の対価)について、本件滞納会社・請求人が協議して、これを定めるものとする。〔第1条(目的)〕
C 平成18年4月1日より本件滞納会社は、本件滞納会社の売上高の○○%相当額を請求人に対して支払うものとする。〔第2条(警備業務の対価)〕
(ハ) 本件滞納会社及び請求人名義で作成された平成18年8月10日付「業務提携契約書」(以下「本件提携契約書」という。)には、要旨次のとおり記載がある。
A 本件滞納会社は、請求人に対し、平成18年8月21日より警備業務に関するノウハウの提供、作業標準化等の支援、並びに請求人の営業支援等を行うものとする。〔第1条(目的)〕
B 本件滞納会社の行う業務内容は、以下のとおりとする。〔第2条(業務内容)〕
(A) 営業活動に関する商談の同行セールス
(B) 受注案件の適切な割振業務の支援
(C) 会社経営及び技術、品質の改善向上の推進
(D) 警備業務情報の提供
(E) 警備業法に則り指導・監督及び教育の実施、並びに指導・教育のカリキュラムの作成業務の助言及び支援
(F) 警備実施に必要な制服・装備品の一括購入業務
(G) 管制システムの構築、改善業務支援
(H) 全各号に付帯する業務支援
C 業務提携の対価は、本件滞納会社・請求人協議の上これを定めるものとする。〔第3条(対価)〕
D 本契約の有効期限は、本契約締結の日から1年とする。
 ただし、期間満了1か月前までに本件滞納会社又は請求人から文書による解約の申入れがないときは自動的に更に1年間延長されるものとし、以後も同様とする。〔第9条(有効期限)〕
(ニ) 本件滞納会社及び請求人名義で作成された平成18年8月21日付「覚書」(以下「本件覚書B」という。)には、要旨次のとおり記載がある。
A 本件滞納会社と請求人とは、本件提携契約書に関し以下のとおり覚書を締結する。〔前文〕
B 本件提携契約書の第3条(対価)について、本件滞納会社・請求人協議してこれを定めるものとする。〔第3条(目的)〕
C 平成18年8月21日より請求人は、請求人の売上高の○○%相当額を本件滞納会社に対して支払うものとする。〔第4条(対価)〕
(ホ) 請求人名で作成された「移行に伴う経理処理」と題する書面(日付の記載はない。以下「本件移行書面A」という。)には、要旨次のとおり記載がある。
A 本件滞納会社は営業を主事業とし、請求人は警備員の派遣を主事業とする。[第1項]
B 費用負担は、原則的に移行日を基準とする。[第2項]
C 対外的に信用を必要とする案件については、原則的に本件滞納会社で行う。[第3項]
D 次の段階として、有限責任事業組合への移行を考慮する。[第4項]
E 考慮する勘定科目[第5項]
(A) 工具器具備品[第1号]
 移行日前日までの減価償却費を控除後の帳簿価格により譲渡する。
(B) 電話加入権[第2号]
 現状のままで譲渡しない。
(C) ソフトウエア[第3号]
 移行日前日までの減価償却費を控除後の帳簿価格により譲渡する。
(D) 保証金・敷金[第4号]
 事務所、寮、駐車場の賃貸借契約書及び転貸借契約書の締結により、保証金・敷金を本件滞納会社に差し入れる。
(E) 地代家賃[第5号]
 事務所、寮、駐車場の賃貸借契約書及び転貸借契約書の締結により、本件滞納会社に地代家賃を支払う。
(F) リース料[第6号]
 リース契約は本件滞納会社で行い、リース料負担分を支払う。
(G) 売上[第7号]
 本件滞納会社の売上、売掛金の回収処理は、現状のままとする。
 請求人は、各顧客の単価に一定の変換率によって計算された単価を基にして本件滞納会社に請求する。
(H) 売上原価[第8号]
 労務費、研修交通費、旅費交通費、消耗品費、被服費は、直接請求人で支払う。また、雑費(売掛金の回収時の差額)は、本件滞納会社との売掛金債権で精算する。
(I) 従業員募集費[第9号]
 本件滞納会社で募集し、請求人に請求する。
F その他[第7項]
 売掛金管理は、1本(本件滞納会社)とする。
(ヘ) 本件滞納会社及び請求人の連名名義で作成された「各支店・営業所の事務担当者様」と題する書面(日付の記載はない。以下「本件移行書面B」という。)には、要旨次のとおり記載がある。
A 3月1日からの請求人への移行を考えていたが、準備不足のため4月1日に変更したので、3月1日からの処理は、従来どおりの処理でお願いしたい。〔第1項〕
B 請求人への移行は、4月1日からすることと決定した。〔第2項〕
C 3月中に、請求人の経理担当者fが移行作業のため本件滞納会社に出向く。〔第3項〕
(ト) 本件滞納会社及び請求人の連名名義で作成された「各支店・営業所長及び事務担当者様」と題する書面(日付の記載はない。以下「本件移行書面C」という。)には、要旨次のとおり記載がある。
A 4月1日より請求人への移行作業(経理関係)を行うので協力を願いたい。〔第1項〕
B 4月より、請求人の経理担当者が移行作業のため順次、各支店・営業所に出向く。〔第2項〕
C 各支店・営業所の振込口座は、4月1日以降も同じ口座を使用する。
 3月31日現在の預金残高及び現金残高は、そのまま請求人が継承するので、営業店サイドの処理は不要である。〔第3項第1号〕
D 資金請求、稟議、伝票処理等は、従来どおりの方法で行うが、あて先名を請求人とする。
 なお、今後の請求書及び領収書等についても、請求人に順次変更する。〔第3項第3号〕
(チ) 請求人名で作成された「移行に伴う経理処理」と題する書面(日付の記載はない。以下「本件移行書面D」といい、本件移行書面A、同B及び同Cと併せて「本件移行書面等」という。)には、要旨次のとおり記載がある。
A 平成18年6月より、事務所経費は月額の予算制度で行う。〔第1項第2号〕
B 6月より対外的に請求人でスタートするので、今後の請求書、領収書等のあて名は請求人あてとする。〔第3項〕
(リ) 本件滞納会社及び請求人を作成者、本件各債権に係る第三債務者をあて先として送付された挨拶状(見開きになっている葉書2枚分の大きさの厚紙に印刷された書面。以下「本件挨拶状」という。)の右側部分には、平成18年6月付で「当社の組織改革の一旦として、警備業務に特化した新会社を発足させることとなったので、当社ともどもお引き立て賜りたい。」旨記載された本件滞納会社代表取締役Sからの挨拶文、また、左側部分には、同じく平成18年6月付で「Wが平成18年7月1日付で本件滞納会社の警備部門を統括する新会社(請求人)の代表取締役に就任する。」旨記載された請求人代表取締役Wからの挨拶文がそれぞれ記載されている。
(ヌ) 本件滞納会社(代表取締役S)及び請求人(代表取締役W)が記名押印し、「お得意様各位」をあて先とした平成18年7月付(日付の記載はない)「御依頼書」と題する書面(以下「本件A御依頼書」という。)には、要旨次のとおり記載があり、同依頼書は、本件各債権に係る第三債務者に対し、送付されている。
A この度当社では後継者の育成及び管理体制の強化を目的とした組織変更を行っている。
(A) 設立25周年を迎え、本件滞納会社の健全な発展のため、後継者育成の機会を作りたいと考えている。
(B) 所属する警備員数が約○○名に達する規模となり、従来の管理体制では限界に近づいているので、管理体制の強化を図るため、「地域子会社」の設立を目指している。
B 現在の本件滞納会社の各支店・営業所の警備機能を、平成18年8月21日をもって一旦すべて請求人へ移行し、近い将来いくつかの地域単位に分割し、子会社として独立させ、g社と共にグループを形成していく予定である。
 その際、本件滞納会社は、「持ち株会社(ホールディングス)」として機能し、子会社を支援する。グループ子会社経営の深化、グループ子会社の成長・飛躍に向けた経営諸施策を積極的に推進していく。
C 新たに、お客様と請求人との警備委託契約を締結させてもらう。また、これに伴う必要書類についても、請求人にて再提出させてもらう。
D 本件滞納会社の役割分担は、グループ全体の経営戦略策定等、請求人(子会社)の役割分担は、警備実務業務、渉外業務等である。
(ル) 本件滞納会社(代表取締役S)の記名押印がされ、○○社及び○○社をあて先とした平成18年8月○日付「警備請負契約変更についてのお願い」と題する書面には、「今回、○○社様等の工事専門に対応する部署として、弊社100%出資の子会社である請求人に交通誘導員を移籍し分社化をいたしました。つきましては、弊社との警備請負契約を解約し、新たに請求人との契約を締結してくださいますようお願いいたします。」旨記載されている。
(ヲ) 本件滞納会社(代表取締役S)及び請求人(代表取締役W)の記名押印がされ、○○社、○○社及び○○社をそれぞれ送付先とした平成18年9月付(日付の記載はない。)「御依頼書」と題する書面(以下「本件B御依頼書」という。)には、「この度当社ではより良い運営を目指して、平成18年8月1日に組織変更を行いました。つきましては、平成18年8月分より、取引名簿及び振込先等を下記のとおり変更いただけますようお願い申し上げます。」旨記載され、会社名として請求人(代表取締役W)、振込先として○○銀行○○支店(請求人名義普通預金口座)が記載されている。
ニ 原処分庁は、別表2の1の順号1ないし22、同表の2及び同表の3の各債権については、それぞれの「備考」欄のとおり、平成18年11月6日から同年12月27日までの間にその全額を取り立て、また、別表2の1の順号23ないし28の各債権については、平成18年12月20日又は平成19年1月17日、差押えを解除した。

