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(平21.6.22、裁決事例集No.77 582頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、滞納者から事業を譲り受けた審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、国税徴収法第38条の規定により、請求人は当該滞納者が納付すべき滞納国税について第二次納税義務を負うとして原処分を行ったところ、請求人が、同条にいう「譲受財産」には消極財産も含まれると解すべきであり、請求人は滞納者から積極財産である資産と同額の消極財産である負債も譲り受けているのであるから、請求人が負担すべき第二次納税義務の限度額は零円になるなどと主張して、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成20年2月29日付で、納税者C社(以下「本件滞納者」という。)が納付すべき別表1記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、請求人に対し、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第38条《事業を譲り受けた特殊関係者の第二次納税義務》の規定により、請求人は本件滞納国税について第二次納税義務を負うとして、同法第32条《第二次納税義務の通則》第1項の規定に基づき、請求人が本件滞納者から譲り受けた財産を限度とする第二次納税義務の納付告知処分(以下「本件告知処分」という。)をした。
ロ 請求人は、本件告知処分を不服として、平成20年4月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月27日付で棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の本件告知処分に不服があるとして、平成20年7月25日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 別紙1記載のとおりである。

(4) 当事者間に争いがなく、証拠により容易に認定できる事実等

イ 本件滞納者は、請求人の元代表取締役Dを判定の基礎とする同族会社で、P市p町○○番地において○○販売業を営んでいた。
ロ 請求人は、次の(イ)及び(ロ)の手続を経て、平成18年11月末日(以下「本件事業譲渡日」という。)に、本件滞納者の全事業である○○販売業を譲り受けた。
(イ) 本件滞納者は、平成18年11月22日付で、請求人との間で、本件滞納者の事業を譲渡する(以下、この譲渡を「本件事業譲渡」という。)旨の契約を締結し、要旨別紙2記載のとおりの契約書を作成した。
(ロ) 本件滞納者及び請求人は、平成18年11月28日に、各臨時株主総会において、本件事業譲渡日をもって、本件滞納者が本件滞納者の事業の全部を請求人に譲渡することを、また、請求人が本件滞納者の事業の全部を譲り受けることを、それぞれ決定した。
ハ 請求人は、本件事業譲渡を受けた後、本件滞納者が事業を営んでいた場所と同じP市p町○○番地において、○○販売業を営んでいる。
 なお、請求人は、本件事業譲渡時において、Dの配偶者であるEを判定の基礎とする同族会社であった。
ニ 本件滞納者は、平成19年4月○日に、F地方裁判所において破産手続開始決定を受け、同年7月○日に破産手続廃止決定がなされた。

(5) 争点

 徴収法第38条にいう「譲受財産」には消極財産が含まれるか否か、また、同条にいう「譲受財産を限度」とは、本件告知処分の日現在で残存する財産の価額か否か。

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2 主張

(1) 原処分庁

イ 徴収法第38条にいう「譲受財産」は、次の理由から、譲り受けた事業に属する積極財産である資産のみをいうものと解すべきであり、請求人は、本件滞納者から本件事業譲渡により譲り受けた積極財産を限度として第二次納税義務を負うことになる。
(イ) 徴収法第38条の第二次納税義務は、その責任の範囲を「譲受財産」に限定しており、それ以外の財産には及ばないとする規定であることからすれば、滞納処分の引当財産となりえない消極財産は「譲受財産」に含まれないと解される。
(ロ) また、滞納者が事業譲渡をせずに事業を継続していた場合、滞納者が債務超過の状態であっても、滞納者に差押可能な財産が存在すれば、当該財産に対して滞納処分を執行することは可能なのであるから、仮に請求人の主張するように「譲受財産」に消極財産も含まれるとすると、滞納者から特殊関係者に対する事業譲渡の場合に、積極財産から消極財産を差し引いた結果として、滞納処分が可能な財産の範囲が縮減もしくは消滅することになり、請求人の主張する解釈は妥当ではない。
ロ なお、徴収法第38条は、「譲受財産を限度」として事業の譲受人が第二次納税義務を負うとする規定であるから、その責任の範囲は、事業譲渡時に譲受人が滞納者から譲り受けた財産そのものというべきであり、譲り受けた財産の価額をいうものではない。

