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(平21.4.2、裁決事例集No.77 281頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、請求人の外国子会社の資産状態が著しく悪化したため、当該子会社株式の価額が著しく低下したとして損金の額に算入した株式の評価損について、原処分庁が、当該子会社株式の価額の回復可能性がないとはいえず、また、当該子会社に対する増資払込み後1か月程度が経過した事業年度終了の時に評価損が計上されており、当該増資から相当の期間が経過していないことから当該子会社の業績等の回復の見込みがないとはいえないなどとして、法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該増資には当該子会社の業績回復に直結する経済効果はないとして、同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成20年4月25日付で、本件源泉所得イ 請求人は、平成17年4月1日から平成18年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に所得金額を○○○○円及び納付すべき税額を○○○○円と記載して提出期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの。)までにN税務署長に提出した。
ロ N税務署長は、これに対し、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成19年10月31日付で所得金額を○○○○円及び納付すべき税額を○○○○円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税の額を○○○○円及び重加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分(以下、過少申告加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、平成19年12月25日、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成20年3月19日付で、棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、平成20年4月16日、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして審査請求をした。

(3) 関係法令等

 関係法令等の要旨は、別紙のとおりである。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、S国に子会社P社を有している。
ロ P社は、S国における○○の販売を目的として1985年(昭和60年)5月○日に設立された法人であり、設立当時から請求人がすべての株式を保有している。
ハ P社は、Q社との合弁により、S国における○○の製造を目的として1995年(平成7年)10月○日にR社を設立している。
ニ 請求人は、本件事業年度の期首において、P社の発行済株式14,000株すべてを所有し、その帳簿価額は□□□□円(9,500千ドル)である。
ホ 請求人は、平成18年2月○日に、P社に対し2,000千ドルの増資払込み(以下「本件増資」という。)を行い、同社の株式2,000株を新たに取得している。
 その結果、同日現在で請求人が保有するP社の株式数は16,000株となり、その帳簿価額は△△△△円(11,500千ドル)である。
ヘ 請求人は、本件事業年度において、P社の株式の評価換えを行い、平成18年3月31日付で損金経理により帳簿価額から□□□□円を投資有価証券評価損として減額している(以下、この損金経理により帳簿価額から減額した投資有価証券評価損□□□□円を「本件評価損」という。)。
ト 平成18年1月27日に開催された請求人の取締役会(以下「本件取締役会」という。)において、議案(3)「S国事業 事業構造の抜本対策に関する件」が上程され、承認可決されている(以下、当該議案に係る議案書を「本件議案書」という。)。
 本件議案書及びその添付資料には、要旨次のとおり記載されている。
(イ) S国の○○事業は販売の伸び悩みが続いているため、R社の設備リース料の負担が極めて重く、毎年多額の損失を計上している。このため、リース資産を買戻し、減損処理をすることにより資金・損益の両面での抜本的対策を図りたい。その資金としてP社へ12,000千ドル(平成18年1月に2,000千ドル、平成18年7月に10,000千ドル)の追加出資を行いたい。
(ロ) 2005年(平成17年)12月にP社からR社へ2,000千ドルを出資し、R社の債務超過を解消する。R社は、当該出資額を2006年(平成18年)1月から6月までのリース料の支払に充てる。また、2006年(平成18年)7月にP社からR社へ10,000千ドルを出資し、R社はリース設備を買戻し、直ちに減損処理し、損金に算入する。
チ 本件事業年度終了の日におけるP社の1株当たりの純資産価額は、請求人が本件増資により当該株式を取得した時の同社の1株当たりの純資産価額に比しておおむね50%以上下回っている。
リ 本件事業年度終了の時におけるP社の株式の価額は、本件評価損を計上する前の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回っている。
ヌ 原処分庁は、本件事業年度において、本件評価損の計上は認められないなどとして本件更正処分及び本件賦課決定処分を行っている。

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2 主張

(1) 争点1(本件事業年度終了の時において、P社の株式の価額の回復が見込まれないといえるか。)

