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(平19.12.5、裁決事例集No.74 133頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が役員報酬勘定に計上した金額について、原処分庁が、当該金額の一部が役員賞与に該当するとして法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、その認定に誤りがあるとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯等

イ 平成15年8月1日から平成16年7月31日まで、同年8月1日から平成17年7月31日まで及び同年8月1日から平成18年7月31日までの各事業年度(以下、順次「平成16年7月期」、「平成17年7月期」及び「平成18年7月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税についての審査請求(平成19年7月18日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。
ロ 請求人は、原処分を不服として、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定により、平成19年7月18日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 法人税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)第35条《役員賞与等の損金不算入》第1項は、内国法人がその役員に対して支給する賞与の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定し、同条第4項は、同条第1項に規定する賞与とは、役員に対する臨時的な給与のうち、他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいう旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 請求人の概要
(イ) 請求人は、昭和○年○月○日に設立され、P市Q町○−○に本店を置く、電気工事請負等を目的とする法人である。
(ロ) 請求人の本件各事業年度における取締役は、E(代表取締役)、F、G及びH(平成17年9月16日就任)である(以下、これら4名の役員を併せて「本件各役員」という。)。
ロ 請求人の経理処理
(イ) 請求人は、本件各事業年度において、請求人の各総勘定元帳の役員報酬勘定の借方に、別表2の「計上年月日」欄及び「計上額」欄のとおり計上する経理処理を行っており(以下、この経理処理に係る計上額を「本件役員報酬勘定計上額」といい、このうち平成17年7月27日の計上額を「本件役員報酬勘定平成17年7月計上額」と、同年12月27日の計上額を「本件役員報酬勘定平成17年12月計上額」と、それぞれいう。)、本件役員報酬勘定計上額の本件各役員ごとの内訳は、同表の「本件各役員」欄のとおりである。
(ロ) 請求人は、本件各事業年度において、請求人の各総勘定元帳の未払金勘定の貸方に、平成16年4月27日以後に計上した本件役員報酬勘定計上額の一部につき、別表3の「計上年月日」欄及び「計上額」欄のとおり計上する経理処理を行っている(以下、この経理処理に係る計上額を「本件未払金勘定貸方計上額」という。)。
(ハ) 請求人は、本件各事業年度において、請求人の各総勘定元帳の未払金勘定の借方に、本件未払金勘定貸方計上額につき、別表4の「計上年月日」欄及び「計上額」欄のとおり計上する経理処理を行っている。

(5) 争点

 本件役員報酬勘定計上額の一部が役員賞与に該当するか否か。

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2 主張

原処分庁 請求人
 法人税法第34条《過大な役員報酬等の損金不算入》及び同法第35条の規定によれば、役員報酬と役員賞与は、専ら「臨時的な給与」か否かという支給形態を基準として区分されていると解されるところ、「臨時的な給与」とは、その支給の時期、金額、支給回数等を、年間のその他の給与の支給状況全体との関連において考察し、これによって当該給与が経常性のない一時的なものと認められるものをいうと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、本件未払金勘定貸方計上額は、それぞれ7月又は12月の使用人の賞与の支給日と同じ日に一括して本件各役員に支給され、そのため当該各月の支給額に限って他の月の報酬の支給額を大幅に上回っており、また、別表5の本件各役員に対する報酬の支給年月日、支給額及び支給回数等に照らすと、本件役員報酬勘定計上額のうち、別表6の各金額は、経常性があるとはいえず、本件各役員に対する「臨時的な給与」すなわち役員賞与に該当する。
 役員賞与とは「臨時的な給与」をいい、「定期の給与」は法人税基本通達9−2−13《定期の給与》に定められているが、役員報酬の取扱いについては、これ以外に法令の規定がなく、特に、役員報酬を支払った後に、その一部を預かった場合の扱いについても、法令の規定がない。
 請求人は、取締役会の協議に基づいて本件各役員の報酬の月額を決め、毎月その全額を支給し、そのうち○○○○円又は○○○○円を本件各役員から毎月預かり、その預かった金員を使用人の賞与の支給日と同じ日に返金する方法を採ってきたものである。
 請求人は、上記のとおり、本件各役員に対してその報酬の全額を支給したものであるから、その全額が損金の額に算入できるものである。