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2 主張

 原処分庁及び請求人の主張は、別紙のとおりである。

3 判断

(1) 取立済の債権又は差押解除に係る本件差押処分に対する審査請求について

 本件差押処分のうち、別表2の1の順号1ないし28、同表の2及び同表の3の各債権に係る差押処分に対する審査請求については、次のとおりである。
イ 取立済の債権に係る本件差押処分に対する審査請求
 行政処分の取消しを求めるには、取消し対象となる処分が現に存在する必要があるところ、別表2の1の順号1ないし22、同表の2及び同表の3の各債権については、それぞれの「備考」欄の各日に、原処分庁が、徴収法第67条第1項の規定に基づいて第三債務者から取立済であることが認められる。したがって、これらの各債権の差押処分は、その取立てにより目的を完了して消滅している。
 したがって、請求人が取消しを求めるこれら各債権の差押処分は、既に消滅した差押処分の取消しを求めるものであり、請求人は、その取消しを求めるにつき法律上の利益を有しないから、上記各債権の差押処分についての審査請求は不適法である。
 請求人は、債権の帰属について争っている者としては訴訟のほかには争うすべがなくなってしまうこと、また、第三債務者も訴訟により債権の準占有者に対する弁済の主張、立証に成功することによってのみ、弁済を免れないとすれば、あまりに酷な事態となってしまうことを理由に、既に取立てにより消滅した債権に係る差押処分についても、なお審査請求を続行する必要性があるので、却下されるべきではない旨主張するが、審査請求の制度は、存在する処分によって現に請求人に及んでいる法律上の不利益がある場合に、その処分を取り消すことによって不利益を取り払い、請求人を救済することを目的とするものであり、既に消滅している処分については、それを取り消しても目的を達することはできないのであるから、請求人が主張する理由をもって審査請求の利益を認めることはできない。
ロ 差押解除に係る本件差押処分に対する審査請求
 別表2の1の順号23ないし28の各債権の差押処分については、原処分庁が別表2の「備考」欄の各日に差押えを解除していることが認められる。したがって、本件差押処分のうち別表2の1の順号23ないし28の各債権の差押処分に対する審査請求については、その前提となる処分が存在しない不適法なものである。

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(2) 上記(1)以外の本件差押処分について

イ 請求人及び原処分庁の主張について
(イ) 請求人は、取引先(第三債務者)との間で警備委託契約を締結して警備業務を行ったとして、自社が本件各債権の帰属主体であることを主張するが、原処分庁は、請求人と本件滞納会社とを実質的に同一のものとみて請求人の主体性を否定することにより本件各債権の帰属を争うので、まず、請求人が本件滞納会社と別異の法人格であることを主張することができるかが問題となる。
(ロ) すなわち、請求人は法人であって、法形式上本件滞納会社ないしSとは別人格が認められた立場にあるが、会社が法令の規定に準拠して比較的容易に設立され得ることに乗じ、取引の相手方からの債務履行請求手続を誤らせ時間と費用とを浪費させる手段として、旧会社の営業財産をそのまま流用し、商号、代表取締役、営業目的、従業員などが旧会社のそれと同一の新会社を設立したような場合には、形式的には新会社の設立登記がなされていても、新旧両会社の実質は前後同一であり、新会社の設立は旧会社の債務の免脱を目的としてなされた会社制度の濫用であって、このような場合、会社はこの取引の相手方に対し、信義則上、新旧両会社が別人格であることを主張できず、相手方は新旧両会社のいずれに対しても上記債務についてその責任を追及することができると解されていることから(最高裁昭和48年10月26日第二小法廷判決、昭和45年(オ)第658号)、次の要件を満たした場合には、信義則上、新会社は、債権者に対して旧会社とは別人格であることを主張できないと解するのが相当である。
A 会社の背後にある者が会社を自己の意のままに道具として用いる支配的地位にあること(支配要件)
B 債権者に対する債務の支払を免れるために新会社を設立する等、会社の背後にある者が、違法又は不当な目的の下に、会社形態を利用していること(目的要件)
(ハ) そこで、本件において、信義則適用の可否、すなわち、請求人が上記(ロ)のA及びBの要件を満たすか否かを審理したところ、以下のとおりである。
ロ 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人について
A 平成16年12月8日付のT社と本件滞納会社との覚書には、要旨次のとおり記載がある。
(A) T社は、本件滞納会社が円滑な経営が行えるよう、同社の本社及び支社に社員を派遣し、事務代行及び業務指導をすることを引き受ける。
(B) T社は、事務代行及び業務指導として実費相当額(固定月額○○○○円消費税別)を収受する権利がある。
B 平成17年4月1日付のT社と本件滞納会社との覚書(以下、上記Aの覚書と併せて「本件T社覚書」という。)には、要旨次のとおり記載がある。
(A) T社は、本件滞納会社が円滑な経営が行えるよう、同社の本社及び支社に社員を派遣し、事務代行及び業務指導をすることを引き受ける。
(B) T社は、事務代行及び業務指導として実費相当額(固定月額○○○○円消費税別)を本件滞納会社より当月末日までに収受する。
(C) 本事務代行業務は、平成17年4月1日より平成18年3月31日までの期間とする。
C 請求人は、平成18年8月○日、○○県公安委員会に対し、次に記載する内容で支店等を開設する旨の平成18年8月21日付警備業法第11条第1項変更届出書並びに警備業法第16条第2項の規定に基づく服装届出書を提出している。

支店等 所在地 電話番号 責任者
統括本部 ○市○町○○ ○○○○ ○○○○
○○営業所 ○市○町○○ ○○○○ ○○○○
○○営業所 ○市○町○○ ○○○○ ○○○○
○○支店 ○市○町○○ ○○○○ ○○○○
○○支店 ○市○町○○ ○○○○ ○○○○
○○営業所 ○市○町○○ ○○○○ ○○○○
○○営業所 ○市○町○○ ○○○○ ○○○○
○○支店 ○市○町○○ ○○○○ ○○○○
○○支店 ○市○町○○ ○○○○ ○○○○
○○支店 ○市○町○○ ○○○○ ○○○○
○○営業所 ○市○町○○ ○○○○ ○○○○
○○支店 ○市○町○○ ○○○○ ○○○○

