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(平21.5.25、裁決事例集No.77 256頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)がP県から建物の移転補償金名義で取得した補償金に租税特別措置法(平成19年法律第6号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第33条の4《収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除》第1項の規定による50,000,000円の特別控除の特例(以下「本件特例」という。)を適用して行った申告について、原処分庁が、その補償金の対象となった建物は事業用地として買い取られた土地の上にあった資産ではないから本件特例を適用することはできないとして所得税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該建物は買い取られた土地等と一体として使用していた資産であるから本件特例が適用されるべきであるなどとして同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成18年分の所得税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに原処分庁へ申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成20年6月30日付で別表の「更正処分等」欄のとおり平成18年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 なお、原処分庁は、本件更正処分及び本件賦課決定処分において、請求人に対し、この処分に不服があるときは異議申立て又は審査請求を選択することができる旨の教示をした。
ハ 請求人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として平成20年7月8日に審査請求をし、当該審査請求は、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第2号の規定により、適法な審査請求とされた。

(3) 関係法令

 関係法令等は、別紙1のとおりである。

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(4) 基礎事実

イ 請求人は、別紙2のとおり、自己が所有するQ市q町100番所在の土地354.60平方メートル(以下「甲土地」という。)及び同所200番所在の土地73.95平方メートル(以下「乙土地」という。)並びに第三者から賃借する同所300番所在の土地65.14平方メートル(以下「丙土地」という。)を請求人が代表者を務めるA社に対して賃貸し、ガソリンスタンドを営むA社は、甲土地、乙土地、丙土地及び国有地80.50平方メートルを併せてガソリンスタンドの敷地として使用していた。
 また、請求人は、当該ガソリンスタンドの敷地に所有する建物(以下「本件建物」という。)をA社に賃貸していた。
ロ 請求人は、土地収用法に定める事業で道路拡幅工事である一般国道X号整備工事(以下「本件事業」という。)に伴い、起業者であるP県(以下「本件起業者」という。)によって、別紙3のとおり、甲土地から分筆されたQ市q町100番2所在の土地6.00平方メートル及び乙土地から分筆された同所200番2所在の土地6.13平方メートル(以下、これら分筆された土地2筆を併せて「本件土地」という。)を平成18年3月に買い取られ、その対価として○○○○円を取得した。
 また、A社がガソリンスタンドの敷地として使用していた国有地の一部59.00平方メートル(以下「本件国有地」という。)が、別紙3のとおり、本件事業に係る事業用地(以下「本件事業用地」という。)とされた。
ハ 請求人は、本件事業に基因し、本件建物について、本件起業者との間で、平成18年3月○日付「物件移転契約書」(その後、平成18年3月○日付「物件移転契約の変更契約書」で一部変更。)と題する書面及び同年6月○日付「物件移転契約書」と題する書面をそれぞれ取り交わし、これらの書面に基づき、同年中に、本件建物の移転補償金名義で合計○○○○円(以下「本件建物移転補償金」という。)を取得した。
ニ 請求人は、平成18年中において、本件土地の対価及び本件建物移転補償金のほか、Q市が施行するB都市計画道路事業改築工事に伴い、土地の対価○○○○円及び建物の移転補償金名義で○○○○円を取得し、これらの対価及び補償金のすべてについて、平成18年分の所得税の確定申告において、本件特例の対象に当たるとして、分離長期譲渡所得の金額の計算上総収入金額に算入し、本件特例を適用して申告した。
ホ 原処分庁は、本件建物移転補償金については本件特例の対象となる補償金に当たらないことから、これを一時所得として、本件更正処分及び本件賦課決定処分をした。
 なお、原処分庁は、本件更正処分に係る通知書に更正の理由を附記していない。

