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(平19.10.3、裁決事例集No.74 111頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が消耗品費等の支出として損金の額に算入した金額について、原処分庁が、支出された現金の使途が明らかでないことなどを理由に代表取締役に対する役員賞与に当たるとして、源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分を行ったのに対し、請求人が、当該役員に賞与を支払った事実はないなどとして、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当者の調査(平成18年8月2日着手)に基づき、別表の項番1のとおり、平成18年10月30日付で平成15年7月から平成15年12月までの期間分の源泉所得税の納税告知処分をした。
ロ さらに、原処分庁は、別表の項番2のとおり、平成18年11月28日付で平成17年7月から平成17年12月までの期間分の源泉所得税の納税告知処分(以下、上記イの納税告知処分と併せて「本件各納税告知処分」という。)をした。
ハ 請求人は、上記イの処分を不服として平成18年11月12日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は平成19年2月7日付で棄却の異議決定をしたので、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成19年2月27日に審査請求をした。
ニ また、請求人は、上記ロの処分を不服として、平成18年12月6日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は平成19年3月5日付で棄却の異議決定をしたので、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成19年4月4日に審査請求をした。
ホ そこで、上記ハ及びニの審査請求について、国税通則法第104条《併合審理等》第1項の規定に基づいて併合審理をする。

(3) 関係法令等の要旨

イ 法人税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)第35条《役員賞与等の損金不算入》第4項は、賞与とは、役員又は使用人に対する臨時的な給与のうち、他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいう旨規定している。
ロ 法人税法第126条《青色申告法人の帳簿書類》第1項は、青色申告の承認を受けている内国法人は、財務省令で定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならない旨規定し、法人税法施行規則第59条《帳簿書類の整理保存》第1項第3号は、青色申告法人は、取引に関して、相手方から受け取った注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写しを整理し、保存しなければならない旨規定している。
ハ 所得税法第28条《給与所得》第1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下「給与等」という。)に係る所得をいう旨規定し、同法第183条《源泉徴収義務》第1項は、居住者に対し国内において給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定している。
ニ 所得税法第216条《源泉徴収に係る所得税の納期の特例》は、居住者に対し国内において給与等の支払をする者は、当該支払をする者の事務所等につき、当該事務所等の所在地の所轄税務署長の承認を受けた場合には、1月から6月まで及び7月から12月までの各期間に当該事務所等において支払った給与等及び退職手当等について徴収した所得税の額を当該各期間に属する最終月の翌月10日までに国に納付することができる旨規定している。
ホ 所得税基本通達36−9《給与所得の収入金額の収入すべき時期》の(4)は、給与所得の収入金額の収入すべき時期は、いわゆる認定賞与とされる給与等で、その支給日があらかじめ定められているものについてはその支給日、その日が定められていないものについては現実にその支給を受けた日(その日が明らかでない場合には、その支給が行われたと認められる事業年度の終了の日)によるものとする旨定めている。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人における経理状況等
(イ) 請求人は、中古車販売及び不動産賃貸・管理業等を営み、代表取締役であるC(以下「本件代表者」という。)が、発行済株式総数の93パーセントを有する同族会社である。
(ロ) 請求人の総勘定元帳等は、請求人から依頼を受けたD税理士が、年1回、請求人が保存している領収証などの取引資料に基づいて作成している。
(ハ) 請求人は、法人税法第122条《青色申告の承認の申請》第1項の規定に基づいて、昭和61年6月26日に昭和61年9月1日から昭和62年8月31日の事業年度以後の法人税の申告を青色申告とする承認申請書を提出し、同法第125条《青色申告の承認があったものとみなす場合》第1項の規定により青色申告の承認を受けている。
(ニ) 請求人は、平成13年11月30日に所得税法第216条に規定する源泉所得税の納期の特例の承認を受けている。
ロ パーソナルコンピュータの購入及びその記帳状況
(イ) 請求人は、平成15年8月6日に300,000円の小切手を振り出し、同日、本件代表者はこれを現金化(以下、現金化した当該現金を「本件現金300,000円」という。)した。
 一方、請求人は、平成14年9月1日から平成15年8月31日までの事業年度の総勘定元帳に、平成15年8月6日付で「消耗品費」として、金額欄に「300,000円」を計上し、相手勘定科目に「当座預金、E銀行」、摘要欄に「コンピューター」と記載したが、同日にパーソナルコンピュータ等が購入された事実はない。
(ロ) 請求人は、平成15年8月26日に215,302円でクレジットカードを利用してパーソナルコンピュータを事業用資産として購入し、平成15年9月1日から平成16年8月31日までの事業年度の総勘定元帳に、平成15年10月17日付で、クレジットカードで決済された他の費用338,049円と合わせて「仕入高」として、金額欄に「553,351円」を計上し、相手勘定科目に「当座預金、E銀行」、摘要欄に「○○ファイナンス」と記載した。
ハ 販売用車両の購入及びその記帳状況
(イ) 請求人は、平成17年4月25日に230,000円の小切手を振り出し、同日、本件代表者はこれを現金化(以下、現金化した当該現金を「本件現金230,000円」という。)した。
 一方、請求人は、平成16年9月1日から平成17年8月31日までの事業年度(以下「平成17年8月期」という。)の総勘定元帳に、平成17年4月25日付で「仕入高」として、金額欄に「230,000円」を計上し、相手勘定科目に「当座預金、E銀行」、摘要欄に「クラウン」と記載したが、同日に販売用車両のクラウンが購入された事実はない。
(ロ) 請求人は、平成17年6月27日に129,600円の小切手を振り出し、同日、本件代表者はこれを現金化(以下、現金化した当該現金を「本件現金129,600円」といい、本件現金300,000円及び本件現金230,000円と併せて「本件各現金」という。)した。
 一方、請求人は、平成17年8月期の総勘定元帳に、平成17年6月27日付で「仕入高」として、金額欄に「129,600円」を計上し、相手勘定科目に「当座預金、E銀行」、摘要欄に「カルディナW」と記載したが、同日に販売用車両のカルディナが購入された事実はない。
(ハ) 請求人は、平成17年5月6日に95,700円の銀行振込によってクラウンを、また、同年6月30日に129,600円の現金払によってカルディナを、それぞれ販売用車両として購入し、同日付で同額を平成17年8月期の総勘定元帳にそれぞれ「仕入高」として計上した。

