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(平20.10.30、裁決事例集No.76 136頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、民法上の組合を通じて取得した新株予約権の行使による経済的利益について、雑所得として所得税の確定申告及び修正申告を行ったところ、原処分庁が、当該経済的利益の算定の基礎となる時価は、権利行使の日における証券取引所の公表する最終価格によるべきであるとして、雑所得の金額を増額する更正処分等を行ったことに対し、請求人が、当該経済的利益は一時所得に該当し、また、当該経済的利益の算定の基礎となる時価は、取得した株式に係る譲渡制限特約を加味して算定すべきであるなどとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

 審査請求(平成19年11月21日)に至る経緯等は、別表のとおりである。
 なお、以下、平成19年6月29日付でされた平成18年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(いずれも平成19年10月26日付でされた異議決定により一部が取り消された後のもの)を、それぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。

(3) 関係法令等

 関係法令等の要旨は、別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、F組合(以下「本件組合」という。)の業務執行組合員であるG社(以下「本件業務執行組合員」という。)との間で、平成○年○月○日付の投資事業組合契約書(以下「本件組合契約書」という。)に署名押印した。 
ロ 本件組合契約書には、要旨次のとおり記載されている。
(イ) 本件組合契約書中の次の用語は、前後関係により他の意味を必要とする場合を除き、それぞれ次の意味を有する(第○条)。
A 投資会社
 H株式会社(以下「H社」という。)。
B 投資証券等
 投資会社が発行した又は発行する株式、新株予約権等。
C 組合財産
 出資金並びにこれを運用して取得した投資証券等、権利その他の財産及び現金で本件組合に帰属すべきもの。
(ロ) 本件組合は、組合財産又は投資証券等を取得して投資することを目的として設立された民法上の組合であり、本件組合の組合契約の効力は、平成○年○月○日をもって発生し、存続期間は効力発生の日より○年間とする(第○条及び第○条)。
(ハ) 本件組合の組合員の名称、住所、業務執行組合員と非業務執行組合員の別は、本件組合契約書別紙記載のとおりとする。各組合員は、本件組合の業務の執行を業務執行組合員に委任することを本件組合契約書に調印することにより証する(第○条)。
(ニ) 各組合員の出資金は、1口につき○○○○円とし、別紙記載の口数を出資するものとする。なお、費用に充当するため、諸手数料を含め1口につき○○○○円を払込金とする(第○条第○項)。
(ホ) 業務執行組合員は、本件組合の目的達成のため、次の事項に関し、本件組合の名において、又は業務執行組合員の名において、業務を執行し、裁判上及び裁判外において本件組合を代表する(第○条第○項第○号及び第○号)。
