別紙

請求人ら 原処分庁
1 本件判決により、本件土地についてDらの所有権の取得時効が認められ、本件土地は、民法第144条に規定する遡及効により、占有開始時である昭和34年3月28日から亡Gの所有となった。
 したがって、本件土地は、被相続人の遺産ではなくなり、請求人らは本件土地を相続しなかったこととなる。
 このことは、本件規定のその申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときに該当する。
1 時効による所有権取得の効力は、時効期間の経過とともに確定的に生じるものではなく、時効により利益を受ける者が時効を援用することによって初めて確定的に生じるものであり、逆に占有者に時効取得されたことにより所有権を喪失する者は、占有者により時効が援用された時に初めて確定的に所有権を失うものであると解されている。
 そうすると、民法第144条により時効の効力は起算日にさかのぼるとされているが、時効により所有権を取得する者は、時効を援用するまではその物に対する権利を取得しておらず、時効取得により所有権を喪失する者は、占有者が時効を援用するまではその物に対する権利を有していたということになる。
 本件相続開始日においては、本件土地についてDらによる時効の援用がなかったのであるから、相続開始時では請求人らが本件土地の所有権を有していたものと認められ、また、本件土地の評価についても、後記のとおり、何らしんしゃくする必要はないことから、本件更正の請求は、課税標準等又は税額等の計算の基礎に変更を生じたものとは認められない。
2 仮に、上記1で述べた民法第144条に規定する取得時効の遡及効が認められないとしても、次のとおり、更正の請求は認められるべきである 2 通則法第23条第2項が適用されるためには、納税申告時には予想し得なかった事由が後発的に発生したのみではなく、これにより課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実関係又は税額等の計算の基礎に変更を生じ税額の減額をすべき場合であることが必要である。
(1) 本件規定にいう事実とは、課税標準等又は税額等の計算に影響を与える事実を広く含むと解すべきであり、事実が異なるとは、事後的な実体法上の権利関係の変動に限られず、申告等の際に基礎とした事実と判決で確定された事実との比較において、相違があれば足りると解すべきである。
 請求人らは、本件相続開始日において本件土地に取得時効が完成していることは知らなかったし、また、取得時効の援用もされていなかったことから、請求人らに所有権があるものとして申告した。ところが、判決で確定した事実は、昭和54年3月28日を経過した時点で取得時効が完成しており、本件相続開始日において、本件土地は請求人らの意思いかんにかかわらず占有者の時効の援用があれば所有権を喪失するという効果が確定的に生じる状態にあったということであり、申告の際に基礎とした事実と判決で確定された事実に相違がある。
(1) 上記1のとおり、相続開始時において時効が完成している場合においても、課税標準等又は税額等の計算の基礎に変更を生じたものとは認められない。
(2) 相続税法第22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、特別の定めのある場合を除き、当該財産の取得時における時価による旨を規定している。
 時価については、財産評価基本通達において定められているところ、同通達1《評価の原則》の(3)には、「財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮する。」と定められている。
 本件土地は、事実上の制約を受け時価を下げる要因があることは明らかであり、一切の制約を受けない土地と同じ評価をするのは、明らかに合理性を欠き課税の公平を欠くものである。
 本件土地は、相続開始時において、時効の援用以外の取得時効の要件がすべて満たされており、請求人らの意思いかんにかかわらず、時効の援用があれば一方的に所有権を時効取得される状態にあり、その事実に基づき本件土地を評価すると、時価は零円となる。
(2) 相続税法第22条は、「相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価」によることを定めており、この規定によると、特段の定めがある場合を除いて、相続開始後において生じた要因は何ら考慮する余地はないと解される。
 本件においては、外観上判然としない援用権の付着という内在的瑕疵が、時効の援用による所有権の喪失という形で顕在化したが、それは飽くまでも相続開始後に行われた行為によるものであるから、相続開始時を課税時期とする相続税においては評価上何らしんしゃくする必要はない。
 また、時効が成立した後においては、援用権者の意思によっていつでも時効の援用が行われる可能性があるが、一方援用しない場合も当然考えられ、相続開始時において時効の援用自体が不確定な要素であるといえる。
 さらに、相続税法において、援用権の付着している土地について評価減を行う旨の特段の規定は存しないことから、課税価格の計算上減額することはできないし、財産評価基本通達においても、援用権自体は独立した権利として土地に付着したものではなく、財産性が認められないことから相続開始時において評価上何らしんしゃくする必要はない。

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