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(平21.10.28、裁決事例集No.78 237頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)がその所有している資産を請求人の代表者(以下、単に「代表者」という。)に低額又は無償で貸与したことは、請求人から代表者に対する経済的利益の供与に当たるとして、源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、当該資産のうち、家具、カーテン、食器等を代表者に貸与した事実はないとして原処分の一部の取消しを求めた事案であり、争点は次のとおりである。

争点 請求人は、代表者に、家具、カーテン、食器等を貸与しているか否か。仮に、貸与している場合、代表者が享受している経済的利益の額はいくらか。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人に対し、請求人が所有しているマンション(以下「本件マンション」という。)及び本件マンション内に設置されている家具、カーテン、食器等(以下「本件家具等」という。)を、代表者に低額又は無償で貸与していることは、請求人から代表者に対する経済的利益の供与に当たるとして、平成20年7月2日付で別表1の「原処分(平成20年7月2日)」欄のとおり、平成17年7月から平成19年12月までの各月分の給与所得に係る源泉所得税の各納税告知処分(以下「本件各納税告知処分」という。)及び不納付加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各納税告知処分と併せて「本件各処分」という。)をした。
 なお、原処分庁が認定した本件家具等を貸与したことによる経済的利益の額は、別表2のとおりである。
ロ 請求人は、本件各処分を不服として、平成20年8月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成20年10月22日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の本件各処分に不服があるとして、平成20年11月13日に審査請求をした。
 なお、請求人は、本件各処分のうち、本件マンションを低額で代表者に対して貸与することによる経済的利益に係る納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分については、審査請求の対象としていない。

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(3) 関係法令等

イ 所得税法第28条《給与所得》第1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下「給与等」という。)に係る所得をいう旨規定している。
ロ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定している。
 また、同条第2項は、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする旨規定している。
ハ 所得税法施行令第84条の2《法人等の資産の専属的利用による経済的利益の額》は、法人又は個人の事業の用に供する資産を専属的に利用することにより個人が受ける経済的利益の額は、その資産の利用につき通常支払うべき使用料その他その利用の対価に相当する額(その利用者がその利用の対価として支出する金額があるときは、これを控除した額)とする旨規定している。
ニ 所得税基本通達36−15《経済的利益》は、所得税法第36条第1項かっこ内に規定する「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」には、その(2)において、土地、家屋その他の資産(金銭を除く。)の貸与を無償又は低い対価で受けた場合における通常支払うべき対価の額又はその通常支払うべき対価の額と実際に支払う対価の額との差額に相当する利益が含まれる旨定めている。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、昭和○年○月に設立された宗教法人であり、P市p町の本部のほか、Q市q町にQ支部、R市r町にR支部及びS市s町にS支部をそれぞれ有している。
ロ 請求人は、平成17年12月から代表者に本件マンションを貸与し、その賃貸料(以下「本件賃貸料」という。)として月額150,000円を受領していたが、原処分に係る調査を担当した職員(以下「原処分調査担当職員」という。)の本件賃貸料が低額であるとの指摘に基づき、平成19年8月に本件賃貸料を改定して以降、代表者から月額250,000円を受領している。
 なお、本件マンションに係る賃貸借契約書は作成されていない。
ハ 本件マンションは、床面積が約221uであり、部屋の間取りは、寝室、台所、リビング、ダイニング、風呂、洗面所等である。
ニ 本件家具等の取得年月日、種類、取得金額及び購入先は、別表3のとおりであり、本件家具等は、本件マンション内に設置されている。
 なお、本件家具等は、いずれも請求人の財産台帳に登載されている。

