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(平21.11.6、裁決事例集No.78 95頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、リミテッド・ライアビリティー・カンパニー(以下「LLC」という。)の構成員である審査請求人(以下「請求人」という。)が、オフショア投資ファンドからLLCに対して分配された金額のうちの請求人の取り分中、請求人が本邦内の金融機関の請求人名義口座に送金した金額のみこれを配当所得として申告したところ、原処分庁が、LLCの請求人名義口座に入金された金額についても請求人に帰属するとして所得税の更正処分を行ったことから、請求人が、LLCから払戻しを受けていない部分の額はLLCの内部計算にかかる数字であり、請求人の収入金額に当たらないとして、原処分の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成17年分及び平成18年分(以下「各年分」という。)の所得税について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに原処分庁に申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成20年6月30日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりの各年分の所得税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を不服として、平成20年8月20日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月17日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成20年11月13日に審査請求をした。
ホ なお、請求人は、平成20年○月○日に住所をP市Q町○−○から○○国に移動した後、肩書地へ移動した。

(3) 関係法令

イ 所得税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)第24条《配当所得》第1項は、配当所得とは、法人から受ける利益の配当、剰余金の分配(出資に係るものに限る)、基金利息並びに投資信託(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託を除く。)及び特定目的信託の収益の分配に係る所得をいう旨規定している。
ロ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもこれを認めることができる。
イ 請求人の地位
(イ) Hグループは、平成13年、日本における投資活動を開始するため、J社、K事業体(以下「K」という。)、L投資ファンド(以下「本件ファンド」という。)、本件ファンドのジェネラル・パートナーであるM事業体(以下「本件LLC」といい、本件LLCの構成員の間において定められた平成16年12月31日付のSECOND AMENDED AND RESTATED LIMITED LIABILITY COMPANY AGREEMENTを、以下「本件LLC契約」という。)等の組織を設立した。
(ロ) 本件ファンドとKとの間で、マネージング・アグリーメントを締結し、Kがファンドの投資業務を受託し、さらに、KとJ社との間でコンサルティング契約を締結し、Kは、日本国内でのファンドマネジメント業務をJ社にゆだね、J社は、本邦の上場企業の公開データの分析による割安株の抽出・推薦や、投資先企業の訪問による企業情報等の収集・報告を行っている。
(ハ) 請求人は、本件LLCの構成員(下記ハの(ロ)のAの(B)のノンマネージング・メンバー)であり、J社の役員である。
(ニ) 請求人の主たる収入は、本件LLCからのインセンティブ割合に応じた下記ホの(ハ)のBに定義するインセンティブ配分額及びJ社からの役員報酬である。また、請求人は、本件LLCを通じて、本件ファンドからの運用益を得ることができる。
ロ 本件ファンドの組織等
(イ) 本件ファンドはN国のリミテッド・パートナーシップとして、2002年(平成14年)4月に投資事業を開始した。
(ロ) 本件ファンドは、リミテッド・パートナーシップ形態であり、
A 本件LLCがジェネラル・パートナーとして、ファンドの運営に携わり、
B 一般投資家は、リミテッド・パートナーとしてファンドに参加している。
(ハ) Kは、本件ファンドの運営を行っており、J社は、Kに投資助言等の業務を提供している。
ハ 本件LLCの組織等
(イ) 本件LLCは、2001年(平成13年)○月○日、R州LLC法に準拠して、R州の州務長官事務所に申請して設立され、商号等、法の要求する事項の登録を行っている。
 なお、R州LLC法は、設立に伴い、LLCの名称、事務所の所在地及び代理人を州で登録しなければならない旨規定し、統一LLC法は、LLCは構成員と別個の法的主体である旨、LLCは事業活動を行うための必要かつ十分な個人と同等の権利能力を有する旨規定している。
(ロ) 本件LLCの構成員
A 本件LLCには、
(A) 本件LLCを代表して本件LLC名義で活動する権限を有するマネージング・メンバーと、
(B) ノンマネージング・メンバー
 が存する。
B 本件LLCの事業の運営、業務の執行等は、一部を除き、マネージング・メンバーにより行われ、ノンマネージング・メンバーは、本件LLCの経営等に参画しない。
C 本件LLCのマネージング・メンバーは、
(A) S州法人のT社と、
(B) R州LLCであるU事業体(以下「U」という。)
 である。
(ハ) 本件LLCの会計年度
 本件LLCの会計年度の終了日は、12月31日である。
ニ 本件LLCを介した本件ファンドへの出資方法等
(イ) 本件LLCには、クラスAメンバーとクラスBメンバーがおり、請求人は、クラスAメンバーであるところ、クラスAメンバーは、本件LLCに以下の資本勘定を有する。
A インセンティブ資本勘定
B インベストメント資本勘定
C オペレーティング資本勘定
(ロ) 各構成員から本件LLCへの出資は、全額、各構成員のインベストメント資本勘定に貸方記帳される。
