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(平21.4.27、裁決事例集No.77 91頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の平成17年分、平成18年分及び平成19年分(以下、これらの各年分を併せて「本件各年分」という。)の所得税の確定申告について、原処分庁が、本件における外国為替証拠金取引において確定した損益から請求人が支払った取引手数料を差し引いた金額を本件各年分の雑所得に加算して更正処分等を行ったのに対し、請求人が、本件における外国為替証拠金取引による所得はないなどとして、違法を理由に、原処分の全部の取消しを求めた事案であり、主たる争点は、本件における外国為替証拠金取引について、営業日ごとに損益が確定し当該損益が実現しているか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人の審査請求(平成20年9月22日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。
 なお、請求人の本件各年分の所得税の確定申告書に記載された雑所得の金額の内訳及び本件各年分の所得税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)に係る雑所得の内訳は、別表2のとおりである。

(3) 関係法令

イ 所得税法第35条《雑所得》第1項は、雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう旨規定し、同条第2項は、雑所得の金額は、その年中の公的年金等の収入金額から公的年金等控除額を控除した残額とその年中の雑所得(公的年金等に係るものを除く。)に係る総収入金額から必要経費を控除した金額の合計額とする旨規定している。
ロ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨、同条第2項は、前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする旨規定している。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に明らかな争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成13年5月1日、C社に対し、下記ロのとおりの内容の外国為替直物証拠金取引(以下「本件FX取引」という。)を開始することを申し入れ、C社から、「契約約款」(以下「本件約款」という。)、「外国為替直物証拠金−取引ガイド」(以下「本件取引ガイド」という。)及び「口座開設のご案内」(以下、これらを併せて「本件約款等」という。)の交付を受け、C社に対し、「外国為替口座開設申込書」(以下「本件口座開設申込書」という。)、「約諾書及び通知書」(以下「本件約諾書」という。)、「印鑑及び振込口座届」及び「重要事項確認書」(以下「本件確認書」という。)にそれぞれ署名、押印して提出し、もって、C社との間で本件FX取引に関する契約を締結した。そして、請求人は、外国為替直物証拠金取引に係る外国為替口座(以下「本件取引口座」という。)を開設し、同月17日に証拠金○○○○円を預託した上で、同月31日から上記取引を行っていた。
 なお、本件約諾書には、請求人は、C社と本件FX取引を行うに際し、本件約款等を熟読した上、本件FX取引の仕組み・損失リスク等について十分理解し、本件確認書をC社に差し入れ、請求人の判断と責任においてC社と本件FX取引を行うことを承諾し、これを証するため、本件約諾書を差し入れる旨の記載がある。
ロ 本件FX取引の内容は、要旨次のとおりである。
(イ) 本件FX取引は、請求人とC社との相対取引で、取引通貨は、米ドルと日本円であり、売買取引の最低単位を○○○○米ドルとして、証拠金取引方式により、日本円と米ドルの売買をする取引である。
(ロ) 外国為替直物証拠金取引は、通常、取引契約の2営業日後に決済(受渡し)する取引であるが、本件FX取引は、売買注文が成立し、反対売買による決済が行われるまでの持高ないしは保有高(以下「未決済ポジション」という。)について、C社の営業日ごとに、原則としてニューヨーク外国為替市場インターバンクレートの引値(終値)に基づいて評価替をした上で、当該評価替によって生じる売買評価損益(未決済ポジションに係るC社における前営業日の評価額との差額のこと。以下、評価額が前営業日の評価額を上回った場合を「評価益」、評価額が前営業日の評価額を下回った場合を「評価損」といい、これらを併せて「本件為替差損益」という。)を計算し、評価益が生じた場合は、請求人の本件取引口座へ評価益が円貨で入金され、評価損が生じた場合は、本件取引口座から評価損が円貨で引き落とされて、営業日ごとに清算することにより決済期限を自動的に延長する取引である(以下、評価替により本件為替差損益を清算して決済期限を自動的に延長させることを「本件清算型ロールオーバー」という。)。
 また、未決済ポジションの反対売買による差損益(前営業日の評価額と反対売買時点のレートに基づく評価額との差額のこと。以下、このことを「本件売買差損益」といい、「本件為替差損益」と併せて「本件為替差損益等」という。)についても本件為替差損益と同様に本件取引口座で清算される。
(ハ) 本件FX取引においては、日々、未決済ポジションの総額に対して、スワップ金利(売買を行う2種類の通貨の金利差に未決済ポジションの総額を乗じた金額のことをいい、高金利通貨を買っている場合は、金利差分の金額を受取り、逆に高金利通貨を売っている場合は、金利差分の金額を支払うこととなる。以下「本件スワップ金利」という。)が、請求人の本件取引口座内において日々計算され、本件為替差損益と共に円貨で受払いされる。
(ニ) 請求人は、C社に対し、売買注文及び反対売買の各注文を行った都度、所定の手数料を支払う。
ハ 本件約款には、本件約款は、請求人がC社との間で本件取引ガイドに基づき本件FX取引をする際の取決めであり、請求人には取引を行うに当たり、要旨以下の条項に同意が必要である旨の記載がある。
(イ) 本件取引口座による処理
 本件FX取引において、取引証拠金、本件FX取引及び未決済ポジションについて、外貨の受渡しあるいは転売若しくは買戻しによる最終決済を行った場合に授受する金銭や本件為替差損益等の取扱いは、すべて本件取引口座で処理する(第○条)。
(ロ) 評価替
 請求人の未決済ポジションに対して毎日行う評価替に関しては、ニューヨーク外国為替市場のインターバンクレートの引値を用いてこれを行うことに同意し、ニューヨーク外国為替市場が休場の場合はロンドン外国為替市場の引値を、両市場とも休場の場合は東京外国為替市場の引値を用いてこれを行うことに同意する(第○条第1項)。
 前項に定める評価替によって生じる本件為替差損益につき、益計算であればその益計算分が、また損計算であればその損計算分が、本件スワップ金利と共に本件取引口座内において日々清算されることに同意する。また、未決済ポジションのすべての約定値段が、前項に定める評価替の時点で、ニューヨーク外国為替市場のインターバンクレートの引値に日々引き直されることに同意する(同条第2項)。
(ハ) 計算上の利益の引き出し等の上限
 請求人は、外国為替相場の変動により評価替による損益が生じた場合、その額を新たな取引の取引証拠金として預託すべき額へ充当することとし、また、預託金残高が必要証拠金を上回っている場合、当該上回った額を上限とし、金利その他発生費用を考慮した上で、現金の返還を請求することができる(第○条)。
ニ 本件確認書には、請求人が本件FX取引を行うに際し、取引の制度や仕組み、また、リスクや危険性について、要旨以下の点について理解又は納得していることを証するため、本件確認書を差し入れる旨の記載がある。
(イ) 未決済ポジションを手仕舞いをしていなくとも、本件為替差損益の額は日々本件取引口座で清算される。
(ロ) 本件FX取引は、未決済ポジションの総取引金額に対して、本件スワップ金利を受払いし、受取の場合は本件取引口座へ日々入金され、支払の場合は、本件取引口座から日々差し引かれる。

