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(平20.6.26、裁決事例集No.75 594頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が贈与により取得した株式の評価について、原処分庁が、評価会社の匿名組合への出資に係る最終分配金額は経常的利益であるから財産評価基本通達に定める類似業種比準方式における「評価会社の1株当たりの年利益金額」に含まれるとして贈与税の更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該最終分配金額は非経常的利益であるから「評価会社の1株当たりの年利益金額」の計算上控除すべきであるとして、当該処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成15年分の贈与税の申告書に、別表1の「当初申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに原処分庁へ申告した。
ロ 原処分庁は、平成19年3月9日付で、請求人が贈与により取得した株式の評価額に誤りがあるとして、請求人に対し、別表1の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。
ハ 請求人は、平成19年3月26日、上記ロの各処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月22日付で別表1の「異議決定」欄のとおり、上記ロの各処分の一部を取り消す異議決定をした(以下、異議決定後の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を、それぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。)。
ニ 請求人は、平成19年7月20日、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙のとおりである。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成15年12月16日、株式会社Y(平成15年10月○日、有限会社Yから組織変更されたもの。以下、組織変更前も併せて「本件会社」という。)の株式○○株(以下「本件株式」という。)をEから贈与により取得した。
ロ 請求人は、上記イの贈与について、本件株式の価額の合計額を○○○○円(1株当たりの単価815,111円)、納付すべき税額を○○○○円とする贈与税の申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ハ 本件申告書には、「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」(以下「本件申告評価明細書」という。)及び本件申告評価明細書の基礎資料として本件会社の法人税の確定申告書の写し等の書類の添付がある。
 本件申告評価明細書は、第1表の1(評価上の株主の判定及び会社規模の判定の明細書)、第1表の2(評価上の株主の判定及び会社規模の判定の明細書(続))、第2表(特定の評価会社の判定の明細書)、第3表(一般の評価会社の株式及び株式に関する権利の価額の計算明細書)、第4表(類似業種比準価額等の計算明細書)及び第5表(1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書)からなり、第1表の1には、請求人を納税義務者とする場合の本件株式の評価方式は「原則的評価方式等」である旨、第1表の2には、本件会社は「中会社」であり、評価通達179に定める類似業種比準価額に乗じる係数「L」について「Lの割合」は「0.90」である旨、第2表には、本件会社は「特定の評価会社」に該当しない旨の記載がある。そして、第4表の「2.比準要素等の金額の計算」の「1株当たりの年利益金額」の算出欄には、次表のとおりの記載があり、直前期の「15差引利益金額」が負数になることから、「1株当たりの年利益金額C」の金額を零円としている。

(表)
1株[50円]当たりの年利益金額 直前期末以前2(3)年間の利益金額
事業
年度
10法人税の課税所得金額 11左のうち非経常的な利益金額 12受取配当金の益金不算入額 13左の所得税額 14損金算入した繰越欠損金の控除額 15差引利益金額(10-11+12-13+14)
直前期 千円
○○○○
千円
184,190
千円
○○○○
千円
○○○○
千円
○○○○
千円
○○○○
直前前期 千円
○○○○
千円
164,231
千円
○○○○
千円
○○○○
千円
○○○○
千円
○○○○
直前前期の前期 千円 千円 千円 千円 千円
○○○○
千円
○○○○

