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(平19.10.18、裁決事例集No.74 14頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、土木工事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、国税通則法(以下「通則法」という。)第46条《納税の猶予の要件等》第2項第5号(第4号類似)に該当する事実があるとして行った納税の猶予の申請について、原処分庁が、請求人には同号に該当する事実がないとして納税の猶予不許可処分をしたことに対し、これを不服とする請求人が、当該処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2)  審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成17年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税について、確定申告書に納付すべき税額を○○○○円(以下「本件税額」という。)と記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 請求人は、平成18年3月24日、原処分庁に対し、本件税額について納税の猶予申請(以下「本件猶予申請」という。)をしたところ、原処分庁は、同年6月21日付で納税の猶予不許可処分(以下「本件不許可処分」という。)をした。
ハ 請求人は、平成18年8月8日、本件不許可処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年11月21日付で棄却の異議決定をしたので、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、同年12月20日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 関係法令等の要旨は、別紙記載のとおりである。

(4) 基礎事実

 請求人は、納税の猶予申請書の「納税の猶予を受けようとする理由」欄に、「営業が著しく不振、国税通則法第46条第2項第5号に基づく」(以下「本件猶予申請理由」という。)と記載して、本件猶予申請をした。

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2 主張及び判断

(1) 争点1(本件不許可処分の手続は、適法に行われたか否か。)について

イ 主張

請求人 原処分庁
 原処分庁は、本件猶予申請に対する審査に当たり、法律の趣旨及び猶予取扱要領に沿って必要書類の提出の求めや猶予要件該当性の判断のための聞き取りなどを行っておらず、十分な検討をしていないから、本件不許可処分の手続は違法である。  納税の猶予に関する適否の判断は、納税者から提示された資料等に基づいて行うものであるところ、本件猶予申請については、法律及び猶予取扱要領に沿って、請求人から提示された資料等に基づいた検討を行っているから、本件不許可処分の手続は適法に行われている。

ロ 判断
(イ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 平成18年4月21日、原処分庁所属の徴収担当職員(以下「本件徴収担当職員」という。)は、請求人の妻と面接し、同人から提出された次の書類によって、平成17年1月から平成18年3月までの各月別の売上金額を確認するとともに、災害、不渡り及び取引先の倒産等の事実はない旨を聞き取った。
(A) 「自主計算書(平成17年分)」と題する書面
(B) 「自主計算書(平成18年分)」と題する書面
(C) 請求人名義のE銀行F支店の普通預金通帳及びG銀行H支店の普通預金通帳
B 本件徴収担当職員は、上記Aの(A)ないし(C)の書類では本件猶予申請理由の「営業が著しく不振」である事実を確認できないことから、請求人との面接を求めた。
C 平成18年5月8日、本件徴収担当職員は、請求人及び請求人の妻と面接し、納付可能資金の状況、本件税額の納付計画及び負債の状況を確認するとともに、その際、請求人及び請求人の妻から、1平成17年の売上げは好調であったが、平成18年になって仕事が減少したこと、2現在の主な取引先は1社であること、3帳簿等の記帳はないことを聞き取った。
(ロ) 法令解釈等
 通則法第46条第2項は、税務署長等は、納税者の申請に基づき、その納税を猶予することができる旨規定しているが、税務署長等が納税の猶予を認めることができるのは、納税者の申請に基づくことのほかに、1納税者に同項各号の一に該当する事実があること、2その該当する事実に基づき、納税者がその納付すべき国税を一時に納付することができないこと、3同条第1項に規定する納税の猶予の適用を受ける場合でないこと、4原則として、納税の猶予の申請に係る国税の額に相当する担保の提供があることのいずれをも充足することが必要である(通則法第46条第2項、同条第5項)。
 また、猶予取扱要領第4章第1節1の(3)は、納税の猶予の申請があった場合の審査については、猶予取扱要領第2章に定めるところにより納税の猶予の要件等を調査し、納税の猶予の許否を判定する旨定めているところ、猶予取扱要領第2章第1節1の(3)のニの(ロ)は、その「なお書」において、納税者が帳簿等を備えていない場合又は帳簿等による調査が困難である場合には、納税者からの聞き取りを中心にする等その状況に応じた妥当と認められる方法により判定をしても差し支えない旨を定めているが、当該取扱いは、当審判所としても相当と認められる。
(ハ) 判断
 これを本件についてみると、本件徴収担当職員は、上記(イ)のとおり本件猶予申請の審査をするために請求人及び請求人の妻と面接を行った上で、売上金額の状況、納付可能資金の状況、本件税額の納付計画及び負債の状況を請求人及び請求人の妻からの提出資料及び聞き取りにより確認しているところであり、本件徴収担当職員の調査は、上記(ロ)に照らして、適当なものと認めることができる。
 
そうすると、本件徴収担当職員の調査により行われた本件不許可処分は、通則法第46条第2項の規定の趣旨に沿い、かつ、猶予取扱要領の定めるところにより行われたものと認めるのが相当であるから、原処分庁は、必要書類の提出の求めや猶予要件該当性の判断のための聞き取りなどを行っておらず、十分な検討をしていない旨の請求人の主張は採用できない。

