ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.78 >> (平21.10.23、裁決事例集No.78 448頁)

(平21.10.23、裁決事例集No.78 448頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人G及びH(以下「請求人ら」といい、個々の請求人を「請求人G」などという。)がした相続税の申告について、借地権が申告漏れであり、また、当該借地権に係る家屋の一部は貸家には該当しないとして、更正処分等を行ったのに対し、請求人らが、当該借地権については、家屋が老朽化し借地権を無償で返還することが決まっているから正常な状態の家屋が存する借地権と同じ評価をすべきではないなどとして、原処分の全部又は一部の取消しを求めた事案であり、争点は次の2点である。

争点1 当該借地権に係る家屋の一部は、貸家か否か。

争点2 当該借地権の価額は、家屋の老朽化等を考慮して評価すべきか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成21年2月27日請求)に至る経緯は別表1のとおりである。
 なお、請求人らは、平成21年2月27日に、請求人Gを総代として選任し、その旨を当審判所に届け出た。

(3) 関係法令等

 別紙のとおりである。

トップに戻る

(4) 基礎事実

 以下の事実については、請求人らと原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人ら及びJは、平成17年8月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したK(以下「被相続人」といい、被相続人の死亡により開始した相続を、「本件相続」という。)の共同相続人である(請求人Gは被相続人の配偶者、請求人Hは長女及びJは長男である。)。
ロ 請求人Gは、本件相続により別表2記載の順号1ないし4の各家屋(以下「本件各家屋」といい、順号1の家屋を「家屋1」などと表示する。)及び本件各家屋に係る借地権並びにその他の財産を取得した。
 このうち、家屋1の価額は40,061円であり、その他の財産の価額は○○○○円である。
 また、請求人Hが本件相続により取得した財産の価額は、○○○○円である。
ハ 本件各家屋は、Lから年額250,000円の地代で賃借しているP市p町Q1番及びQ2番の土地(以下「本件各土地」という。)上に所在し、その配置の概略は別表2の参考図のとおりとなっている。
 また、地代は、昭和46年当時は、年額31,220円であったが、その後、増額され、平成3年以降年額250,000円となったものである。
 なお、本件各土地に面している路線に付された平成17年分の路線価は、別表2の参考図のとおりである。
ニ 家屋1は、本件相続開始日において、Mが賃借していた。
ホ R国税局長は、R国税局管内全域の平成17年分の借家権割合を30%とし、また、本件各土地が所在する地域について、借地権の取引慣行がある地域であるとして借地権割合を50%と定めている。
ヘ 請求人らの申告における家屋2ないし4(以下「家屋234」という。)の価額は別表3の「申告額」欄のとおりであり、その計算の内容は別表4のとおりである。
ト 原処分のうち更正処分における家屋1に係る借地権及び家屋234に係る借地権(これらの借地権を合わせて、以下「本件各借地権」という。)の各価額並びに家屋234の価額はそれぞれ別表3の「更正処分額」欄のとおりであり、その計算の内容は別表5のとおりである。

トップに戻る

2 主張

争点1 当該借地権に係る家屋の一部は、貸家か否か。

原処分庁 請求人ら
 家屋234には、過去にSが居住していた形跡はあるが、少なくとも平成17年1月以降公共料金の使用実績がないこと、被相続人の取引金融機関への賃料の入金等が確認できないこと、請求人Gが調査担当者に対して、被相続人の母親が生きていたころは貸していたが、それ以降は貸しておらず空家となっている旨申述したことからすると、本件相続開始日において、賃貸されていたとは認められず、貸家の用に供されていたとは認められない。したがって、貸家として評価することはできない。  家屋234は、Sに賃貸していたのであり、被相続人は、家屋234を自由に使用できる状態でなかったのであるから、貸家として評価すべきである。

