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(平21.6.12、裁決事例集No.77 143頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、居宅サービスの利用料を医療費控除の対象として平成19年分の所得税の確定申告を行ったところ、原処分庁が、当該利用料は医療費控除の対象とならないとして更正処分を行ったことから、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成19年分の所得税について、審査請求(平成21年1月8日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。
 なお、以下、平成20年9月24日付でされた平成19年分の所得税の更正処分を「本件更正処分」という。

(3) 関係法令

 所得税法第73条《医療費控除》第1項は、居住者が、各年において、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費を支払った場合において、その年中に支払った当該医療費の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)の合計額がその居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の100分の5に相当する金額(当該金額が10万円を超える場合には、10万円)を超えるときは、その超える部分の金額(当該金額が200万円を超える場合には、200万円)を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 請求人と生計を一にする配偶者であるAは、平成18年1月26日、P県Q市から介護保険法第19条《市町村の認定》第1項に規定する要介護認定の更新を受けた。
 なお、更新後の要介護認定の有効期間は、平成20年2月29日までとされた。
ロ 指定居宅介護支援事業者及び指定居宅サービス事業者である社会福祉法人Bは、平成18年2月28日、Aが利用する指定居宅サービス等の種類及び内容等を定めた居宅サービス計画を作成した(以下、この居宅サービス計画を「本件居宅サービス計画」という。)。
 なお、本件居宅サービス計画上、Aが利用する居宅サービスは通所介護(介護保険法第8条第7項)とされ、1訪問看護(同条第4項)、2訪問リハビリテーション(同条第5項)、3居宅療養管理指導(同条第6項)、4通所リハビリテーション(同条第8項)及び5短期入所療養介護(同条第10項)(以下、上記1から5までの各居宅サービスを併せて「医療系サービス」という。)は、いずれも本件居宅サービス計画に位置付けられていなかった。
ハ 平成19年において、Aは、社会福祉法人Bから通所介護及び福祉用具貸与の居宅サービスを受け、請求人は、当該居宅サービスの対価として、その利用料241,313円(以下「本件利用料」という。)を社会福祉法人Bに支払った。
 なお、本件利用料の内訳は、別表2のとおりである。

(5) 争点

 本件利用料は、医療費控除の対象となるか否か。

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2 主張

原処分庁 請求人
 平成12年6月8日付課所4−11「介護保険制度下での居宅サービスの対価に係る医療費控除の取扱いについて(法令解釈通達)」(以下「本件個別通達」という。)は、居宅サービスの対価のうち「療養上の世話を受けるために特に依頼した者による療養上の世話の対価」として医療費控除の対象となる金額は、医療系サービスと併せて利用する1訪問介護(介護保険法第8条第2項)、2訪問入浴介護(同条第3項)、3通所介護及び4短期入所生活介護(同条第9項)(以下、上記1から4までの各居宅サービスを併せて「対象居宅サービス」という。)に要する費用に係る自己負担額である旨定めているところ、別表2の「通所介護」欄の支払額は、医療系サービスと併せて利用されていない対象居宅サービスに係る支出であるし、同表の「福祉用具貸与」欄及び「食事」欄の各支払額は、対象居宅サービスにも該当しない日常生活に関する支出と認められるから、本件利用料は、医療費控除の対象とならない。  Aは、社会福祉法人BのケアマネージャーがAの主治医とも相談して作成した本件居宅サービス計画に基づいて、介護保険法第8条第7項及び介護保険法施行規則第10条《法第8条第7項の厚生労働省令で定める日常生活上の世話》に規定する通所介護に該当する居宅サービスを受けており、当該居宅サービスに係る本件利用料は、所得税基本通達73−6《保健師等以外の者から受ける療養上の世話》に定める「療養上の世話を受けるために特に依頼したものから受ける療養上の世話」の対価に該当するから、医療費控除の対象となる。

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3 判断

(1) 医療費控除の対象となる医療費について、所得税法第73条第2項は、医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるものをいう旨規定し、これを受けて、所得税法施行令第207条《医療費の範囲》は、1医師又は歯科医師による診療又は治療(同条第1号)、2あん摩マッサージ指圧師等施術者又は柔道整復師による施術(同条第4号)、3保健師、看護師又は准看護師による療養上の世話(同条第5号)及び4助産師による分べんの介助(同条第6号)等の対価のうち、その病状等に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額がこれに該当する旨規定している。
 そして、所得税基本通達73−6は、上記3の「保健師、看護師又は准看護師による療養上の世話」には、保健師、看護師又は准看護師以外の者で療養上の世話を受けるために特に依頼したものから受ける療養上の世話も含まれる旨定め、本件個別通達は、居宅サービスの対価に係る医療費控除の取扱いについて、医療系サービスのいずれかが位置付けられている居宅サービス計画に基づいて、居宅サービスを利用する者を対象とし、当該対象者が医療系サービスと併せて利用する対象居宅サービスに要する費用(介護保険法第41条《居宅介護サービス費の支給》第4項各号に規定する「厚生労働大臣が定める基準により算定した費用の額」をいう。)に係る自己負担額を、療養上の世話を受けるために特に依頼した者による療養上の世話の対価として医療費控除の対象とする旨定めている。
 これら各通達の定めは、医療の対価と評価できるものについて、これを医療費控除の対象としている法の趣旨に照らし相当であると認められる。

(2) これを本件についてみると、本件利用料のうち、別表2の「通所介護」欄記載の通所介護に係る費用の額は、対象居宅サービスに要する費用に該当するものの、上記1の(4)のロ及びハのとおり、本件居宅サービス計画には医療系サービスがいずれも位置付けられていないこと、Aは医療系サービスを利用していないことから、療養上の世話を受けるために特に依頼した者による療養上の世話の対価とは認められない。
 また、別表2の「福祉用具貸与」欄記載の福祉用具貸与に係る費用の額及び「食事」欄記載の食費の額は、対象居宅サービスに要する費用にも該当せず、日常生活に関連する費用と認められることから、医療費控除の対象とすることはできない。
 したがって、本件利用料は、その全額が医療費控除の対象とならないから、請求人の主張には理由がない。

(3) 以上を前提として、平成19年分の還付金の額に相当する税額を算定すると、○○○○円となり、この金額は、本件更正処分のそれと同額となるから、本件更正処分は適法である。

(4) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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