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(平19.12.19、裁決事例集No.74 181頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、医療法人である審査請求人(以下「請求人」という。)の理事長であったDに係る国税犯則取締法に基づく犯則調査において把握された請求人に関する課税資料等を基として請求人の法人税の更正処分等を行ったことに対し、請求人が、当該更正処分等は調査を行わずになされた違法な処分であることを主たる理由として、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年2月20日から平成13年8月31日まで、平成13年9月1日から平成14年8月31日まで及び平成14年9月1日から平成15年8月31日までの各事業年度(以下、順次「平成13年8月期」、「平成14年8月期」及び「平成15年8月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、各確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおりそれぞれ記載して、いずれも法定申告期限までに原処分庁へ申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成18年2月28日付で本件各事業年度の法人税について、別表1の「更正処分等」欄のとおりとする各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をし、その処分の通知書を請求人に対し、平成18年3月2日に送達した。
ハ 請求人は、上記ロの処分を不服として、平成18年5月1日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成18年12月22日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成19年1月18日に審査請求をした。

(3) 関係法令

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第24条《更正》は、税務署長は、納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する旨規定している。
ロ 法人税法第153条《当該職員の質問検査権》第1項は、国税庁の当該職員又は法人の納税地の所轄税務署若しくは所轄国税局の当該職員は、法人税に関する調査について必要があるときは、法人に質問し、又はその帳簿書類その他の物件を検査することができる旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成13年2月○日にP市p町○−○において、診療所の経営及び医療の普及を目的として設立された。
ロ 請求人の理事長であったD(以下「D前理事長」という。)は、請求人設立時からその職に就任していたが、平成19年1月5日に退任し、請求人の理事として現在に至っている。
ハ 個人としてのD(以下「D個人」という。)は、E国税局査察部の国税犯則取締法に基づく犯則調査(以下「本件査察調査」という。)を受け、平成13年分ないし平成15年分の所得税法違反容疑で起訴され、平成○年○月○日に○○地方裁判所平成○年○(○)第○○号所得税法違反被告事件(以下「本件所得税法違反事件」という。)において、判決が言い渡され、控訴せずに本件所得税法違反事件は確定した。
ニ 請求人は、平成13年8月30日に法人税の青色申告の承認申請書を原処分庁に提出し、平成14年8月期以降の法人税の青色申告の承認がされていたところ、原処分庁は、平成17年12月16日付で請求人の平成14年8月期以降の法人税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色取消処分」という。)を行った。
 なお、請求人は、本件青色取消処分については異議申立てをしていない。

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2 主張

(1) 請求人

イ 原処分は、次の理由のとおり、職権濫用に当たる違法な処分であるから、そのすべてが取り消されるべきである。
(イ) 請求人に対する税務調査は行われていないのであるから、本件各更正処分は、その所得金額及び納付すべき税額に根拠がない。また、原処分庁から本件各更正処分の内容の説明もなかった。
(ロ) 本件各賦課決定処分は上記(イ)に基づくものであり、違法である。
(ハ) 原処分庁は、税務調査を行うことなく本件青色取消処分を行った。
ロ なお、原処分庁は、本件各更正処分においてF及びG(以下「Fら」という。)に対する給与を架空給与と認定しているが、Fらは請求人の役員であり、架空給与ではない。
ハ また、D個人の診療所に係る経費を請求人に付け替えたとして否認された経費については、D個人に係る所得税の減額更正をすべきである。