D 本件徴収職員が平成18年10月26日に本件滞納会社に臨場した際に収集した資料によれば、次のとおりである。
(A) 本件滞納会社の総勘定元帳の写しによると、貸付金勘定(平成18年4月1日から同年9月29日)について、本件滞納会社は、請求人に対し、ほぼ毎日のように当座預金から貸付けを行っており、平成18年4月1日には零円であった貸付金残高が、同年9月29日現在では○○○○円となっている。
(B) 請求人の総勘定元帳の写しによると、短期借入金勘定(平成18年4月1日から同年9月29日)について、請求人は、本件滞納会社から、ほぼ毎日のように借入れを行っており、平成18年4月1日には零円であった借入金残高が、同年9月29日現在では○○○○円となっている。
E 請求人が、当審判所に対して提出した、平成17年12月1日から平成18年11月30日までの事業年度に係る決算に当たり作成した総勘定元帳によれば、次のとおり、売掛金等を計上している。
(A) 売掛金
 平成18年3月末の本件滞納会社に対する売掛金は○○○○円であり、同年4月から同年11月までの間、売掛金○○○○円(本件滞納会社からの業務委託料○○○○円と取引先からの売上○○○○円との合計額)が発生し、○○○○円(次の(B)及び(C)で述べる本件滞納会社への借入金返済、地代家賃及び業務提携料等との相殺額○○○○円と取引先からの回収額等○○○○円との合計額)が減少している。
(B) 借入金
 平成18年4月から同年11月までの間、本件滞納会社から毎日のように借入れが行われ、総額では○○○○円となっているが、そのうち○○○○円が本件滞納会社に対する業務委託料等の売掛金と毎月末に相殺され、同年11月末残高は○○○○円となっている。
(C) 地代家賃等の費用
 平成18年4月から同年11月までの間に、主なものとして、次の費用が計上されており、そのほとんどが、本件滞納会社に対するものであり、上記(A)のとおり同社に対する売掛金と相殺されている。
a 地代家賃   ○○○○円
b リース料   ○○○○円
c 業務提携料 ○○○○円
F 発信者を請求人(代表取締役W)とし、「お取引先様各位」をあて先として作成されている平成18年10月○日付書面(以下「事業停止挨拶状」という。)には、「本日、当社の関連会社である本件滞納会社が、資金繰悪化のため、金融機関への支払を停止した。当社としても、同社と多額の貸借関係があるため、このまま事業の継続を行うことが困難となり、平成18年10月31日をもって事業を停止せざるを得なくなった。貴社からの受注業務については、当面の間、h社よりご協力いただける予定であるので、ご理解をお願いしたい。」旨記載されている。
G 請求人(代表取締役W)が記名押印し、「お得意様各位」をあて先として作成されている平成18年10月付(日付の記載はない)「経緯書」と題する書面(以下「本件経緯書」という。)には、要旨次のとおり記載がある。
(A) 本件滞納会社は警備員○○名に達する規模になったが、Sが平成17年11月に病気を患い、後継者への継承が急務になると同時に、警備員の管理面が限界に近づきつつあったことから、平成18年8月21日をもって請求人に移行した上で、地域ごとに分社化を行い、本件滞納会社がホールディングス(持株会社)として機能するという組織変更を行い、皆様方のご理解を得た上で新たにご契約をいただき、営業を開始しました。〔本件滞納会社から請求人への移行経緯〕
(B) 本件滞納会社は、資金繰悪化により銀行等金融機関だけでなく、いわゆる街金融であるj社からも融資を受けており、その際の担保として、債権譲渡兼債権譲受通知書用紙を差し入れていたようです。
 そして、本件滞納会社の支払停止という措置により、平成18年10月○日付内容証明郵便にて、その債権譲渡兼債権譲受通知書(以下「本件債権譲渡通知書」という。)がお客様へ郵送されています。
 この件につきましては、代理人弁護士を通じてj社と和解し、債権譲渡の撤回で合意していますので、正式な文書をもって手続をさせていただきます。〔債権譲渡内容証明郵便について〕
(C) 当社(請求人)は、本件滞納会社との関連会社という関係上、当社単独では今後しばらくの間金融機関からの資金調達が非常に困難であり、近い将来資金繰りがつかなくなることから、このまま事業の継続をすることが難しいと判断せざるを得なくなり、平成18年10月31日をもって事業を停止することとしました。
 貴社からの受注業務につきましては、平成18年11月1日をもって警備業務をh社に、平成18年10月3日をもって派遣業務をk社にそれぞれ移行させていただき、引き続き業務に当たらせていただきたいと切に希望しています。〔今後の運営について〕
H 請求人は、取引先(第三債務者)に対して、事業停止挨拶状及び本件経緯書を送付若しくは持参した。
I 請求人は、平成18年10月末、事業をh社とk社に移行した。
(ロ) 本件滞納会社について
A 平成17年10月1日現在で作成されている本件滞納会社の組織図によれば、同社の組織として、代表取締役社長Sの下に、m、営業本部長n及び警備本部長W並びに各支店等の所長及び所在地等が、次のとおり記載されている。

支店名等 支店長等 所在地 電話番号
○○支店 ○○○○ ○市○町○○ ○○○○
○○営業所 ○○○○ ○市○町○○ ○○○○
○○営業所 ○○○○ ○市○町○○ ○○○○
○○支店 ○○○○ ○市○町○○ ○○○○
○○営業所 ○○○○ ○市○町○○ ○○○○
○○営業所 ○○○○ ○市○町○○ ○○○○
○○営業所 ○○○○ ○市○町○○ ○○○○
○○営業所 (記載なし) ○市○町○○ ○○○○
○○支店 ○○○○ ○市○町○○ ○○○○
○○営業所 (記載なし) ○市○町○○ ○○○○
○○支店 ○○○○ ○市○町○○ ○○○○
○○支店 ○○○○ ○市○町○○ ○○○○
○○支店 ○○○○ ○市○町○○ ○○○○

B 本件滞納会社(代表取締役S)、同社代理人r弁護士及び同s弁護士の記名押印があり、金融機関各位をあて先として作成された平成18年(2006年)10月○日付「ご連絡」と題する書面(以下「本件支払停止書面」という。)には、要旨次のとおり記載がある。
(A) 弊社(本件滞納会社)は、昭和57年の創業以来ご愛顧をいただいて来たが、この度、平成18年10月○日より支払の停止をさせていただくことになった。
(B) 不動産投資等の影響等により資金繰りが悪化した結果、このような事態となったことを深くお詫び申し上げる。
(C) 弊社(本件滞納会社)としては、今後、法的処理を検討している。
C j社からの借入金については、以下の事実が認められる。
(A) 譲渡人を本件滞納会社、譲受人をj社、被通知人を取引先(第三債務者)とする本件債権譲渡通知書が、平成18年10月○日付の内容証明郵便で当該取引先各社に対して送達されている。
(B) r弁護士及びs弁護士名で作成され、上記(A)の取引先各社をあて先とした2006年(平成18年)10月○日付の書面には、要旨次のとおり記載されている。
a 本件滞納会社では、数年前より、利息制限法に超過する利息で、j社から資金の融資を受けていたが、同社は、貸付債権の担保として、本件滞納会社の捺印をした内容証明郵便の用紙を預かり保管していた模様で、平成18年10月○日ころ、これを取引先各社に発送した模様である。
b j社の債権は、利息制限法超過利息の貸金であり、本件滞納会社は、j社に対して、数年にわたり支払った利息制限法超過利息の返還請求権を有している。
(C) j社が取引先各社(第三債務者)にあてた平成18年10月○日付の書面には、本件債権譲渡通知書を撤回する旨記載されている。
(D) r弁護士は、当審判所に対し、「平成18年9月下旬にSから債務整理を委任されて代理人に就任したのであるが、その時点で、銀行からの借入金のほか、街金融からの借入れも○○○○円あった。」旨申述している。
(ハ) 警備業務の移行に関する書面
 本件滞納会社名で「お客様各位」あてに作成されている平成17年11月付(日付の記載はない)の「ご案内」と題する書面(以下「本件ご案内書」という。)には、要旨次のとおり記載がある。
 なお、本件ご案内書は、取引先に交付されていない。
A この度当社では業務の拡大に伴い、組織変更を行うべく準備中である。
B 地区事情に合わせた勤務体制を構築すべく、「地域子会社」の設立を準備中である。
C 基本的には現在の取引形態を継続したいと考えている。貴社、本件滞納会社、本件滞納会社の子会社の三者契約を締結し、警備員の派遣は子会社が協同して当たり、貴社への請求業務は本件滞納会社が担当する。
(ニ) 原処分庁における滞納整理の状況
A 原処分関係資料によれば、原処分庁がT税務署長から徴収の引継ぎを受けた平成10年2月26日から本件差押処分が行われた平成18年10月27日までの間における各年末等の本件滞納会社の滞納残高(滞納税額の総残額)の推移は、次のとおりである。

年月日 滞納残高(円)
平成10年 2月26日 ○○○○
平成10年12月31日 ○○○○
平成11年12月31日 ○○○○
平成12年12月31日 ○○○○
平成13年12月31日 ○○○○
平成14年12月31日 ○○○○
平成15年12月31日 ○○○○
平成16年12月31日 ○○○○
平成17年12月31日 ○○○○
平成18年10月27日 ○○○○

