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(平19.11.26、裁決事例集No.74 439頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、宗教法人である審査請求人(以下「請求人」という。)の平成17年4月1日から平成18年3月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、原処分庁が、請求人の行った絵画の譲渡は、消費税法上、資産の譲渡等に該当し、課税の対象になるとして、その更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、同処分は違法であるとしてその全部の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

イ 本件の審査請求に至る経緯及び内容は、別表のとおりである。
ロ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成19年5月17日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 本件に関する関係法令等の要旨は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、昭和○年○月○日に「不動明王を本尊とし○○を総本山として○○宗○○派の教義をひろめ、儀式行事を行い、信者を教化育成し其他正法興隆の聖業に精進するため諸般の業務及び事業を行う」ことを目的として設立された宗教法人である。
ロ 請求人は、その事業の用に供する会館の建設資金を得るために、請求人が所有し、維持・管理してきたA作の「B」と題する絵画(以下「本件絵画」という。)をP市p町○−○に所在するC社に譲り渡すことを約し、下記ニの平成17年5月13日の7,000万円の入金を確認した後、宗教法人内において引き渡した。
ハ C社が作成した平成18年10月10日付の「作品代金支払証明書」と題する書面には、要旨次のとおり記載されている。
 C社より請求人への次の作品に関する代金の支払は、以下のとおりであることを証明する。
(イ) 作品:A作「B」
(ロ) 代金:1億4,000万円
(ハ) 決済:平成16年12月20日に半金、7,000万円をD銀行d支店の請求人名義口座へ振り込む
 平成17年5月13日に残金、7,000万円をD銀行d支店の請求人名義口座へ振り込む
ニ 請求人は、上記ハの(ハ)のとおり、平成16年12月20日及び平成17年5月13日にそれぞれ7,000万円、合計1億4,000万円をC社から受領した。
ホ 請求人は、駐車場貸付け及び席貸業を営んでおり、平成5年5月31日に、消費税課税事業者届出書及び消費税簡易課税制度選択届出書を所轄税務署長に提出している。
ヘ 請求人の本件課税期間の基準期間である平成15年4月1日から平成16年3月31日までの課税期間の課税売上高は、○○○○円である。
ト 請求人は、本件課税期間に係る消費税等の確定申告及び修正申告において、本件絵画の譲渡は資産の譲渡等に該当しないとして、課税標準額に含めないで申告した。

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2 争点

 本件の争点は、「本件絵画の譲渡は消費税等の課税対象か否か」である。

3 主張

(1) 請求人

 次のとおり、本件絵画の譲渡は消費税等の課税対象とならない。
 したがって、原処分は違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 宗教法人の収入のうち、宗教活動から生じるものは原則として消費税等の課税対象外であるところ、本件絵画の取得資金は宗教活動から生ずる収入であり、その保有期間を通じて宗教活動以外に使用せず、その保有に関して対価的収入は得ておらず、また、その売却収入はすべて宗教活動の資金としているから、本件絵画の譲渡は宗教活動の一環であり、消費税等の課税対象とならない。
ロ 消費税法第4条第1項は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する旨規定しており、同法第2条第1項第8号は、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨規定している。
 また、消費税法基本通達5−1−1は、消費税法第2条第1項第8号に規定する「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われることをいう旨定めている。
 したがって、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供については、それが反復、継続、独立して行われる場合は「事業として」に該当し、資産の譲渡等として消費税等の課税対象になるものと解されるところ、請求人は、主に、駐車場貸付け及び席貸業を営んでいることで消費税の課税事業者となっているものの、宗教活動の一環である本件絵画の譲渡は、単発的なものであるから「事業として」に該当せず、資産の譲渡等に該当しないこととなるから、消費税等の課税対象とならない。
ハ 仮に、本件絵画を購入する取引に係る消費税額について、消費税法第30条第1項に規定する控除の方式(以下「本則課税方式」という。)を適用する場合、同条第2項第1号に規定する計算方式(以下「個別対応方式」という。)で計算すると、本件絵画の課税仕入れは不課税取引を行うためにのみ必要なものではあるが、消費税法基本通達11−2−16《不課税取引のために要する課税仕入れの取扱い》により、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れと取り扱われることになり、当該課税仕入れに係る消費税額に課税売上割合を乗じて計算した金額が控除されることになる。また、消費税法第30条第2項第2号に規定する計算方式(以下「一括比例配分方式」という。)で計算する場合も、同様に当該課税仕入れに係る消費税額に課税売上割合を乗じて計算した金額が控除されることになる。
 そうすると、請求人の場合は、課税売上割合が95パーセント以上ではないから、本件絵画の課税仕入れに係る消費税額の一部しか控除できないことになるが、一方、本件絵画を譲渡する取引については、課税売上げとして100パーセント課税の対象とされることは不合理であり、課税の不公正である。
 本件絵画の譲渡が100パーセント課税対象になるのであれば、その購入時の課税仕入れに係る消費税額も100パーセント控除の対象とし、また、本件絵画の譲渡が不課税取引として課税対象から除かれるのであれば、その購入時の課税仕入れに係る消費税額も控除の対象にならないと考えるべきである。

