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(平21.6.9、裁決事例集No.77 461頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、不動産の所有権移転登記等を経由する際に納付した登録免許税について、非課税事由があるとして還付請求をしたのに対し、原処分庁が、当該各登記の申請書に非課税証明書の添付がなかったとして還付の通知をすべき理由がない旨の通知処分を行ったため、請求人が、同処分の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、別表1及び2記載の各不動産(以下「本件各不動産」という。)について、別表3の「登記申請」欄記載の各登記(以下「本件各登記」という。)の申請をした。
 請求人は、本件各登記に係る申請書(以下「本件各登記申請書」という。)に、別表3の「登記申請」欄記載の登録免許税の額に相当する金額の収入印紙をそれぞれはり付けて、登録免許税を納付した。
ロ その後、請求人は、平成20年8月15日、A地方法務局登記官Bに対し、本件各登記に係る登録免許税は非課税となるので、上記イの納付した登録免許税につき、登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第2項の規定による所轄税務署長に対し還付通知をすべき旨の請求(以下「本件還付通知請求」という。)をした。
ハ A地方法務局登記官Bは、平成20年8月28日付で、請求人に対し、還付の通知をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成20年10月6日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件各登記申請書に本件非課税証明書を添付しないで本件各登記の申請をした。
ロ A地方法務局の登記官は、本件各不動産の登記簿に、本件各登記に係る事項をそれぞれ記録した。
ハ 請求人が納付した登録免許税は、1別表1の不動産については、登録免許税法第9条《課税標準及び税率》及び同法別表第一の1の(2)のハの規定に基づき、課税標準の額○○○○円に税率1,000分の20を乗じて計算した金額○○○○円(100円未満の端数金額は切捨て)、2別表2の不動産については、租税特別措置法(平成20年法律第23号による改正前のものをいう。)第72条《土地の売買による所有権の移転登記等の税率の軽減》第1項の規定に基づき、課税標準の額○○○○円に税率1,000分の10を乗じて計算した金額○○○○円である。

(5) 争点

 本件の争点は、本件各登記について、登録免許税法第4条第2項及び同法別表第三の12第3欄の第1号に規定する非課税事由があったことを理由に、納付した登録免許税の還付請求が認められるか否かである。

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2 主張

(1) 請求人

イ 登録免許税を課税するか否かは、請求人が、取得した本件各不動産を実際に宗教活動に利用しているか否かを、時間をかけて確認した上で実績をもとに判断すべきであり、本件各不動産を宗教活動のみに利用していれば非課税と判断される。納税する必要のない税金を納付した場合、後日還付請求をすれば、全額還付されるはずであり、請求人が納付した登録免許税は、誤納であるから還付されるべきである。
ロ 登録免許税法第4条第2項は、取得した不動産を宗教活動のみに利用するか否か不明な段階で、購入時の書面のみの形式的な判断で非課税証明書を発行させるものであり、実質課税の原則に反している。
 また、宗教法人である請求人が納税を拒否しているにもかかわらず、強制的に登録免許税を課すことは、宗教法人について非課税が原則である政教分離の原則(憲法)の精神にも反している。

(2) 原処分庁

イ 宗教法人が、登録免許税法第4条第2項の規定(以下「本件非課税規定」という。)の適用を受けるためには、あらかじめ都道府県知事等から本件非課税証明書の交付を受けた上、これを登記の申請書に添付しなければならないところ、本件各登記申請書には、本件非課税証明書の添付がなかったのであるから、過誤納付の事実は認められない。
ロ 請求人の実質課税の原則に反するとか、政教分離の原則からしても認められるべきとの主張は、本件還付通知請求を理由付けるものではない。

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3 判断

(1) 登録免許税法第4条第2項及び同法別表第三の12第3欄の第1号は、宗教法人が、専ら自己又はその包括する宗教法人の宗教の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物の所有権の取得登記又は同条に規定する境内地の権利の取得登記については、登録免許税を課さない旨規定するが、同第4欄は、これを同号の登記に該当するものであることを証する財務省令で定める書類(本件非課税証明書)の添付があるものに限る旨規定している。
 また、登録免許税法第4条第2項は、登録免許税を課さない登記等は、同法別表第三の第4欄に財務省令で定める書類の添付があるものに限る旨の規定がある登記等にあっては、当該書類を添付して受けるものに限る旨、その要件を明確に規定している。
 これは、権利に関する登記の申請があった場合、登記官の審査対象は、申請書類及び登記簿に限定される (形式的審査権)ことも考慮し、宗教法人が本件非課税規定の適用を受ける際の要件として、本件非課税証明書の添付を要求したものと解される。

(2) これを本件についてみると、上記1の(4)のイないしハのとおり、請求人は、本件各登記の申請の時に本件非課税証明書を添付せず、本件非課税規定を適用しないところで登録免許税の額を算出してこれを納付しており、原処分庁は、本件非課税証明書の添付がない本件各登記申請書を受理し、本件各登記を完了したことが認められる。
 本件非課税規定は、登録免許税を非課税にするという例外的な規定であることからすると、その適用に際しては、厳格に解釈するべきであり、本件各登記について手続的要件を満たしていない以上、本件非課税規定の適用を受けることはできないというべきである。

(3) 請求人の主張について

イ これに対し、請求人は、本件各登記に係る登録免許税については、取得した本件各不動産を実際に宗教活動に利用していることを確認した上で非課税とすべき旨主張する。
 しかし、登録免許税は、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する租税である(国税通則法第15条第3項第5号)。
 そして、登録免許税の納税義務は登記等の時に成立し(同条第2項第12号)、同時に納付すべき税額が確定することとなる。
 また、登録免許税法には、本件非課税証明書の追完による本件非課税規定の適用を認める規定は存在しない。
 したがって、請求人の上記主張は、上記のような登録免許税の制度と相容れない主張であるといわざるを得ず、採用することができない。
ロ なお、請求人は、本件非課税規定は実質課税の原則に反している旨、また、請求人に対し、本件各登記に係る登録免許税を課すことは、政教分離の原則(憲法)の精神にも反している旨主張するが、これらの主張は、いずれも当審判所の権限に属さない、法律の当否ないし合憲性に関する主張であるから、審理の対象とならない。

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(4) 本件通知処分について

 以上によれば、本件各登記については、本件非課税規定の適用を受けることはできない。また、請求人が納付した本件各登記に係る登録免許税の額に誤りは認められないから、本件還付通知請求に対し、還付の通知をすべき理由がないとしてされた本件通知処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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