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2 主張

(1) 原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
 本件各現金は、その使途等を直接明らかにする資料等がなく、その使途が明らかではないが、次の事実を併せかんがみると、請求人の本件代表者に対する臨時的な給与と認められるので、役員賞与に当たる。
イ 請求人は、本件代表者が請求人の発行済株式総数の93パーセントを所有する同族会社であり、本件代表者は、会社の経営や経理をすべて一人で行っていることからすると、本件代表者は、自身の意思により請求人のすべての業務を管理する立場にあり、請求人の資金を自由に費消することが可能な立場にある。
ロ 請求人は、現金出納帳を毎日記帳しておらず、請求人と本件代表者個人の現金は混同されている。
ハ 本件代表者が、請求人振出しの小切手を現金化している。
ニ 本件代表者が、本件各現金を所持していた。

(2) 請求人

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 原処分庁は、次のとおり、事実認定を誤っており、本件各現金は役員賞与に当たらない。
(イ) 請求人は、本件代表者の実母Fの資金提供により存在している会社であり、実質の最高意思決定権者はFであるので、原処分庁は事実誤認をしている。
(ロ) 請求人及び本件代表者は、会社の経費と個人負担の区分に関する知識はあるので、請求人と本件代表者の現金は混同されていない。仮に、同一の財布により現金が管理されていてもその事実をもって混同とはいえない。
 また、中古車販売は本件代表者が、不動産管理はFが、それぞれ仕切っており、各々の部門に関する資金は分別されている。
(ハ) 請求人は零細企業であり、賞与を支給できるような財務内容ではなく、本件代表者が自由に費消できる資金などは全くない。
(ニ) 請求人には本件代表者に対して賞与を支給する意思はなく、同人も賞与を受けた認識はない。
(ホ) 本件代表者が本件各現金を直接費消したという資料がない。
(ヘ) 本件各現金は、平成18年9月28日に本件代表者から請求人に返戻されている(平成18年9月28日に本件代表者から請求人の当座預金に1,500,000円が入金されている。)。
(ト) 一般に預金からの払戻金は、すべて特定の支払のためだけに払い戻されるものではないので、直接使途を明らかにする資料がないのは当然である。原処分庁の主張によれば、代表者が直接資金管理している同族会社の場合、直接支払に結びつかない預金の引き出しはすべて役員賞与になってしまう。
(チ) 原処分は、賞与と認定する具体的な理由がない推計課税である。青色申告法人に対する推計課税は不当である。
(リ) 臨宅調査時における調査担当者の長時間の居座りは、税務運営方針に反して不当である。
ロ 原処分庁は、当初、本件各現金を役員賞与とせず留保とし、後日精算を予定して処理することを承認したが、法人税に係る更正処分及び本件各納税告知処分では、これに反して役員賞与としており、信義誠実の原則(以下「信義則」という。)に反し、本件各納税告知処分は無効である。

