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(平19.12.4、裁決事例集No.74 37頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の不動産所得について、原処分庁が、請求人の営む不動産貸付けは、租税特別措置法(平成15年分及び平成16年分の所得税については平成16年法律第14号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第25条の2《青色申告特別控除》第3項に規定する不動産所得を生ずべき事業に当たらないとして所得税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該貸付けは事業に当たるとして同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

 請求人の平成15年分、平成16年分及び平成17年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、審査請求(平成18年12月8日)に至る経緯等は、別表1のとおりである。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、個人で税理士業等を営んでいたが、平成15年1月に請求人を代表社員とする税理士法人E会計事務所(以下「E会計事務所」という。)を設立した。
ロ H社は、昭和61年10月に帳簿記載及び経営指導を主業務とするF社として設立され、平成7年○月○日にG社に、平成15年○月○日に現法人名に順次商号変更している。また、請求人は、設立当初より代表取締役に就任し、現在に至っている。
ハ E会計事務所及びH社は、いずれも法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社である(以下、H社とE会計事務所を併せて「本件同族会社2社」という。)。
ニ 本件各年分において、請求人が貸し付けている不動産(以下「本件貸付物件」といい、本件貸付物件の貸付けを「本件貸付け」という。)は、別表2のとおりである。また、本件貸付物件の貸付先及び賃貸料の内訳は、別表3のとおりであり、その概要等は、次のとおりである。
(イ) 別表2の「物件1」欄に記載の土地(以下「本件土地」という。)及び「物件2」欄に記載の建物(以下「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件建物等」という。)は、本件建物が完成した後の平成6年6月以降、請求人の税理士事務所として使用されるとともに、その一部はH社に貸し付けられていたが、平成15年1月以降は、その全部が本件同族会社2社に貸し付けられている。
(ロ) 別表2の「物件3」欄に記載の土地には、平成15年10月に請求人の長男であるJ所有の建物が建築されており、1階部分は請求人を所有者とする駐車場(以下「本件駐車場」という。)、2階部分はJの居宅として使用されている。
 なお、1階部分の本件駐車場は、同人に貸し付けられている。
ホ 請求人は、本件各年分の所得税の青色の確定申告書において、措置法第25条の2第3項に規定する青色申告特別控除額を平成15年分及び平成16年分は各550,000円、平成17年分は650,000円として、不動産所得の金額から控除している。

(5) 争点

 本件貸付けは、措置法第25条の2第3項に規定する「不動産所得を生ずべき事業」に当たるか否か。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

3 判断

(1) 所得税法等の事業概念

イ 所得税法及び措置法では、不動産所得について、これを1不動産所得を生ずべき事業と2事業以外の業務とに区分し、前者については、事業所得と同様の資産損失(所得税法第51条第1項)、貸倒損失(同条第2項)及び専従者給与(同法第57条第1項及び第3項)の必要経費算入並びに65万円(平成15年分及び平成16年分は55万円であり、ただし、不動産所得の金額を限度とする。)の青色申告特別控除(措置法第25条の2第3項)等を認める旨規定しているところであるが、事業の意義自体については、一般的な定義規定をおいていない。
 事業とは、自己の計算と危険において営利を目的として対価を得て継続的に行う経済活動のことであると一般に解されるが、事業であるか否かの基準は必ずしも明確ではなく、その事業概念は、最終的には社会通念に従ってこれを判断するほかはないというべきである。
ロ 所得税基本通達26−9《建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定》は、建物の貸付けが事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるとした上で、いわゆる5棟10室という形式基準を満たすとき等は、その貸付けが事業として行われているものとする旨定めているが、これは、この基準を満たせば、事業として行われているものとするという十分条件を定めたにすぎず、当該基準を満たしていなかったとしても、これをもって直ちに社会通念上事業に当たらないということはできないと解するのが相当である。
ハ 結局のところ、不動産貸付けが不動産所得を生ずべき事業に該当するか否かは、1営利性・有償性の有無、2継続性・反復性の有無、3自己の危険と計算における事業遂行性の有無、4取引に費やした精神的・肉体的労力の程度、5人的・物的設備の有無、6取引の目的、7事業を営む者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を総合して、社会通念上事業といい得るか否かによって判断するのが相当と解される。