イ 請求人
 以下の理由から、本件事業年度終了の時において、P社の株式の価額の回復は見込まれない。
(イ) P社の株式の価額の回復可能性の判断を行うのは、本件事業年度終了の時であるから、翌事業年度の増資払込み(具体的には平成18年6月に行われた10,000千ドルの出資)を含めて判断すべきではない。
(ロ) 本件増資は、P社及びR社の資金逼迫により、資金の手当てが必要になったことによる検討の際に、通常であれば、つなぎ資金として「貸付け」とすべきところ、P社の取引金融機関からの強い要請があり、「出資」の形を選択せざるを得なかったものである。したがって、平成18年6月に行われた10,000千ドルの出資(R社がリース資産を買い取るための資金)とは全く別のものである。要するに、本件議案書は、P社の当面の資金逼迫に対する資金の手当て(本件増資)とリース資産の買取りに対する資金の手当て(平成18年6月の10,000千ドルの出資)とを一括して決定したものである。
(ハ) そうすると、本件増資の資金使途は、R社のリース資産に係るリース料の支払に充てられており、実質的には「つなぎ資金の貸付け」である。よって、本件増資には、P社の業績回復に直結する経済効果はない。
(ニ) 仮に、翌事業年度(平成18年6月)に行われた10,000千ドルの出資を考慮して本件事業年度終了の時のP社の株式の価額の回復可能性を判断するとしても、R社によるリース資産の買取りは、今後も継続的に発生するリース料の支払を、資金の手当てをして前倒しで一括して支払うものにすぎず、S国での○○事業そのものの業績の回復とは別のものであり、P社の自力による業況の回復に直結するものではない。
ロ 原処分庁
 以下の理由から、本件事業年度終了の時において、P社の株式の価額の回復が見込まれないとはいえない。
(イ) 本件事業年度において請求人が有するP社の株式について評価損の計上が認められるためには、P社(株式の発行法人)において資産状態の著しい悪化やその有価証券の価額の著しい低下が固定的であって、かつ、近い将来回復の見込みがない状態であることが必要である。
(ロ) P社の株式の価額の回復可能性について
A 以下の理由から、本件増資及び平成18年7月に予定されている10,000千ドルの出資を区分して、本件事業年度終了の時におけるP社の株式の価額の回復可能性を判断すべきではない。
(A) 本件議案書によれば、12,000千ドルの出資はR社の資金収支及び損益の改善を目的として行われたものである。
(B) その資金として、平成18年1月に2,000千ドル(本件増資)、平成18年7月に10,000千ドルの追加出資を行うことが本件取締役会で承認されている。
(C) 本件事業年度終了の時までにP社に対し本件議案書の12,000千ドルの出資の一環として本件増資が行われている。
B そうすると、P社の株式の価額の低迷の一因は、その子会社であるR社が支払う多大なリース料による財務内容の悪化にあると認められるが、P社からR社への2,000千ドルの出資により2005年(平成17年)12月31日時点でのR社の債務超過の状態が解消されており、また、平成18年7月に予定されている10,000千ドルの出資により、R社がリース資産を買い取ることによって、その後のリース料の支払が発生しなくなることから、R社の業績の回復が期待できることとなり、R社の株式の価額の回復、ひいては、その親会社であるP社の株式の価額の回復が期待できる。
(ハ) したがって、本件事業年度において、P社の資産状態の著しい悪化やその有価証券の価額の著しい低下が固定的であって、かつ、近い将来回復の見込みがない状態であるとはいえない。

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(2) 争点2(本件増資直後において、P社の株式について評価損の計上が認められるか否か。)