 そして、本件LLCは、本件ファンドのジェネラル・パートナーとしての義務に基づき、これを、本件ファンドに出資する。
 ただし、マネージング・メンバーが本件LLCの費用に充てるとした部分の金額については、インベストメント勘定に記帳されず、オペレーティング勘定に計上される。
(ハ) 本件ファンドへの出資形態として、ドル建てのAシリーズ(以下「ドルクラス」という。)と日本円建てのBシリーズ(以下「円クラス」という。)がある。
 なお、本件ファンドは、2006年(平成18年)1月1日以前は、ドル建ての出資金のみを募集していたが、同年2月1日以降、新たに円建ての出資金の募集を併せて行うようになった。
(ニ) 請求人の金銭出資の状況
 請求人は、2002年(平成14年)7月1日に、○○○○ドル、2004年(平成16年)7月1日に○○○○ドルをそれぞれ出資した。
ホ 本件LLCの収入、利益
(イ) 本件LLCは、毎年度末、以下の利益を収入に計上し、そこから費用等を控除した利益を算出し、当該利益を各構成員の資本勘定に配賦する。
(ロ) 投資資産の運用損益
A 各構成員が本件LLCを通じて本件ファンドへ投資した資産の運用損益は、当該構成員のインベストメント勘定の額が全構成員のインベストメント勘定の合計額に占める割合(以下「インベストメント割合」という。)に応じて、各構成員のインベストメント勘定に計上される。
B 本件ファンドの資産運用で損失が生じた場合、インベストメント割合に応じた損失が、各構成員のインベストメント勘定に計上される。
C 本件LLCの投資資産には、下記(ハ)のとおり、本件LLCが過去に各構成員に配賦した下記(ハ)のBに定義するインセンティブ配分額が含まれる。
(ハ) インセンティブ再配賦額
A 本件ファンドによる資産運用の結果、その純資産価値が増加した場合に、ジェネラル・パートナーの義務が履行されたとして、各リミテッド・パートナーの資本勘定に割り当てられた純資本増加額の20%相当額が、インセンティブ・アロケーションとして、ジェネラル・パートナー(本件においては本件LLC)の資本勘定に再配分される(以下、当該再配分額を「インセンティブ再配賦額」という。)。
 ただし、その中には、本件ファンドへの投資資本の効果による純資本増加又は純利益の配分は含まれないものとする。
 本件LLCは、インセンティブ再配賦額につき、前会計年度までに資本勘定に割り当てられたインセンティブ再配賦額に相当する額を、いつでもその資本勘定から払い戻すことができる。
B 本件LLCの資本勘定に配賦を受けたインセンティブ再配賦額は、以下の区分に応じたインセンティブ割合に従って、それぞれの構成員に配分され(以下、当該配分額を「インセンティブ配分額」という。)、各構成員のインセンティブ資本勘定に貸方計上される。
(A) マネージング・メンバー 100分の○○の割合
(B) ノンマネージング・メンバー 100分の○○の割合
 なおLLCからの利益配分は、インセンティブ勘定に計上されると同時にインベストメント勘定へも計上される。
C 本件ファンドの損益がマイナスであった場合、インセンティブ再配賦額のマイナスの配賦や、過去に配賦を受けたインセンティブ再配賦額の返還を義務付ける規定はない。
ヘ 本件LLC構成員による投下資本の回収方法
(イ) 本件ファンドの一般投資家向けに作成された平成18年2月1日付のOffering Memorandum(以下「本件目論見書」という。)において、
A ジェネラル・パートナーは、いつでも、前年までに配賦されたインセンティブ再配賦額を払い戻すことができ、
B インセンティブ再配賦額以外については、ロックアップがある
 旨規定している。
(ロ) 本件目論見書において、各構成員は、毎年度末、本件LLCに対して、本件LLCの投資資本(本件LLCから本件ファンドに投資された資本のことで各構成員に配賦されたインセンティブ配分額を含むもの)の自らの持分のうち、全部又は一部を本件ファンドから払い戻させる選択をすることができる旨規定している。
(ハ) インセンティブ配分額の実際の払戻し方法
A 請求人は、その年分に配賦を受けるインセンティブ配分額の見込額等に関して、毎年12月(年によっては翌1月)に本件LLCの担当者から、配賦されるインセンティブ配分額及びその時点におけるクラス別投資残高の連絡、及び、新たに配賦を受けるインセンティブ配分額をどうクラス分けするかの問い合わせを受ける。
 なお、払戻しを行わない残額について、以前は、請求人が、その都度、投資に回すよう指示していたが、いつの間にか暗黙の了解となり、請求人が指示しなくても本件ファンドに投資されるようになった。
B 請求人は、この連絡を受けた後、払戻金額及び払戻しを行わない残額をどのクラス(円クラス又はドルクラス)に置くかの選択をし、本件LLCの担当者に連絡している。
C 請求人の連絡に基づき、本件LLCの担当者から、払戻し(送金)及びクラス分けの確認の連絡を受ける。
D 本件LLCの担当者は、請求人との合意内容に基づき、請求人への払戻金額の送金の手続を行う。
E 数日から数週間後、請求人が指定した日本の銀行口座に、払戻しの選択をした金額が振り込まれる。
F 過去において、インセンティブ配分額のうち、払戻しを要求した額について、送金に応じられなかったことはない。
G 請求人は、本件ファンドでの運用により運用益が得られる可能性があることと、ジェネラル・パートナーとしての責任から、インセンティブ配分額の全額を払い戻すことはしなかった。
(ニ) インセンティブ配分額のうち請求人の払戻額等
A 請求人は、各年分において、インセンティブ配分額として、別表2の「まる1本件インセンティブ配分額」欄のとおりの金額(以下「本件インセンティブ配分額」という。)を配分され、これらのうち、同表の「まる2本件払戻額」欄のとおりの金額(以下、払戻額を「本件払戻額」といい、本件インセンティブ配分額との差額を「本件払戻未済額」という。)を、同表の「まる3振込年月日」欄の各日付にて、同表の「まる4振込金融機関等」欄のとおりの各金融機関の請求人名義口座に振込みを受ける形で払い戻した。
 なお、本件インセンティブ配分額に占める本件払戻額の割合は別表2の「まる5払戻しの割合」欄のとおりである。
B 請求人の、2004年(平成16年)分及び2005年(平成17年)分における出資金(持分)の状況は次表のとおりである。

