ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.76 >> (平20.8.11、裁決事例集No.76 583頁)

(平20.8.11、裁決事例集No.76 583頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)が所有する賃貸不動産の取得資金は、納税者J、同K及び同L(以下、これら3名を併せて「Jら」という。)並びに、Jらが納付すべき相続税についての連帯納付義務者であるM(以下、Jらと併せて「Mら」という。)からの無償譲渡等の処分によるものであるとして、第二次納税義務の納付告知処分等を行ったのに対し、請求人が、当該取得資金は借入れによるものであるから無償譲渡等の処分によるものではないなどと主張して、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、Jらの別表1記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)及び本件滞納国税についてのMの連帯納付義務を徴収するため、請求人に対し、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》の規定により第二次納税義務を負うとして、同法第32条《第二次納税義務の通則》第1項の規定に基づき、別表2のとおり、第二次納税義務の納付告知処分(以下「本件告知処分」という。)をした上、本件告知処分により納付すべき税額の納付がないため、納付催告書を送付して督促処分(以下「本件督促処分」という。)をした後、別表3記載の各不動産についての差押処分(以下「本件各差押処分」という。)をした。
ロ 請求人は、本件告知処分、本件督促処分及び本件各差押処分を不服として、別表2のとおり、平成18年3月30日、同年4月28日及び同年5月12日にそれぞれ異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月26日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、上記異議決定を経た後の本件告知処分、本件督促処分及び本件各差押処分に不服があるとして、平成18年6月23日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙1のとおりである。

トップに戻る

(4) 基礎事実

イ Mらは、平成3年1月○日に死亡したNに係る相続(以下「本件相続」という。)の共同相続人であり、本件相続開始に係る相続税について、納付すべき税額が、Mは○○○○円、Jは○○○○円、Kは○○○○円、Lは○○○○円と記載した申告書を法定申告期限までにS税務署長に提出した。
なお、NとMらの関係は、別紙2のとおりである。
ロ Jらは、S税務署長に対し、平成3年7月17日に、それぞれが納付すべき相続税額のうち、Jは○○○○円、Kは○○○○円、Lは○○○○円について延納申請を行い、平成4年6月30日付でそれぞれ申請どおりの延納許可を受けた。
ハ しかし、Jらは、上記延納許可を受けた相続税について、その分納期限が平成4年7月22日である第1回分から滞納し、その後、相続税延納条件変更の許可を受けたものの、変更後の延納条件どおりの納付を全く履行しなかったため、S税務署長は、Kについては平成8年9月19日付で、上記の延納許可を取り消した。
なお、J及びLが許可を受けた延納の回数は、5回(5年間)であり、延納許可の取消しはされなかったが、そのいずれもが別表1記載のとおり、履行されていない。
ニ 原処分庁は、国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、平成8年7月31日から同年10月22日にかけて、滞納となっていたJらが納付すべき相続税(本件滞納国税)について、S税務署長から徴収の引継ぎを受けた。また、この徴収の引継ぎにより、本件滞納国税についてのMの連帯納付義務の徴収の所轄庁も原処分庁となった。