イ 請求人
(イ) 以下の理由から、本件増資直後においてもP社の株式について評価損の計上は認められる。
A 本件増資は、上記(1)のイの(ロ)のとおり、通常であれば「貸付け」とすべきところ、「出資」の形を選択せざるを得なかったものであり、実質的には「貸付け」である。よって、本件増資が形式上は「出資(増資)」の形をとっているが、そのように至った事情も考慮すべきである。
B 法人税基本通達9−1−12(以下「本件通達」という。)は、増資により業績の回復が期待し得るものを想定している場合の取扱いであり、すべての増資に適用される取扱いではない。平成7年4月14日裁決(東裁(法)平6第243号)(以下「参考裁決」という。)によれば、親会社が欠損の子会社を存続させるためにその子会社に対して増資払込みをすることは、その事情においてやむを得ないものがある場合があることもあり、単に増資払込みの事実をもって業況の回復が見込まれると解するのは相当ではないとしている。
 当該裁決は、いろいろな事由から行われる「増資」について、その実質面を考慮して場合によっては、本件通達の取扱いが及ばない場合があると判断したものと認められる。
 そうすると、上記(1)のイの(ロ)及び(ハ)のとおり、本件増資の資金使途は、R社のリース資産に係るリース料の支払に充てられており、通常であれば「貸付け」とすべきところ、「出資」の形を選択せざるを得なかったものであるから、本件増資には、P社の業績の回復に直結する経済効果はなく、本件通達が想定している増資とは認められない。
(ロ) 原処分庁の主張について
 原処分庁は、増資払込みをする以上は当面その業績の回復を期待するものであることから、一種の形式基準を適用して本件更正処分を行っているが、すべての増資について、本件通達の取扱いが適用されるとは到底思えず、本件通達を極めて形式的に適用した処分である。
ロ 原処分庁
(イ) 以下の理由から、本件増資直後においては、P社の株式について評価損の計上は認められない。
A 本件通達の趣旨は、増資払込みをする以上は、当面その会社の業績の回復を期待するものであることから、一種の形式基準として増資払込み直後における株式の評価損は認めないが、その増資払込み後相当期間を経過してなお業績が回復せず、むしろ悪化しているというような事情が明らかになった場合には、その時点で改めて評価損を計上する余地があることを明らかにしたものであると解される。
 そうすると、増資払込み後の株式の評価損が認められるためには、株式の発行法人において、資産状態の著しい悪化やその有価証券の価額の著しい低下が固定的であって近い将来回復の見込みがない状態であり、かつ、増資払込み後相当期間経過してもなお業績が回復せず、むしろ悪化しているような事情が明らかであることが必要である。
B これを本件についてみると、1上記(1)のロのとおり、P社の資産状態の著しい悪化やその有価証券の価額の著しい低下が固定的であって、かつ、近い将来回復の見込みがない状態であるとはいえないこと、2本件増資から本件事業年度終了の時までに相当の期間が経過しているとはいえず、本件事業年度終了の時においては増資の効果がないと判明したとはいえないことから、業績等の回復の見込みがないことが確実であるとはいえないし、また、本件増資から本件事業年度終了の時までの間に、P社の業績が悪化したと認められる特段の事象も認められない。
(ロ) 請求人の主張について
A 請求人は、本件増資は、増資資金が経費の支払に充てられており、実質的には「貸付け」である旨主張するが、増資資金の使途は会社により異なるものであり、増資資金が経費の支払に充てられたからといって、正当な手続に従って行われた増資が、増資以外の別の取引に変わることはない。
B 請求人が引用する参考裁決では、増資が行われたのは評価損を計上した事業年度ではなく翌事業年度であり、しかも、貸付金を増資払込み金額に充当しており新たな資金が流入していないことからして、本件とは前提となる事実関係が異なっている。また、当該裁決は、増資直後の株式の評価損が認められると判断しているものではない。
C 請求人は、本件増資には、P社の業績の回復に直結する経済効果はなく、本件通達が想定している増資とは認められず、本件処分が本件通達を極めて形式的に適用した処分である旨主張するが、本件通達が適用される増資には、株式の発行法人が増資直前に債務超過の状態にあり、かつ、その増資後に債務超過が解消していないような増資であっても含まれるのであり、また、本件事業年度においてP社の株式の評価損を損金の額に算入することができないことについては、上記(イ)のBのとおりである。

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(3) 争点3(本件事業年度において、本件増資前のP社の株式(旧株式)について評価損の計上が認められるか。)

イ 請求人
 請求人の経理処理においては、本件増資前の株式(旧株式)について評価損の計上を行い、本件増資に係る株式(新株式)については評価損の計上を行っていないのであるから、仮に、請求人の上記(1)のイ及び(2)のイの主張が認められないとしても、本件増資前の株式(旧株式)については評価損の計上を認めるべきである。
 本件増資が、仮に翌事業年度期首(平成18年4月1日)に行われていた場合には、本件事業年度において旧株式の評価損を計上することについて何の問題も生じなかったであろうから、本件増資が本件事業年度終了時の前か直後であるかによって、税務上の取扱いが異なるということは理解し難い。
ロ 原処分庁
 有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出について法人税法が認めている評価の方法は、移動平均法又は総平均法であって、これらは、いずれも銘柄の異なるごとに区分し、その銘柄を同じくする有価証券について、その一単位当たりの計算をする方法であり、同一銘柄のものを取得日ごとに区分して評価する方法は認められていない。
 株式の評価損の損金算入の適否の判断においても、事業年度終了の時に有する同一銘柄の株式すべてについて、回復可能性をも含め評価換えの直前の帳簿価額と事業年度終了の時の価額を比較して判断することから、本件増資前の株式(旧株式)についてのみ評価損を計上することはできない。