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(2) 争点2(請求人には、通則法第46条第2項第5号(第4号類似)に該当する事実があるか否か。)について

イ 主張

請求人 原処分庁
 次の理由から、請求人には通則法第46条第2項第5号(第4号類似)に該当する事実がある。
 請求人には、1売上げが約3割減少している、2請負単価が半値近く減少している、3元請5社のうち4社が、売上げに対する消費税を支払わないという事実があり、これらは、通則法第46条第2項第4号に類する事実について定めた猶予取扱要領第2章第1節の1(3)のヘの(ハ)の「下請企業である納税者が、親会社からの発注の減少等の影響を受けたこと、その他納税者が市場の悪化等その責めに帰すことができないやむを得ない事由により、売上げの減少等の影響を受けたこと」に該当する。
 次の理由から、請求人には通則法第46条第2項第5号(第4号類似)に該当する事実がない。
 本件猶予申請について、請求人から提出された資料等を基に検討を行ったが、請求人には同号に該当する事実が認められなかった。
 また、請求人から本件猶予申請理由(営業が著しく不振)についての具体的な説明もなかった。
 本件徴収担当職員が、請求人及び請求人の妻と面接した時に、請求人及び請求人の妻から提示された資料及び説明を受けた内容では猶予該当事実が認められないことから、このままでは納税の猶予申請は不許可となる旨を説明したが、請求人はその説明に対して特に反論しなかった。

ロ 判断
(イ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 請求人の妻は、平成18年4月21日、本件徴収担当職員に対して、上記(1)のロの(イ)のAの(A)ないし(C)のとおり、平成17年1月から平成18年3月までの各月別の売上金額に関する資料を提出したが、平成16年分の売上金額に関する資料は提出していない。
B 当審判所は、猶予取扱要領第2章第1節1の(3)のニの(イ)に定める調査日に近接する平成18年4月1日前1年間(平成17年4月1日から平成18年3月31日までをいい、以下「本件調査期間」という。)の売上金額とその直前の1年間(平成16年4月1日から平成17年3月31日までをいい、以下「本件基準期間」という。)の売上金額を比較することにより、通則法第46条第2項第4号の「その事業につき著しい損失」に類する事実があったか否かを判定するため、請求人に対し、売上金額等に関する資料を求めたところ、「審査請求人の売上3年比較一覧」の提出があった。当該資料によれば、請求人の平成16年1月1日から平成18年12月31日までの期間別の売上金額は、別表「売上比較一覧」のとおりである。
(ロ) 法令解釈等
 通則法第46条第2項第4号は、納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと、同項第5号は同項第1号ないし第4号の一に該当する事実に類する事実があったことと規定している。
 
また、猶予取扱要領の第2章第1節1の(3)のへの(ハ)は、「第4号に該当する事実に類する事実」として、「下請企業である納税者が、親会社からの発注の減少等の影響を受けたこと、その他納税者が市場の悪化等その責めに帰すことができないやむを得ない事由により、売上げの減少等の影響を受けたこと」を例示しており、その取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
 ところで、通則法第46条第2項に基づく納税の猶予制度は、一定の事由により納付困難になった納税者を救済するものであるとしても、それは、他の一般の納税者との租税負担の公平の実現の上において認められる納税者救済制度であるから、納税の猶予を申請した納税者が、他の一般の納税者からみても、納税の猶予を相当とする程度の状態にあることが必要であると解するのが相当であり、同項第4号が、「著しい損失を受けたこと」と規定していることも併せ考えると、同項第5号に規定する「第4号に該当する事実に類する事実」について定めた猶予取扱要領の第2章第1節1の(3)のヘの(ハ)にいう「売上げの減少等」とは、その売上げの減少等が著しい状態にあることが必要と解される。
(ハ) 判断
A これを本件についてみると、原処分庁における審査過程において、請求人の妻は原処分庁に対し、上記(イ)のAのとおり、平成17年1月から平成18年3月までの各月別の売上金額に関する資料を提出しているが、平成16年分の売上金額に関する資料は提出していないことから、原処分庁は、提出された資料では本件調査期間の売上金額が本件基準期間の売上金額より減少した事実を確認することはできないので通則法第46条第2項第4号の「その事業につき著しい損失」に類する事実が認められないと判断したものであり、その判断は当審判所においても相当と認められる。
また、請求人から当審判所に提出された資料によれば、別表「売上比較一覧」のとおり、本件調査期間の売上金額は本件基準期間の売上金額に比べて増加しているのであって、減少している事実は認められない。
 したがって、売上げが減少している事実が認められない以上、猶予取扱要領の第2章第1節1の(3)のへの(ハ)にいう「売上げの減少等の影響を受けた」と認めることはできない。
B 請求人は、1売上げが約3割減少している、2請負単価が半値近く減少している、3元請5社のうち4社が売上げに消費税をつけて支払わないという事実は、猶予取扱要領の第2章第1節1の(3)のへの(ハ)にいう「売上げの減少等の影響を受けたこと」に該当すると主張するが、上記Aのとおり、そもそも本件において売上げの減少等があるとは認められないのであるから、この点に関する請求人の主張を採用することはできず、請求人について納税の猶予の要件を充足しているとは認めることができない。

(3) 原処分のその他の部分については、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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