会計年度
項目
2004年 2005年
まる1Beginning Capital Account(期首資本) ○○○○ ○○○○
まる2Capital Contributed (期中出資) ○○○○ -
まる3Current Year Increase(期中増加) ○○○○ ○○○○
まる4Ending Capital Account(期末資本) ○○○○ ○○○○

(A) 上記表中、2004年分のまる3欄○○○○ドルは、別表2の平成17年分における本件インセンティブ配分額○○○○ドルから本件払戻額を控除した本件払戻未済額○○○○ドルを含む。
(B) また、上記表中、2005年分のまる3欄○○○○ドルは、別表2の平成18年分における本件インセンティブ配分額○○○○ドルから本件払戻額を控除した本件払戻未済額○○○○ドルを含む。
C 本件ファンドの業務執行サービスを履行するV社は、2006年(平成18年)1月から3月までの「四半期報告書」において、請求人の3か月ごとの資本勘定の期中の増減及び残高を下表のとおり計算している。

種類
項目
ドルクラス 円クラス
まる1Opening Investors Balance(期首) ○○○○ドル ○○○○円
まる2Subscription(出資金) ○○○○ドル ○○○○円
まる3Redemption(払出し) ○○○○ドル ○○○○円
まる4Profit(Loss)(損益) ○○○○ドル ○○○○円

 上表のとおり、別表2の請求人の平成18年分の本件インセンティブ配分額○○○○ドルは、2006年(平成18年)分の期首にドルクラスまる2Subscriptionとして新たに請求人の出資金として計上された。
 そして、まる1欄記載のOpening Investors Balanceとまる2Subscriptionの合計額のうち、まる3Redemption欄の○○○○ドルをドルクラスの出資金から払い出し、このうち、本件払戻額の○○○○ドルを控除した残額である○○○○ドルは、円クラスのまる2Subscriptionに振り替えられた。