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2 主張

原処分庁 請求人
(1) 請求人は、代表者に本件家具等を貸与しているか否か
 本件マンションは、以下のとおり、専ら代表者の居住の用に供されており、本件家具等が本件マンション内に設置されていることから本件マンションの居住者である代表者以外の者が本件家具等を使用することは考えられない。
 したがって、代表者は、請求人から本件家具等の貸与を受け使用していると認められる。
イ 本件マンションは、請求人のパンフレット等に宗教活動に係る施設として記載されていないこと、宗教活動に係る記録等がなく、その内容が明らかでないため、おはらい等の宗教活動の用に供されていないことから、請求人が、本件マンションを使用している事実を認めることはできない。
ロ 本件マンションは、居住用であり、代表者一人が居住していること、代表者又は理事の息子であるDの立会いがなければ使用できないこと、電気、ガス及び水道の使用契約は代表者名義で締結され、使用料金も代表者が負担していることから、専ら代表者の居住の用に供されていると認められる。
(1) 請求人は、代表者に本件家具等を貸与しているか否か
 本件家具等は、請求人が宗教活動の用に供するために取得し、装飾や請求人の来客用等として本件マンション内に設置され、直接的あるいは間接的に宗教活動の用に供されるものであって、請求人が代表者に貸与したものではない。
(2) 代表者が享受している経済的利益の額はいくらか
 本件家具等に係る経済的利益の額は、原則として請求人が本件家具等を第三者に対して貸与する場合に通常収受する賃貸料を基に算定することとなるが、請求人が、本件家具等と類似する家具等を第三者に貸与している事実はないことから、物品賃貸業者が行う賃貸料の算定方法と同様に、貸与資産の取得価額及び貸与期間(本件では、貸与期間の定めがないことから法定耐用年数)を基礎として算定することが合理的であると認められる。
 なお、代表者は、本件家具等に係る利用の対価については、建物の賃貸料の一部としても一切支出しておらず、本件家具等の貸与は無償でなされたものである。
 以上を前提に、本件家具等に係る経済的利益の額を算定すると、別表2のとおりとなる。
(2) 代表者が享受している経済的利益の額はいくらか
 本件家具等は、宗教活動の用に供されており、請求人が代表者に貸与したものではないから、代表者は経済的利益を享受していない。
 仮に、経済的利益が生じるとしても、原処分庁の経済的利益の額の算定方法は、法的根拠がなく、合理性がない上、仮に上記算定方法が相当であるとしても、その具体的な適用に当たっては、法定耐用年数について、家具には接客業用のものを、金属製の食器に陶磁器製及びガラス製のものを適用するなど、誤っている。
 また、カーテン、じゅうたん及び照明器具は建物の一部であり、これらの賃貸料は建物の賃貸料に含まれるものである。

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3 判断

(1) 法令解釈

 所得税法第28条第1項は、給与所得とは、給与等に係る所得をいう旨規定しており、当該規定の趣旨は、使用者が役員又は使用人に対して支出するもので、役員又は使用人による役務の提供の対価たる性質を有するものは、その名目のいかんを問わず給与所得に該当するものと解される。また、同法第36条第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の場合にはその価額)とする旨規定しており、経済的な利益をも含め、収入すべき権利が確定したときはその時点で給与等の収入金額とすることを明らかにしている。そして、ここで経済的な利益とは、使用者が1物品その他の資産を無償又は低額により譲渡したことによる経済的利益、2土地、家屋、金銭その他の資産を無償又は低い対価により提供したことによる経済的利益、3福利厚生施設の利用などの用益を無償又は低い対価により提供したことによる経済的利益、4個人的債務を免除又は負担したことなどによる経済的利益をいうものと解されている。また、同条第2項は、経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする旨、さらに、所得税法施行令第84条の2は、法人又は個人の事業の用に供する資産を専属的に利用することにより個人が受ける経済的利益の額は、その利用につき通常支払うべき使用料その他その利用の対価に相当する額とする旨規定している。
 したがって、役員又は使用人が、その職務に関して使用者から受ける給与以外の名目の金銭や無償の便益等の経済的利益は、その経済的利益の多寡にかかわらず、給与所得に係る収入金額となり、その価額は、経済的利益を取得又は享受する時における価額になると解され、法人の事業用資産を専属的に利用することにより個人が受ける経済的利益の額は、その利用につき、通常支払うべき使用料等により計算することを明らかにしている。

