(平22.6.22、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の法人税並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、原処分庁が、元経理担当者の横領による隠ぺい又は仮装の行為があったとして、重加算税等の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該法人税及び消費税等の修正申告書の提出は「調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するなどと主張して、当該処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

イ 請求人は、平成16年3月1日から平成17年2月28日まで、平成17年3月1日から平成18年2月28日まで、平成18年3月1日から平成19年2月28日まで及び平成19年3月1日から平成20年2月29日までの各事業年度(以下、請求人の各事業年度につき「平成17年2月期」などといい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書をいずれも法定申告期限までに提出した。
ロ 請求人は、平成16年3月1日から平成17年2月28日まで、平成17年3月1日から平成18年2月28日まで、平成18年3月1日から平成19年2月28日まで及び平成19年3月1日から平成20年2月29日までの各課税期間(以下、請求人の各課税期間につき「平成17年2月課税期間」などといい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等について、別表2の「確定申告」欄のとおり、いずれも法定申告期限までに申告した。
ハ 次いで、請求人は、本件各事業年度に係る法人税について、別表1の「一次修正申告」欄から「三次修正申告」欄までのとおり修正申告し、また、本件各課税期間に係る消費税等について、別表2の「一次修正申告」欄及び「三次修正申告」欄のとおり各修正申告をした。
 なお、請求人が平成21年1月16日にした修正申告を「本件一次修正申告」、その際提出された修正申告書を「本件一次修正申告書」と、同年3月31日にした修正申告を「本件二次修正申告」、その際提出された修正申告書を「本件二次修正申告書」と、同年4月1日に提出された修正申告書を「本件三次修正申告書」とそれぞれいう。
ニ 原処分から審査請求に至るまでの経緯等は、別表1及び別表2のとおりである。
ホ 請求人は、本件一次修正申告に係る過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分並びに平成17年2月期の本件二次修正申告に係る重加算税の賦課決定処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分について不服があるとして、平成21年10月30日に審査請求をした。

(3) 関係法令

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正があったときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
 また、同条第5項は、修正申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、過少申告加算税を課さない旨規定している。
ロ 通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、不動産賃貸及び会社の経営管理などを業とする法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社である。
ロ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、平成20年9月5日に、請求人代表者及び請求人の関与税理士(以下「本件関与税理士」という。)に電話により連絡の上、同年10月1日に、請求人に対する税務調査(以下「本件調査」という。)のため、請求人事務所に臨場した。
ハ 本件関与税理士は、平成20年10月1日、請求人代表者の同席の下、本件調査に際して請求人の会社概況説明等をした後、調査担当職員に対して請求人の経理担当者であったAが本件各事業年度において使い込みをしていたこと(以下「本件横領」という。)を説明し、これに関連する資料を交付した。
ニ 本件一次修正申告書は、請求人が本件各事業年度及び本件各課税期間における本件横領に係る13,123,086円について修正して提出されたものである。
ホ 本件二次修正申告書は、請求人が原処分庁所属の職員から、平成17年2月期の法人税における租税特別措置法(平成18年法律第10号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第42条の4《試験研究費の額が増加した場合等の法人税額の特別控除》の特別控除の過大計上及び平成20年2月期の法人税における未納事業税の過大計上を指摘され、当該事項を修正して提出されたものである。
ヘ 本件三次修正申告書は、請求人が調査担当職員の本件調査による指摘事項に基づいて提出されたもので、本件横領に関係する事項は含まれていない。
ト 原処分庁は、平成21年5月19日付で、本件一次修正申告について、本件横領の行為のうち、隠ぺい又は仮装に当たると認定したものについては重加算税の賦課決定処分を、それ以外のものについては過少申告加算税の賦課決定処分をした。
 また、原処分庁は、同日付で、平成17年2月期の本件二次修正申告について、重加算税の賦課決定処分をした。

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2 争点

 本件一次修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する「その申告に係る国税の調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否か。また、平成17年2月期の本件二次修正申告について、隠ぺい又は仮装の事実があるか否か。