(5) 争点

争点1

本件告知処分の手続に違法があるか否か。
また、本件告知処分に係る第二次納税義務の徴収権の消滅時効が成立しているか否か。


争点2

無償譲渡等の処分が存するか否か。


争点3

本件各差押処分は徴収法第48条《超過差押及び無益な差押の禁止》第2項にいう無益な差押えに該当するか否か。


2 主張

 当事者の主張は、別紙3のとおりである。

トップに戻る

3 判断

(1) 争点1について

イ 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) S税務署長は、Jらに対し、滞納となった上記延納許可に係る第1回分の相続税について、平成4年8月24日付の督促状により督促を行い、同第2回目以降の相続税については、Kに対しては平成8年7月25日付、平成8年8月21日付及び平成8年10月4日付の督促状により、また、J及びLに対しては平成8年8月21日付の督促状により督促を行った。
(ロ) 原処分庁は、平成8年12月20日付で、本件滞納国税を徴収するため、延納担保物件であったP市p町○番地に所在する家屋番号○番の建物(hホテルの建物)について、差押え及び参加差押えを行った。
(ハ) 原処分庁は、1本件滞納国税の納税者(本件滞納国税の納税者に本件滞納国税についての連帯納付義務者が含まれることは、後記ロの(ハ)のとおりである。)の氏名及び住所、2本件滞納国税の年度、税目、納期限及び金額、3本件滞納国税の金額のうち請求人から徴収しようとする金額並びにその納付の期限及び場所、4請求人につき適用すべき第二次納税義務に関する規定を記載した平成18年2月2日付の納付通知書(以下「本件納付通知書」という。)を請求人に送付して、本件告知処分を行った。
ロ 法令解釈
(イ) 徴収法第32条第1項は、「税務署長は、納税者の国税を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、政令で定めるところにより、徴収しようとする金額、納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知しなければならない。」と規定し、国税徴収法施行令第11条《第二次納税義務者に対する納付通知書等の記載事項》第1項は、「徴収法第32条第1項に規定する納付通知書には、1納税者の氏名及び住所又は居所、2滞納に係る国税の年度、税目、納期限及び金額、3滞納に係る国税の金額のうち第二次納税義務者から徴収しようとする金額並びにその納付の期限及び場所、4その者につき適用すべき第二次納税義務に関する規定を記載しなければならない。」と規定するにとどまるのであって、第二次納税義務の告知処分の理由を記載すべきことを定めた明文の規定は存しない。
また、徴収法の定める第二次納税義務は、納付すべき税額が確定した主たる納税義務につき、本来の納税者の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に、本来の納税者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別の関係にある第三者に対し、主たる納税義務についての履行責任を補充的に負わせるものであり、同法第33条《無限責任社員の第二次納税義務》ないし第41条《人格のない社団等に係る第二次納税義務》において、それぞれの第二次納税義務の要件を定めていることからすれば、国税徴収法施行令第11条第1項に規定する事項が納付通知書に記載されていれば、第二次納税義務者は第二次納税義務の納付告知処分の理由を理解できるものと考えられる。
したがって、国税徴収法施行令第11条第1項に規定する事項以外に、第二次納税義務の納付告知処分の理由が納付通知書に記載されていないとしても、そのことをもって理由不備の違法があるということはできないと解される。
(ロ) 会計法第30条は、金銭の給付を目的とする国の権利で、時効に関し他の法律に規定がないものは、5年間これを行わないときは、時効により消滅する旨規定しているが、金銭の給付を目的とする国の権利である国税の徴収権の時効については、通則法第72条《国税の徴収権の消滅時効》及び第73条《時効の中断及び停止》において規定している。
したがって、国税の徴収権の時効については、通則法がもっぱら適用され、会計法が適用されることはないと解される。
(ハ) 相続税法第34条《連帯納付の義務》第1項は、同一の被相続人から相続又は遺贈によって財産を取得したすべての者は、その相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として互いに連帯納付の責に任ずる旨規定している。
この連帯納付義務は、相続税法が、相続税徴収の確保を図るために、相互に各相続人等に課した特別の責任であり、本来の納税義務者が負う納付義務とこれについて他の相続人が負う連帯納付義務との関係は、主たる債務と連帯保証債務との関係に類似し、連帯納付義務は、本来の納税義務に対して附従性を有すると解される。
したがって、本来の納税義務についての時効中断の効力は、連帯納付義務についても及ぶと解するのが相当である。
また、徴収法第2条《定義》第6号は、国税に関する法律の規定により国税を納付する義務がある者を納税者という旨規定しているところ、相続税法第34条第1項の規定により連帯納付義務を負う者は、同項の規定により、他の相続人等の固有の相続税について、当該相続人等と連帯して納付する義務を負うのであるから、徴収法にいう「納税者」に当たると解される。