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2 争点

(1) 本件更正処分について所得税法第155条第2項に規定する更正の理由の附記は、必要か否か(争点1)。

(2) 本件建物移転補償金は、本件特例の対象となる補償金に該当するか否か(争点2)。

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3 主張

(1) 争点1(本件更正処分について所得税法第155条第2項に規定する更正の理由の附記は、必要か否か。)について

原処分庁 請求人
 所得税法第155条第2項の規定によれば、不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額以外の各種所得の金額のみについて更正をする場合においては、その理由の附記を要しないと解されるところ、本件更正処分は、譲渡所得及び一時所得の金額を更正するものであり、また、所得税法においても、所得区分が変更された場合に更正の理由を附記しなければならない旨の規定はないことから、本件更正処分に係る更正通知書には、その理由の附記を要しない。  青色申告書に係る所得金額の更正をする場合において所得区分の変更を伴う場合には、当該更正処分に係る更正通知書に更正の理由を附記すべきところ、本件更正処分は、請求人の青色申告書に係るものであり譲渡所得を一時所得へと変更したものであるにもかかわらず、同更正処分に係る更正通知書には、その理由が附記されていない。
 したがって、本件更正処分は、違法又は不当であるから、その全部が取り消されるべきである。

(2) 争点2(本件建物移転補償金は、本件特例の対象となる補償金に該当するか否か。)について

原処分庁 請求人
 本件建物については、本件土地の上になかったことは明らかであるから、本件土地を含むA社のガソリンスタンドの敷地と一体として使用されていたものであっても、そのことを理由に、本件土地の上にあったものとし措置法第33条第3項第2号に規定する「その土地の上にある資産」として取り扱うことはできない。
 したがって、本件建物移転補償金は、本件特例の対象となる補償金に該当せず、本件更正処分は、適法である。
 なお、消防法等の規定により本件建物を移転する必要があったとしても、そのことを理由に本件特例を適用することはできない。
 本件建物については、本件土地の上になかったとしても、本件土地を含むA社のガソリンスタンドの敷地と一体として使用していたものであるから、本件土地の上にあったものとし措置法第33条第3項第2号に規定する「その土地の上にある資産」として取り扱うべきである。
 したがって、本件建物移転補償金は、本件特例の対象となる補償金に該当するものであり、本件更正処分は、違法又は不当であるから、その全部が取り消されるべきである。
 なお、請求人及びA社は、ガソリンスタンドを継続させ、消防法等に規定する「面積制限」に適合させるためには、本件建物を移転せざるを得なかった。