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(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人の平成13年分から平成17年分までの所得税の確定申告における収入金額等の状況は、別表4のとおりである。
ロ 本件建物等の構造等は、次のとおりである。
(イ) 1階部分は、従業員、顧問先等の駐車場と2階への出入口及び階段である。
(ロ) 2階部分は、事務室及び面談室であり、本件同族会社2社間の仕切りは設けられておらずワンフロアとして使用されている。なお、3階への階段は一箇所であり、当該フロアを経由しないと3階には上がれない。
(ハ) 3階部分は会議室、所長室、従業員控室等であり、本件同族会社2社が共用している。
ハ 本件建物の新築の際の借入金(以下「平成5年借入金」という。)の償還予定明細表には、融資日平成5年10月12日、融資額115,000,000円、毎月返済額706,029円と記載され、また、本件駐車場の土地の取得に係る借入金(以下「平成12年借入金」といい、平成5年借入金と併せて「本件借入金」という。)の償還予定明細表には、融資日平成12年5月29日、融資額14,000,000円、毎月返済額140,416円と記載されている。
 これらの償還予定明細表によると、本件各年分の本件借入金の年間返済額は、元利合計で約1,015万円であり、その内訳は、平成5年借入金分が約847万円、平成12年借入金分が約168万円である。
ニ 請求人とH社との間で締結された本件建物等に係る平成10年1月10日付、平成13年1月10日付及び平成15年1月1日付の賃貸借契約書には、要旨次のとおり記載されている。
(イ) 平成10年1月10日付賃貸借契約書
 賃貸料は月額80万円、賃貸借物件は本件土地及び本件建物(ただし、請求人の税理士事務所の使用部分を除く。)とし、使用面積は請求人の税理士事務所と共用のため、契約の都度使用割合を勘案して決定する。
 賃貸借物件に係る電気、ガス、水道等の料金は賃借人が負担するものとする。
(ロ) 平成13年1月10日付賃貸借契約書
 賃貸料は月額34万円、賃貸借物件は本件土地及び本件建物(ただし、請求人の税理士事務所の使用部分を除く。)とし、使用面積は請求人の税理士事務所と共用のため、契約の都度使用割合を勘案して決定する。
 賃貸借物件に係る電気、ガス、水道等の料金は賃貸料に含むものとする。
(ハ) 平成15年1月1日付賃貸借契約書
 賃貸料は月額15万円(消費税別途)、賃貸借物件は本件土地及び本件建物(3階建ビル1棟、378.54平方メートル)とし、ただし、共用の場合は使用面積等により、契約の都度使用割合を勘案して決定する。
ホ 請求人とE会計事務所との間で締結された平成15年1月1日付本件建物等に係る賃貸借契約書には、賃貸料を月額60万円(消費税別途)、賃貸借物件を本件土地及び本件建物(3階建ビル1棟、378.54平方メートル)とするが、共用の場合は使用面積等により、契約の都度使用割合を勘案して決定する旨及び賃貸借物件に係る電気、ガス、水道等の料金は賃貸料に含まれないものとする旨記載されている。
ヘ 請求人は、当審判所に対して要旨次のとおり答述した。
(イ) 本件建物等について
A 本件建物は、空き部屋がないため、賃借人の募集を行っていない。
B H社に対する賃貸料設定に当たっての賃貸割合について、平成6年6月から平成12年12月までの間の72%は、H社と請求人の税理士業務との収入及び人員の割合を考慮したものであり、平成13年1月から平成14年12月までの間の28%は、H社の記帳代行業務等の会計業務を請求人に移行したことから、収入及び人員等を考慮して変更した。
 なお、平成15年1月以降は、本件同族会社2社の収入金額の比率から賃貸割合を見直し、H社を20%、E会計事務所を80%とした。
C 本件建物等の賃貸料は、本件同族会社2社の銀行預金口座から、請求人の銀行預金口座へインターネットバンキングにより、振替処理を行っている。また、水道光熱費については、契約は請求人であるが、支払は使用者である本件同族会社2社が負担している。
D 本件建物等の清掃及び冷暖房設備点検については、使用者である本件同族会社2社が行っており、ビルの防犯・火災のセキュリティ契約は、H社が行い、契約料金は本件同族会社2社で分担している。
 また、電気、水道、ガス等の日常の修理点検及び空調設備、防災設備、貯水槽、駐車場の管理点検は、請求人が行っており、修繕の必要があれば業者に指示し、建物の基本的な構造に係る部分を除き、修理費等の負担は、使用者である本件同族会社2社が行っている。
(ロ) 本件駐車場について
A 本件駐車場の土地は、請求人が平成12年5月に取得し、アスファルト舗装を行い、親戚や近所の住民、顧問先に駐車場として無償で貸していたが、Jが平成15年10月に同人の自宅を建築し、車を2台駐車するようになったことから、同年11月から2台分の賃貸料として同人から毎月1万円を受領している。
B 本件駐車場は、6台程度の駐車は可能であるが、本件駐車場の上にはJが居住しているので、他人に貸し付けることは考えておらず、賃借人の募集も行っていない。
(ハ) 本件借入金等について
 平成元年1月に、請求人の税理士事務所及びH社の事務所として利用するため、本件土地を○○○○円で取得し、鉄筋2階建の建物を○○○○円で建築した。その後、平成5年12月に当該建物を取り壊し、平成6年6月に本件建物を建築した。建築費用は設備費用も含めて9,091万円であり、取得資金は本件土地の取得に係る借入金の借換えを含めて1億1,500万円をK銀行L支店から借り入れた。また、本件駐車場の土地については、当初から駐車場として賃貸する目的で平成12年5月に1,400万円で取得し、取得資金は、K銀行L支店から抵当権資産活用ロ−ンにより1,400万円を借り入れた。

