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(平21.4.3、裁決事例集No.77 150頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成17年分ないし平成19年分の所得税について、事実上の婚姻関係にあるが婚姻の届出をしていない者(以下「内縁の夫」という。)を控除対象配偶者として配偶者控除を適用して確定申告したところ、原処分庁が、内縁の夫は控除対象配偶者に該当せず、配偶者控除の適用は認められない等として更正処分をしたことに対し、請求人が、請求人は10年以上にわたり内縁の夫と生計を一にし、同人を配偶者として扶養していることなどから同人を控除対象配偶者と認めるべきであるなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 平成18年分について
(イ) 請求人は、平成18年分の所得税について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、平成19年2月27日に申告した。
(ロ) 原処分庁は、これに対して、平成20年6月30日付で、別表の「更正処分」欄のとおり、平成18年分の所得税の更正処分をした。
(ハ) 請求人は、上記(ロ)の更正処分を不服として、平成20年7月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月26日付で棄却の異議決定をした。
(ニ) 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成20年10月17日に審査請求をした。
ロ 平成17年分及び平成19年分について
(イ) 請求人は、平成17年分及び平成19年分(以下、平成18年分と併せて「本件各年分」という。)の所得税について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、平成17年分については平成18年3月13日、平成19年分については平成20年2月28日、それぞれ申告した。
(ロ) 原処分庁は、これに対して、平成20年9月29日付で、別表の「更正処分」欄のとおり、平成17年分及び平成19年分の所得税の各更正処分をした。
(ハ) 請求人は、上記(ロ)の各更正処分を不服として、平成20年11月27日にそれぞれ異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これらの異議申立てについて、いずれも国税通則法(以下「通則法」という。)第89条《合意によるみなす審査請求》第1項の規定により審査請求として取り扱うことを適当と認め、同年12月15日付で請求人に同意を求めた。請求人は、これに対し、同月24日に同意したので、同日、上記(ロ)の各更正処分について審査請求がされたものとみなされた。
ハ そこで、上記イの(ニ)及び上記ロの(ハ)の各審査請求について併合審理する。
ニ 原処分庁は、平成19年分の所得税について、平成20年12月26日、生命保険料控除の金額の計算に誤りがあったとして、別表の「再更正処分」欄のとおり、減額の更正処分を行っている(以下、上記イの(ロ)の平成18年分の更正処分並びに上記ロの(ロ)の平成17年分及び平成19年分の各更正処分(平成19年分については、上記減額の更正処分後のもの。以下同じ。)を併せて、「本件各更正処分」という。)。

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(3) 関係法令

イ 所得税法第2条《定義》第1項第33号は、控除対象配偶者とは、居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもののうち、合計所得金額が38万円以下である者をいう旨規定している。
ロ 所得税法第83条《配偶者控除》第1項は、居住者が控除対象配偶者を有する場合には、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から38万円を控除する旨規定している(以下、この控除を「配偶者控除」という。)。
ハ 所得税法第85条《扶養親族等の判定の時期等》第3項は、控除対象配偶者に該当するかどうかの判定は、その年12月31日の現況による旨規定している。
ニ 所得税法第155条《青色申告書に係る更正》第2項は、税務署長は、居住者の提出した青色申告書に係る年分の総所得金額、退職所得金額若しくは山林所得金額又は純損失の金額(以下、これらを併せて「総所得金額等」という。)の更正をする場合には、その更正に係る通知書にその更正の理由を附記しなければならない旨規定している。
ホ 民法第739条《婚姻の届出》第1項は、婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる旨規定している。
ヘ 通則法第24条《更正》は、税務署長は、納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正すると規定している。
ト 通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第1項は、還付請求申告書に係る更正については、当該申告書を提出した日から3年を経過した日以後においては、することができない旨規定している。
チ 健康保険法第3条《定義》第7項は、この法律において「被扶養者」とは、被保険者(日雇特例被保険者であった者を含む。以下この項において同じ。)の直系尊属、配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)、子、孫及び弟妹であって、主としてその被保険者により生計を維持するもの(第1号)をいう旨規定している。
リ 国民年金法第5条《用語の定義》第8項は、この法律において、「配偶者」、「夫」及び「妻」には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、前記(2)の本件各年分の所得税の各確定申告書に、Aを控除対象配偶者として配偶者控除の適用を受ける旨記載し、平成17年分は平成18年3月13日、平成18年分は平成19年2月27日、平成19年分は平成20年2月28日、原処分庁にそれぞれ提出した。
 請求人の提出した本件各年分の確定申告書は、いずれも、青色申告に係る申告書ではない。
ロ Aを世帯主とする平成20年8月4日付住民票の写しには、請求人の続柄欄に「妻(未届)」と記載されている。
ハ 請求人及びAの平成20年8月8日付各戸籍の全部事項証明書には、いずれも、請求人とAの婚姻の記録は記載されていない。

