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(平21.4.7、裁決事例集No.77 567頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、滞納者亡A(以下「本件滞納者」という。)が子である審査請求人(以下「請求人」という。)に対し土地等の生前贈与をした後に死亡し、本件滞納者の滞納国税が相続財産法人に承継されたところ、原処分庁が当該滞納国税を徴収するため、請求人に対して国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》による第二次納税義務の納付告知処分をしたのに対し、請求人が、本件滞納者の死亡により納付することになった相続税(以下「本件相続税」という。)は、当該贈与について相続時精算課税を選択したことにより納付することになったもので、贈与税の精算に当たるものであるから、当該贈与のために支払った対価又は費用として、第二次納税義務の限度額の算定に当たって控除すべきであるとして、その一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、本件滞納者の滞納国税について、平成13年1月23日から平成19年5月24日までの間、国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、B税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ロ 本件滞納者が平成19年9月○日に死亡し、相続人となるべき者は請求人を含めいずれも相続を放棄したことにより、相続人のあることが明らかでないこととなったことから、本件滞納者の滞納国税の納税義務は、通則法第5条《相続による国税の納付義務の承継》第1項の規定に基づき、相続財産法人である亡A相続財産に承継された。
ハ 原処分庁は、請求人が本件滞納者から別表1の贈与を受けていたとして、平成20年4月9日付で、請求人に対して、本件滞納者を承継した亡A相続財産の滞納国税について請求人を第二次納税義務者として徴収するため、徴収法第32条《第二次納税義務の通則》第1項の規定に基づき、別表2の第二次納税義務の告知処分(以下「本件納付告知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、平成20年6月9日、本件納付告知処分を不服として、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項第2号の規定に基づき、異議申立てを経ないで、審査請求をした。
ホ 原処分庁は、平成20年7月3日付で、本件納付告知処分の一部について、別表3のとおり取り消した。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙1のとおり

(4) 基礎事実

イ 請求人は、B税務署長に対し、別表1の番号1の贈与について、平成18年分贈与税を法定申告期限までに納付すべき税額を○○○○円として申告し、併せて、相続時精算課税の適用を受けるため、本件滞納者を特定贈与者とする相続時精算課税選択届出書を提出した。
ロ 請求人は、平成20年5月8日に、B税務署長に対して、別表1の番号2の贈与について、納付すべき税額の増加額を○○○○円とする平成18年分贈与税の修正申告書を提出した。
ハ 請求人は、別表1の番号3の贈与について、贈与を受けた日が本件滞納者の死亡した年(相続開始の年)であったこと及び上記イのとおり相続時精算課税を選択していたことから、別表4のとおり、本件滞納者に係る相続税の申告額に含め、法定申告期限までに申告した。

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2 主張

 別紙2のとおり

3 判断

(1) 法令解釈等

イ 徴収法第39条の第二次納税義務は、滞納者の国税につき、滞納者の財産に対する滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合に、その不足すると認められることが、滞納者の行った無償譲渡等の処分に基因すると認められるときは、その処分により利益を受けた者を、滞納者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しない滞納者に準ずる者とみて、受けた利益が現に存する限度で、滞納者の国税についての履行責任を、利益を受けた者に補充的に負わせることにより国税の徴収確保を図るものである。
 さらに、同条は、滞納者の無償譲渡等の処分により利益を受けた者が滞納者の親族その他の特殊関係者である場合には、滞納者と特殊関係者の特別の関係にかんがみ、その受けた利益が現存しなくてもなお「受けた利益の限度」において第二次納税義務を負わせ、その責任の範囲を拡張している。
 ここにいう「受けた利益の限度」の額は、徴収法第39条が滞納者の親族その他の特殊関係者に、その受けた利益が後に現存しなくてもなお受けた利益の限度において第二次納税義務を負担させていることからすれば、当該受益の時を基準として算定するのが相当である。そうすると、その算定上受益財産の価額から控除すべき対価及び費用は、当該受益の時においてその存否及び数額が法律上客観的に確定しているものであることを要すると解するのが相当である。
ロ ところで、贈与税の申告に当たって相続時精算課税を選択した相続時精算課税適用者が、その後納付する相続税又は還付を受けることとなる贈与税相当額は、特定贈与者の死亡による相続開始の時に、当該贈与により取得した財産と相続又は遺贈により取得した財産とを合計した価額から相続債務や葬式費用、基礎控除等を控除した価額を基に相続税額を計算し、当該相続税額から更に既に支払った当該贈与税額を控除して算出するものである。
 そうすると、相続時精算課税適用者の相続税は、贈与によって取得した財産の価額のみならず、当該贈与から特定贈与者の死亡までの財産の得喪及び債務の増減、相続開始日までの推定相続人の人数の増減、当該贈与を受けた者が相続又は遺贈によって取得した財産の価額や相続債務等により、その存否又は納付すべき税額が決定されるのであるから、受益の時においてその存否及び数額が法律上客観的に確定しているとはいえない。
 したがって、当該相続税は、徴収法第39条の「受けた利益の限度」の額の算定に当たり、受益財産の価額から控除することができないと解するのが相当である。