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2 主張

原処分庁 請求人
(1) 本件FX取引は、未決済ポジションについて、営業日ごとにその引値で売ると同時にその引値で買うことが営業日ごとに繰り返され、反対売買を繰り返したことと同様に損益が確定するものであることから、本件清算型ロールオーバーにより営業日ごとに生じる本件為替差損益を請求人の本件各年分の雑所得の総収入金額に加算すべきである。 (1) 本来、外国為替証拠金取引は、一定の証拠金を預託して外貨保有の権利(買ポジション又は売ポジション)を取得し、それを反対売買することにより損益が確定するものであるから、本件清算型ロールオーバーにより営業日ごとに生じる本件為替差損益は確定しておらず、当該損益は所得税法上実現した収益に該当しない。したがって、当該損益を請求人の本件各年分の雑所得の総収入金額に加算すべきではない。
(2) 以上のことからすれば、本件FX取引に関して生じた本件為替差損益等及び本件スワップ金利は、請求人の本件各年分の雑所得の総収入金額に該当する。そして、本件FX取引においては、請求人が主張する評価損益が発生する余地がなく、請求人がC社に支払った取引手数料以外に請求人の主張するような必要経費があったと認められない。したがって、本件為替差損益等及び本件スワップ金利から取引手数料を差し引いた金額を本件各年分の雑所得に加算してされた本件各更正処分は適法である。 (2) 本件各年分において、本件売買差損益(平成18年分は零円)及び本件スワップ金利は損益が確定しているものの、評価損等の必要経費等を差し引けば、課税される雑所得はない。

