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(平20.9.19、裁決事例集No.76 169頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、○○業を営む法人の代表取締役である審査請求人(以下「請求人」という。)が、銀行の貸金庫に保管していた現金を同法人の従業員によって持ち出されたことによる損害について、雑損控除を適用して平成17年分の所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が雑損控除の対象となる損失が確定していないなどとして更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が雑損控除は損失が発生した年分に適用があることを理由として、その一部の取消しを求めるとともに、請求人名義の定期預金を上記従業員によって無断で解約されたことによる損害について、銀行に対する預金支払請求訴訟に敗訴したことにより当該損失が確定したから、雑損控除を適用すべきであるなどとして、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第2項の規定による平成17年分の所得税の更正の請求及び同条第1項の規定による平成18年分の所得税の更正の請求を行ったところ、原処分庁が、当該訴訟の判決は同条第2項の判決に当たらないなどとして、上記各年分の所得税の更正の請求に対してそれぞれ更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことに対し、請求人が上記各通知処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成17年分の所得税について、現金の盗難により○○○○円の損害額が生じたとして、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した平成17年分の所得税の確定申告書(以下「平成17年分確定申告書」という。)を法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成19年2月13日付で、請求人が総所得金額から差し引いた現金の損害額は認められないとして、別表1の「更正処分及び賦課決定処分」欄のとおり、平成17年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、平成18年分の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した平成18年分の所得税の確定申告書を法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ニ 請求人は、本件更正処分を不服として、平成19年4月9日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年7月6日付で棄却の異議決定をしたので、異議決定を経た後の本件更正処分に不服があるとして、同年8月6日に審査請求をした。
ホ さらに、請求人は、平成19年6月20日に、別表1の「更正の請求」欄のとおり、平成17年分の所得税について、雑損控除の額を○○○○円、翌年への繰越損失額を○○○○円と記載した平成17年分の所得税の更正の請求書(以下「平成17年分更正請求書」という。)を、また、平成18年分の所得税について、平成18年分の所得から控除される繰越損失額を○○○○円、翌年への繰越損失額を○○○○円と記載した平成18年分の所得税の更正の請求書(以下「平成18年分更正請求書」という。)を、それぞれ原処分庁に提出した。
ヘ 原処分庁は、上記ホの各更正の請求に対し、平成19年9月19日付で更正をすべき理由がない旨の各通知処分をした(以下、平成17年分に係る通知処分を「平成17年分通知処分」、平成18年分に係る通知処分を「平成18年分通知処分」という。)。
ト 請求人は、上記ヘの各通知処分を不服として、平成19年10月18日に異議申立てをしたところ、平成18年分通知処分に対する異議申立てについて、異議審理庁は、通則法第89条《合意によるみなす審査請求》第1項の規定により審査請求として取り扱うことが適当であると認め、同年11月29日付で請求人に同意を求めたところ、請求人は同年12月5日に同意したので、平成18年分通知処分に対する異議申立ては、同日審査請求がされたものとみなされ、また、平成17年分通知処分に対する異議申立てについて、異議審理庁から通則法第90条《他の審査請求に伴うみなす審査請求》第1項の規定により、同年12月6日に当該異議申立書が当審判所に送付されたので、平成17年分通知処分に対する異議申立ては、同日審査請求がされたものとみなされた。
チ そこで、平成17年分通知処分及び平成18年分通知処分に対する各審査請求は、本件更正処分に対する審査請求と併合審理をする。
リ なお、本件賦課決定処分についてもあわせ審理する。