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(2) 認定事実

 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件マンションの固定資産税の課税状況は次のとおりである。
(イ) 平成19年度の固定資産税の課税標準額は、土地が○○○○円、建物が○○○○円である。
(ロ) 平成19年度の固定資産税額は、○○○○円であり、このうち、建物は居宅として課税されている。
ロ 代表者は、平成17年12月に本件マンションへ入居後、請求人に対し、本件家具等の使用料名目での金員の支払はしていない。
ハ 代表者は、本件マンションに住民登録を行うとともに、本件マンションに一人で居住しており、その鍵は、代表者のほか請求人の理事の息子であるDが所持し、他の者がそれらの鍵を用いることはなく出入りすることはできない。
ニ 本件マンションに係る電気、ガス及び水道の使用契約は、いずれも代表者名義で締結されており、これらの使用料金は代表者が支払っている。
ホ 請求人が作成したパンフレットには、請求人の歴史、活動内容のほか役員(理事)名簿、各支部連絡先等が、また、請求人のホームページには、請求人の行事内容、祈祷案内等が記載されているが、請求人の施設として、本件マンションは記載されていない。
ヘ 請求人の宗教行事は、P市p町の本部と、Q支部、R支部及びS支部において行われており、本件マンションにおいては行われていない。
ト 本件マンションにおいて、平成18年3月21日に、参加者が15名程度の食事会が開かれているところ、当該食事会の案内文書の差出人は、代表者個人名あるいはDの名前であり、当該文書の表題は「新宅お披露目のご案内」であった。
チ 本件マンションにおいて、平成19年2月21日及び平成20年1月19日にお茶会が開かれているところ、当該お茶会の案内文書の差出人は、代表者個人名及びDの連名であり、当該文書の表題は、それぞれ「○○○○のご案内」、「○○○○ご案内」であって、案内対象者は、いずれも請求人の関係者のほか、デパート、ホテル、レストランの関係者やその他の知人、友人であった。
リ 代表者は、平成17年8月25日に、食器等の購入先であるE社のFに対し、商品は代表者の自宅で使用するが、支払は請求人が行う旨の電子メールを送信した。