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3 判断

(1) 法令解釈

 所得税法第36条第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とし、同条第2項は、前項の経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする旨規定しているところ、当該各規定は、収入がない場合であっても収入の原因たる権利が確定的に発生した場合には、その時点で所得の実現があったものとする権利確定主義を採用したものであると解される。
 そうすると、現実の収入があった場合又は収入の原因たる権利が確定的に発生した場合には、収入金額として所得税の課税をすべきこととなると解される。

(2) 認定事実

 当審判所の調査によれば、請求人は、本件FX取引において未決済ポジションを、平成17年11月7日、平成19年4月27日、同年9月4日及び同年12月6日に、反対売買により差金決済をしたことが認められる。

(3) 本件各更正処分について

イ 本件FX取引によって生じた損益等について
(イ) 本件為替差損益について
 原処分庁は、本件FX取引において、本件為替差損益は、本件清算型ロールオーバーにより営業日ごとに確定する旨主張する。これに対し、請求人は上記主張を争い、本来、外国為替証拠金取引は、一定の証拠金を預託して外貨保有の権利を取得し、それを反対売買することにより損益が確定するものであるから、本件清算型ロールオーバーにより営業日ごとに生じる本件為替差損益は確定しておらず、当該損益は所得税法上実現した収益に該当しない旨主張する。そこで、本件為替差損益が本件清算型ロールオーバーにより営業日ごとに確定するといえるか否かについて検討する。
 上記1の(4)によれば、請求人は、C社から本件FX取引の内容について記載された本件約款等を受領し、同社に対し本件確認書及び本件約諾書を差し入れていることが認められ、このことからすれば、請求人は、本件FX取引の内容について認識した上で、これに同意して取引を始めたと認めるのが相当であり、そして、本件約款等によれば、本件FX取引においては、請求人の未決済ポジションにつき営業日ごとに原則ニューヨーク外国為替市場のインターバンクレートの引値を用いて本件清算型ロールオーバーによる評価替が行われ、当該評価替によって生じる本件為替差損益は、本件取引口座において営業日ごとに清算がされ、請求人が引き続き保有する未決済ポジションの取得価額は、営業日ごとに原則ニューヨーク外国為替市場のインターバンクレートの引値に引き直されること及び本件為替差損益が生じた場合には、本件取引口座の預託金残高が必要証拠金を上回っている場合に限定されるものの、いつでも現金による返還を請求することができることが認められる。
 以上によれば、本件FX取引においては、営業日ごとに行われる本件清算型ロールオーバーにより、その時点において、未決済ポジションについて反対売買が行われた場合と同様の損益が確定し、かつ実現していたと認めるのが相当である。
 すなわち、営業日ごとに行われる本件清算型ロールオーバーにより、評価益が生じた場合には、C社には評価益相当額の支払義務及び請求人には評価益相当額を受け取る権利が確定し、これとは逆に評価損が生じた場合には、C社には評価損相当額の支払を受ける権利及び請求人には評価損相当額を支払う義務が確定するとともに、本件為替差損益の金額が具体的に確定するというべきである。そして、これを前提に、C社は、営業日ごとに本件為替差損益を本件取引口座内において清算し、未決済ポジションの取得価額は、営業日ごとに本件清算型ロールオーバーにより評価替され、さらに、評価替による評価益が生じた場合には、一定の要件のもとで現金による返還を請求することができるのであるから、本件FX取引においては、本件清算型ロールオーバーが行われた時点において、本件為替差損益が確定し、これについて現実に収入があった又は収入の原因たる権利が確定的に発生したというほかない。
 したがって、本件為替差損益は、営業日ごとに行われる本件清算型ロールオーバーの時点で損益が確定するとともに実現したと認めるのが相当である。
 そうすると、原処分庁の主張は理由があり、これに対し、以上の認定、判断に反する請求人の上記主張は採用することができない。
(ロ) 本件売買差損益について