B 原処分関係資料によれば、原処分庁は、T税務署長から徴収の引継ぎを受けた平成10年2月26日以降平成18年10月25日までの間、本件滞納会社に対し、合計百回以上にわたり、電話又は面談等により、各年を通じて滞納となっている納付税額の督促や納付計画を示すよう指導及び相談をしていること、本件滞納会社は、この間、新規滞納税額発生と滞納税額の一部納付あるいは手形等の差入れによる納付委託及び書換えによる取消しなどを繰り返した結果、上記Aの滞納税額残高が生じていることが認められる。
 本件滞納会社は、平成18年7月10日に滞納国税の一部を納付した後本件差押処分が行われた同年10月27日までの間、滞納国税を納付していない。
C 原処分関係資料によれば、納税の相談等に係る経緯が次のとおり認められる。
(A) 平成17年6月9日
 Sは、本件滞納会社において、本件徴収職員に対し、次のとおり申出をした。
a 今後は、毎月20日から25日に国税局に出向いて余裕資金を報告の上、月○○○○円を基本とし、上乗せ可能な月には○○○○円から○○○○円を加えて分納したい。分納額は月○○○○円以上に固定すると資金繰りが逼迫し、借入れを起こすことになるから上記納付の計画を認めてほしい。
b 平成18年7月以降は月○○○○円の分納とし、平成19年3月末には○○○○円のスポット納付を行う。また、同年7月以降は月○○○○円の分納を行いたい。
(B) 平成17年6月29日
 本件滞納会社のtは、u国税局において、原処分庁に対し、納税のため約束手形13枚(平成17年8月10日ないし平成18年7月10日の支払期日に係る額面各○○○○円のもの12枚及び同○○○○円のもの1枚)を提出した。
(C) 平成18年3月27日
 Sは、本件滞納会社において、本件徴収職員に対し、「平成18年3月中に○○○○円納付予定であったが、納付資金がなかった。なお、生命保険は、すべて解約して納付資金に充て何も残っていない。」旨申出をした。
(D) 平成18年6月13日
 Sは、本件滞納会社に電話連絡した本件徴収職員に対し、「滞納に係る本税は、平成18年7月10日の支払後の残額○○○○円弱を同年8月中に支払う予定である。また、附帯税について、引き続き分納したいので、同年6月16日に国税局で相談したい。」旨申出をした。
(E) 平成18年6月16日
 t及びv税理士は、u国税局において、本件徴収職員に対し、「滞納に係る本税は、平成18年7月に○○○○円(提出済みの約束手形)及び別途○○○○円を納付し、同年8月に約○○○○円を納付することで完納となる。滞納に係る附帯税は、約○○○○円となるが、毎月○○○○円ずつ納付していきたい」旨申出をし、これに対し、本件徴収職員は、「平成18年8月に本税を確実に完納すること、残額が附帯税のみとなったら再度納付相談をするが、毎月○○○○円ずつの納付では長期となるので検討を要する。その場合、半年ごとに見直しを行う。」旨申し渡した。
(F) 平成18年7月24日
 Sは、本件滞納会社に電話連絡した本件徴収職員に対し、「tは、病気で出社できず、現在、経理関係を自分とfで担当しているが、金融機関の借入返済について、厳しい状況にあるため、納付を繰り下げて平成18年11月及び同年12月にしてほしい」旨申出をし、これに対し、本件徴収職員は、「納付は、貴社から申出の約束事であり履行してもらいたい。」旨申し渡した。
(G) 平成18年9月14日
 Sは、w税理士及びv税理士を同席させ、本件滞納会社において、本件徴収職員に対し、「現在、w税理士が納税計画及び資金繰表の作成準備をしており、当該作成資料は、平成18年9月29日までに原処分庁に提出予定であるが、新たに納付期限が到来する消費税等中間分を優先して10月から12月までに完納し、既にこれまでに滞納となっている国税は長期間の分割納付を希望する。」旨の申出をし、これに対し、本件徴収職員は、「納付希望は聞くが、納税の誠意がないと判断した場合、強制処分を行うことがあると承知してもらいたい。」旨申し渡した。
 また、本件徴収職員が、売上及び入金予定表の提出を求めたところ、Sは、自分の机上にあった「売上・入金予定表2006年9月分(出力日2006年9月6日)」を提出し、併せて同表の7・8月分も経理の女性に出力させて提出した。
 なお、同表には営業所ごとに、各取引先(工事先)に対する平成18年8月分の売掛金請求額及び入金額等の明細が記載されている。
(H) 平成18年10月2日
 w税理士は、u国税局において、本件徴収職員に対し、「Sが体調を崩し来局できないが、当面は、消費税等の平成19年3月期中間分の滞納額を平成18年12月末までに完了し、既に滞納となっている国税の納付は、平成19年1月以降に分割で納付していきたい。」旨申出をした。
(I) 平成18年10月2日
 s弁護士は、本件滞納会社に電話連絡した本件徴収職員に応答し、「資金繰りを含めて金融機関を巡回する予定であったが、Sが体調を崩し、自分が一人で金融機関を回った。同人の体調の程度は分からないが、同人と一緒に国税局へ出向く予定でいる。同人と連絡が取れたら連絡する。」旨申出をした。
(J) 平成18年10月25日
 r弁護士は、本件徴収職員に対し、電話連絡により、「平成18年10月31日にS及びmとともに出局して事情説明をしたい。」旨申出をし、これに対し、本件徴収職員は、申出を拒否し、同月26日午前中までの出局を求めた。
 本件徴収職員は、r弁護士に対し、「s弁護士が債務整理のため銀行を回ったと聞いているが、s弁護士とr弁護士は同じ事務所であるのか。」を質問し、これに対し、r弁護士は、「s弁護士と自分は同じ事務所である。」とし、「平成18年10月○日は銀行の短期借入の返済日であり、その返済期日の延期をお願いに回って了承を得た。今後、銀行の返済について短期借入を長期借入に変更していく予定である。」旨回答した。
(K) 平成18年10月25日
 mは、本件滞納会社において、売上及び入金予定表の出力、受注及び請求等の書類提示を求める本件徴収職員に対し、次のとおり申述し、本件A御依頼書を提出した。
a Sとは、昔同じ所で働き世話になった。自分の取締役職は名目のものである。
b 自分の仕事の内容は、総務関係と請求書の作成、来客との応接である。
c Sは不在であるが、これまでSがすべてを取り仕切っていたので、細かいところは分からない部分もあり、取引先など今まで継続取引の所などを手探り状態で処理している。
d 実は、本件滞納会社が行っていた仕事をそっくり請求人に引き継いだ。
e 平成18年4月1日以降、本件滞納会社が行っていた警備関係を請求人に任せるようにした。そして、同年8月21日からは、受注契約、売上の請求、入金先等を本件滞納会社から請求人にすべて切り替えた。
(L) 上記(K)のmの申述に続いて、Wは、本件滞納会社において、本件徴収職員に対し、次のとおり申述した。
a 自分も以前は本件滞納会社の従業員だったが、平成17年12月に、T社という会社を商号変更して、請求人の代表取締役に就任した。T社は、女性だけの警備員の会社として立ち上げたが、仕事はなく休業状態であった。
b 社長就任から平成18年3月までは準備期間で、4月から請求人は、本件滞納会社からロイヤリティ(売上の○○%)をもらっていたが、平成18年8月21日を境に、逆に請求人から本件滞納会社にロイヤリティ(売上の○○%)を支払うようになった。このロイヤリティ契約書は、自分のところにはなく、Sが所持している。
c 得意先、営業所、派遣警備員を引き継ぐ際の契約書については、書類を作成したか不明である。何しろ、Sはワンマンで、何でも自分がしなければ気が済まない性質であった。
D 原処分関係資料によると、平成18年10月26日、本件徴収職員が行った○○信用金庫○○支店おける調査において、同信用金庫の○○融資課長は、本件徴収職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(A) 本件滞納会社への融資金は、平成18年8月31日を最後に返済されていない。
(B) 平成18年10月○日午前11時ころ、本件滞納会社の委任を受けたs弁護士が来店し、本件滞納会社は、法的整理を検討しているので、融資金については支払停止となる旨一方的に告げ、「本件支払停止書面」を提出した。
 なお、○○銀行○○支店法人営業部の担当者から、本件滞納会社は、同行に対しても、当金庫に対するものと同じ「本件支払停止書面」を提出していることを聞いた。
(C) 上記(B)の当時は、それまでの返済スキームの変更や平成18年3月に行った短期手形融資から長期貸付の変更の見直しについて、8月末ころから交渉している矢先であったので、まさに寝耳に水であった。
(D) 本件滞納会社からの資金繰りの申出は、必ずSからあった。同社の元経理部長たちは、Sから指示を受けた書類を提出するくらいであったと記憶しているので、本件滞納会社の資金管理はSが取り仕切っていたように思う。
(ホ) 請求人と第三債務者との間の警備委託契約に関する書面
 本件各債権に係る警備業務に関する請求人と第三債務者との間の契約書の作成状況等については、次表のとおりである。

第三債務者 契約書の有無 日付 契約書の名称等
○○社 18年7月25日 工事下請負基本契約書
○○社
○○社 18年8月21日 警備業務委託基本契約書
○○社 ※ 一部有 18年8月24日 警備委託契約書
(日付なし) 警備委託契約書
○○社 18年8月21日 警備請負契約書
○○社 ※ 一部有 18年8月21日 警備委託契約書
○○社 ※ 18年8月21日 基本単価契約内訳書
○○社 ※
○○社 ※
○○社 18年8月11日 警備委託契約書
18年8月21日 警備委託契約書
○○社 (日付なし) 警備委託契約書
○○社 ※ 一部有 18年8月21日 警備委託契約書
○○社 18年8月23日 工事下請基本契約書
○○社 18年8月1日 警備業務委託基本契約書
○○社
○○社 18年8月1日 警備委託契約書
○○社
○○社
○○社
○○社