(2) 原処分庁

 原処分は、次のとおり、いずれも適法である。
イ 通則法第24条に規定する「調査」に関しては、1国税犯則取締法に基づく査察官による犯則調査により収集した資料を税務署長が課税処分を行うために利用することは何ら妨げられないこと、2犯則調査の資料及び刑事手続の資料を使用して課税標準を認定することも、同条の「調査」に含まれ、許されると解されていること、3税務署長が査察官から引き継いだ調査資料に検討を加えて更正処分を行い、その処分を行うに際して法人税法第153条第1項に規定する質問検査権を行使しないとしても、通則法第24条には違反しないし、課税処分に影響を与えるものではないと解されていることから、本件各更正処分は適法である。
 また、請求人は、原処分庁が更正前の額と更正後の額との増減差額の内訳に係る説明責任を果たしていないことを理由に本件各更正処分は不当である旨主張するが、更正処分に当たってその通知書に更正の理由を付記しなければならないのは、法人税法第130条《青色申告書等に係る更正》第2項の規定により、青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額を更正する場合に限られているところ、請求人の提出した本件各事業年度の法人税の確定申告書は、上記1の(4)のニのとおり、青色申告の承認は取り消されているから青色申告書ではない。
 したがって、請求人に対する更正通知書に更正の理由を付記しなかったことに違法はない。
ロ 本件各事業年度の納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうち、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについては、通則法第65条《過少申告加算税》第4項の「正当な理由があると認められるものがある場合」には該当しないので、過少申告加算税の各賦課決定処分は適法である。
 また、請求人は、本件各事業年度において、1Fらの名で架空の給与費を計上し、2請求人名で請求した健康診断等の収入をD個人名義の口座に入金させて収入を除外し、3D個人が経営する診療所の外注費、診療材料費及び医薬品費に係る請求書のあて名を請求人にするよう取引先等に対して指示し、請求人において架空の費用を計上するなど、所得金額を過少に計算して本件各事業年度の法人税の確定申告書を提出した事実が認められる。
 このことは、通則法第68条《重加算税》第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したとき」に該当するから、同条の規定に基づき行った重加算税の各賦課決定処分は適法である。
ハ Fらは、本件査察調査において、担当査察官に対して要旨下記(イ)及び(ロ)のとおり申述している。そして、その申述内容からすると、Fらは、D前理事長から請求人の役員になってほしい旨及び請求人の診療所に勤務しているかのようにしてほしい旨依頼され、ついてはFらの名義の預金口座を作成し、預金通帳、キャッシュカード及び印鑑をセットにしてD前理事長に引き渡したことが確認できる。
 また、Fらが請求人に勤務していないこと及び請求人がFらに対して支給したとする給与がFらには支払われていない架空のものであると認められることは明らかであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(イ) Fの申述
A 私(F)と妻は、D前理事長に頼まれて仕方なく請求人の診療所に勤務していることにしていたので、診療所での勤務の対価である月額○○万円をD前理事長や請求人からもらったことはない。
B 私と妻は、平成13年10月ころ、D前理事長から請求人の役員になってほしい旨依頼され、ついては預金通帳を作ってくれと言われたので、D前理事長に預金通帳を渡した。その後その預金通帳を見たことはなかったが、平成14年8月ころに同人から役員はもう結構ですと言われた際に初めて預金通帳を見たところ、私と妻の通帳にはそれぞれ毎月○○万円くらいずつ振り込まれ、すぐに出金されていることを知った。
(ロ) Gの申述
A 私(G)と夫は、D前理事長から請求人で働いているかのようにしてほしい旨及び私と夫名義の銀行預金口座を新規に作って同人に渡すようにと言われた。
B 私は、当時のH銀行(現○○銀行、以下同じ。)h支店に行き私名義及び夫名義の預金口座を作った後、預金通帳、キャッシュカード及び印鑑をセットにしてD前理事長に渡した。
C 私と夫は手取りで○○万円くらい請求人からそれぞれ受け取っていたと先に言ったのはうそである。

