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(平20.3.11、裁決事例集No.75 274頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が所有する土地の譲渡は、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第34条の2第1項の規定による特別控除の特例(以下「本件特例」という。)を適用することができるとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該土地の譲渡は、土地収用法等に基づく収用を行う者によって収用の対償に充てるために買い取られる場合に該当しないため、本件特例を適用することはできないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)を行ったことから、請求人が同処分の違法を理由としてその取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成17年分の所得税について、確定申告書(分離課税用)(以下「本件申告書」という。)に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、平成18年7月19日に申告した。
ロ その後、請求人は、平成18年8月28日付で別表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成18年11月21日付で本件通知処分をした。
ニ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成19年1月5日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月4日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成19年4月27日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ A県公営企業管理者企業局長(以下「A県企業局長」という。)は、平成16年11月22日付で、A県農林水産部所管でA県農業大学校の実習地として使用しているP市p町Q1番所在の畑8,231平方メートル(以下「農業大学校実習地」という。)の取得に係る事前協議に関する説明書である「租税特別措置法施行規則第14条第7項第3号イに規定する書類の発行を予定している事業に関する説明書」(以下「事前協議に関する説明書」という。)をB税務署長あて提出し、措置法上の特例制度の適用関係についての事前協議を申し入れた。
ロ B税務署長は、A県企業局長に対し、平成17年1月13日付で事前協議に関する説明書に係る事業は、租税特別措置法施行規則第14条第5項第3号イに規定する書類を発行することができる事業に該当しない旨の回答を行った。
ハ 請求人は、所有するR市r町S1番所在の畑4,151平方メートル(以下「本件譲渡物件」という。)を、平成17年2月7日付のA県企業局長との「代替地提供に関する土地売買契約書」に基づいて譲渡した(以下「本件譲渡」という。)。
ニ A県公営企業管理者企業局(以下「A県企業局」という。)は、平成17年3月31日までにA県農林水産部から農業大学校実習地の一部であるP市p町Q2番所在の畑605.06平方メートル(以下「本件事業用地」という。)の管理の移転を受けた。
ホ A県農林水産部は、本件事業用地に代わる土地として、平成17年3月31日までにA県企業局から本件譲渡物件の管理の移転を受けた。

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2 主張

(1) 請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ A県企業局は、公共の利益となる事業の施行者として土地収用法等をよりどころにして、もし買取りの申出を拒むときは、土地収用法等の規定に基づいて収用することになり、また、土地収用法等によって土地を収用することができる身分と地位を付与されているのであるから、措置法第34条の2第2項第2号に規定する「第33条第1項第1号に規定する土地収用法等に基づく収用を行う者」に該当し、また、A県企業局は、所管換えに基づく買取りにより、A県農林水産部に対価を支払っているのであるから、本件事業用地の所管換えは、同法第33条第1項第1号及び第2号に規定する収用又は買取りに該当するのであり、よって本件譲渡は、同法第34条の2第1項の規定が適用されるべきである。
ロ 国税庁のホームページに掲載されている別紙2の質疑応答事例(以下「本件質疑応答事例」という。)によれば、「国有地の収用に係る対償地買収も租税特別措置法第34条の2第2項第2号の規定に該当します。」とされており、「国有地であっても土地収用法上は収用の対象たり得ます。同号に規定する『当該収用』というのは、土地収用法等の規定に基づく収用という意味であり、個人所有地であるかどうかは問いません。」との説明が付されているところである。
 そうすると、本件譲渡は、本件質疑応答事例の状況と全く同様であり、よって本件特例の適用が受けられるものである。