(5) 争点

 請求人が各年分の配当所得の収入金額とすべき金額は、本件インセンティブ配分額又は本件払戻額か。

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2 主張

(1) 原処分庁

 以下のとおり、請求人には本件インセンティブ配分額について払戻しを受ける権利が生じているものと認められるから、本件インセンティブ配分額は、その全額が各年分の配当所得の収入金額に計上されるべきである。
イ 以下の事実から、請求人には、本件インセンティブ配分額の全額について払戻しを受けられる権利が生じているものと認められる。
(イ) 本件LLCは前年までに受けた本件インセンティブ再配賦額に相当する額をいつでも本件ファンドの資本勘定から払い戻すことができるとされている。
(ロ) 本件LLCの各構成員は、各会計年度末、本件LLCの投資資本(本件インセンティブ再配賦額を含む)の各構成員の持分相当額について、その全部又は一部を本件LLCに払い戻させる選択をすることができる。
(ハ) マネージング・メンバーの承認が必要であるとは認められない。
(ニ) 請求人が受けた本件インセンティブ配分額のうち本件LLCに払戻しさせる選択をしなかった金額は、請求人の指示により本件LLCから本件ファンドに投資されている。
ロ そして、請求人は、各会計年度末、本件LLCの投資資本の請求人の持分相当額のうち、その年度に受ける本件インセンティブ配分額に相当する金額について、本件LLCに払戻しさせる選択をすることにより翌会計年度に選択した金額の払戻しを受けられるものと認められるから、本件インセンティブ配分額の収入すべき時期は、請求人が各会計年度末に本件インセンティブ配分額を払戻しさせる選択をした後、実際に払戻しを受けられることとなる翌会計年度の初日とするのが相当である。
ハ 以下の理由から、払戻しの制限は存在しないと認められる。
(イ) 本件目論見書に、本件インセンティブ再配賦額を本件ファンドから払い戻すことができると記載されている。
(ロ) 実際の払戻しにおいて、請求人は本件インセンティブ配分額のうちの任意の金額を選択して払戻しを受けている。
(ハ) N国のリミテッド・パートナーシップ法には、本件インセンティブ再配賦額のようなジェネラル・パートナーに対する利益の払戻しを制限する規定は見当たらない。
(ニ) 平成16年12月31日、平成17年12月31日付の本件LLCの貸借対照表において、本件LLCの負債金額はともに零ドルとなっているから、本件インセンティブ配分額については、R州LLC法による分配の制限は及ばない。
ニ 他の法規等との整合性
(イ) 本件払戻未済額の性質について
 本件インセンティブ配分額のうち、請求人が、本件LLCに払い戻させる選択をしなかった金額は、いったん請求人に帰属した後、請求人に係る本件LLCへの新たな出資として本件LLC固有の資産になったものと認められる。したがって、原処分は、本件LLC固有の資産について、構成員固有の持分として課税したものではないから、本件LLCに法主体性を認めることと何ら抵触するものではないし、パススルー課税を根拠に本件各更正処分をしたものでもないことは明らかである。
(ロ) 合同会社との対比について
 原処分庁は、本件LLCが外国法人に当たることを前提に、本件インセンティブ配分額が各年分の「配当等の収入金額」に該当するかを判断するために、本件LLC契約の内容を所在地国の私法の法令に基づいて解釈し、そのうえで本件インセンティブ配分額が所得税法第24条第2項における「配当等の収入金額」に該当することを判断したものであり、会社法における合同会社の規定に照らして判断する必要性はない。