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3 判断

 本件各更正処分等は、原処分庁が調査を行わずになされた違法な処分であるか否かに争いがあるので、判断する。

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件所得税法違反事件の概要は、D個人が自己名義のほか他人名義で診療所を開設・経営し、1開設名義人に所得を分散して確定申告をさせ、2租税特別措置法第26条《社会保険診療報酬の所得計算の特例》の適用を受けることにより所得を圧縮し、3架空経費を計上することなどの不正の行為により、平成13年分ないし平成15年分の所得税を免れたとするものである。
ロ 原処分庁は、平成18年1月20日にE国税局J部長から、本件査察調査の過程において把握された、請求人に係る本件各事業年度の法人税について、更正すべき所得金額及び納付すべき税額並びに更正すべき所得金額を算出するための勘定科目別の認定金額及び確定方法等が記載された課税資料(以下「本件課税資料」という。)を受領した。当該資料の構成及び記載内容は、要旨次のとおりである。
(イ) 請求人の本件各事業年度の法人税額計算書及び同計算書の付表
(ロ) 請求人の本件各事業年度の「増差額の内訳(損益)」と題し、その科目内訳として「収入金額」、「外注費」、「診療材料費」、「医薬品費」、「広告宣伝費」、「給与費」及び「事業税認定損」などを区分記載したもの(備考欄において、認定金額の確定方法が記載されている。)
(ハ) 請求人の本件各事業年度の「増差額の内訳(貸借)」と題し、その科目内訳として「立替金」、「仮払金」、「過払源泉所得税」、「預り金」、「未払金」、「未納事業税」及び「繰越損益金」を区分記載したもの
(ニ) 請求人を含むD個人に係る取引形態図
(ホ) 請求人に対する「源泉課税連絡せん」
 なお、当該連絡せんには、要旨次のとおり記載されている。
A 請求人が計上した給与費には、1架空計上した給与費、2D個人が経営する診療所に勤務したと認められる者に係る給与費が含まれている。
B 上記Aの1及び2の給与費を請求人の公表金額から減算し、正当なる給与所得の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)としての調査額を算出し、差引過払源泉所得税を還付する。
C 上記Aの2に係る給与費は、D個人の申告において経費として認定し、当該源泉所得税についても源泉徴収義務者として課税処理済である。
ハ 本件課税資料は、本件査察調査において把握された事実及び証拠等に基づいて作成されている。
ニ 原処分庁の原処分担当職員(以下「原処分担当職員」という。)は、本件課税資料に記載されている更正すべき事項と請求人が原処分庁に提出した確定申告書、勘定科目内訳書及び決算報告書等との照合をする上で必要となった事項及び根拠等について、担当査察官に対して照会を行い、その回答によって本件課税資料の科目内訳、加算税の賦課要件等を確認している。
ホ 原処分担当職員は、当審判所に対し、本件課税資料に記載されている内容は本件査察調査において把握された事実及び証拠に基づいた信用性の高いものであること、さらに、それらの内容についても徹底的な調査がされているものであることから、殊更改めて原処分庁が独自に請求人事務所等へ臨場し帳簿調査をすることや請求人及び請求人の関係者等に質問検査を行う必要はないと判断し、本件課税資料、請求人が提出した確定申告書、勘定科目内訳書及び決算報告書等を机上で調査し、請求人の本件各事業年度の法人税の所得金額及び納付すべき税額を算出した旨答述している。
ヘ 原処分庁が本件課税資料を基に算出した本件各更正処分の内訳は、別表2のとおりである。