A 投資会社・投資証券等の選定、組合財産の運用及び管理に関する事項
B 投資会社の育成、投資証券等に関する議決権行使等、投資会社に対する投資に関する事項
(ヘ) 業務執行組合員は、本件組合の目的達成のため、適宜投資会社の業務状況を調査し、その経営に関し助言を与える等、合理的に可能な範囲内で、その裁量により適切と考える行為をなすよう努めるものとする(第○条)。
(ト) 組合財産は、組合員の共有とし、組合員は、その出資口数の割合に応じてあん分した組合持分を有する(第○条)。
(チ) 本件組合契約書第○条第○項に従い、組合員が出資金の全額を払い込んだ場合には、当該組合員と業務執行組合員が別途定める場合を除き、新株予約権を直ちに行使し、発行された株式を当該組合員に現物分配するものとする(第○条第○項)。
(リ) 本件組合契約書第○条の規定に基づき分配された組合財産は、分配実施日の翌日から各組合員の専有に属する(第○条)。
(ヌ) 請求人の出資口数は○○口(本件組合契約書末尾)。
ハ H社は、○○を主な事業内容とし、○年○月○日に設立された資本金○○○○円(平成○年○月○日現在)のJ証券取引所に株式を上場する法人である。
ニ H社は、平成○年○月○日開催の臨時取締役会において、株式1株を○○○○株に併合すること並びに旧商法第280条の21第1項の規定に基づく第○回新株予約権(以下「本件新株予約権」という。)を発行すること、本件新株予約権の譲渡は取締役会の承認を受けなければならないこと、及び割当数○○○○個の全部を本件組合に割り当てること等を決議した。
ホ 上記ニの決議事項は、平成○年○月○日開催の第○期定時株主総会で承認可決された。
ヘ H社は、平成○年○月○日に株式1株を○○○○株に併合をした。
ト H社は、平成○年○月○日に本件新株予約権○○○○個(1個につき○○○○株)を発行し、本件組合にそのすべてを割り当てた。
チ 請求人は、平成18年○月○日、本件組合に対して上記ロの(ヌ)の出資口数のうち○○口分、○○○○円(1口当たり○○○○円)を出資金として払い込んだ。
リ 本件組合は、請求人の出資を受けて、平成18年○月○日(以下「本件権利行使日」という。)にH社に対し、請求人に割り当てられた新株予約権のうち○○○○個を権利行使(以下「本件権利行使」という。)した。その結果、請求人は、本件権利行使に係る利益(以下「本件権利行使益」という。)を得た。
ヌ 請求人は、本件権利行使によって発行されたH社の株式(以下「H社株式」という。)○○○○株の株式(以下「本件株式」という。)のうち、平成18年○月○日に○○○○株の株式を受領(以下、受領した株式を「本件受領株式」という。)し、残余の1,450,000株の株式は、本件組合において保管されている。
ル H社の株式の本件権利行使日におけるJ証券取引所の最終価格は、1株当たり○○○○円である。
ヲ 請求人は、本件受領株式について、平成18年○月○日に○○○○株を、同月○日に○○○○株を、それぞれK証券を通じて売却した。
ワ 請求人は、H社の取締役等ではない。
カ 請求人は、平成18年○月○日、Lに対する貸付金○○○○円との相殺及び同人の銀行口座への○○○○円の振込みの方法により、L及びM(以下、両名を併せて「Lら」という。)に対し、各○○○○円、合わせて○○○○円(以下「本件手数料」という。)を支払った。

