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(平20.9.16、裁決事例集No.76 258頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、不動産所得を青色以外の確定申告書により申告していた審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成18年10月に再生資源回収業を開始したとして、青色申告の承認申請書を平成18年11月に提出し、平成18年分の所得税について、青色の確定申告書により申告したところ、原処分庁が、請求人は新たに業務を開始したことにならず、当該承認申請書は法定の提出期限を徒過して提出されているので、平成18年分からの青色申告は認められないとして、所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該承認申請書は法定の提出期限内に提出されたものであり、さらに、原処分庁はこれに対する却下の処分を書面により通知していないから青色申告の承認があったものとみなされるとして、上記各処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成18年分の所得税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した(以下、この確定申告を「本件確定申告」という。)。
ロ 原処分庁は、平成19年7月6日付で別表の「更正処分及び賦課決定処分」欄のとおり、平成18年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、上記ロの各処分を不服として、平成19年9月3日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月27日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成19年12月26日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

イ 所得税法第26条《不動産所得》第1項は、不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機の貸付けによる所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう旨規定し、同条第2項は、不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする旨規定している。
ロ 所得税法第37条《必要経費》第1項は、その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする旨規定している。
ハ 所得税法第143条《青色申告》は、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務を行う居住者は、納税地の所轄税務署長の承認を受けた場合には、確定申告書を青色の申告書により提出することができる旨規定している。
ニ 所得税法第144条《青色申告の承認の申請》は、その年分以後の各年分の所得税につき青色申告の承認を受けようとする居住者は、その年の3月15日まで(その年1月16日以後新たに同法第143条に規定する業務を開始した場合には、その業務を開始した日から2か月以内)に、当該業務に係る所得の種類その他財務省令で定める事項を記載した申請書(以下「青色申告承認申請書」という。)を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない旨規定している。
ホ 所得税法第146条《青色申告の承認等の通知》は、税務署長は、青色申告承認申請書の提出があった場合において、その申請につき承認又は却下の処分をするときは、その申請をした居住者に対し、書面によりその旨を通知する旨規定している。
ヘ 所得税法第147条《青色申告の承認があったものとみなす場合》は、青色申告承認申請書の提出があった場合において、その年分以後の各年分の所得税につき青色申告の承認を受けようとする年の12月31日(その年11月1日以後新たに業務を開始した場合には、その年の翌年2月15日)までにその申請につき承認又は却下の処分がなかったときは、その日においてその承認があったものとみなす旨規定している(以下、本条を「みなし承認の規定」といい、みなし承認の規定に基づく青色申告の承認を「みなし承認」という。)。
ト 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項は、同条第1項又は第2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として計算した金額を控除して、これらの項の規定を適用する旨規定している。
チ 「申告所得税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)」(平成12年7月3日付課所4−16ほか3課共同、国税庁長官通達。以下「本件事務運営指針」という。)第1の1は、通則法第65条の規定の適用に当たり、納税者の責めに帰すべき事由のない次のような事実は、同条第4項に規定する正当な理由があると認められる事実として取り扱う旨定め、その(3)において、当該事実の例として「法定申告期限の経過の時以後に生じた事情により青色申告の承認が取り消されたことで、青色事業専従者給与、青色申告特別控除などが認められないこととなったこと」と定めている。

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(4) 基礎事実

イ 請求人は、平成18年11月29日、原処分庁に対し、要旨次のとおり記載した青色申告承認申請書を提出した(以下、この申請書を「本件承認申請書」といい、本件承認申請書による申請を「本件承認申請」という。)。
(イ) 職業 再生資源回収業
(ロ) 適用開始年分 平成18年分
(ハ) 所得の種類 事業所得
(ニ) 本年1月16日以後に新たに業務を開始した場合の年月日 平成18年10月1日
ロ 原処分庁は、請求人に対し、平成18年12月31日までに、本件承認申請についての承認又は却下の処分を書面により通知していない。
ハ 請求人は、自らが所有するP市q町○○番地所在のマンションの1室(以下「本件不動産」という。)を、D社に対し月額110,000円又は105,000円の賃貸料で平成13年12月から平成16年8月まで、また、Eに対し月額115,000円の賃貸料で平成16年10月から平成18年12月まで貸し付けている。