(ニ) 徴収法が定める第二次納税義務は、上記(イ)のとおり、納付すべき税額が確定した主たる納税義務につき、本来の納税者の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に、本来の納税者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別の関係にある第三者に対し、主たる納税義務についての履行責任を補充的に負わせるものにほかならず、この意味において、第二次納税義務の納付告知処分は、確定した主たる納税義務についての徴収手続上の一処分としての性格を有するものであるから、第二次納税義務は主たる納税義務と運命をともにするものと解するのが相当であり、第二次納税義務の時効が主たる納税義務の時効と別個独立に進行することはなく、主たる納税義務が発生し存続する限り、必要に応じいつでも第二次納税義務を課すことができるものと解される。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) 上記ロの(イ)のとおり、徴収法第32条第1項は、「税務署長は、納税者の国税を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、政令で定めるところにより、徴収しようとする金額、納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知しなければならない。」と規定し、国税徴収法施行令第11条第1項は、「徴収法第32条第1項に規定する納付通知書には、1納税者の氏名及び住所又は居所、2滞納に係る国税の年度、税目、納期限及び金額、3滞納に係る国税の金額のうち第二次納税義務者から徴収しようとする金額並びにその納付の期限及び場所、4その者につき適用すべき第二次納税義務に関する規定を記載しなければならない。」と規定しているところ、原処分庁は、上記イの(ハ)のとおり、本件納付通知書に、1本件滞納国税の納税者であるMら(本件滞納国税について連帯納付義務を負うMが徴収法上の納税者に含まれることは、上記ロの(ハ)のとおりである。)の氏名及び住所、2本件滞納国税の年度、税目、納期限及び金額、3本件滞納国税の金額のうち請求人から徴収しようとする金額並びにその納付の期限及び場所、4請求人につき適用すべき第二次納税義務に関する規定を記載して本件告知処分を行っており、国税徴収法施行令第11条が規定する事項をすべて記載しているのであるから、本件告知処分の手続は適法に行われていると認められる。
(ロ) なお、請求人は、本件納付通知書には処分理由が付記されていないから、本件告知処分の手続に違法があると主張するが、上記ロの(イ)のとおり、第二次納税義務の納付通知書に国税徴収法施行令第11条が規定する事項以外に処分理由が記載されていないとしても、そのことをもって理由不備の違法があるとはいえないと解されるのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ) また、請求人は、本件告知処分に係る第二次納税義務の徴収権の消滅時効が成立していることから、本件告知処分は無効であり、無効な本件告知処分に続く本件督促処分及び本件各差押処分も無効である旨主張するので、この点について判断する。
第二次納税義務については、上記ロの(ニ)のとおり、第二次納税義務の時効が主たる納税義務の時効と別個独立に進行し、完成することはなく、主たる納税義務が発生し存続する限り、必要に応じいつでも第二次納税義務を課すことができるものと解されるとともに、国税の徴収権の時効については、上記ロの(ロ)のとおり、通則法がもっぱら適用され、会計法が適用されることはないと解されるのであるから、仮に、徴収法第39条の無償譲渡等の処分が行われたときから5年が経過したとしても、主たる納税義務が存続している限り、第二次納税義務がこれと別個独立に時効により消滅することはなく、必要に応じいつでも第二次納税義務の告知処分を行うことができると解される。
相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務についても、上記ロの(ハ)のとおり、本来の納税義務についての時効中断の効力が連帯納付義務に及ぶと解するのが相当であるから、本来の納税義務が時効によって消滅しない限り、連帯納付義務が消滅することはないと解するのが相当である。
これを本件についてみると、本件滞納国税についての徴収権の消滅時効は、その納期限の翌日から進行を開始したが、上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、その消滅時効が完成する前に督促が行われているとともに、平成8年12月20日付で延納担保物件であるhホテルの建物についての差押処分及び参加差押処分が行われているのであるから、本件滞納国税の徴収権の消滅時効は中断している。
また、上記ロの(ハ)のとおり、本来の納税義務者の納付義務についての時効中断の効力は、連帯納付義務についても及ぶと解されるところ、上記のとおり、本件滞納国税についての徴収権の消滅時効は中断していることから、本件滞納国税についてのMの連帯納付義務についても徴収権の消滅時効は完成していない。
そして、上記ロの(ニ)のとおり、第二次納税義務の時効が主たる納税義務の時効と別個独立に進行することはなく、主たる納税義務が発生し存続する限り、必要に応じ第二次納税義務の告知処分を行うことができるものと解されるところ、本件滞納国税及び本件滞納国税についてのMの連帯納付義務は存続していると認められるのであるから、本件告知処分に係る第二次納税義務の徴収権の消滅時効が完成しているとはいえない。
したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ) なお、請求人は、Mらは、平成3年の相続以来、多額の滞納をかかえ納税できずに現在に至っており、hホテルの建物の公売を最後に、一連のNの相続に関する滞納処分を終結してもらいたいとも主張するが、この主張は、滞納処分についての原処分庁に対する要望というべきものであるから、当審判所の審理の限りでない。