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(3) 本件貸付けの事業性の有無

イ そこで、本件貸付けが社会通念上事業といい得るものか否かについて、上記(1)のハのとおりの諸要素から判断すると、次のとおりである。
(イ) 営利性・有償性については、別表4のとおり、請求人は、本件各年分において、年間およそ950万円の賃貸料収入を得ており、青色申告特別控除前の所得は、年間およそ200万円から300万円であることが認められる。
(ロ) 継続性・反復性については、前記1の(4)のニのとおり、本件建物は、本件建物が完成した後の平成6年6月以降、請求人の税理士事務所として使用されるとともに、その一部はH社に貸し付けられ、平成15年1月以降は、その全部が本件同族会社2社に貸し付けられていること及び本件駐車場は、同年10月からJに貸し付けられていることが認められる。
(ハ) 自己の危険と計算における事業遂行性については、前記1の(4)のイないしニ並びに上記(2)のロないしホ及びへの(イ)のA、B、(ロ)及び(ハ)のとおり、1平成5年借入金は、請求人の税理士事務所等として使用することを目的とした本件建物の建設資金等であったこと、2本件借入金の本件各年分の年間返済額は、元利合計で約1,015万円で本件貸付けの年間賃貸料収入の約950万円を上回っており、本件借入金の返済は、請求人の本件貸付けに係る賃貸料収入以外の収入も原資となっていること、3本件建物は、1階部分が従業員、顧問先等の駐車場、2階部分はワンフロアの事務室及び面談室、3階部分は会議室、所長室、従業員の控室等で、3階へは2階フロアを経由しないと上がれず、一体として利用されていること、4請求人の税理士事務所から業務を分担する形で派生的に設立された請求人が主宰する本件同族会社2社が共用していることから、賃貸料計算の根拠となる賃貸割合は、それぞれの法人の収入及び人員の割合等により決定され、E会計事務所設立以前の賃貸料には、賃借人の水道光熱費が含まれたり、含まれなかったりしていること、5本件貸付けは、請求人が主宰する本件同族会社2社及び親族に対する限定的かつ専属的なものであることから、本件建物等は、本件同族会社2社が賃借を継続する限り、空き部屋が生ずる余地がなく、請求人は、賃借人の募集をする必要もないこと及び本件駐車場は、他人に貸し付けることは考えられていないこと等が認められる。
(ニ) 精神的・肉体的労力の程度については、前記1の(4)のイないしニ並びに上記(2)のへの(イ)のC及びDのとおり、本件建物等の清掃、冷暖房設備点検、ビルの防犯・火災のセキュリティ契約等は本件同族会社2社が行っていること及び設備等の管理・修理点検、業者への連絡等は請求人が行っていること、また、賃貸料は、本件同族会社2社の銀行預金口座から、請求人の銀行預金口座へインターネットバンキングにより、振替処理が行われていること、さらに、本件貸付けは、請求人が主宰する本件同族会社2社及び親族に対する限定的かつ専属的なものであることからすると、賃貸料の改定交渉等の業務の煩雑さもないこと等が認められる。
(ホ) 人的・物的設備については、前記1の(4)のニのとおり、本件建物等(1階の駐車場は22台駐車可能、3階建ビル1棟、378.54平方メートル)及び本件駐車場2台分(6台駐車可能)であることが認められる。
(へ) 不動産貸付けの目的については、前記1の(4)のニ及び上記(2)のへの(ロ)のとおり、本件建物は、請求人の税理士事務所及びH社の事務所として使用するため建築され、E会計事務所設立後は、本件同族会社2社により共用されていること、また、本件駐車場は、取得した当初は無償で使用され、平成15年10月のJの居宅建築後は、その一部が同人に貸し付けられていることが認められる。