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3 判断

(1) 争点(本件役員報酬勘定計上額の一部が役員賞与に該当するか否か。)

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 報酬等の支給日
A 請求人は、本件各事業年度において、本件各役員の報酬及び使用人の給与を毎月の25日から27日までの間に支給している。
B 請求人は、本件各事業年度において、使用人の賞与を毎年7月及び12月の10日から15日までの間に支給している。
(ロ) 本件各役員に対する報酬の支給等
A 請求人は、別表3の「計上年月日」欄に記載の各日に、本件各役員に対して、本件役員報酬勘定計上額から社会保険料、所得税、本件未払金勘定貸方計上額(同表の「本件各役員」欄の各金額)などに係る各金額を控除した後の各金額について、J銀行○○支店のファームバンキングサービスを利用して、本件各役員が振込先として指定した金融機関の各普通預金口座へ口座振込する方法でそれぞれ支払っている。
B 請求人は、本件役員報酬勘定平成17年7月計上額及び本件役員報酬勘定平成17年12月計上額については、未払金とすることなくその全額を、当該各計上日に、本件各役員に対して、上記Aと同様に口座振込する方法でそれぞれ支払っている。
C 請求人は、本件未払金勘定貸方計上額を、本件各役員に対して、その計上年月日には全く支払わず、次のとおり支払っている。
(A) 請求人は、使用人の賞与の支給日(別表4の「計上年月日」欄の各日)に、本件各役員に対して、同表の「本件各役員」欄の各金額を、上記Aと同様に口座振込する方法でそれぞれ支払っている。
(B) 請求人は、本件未払金勘定貸方計上額のうち平成18年7月27日の計上額については、同年12月15日に預り金勘定に振り替える経理処理をした上、同日に、本件各役員に対して、上記Aと同様に口座振込する方法でそれぞれ支払っている。
D 上記1の(4)のロ及び上記AからCまでの各事実から、本件各事業年度における請求人の本件各役員に対する報酬の支給状況は、別表5のとおりである。
ロ 判断
(イ) 法人税法第35条第4項に規定する「臨時的な給与」の意義については、法令に格別の規定はないが、同項が、「毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給される給与」も「臨時的な給与」に含まれ得ることを前提として、「他に定期の給与を受けていない者」に対し支給したものについてこれを「臨時的な給与」のうちから除外していること並びに社会通念によって考えれば、単に当該給与の支給時期又は支給額があらかじめ定められているか否かのみによって一律に決まるものではなく、その支給時期、支給回数及び支給の趣旨等を、年間のその他の給与の支給状況全体との関連において考察し、これによって当該給与が経常性のない一時的なものと認められるときは、同項に規定する「臨時的な給与」に該当するものと解するのが相当である。
(ロ) これを本件についてみると、次のとおりである。
A 本件未払金勘定貸方計上額
 上記イの各事実のとおり、本件未払金勘定貸方計上額は、その支給の時期が本件各役員の報酬及び使用人の給与の支給日ではなく使用人の賞与の支給日と同じ日であること、その支給の回数が使用人の賞与支給回数と同じ年2回であることからすると、その全額が経常性のない一時的なものと認めるのが相当である。
B 本件役員報酬勘定平成17年7月計上額
 本件役員報酬勘定平成17年7月計上額は、その計上日にその全額がE、G及びFに対し支給されているところ、同人らに対する平成17年7月の前3か月及び後4か月の各支給額(別表5の「23」欄から「25」欄まで及び「28」欄から「31」欄までの各支給額)が、E○○○○円、G○○○○円及びF○○○○円とそれぞれ定額であることからすると、同人らに対する同表の「27」欄の各支給額のうち当該各定額を超える額(超過額は、E、G及びFともにそれぞれ○○○○円である。)は、支給状況全体との関連から、経常性のない一時的なものと認めるのが相当である。
C 本件役員報酬勘定平成17年12月計上額
(A) 本件役員報酬勘定平成17年12月計上額のうちHに係る計上額は、その計上日にその全額が同人に対し支給されているところ、同人に対する平成17年12月の前後各3か月の各支給額(別表5の「29」欄から「31」欄まで及び「34」欄から「36」欄までの各支給額)が○○○○円と定額であることからすると、同人に対する同表の「33」欄の支給額のうち当該定額を超える額(超過額は○○○○円である。)は、支給状況全体との関連から、経常性のない一時的なものと認めるのが相当である。
(B) 本件役員報酬勘定平成17年12月計上額のうちE、G及びFに係る各計上額は、その計上日にその全額が同人らに対し支給されているところ、同人らに対する平成17年12月の前4か月の各支給額が上記Bのとおり定額であり、また、同人らに対する平成17年12月の後7か月の各支給額(別表5の「34」欄から「39」欄まで及び「41」欄の各支給額)も、E○○○○円、G○○○○円及びF○○○○円とそれぞれ定額であることからすると、同人らに対する同表の「33」欄の各支給額のうち上記各定額を超える額は、いずれの定額と比較したとしても、支給状況全体との関連から、経常性のない一時的なものであると認めるのが相当である。
 そして、比較する各定額が平成17年12月の後7か月の各支給額ではなく、平成17年12月の前4か月の各支給額であることについては、これを認めるに足る証拠はないのであるから、比較する各定額は平成17年12月の後7か月の各支給額とするのが相当である。
 そうすると、E、G及びFに対する別表5の「33」欄の各支給額のうち平成17年12月の後7か月の各支給額を超える額(超過額は、E、G及びFともにそれぞれ○○○○円である。)は、経常性のない一時的なものと認められる。
D まとめ
 以上から、本件未払金勘定貸方計上額並びに上記B及びCの各超過額(別表7の「本件各役員に対する役員賞与の額」欄の各金額)は、法人税法第35条第4項に規定する「臨時的な給与」すなわち役員賞与に該当し、同表の各金額は、本件各事業年度の損金の額に算入することはできない。
(ハ) これに対し、請求人は、取締役会の協議に基づいて本件各役員の報酬の月額を決め、その全額を支給したものであるから、その全額が損金の額に算入できる旨主張する。
 しかしながら、上記イの各事実からすると、本件未払金勘定貸方計上額は、本件各役員に対して、その計上年月日に支給されず、使用人の賞与の支給日に支給されていることは明らかであるから、請求人の主張には理由がない。
(ニ) 一方、原処分庁は、E、G及びFに対する別表5の「33」欄の各支給額について、平成17年12月の前4か月の各支給額が定額であることをもって、当該各定額を超える額(超過額は、E、G及びFともにそれぞれ○○○○円となる。)が「臨時的な給与」すなわち役員賞与に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件各役員に対する報酬が経常性のない一時的なものと認められるか否かは、当該報酬の支給状況全体との関連において考察する必要があり、単に、平成17年12月の前4か月の各支給額のみならず、平成17年12月の後7か月の各支給額をも考察の対象にすべきであるところ、上記(ロ)のCの(B)のとおり、比較する各定額は平成17年12月の後7か月の各支給額とするのが相当であるから、原処分庁の主張は採用できない。