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(3) 関係法令等

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、主に○○販売を事業目的とするG社の代表取締役である。
ロ 請求人は、平成14年7月19日以降、H銀行(現J銀行。以下同じ。)a支店において、請求人名義で二つの貸金庫(以下「本件貸金庫」という。)を利用していた。
ハ 請求人は、本件貸金庫について、G社の従業員で営業及び経理を担当していたKを、貸金庫取引に係る代理人として登録していた。
ニ 請求人は、平成15年○月○日に、H銀行b支店において、○○○○円を預入期間3か月の請求人名義の定期預金として預け入れたところ、当該定期預金は、同年○月○日にH銀行d支店に引き継がれ、同支店は、当該定期預金について、預入日、満期日、預入金額、利率等が記載された「定期預金通帳」(口座番号○○○○。以下、同口座番号の定期預金を「本件定期預金」といい、この通帳を「本件定期預金通帳」という。)を請求人に交付した。
ホ 本件定期預金は、別表2のとおり、預入期間経過後に預入金額が払い戻されるとともに、預入金額に対する税引後の利息を含めた金額を定期預金として預け入れることが繰り返された。
ヘ Kは、平成16年以降、本件定期預金の払戻し及び預入れの手続を行っていたところ、平成17年○月○日に、平成16年○月○日に預け入れられた○○○○円の定期預金(以下「本件定期預金1」という。)について、H銀行d支店に対し、いったん払い戻す手続を行い、○○○○円とこれに対する税引後の利息○○○○円のうち○○○○円については現金による払戻しを求め、残りの○○○○円を定期預金として預け入れる手続をした(以下、この定期預金を「本件定期預金2」という。)。
ト Kは、平成17年○月○日に、本件定期預金2について、H銀行d支店に対し、いったん払い戻す手続を行い、○○○○円とこれに対する税引後の利息○○○○円のうち○○○○円については現金による払戻しを求め、残りの○○○○円を定期預金として預け入れる手続をした。
チ Kは、平成17年○月○日、上記ヘ及びトの現金による払戻しに関し、H銀行d支店から○○○○円をだまし取った詐欺の容疑で逮捕された。
リ Kは、平成17年○月○日、詐欺罪で起訴され、S地方裁判所において、同年○月○日に有罪判決を受けた(以下、この判決を「詐欺事件判決」という。)。
 詐欺事件判決の理由の要旨は、次のとおりである。
 Kは、自己の販売実績を上げたいとの思いもあり請求人が本件貸金庫に保管していた現金の管理を任されたことを利用し、同現金を使って取扱商品の架空取引をするようになった。そして、Kは、本件貸金庫内の現金がわずかとなったことから、更に架空取引を継続するために、本件定期預金1及び本件定期預金2について、請求人から一部解約の指示がないのにもかかわらず、これをあるかのように装い、H銀行の担当行員(以下「本件担当行員」という。)を欺いて、合計○○○○円を交付させた。
ヌ Q県R警察署は、上記チの事件捜査において、Kが借りていた借家などから、架空取引とした商品等を多数押収した。
ル 請求人は、平成17年○月○日に、H銀行を被告として、Kが本件定期預金1及び本件定期預金2の更新手続時に現金で払戻しを受けた合計○○○○円の支払を請求する民事訴訟をS地方裁判所に提起したところ、同裁判所は、平成18年○月○日に請求を棄却する旨の判決をした。請求人は、これを不服として平成18年○月○日にU高等裁判所に控訴したところ、平成19年○月○日に同裁判所は、控訴を棄却する旨の判決をした(以下「本件判決」という。)。
ヲ 請求人は、平成17年分の所得税について、請求人が本件判決に対する上告を断念したことにより敗訴が確定し、Kの横領による損害額が確定したことを理由として、平成17年分更正請求書を原処分庁に提出した。
ワ 請求人は、請求人が主張するKによる窃盗又は横領行為について、Kに対して損害賠償請求を行っていない。

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2 争点

 平成17年分において、雑損控除の対象となる盗難又は横領による損失が生じたか否か。

3 主張

請求人 原処分庁
 請求人には、次のとおり、平成17年中に雑損控除の対象となる盗難と横領による損失が生じている。  請求人には、次のとおり、平成17年中に雑損控除の対象となる損失が生じているとは認められない。
(1) 所得税法第72条の規定は、基本通達51―8及び同通達72―6等からみても明らかなとおり、損失が発生した年分に適用されると解され、不法行為者に対する損害賠償請求権を行使した結果、損失が発生した翌年以降に損失金額が確定した場合に、その確定した年分の損失とする旨の規定はない。 (1) 盗難又は横領の不法行為によって損害を被った場合には、その損害を被った者は、不法行為者に対して盗難又は横領された金額に相当する金額の損害賠償請求権を取得することから、盗難又は横領の事実が判明したからといって直ちに損失が生じたことにはならず、当該損害賠償請求権を行使した結果、賠償されない金額が具体的に確定したときに、その賠償されない金額について初めて損失が生じたものと解される。
 なお、基本通達51―8及び同通達72―6は、資産の盗難又は横領による損失が生じた場合に適用されるものであるから、損失が確定していない平成17年分に同通達の定めの適用はない。
(2) 請求人は、G社の元従業員であったKをH銀行a支店における請求人名義の本件貸金庫の代理人に登録して、本件貸金庫内の現金の管理を任せていたところ、Kに平成16年から平成17年までの間において本件貸金庫内の請求人の現金○○○○円を窃盗されていたことを平成17年○月に知った。当該損失は、平成16年分及び平成17年分のそれぞれの年分の損失額がいくらであるのか特定できないから、現金の窃盗による損失の事実が発覚した平成17年分の損失である。 (2) 請求人は、平成17年末の時点においては、Kに対して損害賠償請求権を行使する意図があることがうかがえることから、Kに対する損害賠償請求権について賠償されない金額が具体的に確定していないため、平成17年分において雑損控除の対象となる盗難又は横領による損失が生じたこととはならない。
(3) 請求人は、Kに本件定期預金の更新手続を任せていたところ、Kが、平成17年○月○日に本件定期預金1の一部である○○○○円を、同年○月○日に本件定期預金2の一部である○○○○円を請求人に無断で解約して、それぞれ横領されたことから、請求人には○○○○円の損失が生じた。 (3) 請求人は、Kが本件貸金庫内の現金を持ち出した行為について、窃盗罪としての刑事告発を行っておらず、盗難による被害額についても明確に証明していないから、本件貸金庫内の現金が盗難に遭ったという事実及びその損害額を確認することができない。
(4) 平成17年において、盗難と横領により請求人に生じた損失額は、上記(2)の本件貸金庫から窃盗された現金○○○○円と上記(3)の本件定期預金1及び本件定期預金2を無断解約して横領された現金○○○○円の合計○○○○円から、平成17年○月○日に本件定期預金2の無断解約時に出金された○○○○円のうち本件貸金庫に戻された○○○○円を差し引いた後の額○○○○円となる。  