(2) 原処分庁

イ A県企業局とA県農林水産部は、本件事業用地について、公有財産規則に基づき所管換えを行ったものであり、土地収用法等に基づく収用又は買取りは行っていない。
 したがって、A県企業局は、措置法第34条の2第2項第2号に規定する「第33条第1項第1号に規定する土地収用法等に基づく収用を行う者」には該当しない。
ロ A県企業局もA県農林水産部も同じA県の一部局であり、また、A県農林水産部が所管していた本件事業用地はA県の公有財産である。当然に、A県が自らの公有財産を取得するために対価を支払う必要は無く、そのため異なる部局間において所管する公有財産を移すための手続として、公有財産規則第○条等が規定されていると解される。
 よって所管換えは、土地収用法等に基づく収用に該当せず、本件譲渡は、措置法第34条の2第2項第2号に規定する「当該収用の対償に充てるため買い取られる場合」にも該当しない。
ハ 本件質疑応答事例の照会内容は、「国有地を収用事業のために国から買収します。」となっており、国以外の事業施行者が国有地を買収する場合のことを述べているものであり、A県がA県有地を所管換えする本件の事例とは異なるものである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算に当たり、本件特例の適用要件を満たすか否かであるので、判断する。

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ A県農林水産部長とA県企業局長は、平成17年2月7日付で本件事業用地の有償所管換えに関する協定を締結しており、同日付で作成された「土地の有償所管換えに関する協定書」(以下「本件所管換え協定書」という。)の要旨は、別紙3のとおりである。
ロ 平成19年11月26日付の本件事業用地の登記事項証明書によれば、本件事業用地は、昭和47年からA県所有となり、それ以後、現在まで権利関係の変動はない。
 また、平成19年11月26日付の本件譲渡物件の登記事項証明書によれば、本件譲渡物件の所有者は、平成17年2月7日の売買を原因として請求人からA県に移転している。

(2) 本件事業用地の管理の移転について

イ 土地収用法の目的について、同法第1条《この法律の目的》は「公共の利益となる事業に必要な土地等の収用又は使用に関し、その要件、手続及び効果並びにこれに伴う損失の補償等について規定し、公共の利益の増進と私有財産との調整を図り、もって国土の適正且つ合理的な利用に寄与することを目的とする。」旨規定しているところ、収用の目的物としては、土地、土地に関する所有権以外の権利、鉱業権、温泉を利用する権利、漁業権及び入漁権に関する権利が挙げられるが、同条に規定する「公共の利益となる事業」に必要なものであれば、これらのもののすべてについて収用又は使用が認められるというものではなく、目的物自体の性質あるいは法令上の制約によって収用又は使用の対象となり得ない場合があり、例えば、国や地方公共団体が所有する土地で、その国や地方公共団体の一機関が管理するものを、同じ国又は地方公共団体の他の機関が事業の用に供する必要が生じたときは、土地を必要とする機関と実際に管理を行っている機関との間で管理換えを行えばよく、収用手続を取ることは観念上の矛盾を来し、また、無意味であることから、収用の対象となり得ないと解されている。
ロ これを本件についてみると、A県企業局は、地方公営企業法及びA県公営企業設置条例第○条、第○条及び第○条の規定からすると、地方公共団体であるA県が経営する企業である。そして、その設置は同条例第○条によるものであり、一方、A県農林水産部は、A県部設置条例第○条《部等の設置》の規定に基づき設置されており、それぞれの設置の根拠法令は異なるものの、いずれもA県知事の管轄下にある補助機関であり、A県の行政組織の一構成機関であると認められる。
 そうすると、上記イのことから、A県企業局がその事業の用に供するために、A県農林水産部が管理・使用している本件事業用地を自らの管理下に移転させる場合には、財産管理者であるA県農林水産部との間で管理換えの手続を取ることとなる。そして、本件においても当該管理換えの手続が取られたものであり、そのことは、本件所管換え協定書からも明らかである。
 さらに、上記(1)のロのとおり、A県農林水産部からA県企業局への管理換えがあった平成17年2月7日の前後を通じ、本件事業用地の所有者がA県となっていることからも、収用又は買取りがなされたものではないことが認められる。
 以上のことから、A県企業局への本件事業用地の管理の移転は、土地収用法等による収用でもなければ、資産についての買取りの申出を拒むときは収用されることとなる場合の買取り、すなわち収用権を背景とした買取りでもないこととなる。