争点2 当該借地権の価額は、家屋の老朽化等を考慮して評価すべきか否か。

原処分庁 請求人ら
(1) 本件各家屋が老朽化し、耐用年数も経過していたとしても、後何年経過したら朽廃するか見積もることはできず、そもそも本件各借地権は、旧借地法の規定の適用を受け法定更新がなされるものであることから、法定更新の制度のない定期借地権等に係る規定を準用することはできない。さらに、借地上の建物が老朽化していても、その程度が朽廃に至らない限りは、借地権それ自体には何ら影響を及ぼさないと解されていることからすると、本件各家屋の老朽化によって本件各借地権の価額を減額することはできない。
 したがって、本件各借地権は、評価通達27及び28の定めに基づいて評価することが相当と認められ、家屋1に係る借地権については貸家建付借地権として、家屋234に係る借地権については借地権として評価することとなるので、別表5のとおりとなる。
(1) 本件各家屋は老朽化が進み朽廃寸前のものであり、取り壊した上、借地権を無償で土地所有者に返還することが決まっているのであるから、借地権としての存続期間も残りわずかである。
 したがって、本件各借地権は、正常な状態の建物が存する借地権と同じ評価をするのではなく、評価通達25(2)に定めのある定期借地権等の目的となっている宅地の評価方法を準用し、別表6のとおり評価するのが妥当である。
(2) 家屋234は、争点1のとおり貸家とは認められないので、家屋234の敷地部分は貸家建付借地権ではない借地権として評価すべきである。 (2) 仮に、本件各借地権について、上記(1)の評価を行うことができないとしても、被相続人は、家屋1及び家屋234をすべて貸しており、請求人らが建物を自由に使用できる状況にはなかったことから、本件各借地権は、すべて貸家建付借地権として評価すべきである。