トップに戻る

(2) 争点2について

イ 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人の、平成6年4月1日から平成7年3月31日までの事業年度(以下、請求人の各事業年度について、順次「平成7年3月期」のようにいう。)ないし平成17年3月期の法人税の確定申告書に添付されている「借入金及び支払利子の内訳書」には、金融機関以外からの借入金の期末現在高が別表4のとおり記載されている。
(ロ) 請求人は、別表5の番号1の営業権並びに同番号9及び10の不動産を、同表の「契約年月日」欄記載の日付で、同表の「譲渡価額」欄記載の金額により譲渡し、また、Mらは、同表の番号2ないし8の不動産を、同表の「契約年月日」欄記載の日付で、同表の「譲渡価額」欄記載の金額により譲渡した。
なお、別表5の番号2の物件等の売主代理人は請求人であり、同物件は同表の番号1の営業権とともに同表の買主からT社を経由してk社へ転売された。
(ハ) 請求人は、m社との間で、別表3の番号1ないし4の物件(以下「本件テナントビル」という。)を売買により○○○○円で取得する旨の不動産売買契約を平成8年1月○日付で締結し、同物件については、同日付で、売買を原因とするm社から請求人への所有権移転登記が経由されている。
(ニ) Nのa国在住の相続人であるUとM、J及びKとの間における平成7年9月30日付合意書には、Uは金○○○○円の受取りと引替えに日本国内の相続財産を相続する一切の権利を放棄する旨記載されている。
(ホ) 請求人の会計担当の取締役であるKは、当審判所に対して、次のAないしDは個人の立場として、また、次のEないしGは請求人の取締役の立場として、要旨次のとおり答述した。
A Mらは、請求人の運営する法人の事業(ホテル業及び不動産賃貸業)継続及び社員の生計維持並びに経営の安定化のため、請求人が本件テナントビルを購入することが必要と認めていた。そして、その購入資金に別表5の番号2ないし4及び同番号6ないし8に記載する不動産の譲渡代金を充てるため、平成8年1月ころに当該不動産を譲渡した。なお、その契約に当たっては、各相続人の同意を得られていたと思う。また、当時の取引について、別表5の各不動産の売買契約書を作成したと記憶しているが、当時の書類は一切保存していない。
これらの不動産の譲渡は、別表5の番号1のQ市q町のjホテルの営業権並びに同番号9及び10の物件とともにm社に譲渡するというものであり、替わりにm社が所有していた別表3の番号1ないし4のQ市r町の本件テナントビルを請求人が取得するという交換である。
交換というのは、当時、取引の状況が複雑になり、金銭のやり取りは不足部分のみであったので、整理した結果である。
なお、別表5の番号5の物件については、父の個人財産と請求人の財産とが混在し複雑だったこと及び相続解決金が必要だったことから、Mらが請求人に譲渡した。
結局、M、J及び私は、別表5の番号5の物件の譲渡代金を受領しておらず、a国に住んでいたL及びUに対する相続放棄のための費用として、請求人の代表取締役であるV社長にお願いして支払ってもらったと思う。
B 本件テナントビルを取得するに当たって、不足額が○○○○円ほどあり、加えて請求人の経営を安定させる必要があったため、W抵当証券に融資を申し込んだ。その際に、Mら個人では借入れすることができなかったため、請求人名義で借入れをして本件テナントビルを請求人の名義にした。
C 譲渡代金の使途については、それぞれの金額は不明であるが、私たちの不動産の売却に関する仲介手数料、その他の登記関係等の諸経費、m社の代表者であったXに対するコンサルタント料、本件相続に関しての相続解決金などを支払い、支払った残りを請求人に貸し付けた。
D 平成8年分の譲渡所得については、当時の税理士に申告書の作成を依頼し、不動産売買契約書に基づいて作成してもらい、S税務署に申告書を提出した。Mは私と同様の申告を行ったと思う。J及びLは海外に住んでおり、譲渡所得が赤字であることから申告の必要がない旨税理士から指導を受けたと記憶している。
E 平成7年3月期から平成9年3月期までの期間における金融機関以外からの借入金増加分(以下「本件借入金」という。)についての金銭消費貸借契約書及びそれに準ずる契約書は、簡単なものを作成した記憶があるだけであり、また、本件借入金については、担保設定、弁済期限、利息の支払に関する取決めなどは無く、借入れの発生状況を記録した書類、元帳、借入れの補助簿、その他の書類など、借入れの事実を証明する資料については、借入れの発生が平成8年と古く、7年の保存期間を過ぎているため私がすべてを廃棄処分しており、これらの書類については現在、全く保存していない。
F 平成8年ころも、私が請求人の経理処理をしていたが、本件借入金の計上時期は定かではなく、請求人がMらから、それぞれいくらずつ借り入れたかについては、遺産分割協議書などを参考にして、借入金額を振り分け、それぞれからの借入金として経理処理したと記憶している。