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(3) 判断

イ 請求人は、代表者に本件家具等を貸与しているか否か
(イ) 本件マンションの使用状況
A 上記1の(4)のロ及びハのとおり、代表者は、請求人から賃料月額150,000円又は250,000円で借り受けた本件マンションに居住しており、寝室、台所、リビング、ダイニング、風呂、洗面所等の間取りからすれば、全体として居住用であることが認められる。そして、地方税法第348条《固定資産税の非課税の範囲》第2項第3号は、宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地については、固定資産税を課することができない旨規定しているところ、上記(2)のイのとおり、本件マンションについては、境内建物以外の居宅として固定資産税が課されており、宗教法人に係る固定資産税の上記非課税規定は適用されておらず、また、上記(2)のホ及びヘのとおり、請求人作成のパンフレットやホームページに請求人の施設として登載されていない上、本件マンションで請求人の宗教行事は行われていないことからすれば、本件マンションについては、客観的に認識し得る請求人の宗教活動の用には供されていなかったというべきである。
 これに加えて、上記(2)のハ及びニによれば、本件マンションの居住者は代表者一人であることが認められ、本件マンションの鍵は代表者及びDの2名のみが保管しており、他の者が本件マンションを自由に使用できる状況にはないこと、本件マンションに係る電気、ガス及び水道の使用契約はいずれも代表者個人の名義で締結されているとともにその使用料金は代表者個人が支払っていることからすれば、本件マンションは、その全体が、代表者が請求人から貸与され、専ら代表者の居住の用に供されていたと認めるのが相当である。
B なお、上記(2)のト及びチのとおり、本件マンションにおいて、食事会やお茶会が開催されているが、その案内文書は、すべて個人名で作成されており、案内対象者も請求人の関係者に限られていないことからすると、当該食事会及びお茶会は請求人の宗教活動ではないと評価すべきである。
 また、代表者は、原処分調査担当職員又は異議申立てに係る調査を担当した職員に対して、本件マンションにおいて、請求人の簡単な理事会及び宗教法人連合会の役員会を開催した旨を申述したが、これらの具体的内容は明らかでない上、裏付けとなる証拠も見当たらず、上記食事会等の開催や代表者の申述が上記Aの判断を左右するものではない。
(ロ) 本件家具等の購入目的及び使用状況
 上記1の(4)のニ及び上記(2)のリのとおり、本件家具等は、本件マンション内に設置され、また、食器等の購入先に対し、商品は代表者の自宅で使用する旨の電子メールが送信されていること、さらに、上記(イ)で判断したとおり、本件マンションは、その全体が、専ら代表者の居住の用に供されていることから、本件家具等は、代表者が使用する目的で請求人により購入され、代表者が使用していたものと認められる。
(ハ) まとめ
 上記(イ)及び(ロ)のとおり、本件家具等は、請求人において代表者が使用する目的で購入され、専ら代表者の居住の用に供されている本件マンション内に設置され使用されていることから、請求人が代表者に貸与し、代表者がこれを専属的に使用していたものと認めるのが相当である。
 これに対し、請求人は、本件家具等は、請求人が宗教活動の用に供するために取得し、装飾用等として設置したものであって、代表者に貸与したものではない旨主張する。
 しかしながら、本件マンションは、上記(イ)で判断したとおり、その全体が、専ら代表者の居住の用に供されていたものであり、本件家具等は、上記(ロ)のとおり、代表者が本件マンションで使用するために購入されたものと認められることに加え、上記(2)のヘのとおり、本件マンションにおいて宗教行事が行われていないことからすると、同所に設置されている本件家具等のみが請求人の宗教活動の用に供されている事実はないものと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ロ 代表者が、本件家具等について享受している経済的利益の額はいくらか
(イ) 所得税法第36条第1項は、収入金額のうちに、金銭によるもののほか、「物又は権利その他経済的な利益」によるものを含む旨規定しており、その内容は包括的なものである。そこで、所得税基本通達36−15が、経済的な利益に含まれるものとして、各種の利益を例示しているところ、当審判所も当該通達の取扱いは、所得税法第36条第1項の解釈として妥当なものであると認める。