トップに戻る

3 判断

(1) 争点1(当該借地権に係る家屋の一部は、貸家か否か)について

イ 法令解釈等
 相続税法第22条にいう時価とは、当該財産の取得のときにおいて、その財産の現況に応じ、不特定多数の当事者で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額と解される。
 そうすると、家屋234が貸家に該当するかどうかは、相続により財産を取得した日すなわち本件相続開始日において、家屋234が賃貸借契約の目的となっていたかどうかにより判断すべきである。
 なお、貸家の評価に関する評価通達93は、家屋の価額からこれに国税局長が定めた借家権割合(R国税局管内においては上記1の(4)のホのとおり30%。)を乗じた価額を控除する方法で算出するとしているが、このような画一的な評価方法を定めているのは、個別に評価する方法を採るとその評価方法、基礎資料の選択の仕方等により評価額に格差が生じることを避け難いこと、また、課税庁の課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、あらかじめ定められた評価法により画一的に評価するほうが納税者間の公平、納税者の便宜及び徴税費用の削減という見地から合理性があるという理由に基づくものと解され、当審判所においても相当と認める。
ロ 認定事実
 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 家屋234のうち、家屋4は、昭和36年に建築された木造平屋建てであり、家屋2は家屋4に付属するトイレ及び風呂、家屋3は住居として家屋4と一体として使用されていた。
 本件相続開始日以後も、家屋4の玄関には、Tほかの氏名が記載された表札が架かっているが、Sの父、Tは平成7年9月○日、Tの妻は同年4月○日に死亡している。
(ロ) Sは、平成21年5月1日時点においても、P市p町Q2番に住民登録をしている。
(ハ) 家屋234に隣接する家屋1の居住者であるMの当審判所に対する答述及び請求人Gの答述並びに当審判所の照会に対するP市福祉事務所(以下「福祉事務所」という。)の回答(保護担当者の答述を含む。)等によれば、次の事実が認められる。
A Mが家屋1に居住していた昭和55年ころには、既に、家屋234にT、同人の妻及び息子のSが居住していた。Mは、Tが被相続人に支払う毎月の家賃30,000円を預かり、Mが家賃を支払う際、一緒に、U銀行V支店の被相続人名義の普通預金口座に振り込んでいた。
B T及び同人の妻が死亡した後、Sが一人で1、2年居住していたが、突然いなくなったため、MがSの家賃を立て替えていた。しばらくして、Sが家屋234に戻ってきて、Mが立て替えていた家賃をMに支払った。
C Sは、平成9年7月2日に緊急入院した後、平成10年5月28日から社会福祉法人W会に入所し、本件相続開始日においても同施設に入所したままであり、家屋234には戻っていない。同施設は、身体障害者が入所し、更生に必要な治療及び訓練を行う援護施設であり、身体機能が社会復帰可能な程度にまで回復した場合は、退所し、自宅に戻る者もある。
D Sは、就労見込みもなく、援助してくれる親族もいないため、平成9年7月4日から生活保護を受け、現在に至っている。
 P市は、平成9年12月分までは、保護費として住宅費月額30,000円を認定、給付していた。
E Mは、Sが生活保護を受けていること、Sが病気で倒れて治る見込みがなく、家屋234に帰ってくることができないこと、P市は平成9年12月までしか家賃を支払うことができないことをP市役所関係者から聞き、その旨を被相続人に知らせた。
F 家屋234には、平成21年4月ころまで、Sの仏壇、家財道具などの荷物が放置されたままになっていた。
 Sは、上記荷物の処分に同意する旨が記載された、平成21年4月30日付の「同意承諾書」と題する書面(以下「本件承諾書」という。)を作成して、そのころ、福祉事務所を通じて請求人Gに送付した。
ハ 判断
(イ) 家屋234には、上記ロの(ハ)のFのとおり、平成21年4月ころまでは、Sの家具等があったことが認められ、かつ、その処分について請求人GがSから本件承諾書を得ていることからすると、本件相続開始日(平成17年8月○日)以後もSの家屋234に係る占有が継続していたものと見るのが相当である。
 そして、Sの家屋234に係る占有は、上記ロの(イ)及び(ハ)のA及びBの占有取得の経緯から、同人の父Tの占有を承継したものと推認できるところ、上記ロの(ハ)のA及びBのとおりT及びSから被相続人に対し賃料の支払があったことからすると、T及びSの各占有はいずれも賃貸借契約に基づくものであったと認められる。
 また、上記ロの(ハ)のCのとおり、Sは平成9年以降入院又は施設に入所しているが、そうであったとしても、入所しているW会は更生援護施設であって、しかも、その入所はそもそも病気を起因とするものであるから転居ではないというべきである。さらに、上記ロの(ロ)のとおり、平成21年5月1日時点においても、家屋234の所在地に住民登録をしていたことからすると、家屋234における居住又は占有を放棄して、病院又は施設に居住することとなったとまではいえない。
(ロ) この点について、原処分庁は、(A)平成17年1月以降公共料金の使用実績がないこと、(B)賃料の支払を確認できないこと、(C)請求人Gの家屋234は空家であり、本件相続開始日において貸していない旨の原処分庁の調査担当者に対する申述をもって、賃貸されていたとは認められない旨主張する。
 しかしながら、上記(A)については、原処分庁は、電気、ガス、水道について、T名義の供給契約の該当がない旨の回答を得たにすぎず、Sとの供給契約の有無及び使用実績は明らかではない。また、仮に、Sが、電気、ガス、水道を使用していなかったとしても、不在であることにより使用がなかったにすぎず、必ずしも家屋234が賃貸借の目的となっていない理由とはならない。
 また、上記(B)の賃料の支払を確認できないことについては、確かに、賃料が平成10年以降支払われていないことが認められるが、請求人Gの答述その他原処分関係書類を調査したところによっても、被相続人がSに対し借地借家法第26条第1項及び第27条第1項に規定する解約の申入れをした事実は認められず、借地借家法には、賃料が未払である事実があれば解約されたものとみなす規定もないから、家賃が未払になった後も賃貸借契約は継続していたというべきである。
 さらに、上記(C)の請求人Gの原処分庁の調査担当者に対する申述についても、上記ロの(ハ)のC及びFのとおり、Sが、不在となった平成9年7月以降平成21年4月ころまでの間も家屋234に荷物を置いて同所を占有していたこと、上記(イ)のとおり、Sが、父であるTの死亡後、被相続人から家屋234を賃借したものであり、請求人Gも平成21年4月ころ、Sから本件承諾書の送付を受けるなど同人の占有の継続を前提とする行為をもしていることと整合せず、家屋234が本件相続開始日において賃貸の用に供されていないことを裏付けるに足りるものとはいえない。
 したがって、これらの原処分庁の主張は採用することができない。
(ハ) そうすると、家屋234は本件相続開始日現在において賃貸借の目的となっている貸家であるから、その評価額は評価通達93の定めにより計算することとなり、別表7のとおりとなる。
 なお、被相続人は、家屋234の賃貸借契約により、本件相続開始日において、Sに対し未収の家賃を請求する権利を有しているが、上記ロの(ハ)のCないしFの各事実からすると、評価通達205に定めるその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときに該当し、当該未収となっている家賃の金額は相続財産として計上しないのが相当である。