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4 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件貸金庫内の現金について
(イ) 請求人が平成17年9月8日にQ県R警察署に対し、G社の従業員を通じて提出した書面は、G社において経理を担当していたLが本件貸金庫の使用方法や現金の出金記録及び残額等について記載し、その後、同人から事務を引き継いだKによって記載が続けられていたもの(以下「本件貸金庫メモ」という。)であり、本件貸金庫メモには、本件貸金庫内の現金等について、要旨次のとおり記載されている。
本件貸金庫メモ
(ロ) H銀行a支店の本件貸金庫の開閉記録によれば、別表3のとおり、平成14年11月13日から平成15年12月22日までの間は、Lが本件貸金庫を開閉しており、平成16年1月27日から平成17年○月○日までの間は、Kが本件貸金庫を開閉している。
(ハ) Kは、Q県R警察署警察官に対し、要旨次のとおり供述した。
A 本件貸金庫メモの「○○○」及び「×××」は本件貸金庫の番号であり、それぞれの金庫の中身を書き出してあるようで、「○○○○×○○」は、○○○○円の束が○○束ということを意味していると思う。「○○」は金額を示し、単位は万円で書いてあるので、本件貸金庫には現金が○○万円あったと思う。
B 本件貸金庫メモの「○○→14.11/28 ○○万出す」と次の行の「○○」の部分は、平成14年11月28日に○○万円を本件貸金庫から取り出して、残高が○○万円であることを示しており、Lは、請求人から指示されて本件貸金庫から現金を取り出した都度、その日付や金額などを本件貸金庫メモに書き入れていた。
C 本件貸金庫メモの「残○○→16.2/12 ○○」、「○○→16.5/7 ○○」及び「○○→16.12/1 ○○」は私が記載しており、請求人の指示で本件貸金庫に行って、平成16年2月12日に○○万円、同年5月7日に○○万円、同年12月1日に○○万円をそれぞれ取り出して、請求人に現金を渡した。
D 本件貸金庫内の現金は平成16年12月1日時点で○○○○円くらいしか残っていなかった。
E 私は、請求人から本件貸金庫の鍵(以下「本件鍵」という。)の保管を任されていたが、本件鍵を紛失したら一大事であるので、G社の社長室の金庫(以下「本件社長室金庫」という。)の中に保管していた。
 なお、請求人はG社に不在のことが多く、本件社長室金庫を開ける暗証番号は請求人と私しか知らないので、私一人が本件社長室金庫を開け閉めしている状況だった。
F 本件貸金庫内の現金は、架空取引に支払った○○○○円のほか、ブランド品の購入、借入金の返済等に充てており、○○○○円くらい使ってしまったので、本件貸金庫には間違いなく○○○○円くらいはあったと思う。
(ニ) Kは、V地方検察庁検察官に対し、要旨次のとおり供述した。
A 私は、請求人から本件貸金庫の管理を任され、請求人から本件貸金庫から現金を持ってきてほしいと頼まれると、本件貸金庫に行って、言われた額を持ってきていた。
B 私は、平成16年1月10日ころ、本件貸金庫内の現金○○○○円を無断で持ち出して架空取引の代金としてG社に入金した。
C 私は、営業成績が伸び悩むと架空取引を続け、○○万円又は○○万円単位で本件貸金庫内の現金を持ち出してG社に入金した。
D 架空取引を続けた結果、平成16年12月末ころには本件貸金庫内の現金が○○○○円か○○○○円くらいに減ってしまった。
 そこで、私は、架空取引を続けるためには新たにお金が必要だと思った。
(ホ) 請求人は、Q県R警察署警察官に対し、要旨次のとおり供述した。
A Kは本件貸金庫の代理人に登録してあり、Kに何度か本件貸金庫に行って、現金を取ってくるよう指示したが、金額、回数までは覚えていない。
B 本件鍵はKが開けることができる本件社長室金庫にあったので、Kなら私の許可なく勝手に本件貸金庫に行って、現金を取ってくることはできる。
C 本件貸金庫内の現金は私個人の現金であり、会社で必要となったときに利用するために本件貸金庫に保管していたものである。
D 平成17年○月○日ころに本件貸金庫内の現金を確認したところ、本件貸金庫内には新札の現金○○○○円しか入っていなかった。
E 本件貸金庫メモに記載された私の出金の指示が正しいとすれば、平成16年12月1日の時点で本件貸金庫には現金○○○○円があったことになり、Kは無断でこの現金を使ってしまい、その代わりに、Kは本件定期預金2を無断解約した○○○○円の中から○○○○円を本件貸金庫に入れている。
(ヘ) Kは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 私は、本件貸金庫から持ち出した現金を、私が個人で利用しているG社のロッカー(以下「本件ロッカー」という。)に保管していた。