また、平成8年3月期の事業年度の法人税の申告書には、便宜上、M一人の名前で記載したと記憶している。
ただ、本件借入金については、不動産譲渡に関するいろいろな処理の都合により、決算期をまたいで請求人の帳簿に計上したと思う。
G M、J及び私は請求人の役員であり、請求人の経営が苦しい状況は良く知っているから、本件借入金について、請求人がMらに弁済を行ったことはない。また、Mらから文書による弁済の督促を受けたこともない。
(ヘ) 請求人の代表取締役であるV及びMは、譲渡内容、請求人に対する貸付内容に関する当審判所の質問に対し、平成19年5月15日に、当審判所に対するKの答述内容どおりだったと思う旨を文書で回答している。
ロ 法令解釈
徴収法第39条に規定する第二次納税義務の制度は、納税者が、納付すべき国税の法定納期限の1年前の日以後に、その財産について無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分(以下「無償譲渡等の処分」という。)を行ったため、その納税者の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に、当該無償譲渡等の処分により権利を取得し、又は義務を免れた者に対して、当該国税の納税義務を補充的に負わせることによって、当該国税の徴収確保を図ろうとする制度である。
そして、このような第二次納税義務の制度の趣旨にかんがみれば、徴収法第39条にいう「無償譲渡等の処分」とは、広く第三者に利益を与える処分をいい、第三者に利益を与える処分である限り、その態様に制限はないと解するのが相当である。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) 無償譲渡等の処分が存するか否かについて
A 上記イの(ロ)のとおり、Mらは、平成8年1月に、別表5の番号2ないし8記載の不動産を譲渡しているところ、上記イの(ホ)のKの答述内容並びに上記イの(ヘ)の請求人の代表取締役であるV及びMの文書回答内容からすれば、Mらが受け取るべき同表の番号2ないし4及び同番号6ないし8記載の各不動産の譲渡代金の合計額○○○○円が本件テナントビルの購入資金に充てられたと認められる。
B そして、請求人は、上記イの(ホ)のCのとおり、譲渡代金について、金額は不明であるが、相続解決金などを支払い、その残額をMらから借り入れたものであると答述し、その残額は、上記イの(イ)のとおり、請求人の帳簿上もMらからの借入金として処理されているが、金額が極めて多額であるにもかかわらず、金銭消費貸借契約書又はそれに準じる契約書は保存されておらず、担保も設定されていない上、弁済期限や利息の支払に関する取決めもないなど、金銭の貸借取引としては極めて不自然な取引であるといわざるを得ない。
また、現在においては、上記イの(ホ)のとおり、借入れの事実を証する書類は全く保存していないことから、Mら各人からの借入額がいくらであるか不明となっている上に、請求人がMらに弁済を行った事実及びMらが請求人に対して弁済の督促を行った事実も認められない。
そうすると、請求人が、Mらから借り入れたとする金員は、請求人の帳簿上借入金として処理されてはいるものの、上記のとおり各人ごとの残高の明細も不明で、返済及び督促の事実もないことからすると、当該金員はMらが請求人に貸し付けたものではなく、Mらが請求人に対して無償譲渡等の処分により、上記譲渡代金相当の利益を与えたと認めるのが相当である。
したがって、Mらが上記金額を請求人に対して貸し付けたものであるとの請求人の主張には理由がない。
(ロ) 無償譲渡等の処分により受けた利益について
原処分庁は、本件告知処分におけるMらの「納付すべき金額(限度額)」の合計額について、別表2のとおり、○○○○円と算定しているが、上記(イ)のとおり、請求人がMらから無償譲渡等の処分により受けた利益の額の合計額は○○○○円であり、Mらそれぞれが請求人に対して与えた利益の額は、上記イの(ニ)及び同(ホ)のAから、別表5のうち、番号5の不動産の譲渡に係る金員は、a国の相続人であるL及びUに対する相続解決金に使われていると推認できること、同表の番号2ないし4及び同番号6ないし8記載の各不動産譲渡に係る金員が、上記イの(ホ)のCの仲介手数料、Xに対するコンサルタント料及び相続解決金等に支払われた事実を確認できないことから、同表の番号2ないし4及び同番号6ないし8の物件について、Mら各人の持分により計算した各人別の譲渡価額とするのが相当である。
そうすると、Mらそれぞれの本件滞納国税についての第二次納税義務の限度額は、別表6の「5審判所認定額」欄の金額となり、原処分における限度額は当審判所の認定額を下回ることから、原処分は適法である。