ニ 本件会社に係る商業登記簿の履歴事項全部証明書によれば、本件会社の設立年月日は昭和50年12月○日であり、平成19年6月15日変更前の「目的」欄には、要旨次の記載がある。
(イ) 不動産の仲介、売買、賃借並びに管理
(ロ) 建設及び建築
(ハ) 損害保険代理業
(ニ) 上記(イ)ないし(ハ)に附帯する一切の業務
ホ 本件株式は評価通達に定める特定の評価会社の株式に該当せず、本件株式を同通達に従って評価する際の評価方式は、原則的評価方式である。そして、本件会社は中会社に該当し、Lの割合は0.90である。また、類似業種比準価額を算定する際の「類似業種と業種目番号」は、大分類が不動産業(No.98)であり、中分類が不動産取引業(No.100)である。
ヘ 1991年(平成3年)7月12日付の「匿名組合契約書」と題する書面(以下、当該匿名組合契約書に係る匿名組合契約を「本件A匿名組合契約」という。)には、要旨次の記載がある。
(イ) 出資者(甲)  F社
(ロ) 営業者(乙)  G社
(ハ) 甲は、下記の乙の事業(以下「本件事業」という。)につき、乙に対し出資をなすものとし、乙は甲に対して本件事業から生じた損益を分配するものとする。
A H型航空機(以下「本件航空機」という。)1機をJ社ほか2社(以下「共同営業者」という。)と共同して購入し、本件航空機を4分の1の共有持分割合により共有すること。
B 乙とK社との間で1991年6月11日付で締結されたオペレーション契約に基づいて本件航空機を共同営業者と共同してK社にリースし、また本件航空機を売却しその他処分すること。
C 本件航空機の購入代金の調達のため、共同営業者と共同して複数の金融機関から借入れをなすこと。
(ニ) 甲は本件事業に対して121,493,250円を出資する。
(ホ) 乙は甲に対して、本件事業から生じた利益、損失を出資割合に応じて分配するものとする。
(ヘ) 本契約に基づく甲と乙の関係は商法第535条ないし第542条に規定する匿名組合契約の出資者と営業者の関係であり、甲は乙に対し本契約に関して取得する利益についてのみ権利を有するものであり、これ以外に乙の資産につき所有権その他の権利を有さず、また、本件事業に関する意思決定に関与する権限を有しない。
ト 1992年(平成4年)2月28日付の「匿名組合契約上の地位譲渡契約書」と題する書面には、要旨次の記載がある。
(イ) G社(営業者)、F社(旧組合員)、本件会社(新組合員)は、営業者と旧組合員との間の本件A匿名組合契約に基づく旧組合員の契約上の地位の譲渡に関して、以下のとおり合意する。
(ロ) 旧組合員は、新組合員に対して、旧組合員が本件A匿名組合契約により取得し、本契約締結日現在有する匿名組合契約上のすべての権利義務その他匿名組合契約上の地位を本契約日付をもって譲渡し、営業者は当該譲渡を承諾する。
(ハ) 上記(ロ)の譲渡の対価は、121,493,250円とする。
チ 平成15年7月22日付のG社取締役社長Mが本件会社あてに発行した「ご報告」と題する書面には、「本件A匿名組合契約の規程により事業損益を報告する」として、平成15年4月1日から同年7月16日までの計算期間における本件会社に帰属する利益の額は184,190,509円(以下、この金額を「本件A最終分配金額」という。)である旨の記載があり、当該書面の「ご報告」と記載されている表題の横に、「最終回」の印が押されている。
リ 本件A匿名組合契約に係る出資者の地位は、上記トの譲渡契約によりF社から本件会社に移転し、本件A最終分配金額は、本件会社が本件A匿名組合契約に基づく損益の分配としてG社から支払を受けたものである。
ヌ 減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40年大蔵省令第15号)によれば、本件航空機の耐用年数は10年である。
ル 原処分庁は、本件株式の評価額の算定に当たり、類似業種比準価額の計算における1株当たりの年利益金額に誤りがあること及び類似業種の株価に誤りがあることを理由に本件更正処分を行っている。