B 請求人からは、おおむね2か月に1度、本件貸金庫から○○万円単位で現金を引き出すよう指示があり、平成16年12月に出金の指示があったので、おそらく平成17年1月か2月には現金引出しの指示があるのではないかと考え、平成17年1月1日において、本件貸金庫又は本件ロッカーに少なくとも○○○○円は持っていたと思う。また、請求人が車を買う話をしていた時に、とても引き出せるようなお金はなかったと記憶しているので、○○○○円というお金は残っていなかった。
C 私が平成17年1月18日に本件貸金庫に行ったのであれば、現金があったから行ったと思うので、平成17年1月1日において、本件貸金庫には少なくとも○○○○円は用意してあったと思う。
D 私は、平成17年1月18日に本件貸金庫にあった現金○○○○円を引き出してきて、平成17年○月○日の本件定期預金1の解約の時まで、そのまま本件ロッカーの中に保管していたと思う。そして、その現金は、平成17年○月に本件定期預金1を一部解約した○○○○円と併せて、架空取引の代金やブランド品などに使ってしまった。
E 私は、請求人から本件貸金庫から現金を持ってくるように指示されると、本件貸金庫に行って、指示された現金を持ってきて請求人に渡すことを任されていたが、本件貸金庫の現金は私が使い込んでいて、本件貸金庫メモに本当のことは書けないので、請求人から指示されて引き出した現金のみを単純に本件貸金庫メモに書き足していた。
ロ 本件定期預金について
(イ) 請求人、K及び本件担当行員のQ県R警察署警察官に対する供述、KのV地方検察庁検察官に対する供述、原処分関係資料並びに当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 本件定期預金は、満期日が到来するごとに更新手続が必要であり、その都度いったん解約されるが、その解約時に支払われる利息とともに全額再度預け入れる方法により更新手続が行われ、その更新手続は、平成15年まではLが行い、Lが退職した平成16年1月以降はKが行っていた。
B 本件定期預金の更新手続には、1本件定期預金通帳、2本件定期預金の銀行届出の印章(以下「本件届出印章」という。)及び3「定期預金ご解約(払戻請求書)」(以下「払戻請求書」という。)が必要であるが、本件定期預金通帳は本件社長室金庫内に保管され、本件届出印章は請求人がかばんに入れて持ち歩いていた。
C 本件定期預金の更新手続に当たり、本件定期預金の一部を現金で引き出す場合には、上記Bの1ないし3のほかに、請求人の氏名及び本件定期預金の口座番号を記載した「定期・通知預金追加お預入れ(入金票兼払戻請求書)」(以下「預入書」という。)が必要である。
D Kによる本件定期預金の通常の更新手続の内容は、本件定期預金の満期日が到来するごとに、1Kが本件担当行員から連絡を受けた更新手続後の利率を記載したメモ(以下「利率メモ」という。)及び白紙の払戻請求書をG社の社長室の机(以下「本件社長室机」という。)の上に置き、2請求人が利率メモを確認した上で払戻請求書に本件届出印章を押印し、3その払戻請求書にKが請求人の氏名及び口座番号を記載した上で、4Kが本件社長室金庫から取り出した本件定期預金通帳及び当該払戻請求書を本件担当行員に預け、5KがH銀行による更新手続後に本件担当行員から受け取った本件定期預金通帳及び利息計算書を本件社長室机の上に置いておき、6請求人がこれを確認していたものである。
E 平成17年○月○日の本件定期預金1の更新手続では、請求人は通常の更新手続と同様に払戻請求書に自ら本件届出印章を押印しているが、Kは、これを利用して、あらかじめ本件担当行員に本件定期預金1のうち○○○○円は預け入れない旨伝え、預入書に無断で請求人の氏名及び口座番号を記載して、本件定期預金1の更新手続のためいったん払い戻した金額のうち○○○○円を現金で受け取った。
F 平成17年○月○日の本件定期預金2の更新手続では、請求人は払戻請求書に本件届出印章を押印しておらず、Kは、あらかじめ本件担当行員に本件定期預金2のうち○○○○円は預け入れない旨伝え、Kが請求人に無断で、本件届出印章を押印した払戻請求書、氏名及び口座番号を記載した預入書並びに本件定期預金通帳を用いて、本件定期預金2の更新手続のためいったん払い戻した金額のうち○○○○円を現金で受け取った。
(ロ) Kは、Q県R警察署警察官に対し、要旨次のとおり供述した。
A 平成17年○月○日の更新手続
(A) 平成16年12月ころには本件貸金庫の現金は○○○○円ぐらいしか残っていなかったので、私は、本件定期預金1の更新手続時に一部解約して、本件貸金庫に現金を補充しようと思いついた。
(B) 私は、平成17年○月○日の午前中に本件担当行員から電話を受けた際に、本件定期預金1のうち○○○○円の一部解約を請求人の意思であるかのようにうそをつき、その日の午後、本件担当行員にG社に来てもらい、払戻請求書と預入書に請求人の氏名及び口座番号を書き入れて、本件定期預金通帳とともに本件担当行員に渡した。
(C) 翌日の平成17年○月○日、私は、G社で本件担当行員から○○○○円の現金を受け取り、そこから○○○○円を取り出して、残りは本件ロッカーに隠しておいた。また、本件定期預金通帳と利息計算書を本件担当行員から受け取ったが、請求人には見せられるはずもなく、そのまま本件社長室金庫に隠した。