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3 判断

 本件各現金が本件代表者に対する役員賞与に当たるか否かについて争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 本件代表者は、原処分庁所属の調査担当者に対して、請求人の事業運営及び日々の経理は、本件代表者が一人で行っている旨申述している。
ロ F所有のマンション等に係る賃貸収入は、請求人とFとの間において管理委託契約等が締結され、本件代表者名義の口座に入金されている。
 本件代表者は、入金された賃貸収入から光熱費等の支払及びF名義の口座への送金などを行い、その残金をFから請求人に対する短期借入金として計上するなどの処理を行っているが、当該借入れに関する借入金額、返済期間、利率、返済方法等の取決めはない。
ハ 平成17年8月期の法人税の確定申告書に添付されている「借入金及び支払利子の内訳書」には、Fからの借入金残高として26,934,444円が記載されている。
ニ 本件代表者が本件各現金を入手した後、本件各現金の使途を明らかにする帳簿への記帳及び資料等はない。
ホ 請求人は、原処分庁所属の調査担当者から本件各現金が役員賞与である旨の指摘を受けた後、本件代表者が本件各現金を取得したとする明らかな事実が確認できないとして原処分庁所属の調査担当者の了解の下、一旦、本件各現金の支出を基として計上した費用を損金不算入とし、その処分を留保(役員賞与として社外流出としない処理)とする等の修正申告書の案を原処分庁あてに送付している。
ヘ 原処分庁は、請求人に上記ホを内容とする修正申告をするよう求めたが、請求人から修正申告書の提出はなかった。そこで、原処分庁は、本件各現金を役員賞与とする法人税の更正処分等及び本件各納税告知処分を行った。