(2) 原処分庁

 次のとおり、本件絵画の譲渡は消費税等の課税対象になる。
 したがって、原処分に違法はないから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人は法人であり、消費税法第2条第1項第4号に規定する事業者に該当するから、同法第2条第1項第8号及び第9号並びに同法第4条第1項の各規定により、国内において事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供のうち、消費税を課さないとされるもの以外のものについては、消費税が課税されることになる。
ロ 消費税法第2条第1項第8号にいう「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われることをいうものと解されるところ、請求人は事業を行う目的で設立されている法人であるから、請求人が行う資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供は、そのすべてが「事業として」に該当する(消費税法基本通達5−1−1(注)2)。
ハ そうすると、本件絵画の譲渡は、請求人が国内において事業として対価を得て行った資産の譲渡に該当するから、消費税等の課税対象となり、消費税法第6条第1項の規定により非課税とされるものに該当しないことから、同法第2条第1項第9号に規定する課税資産の譲渡等に該当する。
ニ 請求人は、本件絵画の取得、保有、譲渡及び譲渡代金の使途等のすべてが宗教活動の一環であること及び本件絵画の譲渡は宗教活動として反復、継続性がない旨主張するが、本件絵画の譲渡が消費税等の課税対象となることは上記イないしハのとおりであり、請求人の主張は、本件絵画の譲渡が消費税等の課税対象になるか否かの判断に影響しない。
ホ 請求人は、仮に、本件絵画の譲渡が本則課税方式で課税される場合、課税仕入れに係る消費税の額の一部しか控除できないにもかかわらず、課税売上げとして100パーセント課税の対象とされることは不合理であり、課税の不公正である旨及び本件絵画の譲渡が100パーセント課税対象になるのであれば、仕入税額も100パーセント控除の対象とし、また、不課税取引として課税対象から除くのであれば、仕入税額控除の対象にならないとすることが望ましい旨主張する。
 しかしながら、請求人の主張は、消費税法の制度上の不備をいうものであり、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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4 判断