B 平成17年○月○日の更新手続
(A) 本件定期預金2の満期日は平成17年○月○日であるが、その後に、請求人が「定期って○○○○円だった、銀行に確認して」と言ってきたので、私は「確か○○○○円だったと思いますよ」と何とか答え、その場は切り抜けたものの、請求人から本件定期預金通帳を見せろと追及されることが怖くて利率メモを本件社長室机に置いていなかった。
(B) その後、請求人がG社に立ち寄った時に荷物を置いて外出したことがあり、本件社長室机の上に請求人の印章が無造作に置いてあったので、私は、この印章が本件届出印章という確信はなかったが、請求人にないしょで手続ができるかもしれないと思い、払戻請求書に押印した。
(C) 平成17年○月○日、G社において、私は、本件担当行員に、請求人が手持ちの現金を新札に換えたいと言っているので、○○○○円を新デザインの新札で欲しいとうそを言った。
(D) 平成17年○月○日、私は、G社で本件担当行員から○○○○円を受け取り、そこから○○○○円を取り出して、残りは本件ロッカーに隠しておいた。
(E) 本件定期預金通帳と利息計算書は、通常であれば更新手続後に請求人に確認してもらっていたが、私は、請求人に無断で払戻請求書に本件届出印章を押印しており、請求人は、私が本件担当行員をだまして○○○○円を一部解約したとは知るはずもないので、本件社長室金庫の中に隠しておいた。
(ハ) Kは、V地方検察庁検察官に対し、要旨次のとおり供述した。
A 平成17年○月○日の更新手続
(A) 私は、請求人から本件定期預金1の更新手続を頼まれていたが、それは全額を定期更新する手続だけを頼まれていたのであり、その一部を現金で引き出す権限は与えられていなかった。
(B) 本件担当行員から受け取った○○○○円は、架空取引の代金、私の車の購入代金などに使ってしまった。
B 平成17年○月○日の更新手続
(A) 私は、請求人がいつも印章を入れているケースが本件社長室机の上に置いてあるのを見つけ、その中に入っていた本件届出印章と思われる印章を用いて払戻請求書に押印したが、本件届出印章を勝手に押印したのであり、押印する権限は私には与えられていなかった。
(B) 私は、請求人から○○○○円の現金を引き出すように頼まれていないし、お金を引き出す権限は与えられていなかった。
(C) 本件担当行員が持ってきてくれた○○○○円のうち、○○○○円はその日のうちに本件貸金庫に入れ、残りの○○○○円は架空取引の代金などに使った。
(ニ) 請求人は、Q県R警察署警察官に対し、要旨次のとおり供述した。
A 本件定期預金は、私の個人資金を3か月の定期預金として預けていたものである。
B 平成17年○月○日の更新手続
 私としては本件定期預金1を払い戻した金額に3か月分の利息を加えて預け入れるつもりでKに定期更新の手続をしてもらったつもりだった。
 また、私はKに○○○○円を引き出す指示をしておらず、Kが無断で○○○○円を引き出し着服した。
C 平成17年○月○日の更新手続
 私はKに○○○○円を引き出す指示をしておらず、Kが無断で○○○○円を引き出して着服した。
D 通常、本件定期預金の更新手続が終わったときには、本件定期預金通帳が本件社長室机の上に置いてあり、私が確認した後に本件社長室金庫に入れるが、平成17年○月と○月の時は本件定期預金通帳が本件社長室机の上に置いてなかったので私は確認していない。
(ホ) U高等裁判所は、本件判決において、請求人は平成17年○月、同年○月のいずれについても、本件定期預金を解約した一部について現金で払戻しを受けることにつきKに指示を与えておらず、本件定期預金の取引に関してKに個別的又は包括的に代理権を与えていたと認めることはできない旨判示している。
ハ 請求人が当審判所に提出した、Kが架空取引した商品の明細をとりまとめた書面、G社の総勘定元帳並びにKのQ県R警察署警察官及びV地方検察庁検察官に対する供述によれば、次の事実が認められる。
(イ) Kは、平成16年1月27日から同年10月29日までの間に、商品の売却代金として、○○○○円をG社に入金している。
(ロ) Kは、平成17年3月2日から同年4月12日までの間に、商品の売却代金として、○○○○円をG社に入金している。
ニ Kが本件貸金庫を開閉した別表3の番号7ないし13、16及び18ないし21の各日には、H銀行d支店のK名義の普通預金口座に現金の入金があり、当該入金の合計額は○○○○円である。
ホ Kの兄であるMが作成した平成17年11月7日付のN弁護士あての弁償金に関する報告書の写し、T社が同弁護士あてに送信した明細の写し及びKが所有していた商品等の物品目録の写しによれば、Kは、請求人に対する被害弁償に充てるため、1請求人側の弁護士から代物弁済に充てると通知されているKが所有していた商品等(○○○○円相当)のほか、被害弁償金として、2同人のブランド品などを処分した○○○○円、3同人が所有していた1以外の商品を処分した○○○○円を用意していることが認められる。