(5) 争点

争点1 本件権利行使益に係る所得は、一時所得又は雑所得のいずれに当たるか。

争点2 本件権利行使益の額を、本件権利行使日における公表されたH社の株式の最終価格を基礎に算定したことの適否。

争点3 本件手数料は、本件権利行使益に係る所得あるいは本件受領株式の譲渡に係る所得の金額の計算上、費用として控除できるか否か。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

3 判断

(1) 争点1 本件権利行使益に係る所得は、一時所得又は雑所得のいずれに当たるか。

イ 法令解釈
 所得税法第34条は、一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう旨規定しており、一時所得の概念を偶発的な所得に限定する考え方から対価としての性質を有する所得は、たとえ一時の所得であっても一時所得からは除くこととされている。さらに、所得税法第35条により、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得については、雑所得とされる。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) H社は要旨次の情報を公開した。
A 平成○年○月○日付の「株式の併合、1単元の株式の数の変更に関するお知らせ」及び「第三者割当による新株予約権発行に関するお知らせ」
 H社は、取締役会において、上記1の(4)のニのとおり決議した株式併合と本件新株予約権の発行予定の詳細のうち、株式併合の効力発生の予定日を平成○年○月○日とするとともに、本件新株予約権の発行による調達資金の使途を、1○○事業、2○○開発、3○○開発の3点とした。
B 平成○年○月○日付の「第○回新株予約権の発行等に関するお知らせ」
(A) 発行目的
 本業による配当原資のねん出は至難であることから、○○等の新規事業へ参画して、その相乗効果をもって○○を図ることとし、当該事業資金の調達のため本件新株予約権を発行する。
(B) 株式併合後においても1株につき○○○○円とした理由
 新規事業については、本件新株予約権の引受先である本件組合から、H社と一体となって取り組む旨の提案を受けているが、100%成功する保証のある事業はないこと並びにH社の新規事業の推進の見通し及びその他諸般の事情を考慮すると、引受先に引き受けてもらえない事情等があり、株式併合後においても1株につき○○○○円とした。
(C) 第三者割当とした理由
 株主割当、公募等では目標金額の調達ができないということも考えられるが、この度は、単なる資金問題のほかに投資家自体による新規事業の支援という特殊な事情が存在するため、計画実現及び条件を満たす可能性の高い第三者割当とした。また、経営を円滑かつ安定的に運営する観点からも○○を重視した。
(ロ) H社は、第○期定時株主総会を開催するに当たり、平成○年○月○日付の「第○期定時株主総会招集ご通知」を株主に送付した。同通知書によると、本件新株予約権を株主以外の者に対して特に有利な条件で発行する理由及び調達資金の使途は、要旨次のとおりである。
A 会社存続のためには、○○等への参画等、経営の抜本的対策が不可欠で、これらの事業を行うための資金は、外部から調達する必要があり、会社の事業展開について理解を得られ、安定株主として資本上の強力な支援を得られる本件組合に新株予約権を引き受けてもらうことが最善の策である。
B 新株予約権の発行によって調達した資金は、1○○事業、2○○開発、3○○開発等への使途を想定している。
(ハ) H社と本件組合は、本件新株予約権の発行に関して、両者間で平成○年○月○日の要旨次の合意事項を確認するために本件覚書を締結した。
A 本件新株予約権発行の目的(第○条)
(A) H社は、遊休資産及びその保有技術を活用し、○○等の新規事業への参画を予定している。
(B) 本件新株予約権の発行は、上記(A)の新規事業の事業資金調達並びに当該新規事業に関して○○を主たる目的としている。
B 長期保有(第○条)
 本件組合は、上記Aの目的を踏まえ、本件新株予約権のうち約○○○○株相当分については、原則として本件新株予約権の発行日から○○年以上の長期保有を条件に割当てを行い、これにより長期保有を確保する。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) H社は、上記ロのとおり、1本件新株予約権の発行によって資金を調達し、新規事業等を展開して経営の抜本的対策を図ること、2H社が○○にあることや投資リスク等その他諸般の事情を考慮し、本件新株予約権の行使に際して払込みをなすべき額を株式併合後においても1株につき○○○○円としたこと、3投資家自体による新規事業の支援という特殊な事情の存在等を重視し、第三者割当としたことをそれぞれ明らかにしている。これらのことから、H社は、本件新株予約権の発行に当たり、事業拡大のための資金調達のほか、投資家による新規事業の支援も計画し、これらの確実な実現を図るために本件組合を引受先とし、本件組合の出資者の投資リスク等を考慮して、有利発行としたことが認められる。そうすると、本件権利行使益は、出資の対価としての性格を有しているといえる。
(ロ) 本件組合が民法上の組合であることは、請求人及び原処分庁ともに争いのないところ、組合の権利義務関係は直接組合員に帰属することになるから、請求人が上記1の(4)のチないしヌのとおり、本件株式の分配を受けたことによって生じた本件権利行使益は、請求人に帰属することとなる。
(ハ) そうすると、本件権利行使益には、上記(イ)のとおり、対価性が認められるから、一時所得には当たらないこととなる。また、請求人は、上記1の(4)のワのとおり、H社の取締役等ではないから、本件権利行使益に係る所得は、給与所得には当たらず、また、営利を目的とする継続的行為から生じた所得ではないから事業所得にも当たらず、さらには利子所得、配当所得、不動産所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得のいずれにも当たらないので、雑所得に区分されることになる。
(ニ) ところで、請求人は、本件権利行使益を得るに当たり、H社に対して何ら役務提供等を行っていないから、本件権利行使益に係る所得は、一時所得に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件権利行使益は、上記(イ)のとおり、H社への出資の対価性を有し、上記イのとおり、対価としての性質を有する所得は、一時の所得であっても一時所得から除くこととされており、本件権利行使益に係る所得が雑所得に区分されることについては、上記(ハ)のとおりである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(2) 争点2 本件権利行使益の額を、本件権利行使日における公表されたH社の株式の最終価格を基礎に算定したことの適否。