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2 主張

(1) 請求人

イ 本件更正処分について
 原処分庁は、取引相場のない株式を評価する際の類似業種比準価額の計算における評価会社の1株当たりの年利益金額の算出に当たって、評価会社が出資していた匿名組合に係る最終分配金額について法人税の課税所得金額から控除すべき非経常的な利益金額に該当しないとしているところ、次の理由により当該最終分配金額は非経常的な利益に該当するため、本件更正処分の一部を取り消すべきである。
 なお、本件株式の評価に関して、その他の項目については争わない。
(イ) 評価通達183の(2)に「非経常的な利益」の例示として「保険差益」が含まれているところ、保険契約時において解約時期が予見できる保険商品の保険差益は、収益のシミュレーションができるという点において匿名組合契約に基づく最終分配金額と相違ないから、このような保険差益が非経常的利益とされている以上、当該最終分配金額についても「非経常的な利益」として取り扱われるべきである。
(ロ) 匿名組合契約に基づく最終分配金額を株価に反映させると、株価が年度ごとに乱高下することとなるが、このことは、「評価会社の経常的な収益力を基に安定した株価を算出する」という類似業種比準方式の趣旨に反することとなるし、また、贈与年が1年異なるだけで、大幅な税負担の相違が発生することになる。したがって、このような価額は、「適正時価」、すなわち客観的な交換価値を表しているとはいえない。
(ハ) 匿名組合契約に基づく最終分配金額を「非経常的な利益」として取り扱わないと、上記のとおり株価が年分ごとに乱高下するから、し意的に株価を操作することが可能となり、法人税及び相続税の節税スキーム(租税回避)が可能となって、課税の公平が保たれず、担税力のない納税者に課税することにもなり、違法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記のとおり本件更正処分は違法であるから、これに基づいてなされた本件賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁

イ 本件更正処分について
 次のとおり、請求人の主張には理由がなく、本件更正処分は、適法である。
(イ) 請求人は、評価通達183の(2)に「非経常的な利益」として「保険差益」が掲げられていることを示しているが、これは例示にすぎず、類似業種比準方式において、ある利益が経常的な利益又は非経常的な利益のいずれに該当するかは、次のとおり、その利益の発生原因、その反復継続性又は臨時偶発性等の事項を考慮し個別に判定すべきである。
A 匿名組合員は当該契約の存続中においては営業者の営業から生ずる利益の分配を継続的に受ける権利を有していること、当該営業は当該営業者の名においてその危険と負担において行うものであること及び当該匿名組合員は、当該営業者の財産上に何らの権利も持たないことを併せ考えると当該匿名組合員が当該契約の存続中に当該営業者から受ける利益の分配については、当該利益の分配時期、その金額の多寡及びその源泉にかかわらず、その全額が経常的な利益に該当すると判断するのが相当である。
B これを本件に当てはめると、本件A最終分配金額は、本件A匿名組合契約に係る各契約条項によれば、本件A匿名組合契約の各計算期間内に支払われた匿名組合契約の利益分配に該当すると認められるので、本件A最終分配金額が、他の計算期間の利益金額に比して高額であり、また、本件A匿名組合契約の契約期間終了時のものであるとしても、その金額の多寡や分配時期にかかわらず、その全額が経常的な利益に該当することになる。
(ロ) 請求人は、匿名組合契約に基づく最終分配金額を株価に反映させると、株価が年度ごとに乱高下することとなる旨主張するが、本件A最終分配金額を本件株式の価額に反映させることによって贈与の年の前後において格差が生じるとしても、上記のとおり本件A最終分配金額は、その分配時期や金額の多寡にかかわらず「経常的損益」に該当すると認められることからすれば、当該格差は、本件会社の経常的利益金額の変動に起因するやむを得ないものといわざるを得ない。
(ハ) 評価通達に定められた評価方法を適用して画一的に評価する方法は、当該評価方法によらないことが正当と是認され得るような特別な場合を除き合理性があると解されているところ、本件の場合は、請求人の主張する節税スキームが可能となるか否かはともかくとして、特別の事情があるとは認められないから、本件更正処分を行ったものである。仮に請求人の主張するスキームが可能となるとしても、本件更正処分の適法性に影響を及ぼすものではない。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件更正処分は上記イのとおり適法であり、本件更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が、本件更正処分前に税額の基礎とされなかったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 相続税法第22条の解釈
 相続税法第22条は、贈与により取得した財産の価額は、同法に特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、ここにいう時価とは、課税時期におけるその財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。
 しかしながら、贈与財産の客観的交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないことから、贈与財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法をとると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることは避けがたく、また、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等から、あらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみても合理的である。
 このような見地から、贈与財産の評価の一般的基準は評価通達によって定められ、そこに定められた画一的な評価方式によって贈与財産を評価することとされている。
ロ 類似業種比準方式について
 取引相場のない株式は、我が国に多数存在し、その発行会社の規模や株主の構成は千差万別であることから、評価通達は、これらの実態を踏まえ、取引相場のない株式の価額について適正な評価を行うため、評価会社の事業規模に応じてそれぞれの原則的な評価方法を定めている。具体的には、大会社の株式を評価する場合は「類似業種比準方式」、小会社の株式を評価する場合は「純資産価額方式」、中会社の株式を評価する場合は、「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」の併用方式によることとしている。
 このうち、類似業種比準方式は、評価会社の配当、利益及び純資産の各要素を評価会社と事業内容が類似する上場会社の当該各要素の平均値と比較し、当該上場会社の株価の平均値に比準して評価会社の1株当たりの価額を算定する方法であり、大会社について、この方法が採用されたのは、大会社は、上場会社に匹敵するような大規模の会社であって、その株式が取引されるとすれば上場株式の取引価額に準じた価額が付されることが想定されるため、現実に流通市場において価格形成が行われている上場株式の価額に比準して評価することが合理的であることによる。
 そして、評価通達に定める類似業種比準価額は、具体的には別紙の6の算式によって計算することとされているが、これは、株式の価格形成の基本要素として考えられている3要素(配当金額、利益金額、純資産価額)を比準要素とし、上場会社の比準要素の数値と評価会社の比準要素の数値を同一の基準により算定するなど所定の措置を講じることにより、評価上のし意性の排除、評価の統一性、画一性、安定性の確保に配意したものである。このうち、利益金額が他の比準要素より重視されているが、これは、上場株式の株価形成が3要素のうち利益金額に最も影響されることから、類似業種比準方式においても、上場株式の株価形成に倣ったものである。
 このように、評価通達に定める類似業種比準方式は、その算定方法について合理性があると認められ、当審判所においてもその評価方法は相当であると解される。
ハ 類似業種比準方式における「1株当たりの年利益金額」
(イ) 評価通達183の(2)は、類似業種比準価額を算出する際の「1株当たりの年利益金額」について、直前期末以前1年間における法人税の課税所得金額(固定資産売却益、保険差益等の非経常的な利益の金額を除く。)に、その所得の計算上益金に算入されなかった利益の配当等の金額及び損金に算入された繰越欠損金の控除額を加算した金額を基にする旨定めている。この場合の法人税の課税所得金額とは、法人税法第22条第1項において、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする旨規定されているが、ここでいう益金の額及び損金の額は、別段の定めがあるものを除き、同条第4項において、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定されている。したがって、法人税の課税所得金額は、公正妥当な会計慣行によって計算された企業利益を基礎とし、これに租税原則、租税政策や課税技術上の見地に基づく税法特有の規定(別段の定め)を適用して算定されるものである。
 ところで、企業会計における損益の計算は、企業を巡る利害関係者に対して必要な情報を提供することを目的としているため、収益及び費用をその発生源泉にしたがって分類し、それぞれの区分に応じて収益及び費用を対応表示して段階的に損益計算すべきこととされ、具体的には、営業損益計算、経常損益計算及び純損益計算をすることとされている。しかし、法人税法上の課税所得金額の計算は、課税所得金額の増減の原因となる益金(プラス要因)又は損金(マイナス要因)の概念のみで十分であることから、企業会計上の純損益に所要の加算又は減算を行って算出することになる。
(ロ) 「1株当たりの年利益金額」について、法人税の課税所得金額を基として1株当たりの利益金額を算定することとしているのは、評価会社と上場会社のそれぞれの利益計算のし意性を排除し、両者の利益金額について同一の算定基準によって計算した課税所得金額を基として両者を比較するのが合理的であることによる。したがって、一つの会社において算出される企業会計における損益の計算の結果の純損益と法人税の課税所得金額が通常一致することはない状況において、企業会計における損益の計算の仕方は、会社によって異なる部分があることが否めないことから、利益の算定を同一の基準にする必要性から、法人税の課税所得金額をその基準に選んだことには合理性がある。
(ハ) そして、評価会社の利益金額の計算上、固定資産の売却益や火災の際の保険差益等を非経常的な利益として利益金額から除くこととしているが、これは、類似業種比準方式における比準要素としての利益金額は、基本的には、評価会社の経常的な収益力を表すものを採用し、これと類似業種の利益金額とを比較対照して、評価会社の経常的収益力を株式の価額に反映させるためである。したがって、ある利益が経常的な利益に該当するか非経常的な利益に該当するかを判断するに当たっては、その利益が、評価会社の損益計算書上、「経常利益」又は「特別損益」のいずれに計上されているかだけで判断するのではなく、評価会社の事業の内容、その利益の発生原因、その発生原因たる行為の反復継続性又は臨時偶発性等を考慮して判断するのが相当である。

