別紙2

当事者の主張

争点1 本件権利行使益に係る所得は、一時所得又は雑所得のいずれに当たるか。

原処分庁 請求人
 本件権利行使益は、次のとおり、本件組合がH社の新規事業に係る出資のみならず、経営に関する助言その他の役務の提供を約して新株予約権を取得し、これを行使したことによる利益であり、組合員である請求人に帰属し、対価としての性質を有すると認められることから、雑所得に該当する。  本件権利行使益は、次のとおり、営利を目的とする継続的行為から生じた所得ではなく、請求人の投資による一時的かつ偶発的な所得であり、労務その他の役務の提供又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないことから、一時所得に該当する。
(1) 本件組合契約書によれば、本件組合は、H社が発行する本件新株予約権を取得して同社の株式に投資することを目的として組成された組合であり、その目的達成のため、業務執行組合員は、適宜H社の業務状況を調査し、その経営に関し助言を与える等、合理的に可能な範囲内で、その裁量により適切と考える行為をなすよう努めることとされており、また、本件組合が取得したH社の株式に関する議決権は、各組合員が委任した業務執行組合員のみが行使できる旨規定していることからすると、本件組合は、H社の経営に協力する体制を整えていたものと認められる。 (1) 請求人は、本件組合に投資をした一投資家にすぎないものであり、H社とは、雇用契約やこれに類する契約を締結していないし、雇用類似の実態を何ら有しておらず、本件組合を通じて本件株式を取得しただけであり、H社に対し、「労務」の提供を全く行っておらず、「その他の役務」についても何らこれを行っていない。
 本件組合も、請求人と同様、H社に対し、「労務の提供」を行っていないし、「その他の役務」についても何らこれを行っていない。
(2) H社の平成○年○月○日付の臨時取締役会議事録及び平成○年○月○日付でH社が各株主にあてた「第○回新株予約権の発行等に関するお知らせ」と題する文書によれば、本件組合がH社と一体となって当該新規事業に取り組む目的で本件新株予約権を付与し、本件組合を単独の第三者割当先とした旨記載されている。 (2) 「第○回新株予約権の発行等に関するお知らせ」と題する文書は、本件組合が関与したものではなく、H社が一方的に作成したもので本件新株予約権を付与する目的を対外的に記載した書面にすぎない。
 本件組合とH社との間で役務提供契約が締結されていたことを示すものはなく、本件組合からH社に対して役務提供が行われた事実は認められない。
(3) H社が発行した平成○年○月○日付の「○○に関するお知らせ」と題する文書によれば、H社は本件組合からH社の新株を割り当てられているN社から推薦を受けた者あるいは同社の社員を代表取締役、取締役及び監査役にそれぞれ選任していることから、本件組合として役務提供を行っていたと推認できる。 (3) 原処分庁の主張は、請求人とは何ら関係のないN社という第三者が行った役員推薦をもって、請求人がH社に役務提供をしていたとするものであり、そのことをもって、何ら関係のない請求人がH社に役務提供をしているとすることは誤りである。
 また、仮に、役務提供を約した事実があったとしても、実際に、具体的な役務提供が全くなされていないから、本件権利行使益を役務提供の対価と認めることはできない。
(4) 平成○年○月○日付でH社と本件組合との間で作成された覚書(以下「本件覚書」という。)及びH社の平成○年○月○日付の「筆頭株主である主要株主の異動及び主要株主の異動に関するお知らせ」と題する文書によれば、H社と本件組合は、同組合が本件新株予約権の行使により取得したH社の株式約○○○○株を○○年以上にわたり保有することを条件に本件新株予約権を割り当てる旨合意をするとともに、H社が本件組合からH社の株式○○○○株を保有し続けている旨の証明を受けているという記載がされている。 (4) 全内容が明らかでないが、本件覚書の日付は本件権利行使後のものである上、本件新株予約権を発行したH社の目的が確認されているにすぎず、H社と本件組合との合意内容は、H社の株式の長期保有のみであったと考えられ、本件覚書をもって、H社と本件組合との間に本件新株予約権発行の際に役務提供契約が締結されていたと認めることはできない。
 また、本件新株予約権に係るH社の株式は○○○○株発行されたのであるから、保有されている株以外の株についての権利行使益は、対価性がないことになり、原処分庁の主張は矛盾する。
(5) H社は、本件新株予約権の発行目的として、投資家(本件組合)による新規事業の支援を行う○○を掲げており、本件組合が選ばれた。 (5) 株式の保有のみをもって、役務の対価としての性質を有すると認識することは誤りであり、取得した株式を一定期間売却しないことは、そもそも「役務」提供行為に当たらない。