イ 法令解釈等
(イ) 所得税法第36条第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上総収入金額とすべき金額について、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入とする場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額とする旨規定し、同条第2項は、同条第1項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額、いわゆる時価による旨規定しており、ここでいう時価とは、その時点における客観的交換価値、すなわち、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間において自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額であって、いわゆる市場価格をいうものと解される。
(ロ) 所得税法施行令第84条第3号は、発行法人から旧商法第280条の21第1項の決議に基づき発行された同項に規定する新株予約権を与えられた場合における当該権利に係る所得税法第36条第2項の価額は、当該権利の行使により取得した株式のその行使の日における価額から当該新株予約権の行使に係る新株の発行価額を控除した金額による旨規定している。
(ハ) そして、基本通達23〜35共―9の(1)は、所得税法施行令第84条第3号に掲げる権利行使の日における当該新株予約権の行使により取得した株式の価額について、新株予約権の行使により取得する株式が証券取引所に上場されている場合には、当該権利行使日における当該証券取引所の最終価格による旨定めているが、この取扱いは、上記(イ)の解釈に沿うものであり、当審判所においても相当と認められる。
ロ 認定事実
 請求人提出資料及び当審判所の調査結果によれば、次の事実が認められる。
 請求人は、平成○年○月○日付で本件業務執行組合員あてに、分配を受けるH社株式のうち、1,450,000株を平成20年8月16日まで本件組合に預け、第三者に譲渡しない旨の本件確約書を提出した。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) 本件権利行使益の算定に当たっては、上記イの(ロ)のとおり、本件権利行使により取得した株式のその行使の日の価額を基準に算定されるところ、H社の株式は、上記1の(4)のハのとおり、J証券取引所に上場されていることから、上記イの(ハ)により、本件株式の本件権利行使日の価額は、上記1の(4)のルに掲げる当該証券取引所の最終価格の○○○○円によることとなる。
(ロ) ところで、請求人は、本件株式のうち1,450,000株については本件確約書により譲渡が制限されており、かつ、当該株式は、本件組合に保管されており請求人の元にはなく、自由に譲渡できるという前提を欠くものであるから、鑑定資料等を基に算定した価額で評価すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件権利行使益に係る課税は、本件新株予約権の行使により請求人が本件株式を取得した結果生じることとなった経済的利益になされるものであって、その後の当該株式の売却によって生じる利益に課税するものではないから、課税の対象となる株式に譲渡制限株式が含まれているとしても何ら違法、不当ではない。
 なお、H社の第○期定時株主総会で承認された本件新株予約権の発行要領には、上記1の(4)のニ及びホのとおり、権利行使によって発行される株式について譲渡制限の定めがなく、また、H社が本件新株予約権発行当時、法令等に基づいて譲渡制限株式を発行していたとする証拠も認められない。そして、本件株式のうち1,450,000株の譲渡制限は、上記(1)のロの(ハ)のBの本件覚書の内容を踏まえ、上記ロのとおり、本件業務執行組合員に請求人が確約したものと推認されるところ、当該確約の内容は、請求人が取得した株式の一部を本件組合に預け、第三者に譲渡しないというものであり、この確約は、当事者間では有効であるとしても、このことが上記(イ)の判断を否定する根拠とはなり得ない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ) また、請求人は、1本件株式のうち譲渡制限のある株式は、本件権利行使日において、株式併合による株価急騰の反動として株価下落が確実に予測されたこと、2H社の株価は、本件新株予約権の権利行使により株式数が増加する結果、株価が希釈され、大幅に下落することが確実に予想されたことから、本件株式のうち1,450,000株の価額は、鑑定資料等を基に算定した価額である旨主張する。
 しかしながら、証券取引所に上場されている株式の価格については、時々の経済情勢をはじめ当該上場法人の固有事情など様々な要因を反映しているものと解され、H社の株式についても上場株式であるところ、請求人の主張する事情をもって証券取引所の最終価格を時価とすることを否定する根拠とはならない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(3) 争点3 本件手数料は、本件権利行使益に係る所得あるいは本件受領株式の譲渡に係る所得の金額の計算上、費用として控除できるか否か。