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3 判断

(1) 本件更正処分について

イ 本件事業年度終了の時において、P社の株式の価額の回復が見込まれないといえるか否かについて(争点1)
(イ) 法令解釈
A 別紙の1のとおり、法人税法第33条第1項は、原則として、資産の評価損は、各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入しない旨規定し、同条第2項は、金銭債権を除く資産につき災害による著しい損傷その他の政令で定める事実が生じたことにより、当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなった場合に、当該法人が当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、その減額した部分の金額のうち、その評価換えの直前の当該資産の帳簿価額とその評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額は、同条第1項の規定にかかわらず損金の額に算入する旨規定している。
B そして、別紙の2のとおり、法人税法施行令第68条第1項第2号ロは、法人税法第33条第2項の「政令で定める事実」として、上場有価証券等以外の有価証券については、「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したことにより、その有価証券の価額が著しく低下したこと」とする旨規定しているが、当該規定は、資産の評価損の損金算入が認められる特定の事実について一般的、抽象的に表現されているため、その具体的判断基準として法人税基本通達9−1−9ないし同通達9−1−13が定められている。
C これらの通達によると「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」については、別紙の5のとおり、法人税基本通達9−1−9の(2)において、当該事業年度終了の日における当該有価証券の発行法人の1株当たりの純資産価額が当該有価証券を取得した時の当該発行法人の1株当たりの純資産価額に比しておおむね50%以上下回る場合である旨定められ、また、「有価証券の価額が著しく低下したこと」については、別紙の7のとおり、同通達9−1−11において、同通達9−1−7を準用し、当該有価証券の当該事業年度終了の時における価額がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないことをいうものとする旨定められている。
D 上記Aのとおり、そもそも法人税法は、資産の評価損の損金算入を原則として認めていないことから、その例外である資産の評価損の損金算入を認める場合を規定する法人税法第33条第2項及び同法施行令第68条の取扱いについては、これを限定的に解すべきであり、また、評価損の損金計上を認める場合の例示として災害による著しい損傷を挙げていることからすると、政令で定める事実については、これと同程度ないしはそれに準ずる程度の資産価値の減少が生じていることを要すると解される。さらに、法人税法は、資産の評価益の益金算入を原則認めていないので、有価証券の価額の低下が、一時的あるいは回復可能性がないとはいえないような場合に評価損の損金算入を認めると、その後仮に価額が回復したとしても法人税法上益金としてとらえることができないことになるから、有価証券の評価損の損金算入を認めるような価額の減少は、その状態が、一時的又は回復の見込みがないとはいえない状態ではなく、固定的で回復の見込みがない状態にあることを要すると解すべきである。
 そうすると、法人税基本通達9−1−9ないし同通達9−1−13が、有価証券を発行する法人の資産状態の著しい悪化や有価証券の価額の著しい低下の判断基準として50%基準を採用し、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないことも加味して判断するとしていることは、評価損の損金算入要件の具体的判断基準として合理性を有しており、この取扱いは、当審判所においても相当であると認められる。
E そして、有価証券の価額の低下をもたらす原因事実である、有価証券を発行する法人の資産状態の悪化についても、それが一時的なもので、回復する見込みがないとはいえないような場合には、その結果としての有価証券の価額の低下も固定的でなく、回復する見込みがないとはいえないことになるから、有価証券を発行する法人の資産状態の悪化についても、その悪化が固定的で回復する見込みがない状態にある場合に初めて著しく悪化したと解するのが相当である。