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4 判断

(1) 争点1(本件更正処分について所得税法第155条第2項に規定する更正の理由の附記は、必要か否か。)について

イ 請求人は、青色申告書に係る所得金額の更正をする場合において所得区分の変更を伴う場合には、更正の理由を附記すべきである旨主張する。
 ところで、所得税法第155条第2項の規定によれば、青色申告書に係る年分の総所得金額等を更正する場合には、その更正通知書にその更正の理由を附記しなければならないこととされているが、同条第1項第1号の規定を引用した同条第2項のかっこ書の規定によると、その更正が、不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額以外の各種所得の金額の計算又は同法第69条から第71条まで(損益通算及び損失の繰越控除)の規定の適用について誤りがあったことのみに基因するものである場合には、更正の理由の附記を要しないこととされている。
 このように所得税法第155条第2項の規定は、所得区分の変更を伴う更正である場合に更正の理由の附記が必要であるとするものではなく、また、他に所得区分の変更を伴う場合に更正の理由を附記すべき旨を定めた規定もない。
ロ 本件についてみると、請求人の提出した平成18年分の所得税の確定申告書は青色の確定申告書ではあるが、本件更正処分は、上記1の(4)のホのとおり、分離長期譲渡所得の金額の計算上総収入金額に算入されていた本件建物移転補償金が本件特例の対象となる補償金に当たらず、所得税法第34条第1項に規定する一時所得に当たるとしたものであり、分離長期譲渡所得及び一時所得に係る所得金額についての誤りのみを基因として行われたものであるから、上記イのとおり、本件更正処分に係る更正通知書には、更正の理由を附記する必要はないものと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(2) 争点2(本件建物移転補償金は、本件特例の対象となる補償金に該当するか否か。)について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件起業者は、「P県が行う公共事業の施行に伴う損失補償基準(訓令)」第○条《建物等の移転料》第2項に基づいて本件建物移転補償金を支払った。
(ロ) 請求人又はA社が有する資産で本件起業者が本件事業の用に供するため買い取った資産は、本件土地のみである。また、本件土地の上には、請求人又はA社が有する資産はなかった。
(ハ) 本件国有地には、土地の上に存する権利等の収用の目的となる資産はなかった。
(ニ) 本件建物は、別紙3のとおり、甲土地から分筆された同所100番1所在の土地の上に存するものであり、当該土地は、本件事業用地の地域外に位置している。
(ホ) 本件建物は、上記1の(4)のハの各物件移転契約書が取り交わされた後、平成18年中に、A社が取壊費用を負担して取り壊され、その未償却残高については、請求人の平成18年分の所得税に係る不動産所得の金額の計算上、資産損失として必要経費に算入されている。
ロ 法令等の解釈
(イ) 本件特例は、資産が土地収用法等の規定によって強制的に収用された場合又は強制権(収用権)を背景として任意契約により買い取られた場合において、その収用等に伴って取得した補償金又は対価に適用される。
 この場合、収用等をされる資産は、原則として、その資産を収用することができる公共事業の用に直接供されるものに限られる。
(ロ) そして、本件特例を規定する措置法第33条の4第1項本文のかっこ書により本件特例が適用されることとなる同法第33条第3項第2号は、別紙1の3のとおり規定しているところ、この規定は、同号の規定に該当する場合にあっては、収用等をされる土地の上にある資産の取壊し又は除去が土地の収用等と同じ性格のものであり、収用等に準じて課税の特例を認めることが相当であるとの趣旨から、資産の取壊し又は除去であっても、同号に規定する土地の上にある資産について、収用等による譲渡があったものとみなし、土地の収用等の場合と同様の課税の特例を認めることとしているものと解される。
(ハ) このように、本件特例の趣旨を考慮すれば、措置法第33条第3項第2号に規定する「その土地の上にある資産」とは、正に、収用されることとなる土地自体の上にある資産を、あるいは土地の上に存する権利が収用されることとなる場合にはその権利の存する土地自体の上にある資産をいうものと解するのが相当であり、このことは文理上も明らかである。
(ニ) ところで、土地が収用等をされた場合、その上にある建物等に対して交付される補償金には、その取壊し又は除去により生ずる損失の補償として交付されるものと、その移転に要する費用の補償として交付されるものとがあるが、建物等の取壊しによる損失補償金は、措置法第33条第3項第2号の規定により本件特例の対象となる補償金とみなされるのに対し、建物等の移転補償金については、このような特別の規定はない上、同条第4項が、本件特例の対象となる補償金の額は、名義がいずれであるかを問わず、資産の収用等の対価たる金額をいうものとし、収用等に際して交付を受ける移転料その他当該資産の収用等の対価たる金額以外の金額を含まないものとする旨規定していることから、現実に建物等を取り壊した場合であっても本件特例の適用がないことになり、実情に即さないところがある。
(ホ) そこで、公共事業施行者の補償の仕方いかんにより課税上の差異が生じることのないよう措置法第33条第3項第2号の規定との課税の公平をも図る趣旨から、措置法通達33−14が定められているものと考えられる。すなわち、同通達は、土地等の収用等に伴い、その土地の上に存する建物又は構築物について移転補償金が支払われた場合でも、個人が実際に当該建物又は構築物を取り壊した場合には、当該補償金を本件特例の対象として取り扱うことができることとしたものであり、この取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
(ヘ) したがって、この措置法通達の取扱いが定められた趣旨からすると、措置法通達33−14に定める「当該土地等の上にある建物又は構築物」も、措置法第33条第3項第2号に規定する「その土地の上にある資産」と同様、収用されることとなる土地自体の上にある建物又は構築物を、あるいは土地の上に存する権利が収用されることとなる場合にはその権利の存する土地自体の上にある建物又は構築物をいうものと解するのが相当である。
ハ 本件への適用
(イ) 本件についてみると、上記1の(4)のイないしハ並びに上記イの(イ)の各事実によれば、本件建物移転補償金は、本件事業の施行により本件土地及び本件国有地が道路用地とされたことに伴い、A社のガソリンスタンドの用に供されていた本件建物について、その移転に要する費用として補償されたものではあるが、上記イの(ロ)ないし(ニ)の各事実によれば、本件事業により収用されることとなる土地又は土地の上に存する権利は、本件土地のみであり、本件土地の上には、本件建物を含めガソリンスタンドの用に供されていた既存の施設等はなかったものと認められる。
 すなわち、本件建物移転補償金は、土地の収用等に伴って支払われた補償金ではあるものの、本件事業用地の地域外に存する資産の移転に要する費用を補償したものであると認められる。
 そうすると、本件建物移転補償金は、収用されることとなる本件土地の上の資産について補償したものではないから、本件特例の対象となる補償金に該当しないことは明らかである。
(ロ) この点、請求人は、本件建物は、本件土地の上になかったとしても、本件土地を含むA社のガソリンスタンドの敷地と一体として使用していたものであるから、措置法第33条第3項第2号に規定する「その土地の上にある資産」として取り扱われるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件特例の適用については、措置法第33条第3項第2号の規定においても、また、措置法通達の取扱いにおいても、上記ロのとおりであり、本件においては、収用されることとなる本件土地自体の上にある資産について補償された場合に限り適用されることとなるのであるから、本件建物が本件土地を含むA社のガソリンスタンドの敷地と一体として使用されていたことのみをもって、本件特例を認める余地はないというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ) なお、請求人は、ガソリンスタンドを継続させ、消防法等に規定する「面積制限」に適合させるためには、本件建物を移転せざるを得なかった旨主張し、本件特例の適用を求めるが、仮に本件事業によって本件建物の移転等が不可避であったという事情があったとしても、本件特例の適用が認められないことは上記に述べたとおりであって、租税と異なる法目的を持つ「消防法」等を根拠とする上記主張は、本件特例の適用の論拠とはなり得ないものである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(3) 本件更正処分について