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(3) 本件特例の適用について

イ 措置法第34条の2第1項は、個人の有する土地等を特定住宅地造成事業等のために譲渡した場合には、一定の要件の下に譲渡所得の金額の計算上1,500万円が控除される旨を規定しており、本件特例の対象となる譲渡の一つとして、同条第2項第2号において「第33条第1項第1号に規定する土地収用法等に基づく収用(同項第2号の買取り及び同条第3項第1号の使用を含む。)を行う者若しくはその者に代わるべき者として政令で定める者によって当該収用の対償に充てるため買い取られる場合」が規定されている。
 このような譲渡が本件特例の対象とされているのは、公共事業の施行者が土地等を収用等により円滑に取得するためには、事業用地の譲渡者に対して代替地を提供することが必要不可欠である場合もあることから、公共事業の施行者が代替地として提供するために必要な土地、すなわち、対償地を容易に取得できるようにとの趣旨からであると解され、措置法第34条の2第1項の規定は、税負担の軽減の特例又は例外規定であって、その解釈及び適用は厳格でなければならないというべきである。
ロ これを本件についてみると、上記(2)のロのとおり、本件事業用地の管理換えは、収用又は収用権を背景とした買取りではないから、A県企業局は、措置法第34条の2第2項第2号に規定する収用を行う者若しくはその者に代わるべき者として政令で定める者には該当せず、また、本件譲渡物件のA県農林水産部への提供についても、同号に規定する収用の対償に充てるため買取られる場合に該当しない。よって、本件譲渡物件の譲渡については、本件特例を適用することはできない。
ハ 請求人は、上記2の(1)のイのとおり、A県企業局は、所管換えに基づく買取りにより、A県農林水産部に対価を支払っているのであるから、当該所管換えは、措置法第33条第1項第1号及び第2号に規定する収用又は買取りに該当する旨主張する。
 しかしながら、公営企業は、独立採算制を建前とし、その収支を明確にすることが要請されていることから、地方公営企業法第2条《この法律の適用を受ける企業の範囲》に規定されている地方公営企業の経理は、同法第17条《特別会計》の規定により特別会計を設けて行うこととされており、A県企業局の経理も特別会計を設けて処理されているところ、特別会計と他の異なる会計間で公有財産の管理換えを行うときには、その収支を明らかにし、的確に管理することができるよう、財産の管理換えについて、それを有償のものとして内部的な処理をすることは合理的であると解される。
 本件においても、上記(1)のイの本件所管換え協定書のとおり、A県企業局の特別会計とA県農林水産部の予算が含まれている一般会計との2つの異なる会計間における的確な財務管理に資するよう、本件事業用地の対価の額が取り決められたものと認められるが、このことをもって、本件事業用地の管理換えが、措置法第33条第1項第1号及び第2号に規定する収用又は買取りに該当するということにはならない。したがって、請求人の主張は採用できない。
ニ 請求人は、上記2の(1)のロのとおり、本件譲渡は、本件質疑応答事例の状況と全く同様であることから、本件特例の適用が受けられる旨主張する。
 しかしながら、本件質疑応答事例の照会要旨は、原処分庁の主張のとおり、国以外の事業施行者が国有地を取得する事例であると解され、また、収用事業により買収することが前提となっていることから、本件事業用地の取得とは異なるものであり、請求人の主張は採用できない。
ホ なお、措置法第34条の2第4項の規定により、本件特例の適用を受けるためには、本件特例の適用を受けようとする年分の確定申告書に本件特例の適用を受けようとする旨の記載等がなければならず、当該記載等がない申告書の提出があった場合であっても、当該記載等がなかったことについてやむを得ない事情があると認められる場合には、本件特例を適用することができるが、本件については、これらの手続要件について判断するまでもなく、上記ロのとおり、本件譲渡は、措置法第34条の2第2項第2号に規定する、土地収用法等に基づく収用又は買取りを行う者若しくはその者に代わるべき者によって収用の対償に充てるために買い取られる場合に該当しないのであるから、本件特例は適用できない。

(4) 本件通知処分について

 上記(3)のとおり、本件譲渡については、本件特例を適用することはできず、また、当審判所の調査によっても、本件申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと及び当該計算に誤りがあったことの事実が認められないことから、本件更正の請求には理由がなく、本件更正の請求に対してなされた更正をすべき理由がない旨の本件通知処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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