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3 主張

 当事者の主張は、別紙のとおりである。

4 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人代表者の妻で経理担当取締役であるBは、平成20年5月の連休明けのころ、本件関与税理士から平成20年2月期の確定申告書の控え及び決算書類の交付を受けた際に、元帳等を見直していたところ、請求人の元帳の福利厚生費が多額であることに気付き、経理担当者であったAにこの原因について問い質したところ、同人が本件横領の事実を認めた。
 そこで、請求人代表者の指示の下、Bが、直ちに本件関与税理士に本件横領について電話で連絡したところ、本件関与税理士から平成20年2月期及び平成19年2月期以前についても修正申告書を提出することが予想されるから、本件横領に関する資料を収集するよう指示を受けた。
ロ そのため、Bが中心となってAに対する追及を続けた結果、平成20年5月14日現在の横領額が約13,300,000円になることが判明したことから、Bは、平成20年6月4日に本件横領に関する資料を本件関与税理士に提出し、同税理士に修正申告書の作成作業を依頼した。
ハ Bが平成20年6月4日に本件関与税理士に提出した本件横領に関する資料(以下「本件横領資料」という。)は、次のとおりである。
(イ) 「第38期平成20年2月決算 福利厚生費 確認事項」と題する書面(1枚)
(ロ) 平成20年5月8日付の「横領金総額」と題する書面(1枚)
(ハ) 「平成20年5月9日以降のA氏任務」と題する書面(1枚)
 なお、当該書面には、「○○先生判断のもと、修正申告」と記載されている。
(ニ) 平成20年5月9日付の「A 横領金」と題する書面(2枚)
(ホ) 平成20年5月13日付の「債務弁済契約書」と題する書面(1枚)
(ヘ) 平成20年5月14日付のAの記名押印のある、同人の横領額13,330,233円の内訳を記載した「合計表」と題する書面(計表4枚)(以下「本件合計表」という。)
 なお、本件合計表には、請求人のC銀行口座を利用して売上未計上、架空外注費、販促費架空及び雑費架空等を計上した7,625,067円、また、D銀行口座を利用して架空仕入れ及び修繕費等を計上した5,157,268円と、Aの飲食費やガソリン代の請求人への付込みの明細として、飲食代他462,818円、ガソリン代85,080円の合計13,330,233円の横領額の内訳が記載されている。
 また、本件横領の合計額13,330,233円には、平成21年2月期に係る横領額209,647円が含まれている。
(ト) 「係員」欄にAの押印がある13枚の振替伝票
ニ 本件関与税理士は、平成20年6月ころ、比較的規模の大きい法人8社の申告書作成事務に忙殺されていたことや、同年7月以降は、税務調査の立会い等への対応が必要であったことに加え、本件横領は手が込んでおり、また、経理関係の修正仕訳についても相当な勘定科目に及び、かつ横領の時期も4期にわたっていたことから、修正申告書の作成作業に時間を要した。
ホ 調査担当職員は、本件調査の開始前において本件横領につながるような資料は保有していなかったところ、本件調査の初日の平成20年10月1日、会社概況の説明を受けた後、帳簿調査を開始する前に、本件関与税理士から、請求人代表者の同席の下、本件横領の事実の説明を受けるとともに、本件横領資料の写しの交付を受け、同税理士から、本件横領の全容を解明するには相当の日数を要するので、本件横領の解明作業については当方に任せてもらいたい旨の申出を受けた。
 調査担当職員は、本件関与税理士からの当該申出を了承し、当該解明作業については本件関与税理士に任せる旨回答したことから、自らは本件横領の全容については確認せず、帳簿調査の過程で、証拠資料の確認ができないものについては、本件関与税理士から交付を受けた本件横領資料の写しと照合するなどしてその一部について確認するにとどめた。