(2) 請求人

イ 事業譲渡に係る財産には資産及び負債の双方が含まれることが前提であることは次の各規定等からも明らかであるから、徴収法第38条にいう「譲受財産」とは、資産及び負債のことで、積極財産である資産のみならず消極財産である負債も含まれると解すべきである。
 そうすると、別表2記載のとおり、請求人は、本件事業譲渡により、本件滞納者から積極財産である資産と同額の消極財産である負債を譲り受けているのであるから、請求人が負担すべき第二次納税義務の限度は零円である。
(イ) 昭和40年9月22日最高裁判所判決によれば、事業譲渡とは、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業活動の全部又は重要な一部を受け継がせるものである。
(ロ) 会社計算規則第29条は、事業の譲受会社は事業の譲受に際して、資産又は負債としてのれんを計上することができる旨規定している。
(ハ) 法人税法第62条の8《非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の損金算入等》は、内国法人が非適格合併等によって被合併法人等から資産又は負債の移転を受けた場合における資産調整勘定又は負債調整勘定に係る会計処理について規定している。
ロ なお、仮に、上記イの主張が認められないとしても、請求人が本件滞納者から譲り受けた財産のうち、本件告知処分の日現在で残存している可能性のある財産は、別表2記載の資産のうち、出資金○○○○円と保証金○○○○円(別表3(注)1参照)であるところ、別表3記載のとおり、当該各資産の同表○A欄記載の金額から同表○B欄記載の各債務等の金額を差し引くと、本件告知処分の日現在、実質的に残存しているのは保証金○○○○円のみであるから、請求人は当該金額を限度として第二次納税義務を負うにすぎない。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 徴収法第38条は、納税者が滞納国税の法定納期限の1年前の日後に特殊関係者に事業を譲渡し、かつ、その譲受人が同一とみられる場所において同一又は類似の事業を営んでいる場合において、その納税者が当該事業に係る国税を滞納し、その国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められるときは、その譲受人は、譲受財産(その財産の異動により取得した財産及びこれらの財産に基因して取得した財産を含む。以下同じ。)を限度として、その滞納国税の第二次納税義務を負う旨規定している。
 この規定の趣旨は、事業の譲渡が行われるときは、通常、その事業用資産だけでなく、その事業に係る債務も譲受人に移転されるので、譲渡人の債権者が当該事業譲渡によって不利益を受けることはないが、租税債務については私人間の合意によって譲受人に移転させることができないので、譲渡人が納付すべき国税を譲受人から強制的に徴収することができず、また、事業の譲渡に伴ってそれまで滞納処分の引き当てとなっていた財産が譲受人に移転することによって、仮に譲受人から譲渡人に対して相応の対価が支払われたとしても滞納処分が困難となる結果、国税の確保に支障が生じることとなる一方、事業の譲渡に際しては、通常、譲受人から譲渡人に対して相応の対価が支払われるので、譲受人に対して譲渡人の国税についての第二次納税義務を負わせることが酷に過ぎることも考慮し、事業の譲受人が譲渡人の特殊関係者である場合に限って、譲受人に譲渡された財産を限度として、譲受人に対して譲渡人の国税についての納税義務を二次的に負わせることにより、国税の確保を図ることとしたものと解される。すなわち、同条は、事業の譲渡に伴い、譲渡人の国税の引き当てとなっていた財産が譲受人に譲渡されたことによって、国税の確保に支障が生じることから、譲受人が譲渡人の特殊関係者である場合に限り、その譲受人に対し、譲渡人の国税の引き当てとなっていた譲受財産を限度として、二次的に譲渡人の国税についての納税義務を負わせることとしたものと解されるのであるから、同条にいう「譲受財産」は、滞納処分の対象となっていた積極財産をいい、消極財産を含まないと解するのが相当である。
ロ これに対し、請求人は、上記2(2)のとおり、事業譲渡に係る財産には資産及び負債の双方が含まれることが前提であるから、徴収法第38条にいう「譲受財産」には、積極財産のみならず消極財産を含む旨主張する。
 確かに、事業の譲渡が行われるときは、通常、積極財産のみならず消極財産も譲受人に移転されるのであるが、上記イのとおり、同条の趣旨からすれば、同条にいう「譲受財産」とは、積極財産をいい、消極財産を含まないと解するのが相当であるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ハ また、徴収法第38条が第二次納税義務の責任の範囲として「譲受財産を限度」とする旨規定しているところ、同条は「譲受財産」という財産自体を限度としているのであって、財産の価額を限度とする規定ではなく、また、同条にいう「譲受財産」には、その財産の異動により取得した財産及びこれらの財産に基因して取得した財産が含まれ、さらに、同条は、第二次納税義務の限度を同法第39条のような「現に存する限度」としていないのであるから、同法第38条の規定による第二次納税義務の限度を「譲受財産」のうち第二次納税義務の納付告知処分時点において残存しているもののみを限度とするものと解することはできない。
 したがって、同条の第二次納税義務の責任の範囲としては、告知処分時点において残存しているもののみと解することはできず、「譲受財産」そのものと解するのが相当である。

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(2) 本件告知処分について

 これを本件についてみると、本件に係る「譲受財産」とは、別紙2の2記載のとおり、本件事業譲渡に係る契約により、請求人が本件滞納者から譲り受けた本件事業譲渡日現在の事業に関する財産の一切(一部除外資産あり)であることから、請求人は、本件事業譲渡日である平成18年11月末日において、請求人が本件滞納者から譲り受けた財産を限度として第二次納税義務を負うことになる。

(3) 結論

 以上のとおり、原処分には、争点について、これを取り消すべき理由はない。
 また、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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