(平22.2.4、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)から金銭の贈与を受けたとする者がした期限後申告に係る贈与税について、請求人は相続税法第34条《連帯納付の義務》第4項に規定する連帯納付の義務(以下「本件連帯納付義務」という。)を負うとして、原処分庁が督促処分を行ったことに対し、請求人が、贈与をした事実は存在しないことから、当該贈与税の期限後申告及び無申告加算税の賦課決定処分は無効であるとして、また、請求人は本件連帯納付義務を負うものではないとして、原処分等の全部の取消しを求めた事案であり、争点は、次の2点である。
争点1 本件連帯納付義務を負う者(以下「本件連帯納付義務者」という。)は本来の納税義務者の納税義務(以下「主たる納税義務」という。)の不存在を主張することができるか否か。
争点2 請求人が本来の納税義務者に対し贈与をした事実があるか否か。

(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

 以下の事実については、請求人と原処分庁との間に明らかな争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人の実母であるD(昭和6年○月○日生。以下「被相続人」という。)は、平成16年10月○日に死亡した(以下、被相続人の死亡により開始した相続を「本件相続」という。)。 
ロ 本件相続において相続人となるべき者は、請求人、請求人の長兄E及び次兄Fの3名(以下「請求人ら」という。)のみであり、受遺者もいなかったが、請求人らは、G家庭裁判所H支部に本件相続に関する相続放棄申述書を提出し、後に請求人だけが、相続財産の処分等を円滑に行うために平成17年1月○日付で相続放棄を取りやめる旨を記載した相続放棄申述書の補正書をG家庭裁判所H支部に提出し、同年2月○日に受理されたため、請求人が被相続人の財産(以下「本件相続財産」という。)を相続することとなった。 
 なお、被相続人は、昭和36年に請求人の実父であるJと離婚し、その後、昭和46年にKと再婚したが、請求人らとはJとの離婚以来交流がなかった。 
ハ Kのめいであり、滞納者であるC(以下「本件滞納者」という。)は、被相続人と親交があったことから、Kが平成14年2月○日に死亡した後は、一人暮らしになった被相続人の身の回りの世話をしていた。 
ニ 本件滞納者は、請求人から金銭の贈与を受けたとして、原処分庁所属の職員からの申告しょうように基づき、平成20年1月15日に平成17年分の贈与税の期限後申告書を原処分庁に提出した(以下、当該申告書に係る申告を「本件申告」という。)。 
ホ 原処分庁は、本件滞納者に対し、平成20年1月25日付で本件申告に係る無申告加算税(以下「本件加算税」といい、本件申告に係る本税と併せて「本件滞納国税」という。)の賦 課決定処分を行った。
ヘ 本件滞納者は、本件滞納国税を納期限までに完納しなかったため、原処分庁は、請求人に対し、平成20年6月18日付で「連帯納付責任のお知らせ」と題する書面(以下「本件通知」という。)を送付し、請求人が、本件滞納国税について、本件連帯納付義務を負っている旨通知した。 
ト 原処分庁は、請求人に対し、別表のとおり、平成20年8月27日付で国税通則法(以下「通則法」という。)第37条《督促》第1項の規定に基づき督促状を送付し、本件連帯納付義務に係る本件滞納国税の納付を督促した(以下、この督促処分を「本件督促処分」という。)。 
チ 請求人は、平成20年10月16日に本件申告の無効及び本件加算税の賦課決定処分の取消し並びに本件督促処分の取消しを求め異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成21年1月13日付で、本件申告の無効及び本件加算税の賦課決定処分の取消しについては却下、本件督促処分の取消しについては棄却の異議決定をしたことから、同年2月13日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 別紙のとおり。