イ 不動産所得の金額
 不動産所得の金額は、請求人と原処分庁との間に争いはなく、また、当審判所の調査によってもその算定に誤りは認められないので、○○○○円となる。
ロ 給与所得の金額
 給与所得の金額は、請求人と原処分庁との間に争いはなく、また、当審判所の調査によってもその算定に誤りは認められないので、○○○○円となる。
ハ 雑所得の金額
 雑所得の金額は、請求人と原処分庁との間に争いはなく、また、当審判所の調査によってもその算定に誤りは認められないので、○○○○円となる。
ニ 一時所得の金額
 上記(2)のハのとおり、本件建物移転補償金は、本件特例の対象となる補償金に該当せず、また、本件建物の移転に要する費用としての補償金であり、一時に偶発的に生じ、労務その他の役務の対価としての性質を有しないものであるから、所得税法第34条第1項に規定する一時所得に当たる。
 そして、上記(2)のイの(ホ)のとおり、本件建物については、平成18年中に取り壊されているが、その取壊費用はA社が負担しているものと認められる。
 そうすると、補償金の交付の目的に従って資産の移転等の費用に充てた金額は認められないから、一時所得の金額に係る総収入金額は、上記1の(4)のハのとおり○○○○円となり、また、その収入を得るために支出した金額は零円である。
 したがって、一時所得の金額は、総収入金額○○○○円から特別控除額500,000円を控除した○○○○円となり、総所得金額に算入されるべき金額は、上記一時所得の金額の2分の1の○○○○円となる。
ホ 分離長期譲渡所得の金額
 分離長期譲渡所得に係る総収入金額は、本件事業に係る土地の対価○○○○円並びにB都市計画道路事業改築工事に係る土地の対価○○○○円及び建物の移転補償金○○○○円の合計○○○○円となる。
 そして、分離長期譲渡所得に係る取得費は、措置法第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費控除》第1項の規定に基づき算出した○○○○円となる。また、譲渡に要した費用の額は、零円である。
 さらに、本件特例に係る特別控除額は、総収入金額から取得費を控除した金額○○○○円が50,000,000円に満たないことから、○○○○円となる。
 そうすると、分離長期譲渡所得の金額は、総収入金額○○○○円から取得費○○○○円を控除し、その残額から譲渡所得に係る特別控除額○○○○円を控除した○○○○円となる。
ヘ 定率減税額
 定率減税額は、経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律(平成18年法律第10号による廃止前のもの。)第6条《定率による税額控除の特例》により計算した金額で、125,000円である。
ト 以上の結果、平成18年分の総所得金額及び納付すべき税額は、いずれも別表の「更正処分等」欄記載の金額と同額となるから、本件更正処分は、適法である。

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(4) 本件賦課決定処分について

 本件更正処分は上記(3)のとおり適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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