トップに戻る

(2) 争点2(当該借地権の価額は、家屋の老朽化等を考慮して評価すべきか否か)について

イ 法令解釈等
(イ) 借地権とは、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいうところ(借地借家法第2条第1号)、評価通達9は、法定更新等の制度に関する規定の適用がない借地借家法第22条ないし第25条までに規定する借地権については、一般の借地権と評価上の区分を異にするものとして、「定期借地権等」として評価する旨定めている。
 ところで、借地借家法により認められた借地権(定期借地権等を除く。)は、「普通借地権」といわれており、また、借地借家法の施行前に成立している既存の借地権については、旧借地法の従前の取扱いが適用される(同法附則第4条ただし書)が、これら2種類の借地権は存続期間や更新、終了事由等に差異はあるものの並存するものとなっている。そして、評価通達では、これら2種類の借地権をいずれも建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう「借地権」として同じに取り扱っているものと解される(これら2種類の借地権を、定期借地権等と区別して、以下、「普通借地権」という。)。
(ロ) 普通借地権の設定に際し権利金その他の一時金を支払う慣行が確立されていない地域であっても、普通借地権の設定された土地が借地権ぐるみで売買される場合には、その代価のうち、何割かは借地権者が収受し、また、その土地(いわゆる底地)を借地権者が取得する場合には、更地の場合より相当低い値段で取引されるのが通常となっている。そこで、評価通達27では、普通借地権の価額は、借地権割合を用いて評価する方法を採用し、借地権割合は、普通借地権の売買実例価額、精通者意見価格及び地代の額等を基とし、状況類似地域ごとに定めることとされている。
 この点について、建物の所有を目的とする普通借地権は、旧借地法又は借地借家法の規定に基づくもので、その権利の内容がおおむね一様であるということができ、地域的な格差はあるとしても、上記のとおり一定の価額をもって取引されるものであることから、その価額を自用地としての価額にその地域における一定の借地権割合を乗じて算出するといういわゆる一律評価制度は、相続税法第22条に規定する時価が不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額である(評価通達1の(2))と解されていることに照らし、合理的であると考えられ、評価通達27の定めは、当審判所においても相当と解される。
(ハ) 貸家の目的に供されている借地権又は定期借地権等(以下「貸家建付借地権等」という。)の評価については、評価通達28において、評価通達27、同27-2及び同27-6により評価した普通借地権又は定期借地権等の額から、それぞれの額に借家権割合を乗じた金額に相当する金額を控除して評価するとしている(当該貸家に各独立部分がある場合を除く。)。このように貸家建付借地権等の価額を通常の借地権又は定期借地権等の価額より低く評価することとしているのは、借地権の内容である宅地の使用収益権について、借家人が家屋の賃借権に基づいて、家屋の利用の範囲内で、利用していると認められ、逆にその範囲において借地権者は、利用についての受忍義務を負うこととなっており、それだけ借地権者の有する借地権又は定期借地権等そのものの価額が減価しているというべきであるからであって、評価通達28の定めは、当審判所においても相当と解される。
ロ 認定事実
 請求人ら提出資料、原処分関係資料並びにLの長男であるX、M及び請求人Gの当審判所に対する答述等によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人Gは、平成20年11月10日、Lとの間において、本件各土地の土地使用に関し、要旨次の内容の覚書(以下「土地覚書」という。)を交わした。
A 借主請求人Gと貸主LはP市p町Q1番地の土地使用に関して、被相続人の遺志に基づき、以下のとおり合意したので覚書を取り交わす。
B 家屋1は、極めて老朽化が進み、安全に居住できる状態にはないと推測できる。現在の居住者であるMに早急に退去を促す申立てを行う。なお、退去に必要な費用は、請求人Gの負担とする。
C 居住者の退去後、速やかにすべての家屋を解体し、整地の上でLに返却する。なお、解体費用は、すべて請求人Gの負担とする。
D 請求人GがLに返却した時点をもって、請求人Gの本件各土地を使用する権利は一切消滅するものとする。なお、地代は、その月分までLに支払うこととする。
(ロ) 被相続人は、Mには、土地を返したいので建物を明け渡してほしい旨伝えていたが、Mがまだ居住していたこともあり、生前には、Lに土地を返す旨の連絡はしていなかった。
ハ 判断
(イ) 本件各借地権の存在については、請求人らも争わないところ、本件各家屋の建築時期が別表2のとおり昭和23年又は同36年であること及び上記1の(4)のハのとおり、昭和46年には地代の支払の事実があることからすると、遅くとも昭和46年には、本件各家屋の所有を目的とする賃借権が成立していたことは明らかである。したがって、本件各借地権は、旧借地法の規定により効力を有する普通借地権であると認められる。