ト 原処分庁は、請求人事務所等への臨場調査並びに請求人及び請求人の関係者等に対して、法人税法第153条第1項に規定する質問検査権の行使をしていない。
チ 請求人は、Fらが平成13年10月○日に請求人の理事に就任したとする役員変更届を同年12月26日に、また、同人らが平成15年8月○日に請求人の理事を辞任したとする役員変更届を同年9月8日に、それぞれK知事に提出している。
リ 請求人が、平成13年10月31日及び平成14年10月31日に、それぞれ原処分庁に提出した平成13年8月期及び平成14年8月期の法人税の確定申告書に添付されている平成13年10月25日付及び平成14年10月25日付の利益処分計算書には、請求人の理事長、常務理事、理事及び監事の役職に対する氏名が記載されているが、Fらと称する氏名の記載はない。また、請求人の平成15年8月期の法人税の確定申告書に添付されている利益処分計算書にも、請求人の理事長、常務理事、理事及び監事の役職に対する氏名が記載されているが、Fらと称する氏名の記載はない。
ヌ 原処分庁は、J部長から本件査察調査の過程において把握された事実及び証拠等に基づいた請求人に係る青色申告の承認の取消し処分に関する連絡を受け、机上調査を行い、上記1の(4)のニのとおり、平成17年12月16日付で本件青色取消処分をしている。そして、取消処分の基因となった事実として、「平成14年8月期において、請求人備付けの総勘定元帳の常勤事務員給科目に、平成13年10月29日に勤務実態のないF及びGに対して、それぞれ○○万円を計上したのをはじめ、総額○○○○円の架空常勤事務員給を計上していたこと。」とされているところ、請求人は本件青色取消処分について異議申立てをしていない。
ル 本件査察調査でFらに対する質問調査を行った担当査察官は、当審判所に対して、Fらの申述内容等は要旨次のとおりである旨答述している。
(イ) Fは、私と妻はD前理事長に頼まれて仕方なく請求人の診療所に勤務していることにしていたので、勤務の対価である月額○○万円をD前理事長や請求人からもらったことはない。そして、私と妻は平成13年10月ころ、D前理事長から請求人の役員になってほしいと頼まれた。その際に預金通帳を作って渡してくれと言われたので、D前理事長に預金通帳を渡したが、その後1回も通帳を見たことがなかった。平成14年8月ころにD前理事長から役員はもう結構ですと言われた際に初めて預金通帳を見たところ、私と妻の通帳にそれぞれ毎月○○万円くらいずつ振り込まれ、すぐに出金されていることを知った旨申述した。
(ロ) Gは、私と夫はD前理事長から請求人で働いているかのようにしてほしい、そして、私と夫名義の銀行預金通帳を新規に作って渡すようにと言われた。私はH銀行h支店で、私と夫名義の預金口座を作りその通帳とキャッシュカード及び印鑑をセットにして、D前理事長に渡した旨申述した。
(ハ) 担当査察官は、Fらは請求人の役員としての勤務実態がなく、また、役員報酬も実際に受領していないことが判明したことから、請求人が計上したFらに対する役員報酬は架空の給与であると判断した。
ヲ D個人は、平成17年7月8日に本件所得税法違反事件における担当検察官に対し、法人である請求人に所属するLについてはFらについて架空の人件費を付けていたように覚えている旨供述し、供述内容を読み返した後に、Fらの話をしたが、Lでは働いていないものの、請求人の役員としての報酬を払っていたもので架空の人件費には当たらないと思う旨供述し、同人自らが任意供述した内容の訂正願いをしている。
ワ 請求人の総勘定元帳には、Fらに対する給与の額として、平成14年8月期は勘定科目「常勤事務員給」に平成13年10月から平成14年8月までの間の11か月分の合計○○○○円が計上されている。