(2) 本件各現金が役員賞与に当たるか否かについて

イ 役員賞与について
 法人税法第35条第4項は、上記1の(3)のイのとおり、役員賞与は、法人がその役員に対して支給する臨時的な給与のうち、定期に定額を支給するものや退職給与以外のものと規定しているところ、本件各現金が、役員賞与に当たるというためには、本件代表者が、本件各現金を取得したことが必要と解される。
ロ 本件各現金の取得の有無について
(イ) 青色申告法人は、法人税法第126条第1項及び同法施行規則第59条第1項において、取引を記録する帳簿を備え付けて、その取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならず、また、相手方から受け取った領収書等及び自己が作成したこれらの写しがあるものはその写しを保存しなければならないとされている。
 また、事業活動の支出に関係する書面、特に、商品の仕入れ及び事業用資産の取得に関係する資料は、その取引先等との取引の際に受領するなど取引の事実を表す書面等を取り交わすことが一般的であり、請求人のような同族会社においても、何ら変わるところはない。
 そして、およそ請求人のようないわゆる同族会社で、代表者が当該法人の実権を唯一有する場合においては、代表者によって支出された現金等の使途が不明で、会社のために支出したと認められないときには、他の役員、株主等による抑制が困難であり、代表者はその取得・費消することが極めて容易な立場にあることから、他に特段の事情がない限り、当該法人の実権を唯一有するその代表者がその現金等を取得したものと推認するのが相当である。
(ロ) これを本件についてみると、次のとおりである。
A 上記1の(4)のイの(イ)のとおり、本件代表者は、請求人の株式の90パーセント以上を所有していること、また、上記(1)のイのとおり、本件代表者は、請求人の事業運営及び経理を一人で行っている旨申述しており、このことは、上記(1)のロのとおり、本件代表者は、不動産賃貸に関する入出金を本件代表者名義の口座で行い、その残金等を具体的な取決めもなく請求人の借入金として計上している事実からみても、本件代表者の申述は信ぴょう性があるといえることから、本件代表者は、請求人の事業経営及び経理の実権を有する唯一の者であると認められる。
B そして、請求人は、青色申告法人であり、取引に関係する帳簿の記録及び資料の保存が必要であるところ、上記1の(4)のロ及びハのとおり、本件代表者は、仕入れ等のために小切手を振り出し、これを現金化して、本件各現金を入手したものの、その時点で購入したものとして帳簿に記帳されている各資産は実際には購入されておらず、上記(1)のニのとおり、その使途を明らかにする帳簿の記録や資料等の保存は一切なく、本件各現金を本件代表者が入手した後、請求人のために支出したとする事実は認められない。
(ハ) 以上のことからすれば、本件各現金は、本件代表者が取得したとみるほかなく、請求人から本件代表者に対して支給された臨時的な給与、すなわち役員賞与に当たると認めるのが相当である。
ハ 請求人の主張について
(イ) 請求人は、請求人がFの資金提供により存在している会社であり、実質の最高意思決定権者はFであるので、原処分庁は事実誤認をしている旨主張する。
 確かに、上記(1)のハのとおり、平成17年8月期末現在のFからの借入金残高は、2,700万円弱が計上されているものの、資金を提供していることのみをもって直ちにFを最終意思決定権者であるということはできず、当該主張を認めるに足る直接あるいは間接的な事実も認められない。
 また、上記ロの(ロ)のAのとおり、本件代表者は、請求人の事業経営及び経理の実権を有するものと認められ、仮に、請求人が主張するように「中古車販売は本件代表者が、不動産管理はFが、それぞれ仕切っており、各々の部門に関する資金は分別されている」としても、争点となっている本件各現金は、正に、中古車販売に関連する支出であるから、本件代表者の意思の下に支払が行われていることは明らかである。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ロ) 請求人は、請求人が零細企業であり、賞与を支給できるような財務内容ではないから、本件代表者が自由に費消できる資金などは全くないし、請求人には本件代表者に賞与を支給した意思はなく、同人も賞与を受けた認識はない旨、また、本件代表者が本件各現金を直接費消したという資料はなく、一般に預金からの払戻金は、すべて特定の支払のためだけに払い戻されるものではないので、直接使途を明らかにする資料がないのは当然であり、原処分庁の主張によれば、代表者が直接資金管理している同族会社の場合には、直接支払に結びつかない預金の引き出しはすべて役員賞与になってしまう旨主張する。
 しかしながら、本件各現金が、本件代表者に対する役員賞与と認められる要件を備えていることは、上記イ及びロで述べたとおりであり、また、本件各現金は、支払目的が明確なものを小切手で本件代表者が現金化したものであるが、一般に、仕入れ等の支払目的が明確なものを小切手で代表者が現金化して、それを長期間所持している必要性は認め難いことから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ) 請求人は、本件各現金は平成18年9月28日に本件代表者から請求人に返戻されている(平成18年9月28日に本件代表者から請求人の当座預金に1,500,000円が入金されている。)旨主張する。
 しかしながら、請求人は、本件代表者が請求人の当座預金に入金したという1,500,000円の中に本件各現金に相当する金額が含まれている旨主張するのみで、その内訳を何ら示さず、当該金額が返戻されたという事実は確認できない。
 仮に、本件代表者が平成18年9月28日に本件各現金に相当する金額を返戻したものとしても、その事実は、当該金額を総勘定元帳に不当に計上したまま、その現金を本件代表者が長期間所持していたこと、つまり、使途を明らかにしないまま取得したということを必ずしも否定するものではなく、上記ロに述べたとおり、本件各現金は、本件代表者に支給されたものと認めるのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ) 請求人は、請求人及び本件代表者は会社の経費と個人負担の区分に関する知識はあるので、請求人と本件代表者の現金は混同されていない旨、また、仮に、同一の財布により現金が管理されていてもその事実をもって混同とはいえない旨主張する。
 しかしながら、請求人の経理は、中古車販売に係る取引については保存した資料に基づいて、年1回まとめて帳簿に記帳する方法を採っており、Fからの借入金については、返済期間、利率、返済方法等の具体的な取決めもないまま計上していること、また、総勘定元帳の現金勘定科目の残高がマイナスとなっている時期が認められることなどからすれば、請求人の総勘定元帳は事業実態を正確に表したものとはいえず、さらに、請求人は、現に支出した本件各現金の使途について具体的な説明ができず、返戻されたとする金額の内訳についても明らかにできない状況にある。
 これらの状況は、請求人と本件代表者個人の現金等が区分されていないことにほかならず、この点に関する請求人の主張は失当である。
(ホ) 請求人は、原処分は賞与と認定する具体的な理由がない推計課税であり不当である旨、また、臨宅調査時における調査担当者の長時間の居座りは、不当である旨主張する。
 しかしながら、本件各現金が本件代表者に対する役員賞与に当たることについては、上記イ及びロで述べたとおりであり、また、請求人に対する調査において、調査担当者が不当な調査を行ったとする事実は認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 本件各納税告知処分について
(イ) 所得税に係る源泉徴収義務
 本件各現金は、上記イないしハのとおり、いずれも役員賞与に当たり、上記1の(3)のハのとおり、所得税法第28条第1項及び同法第183条第1項の規定により、請求人は、本件各現金に係る所得税を徴収し、納付する義務を負う。
(ロ) 支給したと認められる日
 上記(イ)のとおり、本件各現金は、請求人が本件代表者に支給した役員賞与と認められ、請求人は、本件各現金を支給した際に所得税を徴収する義務を負うのであるが、支給したと認められる具体的な時期については必ずしも明らかではない。
 ところで、認定賞与とされる給与等の収入すべき時期については、上記1の(3)のホのとおり、所得税基本通達36−9の(4)において、支給を受けた日が明らかでない場合には、その支給が行われたと認められる事業年度の終了の日による旨定めており、当該通達は、給与所得の収入金額の収入すべき時期について具体的に明らかにしているものであり、当審判所においても相当と認められる。
 そうすると、本件現金300,000円が支給された日は、現金化された平成15年8月6日の属する事業年度の終了の日である平成15年8月末日とするのが相当であり、また、本件現金230,000円及び本件現金129,600円については、現金化された平成17年4月25日及び同年6月27日の属する事業年度の終了の日である平成17年8月末日とするのが相当である。
(ハ) 以上のことから、源泉所得税の納期の特例の承認を受けている請求人は、上記1の(3)のニの所得税法第216条の規定により、本件現金300,000円については、平成15年7月から平成15年12月までの期間分として、本件現金230,000円及び本件現金129,600円については、平成17年7月から平成17年12月までの期間分として、本件代表者からそれぞれ所得税を徴収し、翌年の1月10日までに国に納付する義務を負う。
 したがって、本件各現金に係る源泉所得税の額は、別表の「源泉所得税の額」欄の金額と上記期間ごとにそれぞれ同額となるので、本件各納税告知処分はいずれも適法である。