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(2) 判断

イ K及び請求人の供述について
 Kは、上記(1)のイの(ハ) 、(ニ) 、ロの(ロ)及び(ハ)のとおり供述し、請求人は、上記(1)のイの(ホ)及びロの(ニ)のとおり供述するところ、Kの供述については、上記(1)のロの(ハ)のBの(C)の本件担当行員が持ってきた○○○○円のうち○○○○円を本件貸金庫に入れた日は平成17年○月○日ではなく、別表3のとおり、同月○日と認められること、請求人の供述については、上記(1)のイの(ホ)のAのとおり、請求人はKに指示した金額、回数を覚えていないことなど、一部不正確、不明確な点は見受けられるものの、内容的には不自然な点はなく、主要な点で一致していることから、これらの供述内容を信用することができる。
ロ 盗難又は横領の事実について
(イ) 所得税法第72条第1項は、居住者又はその者と生計を一にする配偶者その他の親族の政令で定めるものの有する資産について、災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合には、その一定額をその者の総所得金額等から控除する旨規定しているところ、これは、資産について損失が生じた場合には担税力が減少することが一般的であることから所得控除を認めることとしたが、課税行政の明確性を確保し、かつ、納税者間の公平を図るために、対象者の範囲及び控除事由を限定的に規定したものであると解され、同項が規定する「盗難」や「横領」の概念について、所得税法に規定はなく、刑法上の窃盗罪にいう窃盗や横領罪にいう横領と同一のものと解するのが相当である。
 そして、盗難とは、占有者の意に反する第三者による財物の占有の移転であると解され、また、横領とは、自己の財物を占有する第三者によってその財物を不正に領得されることをいうものであり、委託者と受託者との間に委託信任関係があることを前提に、その物に関する占有を取得した受託者において、これをほしいままに処分するなど不法領得の意思を実現させたといえることが必要と解される。
(ロ) 本件貸金庫内の現金について
A 本件貸金庫内に現金が保管されていた事実を証するものは本件貸金庫メモのみであるが、本件貸金庫メモは、上記(1)のイの(イ)のとおり、Kの経理の前任者であるLが本件貸金庫内の保管現金の出金記録や残額等を記載し、Kに引き継がれたものであり、上記(1)のイの(ハ)のAないしCのKの供述によれば、本件貸金庫メモには、平成15年12月22日時点において本件貸金庫内に○○○○円の現金があったことを示す記載が認められるところ、Kは、1別表3のとおり、本件貸金庫を平成16年1月27日から同年12月1日までの間において延べ18日にわたり合計22回開閉していること、2上記(1)のイの(ニ)のB及びCのとおり、本件貸金庫から持ち出した現金を架空販売の代金としてG社に入金し、上記(1)のハの(イ)のとおり、同年1月27日から同年10月29日までの間にG社に入金された架空販売代金の額は○○○○円であること、3上記(1)のイの(ハ)のFのとおり、本件貸金庫から持ち出した現金をブランド品などの購入代金などに充てるため多額の現金を費消していること、さらに、上記(1)のニのとおり、Kが本件貸金庫を開閉した日に、合計○○○○円の現金がH銀行d支店のK名義の普通預金口座に入金されていることを併せ考えると、本件貸金庫には、本件貸金庫メモ記載のとおり、平成15年12月22日時点において○○○○円の現金が保管されていたものと推認することができる。
 また、上記(1)のイの(ホ)のCのとおり、本件貸金庫内の現金は請求人個人の現金と認められ、当審判所の調査によってもこれに反する事実は認められない。
B なお、前記1の(4)のハのとおり、請求人は、本件貸金庫に係る代理人としてKを登録し、同人に代理権を授与していることに加え、上記(1)のイの(ハ)のEのとおり、Kは、請求人から本件貸金庫を開閉するために必要となる本件鍵の保管を任されていたことによれば、Kは請求人から本件貸金庫内の現金を管理することを任されていたかのようにみえるが、上記(1)のイの(ニ) 、(ホ)のB及びEのとおり、Kが請求人の了解の下で本件貸金庫内の現金を持ち出して費消したことや請求人がKに対して本件貸金庫内の現金を自由に使わせていたことをうかがわせる事実は認められないから、請求人が本件貸金庫に関してKに任せていた内容は、請求人から指示された現金を銀行から持ってくる限りにおいて本件貸金庫を開閉する権限が認められていたものであり、本件貸金庫内の現金の管理権限は飽くまでも請求人にあり、Kにはなかったというべきである。
 そうすると、上記(1)のイの(ニ)のBないしDのとおり、Kが請求人に無断で本件貸金庫内の現金を持ち出したことは、Kが請求人の意に反して請求人の占有下にある本件貸金庫内の現金をKの占有に移転したものと認められるから、本件貸金庫内の現金に係る損失は、当該損失に係る刑事告訴又は被害の届出の有無にかかわらず、盗難によるものと判断するのが相当である。
(ハ) 本件定期預金1及び本件定期預金2の払戻金について
A 上記(1)のロの(イ)のBのとおり、本件定期預金の更新手続には、1本件定期預金通帳、2本件届出印章及び3払戻請求書が必要であるところ、本件定期預金を払い戻すために最も重要な本件届出印章は請求人自身が持ち歩き、上記(1)のロの(イ)のDのとおり、本件定期預金の通常の更新手続においては請求人が利率メモを確認した上で払戻請求書に本件届出印章を押印していたことからすれば、Kに本件定期預金の管理を任せていたとは認められない。
 さらに、Kは、上記(1)のロの(ハ)のAの(A)及びBの(B)のとおり、請求人から本件定期預金の更新手続を頼まれていたが、その一部を現金で引き出す権限は与えられていなかったこと、及び請求人は、上記(1)のロの(ニ)のB及びCのとおり、Kに本件定期預金1及び本件定期預金2の一部を現金で引き出す指示はしていないことに加え、上記(1)のロの(イ)のCのとおり、本件定期預金の一部を現金で引き出す場合には、預入書が必要となるところ、上記(1)のロの(イ)のE及びFのとおり、Kが請求人の氏名及び口座番号を無断で記入して預入書を作成していたことからみても、請求人がKに本件定期預金を払い戻して現金を引き出す権限を与えていたとは認められず、これは、上記(1)のロの(ホ)のとおり、本件判決において、請求人はKに対し本件定期預金に係る取引に関し包括的にも個別的にも代理権を授与していたとは認められない旨判示されていることにも沿うものである。
 そして、Kは、上記(1)のロの(ハ)のAの(B)及びBの(C)のとおり、本件担当行員から受け取った現金について、○○○○円を本件貸金庫に入れ、そのほかの現金を費消したことが認められる。
 そうすると、Kは、本件定期預金1及び本件定期預金2の更新手続に際し、不法領得の意思を有して、預入書等を作成して現金を引き出しこれを費消したものと認められるが、本件定期預金について、請求人とKとの間に横領の前提となる委託信任関係が認められないから、上記Kの行為は横領には当たらないと判断するのが相当である。
 したがって、本件定期預金1及び本件定期預金2の払戻金に係る損失は、横領によるものとは認められない。
B また、上記(1)のロの(イ)のE及びFのとおり、Kが本件担当行員から受け取った合計○○○○円は、請求人が預け入れた本件定期預金の一部が事実上払い戻されたものであるが、払い戻したH銀行が当該現金を直接占有していた事実は動かし難く、H銀行に対する一般債権者である請求人が当該現金を占有していたものとは認められない。