(注)第三債務者欄の※印については、工事現場ごとに現場責任者との間で契約書が作成されている。
(ヘ) 原処分庁の第三債務者への調査状況
 原処分関係資料によれば、本件徴収職員は、本件各債権に係る第三債務者に対し、警備委託契約に係る締結経緯及び認識に関して照会を行い、それぞれ要旨次の回答を受けている(見出しに付した括弧内日付は、本件徴収職員が調査を行った日)。
A ○○社○○支店(平成18年10月27日)
 当社の○○支店から同年10月○日に本件滞納会社が手形不渡りを出したとの連絡を受け、当社の本件滞納会社の買掛金について確認したところ、請求人から平成18年10月末払分の請求書が届いた。しかし、当社は、外形上本件滞納会社の社員が請求人の社員となった日が明らかでなく、また、社員の雇用主が代わったという通知も受けておらず、さらに、少なくとも平成18年9月末までは請求人が本件滞納会社の社員を引き継いだとの主張は一度もされていないから、同日の不渡りまでは本件滞納会社が仕事をしていたと認識しており、本来は本件滞納会社が請求すべきと考えている。
B ○○社○○支店(平成18年10月26及び27日)
(A) 平成18年6月に届いた葉書(本件挨拶状)の内容は、本件滞納会社の子会社として請求人を設立したという内容であり、請求書も本件滞納会社と請求人とでは違う書式であったので、別会社として認識している。
(B) 警備員の採用は、各現場の所長の裁量で決められ、各工事の発注書等がその契約書の代わりになるので、会社単位での大枠の契約書は作成していない。
C ○○社○○支店(平成18年10月27日)
(A) 平成18年6月ころ、滞納会社から独立した請求人が業務を引き継ぐ旨の連絡が当社の現場担当者にあった。従業員等の変更もなく引き継ぐという話であったので、現場担当は容認していた。
(B) 請求人が、本件滞納会社から仕事を引き継いだ経緯は不明であるが、現場を4か所引き継ぎ、同じ警備員が従事しているらしい。
D ○○会社(平成18年10月26日)
(A) 本件滞納会社とは、平成18年8月20日までの契約であり、同月21日からは請求人との契約となっている。
(B) 今年の8月初旬、Sから、口頭で請求人に契約を変更してほしいとの依頼があった。詳しい事情は聞いていないが、請求人の代表取締役は、本件滞納会社の元従業員のWであったし、暖簾分けみたいな認識を持ち、今までの本件滞納会社との長年の信用もあり、請求人との契約に至った。
E ○○社(平成18年10月27日)
 当社は、○○工事を行っており、本件滞納会社及び請求人には警備員の派遣を依頼している。基本契約書はなく、現場が使いやすい業者を直接決めているのが実情である。
F ○○社○○支店(平成18年10月27日)
(A) 当社は、○○の仕事が多く、取引の内容はその工事現場の交通整理及び通行人などの誘導であるが、本件滞納会社及び請求人とも基本契約書はなく、両社から届く請求書のみである。
(B) 請求人は、滞納会社の警備部門が独立した会社と聞いているが、請求人との取引は平成18年8月23日から開始している。
G ○○社○○支社(平成18年10月27日)
(A) 本件滞納会社との取引については、平成18年6月ころ、本件挨拶状を受け、平成18年8月21日以降は、請求人との取引に変更している。
(B) 平成18年7月ころに、本件A御依頼書が現場事務所へ郵送されているが、詳細については確認していない。
(C) 本件滞納会社から請求人へ取引を変更したことについては、警備員も本件滞納会社と請求人とでは変更がなく、全員が請求人に引き継がれていることから、いわゆる社名変更と認識している。
H ○○社本社(平成18年10月27日)
(A) 本件滞納会社及び請求人とは、警備に関する基本契約書は取り交わしていない。警備員派遣の契約は、各現場責任者レベルで行い、基本的には契約書を取り交わしているはずであるが、中には口頭での契約もある。
(B) 本件滞納会社から請求人に取引先名変更があったときは、本社へは本件A御依頼書が届いただけで、誰も訪ねて来なかった。
I ○○社本店(平成18年10月27日)
(A) 本件A御依頼書によれば、会社をグループ化、一部業務を子会社化するとの説明があり、本件滞納会社と請求人とは別会社という認識であった。
(B) しかし、平成18年10月になって本件債権譲渡通知書が届き、同月に請求人が業務停止し、また、別会社に業務を移行する旨の説明を受けた時点で、計画的に会社の名前を変えて業務を続けて行こうとしていたという疑念は持った。
J ○○社(平成18年10月27日)
(A) 平成18年8月20日に本件滞納会社のx支店長から、本件滞納会社は、警備員全員を請求人に移籍させるので、今後は、請求人で事業を継続して行う旨の説明を受けた。
(B) 人間をすべて引き受けていることから、今までと業務上は変わらないので、請求書等のあて名が変わるだけとの認識しかなかった。
(C) 新規契約を締結したというよりは、ただ、請求書や支払先などの点で、契約書と会社名が違うのは都合が悪いとの観点から、請求人との契約書を作成したという経緯である。
K ○○社(平成18年10月27日)
 平成18年8月末締め分の請求時(同年9月初旬)に、本件滞納会社から同年8月1日に組織変更で請求人になり、請求人名義の預金口座に振り込んでほしい旨の本件B御依頼書が一方的に送られてきた。
L ○○社(平成18年10月27日)
(A) 平成18年9月中旬ころ、本件B御依頼書が送付されたが、当社としては、役務の提供さえ確実に行われれば、業務に支障はないと判断し、同月13日付で請求人に係る仕入先登録カードを作成し、経理部あて送付した。
(B) 平成18年7月ないし9月発注分(同年8月3日から同年9月7日にかけて警備を依頼した分)については、契約の相手が請求人か否か判断に苦慮している。
(C) 請求人への変更を認識した後の平成18年9月29日及び同年10月17日付「業務発注書」の相手方あて名が本件滞納会社となっているのは、発注担当者が名簿の更新をしていなかったことが原因であるが、現場サイドでは本件滞納会社と請求人とが全く別の会社であるという認識が薄いことも一因ではないかと思われる。
M ○○社(平成18年10月27日)
 平成18年8月に、今後の取引は子会社化した請求人に引き継ぐ旨申出があり、現在は、請求書も請求人から送付されている。当社としては、本件滞納会社から請求人に対しての営業譲渡と考えており、当然債務も引き継ぐものと考えている。
N ○○社(平成18年10月27日)
 平成18年9月初めに本件滞納会社から連絡があり、同年8月取引分から請求人の名称へ組織変更したため、請求人名で今後も取引を継続してほしいとの申出があった。
 数日後、本件B御依頼書の送付を受け、平成18年8月分から請求人との取引として請求人名義の口座に売上を振り込んでほしいとの依頼を受けたが、当社としては一方的な申出であったため、一度説明に来るように指示していたが、いまだ説明には来ていない。
(ト) 関係人の申述
A Wは、平成18年10月26日、本件徴収職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(A) 私は、平成4年に本件滞納会社に入社し、平成17年12月まで勤務していた。その後、本件滞納会社の代表取締役Sの指示で請求人の代表取締役に就任した。
(B) 私自身が雇われ社長であるため、本業の警備の方しか分からない。請求人についても、経営の実体はSにあるため、お金の流れ等Sしか分からない。
(C) 本件滞納会社との間では事業譲渡等に関する契約は、締結していない。
 クライアントに対しては、本件滞納会社から請求人に変更する旨説明し、新たに請求人との間で警備委託契約を締結した。
(D) 従業員への移籍の伝達は、Sと自分のほか各現場責任者が口頭で行った。
B fは、平成18年11月10日、本件徴収職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(A) 私は、○○銀行に勤めていたが、平成17年11月に同行の取引先である本件滞納会社を紹介された。
(B) 本件委託契約書及び本件提携契約書は自分が作成した。
(C) 本件覚書Aで定められた警備委託料○○%の受取方法、受取期日については特に決めていないが、請求人側としては、本件滞納会社の売上金額が確定する月末までは売掛金として計上しておき、翌月に借入金と売掛金を相殺していた。
 また、人件費の支払日は20日であるが、請求人には現金がないので、人件費の支払は本件滞納会社からの借入金で支払っていた。そして、翌月に売掛金(警備業務受託料)と借入金との相殺処理を行っていた。
(D) 本件移行書面等は、自分が、平成18年1月から文書の中の日付の1か月前ころにパソコンで作成したものであり、本件滞納会社の業務を請求人に移行させる場合の本社、各支店、経理上の取扱いを整理したもので、自分の立場上及び移行作業の問題で整理したものである。移行に係る文書はこれ以外に作成していないと思う。
(E) 本件移行書面等の作成に当たって、特に指示はなかったが、Sが後継者の育成で悩んでおり、移行については本件滞納会社の役員会で方針が決まったはずである。
 なお、本件移行書面Aについては、内部の文書であり、たたき台の文書であるので実際には行われていない。
(F) 本件移行書面Aの第3項にある「対外的に信用を必要とする案件については、原則的に本件滞納会社で行う。」というのは、請求人は設立してから1年くらいしか経っていないため、銀行からの借入れやリース契約を結ぶ際に信用が薄いので、そのような場合には本件滞納会社が対処する必要があるからである。