 そして、所得税基本通達36−15の(2)は、経済的な利益には、土地、家屋その他の資産(金銭を除く。)の貸与を無償で受けた場合における通常支払うべき対価の額に相当する利益が含まれる旨定めるところ、上記(2)のロのとおり、代表者は、請求人に対し、本件家具等の使用料名目での金員の支払をしておらず、また、下記(ホ)のとおり、本件マンションの賃貸料にも、本件家具等の使用料は含まれていないというべきであるから、本件家具等は、請求人から代表者に対して無償で貸与されていると認められ、代表者はこれにより通常支払うべき対価の額相当の利益、すなわち本件家具等について経済的利益を享受しているというべきである。
(ロ) 上記(イ)のとおり、代表者は、本件家具等について経済的利益を享受しているというべきところ、所得税法施行令第84条の2は、法人又は個人の事業の用に供する資産を専属的に利用することにより個人が受ける経済的利益の額は、その資産の利用につき通常支払うべき使用料その他その利用の対価に相当する額(以下「資産利用対価額」という。)である旨規定している。
 これを本件についてみると、上記イの(ハ)のとおり、宗教法人たる請求人が、本件家具等を取得した上で、専ら代表者の居住の用に供されている本件マンション内に設置することにより代表者に貸与しているのであるから、代表者は、法人の事業の用に供する資産を専属的に利用しているものと認められる。
 したがって、代表者が本件家具等について享受する経済的利益の額は、資産利用対価額となる。
(ハ) 法人が所有する資産を従業員等に貸与する場合の資産利用対価額については、客観的に把握するのが困難であることから、当該資産の価値を基礎に算出するのが合理的であり、資産の取得価額を基礎として、その使用可能期間に占める貸与期間に相当する額を算出した上、それを当該貸与期間内において均等にあん分して算出される額とすべきである。  そして、当該計算方法は、資産の使用又は時の経過による当該資産の価値の減少分を算定する減価償却費の計算における定額法と同様であるから、具体的には以下のとおりとなる。
 まず、平成19年3月31日以前に取得した減価償却資産の償却費を定額法により行う場合には、取得価額から、その残存価額(取得価額の10%相当額)を控除した金額に、その償却費が毎年同一になるように当該資産の耐用年数に応じた償却率を乗じて計算することとされている(以下「旧定額法」という。)ところ、本件家具等の取得時期はすべて平成19年3月31日以前であるから、旧定額法と同様に、取得価額から、その残額価額を控除することになる。
 つぎに、控除後の価額を基礎に、その使用可能期間に占める貸与期間に相当する額の算出を行うこととなるが、本件家具等は、貸与期間の定めがないことから、貸与期間を標準的な使用可能期間である耐用年数と同一とみなし、また、耐用年数は、減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表(以下「省令別表」という。)第1に定められている年数とするのが相当である。
 そうすると、本件家具等に係る資産利用対価額については、その使用可能期間に占める貸与期間に相当する額は、取得価額からその残存価額を控除した額と同様になり、その額を耐用年数と同視される貸与期間で除すと、1年当たりの資産利用対価額が算出され、これを12で除すことにより1か月当たりの資産利用対価額が算出される。
 原処分庁は、以上と同様に、減価償却費の計算における定額法と同様の算定方式を採用して、経済的利益の額を算定しており、その方式を採用したこと自体は合理的である(なお、原処分庁は、旧定額法の計算における残存価額を考慮しないで算定している。)。
(ニ) これに対し、請求人は、原処分庁の採用した経済的利益の額の算定方式には法的根拠がなく、合理性がない上、法定耐用年数の適用にも誤りがある旨主張する。
 しかしながら、原処分庁が採用したのと同様の算定方式に、法令の趣旨に基づいた根拠が存在することは、上記(イ)ないし(ハ)のとおりであり、この算定方式には法的根拠がなく合理性がない旨の主張は採用することができない。
 つぎに、原処分庁が適用した法定耐用年数(省令別表第1)についてみると、当審判所が調査したところ、本件家具等のうち、金属製の食器については、省令別表第1に掲げる「器具及び備品」の「食事又はちゅう房用品」欄の「その他のもの」の耐用年数である5年を適用すべきであるにもかかわらず、原処分庁は、同欄の「陶磁器製又はガラス製のもの」の耐用年数である2年を適用していることが認められるほか、本件家具等のうち、接客業用以外の家具は、省令別表第1に掲げる「器具及び備品」の「その他の家具」欄の「その他のもの」の耐用年数である8年を適用すべきであるにもかかわらず、原処分庁は、同欄の「接客業用のもの」の耐用年数である5年を適用していることが認められる。
 また、本件家具等のうち、貸与開始年月(購入年月)を「平成19年3月」とすべきであるにもかかわらず、原処分庁は、同年月を「平成18年3月」として算定しているものが認められる。