(2) 本件一次修正申告に係る過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分について

イ 法令解釈
 通則法第65条第5項は、過少申告がなされた場合であっても、その後修正申告書の提出があり、その提出がその申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときには過少申告加算税を賦課しないこととしているところ、その趣旨は、過少申告がなされた場合には、修正申告書の提出があったときでも原則として過少申告加算税は賦課されるものであるが、「申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知」することなく自発的に修正申告を決意し、修正申告書を提出した者に対しては、例外的に過少申告加算税を賦課しないこととし、もって、納税者の自発的な修正申告を奨励することにあるというべきである。
ロ 前記1の(4)及び上記(1)で認定した事実関係によれば、本件については次のようにみることができる。
 すなわち、1請求人は、平成20年5月の連休明けのころ、請求人の経理担当者による本件横領の事実を把握し、直ちにBを介して、本件関与税理士に当該事実を報告し、同年6月4日には本件横領資料を本件関与税理士に提出して本件横領に関する修正申告書の作成作業を依頼するなどしており、納税者本人において、その申告が不適正であることを発見しあるいはその端緒となるべき資料等を把握したものである。
 その後、2本件関与税理士は、担当する事務に忙殺された上、本件横領が多数の勘定科目に及び、かつ横領の時期も4期にわたったことから、事実関係の確認及び修正申告書の作成作業に時間を要したが、3本件関与税理士及び請求人代表者は、本件調査の初日の平成20年10月1日には、請求人の会社概況等を説明した後、調査担当職員が帳簿調査を開始する前に、当該職員に対し、本件横領資料の写しを交付し、本件横領に係る事実関係を説明し、当該職員から横領の解明作業を本件関与税理士が行うことの了承を得たもので、税務当局の調査着手後、早期の段階において、納税者から修正申告書を提出する旨の申出がなされたということができる。
 一方、4調査担当職員は、本件調査の開始前において本件横領につながるような資料は保有しておらず、帳簿調査において、横領行為の一部について確認するにとどまり、その全容について確認していなかったところ、5本件合計表に記載された本件横領の合計額は13,330,233円であり、その金額から平成21年2月期に係る横領額209,647円を控除すると、その控除後の横領額は、本件一次修正申告に係る各事業年度の修正額の合計額とほぼ一致しており、本件調査により、Aの横領行為に関する事実関係が新たに明らかになったものはなかったものと認められる。
 そうすると、上記申出を受けた調査担当職員は、当該申出に係る部分を除いて調査を行ったものであり、調査担当職員の調査により更正がなされることを予知されたと評価すべき事実を認めることはできない。
 以上によれば、本件一次修正申告書は本件調査があったこととは別に自主的に提出されたものであり、調査があったことに基づいて提出されたと認められないことから、更正があるべきことを予知してされた修正申告書の提出には当たらない。
ハ したがって、本件一次修正申告書の提出には通則法第65条第5項の規定が適用され、同条第1項の規定は適用されないから、過少申告加算税は課されない。
 また、通則法第68条第1項は、同法第65条第1項の規定に該当しない場合には適用されないから、本件において重加算税を課すことはできない。
ニ 原処分庁は、本件調査の初日の平成20年10月1日に、本件関与税理士から本件横領の事実及びこれに係る経理処理等を確認している途中であり、引き続き解明したい旨の申出がなされた事実は認められるが、本件一次修正申告書は平成21年1月16日に提出されており、この申出をもって、請求人が修正申告書の提出を予定し、これに先立って、原処分庁に対して真に自発的な修正申告の確定的な決意の表明があったものとは認められない旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のホのとおり、本件調査前に調査担当職員において本件横領に係る事実は把握されておらず、また、平成20年10月1日の申出の際に交付された本件合計表の写しに記載された本件横領の合計額と、本件一次修正申告書に係る本件各事業年度の修正額の合計額とはほぼ一致しており、請求人が把握した本件横領のすべてについて修正申告をする旨の申出がなされたとみることができるのであるから、仮に、調査担当職員が本件調査において本件横領に係る事項等をも念頭に置いた上で、請求人の帳簿類等の確認を行っていたとしても、それにより、当該修正申告書の提出を「調査があったことにより更正が予知されたものでないとき」とみることを妨げるものではなく、原処分庁の主張には理由がない。
 また、上記(1)のハの(ヘ)及び同ニのとおり、本件横領は複数の金融機関が介在するなど手が込んでおり、また、経理関係の修正仕訳についても相当な勘定科目に及び、かつ横領の時期も4期にわたっており、さらに上記(2)のロのとおり、本件横領が発覚した後、請求人は、修正申告に必要な経理関係の解明作業等に相当程度の時間を費やした上で、本件調査の初日において、その解明作業を継続することの了承を得たことなどからすると、請求人が自発的に修正申告書を提出することを申し出たものとみるべきで、実際に、上記申出の内容とほぼ一致した修正申告書が提出されているのであって、上記申出と本件一次修正申告書の提出の間に時間が経過したとしても、上記申出後も、調査担当職員において本件横領に関する端緒を把握したり、本件横領の内容を解明して請求人に指摘するなどの具体的な調査を行っていないことを考慮するならば、上記修正申告に至るまでの時間の経過をもって、当該修正申告書の提出を「調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたもの」で、自発的な修正申告でないとみる根拠とすることはできず、原処分庁の主張には理由がない。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張はいずれも採用することはできない。

(3) 平成17年2月期の本件二次修正申告に係る重加算税の賦課決定処分について

イ 平成17年2月期の本件二次修正申告書は、措置法第42条の4第1項に規定する税額控除の算定に当たり、当初申告に係る法人税額を基準として計算すべきところ、本件一次修正申告に係る法人税額を基準として計算したことによる誤りがあり、これを指摘されて提出されたものであるから、本件二次修正申告に基づき納付すべき税額について、通則法第65条第1項の適用のあることは明白である。
ロ この点に関し、原処分庁は、本件二次修正申告のうち、平成17年2月期に係る法人税の本件一次修正申告を上回る税額は、本来、重加算税が課される部分が圧縮されていたのであるから、本件一次修正申告により納付すべき税額と本件二次修正申告により納付すべき税額の双方について、通則法第68条第1項所定の基礎となるべき税額として重加算税を課することが相当である旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のハのとおり、原処分庁の主張は、その前提を欠くこととなり、また、税額控除の計算誤りという事実をもって、請求人が事実を隠ぺいし又は仮装したものということはできないから、原処分庁の主張には理由がない。
ハ なお、平成17年2月期の本件二次修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
ニ したがって、平成17年2月期の本件二次修正申告に係る重加算税の賦課決定処分は、過少申告加算税相当額の金額を上回る部分につき違法である。

(4) 結論

 以上のとおり、原処分は通則法第65条及び同法第68条の適用を誤ってなされたものであって、その点において違法であるから、本件一次修正申告に係る過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分はいずれもその全部を取り消し、また、平成17年2月期の本件二次修正申告に係る重加算税の賦課決定処分は、過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき取り消すのが相当である。

(5) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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