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2 主張

(1) 原処分庁

 本件各更正処分は、次のとおり適法であるから、本件審査請求はいずれも棄却されるべきである。
イ 所得税法第2条第1項第33号に規定する控除対象配偶者は、居住者の配偶者であることが要件とされているところ、この場合の配偶者とは、民法の規定による配偶者となる。そして、ここでいう民法の規定による配偶者とは、戸籍法の規定するところにより市区町村長等に婚姻の届出をした配偶者をいうものであると解される。
 ところで、Aを世帯主とする住民票の写し並びに請求人及びAの戸籍の全部事項証明書には、請求人とAが婚姻の届出を行ったとする記載はないから、平成17年12月31日現在、平成18年12月31日現在及び平成19年12月31日現在のいずれにおいても、Aが請求人の民法の規定による配偶者であったとは認められない。
 したがって、Aは請求人の控除対象配偶者に該当しないから、請求人の場合、本件各年分とも配偶者控除の適用は認められない。
 なお、請求人は、遺族年金が内縁の配偶者にも支給されることから、内縁の配偶者について配偶者控除を認めるべきである旨及び所得税法上、内縁関係の者を控除対象配偶者から除外する旨の規定はない旨主張するが、遺族年金が内縁の配偶者に対して支給されるのは、国民年金法に、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含める旨の特別の規定があることによるものである一方、所得税法上、配偶者控除についてはそのような規定はなく、また、控除対象配偶者が、民法の規定による配偶者に限られることは上記のとおりであるから、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 申告納税制度の下における確定申告は、納税者自らの判断と責任において課税標準等及び税額等を正しく計算し、申告しなければならないところ、請求人に対する調査が過去になく、是正を求められたことがなかったからといって、申告内容に誤りがあることが明らかになった段階で原処分庁が是正を求めることは何ら不当なものではない。また、請求人の申告内容の誤りを是正せず放置してまで、同人を保護すべき法律上の権利ないし利益が同人にあるとは認められないのであるから、原処分庁が請求人の課税標準等及び税額等を調査し、確定申告書に記載された金額がその調査したところと異なっていたことを原因として通則法第24条の規定に従い更正したことは、何ら違法なものではない。
ハ 所得税法第155条第2項の規定により、青色申告書に係る年分の総所得金額等を更正する場合には、その通知書に更正の理由を附記しなければならないところ、請求人が提出した本件各年分の所得税の確定申告書は、いずれも青色申告書ではない。
 したがって、本件各更正処分に係る通知書に理由を附記しなかったとしても、違法ではない。

(2) 請求人

 本件各更正処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、10年以上にわたりAと同居し、生計を一にしている。また、Aは、請求人が加入している健康保険組合において、請求人が扶養する配偶者と認定されており、請求人がAを配偶者として扶養していたことは事実である。
 さらに、遺族年金は内縁の配偶者にも支給されるし、そのうえ、所得税法の配偶者控除に係る規定には、内縁関係の者を除外するとは記されていない。
 これらのことから、Aを控除対象配偶者と認め、配偶者控除の適用を認めるべきである。
ロ 請求人は、本件各年分の所得税について、Aを控除対象配偶者として配偶者控除を適用して確定申告書を提出し、いずれも確定申告書記載のとおりの所得税の還付を受けている。このように確定申告書記載のとおりの所得税の還付を受けているにもかかわらず、後から(平成17年分及び平成18年分については1年以上も経ってから)一方的に更正処分をされることには、納得がいかない。
ハ 請求人の提出した確定申告書は青色申告書ではないが、本件各更正処分に係る通知書にその理由を附記するのは当然のことであるところ、平成18年分の更正処分に係る通知書には「配偶者控除の額の計算が誤っている」旨の記載がされているものの、当該記載では、その内容が不明であり処分の理由としては不十分である。