トップに戻る

(3) 争点3について

イ 認定事実
原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 別表3の番号1ないし4の物件である本件テナントビルの建物及びその敷地について、登記記録に記録されている事項の全部又は一部を証明した書面(以下「登記事項証明書」という。)によると、平成8年1月○日売買を登記原因として同日付で請求人への所有権移転登記が行われており、また、同日付で、債務者を請求人、抵当権者をW抵当証券、債権額を○○○○円とする抵当権(以下「本件第1抵当権」という。)が設定され、さらに、平成8年3月○日付で、昭和62年5月7日金銭消費貸借の平成8年3月○日設定を登記原因として、債務者を請求人、抵当権者をW抵当証券、債権額を○○○○円とする抵当権(以下「本件第2抵当権」という。)が設定されている。
(ロ) 別表3の番号5ないし7の物件(以下「本件s町物件」という。)の登記事項証明書によると、同表の番号5及び6の物件については、平成5年9月○日付で請求人への所有権移転登記が行われ、同表の番号7の物件については、平成2年5月○日付で請求人を権利者とする所有権保存登記が行われており、また、平成9年1月○日付で、昭和62年5月7日金銭消費貸借の平成9年1月○日設定を登記原因として、債務者を請求人、抵当権者をW抵当証券、債権額を○○○○円とする抵当権がそのすべてに設定され、本件s町物件と本件テナントビルの建物及びその敷地は、債務者を請求人とし、債権者をW抵当証券、債権額を○○○○円とする昭和62年5月7日の金銭消費貸借に係る債権の共同抵当となっている。
(ハ) 本件第1抵当権及び本件第2抵当権は、平成16年9月29日付でのW抵当証券からZ銀行への被担保債権の譲渡に伴い、同銀行に譲渡されている。
Z銀行の顧客取引明細及び不動産担保元帳によると、本件各差押処分が行われた平成18年3月15日において、本件第1抵当権によって担保される貸付金の残高は、○○○○円となっている。なお、平成20年6月9日現在の予定貸付金残高は、○○○○円である。
また、本件各差押処分が行われた平成18年3月15日において、本件第2抵当権によって担保される貸付金残高は○○○○円となっている。なお、平成19年5月10日現在の残高は、零円となっている。
(ニ) 別表3の番号8ないし10の物件(以下「本件R市物件」という。)の登記事項証明書によると、本件R市物件は、平成8年1月○日売買を登記原因として、平成8年3月○日付でMらから請求人へ所有権移転登記が行われており、また、登記記録の乙区に記録されている事項はない。
(ホ) Q市役所が作成した「平成18年度(縦覧経過後)Q市土地家屋名寄帳(課税台帳)」(以下「本件課税台帳」という。)によると、別表3の番号1及び2の物件(以下「本件テナントビル敷地部分」という。)の評価額の合計額は、○○○○円であり、同表の番号3及び4の物件(以下「本件テナントビル建造物部分」という。)の評価額の合計額は○○○○円である。また、本件s町物件の評価額の合計額は○○○○円である。
ロ 法令解釈
(イ) 差押えが、徴収法第48条第2項にいう無益な差押えに該当するか否かは、差し押さえようとする財産の価額とその差押えに係る滞納処分費及び徴収すべき国税に先だつ他の税金その他の債権額の合計額とを比較して判断することが相当であると解されるが、差し押さえることのできる財産の価額や優先する債権の金額の正確な評価は、実際上、必ずしも容易ではなく、その厳密な評価を要するとすると国税の滞納処分の円滑な遂行が期待できないこと、優先する債権の金額は弁済などによって減少する可能性があることなどを考慮すれば、差押えの対象となる財産の価額がその差押えに係る滞納処分費及び徴収すべき国税等に優先する他の税金その他の債権の金額の合計額を超える見込みのないことが一見して明らかでない限り、直ちに当該差押えが違法となるものではないと解される。
(ロ) 差し押さえようとする財産の価額とは、差し押さえようとする時における差押対象財産を滞納処分によって公売するとした場合のその財産の価額(以下「処分予定価額」という。)をいうものと解するのが相当であるところ、公売が強制売却であり、代金一括納付を原則とし、手続も煩雑であって、公売市場が通常の取引市場より限定されていることなど、公売が特殊な売却であることを考えれば、その財産の時価から公売の特殊性としておおむね30%程度の範囲内で減額して処分予定価額を算出することが相当と解される。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) 本件R市物件について