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(2) 匿名組合について

イ 匿名組合契約の性質
 匿名組合契約とは、当事者の一方(匿名組合員)が相手方(営業者)の営業のために出資をなし、その営業より生ずる利益を分配すべきことを約する契約をいう(商法第535条)。匿名組合員の出資は営業者の財産に属し、匿名組合員は営業者の行為につき第三者に対して権利義務を有しない(商法第536条)とされている。したがって、匿名組合員の出資した財産はすべて営業者に帰属し、匿名組合員は営業者の財産について何らの持分も有しない。このように、匿名組合は、共同出資による企業形態の一種であって、その特色は、経済的、実質的には共同企業であるが、出資者(匿名組合員)は営業者の背後に隠れ、対外的には営業者の単独企業として現れる点にあるとされている。この制度を利用することによって、出資者からみれば、その社会的地位や法的制限のため、自ら営業者となることを好まず、又はなることができない場合、投資の有利性と秘密性を享受でき、また、営業者からみても、自己の営業として資本関係を秘密にし、その資本を消費貸借によって調達することとした場合における支払利息の負担を免れ、自由な経営をすることができるというメリットがあるとされている。
ロ 匿名組合契約に係る損益の分配
 上記イのように、営業者は匿名組合員に対してその営業により生じた利益を分配すべき義務を負い、匿名組合員は、営業者の営業から生ずる利益の分配を受ける権利を持つ。利益の分配は営業者の営業年度末において行い、営業年度は別段の定めがない限り、1年と解すべきである(商法第33条)。そして、匿名組合契約によって分配される利益又は損失は、会社のように法律上強制される資本充実の制度は存しないので、各営業年度における営業により増加又は減少した財産額を意味する。また、匿名組合員による損失の分担は、匿名組合に必要な要素ではないので、特約によってこれを排除できるが、排除しない限り、匿名組合員が損失の分担をすると解される。
ハ 匿名組合契約に係る損益の帰属についての法人税の取扱い
 上記イのとおり、匿名組合員の出資は営業者の財産に属し(商法第536条)、匿名組合員は営業者の財産について共有持分を有しているわけではないから、営業者の有する資産若しくは負債又は営業者の取引を自己の資産若しくは負債又は自己の取引と認識することはあり得ないことになる。したがって、匿名組合員に帰属する損益は、営業者が行った個々の取引ごとに算出されるものではなく、各営業年度ごとに、営業者の営業において最終的に計算された損益をその出資の割合に応じて分配又は負担することとなると解される。そして、法人税の計算では、法人税法第22条の解釈として、法人税基本通達14-1-3《匿名組合契約に係る損益》において、「法人が匿名組合員である場合におけるその匿名組合営業について生じた利益の額又は損失の額については、現実に利益の分配を受け、又は損失の負担をしていない場合であっても、匿名組合契約によりその分配を受け又は負担をすべき部分の金額をその計算期間の末日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入する」旨定めており、この解釈は当審判所においても相当と認められる。