 そうすると、上記(1)のロの(イ)のE及びF並びに(ロ)のA及びBの(A)ないし(D)のとおり、Kが、請求人に無断で本件定期預金1及び本件定期預金2の一部を現金で払い戻したとしても、Kは請求人の財物の占有をその意に反して移転したとは認められないから、請求人の本件定期預金1及び本件定期預金2の払戻金に係る損失は、盗難によるものとも認められない。
C したがって、本件定期預金1及び本件定期預金2の払戻金に係る損失は、所得税法第72条第1項に規定する盗難又は横領によるものとは認められない。
ハ 雑損控除の適用年分及び雑損控除の対象となる損失の金額について
(イ) 基本通達72−6において準用する同通達51−7によれば、損失の金額から控除すべき損害賠償金等が確定していない場合には、当該損害賠償金等の見積額に基づき損失が生じた年分の確定申告に反映させることとしており、後日、当該損害賠償金等の確定額と見積額が異なった場合には、そ及してこれを訂正する旨定めているところ、この取扱いは、損害賠償金等の確定の有無にかかわらず、損失が生じた年分において雑損控除を適用すべきであることを定めたものであり、当審判所においても、相当と認められる。
 したがって、盗難又は横領による損失については、加害者から損害賠償金として回収することのできる金額が確定していない場合であっても、盗難又は横領による損失が生じた年分において雑損控除を適用するのが相当である。
(ロ) 平成17年分の雑損控除の対象となる本件貸金庫の現金に係る損失
A 請求人は、本件貸金庫内の現金の窃盗による損失は、平成16年分及び平成17年分のそれぞれの年分の損失額がいくらであるのか特定できないから、現金の窃盗による損失の事実が発覚した平成17年分の損失である旨主張する。
 しかしながら、雑損控除は、上記(イ)のとおり、損失が生じた年分において適用すべきであるから、この点に関する請求人の主張には理由がなく、平成17年分の雑損控除の対象となる損失は、平成17年中に本件貸金庫から持ち出された現金に係る損失のみであり、この点に関する当審判所の認定は次のとおりである。
B 上記ロの(ロ)のAのとおり、本件貸金庫には、平成15年12月22日時点において、現金○○○○円が保管されていたものと推認されるが、Kは、本件貸金庫内の現金について、Q県R警察署警察官に対して、上記(1)のイの(ハ)のDのとおり、平成16年12月1日時点で○○○○円くらいしか残っていなかった旨供述し、V地方検察庁検察官に対しては、上記(1)のイの(ニ)のDのとおり、同年12月末ころには○○○○円か○○○○円くらいに減っていたと供述しており、当審判所に対しては、上記(1)のイの(ヘ)のCのとおり、平成17年1月1日において、本件貸金庫内には少なくとも○○○○円は用意してあった旨答述している。
 ところで、Kは、上記(1)のイの(ヘ)のBのとおり、請求人からはおおむね2か月に1度○○万円単位で現金の引き出しの指示があり、前回の出金の指示が平成16年12月だったから、平成17年1月1日において、おそらく平成17年の1月か2月には現金の引き出しの指示があることに備えて本件貸金庫又は本件ロッカーに少なくとも○○○○円の現金は残してあった旨答述しているところ、上記(1)のイの(ハ)のC及び(ヘ)のEのとおり、Kが記載した本件貸金庫メモの「残○○→16.2/12 ○○」、「○○→16.5/7 ○○」及び「○○→16.12/1 ○○」によれば、請求人からおおむね2か月に1度現金の引き出しの指示があったとは認められないものの、○○万円単位で現金の引き出しの指示があったことが認められ、Kが請求人の引き出しの指示に備えて少なくとも本件貸金庫又は本件ロッカーに○○○○円は残してあった旨の答述を信用することができる。
 また、本件貸金庫は、平成16年12月2日から平成17年○月○日までの間においては、別表3のとおり、同年1月18日及び同年○月○日にKによって開閉され、同年○月○日に請求人によって開閉されていることが認められ、それ以外には本件貸金庫が開閉された事実は認められないことからすれば、上記(1)のロの(ハ)のBの(C)のKが同年○月○日に本件担当行員から受け取った○○○○円のうち○○○○円の現金を本件貸金庫に入れた日は同月○日であり、上記(1)のイの(ホ)のDの請求人が本件貸金庫を開けて新札の現金が○○○○円しか入っていなかったことを確認した日は同年○月○日であることが認められる。
 そうすると、本件貸金庫には、平成17年1月19日から同年○月○日までの間において現金が保管されていなかったと判断するのが相当である。
 これに、Kが平成17年1月18日に本件貸金庫を開閉している事実を併せ考えると、Kは、上記(1)のイの(ヘ)のDの当審判所に対する答述のとおり、本件貸金庫にあった現金○○○○円を、同日、持ち出したと判断するのが相当である。
 以上のことから、本件貸金庫には平成17年1月1日現在○○○○円の現金が保管され、同月18日にKが本件貸金庫から当該現金を持ち出したものと認められる。
 したがって、平成17年分の雑損控除の対象となる本件貸金庫の現金に係る損失額は、Kが平成17年中に本件貸金庫から持ち出した現金○○○○円となる。
(ハ) 雑損控除の対象となる損失の金額
 上記(1)のホのとおり、Kは、請求人に対する被害弁償に充てるための被害弁償金(以下「本件弁償見積金」という。)○○○○円相当を準備していることが認められるところ、本件弁償見積金は、Kが平成16年から平成17年にわたり本件貸金庫から持ち出した現金、並びに平成17年○月○日及び同年○月○日に本件定期預金を請求人に無断で払い戻して費消した現金、つまり請求人が被った損失全体に対する弁償金と認められる。
 ところで、本件のように複数年分にわたり損失が生じ、さらに、雑損控除の対象となる盗難による損失と雑損控除の対象とは認められない損失がある場合に、それぞれの損失に対する損害賠償見積額をいかにして見積もるかについては税法上定めがないことから、一般法である民法を準用するのが相当であり、民法第489条《法定充当》は、弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも同法第488条《弁済の充当の指定》の規定による弁済の充当の指定をしないときにおいて、債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する旨規定している。
 したがって、本件においては、請求人及びKはいずれも本件弁償見積金をいずれの損失に充当するかを指定した事実は認められず、請求人がKから被った損失のうち、平成16年中にKが本件貸金庫から持ち出したと見込まれる現金の損失が請求人に対する債務として先に発生したものといえることからすれば、これを先に弁済するのが相当である。
 そうすると、上記ロの(ロ)のAのとおり、平成15年12月22日には現金残高が○○○○円と推認され、上記(ロ)のBのとおり、平成17年1月1日には現金残高が○○○○円と認定したのであるから、その差額程度は平成16年分に現金の損失があったと見込まれるため、本件弁償見積金○○○○円相当は、平成16年分の現金の損失額に対する損害賠償債務にすべて充当され、平成17年分においては損害賠償金の見積額は算出されないので、平成17年分の雑損控除の対象となる損失の金額は○○○○円となる。