上記イの(ニ)のとおり、本件R市物件には、国税に優先する債権は設定されていないから、本件R市物件についての差押えが徴収法第48条第2項にいう無益な差押えに該当しないことは明らかである。
(ロ) 本件s町物件について
上記イの(ロ)のとおり、本件s町物件には、本件滞納国税に優先する債権として、平成9年1月○日付で、昭和62年5月7日金銭消費貸借の平成9年1月○日設定を登記原因として、債務者を請求人、抵当権者をW抵当証券、債権額を○○○○円とする抵当権が設定されているが、同(ハ)のとおり、差押処分時における当該債権の金額は○○○○円であり、本件s町物件に係る本件課税台帳の評価額の合計額が上記イの(ホ)のとおり、○○○○円であることからすれば、公売の特殊性を考慮してその処分予定価額を算出しても、本件s町物件についての差押えが徴収法第48条第2項にいう無益な差押えに該当しないことは明らかである。
(ハ) 本件テナントビルの差押えについて
上記イの(ホ)のとおり、平成18年度における本件テナントビル敷地部分の固定資産税評価額の合計額は○○○○円であり、土地についての固定資産税評価額は不動産鑑定評価基準に基づいて評価された正常価額(時価)の概ね70%程度であるといわれているのであるから、本件テナントビルの差押処分時における本件テナントビルの敷地部分の時価相当額は○○○○円(○○○○円÷0.7)となる。
そして、上記イの(ホ)のとおり、平成18年度における本件テナントビル建造物部分の固定資産税評価額の合計額は○○○○円であるが、家屋についての固定資産税評価額は再建築価額を基準として、経過年数、損耗の程度に応じて減価し、さらに、その減価は需給事情に応じた補正を行って算出することとされているのであり、時価を反映したものといえるから、本件テナントビルの差押処分時における本件テナントビル建造物部分の時価相当額は○○○○円であると認められる。
もっとも、本件テナントビルは賃貸されているのであるから、公売に当たっては、借家権相当額を減額した上で処分予定価額を算出する必要があるところ、b国税局の財産評価基準によれば、本件テナントビルが所在する地域の借家権割合は30%とされているのであるから、この割合に基づいて借家権相当額を減額すると、本件テナントビル建造物部分の価額は、○○○○円となる。
そうすると、公売の特殊性に伴う減価割合を仮に、10%として本件テナントビルの差押処分時における本件テナントビルの処分予定価額を算出すると、その価額は○○○○円{(○○○○円+○○○○円)×0.9}となる。
一方、本件テナントビルについては、上記イの(イ)のとおり、本件滞納国税に優先する本件第1抵当権と本件第2抵当権が設定されているので、本件テナントビルの差押えが徴収法第48条第2項にいう無益な差押えに当たるか否かを判断するためには、本件テナントビルの差押処分時におけるこれらの被担保債権の額と上記処分予定価額を比較する必要があるが、本件各差押処分時における本件第1抵当権の被担保債権の額は、上記イの(ハ)のとおり、○○○○円であり、本件第2抵当権の被担保債権の額は、上記(ロ)のとおり、○○○○円である。
そうすると、本件第1抵当権の被担保債権の額が弁済などによって減少する可能性があることを考慮しても、本件テナントビルの処分予定価額が本件第1抵当権の被担保債権の額を超える見込みのないことが一見して明らかであるといわざるを得ない。
したがって、本件テナントビルの差押えは徴収法第48条第2項の無益な差押えに当たり、違法であるから、別表3の番号1ないし4の物件についての差押処分は、いずれも取り消すべきである。
これに対して、原処分庁は、本件テナントビルと本件s町物件とを一括して評価すべきであること及びその処分予定価額は本件テナントビル及び本件s町物件に係る本件課税台帳の評価額の合計額によるべきであると主張するが、本件s町物件の売却代金を本件第1抵当権の被担保債権に配当することはできないのであるから、本件テナントビルの差押えが無益な差押えに当たるか否かを判断するに当たって、本件s町物件の処分予定価額を考慮する必要はないというべきである。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

(4) 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る