(ト) 請求人の職歴・社会的地位・生活状況については、前記1の(4)のイ及びロのとおり、請求人は、本件同族会社2社の代表社員又は代表取締役であり、また、本件各年分の請求人の収入は、別表4のとおり、不動産収入以外の収入が約5割を占めていること等が認められる。
(チ) 事業性の判断は、以上の諸点を総合的に勘案して行われるべきであるところ、本件貸付けについては、営利性、継続性、人的・物的設備など部分部分としてみた場合は直ちに事業ではないということはできない要素も認められる。
 しかしながら、本件貸付けは、請求人の税理士事務所から業務を分担する形で派生的に設立された請求人が主宰する本件同族会社2社及び親族に対する限定的かつ専属的なものであり、平成5年借入金は、請求人の税理士事務所等として使用することを目的とした本件建物の建設資金等であったこと及び本件借入金の本件各年分の年間返済額は、本件貸付けの年間賃貸料収入を上回っており、本件貸付けに係る賃貸料収入以外の収入も原資となっていること、また、本件同族会社2社の賃貸料は、それぞれの法人の収入及び人員割合が計算の根拠となっていることからすると、請求人における事業遂行上その企画性は乏しく、危険負担も少ないと認められる。また、本件建物は、その構造からみて他に賃貸が可能である等の汎用性が少ないなど、これらの点における請求人の自己の危険と計算による事業遂行性は希薄であると認められる。
 さらに、本件建物の設備等の管理・修理点検等は、請求人が行っているものの、清掃及び冷暖房設備点検、ビルの防犯・火災のセキュリティ契約等は、本件同族会社2社が行っていること、賃貸料の集金等は、インターネットバンキングにより、振替処理されていること、また、本件貸付物件は、請求人の主宰する本件同族会社2社及び親族に継続して貸し付けられていることから、請求人にとって賃借人の募集等をする必要はなく、賃貸料の改定交渉等の業務の煩雑さもなく、ビル管理業務等の負担も軽微であることから本件貸付けに費やす精神的・肉体的労力の程度は、実質的には相当低いと認められる。
 これらの諸点を総合勘案すると、本件貸付けは、社会通念上事業と称するに至る程度のものとは認められないと判断するのが相当である。
ロ なお、請求人は、1資産の取得に係る投資額(借入金)の多寡を重要視すべきであること、2事業とは、社会通念に照らして事業と認められるものすべてを含み、事業所及び人的・物的要素を結合した経済的組織を必ずしも必要とせず、本件貸付けは十分に自己の危険を持ち得る事業といえること、また、3総合ビジネスを視野においた事業を行うという計画を基に建築、事業経営を行っているという現状にかんがみると本件貸付けは不動産所得を生ずべき事業に該当すること、さらに、4平成13年東京高裁判決の中で挙げられている事業規模の判断基準(賃料収入1,500万円ないし床面積500平方メートル)に照らし合わせた場合、本件貸付けは事業に該当するとも主張するが、不動産貸付けが不動産所得を生ずべき事業に該当するか否かは、上記(1)のハのとおり、諸点を総合して、社会通念上事業といい得るか否かによって判断するのが相当と解されており、これらの点に関する請求人の主張は採用できない。

(4) 以上のとおり、本件貸付けは不動産所得を生ずべき事業に該当しないとした原処分は適法である。

(5) 過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所の調査の結果によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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