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(2) 請求人の主張について

イ 請求人は、本件相続税は、相続時精算課税を選択していたがために生じたものであるから、贈与税の精算と解して受益財産の価額から控除すべきである旨主張する。
 しかしながら、たとえ相続時精算課税適用者の相続税の算出に当たって贈与税の額を控除しているとしても、上記(1)のとおり、当該相続税額は、受益の時に確定していないのであるから、「受けた利益の限度」の額の算定に当たって控除することはできないというべきである。
ロ 請求人は、本件納付告知処分の段階で、原処分庁が本件相続税の額がいくらになるかを推定することは可能であったのであるから、徴収法基本通達第39条関係12の(7)に基づき当然に控除すべきである旨主張する。
 徴収法基本通達第39条関係12の(7)は、同通達(6)に定める受益財産から控除すべきその物を譲り受けるための対価又は費用のうち、金額が確定していなくても、その存在が確実と認められるものについての取扱いを明らかにしたものであるから、同通達に基づく取扱いが許されるのは、その物を譲り受けるための対価又は費用としての性質を有するもののみである。
 ところで、上記(1)のロのとおり、相続時精算課税適用者の相続税は、贈与により取得した財産と相続又は遺贈により取得した財産とを合計した価額から相続債務や葬式費用、基礎控除等を控除した価額を基に相続税額を計算し、当該相続税額から更に既に支払った当該贈与税額を控除して算出するものであるから、贈与財産を取得するために必要なものではないし、贈与による財産権の移転と直接関連する租税であるともいえない。
 そうすると、相続時精算課税適用者の相続税は、その物を譲り受けるための対価又は費用とはいえないから、本件納付告知処分の段階で、原処分庁が本件相続税の額がいくらになるかを推定することは可能であったとしても、徴収法基本通達第39条関係12の(7)によっても控除することはできない。
 また、特定贈与者の死亡後に第二次納税義務の納付告知処分を行う場合には、相続税額は計算可能であるが、特定贈与者の死亡の前に第二次納税義務の納付告知処分をする場合には、その時点では相続税額の算定が不可能である。そうすると、仮に、請求人の主張するように、特定贈与者の死亡後に第二次納税義務の納付告知処分を行う場合に「受けた利益の限度」の額の算定上、相続税を控除することを認めると、同一の価額の財産について贈与を受けた場合でも、特定贈与者の死亡の時期及び納付告知処分の時期によって「受けた利益の限度」の額が違うことになり、第二次納税義務者間の負担の公平が損なわれることからしても、請求人の主張は採用できないというべきである。
ハ 請求人は、仮に本件相続税が、「受けた利益の限度」の額の算定上控除できないとすれば請求人が負うべき第二次納税義務は、請求人の受益額を超えて請求人の固有の財産にまで及ぶことが明白であるから、不当である旨主張する。
 しかしながら、徴収法第39条の第二次納税義務は、滞納者の無償譲渡等の処分により利益を受けた者が滞納者の親族その他の特殊関係者である場合には、その特別の関係にかんがみ、受益の時点を基準として算定された「受けた利益の限度」が、その後の事情により現存しなくなった場合でも、なお「受けた利益の限度」で責任を負うことを趣旨としているものであることからすると、第二次納税義務者の固有の財産をもって第二次納税義務の責任を負う場合があることが当然に予定されているものであるから、本件相続税を固有の財産をもって負担することが特に不当なものとはいえない。
ニ したがって、これらの点に関する請求人の主張にはいずれも理由がない。

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(3) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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