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(2) 本件各更正処分

イ 法令解釈等
(イ) 犯則調査資料の利用について
 課税調査と犯則調査は、その目的や機能を異にする別個の手続であり、両者は制度上区別されているが、犯則事件が存在するとの嫌疑もないのに専ら課税資料を収集する目的で国税犯則取締法上の強制調査を行い、この調査によって得た資料のみに基づいて課税処分をするというような違法な場合は別として、収税官吏である国税査察官が犯則嫌疑者に対し、適法な犯則調査を行った場合に、課税庁がその調査若しくはその過程で収集された資料を引き継ぎ、これを課税処分を行うために利用することは許されると解されている。
(ロ) 課税調査について
 通則法第24条は、納税申告書に記載された課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する旨規定し、調査を更正の要件としているところ、その調査とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味し、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈を経て更正処分に至るまでの思考、判断を含む極めて包括的な概念であること及び通則法がその方法、時期等の具体的手続について何ら規定していないことからすると、調査の方法、時期、範囲に関しては、課税庁の合理的な裁量にゆだねられているものと解されている。
 そうすると、犯則嫌疑者に対する適法な犯則調査が行われ、課税庁が当該犯則調査若しくはその過程で収集された資料を引き継いで、当該資料を検討し、その活用先の正当な課税標準等及び税額等を認定した上で課税処分することに違法性はなく、また、課税庁が当該資料を検討しその活用先の正当な課税標準等及び税額等を認定することは、通則法第24条に規定する調査に含まれると解するのが相当である。
ロ 本件各更正処分が調査を行わずになされたものであるか否かについて
 本件各更正処分について、上記イの法令解釈等に上記(1)の認定事実を照らしてみると次のとおりである。
(イ) 本件査察調査は、本件所得税法違反事件が、上記1の(4)のハのとおり、平成○年○月○日に判決が言い渡され、その被告が控訴をせずに確定しているのであるから、適法な犯則調査が行われ、専ら課税資料を収集する目的で本件査察調査が行われたものではないと認められる。
(ロ) 本件課税資料は、上記(1)のロ及びハのとおり、本件査察調査の過程で把握された事実及び証拠等に基づいて作成されたものであり、その内容は請求人の本件各事業年度に係る請求人の「収入金額」、「外注費」、「診療材料費」、「医薬品費」、「広告宣伝費」、「給与費」及び「事業税認定損」に至る益金の額及び損金の額に関する認定事項並びに請求人の資産及び負債に関する認定事項が区分されて記載されたものであり、また、それらの認定に至る確定方法、その根拠等が明示されているものである。
(ハ) 原処分担当職員は、上記(1)のホのとおり、本件課税資料がその信用性の高いものであること及びその内容についても徹底的な調査がされていることから、原処分庁が独自に請求人への臨場調査や請求人及び請求人の関係者等に質問検査を行う必要はないと判断し、上記(1)のニのとおり、担当査察官に対して照会を行い、本件課税資料の科目内訳や賦課要件等を確認した上で、本件課税資料を基として請求人の本件各事業年度の法人税の所得金額及び納付すべき税額を算出したものであると認められる。
(ニ) そうすると、原処分庁は、請求人への臨場調査や請求人及び請求人の関係者等に質問検査を行うことなく、原処分担当職員が本件課税資料を基として部内資料等との照合及び検討をした結果に基づいて請求人の本件各事業年度の法人税の所得金額及び納付すべき税額を算出したところによって、平成18年2月28日付の本件各更正処分を行ったものと認められる。したがって、本件課税資料は、上記(イ)及び上記(1)のハのとおり、適法に行われた本件査察調査の過程で把握された事実及び証拠等に基づいて作成されたものであり、上記イの(イ)のとおり、本件課税資料を本件各更正処分に活用したことに違法はないと解され、また、上記イの(ロ)のとおり、原処分庁が本件課税資料を基として本件各更正処分に至るまでの判断及び認定過程が通則法第24条の規定する調査に含まれると解されることから、本件各更正処分は同条が規定するところの調査に基づいて行われたものであると認められる。
(ホ) 請求人の主張について
A 請求人は、本件各更正処分が調査を行わずになされたものである旨主張するが、本件更正処分が調査に基づいてなされたものであることは、上記(イ)ないし(ニ)のとおりであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B 請求人は、本件各更正処分の取消理由として、本件青色取消処分も調査を行わずになされた職権濫用に基づく処分である旨主張するが、請求人はそもそも本件青色取消処分について、上記1の(4)のニのとおり、異議申立てをしておらず、また、本件青色取消処分が正当な権限を有する行政機関又は裁判所によって取り消された事実も認められないから、本件青色取消処分は、現在においてもなお有効な行政処分として存続しているものと認められる。そして、本件青色取消処分は、上記(1)のヌの示すとおり、本件各更正処分と同様にJ部長からの連絡に基づき、机上調査を行った上で、行われているものと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
C 請求人は、本件各更正処分の内容の説明がなかった旨主張するが、租税に関する法律の規定及び解釈によれば、税務署長が更正処分を行う場合に、事前に納税者に対する資料の開示やその理由等の説明は要件とされておらず、更正処分を行うに当たって更正通知書に更正の理由を付記すべき場合は、法人税法第130条第2項に規定する青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額を更正する場合であるところ、請求人の本件各事業年度の法人税の確定申告書は、上記1の(4)のニのとおり、青色申告書ではないから、請求人に対する本件各更正処分の更正通知書に更正の理由が付記されていなくとも違法となるものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ Fらに対する給与として計上した額を請求人の法人税の所得金額を計算する上で損金の額に算入することの適否について