イ 法令解釈等
(イ) 所得税法第33条第3項は、譲渡所得の金額の計算において、総収入金額からその基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額を控除する旨規定しているところ、譲渡に要した費用とは、現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的にみてその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきものと解されている。
(ロ) 所得税法第37条第1項は、雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額について、雑所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他雑所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする旨規定している。
 すなわち、雑所得の計算における必要経費は、それが収入に直接に対応する費用(個別対応)とその年分の費用(期間対応)とから構成されており、必要経費に該当するためには、業務について生じた費用で業務との関連性がなければならないとともに、業務の遂行上必要であることが要件となる。また、当該必要経費の総収入金額から控除する年分は、内部計算費用である償却費を除き、その債務の確定した日の属する年分とされる。
ロ 認定事実
 当審判所の調査結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件手数料の一部を受領したLの当審判所に対する答述によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、以前から、Lが持ちかけた株式に関する投資情報の提供を受けて投資をし、これによって得た利益からLに情報提供料を支払っている。なお、情報提供料について、書面による契約はしていない。
B 本件手数料は、Lらの請求人に対する本件新株予約権に係る情報提供の対価である。
C 本件手数料の計算根拠として、請求人からLあてに、本件受領株式の売却に係る証券会社作成の取引報告書及び計算メモが送付されている。
D 本件新株予約権に係る投資情報は、MからLを経て請求人に提供された。
E Lは、本件権利行使及び本件受領株式の譲渡については、関与していない。
(ロ) 本件手数料の一部を受領したMの当審判所に対する答述によれば、次の事実が認められる。
 本件手数料は、Lらの情報提供により、請求人が本件組合の組合員となり、H社の株式を取得したことに関連した成功報酬である。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) 請求人は、上記ロの(イ)のAないしD及び(ロ)の事実によると、Lらとの間で書面による契約はしていないものの、以前から株式等に係る投資情報を得ており、当該情報を起因として利益を得た場合には情報提供料を支払うこととし、そして、本件新株予約権に係る情報についても同様の情報提供料の支払が約束されていたものと認められるから、本件手数料は、Lらの本件新株予約権に係る情報に基づき請求人が本件組合へ出資をし、その結果、本件権利行使益を得たことの対価と解するのが相当である。
 そうすると、本件手数料は、本件権利行使益を得るために要した費用と認められ、本件権利行使益に係る所得が雑所得に区分されることについては、上記(1)のハの(ハ)のとおりであるから、本件手数料は、雑所得の金額の計算上必要経費に算入されるべきものである。
(ロ) 原処分庁は、1本件手数料の金額が本件権利行使日において確定していないこと、2本件手数料の金額は、売却した本件受領株式の売却代金を基に計算されていること、3本件手数料は、H社株式を売却し利益が出た時に支払う約束であったと認められることから、本件手数料は、株式の譲渡と密接に関連した費用であり、上場株式等の譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用となる旨主張する。
 しかしながら、上記1の(4)のヲのとおり、請求人は、本件受領株式についてK証券を通じて売却しているところ、当該株式を売却するに当たり、必要なものとして本件手数料を支払ったわけではなく、また、上記ロの(イ)のEのとおり、Lが本件受領株式の売却には関与していないことからすれば、本件手数料が売却益に基づき計算され、当該株式を売却した時に支払う約束であったとしても、客観的にみて、本件手数料は、本件受領株式の譲渡に要した費用であるとは認められない。そして、本件手数料の金額が本件権利行使日において確定していなかったとしても、本件手数料は、上記(イ)のとおり雑所得の必要経費とみるのが相当であり、上記ロの(イ)のとおり、本件権利行使日と同一の年である平成18年○月○日に支出されて金額が確定していることから、本件手数料は、平成18年分の雑所得の金額の計算上、必要経費に算入されるべきとの判断に影響するものではない。
 したがって、原処分庁の主張には理由がない。

(4) 本件更正処分及び本件賦課決定処分について

 以上のとおり、争点3については原処分に違法があり、他の各争点については原処分に違法はない。
 そうすると、請求人の納付すべき税額及び過少申告加算税の金額は、いずれも原処分に係る金額を下回るので、原処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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