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(3) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件A匿名組合契約による商品を組成し、本件会社に当該商品を紹介したN社が発行した「日本版レバレッジド・リース案件のご紹介」と題する書面には、「レバレッジド・リース案件の概要」として、要旨次の記載がある。
(イ) ユーザー    K社
(ロ) リース対象物件 H型航空機1機
(ハ) 物件価格    約○○○億円
(ニ) 投資募集金額  約○○○億円
(ホ) 投資形態    匿名組合形式
(ヘ) 最低出資単位  原則1億円
(ト) リース期間   12年
(チ) 投資募集期間  1991年○月○日以降
(リ) ユーザークレジットリスク 投資家負担
ロ G社(オーナー)とK社との間で、1991年6月11日付で締結されたオペレーション契約においては、「購入選択権、解除及び航空機の返還」として、要旨次の合意がなされている。
(イ) 24回目の支払日において、K社が支払義務の発生している金額の全額をオーナーに支払った場合には、この契約書の表1に定める価格(残存価格)で航空機を購入することができる。
(ロ) K社は、12回目の支払日以後の支払日において、この契約書に定める価格で航空機を購入することができる選択権を有する。
(ハ) K社が、この契約書の契約条項に従った航空機の購入をしない場合には、K社の負担により、オーナーが指定する場所において、完全装備で、かつ、自然的損耗を除き当初K社に引き渡された時と同じ状態で、航空機をオーナーに返還しなくてはならない。
(ニ) 上記(ハ)の場合には、オーナーは、航空機を公開オークション等の合理的な手段により売買することができる。ただし、オーナーは、航空機の売買契約の15日前にK社に「事前書面通知」を発しなければならず、K社は、当該通知に係る売買契約完了までの間であれば、上記(イ)の金額により航空機を購入することができる。
ハ G社が、本件A匿名組合契約に係る計算期間が終了するごとに作成し、本件会社に交付した「ご報告」と題する書面によれば、本件会社に帰属する本件A匿名組合契約の各計算期間の損益は、別表2のとおりである。
ニ 本件会社が行った他の匿名組合に対する出資
(イ) 平成2年6月20日付の「匿名組合契約書」と題する書面によれば、本件会社は、本件A匿名組合契約とは別に、R社との間において、匿名組合契約を締結し(以下、この匿名組合契約を「本件B匿名組合契約」という。)、R社が行う航空機リース事業に対して100,000,000円を出資した。
(ロ) 平成14年6月24日付のR社取締役社長Mが本件会社あてに発行した「ご報告」と題する書面には、本件B匿名組合契約の規定により事業損益を報告するとして、平成14年1月1日から同年6月20日までの計算期間において本件会社に帰属する利益の額は164,231,159円(以下、この金額を「本件B最終分配金額」という。)である旨の記載があり、当該書面の「ご報告」と記載されている表題の横に、「最終回」の印が押されている。
(ハ) R社が、本件B匿名組合契約に係る計算期間が終了するごとに作成し、本件会社に交付した「ご報告」と題する書面によれば、本件会社に帰属する本件B匿名組合契約の各計算期間の損益は、別表3のとおりである。
ホ 本件会社の平成13年9月1日から平成14年8月31日までの事業年度に係る損益計算書には、営業外損益の部の営業外収益に、匿名組合利益として205,689,689円の記載がある。この期間における本件A匿名組合契約に係る損益の分配は2回あり、別表2のとおり、合計28,985,239円である。また、この期間における本件B匿名組合契約に係る損益の分配は2回あり、本件B最終分配金額を含み、別表3のとおり、合計176,704,550円である。
ヘ 本件会社の平成14年9月1日から平成15年8月31日までの事業年度に係る損益計算書には、営業外損益の部の営業外収益に、匿名組合利益として216,160,603円の記載がある。この期間における本件A匿名組合契約に係る損益の分配は3回あり、本件A最終分配金額を含み、別表2のとおり、合計216,160,503円である。

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(4) 本件会社が本件A匿名組合契約に基づいて受け取る損益の分配の内容