(G) 本件移行書面Cは、3月末くらい、4月に入る2日前ぐらいに内部で配っており、この書面に書かれていることは4月1日から実行している。
(H) 本件移行書面Dは、5月中旬に配付し、6月から実施している。
 「6月より対外的に請求人でスタートしますので、今後の請求書、領収書等のあて名は請求人あてにしてください。」との記載部分は、6月から一部実行されたが、これは、請求人が発行する請求書、領収書という意味ではなく、逆に請求人あての請求書、領収書についてである。つまり、経費の支払等、あくまでも支払う場合である。
(I) 本件滞納会社から請求人へ業務を移行する際、滞納国税の納付についての話や指示について、Sからは特に何もなかった。
C 請求人の従業員(警備員)であるyは、平成18年10月26日、本件徴収職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(A) 今年の8月1日から、請求人の社員となった。
(B) 自分は、2年前に本件滞納会社に就職した。就職といっても派遣社員みたいなものである。今年の7月末までは本件滞納会社から給料をもらっていた。
 自分は、本件滞納会社の○○営業所に所属しており、そこの責任者から、8月1日から請求人に変わると言われ、社員証、身分証が請求人となった。
 また、8月分の給与が9月20日に振り込まれたが、その分が本件滞納会社ではなく、請求人となった。
(C) 会社名が変わってからも、仕事に関しては一切変わっていない。社員証、身分証が変わったことと、給与の支給者が変わったこと以外は、特に今までと変わっていない。
(チ) 関係人の答述
A Wは、平成19年2月26日、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(A) 業務委託に関して、取引先に事前説明はしていない。当初は平成18年6月までに業務提携に切り替え、取引先との間で請求人と契約してもらう予定(実際には同年8月にずれ込んだ。)だったので、それまでに説明をすればよいと考え、平成18年6月、取引先に対して、業務提携についての説明を開始したので、問題ないと思った。
(B) 現場には、平成18年4月以降も、同年3月以前と同じ警備員が、同じ制服を着て、同じ業務に就いていたので、取引先は、本件滞納会社から派遣されているものと認識していたのだと思う。
(C) 平成18年4月以降、トラブルが発生した場合には、本件滞納会社に対して補償が求められることになるが、請求人としても本件滞納会社から損害賠償を請求されることになる。
 請求人は、取引先から警備業務の委託を受けていないにもかかわらず、警備業務を行い、警備員の給与を支払っているということになるが、警備業務を完全に移行し、警備提携に切り替えた時期は、当初平成18年6月に予定し、実際には同年8月であって、切り替えまでに1年か2年かかるということであればともかく、短期間だったので、問題はないと思った。
(D) 平成18年4月以降、本件滞納会社から資金を借り入れるに当たり、金銭消費貸借契約書は作成しておらず、また、借入金額、金利等についての取り決めもしていない。給与の支払のため、必要な金額をその都度振り込んでもらい、利息は支払っていない。
(E) 業務提携について、平成18年6月以降、現場を一軒一軒周り、すべての取引先に対して説明をし、了解を得た。
 一部の取引先については、説明が間に合わず、平成18年9月の初めに説明した取引先がある。その取引先については、了解を得て、同年8月の日付にさかのぼって契約書を作成し、請求人名で請求書を発行しているが、取引先の了解が得られたので、問題はないと思う。
(F) 請求人は、本件滞納会社の営業所、備品等のほとんどを賃借しているが、賃借するに当って、契約書は作成していない。
(G) 家賃やリース料などの金額の大きいもの以外の細かい備品等については賃借料の支払はないが、ロイヤリティの中に含まれていると認識している。
(H) 平成18年10月○日に本件滞納会社が銀行に対して支払停止をしたことを知ったのは、その日である。
 もともと、請求人は、本件滞納会社からの借入れにより、事業を行っていたし、また、請求人が借入れをするにしても本件滞納会社の力が必要だったので、いずれ請求人が事業を停止せざるを得なくなるのは明らかであった。
 そのようなことから、k社及びh社に協力を求め、警備員を受け入れてくれるということになり、請求人の事業を停止した。
 なお、事業停止挨拶状は、平成18年10月○日付で作成されているが、同日に本件滞納会社が支払停止をしたことからその日付を書いたものであって、実際には、後に取引先に説明するために日付をさかのぼって作成した。
(I) T社は、設立当初、女性の警備員のみを雇用して警備業を行う予定だったが、女性のみを募集することができず、実際には警備業務は行われていない。
(J) 本件T社覚書は本日初めて見たが、同覚書に記載されているとおり、事務代行料等については、請求人の売上に毎月計上されている。
(K) 本件T社覚書が作成された当時は、代表取締役ではなかったので、作成された事情については、よく分からない。当時の担当者に聞いて後日回答したい。
B Wは、平成19年3月8日、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(A) 本件T社覚書の作成経緯について、fに聞いた話から推測すると、女性の警備員を事業の柱にしようとして、内勤の従業員をT社に移籍させたが、実際には女性警備業は稼働できなかったので、結果的には、本件滞納会社のためだけに働いている従業員へ給与を支払う状態であったようである。
(B) 私は、分社化のために請求人の代表者に就任したので、本件T社覚書を作った事情は分からないし、細かくみていない。
 また、事務代行料等が支払われることについては、かつての本件滞納会社の仲間であったので、特に違和感は持たなかった。
(C) 本件事業年度に支払われている○○○○円の給与の対象者、人数についてはよく分からない。
(D) 請求人の会社の制服、ロゴマークは、本件滞納会社と同じものである。分社化するということだったので、グループ内では同一のものを使用することにしたので、あえて代えなかった。
C fは、平成19年2月19日、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(A) Sに面接し、請求人に入社するよう言われ、入社することになった。請求人での面接は特になかった。
(B) 請求人に入社した当初の平成17年11月から、警備業務に関してノウハウのある本件滞納会社の本店所在地で、警備業について勉強しながら、経理事務を行っていた。
(C) 平成18年4月分以降の警備員に対する給与や警備業務の経費は、請求人が支払っているので、警備員の移籍は、平成18年4月1日に行われたということになるが、取引先との契約及び制服やリース契約等は、本件滞納会社のままであり、警備員も本件滞納会社として出動していたので、外見上は変わっておらず、警備業務の実態は本件滞納会社のままである。
(D) 警備業務に係る取引先からの入金は、現場で警備業務を行ってから2か月くらい先になる一方で、警備員に対する給与の支払は、警備員が実際に働いてからすぐに行わなければならず、場合によっては、日払いをしなければならないこともあり、警備業務を請求人に移行させた当初は資金繰りがつかないため、平成18年4月以降、本件滞納会社から必要な資金を随時借り入れて給与等の支払を行い、翌月に発生する警備委託料と相殺していた。
 したがって、警備委託料については、現金の授受はない。
(E) 請求人が証拠資料として提出した借入金元帳(上記(イ)のE参照)は、平成18年12月にWから、同年11月の決算ができないということで頼まれて経理事務を手伝い、作成したものである。
(F) 本件滞納会社からの借入金と警備委託料との相殺は、毎月入力していないが、私が退職する平成18年10月20日までに、同年9月分までの相殺額の入力はした。
(G) 原処分庁が捜索の際に収集した総勘定元帳の写し(上記(イ)のD参照)は、多分、私が退職する前に、パソコンから出力しておいたものである。
D fは、平成19年2月28日、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(A) 私が、平成17年11月に入社したときには、請求人には従業員(警備員ではなく、いわゆる社員として本社及び営業所に勤務していた者で幹部に近い者や営業所長など)が所属しており、それらの者に対して、給与を支払っていた。
 そして、その従業員が本件滞納会社の仕事をしていたため、その事務代行及び業務指導の費用として、本件滞納会社から受け取っていた。経理上も、事務代行料として売上計上していた。
(B) 本件T社覚書の趣旨は分からないが、事務代行料等の存在については疑問に感じた。
(C) 請求人の本件事業年度の売上高○○○○円余りは、そのほとんどが業務指導等に係る本件滞納会社からの事務代行料等の売上であり、そのほかに装備品の売上がある。
 また、この期の給与約○○○○円は、上記(A)で述べた従業員に対するものであり、従業員は約40名近くいた。
ハ 信義則の適用の可否
(イ) 本件滞納会社と請求人の実質的同一性(支配要件)
A 本件滞納会社について
 本件滞納会社は、代表取締役であるSが資本金1,000万円の全額を出資している同族会社であるから(上記1の(4)のロの(ロ)参照)、Sが支配している会社である。
B 本件滞納会社による請求人の支配