(イ) Fらが請求人の役員であるとして請求人の理事に就任し、また、請求人の理事を辞任するまでの期間は、上記(1)のチのとおり、請求人からK知事に対してその旨を記した役員変更届がそれぞれ提出されていることからすると、平成13年10月○日から平成15年8月○日までであると認められる。
(ロ) しかしながら、上記(1)のチないしワのことを照らし合わせてみると、Fらの勤務については、請求人の理事として届出され、その形式は整えられているものの、Fらは本件査察調査の担当査察官に対して請求人での勤務実態はない旨申述し、D個人も本件所得税法違反事件の担当検察官に対してFらの請求人での勤務実態はない旨供述しており、ほかに同人らが請求人での勤務実態があったと認めるに足りる証拠等もない。また、Fらはその給与の額を受領したことはない旨本件査察調査の担当査察官に対して申述していること及び当該給与の額が振り込まれたFら名義の預金口座(預金通帳)の管理はD前理事長がすべてを行っていたと認められることからすれば、Fらに当該給与の額が支払われていたということはできない。さらに、当審判所が調査した結果によれば、請求人での勤務実態がない同人らに常勤の理事長の役員報酬を大幅に超える当該給与の額を役員報酬として支払わなければならない合理的な理由も見当たらず、当該給与の額が同人らに支払われたと認めるに足りる証拠等もない。
(ハ) また、1上記(1)のリのとおり、請求人の本件各事業年度の法人税の各確定申告書に添付されている利益処分計算書に役員とするFらの氏名の記載がないことは、請求人自らが同人らを請求人の役員であると認識していないことが推認できること、2上記(1)のヌのとおり、請求人が本件青色取消処分の取消処分基因事実に対する異議申立てをしていないことは、その事実を自認しているものとも推認できること、さらに、3上記(1)のワのとおり、同人らに対する給与の勘定科目を役員報酬科目ではなく常勤事務員給科目としていることなど、Fらに対する給与の額については不自然な会計処理がされていると認められる。
(ニ) そうすると、1形式的にはFらが請求人の理事として届出がされているものの、同人らは請求人において勤務した事実はなく、その実態はD前理事長から懇請され、Fらが請求人にその名義を単に貸したものにすぎないこと、2請求人自らも同人らが請求人の理事であると認識していないこと及び3同人らが請求人の理事として固有の業務をしていたとする証拠もないこと、加えて、4受給者とされるFらはその支払を受けていない旨申述していることからすれば、当該給与の額を請求人の法人税の所得金額を計算する上で損金の額に算入することは、到底認めることはできず、原処分庁がFらに対する給与を架空給与であると認定したことは相当と認められる。
(ホ) 請求人は、Fらは請求人の役員であり、同人らに対する給与は架空給与ではない旨主張する。
 しかしながら、当該給与が架空給与であることは、上記(イ)ないし(ニ)のとおりであるから、当該給与として計上した額は、請求人の法人税の所得金額を計算する上で、損金の額に算入することはできない。
ニ 以上のとおり、本件各更正処分が違法であるとする請求人の主張はいずれもその理由がなく、本件各更正処分は適法であるものと認められる。
ホ 請求人のその他の主張について
 請求人は、D個人に係る経費が請求人に付け替えられたとして本件各更正処分が行われているから、D個人の所得税について減額更正をすべきである旨主張する。しかしながら、請求人の主張の趣旨はD個人に係る平成13年分ないし平成15年分の所得税の減額更正を求めるものと解されるところ、当該更正処分の有無によって請求人が法律上の不利益を被ることはなく、請求人の主張は自己の法律上の利益に関係のない違法又は不当を主張するものにほかならない。したがって、請求人の主張は、審査請求の理由とすることのできない理由を主張するものであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(3) 本件各賦課決定処分について

イ 過少申告加算税の各賦課決定処分
 本件各更正処分は上記(2)のとおり適法であり、また、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行われた過少申告加算税の各賦課決定処分は適法である。
ロ 重加算税の各賦課決定処分
 通則法第68条第1項に規定する重加算税を課するためには、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部の隠ぺい又は仮装があり、その隠ぺい又は仮装を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足りると解されている。
 これを本件についてみると、請求人は、上記(2)のハのとおり、Fらの名で架空の給与を計上したことが認められる。また、原処分庁が上記(1)のヘのとおり認定した、1請求人名で請求した健康診断等の収入をD個人名義の口座に入金させて収入を除外したこと、及び2D個人が経営する診療所の外注費、診療材料費及び医薬品費に係る請求書のあて名を請求人にするよう取引先等に対して指示し、請求人において架空に費用を計上したことは、当審判所の調査においても同様の事実が認められる。請求人は、このような行為により、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装を原因として過少に所得金額を計算して本件各事業年度の法人税の確定申告書を提出したものと認められ、このことは通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件に該当すると認められるから、同項の規定に基づいて行われた重加算税の各賦課決定処分は適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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