(ロ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 請求人におけるP社の株式の取得の状況は、別表1のとおりである。
B P社及びQ社におけるR社の株式の取得の状況は、別表2のとおりであり、P社は、2006年(平成18年)3月31日(本件事業年度終了の日)の段階で、R社の発行株式115,000株のうち111,000株(優先株を含む。)を有している。
 なお、優先株は、議決権を有しないが、配当を優先して受ける権利及び会社を清算した場合に残余財産の分配を優先して受ける権利を有している。
C P社の2005年(平成17年)12月31日現在の貸借対照表の資産の部の金額約14,668千ドルのうち、R社の株式の金額が11,100千ドルを占めており、そのほかに多額の含み損益を有するような資産は認められない。
D R社は、2005年度(平成17年)までの4年間、毎年2,000千ドル前後の欠損を計上しており、この間のリース資産に係る費用も、毎年2,000千ドル前後であった。
E 本件取締役会開催の時(平成18年1月27日)における、請求人のS国事業(P社及びR社によるS国における○○等の販売と製造事業)に対する構造改革の考え方及び構造改革の実施方法の要旨は次のとおりであり(「S国事業・事業構造の抜本対策案」と題する本件議案書の添附資料)、当該構造改革による、リース取引を継続した場合とリース資産を買い取り減損処理した場合の今後のS国事業の損益計画は、別表3及び4のとおり、また、リース資産を買い取り、リース料の支払がなくなった場合のS国事業のキャッシュフロー計画は、別表5のとおりと見込まれている。
(A) R社が支払うリース資産に係るリース料が、損益面ばかりでなく資金面の両面で大きな負担を生じている。
(B) リース資産をR社が買い取り減損処理することにより、資金の流出を停止することができ、損益面の改善にもなる。
(C) リース資産の契約では、解約するのに6か月前の通告を必要とし、2006年(平成18年)6月末日の実行が最短となる。
 したがって、12,000千ドルの資金を注入すれば、6月までのリース料の支払と6月末のリース資産の買取りが実行できる。
(D) P社が連結ベースで2005年(平成17年)12月末に債務超過になることと、資金が逼迫状態にあるため、12,000千ドルのうち2,000千ドルを先行し、リース資産買取りの時期に残額を払い込むことが適当である。
F 2006年(平成18年)3月21日に行われたR社の取締役会及び株主総会の議案書及び議事録には、要旨次の記載がある。
(A) R社は、2005年(平成17年)12月に、P社を引受先として2,000千ドルの優先株を発行し、払込金額はP社の手形借入金と相殺した。
(B) R社は、リースに係る費用及び支出が多額であるため、営業利益やキャッシュフローが赤字になる傾向がある。R社の経営を健全にするため、この過剰な重荷を取り除くことが必要である。よって、R社はリース契約を解除し設備を買い取ることとし、そのために必要な資金10,000千ドルを調達するため、R社は2006年(平成18年)6月に10,000千ドルの優先株を発行し、P社がこれを引き受けることとする。
G 2005年(平成17年)12月○日に行われたP社からR社への2,000千ドルの出資は、R社に対する貸付金を株式に振り替えたものであるが、これによりR社は債務超過の状態を解消している。
H 本件増資によりP社及びR社の連結貸借対照表ベースでも債務超過の状態を解消している。
I 2006年(平成18年)3月にP社はR社に対し、1,450千ドルの貸付けを行っている。
J R社は、2006年(平成18年)3月にリース資産に係るリース料約1,562千ドルの支払を行っている。
K 請求人は、平成18年6月○日に、P社に対し10,000千ドルの増資払込みを行っている。
L P社は、2006年(平成18年)6月○日に、R社に対し10,000千ドルの増資払込みを行っている。
M R社は、2006年(平成18年)6月に、リース資産に係るリース契約を解除し、リース資産を買い取り、解約までのリース料、解約コスト及びリース資産の買取り価額として合計約9,566千ドルの支払を行っている。
(ハ) 本件への当てはめ
 上記(イ)のとおり、上場有価証券等以外の有価証券について評価損の損金算入が認められるためには、1当該事業年度終了の日における当該有価証券の発行法人の1株当たりの純資産価額が当該有価証券を取得した時の当該発行法人の1株当たりの純資産価額に比しておおむね50%以上下回ること、2当該有価証券の当該事業年度終了の時における価額がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ること及び3近い将来その価額の回復が見込まれないことが必要であるが、上記1の(4)のチ及びリのとおり、1及び2の事実が生じていたことについては請求人と原処分庁との間に争いがなく、3について争いがあるので、以下判断する。