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(3) 本件更正処分について

イ 総所得金額及び株式等の譲渡所得の金額
 請求人の総所得金額及び株式等の譲渡所得の金額については、当事者間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても相当と認められることから、総所得金額は○○○○円、株式等の譲渡所得の金額は○○○○円となる。
ロ 所得金額から差し引かれる金額
(イ) 雑損控除の額は、上記(2)のハの(ハ)のとおり、雑損控除の対象となる損失の金額○○○○円から、上記イの総所得金額○○○○円及び株式等の譲渡所得の金額○○○○円の合計額○○○○円に10分の1を乗じた額○○○○円を差し引いた金額である○○○○円となる。
(ロ) 雑損控除以外の所得金額から差し引かれる金額は、請求人が平成17年分確定申告書に添付したG社が発行した源泉徴収票記載のとおり、社会保険料控除の額○○○○円、扶養控除の額○○○○円及び基礎控除の額○○○○円の合計額○○○○円となる。
(ハ) したがって、所得金額から差し引かれる金額は、○○○○円となる。
ハ 上記イ及びロに基づいて、平成17年分の納付すべき税額を計算すると、○○○○円となり、この額は本件更正処分の納付すべき税額○○○○円を下回るから、本件更正処分は、その一部を取り消すべきである。

(4) 本件賦課決定処分について

 上記(3)のハのとおり、請求人の平成17年分の納付すべき税額は○○○○円であるから、平成17年分の過少申告加算税の基礎となる税額は、○○○○円となる。
 また、この税額の計算の基礎となった事実には、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められない。
 したがって、平成17年分の過少申告加算税の額は、○○○○円となり、この額は本件賦課決定処分の額○○○○円を下回るから、本件賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。

(5) 平成17年分通知処分について

 請求人は、前記1の(4)のヲのとおり、平成17年分更正請求書において、本件判決を理由に、本件定期預金の一部がKによって引き出されたことによる損失を雑損控除の対象とするよう求めるが、平成17年分の雑損控除の額は、上記(3)のロの(イ)のとおり、○○○○円、請求人の平成17年分の納付すべき税額は、上記(3)のハのとおり、○○○○円であり、平成17年分更正請求書の還付金の額に相当する税額○○○○円を上回るから、本件判決が通則法第23条第2項第1号に規定する判決に当たるか否かを判断するまでもなく、平成17年分通知処分は適法である。

(6) 平成18年分通知処分について

 請求人は、平成18年分更正請求書において、平成17年から繰り越された雑損失の金額が○○○○円となることを理由に、平成18年分の総所得金額から雑損失の繰越控除額○○○○円を控除するよう求めるが、上記(3)のロのとおり、平成17年分の雑損控除の額は○○○○円であり、この額は平成17年分の所得金額から差し引かれているから、平成18年分に繰り越す雑損失の金額は生じない。
 したがって、平成18年分通知処分は適法である。

(7) 原処分のその他の部分については、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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