 本件A匿名組合契約に基づく本件事業の内容は、上記1の(4)のヘの(ハ)のとおり、共同営業者と共同して航空機を所有し、それを賃貸し、売却することである。そして、賃貸期間は、賃貸物件である航空機の法定耐用年数より長く設定されている。そうすると、賃貸物件を賃貸している期間の営業者の各営業年度の決算上、当該計算期間中のリース料収入を収益とし、賃貸物件の減価償却費及び借入れに対する支払利息を費用とするため、本件A匿名組合契約に基づき本件会社が分配を受ける損益は、別表2のとおり、その契約期間前半においては多額の損失が計上され、その損失額は次第に逓減していき、契約期間が終わりに近づくにつれて利益が逓増していき、最終計算期間には、賃貸物件を処分することにより多額の利益が計上されることになる。そして、損益の分配状況がこのようになることは、具体的な金額までは確定していないとしても、本件A匿名組合契約の締結時に予定されていたものである。

(5) 匿名組合契約に係る損益の額が非経常的な損益に当たるか否か

 上記(2)のとおり、匿名組合員の出資はすべて営業者に帰属し、その出資により営業者が取得した財産について匿名組合員が共有持分を有することはなく、匿名組合員が営業者の取引を自己の取引と認識することはあり得ず、匿名組合員には、営業者の事業から生じた各営業年度の最終的な利益又は損失が分配されるのみである。したがって、匿名組合契約に基づいて分配された利益又は損失について、匿名組合員は、その利益又は損失が、営業者が行った事業のうち、どの事業によるものかを認識することは匿名組合契約の法的性格上あり得ないし、仮に営業者がどのような事業を行おうとも、その利益又は損失の分配は、匿名組合員にとって出資に対する損益の分配であるという性格が異なることとなるわけではない。そして、この匿名組合契約に基づく各計算期間の損益は、毎期匿名組合員に報告され、分配することとされているから、一つの匿名組合契約から分配を受ける損益は、匿名組合員の各決算期において、その額に多寡はあるにせよ、匿名組合契約が継続する限り毎期発生することとなり、臨時偶発的に発生するものではない。また、上記(2)のハのとおり、法人税の計算では、現実に利益の分配を受け、又は損失の負担をしていない場合であっても、匿名組合契約によりその分配を受け又は負担をすべき部分の金額をその計算期間の末日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入することとされる。
 そうすると、類似業種比準方式における、匿名組合員である評価会社の「1株当たりの年利益金額」については、1評価通達が、「1株当たりの年利益金額」の計算を法人税の課税所得金額を基礎としていることについては上記(1)のハの(ロ)のとおり合理性があること、2法人税の取扱いでは、匿名組合員が分配を受ける匿名組合営業について生じた利益の額又は損失の額は、匿名組合の営業者の計算期間の末日の属する匿名組合員の各事業年度の益金の額又は損金の額に算入することとされること、3匿名組合から分配を受ける損益は、匿名組合契約が継続する限り、毎期発生することが予定されており臨時偶発的に発生するものではないことからすると、「1株当たりの年利益金額」を計算する上で、匿名組合契約に係る損益の額を非経常的な損益として除外すべき理由は認められない。
 そして、上記(4)のとおり、本件事業は航空機リース事業であって、本件A匿名組合契約に係る損益が、最終計算期間以外の計算期間については航空機の賃貸による損益であり、最終計算期間における分配金については、賃貸物件である航空機の売却による収益を含むというように、計算期間によって損益の発生の源泉が異なるという性質を持っているとしても、このようなリース事業は、リース物件の売却によってはじめて契約期間を通した収支が確定するものであり、そもそもリース物件の所有、賃貸及び売却が一体となった事業である。つまり航空機の売却は、上記(3)のロのとおり、K社をその優先的売却先として本件A匿名組合契約の締結時に予定されていたものであり、そして、K社に売却する価格も予定されていたのであるから、一般的な固定資産の売却とは異なり、当該航空機の売却が臨時偶発的なものとは言い難い。また、本件A最終分配金額は、航空機の賃貸による収益と航空機の売却による収益という収益の発生の源泉が異なる部分により構成されているとしても、上記のとおり、本件会社にとって匿名組合契約に係る出資に対する利益の分配という性格が異なることとなるわけではないから、その利益の一部分を取り出して非経常的な利益と判断すべき理由は見当たらない。
 加えて、本件会社は、本件A匿名組合契約以外にも、上記(3)のニのとおり、本件A匿名組合契約に類似する契約と認められる本件B匿名組合契約を結んでおり、長年にわたりそれぞれの匿名組合契約に係る損益の分配を受けていたことが認められ、本件会社にとって、匿名組合契約に係る損益は、反復継続して発生していたものと認められる。
 したがって、本件A匿名組合契約に係る損益については、そのすべてを本件会社の経常的な損益とみるべきである。