A 上記(イ)のEのとおり、株式を発行する法人の資産状態の悪化が、一時的なもので、回復する見込みがないとはいえないような場合には、その結果としての株式の価額の低下も固定的でなく、回復する見込みがないとはいえないことになるから、P社が発行する株式の価額の回復可能性については、発行法人であるP社の資産状態の悪化が固定的で回復する見込みがない状態であるか否かについての検討が必要である。
 そして、上記(ロ)のB及びCのとおり、P社の資産状態は、同社が保有するR社の株式の価額が大きく影響すると認められること及び上記1の(4)のロ及びハのとおり、P社がS国における○○等の販売を業とし、R社がそのための○○等の製造を業としている両社の関係からも、P社の資産状態の著しい悪化及びP社の株式の価額の著しい低下の有無を検討するためには、R社の株式の価額の回復可能性の検討が必要である。
B また、P社の株式の価額の回復可能性の判断は、本件事業年度終了の時に行うことになるが、将来の回復可能性について判断を行うのであるから、本件事業年度終了の時までの発行法人の業況等や既に行われた事実のみではなく、本件事業年度終了の時までに既に具体的に実行することが決定されていた翌事業年度以降の事業計画等がある場合には、これについても含めた上で判断することが相当であると認められる。
C これを本件についてみると、上記1の(4)のホ及びトのとおり、平成18年1月27日(本件事業年度中)に開催された本件取締役会において、R社によるリース資産の買取りが実施されるまでのリース料及び買取り資金として、請求人がP社に対し、それまでの資本金の額を超える総額12,000千ドル(平成18年1月に2,000千ドル、平成18年7月に10,000千ドル)の追加出資を行うとともに、P社がR社に対し同額の出資を行うことが承認され、平成18年2月○日には請求人がP社に2,000千ドルの増資払込みを行っており、これを受けて、R社側においても、上記(ロ)のFのとおり、平成18年3月21日のR社の取締役会及び株主総会において、リース資産を買い取ること及び買取り資金の調達については優先株を発行し、P社がこれを引き受けることが承認されていることから、本件事業年度終了の時におけるP社の株式の価額の回復可能性については、本件事業年度終了の時に既に具体的に実施することが決定されていたこのS国事業の経営改善計画も含めて判断することが相当である。
 そうすると、R社の資産状態の悪化をもたらしている原因は、上記(ロ)のD及びFの(B)のとおり、リースに係る費用及び支出が多額であることによるものと認められるところ、上記1の(4)のト及び上記(ロ)のEのとおり、S国事業の経営改善のためR社によるリース資産の買取りが計画され、S国事業の経営改善計画の実施により、その後のS国事業の損益計画及びキャッシュフロー計画をみても、2007年(平成19年)から、S国事業は単年度ベースで利益が生じること及びこれに伴って資産状態が改善されることが見込まれており、更に当審判所の調査においても、S国事業の損益計画及びキャッシュフロー計画について特に不自然なところはなく、リース資産買取り後は、R社においてリース料の支払がなくなり資金の流出が抑制され、R社の資産状態が改善されることから、これをもってP社の資産状態も改善される方向にあったと認められる。
D 以上のことから、本件事業年度終了の時において、P社の資産状態の悪化が固定的で回復する見込みがないとはいえないから、その結果として、P社の株式の価額の回復が見込まれないとはいえない。よって、本件評価損を損金の額に算入することはできない。
(ニ) 請求人の主張について
 請求人は、P社の株式の価額の回復可能性の判断には、翌事業年度の増資払込みを含めて判断すべきではない旨及び仮に翌事業年度に行われる10,000千ドルの出資を考慮して本件事業年度終了の時のP社の株式の価額の回復可能性を判断するとしても、R社によるリース資産の買取りは、今後も継続的に発生するリース料の支払を、資金の手当てをして前倒しで一括して支払うものにすぎず、S国での○○事業そのものの業績の回復とは別のものであり、P社の自力による業況の回復に直結するものではない旨主張する。
 しかしながら、上記(ハ)のB及びCのとおり、本件事業年度終了の時においてP社の株式の価額の回復可能性を判断する際には、本件事業年度終了の時に既に具体的に決定されていたS国事業の経営改善計画も含めて判断することが相当である。