 そして、家屋1は上記1の(4)のニのとおり貸家であり、また家屋234も上記(1)のハのとおり貸家であるから、本件各借地権は、いずれも貸家の敷地の用に供されていると認められる。
 そうすると、本件各借地権は、評価通達27の定めにより評価した金額を基礎として、貸家建付借地権等として評価通達28の定めにより評価すべきこととなる。
(ロ) この点について、請求人らは、本件各借地権について、別表6のとおり、存続期間は平成21年5月までであり、本件各家屋は老朽化が進み朽廃寸前のものであり、安全性を考慮して取り壊した上で、無償で土地所有者に返還することが決まっているので存続期間も残りわずかであるから、正常な借地権としての評価をすべきでない旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(イ)及び(ロ)のとおり、被相続人が生前に家屋賃借人であるMに対し、本件各家屋に係る土地を地主に返還したい旨述べており、土地覚書にも本件各土地の返還が被相続人の遺志に基づく旨の文言はあるものの、他方で被相続人が、地主に対し、本件各土地を返還する旨の意思表示をしたことはないのであるから、本件各借地権の返還についての合意は、本件相続開始日後に、相続人である請求人Gと土地所有者との間でなされたものにすぎないというべきである。
 また、そのほかに、被相続人と土地所有者との間で本件相続開始日までに本件各借地権の存続期間を短期間に制限する合意がなされていた事実は認められないのであるから、相続税の課税価格の計算における本件各借地権の価額の算定に当たっては、土地覚書による返還を考慮することはできないというべきである。
 したがって、残存期間が平成21年5月までと確定していることを前提とする請求人らの主張は採用することができない。
 さらに、借地上の建物が時の経過により老朽化しても、その程度が旧借地法2条にいう朽廃にまで至らない限りは、借地権それ自体にはなんら影響を及ぼすものではなく、その老朽化が朽廃の程度に至るか又は少なくともその程度に至る状態が近い将来に見込まれる状態に立ち至ったものでない限り、その借地権割合についても減価を考慮する必要はないものというべきである。
 この点について、本件各家屋が朽廃に至っていないことについては当事者間に争いがなく、本件相続開始日において、本件各家屋には、それぞれ家屋賃借人がいたこと、仮に請求人の主張によったとしても3年9か月の存続期間があることからすると(別表6の(注2)のロ参照)、近い将来において朽廃が見込まれる状態に立ち至ってはいなかったというべきであるから、借地権割合について減価を考慮する必要はないものと認められる。
(ハ) 加えて、請求人らが主張する評価方法は、評価通達25の(2)に定めのある定期借地権等の目的となっている宅地の評価方法の一部分を準用するものであるが、評価通達25は、同27-2の定期借地権等の評価とは異なり、貸宅地の評価すなわち借地権の目的となっている宅地の底地としての評価の定めである上、同27-2の(2)に定めのある割合は、定期借地権等それ自体の借地権割合ではなく、残存期間を5年刻みに、貸宅地の所有者に有利になるように一定の便宜的な借地権の割合を定めた簡便法の割合にすぎず、この割合をもって定期借地権の評価をする旨の定めもないことからすれば、そもそも評価通達25の(2)のイないしニの割合をもって借地権の評価をすること自体に合理性がないものと認められる。
(ニ) なお、原処分庁は、家屋234は貸家とは認められないから、家屋234に係る借地権については、別表5のとおり評価通達27の定めにより評価すべき旨主張するが、上記(1)のハのとおり家屋234は貸家であると認められるから、原処分庁の主張は採用することができない。
(ホ) 以上の結果、本件各借地権の評価額は、いずれも評価通達27の定めにより評価した額を基礎として、評価通達28の定めにより貸家建付借地権等として評価すべきであるから、別表7のとおりとなる。
 また、別表6のとおり、請求人は本件各借地権を一体のもの、一画地として評価しているが、別表2の参考図のとおり、家屋1及び家屋234は独立しており、M及びSにそれぞれ単独で貸し付けられているものであることからすると、本件各借地権は、それぞれ家屋1に係る借地権部分と家屋234に係る借地権部分にそれぞれ区分して評価すべきであり、本件各借地権を一体のものとして評価することはできないものと認められる。

トップに戻る

(3) 課税標準及び税額の計算等

 上記1の(4)のロ、上記(1)のハの(ハ)及び上記(2)のハの(ホ)によれば、本件各家屋及び本件各借地権を含む請求人らの取得財産の価額は、別表3の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
 そうすると、請求人らの納付すべき税額及び加算税の額は、いずれも原処分の額を下回るから、原処分はいずれもその一部を取り消すべきである。

(4) 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

トップに戻る