(2) 請求人

 以下の理由から、本件インセンティブ配分額については、本件払戻額が各年分の配当所得の収入金額である。
イ 権利確定主義の見地から
(イ) 本件インセンティブ配分額を含む損益配分は、構成員ごとに計算され、各構成員の資本勘定に記帳されるが、これは単なる内部計算にすぎず、配当支払請求権として独立した債権として成立しているものではなく、本件LLC契約の規定に基づき構成員が払戻しの選択をした時に、配当金支払請求権は債権として成立すると解するべきである。
 そして、本件LLC契約にかかる契約書(以下「本件LLC契約書」という。)4.03(a)条が、インセンティブ配分額を含む資本勘定の払戻しについて、本件LLCに対して書面により払戻しの請求を行うこととされ、さらにマネージング・メンバーは当該払戻しが契約上あるいは法令上の制限を阻害しない限りにおいて払戻しに応ずることとされているから、本件インセンティブ配分額の払戻しに当たり、マネージング・メンバーの承認を要することは明らかである。
 したがって、本件LLCにおいては、払戻しの金額をマネージング・メンバーが承認することにより、配当の効力が生じるとともに配当所得にかかる収入金額が確定するものと解すべきである。
(ロ) 本件においても、以下のとおり、マネージング・メンバーの承認が行われている。
A 請求人に毎年12月中旬に本件インセンティブ配分額の見込額を通知していたWは本件LLCのマネージング・メンバーであるUのマネージング・パートナーであるから、同人はUの業務執行行為として本件LLCのインセンティブ配分額の払戻しに関与したと認められる。
B また、本件インセンティブ配分額の払戻しに関する事務手続がXとの間の電子メールにより行われた事実が存在するにしても、本メールはWにも同時送信されているのであるから、マネージング・メンバーの承認により払戻しが行われたのと同視できる。
(ハ) 本件インセンティブ配分額につき、請求人の払戻しには、下記のとおり、本件ファンド段階と本件LLC段階でそれぞれ制限が存するから、請求人に払戻金額を任意に選択する権限があるとは認められない。
A 本件ファンド段階での制限
 本件ファンドからの払戻しについては、N国法によって本件ファンド負債返済のための引き当てが義務付けられる場合があり、そのために本件ファンドのジェネラル・パートナーである本件LLCが払戻しに一定の制限を設ける場合がある。
B 本件LLC段階での制限
(A) R州LLC法は利益分配には一定の制限を設けている。
(B) 本件LLC契約書4.03条は、本件LLCは本件ファンドの払戻しの条件をすべて満たし、実際の資金の受領を受けてはじめてメンバーに払戻しを行うことができる旨規定している。
 本件LLC契約書4.05条は、R州法に基づく負債の引き当てができていない場合には払戻しはできない旨規定している。
ロ 他の法規等との整合性
(イ) 合同会社との対比の見地から
 所得税法は内国法人と外国法人を国内に本店又は主たる所在地を有するかどうかで区別しているにすぎないから、本件LLCが外国法人として取り扱われる以上、外国法人と出資者間の所得税法上の取扱いは、法に別段の定めがない限り、内国法人と出資者間に適用される課税上の取扱いによるべきである。
 そして、LLCと会社法の規定する合同会社は、損益配分と利益分配を区別した上での自由な損益配分と利益分配に対する一定の規制があるという共通点があるから、LLCと合同会社は、その出資者との間の課税関係について共通な取扱いが行われるべきである。
 そして、合同会社においては、定款において業務執行権限を持たないとされている社員からの配当請求に関しては業務執行社員が配当請求に応じた時点を権利確定時期と解するべきであるから、本件LLCにおいてもこれと同様に考え、請求人に対する配当所得の課税は、請求人の払戻しの選択後、マネージング・メンバーがこれに応じた金額が配当所得の収入金額として確定すると解するのが相当である。
(ロ) 「米国LLCの税務上の取扱い」との矛盾
A 本件インセンティブ再配賦額を含む本件LLCの収益認識の対象となった増加資産は本件LLCの資産である。払戻未済部分が本件LLC固有の持分であるにもかかわらず、メンバー固有の持分として所得課税することは、本件LLCを日本の税務上外国法人に該当するとした取扱いに反し、実質的にパススルー課税を行おうとするものであり、不当である。
B 払戻しを選択しなかった金額は、払戻しの前後を通じて本件LLC固有の資産であることに変わりはないから、払戻しを選択しなかった金額が請求人の指示により本件ファンドに投資された事実はない。
 また、請求人が行った通貨クラスの指示とは、本件LLCの投資対象から生ずる収益について、自らへの損益配分をいかなる通貨単位で計算するかの指示にすぎず、投資対象を具体的に指示するものではなく、具体的な投資対象の選定は、マネージング・メンバーの専決事項であり、請求人に決定権はないから、払戻しを請求しなかった金額がいったん請求人に係る新たな出資として、本件LLC固有の資産になったとする原処分庁の認定は誤りである。