(A) 商号変更前
 T社が設立された当初は、取締役に就任したUが資本金の全額を出資し、S及びWは出資せず、また、取締役等の役員にも就任しなかったが(上記1の(4)のイの(イ)参照)、以下のとおり、T社と本件滞納会社との間には、極めて密接な関係ないし支配関係が認められる。
 すなわち、本件T社覚書の記載及び売上高の記載(上記1の(4)のイの(ハ)参照)並びに上記ロの(チ)のAの(I)ないし(K)及び同BのW並びに同Dのfの各答述によれば、T社は、1本件滞納会社の営業所長など警備業務を行う上で要職にあった者を含む従業員40名近くを設立の翌日である平成16年12月8日、一挙に受け入れ、2もともと本件滞納会社に所属していた上記営業所長等の業務の内容には上記受入れの前後で特段の変化が認められなかったが、当該特段の変化が認められない業務をもって滞納会社に対する事務代行及び業務指導を行ったと称し、3本件滞納会社からその対価を受領し、4上記対価を上記営業所長等の給与支払いに充てていたことが認められる。
 これは、ノウハウを持った従業員を本件滞納会社からT社に移籍させたと称しながら、移籍したそれらの者には本件滞納会社のためにさせていたのと同様の業務を行わせつつ、それらの者の給与を本件滞納会社からの事務代行等に係る費用名目の金員をもって迂回して支払うという図式というべきである。この仕組みによって本件T社覚書が締結できたことからは、T社がSやWが出資者又は取締役に就任する前から既に本件滞納会社と極めて密接な関係又は本件滞納会社に依存し、支配される関係にあったことが推認される。
(B) 商号変更後
 商号変更後の請求人については、以下のとおり、Sが直接又は本件滞納会社を通じて間接的に支配していたことが認められる。
a 商号変更後の請求人に対しては、平成17年10月12日付「臨時社員総会議事録」の記録及び本件事業年度に係る法人税の確定申告書の記載によれば、資本金300万円(60口)のうち、本件滞納会社が150万円(30口、50%)、Sが90万円(18口、30%)及びWが60万円(12口、20%)を出資していることが認められる(上記1の(4)のイの(ロ)及び(ニ)参照)。
b Wは、本件徴収職員に対し、平成18年10月25日、「ロイヤリティ契約書(本件委託契約書及び本件提携契約書)は、自分のところにはなく、Sが所持している。」「得意先、営業所、派遣警備員を引き継ぐ際の契約書については、書類を作成したか不明である。何しろ、Sは、ワンマンで何でも自分がしなければ気のすまない性格であった。」旨述べ(上記ロの(ニ)のCの(L)のb及びc参照)、さらには、翌26日、「私は、平成4年に本件滞納会社に入社し、平成17年12月まで勤務していた。その後、本件滞納会社の代表取締役Sの指示で請求人の代表取締役に就任した。」「私自身が雇われ社長であるため、本業の警備の方しか分からない。請求人についても、経営の実体はSにあるため、お金の流れ等Sしか分からない。」旨述べている(上記ロの(ト)のAの(A)及び(B)参照)。
c 請求人は、Wが実質的にも請求人の経営のトップであり、上記平成18年10月26日のWの申述は本件徴収職員から突然された質問に対して述べたものであるから必ずしも実態を申述したものではない旨主張するが、同申述は、同年10月25日及び翌26日の両日にわたる本件徴収職員との面談の際の質問に対するものであり、両日の申述内容には一貫性が認められ、また、これらの申述が実態とかけ離れることを示す客観的根拠は見当たらない。
 また、Wが本件滞納会社において警備本部長の肩書きを有し、Sの下で働いてきた人物であること(上記ロの(ロ)のA参照)からは、Wがこうして一貫して申述した請求人に対するSの関係については信用することができる。
d したがって、請求人の経営については、代表取締役の肩書きという形式面ではWがその地位に就いていたものの、実質をみると、出資の50%を占める本件滞納会社と、その代表取締役で、個人としても30%を出資しているSが経営を支配していたものと認めるのが相当であり、これに反する請求人の主張には理由がない。
C 請求人と本件滞納会社との同一性
(A) 請求人に対してUが出資口数60口(100%)を有していたところ、平成17年10月12日、Sが直接又は本件滞納会社を通じて間接的に合計48口(80%)を有する変更が行われたこと、翌13日、Wが代表取締役に就任したが、経営を支配していたのはSであったこと、同年11月、銀行出身者であるfを採用し、本件滞納会社が分社化構想につき検討したとして本件ご案内書を作成し、fが本件移行書面等、本件委託契約書及び本件提携契約書を作成したことからは、遅くともこのころ、Sが本件滞納会社を親会社とし、請求人を子会社として支配することとしていたと推認される。
 そして、本件移行書面等の記載及び上記ロの(ト)のBのfの申述から、1移行においては、対外的に信用を必要とする事柄は本件滞納会社が実行し、電話加入権も本件滞納会社が有し、従業員を本件滞納会社が募集し、売掛金を本件滞納会社が管理することとされていたこと、また、2工具器具備品を本件滞納会社から請求人に譲渡するとして、その価格は現物を評価して行うのではなく、移行日前日までの減価償却費を控除した後の本件滞納会社における帳簿価格によることとされていたなど、請求人が、取引先並びに本件滞納会社の施設、備品及び人材等をそっくりそのまま借り受けるか又は引き継ぐ形で事業を行いながら、本件委託契約書作成後における運転資金の相当部分を占める警備員の給与等の費用については本件滞納会社からの借入金(上記ロの(イ)のE、(ト)のB及び(チ)のC参照)という形で資金提供を受けて支出していたことが認められる。これらの請求人の本件滞納会社に対する実質的な依拠の状況を併せて考慮すると、Sが、警備業務継続のために法形式上別人格である請求人名を用いることとしたものの、実質的には請求人は対外的にも本件滞納会社の信用に依拠し続け、内部的にも本件滞納会社が請求人に対して警備業務に必要な物的及び人的資産を提供するとともに、売掛金のような警備業務の成果を支配していたため、請求人が本件滞納会社と別個に独自の事業を展開することは不可能な状態であったことが推認される。
 本件提携契約書作成後の状態についても、上記同様、Sの支配下で、従来から本件滞納会社が行ってきた警備業務を本件滞納会社が提供する物的及び人的資産を用いて実施する状況に変化はなく、請求人の警備事業は独自に展開されたものではなかったものとみるのが相当である。
(B) 本件滞納会社が、平成18年4月1日、本件委託契約書に基づき、取引先から委託を受けた警備業務を請求人に委託しているが、請求人が警備業務を行うためには、基本財産ともいうべき警備員が必要不可欠であるところ、請求人は、警備員の移籍については、各現場の責任者を通じて、各警備員との間で、本件滞納会社との雇用契約の解消及び請求人との雇用契約締結につき口頭で申込みと承諾がなされた旨主張している。
 しかしながら、上記ロの(チ)のAの(A)及び(B)のWの答述、並びに同(ト)のCのYの申述によれば、警備員は、平成18年4月以降も同じ制服を着用していたこと、従前と同じ工事現場等に勤務していたことが認められ、一方、本件滞納会社は、請求人も自認しているとおり、取引先に対し、警備業務を請求人に委託した旨を伝えていなかったことが認められる。これらのことからは、本件滞納会社から請求人への警備員の移籍が仮に請求人の主張するように口頭契約で行われていたとしても、外観上、移籍があったとは認識し得ない状態で行われた特異なものであったことが認められる。
(C) また、請求人は、平成18年4月以降、本件滞納会社が行っていた警備業務を引き受け、その業務遂行のために必要な営業所、電話、制服、備品等をほとんどそっくり又借りし、本件滞納会社に対する地代家賃やリース料等の必要経費を計上していることが認められるが(上記ロの(イ)のEの(C)参照)、本件滞納会社との間では、不動産や動産の賃貸借契約書は作成していない(上記ロの(チ)のAの(F)のWの答述参照)。
 そして、請求人は、本件委託契約書に基づく業務委託料については、本件滞納会社に対する売掛金として計上しているが、同契約に基づく警備業務移行後、従業員等に対する給与を支払うことができなかったため、本件滞納会社から給与相当額を必要な都度入金させる形で借入れを行うとともに、業務委託料が発生した時点で、この借入金と相殺する経理処理をしていることが認められ(上記ロの(イ)のEの(A)及び同(B)並びに同(チ)のCの(D)のfの答述参照)、業務委託料が単独で支払われた事実は見当たらないところ、この借入金についても、金銭消費貸借契約書は作成されておらず、また、弁済期限、金利の取決めもされていない(上記ロの(チ)のAの(D)のWの答述参照)。
 さらに、本件徴収職員が平成18年10月26日に入手した総勘定元帳によれば、同帳票の作成された時期においては、相殺は行われておらず、本件滞納会社の請求人に対する約○○○○円もの貸付金が明確な約定もないまま累積していたことが認められる。こうした貸付金の累積状況からは、本件滞納会社と請求人との関係が実質的に一体であるからこそ明確な約定のない貸付金であっても返済を求める必要がなかったものと推認される。
 上記の事実からは、経験上、同族グループ内といえども通常の法人間においては一般にはなされているはずの契約書の作成、債務の弁済及び債務の履行に関する約定が、およそ満足になされておらず、警備業務に必要な物的及び人的資産を提供するにも本件滞納会社において取締役会議事録や詳細な計画書は見当たらず、重要な財産の処分として扱っていない状況であったことからは、本件滞納会社と請求人が、両社の人格の個別性を認めていないか又は重視していないものと評価するのが相当である。