 したがって、これらの点については、適用した耐用年数等に誤りがあり、本来適用すべき上記各耐用年数を適用して経済的利益の額を算定すべきであるが、原処分庁のその他の耐用年数等の適用については、誤りがない。
(ホ) また、請求人は、本件家具等のうち、カーテン、じゅうたん及び照明器具は建物の一部であり、その賃貸料は本件マンションの賃貸料に含まれている旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、これら請求人主張の家具等は本件マンションの建物に付合して一体となっているものではなく、取り外し可能な独立の動産のままであることが認められ、これらの家具等が建物の一部である旨の請求人の主張は採用することができない。
 そして、これら建物内に存する独立動産である家具等を建物自体とともに賃貸借の目的とする場合には、賃貸借契約当事者間にその旨の合意がなされるのが通常であると考えられるところ、このような合意がなされたと認められるか否かについてみる。
 しかしながら、上記1の(4)のロのとおり、請求人及び代表者間で本件マンションに係る賃貸借契約書は作成されておらず、また、提出された資料及び当審判所の調査によっても、請求人と代表者との間で、カーテン、じゅうたん及び照明器具を、本件マンションの賃貸借契約の目的とする旨の合意や、その賃貸料を本件賃貸料に含ませる旨の合意があったことを直接認めるに足りる証拠は見出せない。
 もっとも、上記1の(4)のロ及びニのとおり、本件賃貸料は、平成19年8月に、月額150,000円から月額250,000円に改定されている一方、代表者の入居時期からこの改定時期までの間に、本件家具等の一部が本件マンションに設置されていることが認められ、これらの事情からすれば、上記賃貸料の改定は、本件家具等の全部又は一部を本件マンションの賃貸借契約の目的に加えたことによるのではないかとみれなくもない。しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、請求人は、上記賃貸料改定時の直前に、原処分調査担当職員から次のような指摘、すなわち、本件マンションの固定資産評価額に基づき家賃相当額の計算を行うと月額○○○○円となり、現行賃貸料月額150,000円との差額を代表者に対する給与として課税する旨の指摘を受け、これを理解して自主的に賃貸料を改定したことが認められ、このことからすると、上記賃貸料の改定は、専ら原処分調査担当職員の上記指摘に基づき、その指摘の趣旨に沿った形で行われたというべきであるから、上記賃貸料の改定等の事実をもってしても、本件家具等の全部又は一部が本件マンションの賃貸借契約の目的に加えられたとか、本件家具等の全部又は一部の賃貸料が本件賃貸料に含まれていたことを認めるに足りない(なお、上記○○○○円と250,000円との差額を、本件家具等の賃貸料相当額とする旨の合意があったことを認めるに足りる証拠はない。)。
 そうすると、本件賃貸料は、本件マンション使用の対価でしかなく、本件家具等の使用料は含まれていないというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ヘ) 以上を前提に、当審判所において、経済的利益の額を算定したところ、別表4の「各月の経済的利益の額」欄のとおりとなる。
ハ 本件各処分の適否
 上記イ及びロにおける当審判所の判断を踏まえ、本件各処分の適否を検討したところ、以下のとおりである。
(イ) 本件各納税告知処分
 上記ロの(ヘ)で判断した別表4の「各月の経済的利益の額」欄の金額を基に、請求人の納付すべき源泉所得税の金額を計算すると、別表5の「8 7に対する源泉徴収税額」欄のとおりとなる。
 そうすると、当審判所が認定した請求人の納付すべき源泉所得税の金額から源泉徴収済みの税額を差し引いた額は、別表5の「9 原処分前との差額(82)」欄のとおりとなるところ、これらは本件各納税告知処分の額を下回ることとなるから、本件各納税告知処分はいずれもその一部を取り消すべきである。
(ロ) 本件各賦課決定処分
 上記(イ)のとおり、本件各納税告知処分はその一部を取り消すべきであるところ、不納付加算税の各賦課決定処分の基礎となる税額は、それぞれ別表6の「不納付加算税の基礎となる税額」欄のとおりとなる。また、当該源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないことから、請求人の不納付加算税の額はそれぞれ別表6の「不納付加算税の額2」欄のとおりとなるところ、これらは本件各賦課決定処分の金額を下回るから、本件各賦課決定処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。

(4) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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