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(6) 請求人の主張について

イ 請求人は、非経常的利益として保険差益が認められているところ、保険差益であれば、保険契約時に解約時期が予見できることによって収益シミュレーションができるような保険を実際に解約して得た保険差益であってもこれを非経常的利益から排除していないことから、その経済的効果が同一と認められる匿名組合契約に基づく最終分配金額も非経常的利益として認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、ある利益が経常的利益か非経常的利益かの判断は、上記(1)のハの(ハ)のとおり個別に判断されるべきであり、また、請求人が主張するような保険差益は、例えば固定資産の火災など臨時偶発的な災害の際に受け取る保険金に係る保険差益とは異なり、臨時偶発的なものとはいえないから請求人の主張には理由がない。
 ちなみに、本件会社は、上記(3)のホ及びヘのとおり、本件A最終分配金額及び本件B最終分配金額を同社の損益計算書上、経常利益である営業外収益として計上しており、このことは、本件会社も、本件A最終分配金額及び本件B最終分配金額は特別利益とは性格を異にする経常的なものと認識していたものと認められる。
ロ また、請求人は、匿名組合契約に基づく最終分配金額を株価に反映させると、株価が年度によって著しく変わることになり、「評価会社の経常的な収益力を基に安定した株価を算出する」という類似業種比準方式の趣旨に反することになる旨及び匿名組合契約に基づく最終分配金額を株価に反映させると株価が乱高下することになるので、し意的に株価を操作することが可能となるため、法人税及び相続税の租税回避が可能となって、課税の公平が保たれない旨主張する。
 しかしながら、匿名組合契約に基づく損益が、経常的な損益であることは上記(5)のとおりである。また、評価する年度が異なることによって大幅な株価の変化が起きることについては、会社が毎期同様の事業活動をしていても、その成果である業績は、取引条件、景気などいろいろな要素が絡み合って、各期において区々となることは否めず、むしろ企業活動の結果により必然的に生ずるやむを得ないことである。なお、評価会社の「1株当たりの年利益金額」について、評価通達は、納税義務者の選択により、直前期末以前2年間の各事業年度について算出した「1株当たりの年利益金額」の合計額の2分の1に相当する金額を採用することを認めており、投資収益等の変動に伴う大幅な株価の変化を緩和する措置を講じているところである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(7) 本件更正処分

 本件株式の評価額を算定するに当たって、類似業種比準価額の比準要素である「1株当たりの年利益金額」を算出する際に、本件A最終分配金額が非経常的利益に当たらないことは上記(5)のとおりであるので、1株当たりの年利益金額は、原処分庁の算出額のとおりとなる。
 そして、本件株式の評価額について、原処分庁は、別表4-1のとおり、1株当たり1,875,697円と算定しているが(類似業種比準価額及び1株当たりの純資産価額の算定根拠は、それぞれ別表5及び別表6のとおりである。)、当審判所において本件株式の評価額を算定したところ、別表4-2のとおり、1株当たり1,875,674円と算定され(類似業種比準価額及び1株当たりの純資産価額の算定根拠は、それぞれ別表7及び別表8のとおりである。)、この金額は原処分庁の算定した金額を下回る。
 しかしながら、当審判所が算定した金額を基に請求人の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、課税価格は○○○○円、納付すべき税額は○○○○円となり、請求人の納付すべき税額は、本件更正処分の金額と同額になるから、本件更正処分は適法である。

(8) 本件賦課決定処分

 本件更正処分は、上記(7)のとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づきされた本件賦課決定処分は適法である。

(9) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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