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(2) 各更正処分

イ 平成16年7月期及び平成17年7月期
 上記(1)のロの(ロ)のDを前提に平成16年7月期及び平成17年7月期の所得金額を計算すると、別表8の「平成16年7月期」欄及び「平成17年7月期」欄の「7」欄の各金額となり、これらの金額は、いずれも各更正処分に係る所得金額と同額となるから、平成19年7月3日付でされた平成16年7月期及び平成17年7月期の法人税の各更正処分はいずれも適法である。
ロ 平成18年7月期
 上記(1)のロの(ロ)のDを前提に平成18年7月期の所得金額を計算すると、別表8の「平成18年7月期」欄の「7」欄の金額となり、この金額は、更正処分に係る所得金額を下回るから、平成19年7月3日付でされた平成18年7月期の法人税の更正処分は、その一部を取り消すべきである。

(3) 各賦課決定処分

イ 平成16年7月期及び平成17年7月期
 上記(2)のイのとおり、平成16年7月期及び平成17年7月期の法人税の各更正処分はいずれも適法であり、また、当該各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実について、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて平成19年7月3日付でされた平成16年7月期及び平成17年7月期の法人税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。
ロ 平成18年7月期
 上記(2)のロのとおり、平成18年7月期の法人税の更正処分は、その一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は○○○○円となる。
 また、当該税額の計算の基礎となった事実について、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そうすると、過少申告加算税の額は○○○○円となり、賦課決定処分のその額を下回るから、平成19年7月3日付でされた平成18年7月期の法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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