(D) また、多くの取引先が本件滞納会社から請求人への警備業務の移行を特段異議なく受け入れたのも、移行の前後を通じて同じ警備員が同じ業務につき、本件滞納会社と同様の条件で警備業務が行われることに変わりがなかったからであることは、上記ロの(ヘ)のAないしNの各取引先の認識から明らかである。
(E) そうすると、本件滞納会社と請求人とは、あたかも別々に事業を展開しているような体裁は整えられてはいるものの、Sの支配の下、実質的には、本件委託契約締結前から本件提携契約後を通じて、本件滞納会社が従来から行っていた警備業務を継続していたのと変わるところがないものと認めるのが相当である。
D したがって、Sが、直接又は請求人と実質的に一体である本件滞納会社を使って間接的に請求人を支配しているというべきである。
(ロ) 債務免脱の意図(目的要件)
 請求人が行った警備業務は、本件滞納会社から別法人である請求人に移行された形を採ったものであるが、移行の目的は、本件滞納会社に本件滞納国税等の債務だけを残して警備業務に要する人的及び物的資産を法形式上別法人に流出させたにすぎないものであり、本件滞納会社の滞納国税に係る差押えによる警備業務への影響及び警備業務に要する資産からの徴収を回避しようとした意図が認められる。
A 本件滞納会社に係る資産等の法形式上の流出
 請求人が行った警備業務は、上記(イ)のCのとおり、本件滞納会社が有していた取引先、資金、施設及び人材等の警備業務に必要な物的及び人的資産に依拠し、本件滞納会社の収入源は、本件提携契約書及び本件覚書Bに基づく請求人からの業務提携料のみとなることが認められる。
 ただし、この業務提携料は、それまでに発生している業務委託料と相殺されている(上記ロの(イ)のEの(C)参照)。
B 本件滞納会社の財務状況
 本件滞納会社においては、1平成10年2月に滞納国税が原処分庁に引き継がれた後、継続して分納を続けていたが、平成14年12月以降、滞納残高が○○○○円を下回ることはなかったこと(上記ロの(ニ)のA参照)、2本件滞納会社の金融機関等からの借入金が、平成18年3月末現在で○○○○円を超えていたこと(上記1の(4)のロの(ハ)参照)、及び3本件滞納会社には、決算書に記載されていない金融業者であるj社からの借入金が数年前からあり、借入残高も○○○○円になっていたこと(上記ロの(ロ)のC参照)が認められる。
 そして、本件提携契約書が作成され、取引先(第三債務者)との警備委託契約が請求人に切り替えられた平成18年8月21日からわずか1か月余りしか経過していない時点(同年10月○日)における本件滞納会社の財務状態は、取引銀行からの借入返済に加え、いわゆる街金融からの借入返済も滞っていたことからも明らかなとおり(上記ロの(ロ)のC及び同(ニ)のD参照)、既に破綻状態にあり、本件滞納会社の財務状態が急激に好転するような事情も見当たらない状況下において、本件滞納会社が銀行に対して債務の支払停止の通知を一方的にしていることが認められる(上記ロの(ニ)のD参照)。
 そうすると、本件滞納会社が、自らが親会社、請求人を子会社として、請求人のいう「警備業務の移行による合理的かつ健全な事業活動」を行う状況下にあったとは到底認められない。
C 短期間内での業務の移行
 本件滞納会社から請求人へ警備業務を移行したのが両者間では平成18年4月1日とされているところ(上記ロの(ニ)のCの(K)及び同(L)参照)、それから半年余りしか経過しない同年10月○日付で請求人からh社への移行が事業停止挨拶状によって取引先へ通知されていること、同じころ本件経緯書によって取引先へh社への移行経緯等が説明されたことが認められる(上記ロの(イ)のFないしH)。
D 上記AないしCのとおり、本件滞納会社の財務状態はほぼ破綻していた状況で、本件滞納会社の警備業務の物的及び人的資産が事務所などの賃貸や警備員の移籍の法形式で請求人に流出する一方、本件滞納会社の収入は請求人からの支払に絞られたこと、警備業務の移行と本件滞納会社及び請求人の破綻が約半年という短期間に起こっていること、上記(イ)のとおり請求人がSにより直接又は本件滞納会社を通じて間接的に支配され、本件滞納会社と請求人との人格の個別性は認められていないか又は重視されていなかったことからは、Sは、本件滞納会社から請求人に警備業務を移行させた後、更にその業務をh社に移行させて財務状況の悪化した本件滞納会社と警備業務との法形式上の関係を断ち切る予定であったことが推認される(上記ロの(イ)のF及びGの(C)参照)。
E 国税債務等を免れようとする意図
(A) Sをはじめとする本件滞納会社の関係者が本件徴収職員に対して行った質問に対する応答からは、上記ロの(ニ)のCの(A)ないし(L)のとおり、請求人の存在及び警備業務の移行並びに本件滞納会社が倒産状態にあることを隠ぺいしようとしていたことが推認される。
(B) また、本件滞納会社の財務状況は既に相当悪化していた上、請求人に対し警備業務を移行して本件滞納会社の収入源が本件提携契約書及び本件覚書Bに基づく請求人からの業務提携料のみとなっていた平成18年8月ころから、本件滞納会社が○○信用金庫○○支店に対し、請求人に対する業務の移行について告げないまま、短期借入金を長期借入金に切り替えるよう交渉し、同年10月○日、本件滞納会社の委任を受けたS弁護士が同支店において、本件滞納会社は、法的整理を検討しているので、融資金については支払停止となる旨一方的に告げ、「本件支払停止書面」を提出した経緯からは、融資した金融機関に対し、本件滞納会社から別法人への警備業務の移行をSが秘匿していたことが推認される。
F そうすると、上記AないしEを併せ考えると、本件滞納会社においては、Sの支配下にある請求人を利用し、本件滞納会社の責任財産たる売掛債権の源泉である警備業務を移行させることにより、原処分庁による滞納処分を免れようとする意図の下、請求人に対する一連の警備業務の移行が行われたと認めるのが相当である。
(ハ) 結論
 以上のとおり、本件各債権の源泉となった本件滞納会社から請求人への警備業務の移行は、本件滞納会社が、原処分庁から本件滞納国税を免れる目的で、Sによる本件滞納会社と同一の支配体制下にある請求人をもって、恣意的にその法人格を利用して行ったものであり、法人格を濫用しているものと認められるから、請求人は、原処分庁に対して、信義則上、請求人が本件滞納会社とは別異の法人格であることを主張し、本件各債権を自己の財産であって本件滞納会社の財産ではないと主張することは許されないというべきである。
 したがって、本件各債権は請求人に帰属するものである旨の請求人の主張には理由がない。
ニ 第三債務者の手続的保障
 請求人は、第三債務者に手続的保障が与えられていないことを理由に本件差押処分が違法である旨主張する。
 ところで、差押処分を違法とする理由が自己の法律上の利益に関係のない違法を理由とするものである場合は、審査請求が違法又は不当な処分によって侵害された不服申立人の権利利益の救済を図るものであることにかんがみ、かかる違法理由を審査請求の理由とすることはできないと解するのが相当である。
 そして、本件における請求人の上記主張は、本件各債権の第三債務者が、本件各債権について二重弁済を請求されるリスクを負い、当該第三債務者にはその回避手段が存しないというものであって、請求人の法律上の利益には関係のない違法理由にほかならない。
 したがって、当該主張は、審査請求の理由とすることができないものであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 租税法律主義について
 請求人は、原処分庁が、本件各債権の帰属に疑いがあるというのであれば、請求人に第二次納税義務を課してから処分すべきであって、法律の規定に基づかない本件差押処分は、租税法律主義に違背し、違法又は無効である旨主張する。
 しかしながら、信義則など法律上の一般法理は、租税法律主義にいう法律に内在するものであり、滞納者の財産を差し押さえた国の地位は、あたかも、民事執行法上の強制執行における差押債権者の地位に類するものであるから、租税債権がたまたま公法上のものであることにより、国が一般私法上の債権者より不利益な取扱いを受けるべき理由はないと解されていることから、本件の場合には、本件差押処分が、その執行力を法律の規定によらず拡張されてなされたものとはいえず、上記ハの(ハ)のとおり、請求人は、原処分庁に対して、信義則上、請求人が本件滞納会社とは別異の法人格であることを主張することが許されないのであるから、滞納処分の対象とする財産の帰属の認定において、上記一般法理により、本件各債権を本件滞納会社に帰属する財産として行った本件差押処分は適法というべきである。
 したがって、本件差押処分は、租税法律主義に違背し、違法又は無効であるとする請求人の主張には理由がない。
ヘ 結論
 請求人の主張については以上のとおりであり、原処分関係資料によれば、本件差押処分のうち、上記(1)に係る部分以外の本件差押処分の手続は、徴収法第47条第1項第1号の規定に基づき、徴収法第62条の規定に従って行われていることが認められるから、本件差押処分のうち、上記(1)に係る部分以外の本件差押処分は適法である。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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