(1) 消費税等の更正処分について

 本件審査請求は、本件絵画の譲渡が消費税等の課税対象になるか否かについて争いがあるので、判断する。
イ 消費税法第4条第1項は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法律により消費税を課する旨規定しており、1事業者が行った資産の譲渡等が国内において行われたか否かについては、同法第4条第3項の規定により、資産の譲渡にあっては、当該譲渡が行われる時において当該資産が所在していた場所が国内であれば国内において行われたことになり、2事業者か否かについては、同法第2条第1項第4号の規定により、個人事業者又は法人であれば事業者に該当することになり、また、3資産の譲渡等に該当するか否かについては、同法第2条第8号の規定により、その譲渡が事業として対価を得て行われていれば資産の譲渡等に該当することになる。
 そして、消費税法第2条第1項第8号に規定する「事業として」について、消費税法基本通達5−1−1の(注)2は、法人が行う資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供は、そのすべてが「事業として」に該当する旨定めており、法人については、その目的とする事業に公益性が有るにせよ無いにせよ、いずれにしても、法人自体が事業を行う目的で設立されることからすれば、当審判所においてもこの取扱いは相当と認められる。
ロ これを本件についてみると、1上記1の(4)のロのとおり、本件絵画の譲渡は国内で行われていること、2上記1の(4)のイのとおり、請求人は法人であるから事業者に該当し、法人である請求人により行われる本件絵画の譲渡は事業として行われたものとなること及び3上記1の(4)のハ及びニのとおり、請求人がC社から受領した金員は、本件絵画の譲渡の対価であり、本件絵画の譲渡は対価を得て行われていることが認められる。
 そうすると、本件絵画の譲渡は、消費税法第4条第1項に規定する要件をすべて満たすことから、消費税等の課税対象となる。
ハ 請求人の主張について
(イ) 請求人は、宗教活動の収入は原則として、消費税等の課税対象外であり、本件絵画の譲渡は宗教活動の一環であるから、消費税等の課税対象とならない旨主張するが、本件絵画の譲渡が請求人の主張するような宗教活動の一環として行われたものであるとしても、宗教法人が宗教活動の一環として行った資産の譲渡等について、消費税等を課税しないとする法令上の規定はなく、また、本件絵画の譲渡が消費税等の課税対象となることは、上記ロで述べたとおりであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ) また、請求人は、本件絵画の譲渡は、単発的なものであるから、消費税法第2条第1項第8号に規定する「事業として」に該当しない旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のイのとおり、法人が行う資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供は、そのすべてが事業として行われたものに該当することになると解されるから、当該取引が反復、継続して行われるか否かにかかわらず、法人である請求人が行う本件絵画の譲渡についても、事業として行われたものに該当することになる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ) 請求人は、仮に本件絵画を購入する取引に係る消費税額について、本則課税方式を適用する場合には、不合理が生ずる旨主張するが、請求人の主張は、上記1の(4)のホ及びヘのとおり、消費税法第37条第1項に規定する特例が選択適用されている請求人の本件課税期間に係る消費税等について、本則課税方式の適用を仮定して違法の主張をするものであり、その主張は前提において理由がない。
(ニ) ちなみに、請求人の主張は、そもそも喜捨等の不課税取引で成立している事業において、本件絵画の譲渡は、不課税取引として取り扱われるべきであり、その根拠としては、請求人の実際の選択とは異なるものの、本則課税方式における課税仕入れの取扱いにおいて、1本件絵画の購入に係る課税仕入れは、そもそも不課税取引に対応する課税仕入れであること、ただし、2その際、不課税取引に係るものとして不課税取引とは無関係な課税売上割合によってその一部のみ仕入税額控除の対象とされること、3本件絵画の購入に係る課税仕入れが不課税取引に係る課税仕入れとなるのであるから、本件絵画に係る取引については、その購入時及び譲渡時のいずれにおいても課税対象とならないものとして取り扱うことが相当であることを主旨とするものであると思料される。
 しかしながら、仮に請求人が本則課税方式によるとした場合に、本件絵画を購入する取引が課税仕入れとされるにもかかわらず、その課税仕入れに係る消費税額の全額が控除できないのであれば、それは、当該課税仕入れのすべてが、その課税期間中の課税資産の譲渡等に対応するものではないと認められること(ただし、請求人の場合、不課税収入の割合が僅少でないときには、消費税法第60条第4項に基づき、仕入控除税額について、特定収入に係る調整計算が行われる。)によるものであり、そのことと、本件絵画の譲渡が、価格の一部として税が転嫁されていくことを予定している消費税等の課税対象となるか否かとは別個の問題であるから、これを関連付けて論ずる請求人の主張は失当といわざるを得ない。
ニ 以上のとおり、本件絵画の譲渡は、消費税等の課税対象になるから、消費税等の更正処分に違法はない。

(2) 過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、消費税等の更正処分は適法であり、過少申告加算税の基礎となった事実が国税通則法(平成18年法律第10号による改正前のものをいう。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないので、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分はいずれも適法である。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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