 また、P社の株式の価額の回復が見込まれると判断した理由は上記(ハ)のC及びDに記載したとおりであり、本件増資及び10,000千ドルの出資(増資)によって、単純にP社の資産(現預金)が増加し、資産状態が改善されることを理由とするものではない。すなわち、本件増資及び翌事業年度に行われる10,000千ドルの出資(増資)は、R社が行うリース資産の買取りという経営改善計画を実施するために行われるものであり、この経営改善計画の実施により、2007年(平成19年)からS国事業全体として単年度ベースで利益が生じ、これに伴って資産状態が改善される方向にあったと判断したものである。そして、当該経営改善計画は、S国での○○事業における売上高の増加に直結するような計画ではないが、R社自身の経営改善を行うための計画であり、P社の資産状態の改善及び株式の価額の回復に直結するものである。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ロ 本件増資直後において、P社の株式について評価損の計上が認められるか否かについて(争点2)
(イ) 本件通達は、別紙の8のとおり定められており、増資払込みをする以上は、当面その業績の回復を期待するものであろうから、一種の形式基準として増資払込み直後における株式の評価損の計上は認めないこととしていると解されるところ、本件においては、上記イの(ハ)のDのとおり、本件事業年度終了の時において、P社の資産状態の悪化が固定的で回復する見込みがない状態とはいえず、その結果として、P社の株式の価額の回復が見込まれないとはいえないと認められることから、本件通達が適用されるか否かにかかわらず、本件評価損を損金の額に算入することはできない。
(ロ) 請求人の主張について
 請求人は、本件増資は、本件通達が想定している増資とは認められない旨及び原処分庁は本件通達を極めて形式的に適用した処分である旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ハ)のDで判断したとおり、そもそも、本件事業年度終了の時において、P社の株式の価額の回復が見込まれないとはいえないから、本件事業年度において本件評価損の計上は認められない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ハ 本件事業年度において、本件増資前のP社の株式(旧株式)について評価損の計上が認められるか否かについて(争点3)
(イ) 法令解釈
A 別紙の1のとおり、法人税法第33条第2項は、法人が資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、その減額した部分の金額のうち、その評価換えの直前の当該資産の帳簿価額とその評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額は、同条第1項の規定にかかわらず損金の額に算入する旨規定している。また、別紙の3のとおり、法人税法施行令第119条の2第1項は、有価証券の譲渡に係る原価の額を計算する場合におけるその一単位当たりの帳簿価額の算出方法は、移動平均法又は総平均法とする旨規定し、いずれの算出方法も有価証券をその銘柄の異なるごとに区分した上で、その銘柄を同じくする有価証券について計算する方法であり、同一銘柄のものを取得日ごとに区分して計算することが認められていない。
 そうすると、評価換えをした資産が有価証券の場合には当該事業年度終了の時に有する同一銘柄のすべての有価証券について、その評価換えの直前の帳簿価額と事業年度終了の時の価額とを比較するものと解され、同一銘柄の有価証券を増資を行う前の旧株式と増資により引き受けた新株式とに分けて事業年度終了の時の価額と比較することはできないと解される。
(ロ) 本件への当てはめ
 これを本件についてみると、本件事業年度終了の時に有していたP社の株式16,000株(本件評価損を計上する前の帳簿価額△△△△円)すべてについて、旧株式と新株式に分けることなく、本件事業年度終了の時においてP社の資産状態が著しく悪化したため、P社の株式の価額が著しく低下しているか否かを判断するのであるから、本件増資前のP社の株式(旧株式)についてのみ、評価損の計上を行うことは認められない。
 そして、本件事業年度において、本件増資前のP社の株式(旧株式)も含めP社の株式すべてについて本件評価損の計上が認められないことについては、上記イの(ハ)のDにおいて述べたとおりである。
ニ 本件事業年度における本件評価損計上の適否については、上記イないしハのとおりであるから、本件事業年度において本件評価損を損金の額に算入することはできないとしてされた本件更正処分は適法である。

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(2) 本件賦課決定処分について

 本件更正処分は上記(1)のニのとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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