2 争点

(1) 争点1 平成18年分の所得税について、青色申告が認められるか否か。

(2) 争点2 本件確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。

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3 主張及び判断

(1) 争点1 平成18年分の所得税について、青色申告が認められるか否か。

イ 主張
(イ) 原処分庁
 次のことから、平成18年分の所得税について、青色申告は認められない。
A 本件承認申請書は、次のことから、法定の提出期限内に提出された申請書ではない。
(A) 所得税法第143条に規定する「不動産所得を生ずべき業務を行う居住者」とは、所得税基本通達143−1において、不動産所得の基因となる資産を貸し付けている居住者をいうことに留意する旨定めているところ、「業務」の定義については、所得税法上明文の規定はないものの、業務とはその所得を生ずる起因となった行為ないし経済的事実をいうと解されており、本件不動産の貸付けは、不動産所得の基因となる資産の貸付けに係る業務に該当する。
(B) 請求人は、平成17年分以前から既に不動産所得の基因となる資産の貸付業務を行っているから、再生資源回収業に係る個人事業の開始は業務の追加であり、所得税法第144条のかっこ書に規定する「新たに業務を開始した場合」に該当しない。
B 法定の提出期限に関する定めは、青色申告の承認の申請の適法要件であって単なる訓示期間を定めたものではないから、みなし承認の規定によって青色申告の承認があったものと擬制されるのは、その申請が法定の提出期限までに行われた場合に限られるから、本件承認申請について、所得税法第147条に規定する青色申告の承認があったものとみなす場合には当たらない。
(ロ) 請求人
 次のことから、平成18年分の所得税について、青色申告が認められる。
A 本件承認申請書は、次のことから、法定の提出期限内に提出された申請書である。
(A) 所得税法第143条は、青色申告ができる者として、不動産所得、事業所得又は山林所得を有する者のうち、「業務と認められるような行為を行う居住者」を特定しているのであり、「業務」とは「営業・商売をいう」のが一般的常識である。
 所得税基本通達143−1の定めは、事業的規模に満たない不動産の貸付けであっても所得税法第143条に規定する「業務」に当たる旨を留意的に示したものであり、すべての不動産貸付けを業務と解する旨定めたものではない。
(B) 本件不動産は、貸し付けることを目的として取得した物件ではなく、請求人が本件不動産に居住することができない特別な事情が生じたため、やむを得ず他人に貸し付けているものであり、当初から利益の発生は期待できない貸付行為であるから、本件不動産の貸付けは、所得税法第143条に規定する「業務」に該当せず、所得税基本通達143−1に定める不動産所得の基因となる資産の貸付けにも該当しない。
(C) したがって、請求人が平成18年10月1日に開始した再生資源回収業に係る個人事業は、所得税法第144条に規定する「新たに業務を開始した場合」に該当する。
B 本件承認申請について、平成18年12月31日までに原処分庁から承認又は却下の通知がなかったのであるから、みなし承認の規定により青色申告の承認があったものとみなされる。
ロ 判断
(イ) 所得税法第143条に規定する「不動産所得を生ずべき業務」について
A 所得税法第143条は、前記1の(3)のハのとおり、納税地の所轄税務署長の承認を受け、確定申告書を青色の申告書により提出することができる居住者は、不動産所得又は事業所得を生ずべき業務を行う居住者と規定しているものの、一方で、同法は「業務」の意義自体について、一般的な定義規定を置いていない。
 ところで、所得税法第26条第1項及び第2項は、前記1の(3)のイのとおり、不動産所得とは不動産の貸付けによる所得と、また、不動産所得の金額はその年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額と、それぞれ規定している。そして、所得税法第37条第1項は、前記1の(3)のロのとおり、その年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、不動産所得に係る総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における不動産所得を生ずべき業務について生じた費用の額と規定している。
 そうすると、所得税法第26条第2項は、不動産の貸付けによる所得の金額はその年中の不動産の貸付けに係る総収入金額から不動産の貸付けに係る総収入金額を得るために直接に要した費用の額及びその年中における不動産の貸付けによる所得を生ずべき業務について生じた費用の額を控除した金額と規定していることになり、所得税法における「不動産所得を生ずべき業務」とは、不動産の貸付けによる所得を生ずべき業務、すなわち、不動産の貸付けをいうものと解するのが相当であって、このほかに、同法には「不動産所得を生ずべき業務」に該当しない不動産の貸付けが存することをうかがわせる規定はない。
 また、所得税法第26条第1項は、前記1の(3)のイのとおり、不動産所得は不動産の貸付けによる所得とのみ規定し、同法には不動産の貸付けに至った事情又はその利益の有無によって、所得の種類等が左右されるとする規定もない。
B したがって、請求人は、前記1の(4)のハのとおり、本件不動産を貸し付けており、仮に、請求人が主張するとおり、本件不動産の貸付けが当初から利益の発生が期待できない貸付行為であったとしても、上記Aによれば、本件不動産の貸付けは、所得税法第143条に規定する「不動産所得を生ずべき業務」に該当するというべきである。
(ロ) 本件承認申請書の法定の提出期限について
A 所得税法第144条は、前記1の(3)のニのとおり、各年分の所得税につき青色申告の承認を受けようとする場合の青色申告承認申請書の法定の提出期限は、その年の3月15日としており、例外的にその年の1月16日以後新たに不動産所得又は事業所得を生ずべき業務を開始した者がその年分の青色申告の承認を受けようとする場合の青色申告承認申請書の法定の提出期限は、その業務を開始した日から2か月以内と規定している。
B これを本件についてみると、本件不動産の貸付けは、上記(イ)のBのとおり、所得税法第143条に規定する「不動産所得を生ずべき業務」に該当し、請求人は、前記1の(4)のハのとおり、平成13年12月から引き続き本件不動産を貸し付けていたことからすれば、請求人が平成18年10月1日に再生資源回収業という個人事業を開始した時点では、既に請求人は、不動産所得を生ずべき業務を行っていたのであるから、同法第144条に規定するその年の1月16日以後新たに不動産所得又は事業所得を生ずべき業務を開始した者とは認められない。
 したがって、本件承認申請書の法定の提出期限は、平成18年3月15日である。
(ハ) みなし承認について
A 所得税法第144条に規定する法定の提出期限は、青色申告の承認の申請の適法要件であるので、同法第146条及び第147条において青色申告承認申請書の提出があった場合とは、青色申告承認申請書が法定の提出期限内に提出された場合を前提にしていると解するのが相当であり、青色申告承認申請書の提出が法定の提出期限に遅れた場合には、同法第146条及び第147条の適用の余地はない。
B したがって、前記1の(4)のイのとおり、平成18年11月29日に提出された本件承認申請書は、上記(ロ)のBにより、その法定の提出期限である同年3月15日までに提出されていないから、本件承認申請について、みなし承認の規定の適用は認められない。
(ニ) 以上のとおり、平成18年分の所得税について、青色申告は認められないから、平成18年分の青色申告が認められないことを理由にされた平成18年分の所得税の更正処分は適法である。