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3 判断

(1) 配偶者控除について

イ 法令解釈
 所得税法第83条第1項は、上記1の(3)のロのとおり、居住者が控除対象配偶者を有する場合、配偶者控除を適用する旨規定している一方で、同法は配偶者についての定義規定を置いていないが、身分関係の基本法は民法であるから、所得税法上の配偶者については、民法の規定に従って解するのが相当であるところ、民法は、婚姻の届出をすることによって婚姻の効力が生ずる旨を規定し(民法第739条第1項)、そのような法律上の婚姻をした者を配偶者としている(民法第725条《親族の範囲》、第751条《生存配偶者の復氏等》等)から、所得税法上の配偶者についても婚姻の届出をした者を意味すると解するのが相当である。
 したがって、所得税法上の配偶者の意義については、民法上使用されている配偶者の意義と同様に、戸籍法の定めるところにより市区町村長等に届出をした夫又は妻を指し、内縁の夫はこれに含まれないことになる。
ロ 本件への当てはめ
 これを本件についてみると、上記1の(4)のロのとおり、請求人は、Aを世帯主とする住民登録上、請求人の続柄として「妻(未届)」と登録されており(平成20年8月4日付住民票の写し)、また、上記1の(4)のハのとおり、請求人及びAの各戸籍のいずれにも、請求人及びAに係る婚姻の記録はない(平成20年8月8日付各戸籍の全部事項証明書)ことからすれば、平成17年ないし平成19年の各年の12月31日現在のいずれにおいても、Aは、請求人の民法の規定による配偶者ではなかったと認められる。
 したがって、平成17年ないし平成19年の各年の12月31日現在のいずれにおいても、Aは、請求人の所得税法上の配偶者に該当しないから、控除対象配偶者には該当せず、本件各年分において、請求人は、配偶者控除を適用することはできない。

(2) その他の請求人の主張について

イ 請求人は、10年以上にわたりAと同居し生計を一にしていること、Aは、請求人が加入している健康保険組合において、請求人に扶養される配偶者として認定されていること、遺族年金が内縁の配偶者にも支給されること及び所得税法の配偶者控除に係る規定に内縁関係の者を除外するとは記されていないことから、Aを控除対象配偶者と認め、配偶者控除の適用を認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、所得税法第2条第1項第33号に規定する控除対象配偶者については、上記1の(3)のイのとおり、居住者と生計を一にすることだけでは足りず、居住者の配偶者であることもその要件の一つとされているところ、Aが所得税法上の配偶者に該当しないことについては、上記(1)のロのとおりであるから、同人を控除対象配偶者と認めることはできない。
 なお、仮に、Aが、健康保険組合において請求人に扶養される配偶者と認定されていたとしても、それは、上記1の(3)のチのとおり、健康保険法第3条第7項が、その第1号において、同法上の配偶者には、届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む旨の規定を設けていることによるものであり、また、遺族年金が内縁の配偶者に対しても支給されるのは、上記1の(3)のリのとおり、国民年金法第5条第8項が、同法上の配偶者、夫及び妻には、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする旨の規定を設けていることによるものである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、本件各年分の確定申告書記載のとおりの所得税が還付されたにもかかわらず、後から一方的に更正処分されることには、納得がいかない旨主張する。
 しかしながら、所得税法が採用する申告納税制度の下においては、第一次的には、課税標準等の内容を最も熟知する納税者が自らの判断と責任において課税標準等及び税額等を正しく計算し、確定申告しなければならない一方、税務署長は、納税者がこのような責任を果たさない場合に初めて通則法第24条の規定に基づく更正等により税額を確定できるという第二次的な権限を与えられているものであるところ、その申告に誤りがあることが明らかになった場合には、税務署長は、同法第70条に規定する期間内であれば、その明らかになった段階で、更正等をするものである。
 これを本件についてみると、本件各更正処分は、原処分庁の調査により請求人の本件各年分の所得税について配偶者控除の適用が認められないことが明らかになったことに伴い、原処分庁が、本件各年分の確定申告書が提出された日(平成17年分は平成18年3月13日、平成18年分は平成19年2月27日、平成19年分は平成20年2月28日)から3年を経過する日以前である平成20年6月30日(平成18年分)又は平成20年9月29日(平成17年分及び同19年分)に、それぞれ行ったものであり、何ら違法な点ないし不当な点は認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 請求人は、請求人の提出した確定申告書は青色申告書ではないが、本件各更正処分に係る通知書にはその理由を附記すべきであるところ、平成18年分の更正処分に係る通知書に記載された「配偶者控除の額の計算が誤っている」旨の記載だけでは、その内容が不明であり、処分の理由として不十分である旨主張する。
 しかしながら、所得税法第155条第2項は、青色申告書に係る年分の総所得金額等の更正をする場合には、その更正に係る通知書にその更正の理由を附記しなければならない旨規定しているところ、請求人の提出した本件各年分の確定申告書はいずれも青色申告書ではない上、本件各更正処分は、いずれも所得控除の額を更正したものであって、総所得金額等について更正したものではないから、そもそも本件各更正処分に係る通知書にその理由を附記しなければならないものではなく、また、本件において附記した理由をもって、本件各更正処分が違法ないし不当なものとなるものでもない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 本件各更正処分について

 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、また、当審判所の調査の結果によれば、請求人の本件各年分の還付金の額に相当する所得税額は、いずれも本件各更正処分の還付金の額に相当する所得税額と同額となるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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