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3 判断

(1) 法令解釈

 所得税法第36条第1項は、配当所得を含む各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額等について、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とするとしており、ここにいう「収入すべき金額」とは、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして上記権利が確定した時期の属する年分の課税所得を計算するという、いわゆる権利確定主義を採用しており、ここで「権利の確定」とは、それぞれの権利の特質を考慮して決定されるべきものであり、権利発生後一定の事情が加わって権利実現の可能性が増大したことを客観的に認識することができるようになったときを意味するものであると解するのが相当である。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、インセンティブ配分額の払戻しに至るまでの請求人と本件LLCの事務担当者であり本件LLCのマネージング・メンバーであるUに所属するW及びXとの電子メールでのやり取りの要旨及び送金の状況は、次のとおりであったと認められる。
イ 2005年の会計年度に係るインセンティブ配分額について
(イ) 平成17年12月29日、Wは請求人に対し、払戻金額は○○○○円でよいか、振込先の金融機関はYでよいか尋ねた。
(ロ) 同日、請求人はWに対し、請求人に配分される2005年の会計年度に係るインセンティブ配分額の60%相当額を、最終的な確定額が足りるのであれば、○○○○ドルを払い戻したい旨、振込先はZ銀行として欲しい旨を伝えた。
(ハ) 翌12月30日、Wは請求人に対し、翌週振り込む旨回答した。
(ニ) 平成18年1月5日、Z銀行の請求人名義のドル普通預金口座に、○○○○ドルが送金された。
ロ 2006年の会計年度に係るインセンティブ配分額について
(イ) 平成19年1月10日、請求人は、Xから「2006年の会計年度分のインセンティブ配分額は○○○○ドルであるが、円クラス、ドルクラスの(投資)配分を教えて欲しい」旨の連絡を受け、請求人に配分されるインセンティブ配分額の50%相当額を払い戻し、残額については円クラスに回して欲しい旨を伝えた。
(ロ) 上記(イ)を受けて、Xが、請求人に対し、2006年の会計年度分のインセンティブ配分額の50%相当分を日本円で送金する旨の連絡をしたところ、平成19年1月11日、請求人は、日本円ではなく、ドルで送金して欲しい旨伝えた。
(ハ) 平成19年1月24日、Z銀行の請求人名義のドル普通預金口座に、○○○○ドルの送金を受けた。