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(3) 信義則について

 原処分は信義則に反するか否かについて争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。
イ 請求人は、原処分庁は、当初、本件各現金を役員賞与とせず留保として処理することを承認したが、本件各納税告知処分では、これに反して役員賞与としており、信義則に反する旨主張する。
 しかしながら、租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、その課税処分を無効とすることができる場合があるとしても、租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、信義則の法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れさせて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情がある場合に、初めて信義則の法理の適用の是非を考えるべきである。
 そして、特別な事情があるというためには、少なくとも、1税務官庁が納税者に対して信頼の対象となる公的見解を表示したこと、2納税者がその表示を信頼してその信頼に基づいて行動(取引、経理、申告等々)したこと、3その後に上記表示に反する課税処分が行われたこと、4そのため納税者が経済的不利益を受けることになったこと、5納税者の責めに帰すべき事由がないことが必要であると解するのが相当である。
ロ これを本件についてみると、1原処分は、上記(2)のとおり、租税法規に適合し、適法になされていること、2請求人は、原処分庁が承諾したとする内容の修正申告はしていないのであるから、原処分庁の表示を信頼して、その信頼に基づいた行動が行われていないこと、さらに、3本件各現金が使途不明となった原因は、そもそも、請求人の不当な経理処理にあると認められることを併せ考えれば、上記(1)のホ及びヘの事実をもって、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れさせて請求人の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情があると認めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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