 上記1の(4)のロの(ロ)及び同ハの(イ)によれば、未決済ポジションの反対売買による最終決済を行った場合の本件売買差損益の取扱いは、すべて本件取引口座で処理することになっていることから、反対売買による最終決済を行った日に当該未決済ポジションが解消されるとともに、当該反対売買に係る金額が具体的に確定し、当該売買差損益が本件取引口座により清算されるものと認められる。したがって、本件売買差損益は、反対売買による最終決済を行った日に現実に収入があった又は収入の原因たる権利が確定的に発生したと評価できる。そうすると、本件売買差損益は、反対売買による最終決済を行った日に損益が確定するとともに実現したと認めるのが相当である。
(ハ) 本件スワップ金利について
 上記1の(4)のロの(ハ)、同ハの(ロ)及び同ニの(ロ)によれば、本件スワップ金利は、営業日ごとに本件為替差損益とともに本件取引口座内において清算されていることになっていることからすれば、本件スワップ金利は、本件為替差損益と同時点において、現実に収入があった又は収入の原因たる権利が確定的に発生したと評価できる。そうすると、本件スワップ金利は、本件為替差損益と同時点において損益が確定するとともに実現したと認めるのが相当である。
ロ 本件FX取引によって生じた損益等の所得区分について
 上記イの本件FX取引によって生じる本件為替差損益等及び本件スワップ金利は、上記1の(4)のロの本件FX取引の内容からすれば、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しないといえるから、所得税法第35条第1項の規定により雑所得に該当するというべきである。
ハ 本件FX取引によって生じた雑所得の金額
(イ) 総収入金額
 本件FX取引によって生じた本件為替差損益等及び本件スワップ金利は、上記イの(イ)ないし(ハ)で判断した時点において、本件各年分の収入すべき金額となり、これに基づき本件各年分の本件FX取引によって生じた雑所得の総収入金額を計算すると、同金額は別表3のとおりとなる。なお、本件各年分におけるC社の毎営業日の本件為替差損益及び本件スワップ金利の内訳は別表4−1ないし別表4−6のとおりであり、本件各年分における本件売買差損益の内訳は別表5のとおりである。
(ロ) 必要経費
A 当審判所の調査によると、請求人は、売買手数料として、平成17年分につき10,000円、平成18年分につき10,000円及び平成19年分につき50,000円をC社に対して支払ったことが認められ、当該金額は、上記(イ)の収入を得るために直接要した費用として、本件各年分の雑所得に係る必要経費に該当すると認められる。
B ところで、請求人は、本件FX取引によって生じた本件各年分の雑所得の必要経費について、別表6の「請求人主張額」欄のとおり、本件各年分の本件売買差損益及び本件スワップ金利の合計額と同額の必要経費がある旨主張し、本件各年分において、評価損、情報収集費用及び手数料等の必要経費等があった旨答述する。
 しかしながら、請求人が主張する必要経費等については、その具体的な金額については答述せず、これを裏付ける証拠も提出しないところ、当審判所の調査によっても、上記Aで説示した売買手数料以外の必要経費等があったと認めるに足りる証拠はない。したがって、請求人の主張のうち、上記Aの売買手数料以外の必要経費等があった旨の請求人の主張は採用することはできない。
(ハ) そうすると、本件FX取引に係る雑所得の金額は、上記(イ)の総収入金額から上記(ロ)の必要経費を控除した金額となるから、別表7の「所得金額」欄のとおりとなり、この金額は、本件各更正処分の本件FX取引に係る雑所得の金額と同額であるから、本件各更正処分は適法である。

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(4) 平成17年分及び平成18年分の過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)について

 上記(3)のとおり、本件各更正処分は適法であり、本件各賦課決定処分については、本件各更正処分により納付すべき税額の計算となった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があると認められるものがある場合に該当しないことから、同条第1項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分は適法である。

(5) 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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