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(2) 争点2 本件確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。

イ 主張
(イ) 請求人
 本件事務運営指針の第1の1の(3)に定める「法定申告期限の経過の時以後に生じた事由により青色申告の承認が取り消されたことで、青色事業専従者給与、青色申告特別控除などが認められないこととなった」ときには、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとして、過少申告加算税を賦課しないとした取扱いに準じて解釈すれば、請求人がみなし承認があったものとして、本件確定申告をしたことは「正当な理由」に該当する。
(ロ) 原処分庁
 原処分庁所属の内部事務担当職員が請求人の関与税理士であるD税理士に対し、法定申告期限前に再三にわたり、平成18年分の所得税について、請求人の青色申告は認められない旨説明しているにもかかわらず、請求人がみなし承認があったものとして本件確定申告をしたのであるから、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」に該当しない。
ロ 判断
(イ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、原処分庁所属の職員は、平成18年12月26日、同年12月27日、平成19年2月28日及び同年3月5日の4回にわたり、D税理士に対して、請求人の所得税について、本件承認申請が認められない旨及びその理由を説明したことが認められる。
(ロ) 通則法第65条第1項に規定する過少申告加算税は、申告納税方式による国税に関して、当初から適正な申告をした者とこれを怠った者との間に生ずる不公平を是正するとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、申告秩序の維持を図るための措置として課されるものである。
 したがって、過少申告加算税は、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課される性質のものと解され、また、過少申告加算税を課されない場合である通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」がある場合とは、過少に税額を申告したことが納税者の責めに帰することができない客観的な障害に基因する場合など、その申告が真にやむを得ない理由によるものであり、納税者に過少申告加算税を課すことが不当又は酷となる場合を意味するものであって、その過少申告が納税者の税法の不知又は法令解釈の誤解・見解の相違であるとか、納税者の主観的な事情に基づくような場合までを含むものではないと解される。
(ハ) これを本件についてみると、上記(1)のロの(ニ)のとおり、平成18年分の所得税について、青色申告は認められず、また、本件確定申告は、上記(イ)のとおり、原処分庁所属の職員がD税理士に本件承認申請が認められない旨及びその理由を説明しているにもかかわらず、請求人がみなし承認があったものとして申告したものであり、本件確定申告が過少申告になったことは、納税者の法令解釈の誤解・見解の相違に基づくものと認められるから、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
 なお、請求人は、本件事務運営指針の第1の1の(3)の取扱いに準じて解釈すれば、請求人がみなし承認があったものとして本件確定申告をしたことは「正当な理由」に該当する旨主張するが、当該取扱いは法定申告期限の経過の時以後に生じた事情により青色申告の承認が取り消された場合の定めであるから、上記(1)のロの(ニ)のとおり、当初から青色申告が承認されたとは認められない本件においては、当該取扱いに準ずることは相当ではない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(ニ) 以上のとおり、本件確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められないから、平成18年分の所得税に係る過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3) 原処分のその他の部分については、当審判所の調査によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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