争点2 本件権利行使益の額を、本件権利行使日における公表されたH社の株式の最終価格を基礎に算定したことの適否。

原処分庁 請求人
 本件権利行使益の額を、本件権利行使日における公表された本件株式の最終価格(1株○○○○円)をもって算定したことは、次の理由から相当である。  本件株式のうち145万株の価額は、自由に譲渡できるという前提を欠くものであるから、鑑定資料等を基に算定すると1株当たり○○○○円を上回るものではない。
(1) 所得税法第36条第1項及び第2項は、収入すべき金額が金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合の当該利益の価額は、当該取得又は享受する時における価額とする旨規定し、所得税法施行令第84条本文及び同条第3号は、新株予約権を与えられた場合の当該権利の価額は、当該権利の行使により取得した株式のその行使の日における価額から、当該新株予約権の行使に係る新株の発行価額を控除した金額による旨規定し、そして、基本通達23〜35−9の(1)は、権利行使の日における価額について、取得する株式が証券取引所に上場されている場合は、公表された最終価額による旨定めている。
 このように所得税法は、現実に収入がない場合であっても収入の原因たる権利が確定的に発生した場合に、その時点で所得の実現があったものとする権利確定主義を採用しているところ、新株予約権に係る所得税法第36条第2項の価額は、当該権利の行使により取得した株式について、権利行使日における価額より低い価額で取得できたという経済的利益であり、権利行使日において権利の価額を算定し、課税することとされており、取得する株式に譲渡制限の約束が課せられていたとしても影響はなく、また、権利行使後にすぐ譲渡できるものに限定されているものでもない。
(1) 基本通達23〜35共−9は、新株予約権の権利行使の日において、当該権利の行使により取得した株式を自由に譲渡できることをその適用の前提としており、株式等の自由な譲渡ができない本件について、同通達を適用することは合理性を欠く。
(2) 本件組合契約書には、本件権利行使により取得するH社株式について、譲渡制限特約が付されている旨の定めは明記されていない。
 本件組合契約書において、本件権利行使により取得するH社株式は、組合員に現物分配すると定められていることから、H社株式145万株が本件組合に預けられていることは、本件権利行使後に、請求人が任意に第三者に対する譲渡を制限する旨同意した結果にすぎない。
(2) 本件組合契約書に譲渡制限特約が付されていないとしても、請求人が、業務執行組合員との間で締結した平成○年○月○日付確約書(以下「本件確約書」という。)において、本件株式のうち145万株について譲渡制限の合意がなされ、また、H社が公表している平成○年○月○日付「筆頭株主である主要株主の異動及び主要株主の異動に関するお知らせ」に「上記新株予約権の発行に伴って、F組合から約○○○○株について、原則として○○年間の長期所有のお約束を頂いており」との記載があることからも譲渡制限の合意があることは明らかであり、株券そのものも本件組合に保管され、請求人の元にはなく、自由に譲渡することが不可能であった。
  (3) 本件に基本通達23〜35共−9を適用することは、次のとおり実際上も不合理である。
イ 本件権利行使日において、株式併合による株価急騰の反動として株価下落が確実に予測されたこと。
ロ 一般に新株が大量発行された場合、市場に流通する株式数が増加する結果、当該発行会社の株価は下落するものと予測され、本件においても希釈効果による株式の大幅な下落が確実に予測されたこと。

争点3 本件手数料は、本件権利行使益に係る所得あるいは本件受領株式の譲渡に係る所得の金額の計算上、費用として控除できるか否か。

原処分庁 請求人
 本件手数料は、次のことから、本件受領株式を譲渡して得た利益に対する報酬であり、株式の譲渡と密接に関連した費用である。  本件手数料は、次のことから、本件権利行使益を得るために支出した費用又は本件新株予約権の取得のための付随費用のいずれかに該当し、一時所得の収入を得るために支出した金額に当たる。
 なお、仮に本件権利行使益が雑所得に該当するとした場合には、本件手数料は、雑所得の必要経費となることを予備的に主張する。
(1) 本件手数料は、本件権利行使日においても確定しているものではないことから、新株予約権の取得のために要した費用とは認められない。 (1) 請求人が本件組合への出資ができたのは、Lらの情報提供に基因するものであり、本件手数料は、この役務提供の対価として支払われたものである。現に、Lらは、請求人が本件組合に参加するまでは、情報提供を行ってきたものの、本件株式を譲渡するに際しては全く関与していない。
(2) 本件手数料は、本件受領株式の売却金額を基に計算されており、請求人は、異議調査担当職員に対し、145万株を売却できたとしても利益は見込めないため145万株に対して手数料を支払うつもりはなく、○○○○株を取得できたことに対するものではない旨申述していることから、売却が成立した本件受領株式に対する成功報酬と認められる。 (2) 本件手数料の金額が確定していないとしても、支払義務は、時価より低い価格での新株の取得により利益が確実になった本件権利行使日に確定しているから見積額によって計上することも可能であり、金額が確定していないことは理由とならない。
(3) 請求人は、異議調査担当職員に対し、本件手数料についての契約書はなく、H社株を売却して利益が出た時に支払う旨の約束である旨申述している。 (3) 本件手数料の算出方法が、本件受領株式の売却金額を基に計算されているからといって、本件手数料を当該売却(譲渡)に対応させることはできない。
 請求人は、本件新株予約権の行使により取得した株式の譲渡においては、損失が生じており、利益は生じていないから、「成功」はなく、そもそも「成功報酬」たり得ない。
  (4) 請求人とLらとの間には、本件組合への参加を持ちかけられた際に本件手数料について次の契約(合意)があった。
 1Lらに対し、本件投資についての情報に対する報酬として、請求人が本件組合にかかる一連の取引で得る利益のうち半分をLらに支払うこと、2支払時期は、本件権利行使によって取得した株式の売却時であること、3手数料の算定根拠となる利益の金額は、請求人の投資元本の額に投資から分配される額を加算した売却代金から投資元本の額を控除した金額とすること。

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