(3) 収入すべき金額について

イ 本件インセンティブ配分額が所得税法第24条に規定する配当所得に該当することは当事者間に争いがなく、これに反する証拠もない。
ロ そこで、当該配当所得の収入すべき金額について検討するに
(イ) 請求人は、その年分に配賦を受けるインセンティブ配分額の見込額等に関して、毎年12月(年によっては翌1月)に本件LLCの担当者から、配賦されるインセンティブ配分額及びその時点におけるクラス別投資残高の連絡、及び、新たに配賦を受けるインセンティブ配分額をどうクラス分けするかの問い合わせを受けること
(ロ) 通知されたインセンティブ配分額については、たとえ本件ファンドの成績が悪化したとしても、一度通知された金額については、返還する義務はないこと
(ハ) 請求人は、通知を受けたインセンティブ配分額について、確定額の範囲内であれば、払戻金額を自由に設定することができ、申し出る金額に上限はないこと
(ニ) 請求人が本件インセンティブ配分額全額の払戻しを受けなかった理由は、本件ファンドでの運用により運用益が得られる可能性があることと、ジェネラル・パートナーとしての責任にあったこと
(ホ) 請求人が払戻しを要求した額について、送金に応じられなかったことはないこと
(ヘ) 払戻未済額については、請求人がこれをどのクラス(円クラス又はドルクラス)に置くかの選択をしていたこと
(ト) 2006年の会計年度の払戻未済額に係る本件ファンドへの出資形態について、請求人が本件LLC担当者に対して、円クラスに回して欲しい旨伝え、本件ファンドにおいて、請求人の要望どおりに処理されていること
 が認められ、これらの事実を併せかんがみれば、請求人には、本件インセンティブ配分額の全額について払戻しを受けられる権利が生じたというべきである。
ハ この点、請求人は、本件LLC契約書4.03(a)条を引用し、同規定から、本件インセンティブ配分額の払戻しには、マネージング・メンバーの承認が必要である旨主張する。
 しかしながら、同規定は、「すべての払戻要請は、通知の時期、適用される払戻凍結期間、払戻要請に合致するような受取金の種類、及び当該受取金の支払時期などを含む(しかし限定されない)、当該ファンドの諸条件を順守しなければならない」と規定しているにすぎない。
 また、本件LLC契約書3.04(a)(3)条、同3.06条、同3.07条は、マネージング・メンバーによるインセンティブ配分額の調整の可能性を定めているが、同3.07条の規定から明らかなとおり、配分がメンバーの経済的取決めを適正に反映していない場合等の特別の要件下でマネージング・メンバーの調整権限を認めているものであり、一般的な配分についてまで、マネージング・メンバーの承認を要件としているものではない。
 そして、本件に係る記録を精査しても、本件LLCのマネージング・メンバーであるUのマネージング・パートナーのWが2005年の会計年度の、Xが2006年の会計年度の、配賦されるインセンティブ配分額及びその時点におけるクラス別投資残高の連絡を担当した事実が認められるにすぎず、本件LLCのマネージング・メンバーであるT社及びUにおいて請求人の払戻請求の承認の意思表示をしたことを裏付ける証拠は存在しないことからも、上記4.03(a)条の規定は、本件インセンティブ配分額の配分を円滑に行うための手続的な制約にすぎず、マネージング・メンバーの承認を要件としている規定であると解することはできない。
ニ また、請求人は、本件インセンティブ配分額につき、本件ファンド段階と本件LLC段階で下記(イ)及び(ロ)のそれぞれ制限がある旨主張する。
(イ) 本件目論見書には「パートナー又はその法的代理人が資本勘定からある一定額の投資額を払い戻す権利は、N国法に従うすべてのファンド負債、及び、偶発債務の準備金、並びに発生済み費用や債務の見積額に関して、ジェネラル・パートナーが定める規定に服する」旨規定している。
(ロ) また、R州LLC法は、「LLCは、分配時に、また分配が発効した後、LLC持分に基づいたメンバーに対する負債及び債権者の遡求権がLLCの特定の財産に限定される負債を除き、LLCのすべての負債額がLLCの資産構成価額を超える場合には、メンバーに対して分配をすることができない」旨規定しており、これを受けて、本件LLC契約4.05条は、「分配及び承認された払戻しは、(1)R州法に従った会社の全負債、及び、(2)本件LLC契約3.08条に従った負債のための準備金のため、会社が定める規定に従うものとする。現金準備金の未使用分は、マネージング・メンバーが当該準備金の必要性がなくなったと判断した後に、a州b市でその時点で有効な貯蓄銀行の制限のない預金に対するレートの利子を付して、マネージング・メンバーが決定する方法に従い分配されるものとする」旨規定している。
(ハ) しかしながら、これらの規定は、いずれも特別事情下での制限を定めたものであり、経常的に払戻しに一定の制約を課すものではないから、このような制約規定があることをもって、請求人には、本件インセンティブ配分額の全額について払戻しを受けられる権利が生じたという上記認定が左右されるものではない。
ホ さらに、請求人は、本件LLCと会社法の規定する合同会社は共通点があるから、その出資者との間の課税関係について共通の取扱いがなされるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件LLCと会社法の規定する合同会社は共通点があるからといって、会社法における合同会社の規定に照らして判断すべきものではないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。

(4) 収入計上時期について

イ 上記のとおり、所得税法は、現実の収入がなくとも、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして当該権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するという権利確定主義を採用しており、ここにいう収入の原因となる権利が確定する時期はそれぞれの権利の特質を考慮して決定されるべきものである。
ロ そして、本件インセンティブ配分額は、本件LLCの会計年度の期末である12月31日までに計算され、同会計年度の翌年度当初には、本件インセンティブ配分額に相当する金額の払戻しを受けることができるものであるから、本件インセンティブ配分額は、翌会計年度の初日をもって、その収入すべき時期とするのが相当である。

(5) 本件各更正処分について

 上記(3)及び(4)のとおり、本件インセンティブ配分額は、平成17年及び平成18年の1月1日をもって各年分の請求人の配当所得の収入金額となるところ、これらを平成17年及び平成18年の最初の営業日の外国為替相場の為替レートにより円換算した金額は、別表3の審判所認定額の「収入金額」欄のとおりとなり、これらの金額はいずれも本件各更正処分の額と同額になる。
 したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。

(6) 本件各賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所の調査の結果によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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