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2 主張

争点1 本件連帯納付義務者は主たる納税義務の不存在を主張することができるか否か。

請求人 原処分庁
 本件連帯納付義務者は、本件連帯納付義務に係る徴収手続の段階において、主たる納税義務の不存在、すなわち本来の納税義務者のした申告や本来の納税義務者に対する課税処分の無効について争うことができるものであり、本件においては、請求人と本件滞納者との間で贈与の事実がないのに贈与の事実があったとする点で錯誤が存在することから、本件申告及び本件加算税の賦課決定処分は当然に無効であり取り消されるべきである。   本件連帯納付義務者は、本件連帯納付義務に係る徴税手続について争うことはできるが、本来の納税義務者に対する課税処分については争えないことから、請求人は、本件加算税の賦課決定処分の無効を主張することはできない。
 また、不服申立ては、国税に関して税務署長がした処分についてのみできることとされているところ、本件申告は、税務署長がした処分ではないことから、本件申告について無効を主張することはできない。

争点2 請求人が本来の納税義務者に対し贈与をした事実があるか否か。

原処分庁 請求人
 本件滞納国税は、通則法第16条第1項及び同法第66条第1項の規定により確定しており、本件申告に係る申告書には、本件滞納者が請求人から金員を取得した旨の記載がなされ、その事実も認められることから、請求人は、贈与者として本件連帯納付義務を負うこととなる。
 そして、本件滞納国税の確定手続について客観的に明白かつ重大な暇疵があるとは認められず、減額等された事実も存在しないことから、本件督促処分は適法である。 
 贈与税の納税義務は、「贈与による財産の取得の時」に成立するとされるところ、請求人と本件滞納者との間で贈与に関する書面が作成されておらず、贈与の合意はなされていない。しかも、本件滞納者が取得した金員は、請求人の意思を無視して弁護士L(以下「L弁護士」という。)が本件滞納者に勝手に引き渡したものであり、請求人の意思に基づくものではないから、民法第550条で定める「履行」は存在しない。
 贈与による財産の取得が存在しない以上、贈与税の納税義務を観念することができず、そうすると、請求人は、本件滞納国税について本件連帯納付義務を負うものではないことから、本件督促処分は違法である。

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3 判断

(1) 争点1 本件連帯納付義務者は主たる納税義務の不存在を主張することができるか否か。

イ 本件連帯納付義務者の当事者適格等について
(イ) 本件連帯納付義務者の国税に関する処分についての不服申立手続における当事者適格について
 請求人は、本件連帯納付義務者も主たる納税義務の不存在を主張し得る旨主張するところ、行政庁の処分に対し不服申立てをすることができる者は、当該処分によって自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消し等によってこれを回復すべき法律上の利益を有する者に限られるものと解されている。 
 ところで、課税処分が行われた場合における当該課税処分の名あて人以外の者の不服申立ての当事者適格(以下「不服申立適格」という。)について、最高裁判所平成18年1月19日第一小法廷判決(以下「最高裁平成18年判決」という。)は、「違法な主たる課税処分によって主たる納税義務の税額が過大に認定されれば、本来の納税義務者からの徴収不足額は当然に大きくなり、第二次納税義務の範囲も過大となって、第二次納税義務者は直接具体的な不利益を被るおそれがある。他方、主たる課税処分の全部又は一部がその違法を理由に取り消されれば、本来の納税義務者からの徴収不足額が消滅し又は減少することとなり、第二次納税義務は消滅するか又はその額が減少し得る関係にあるのであるから、第二次納税義務者は、主たる課税処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによってこれを回復すべき法律上の利益を有するというべきである。」と判示し、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条所定の第二次納税義務者に主たる課税処分についての不服申立適格を認めている。 
 そして、本件連帯納付義務は、贈与税の徴収確保のために、当該贈与税の課税価格のうちに占める贈与者の贈与財産の価額の割合を乗じて計算した金額に相当する贈与税について、贈与財産の価額に相当する金額を限度として納付責任を負わせるものであり、贈与税についての課税処分によって主たる納税義務の税額が過大に認定されれば本件連帯納付義務の範囲も過大となる可能性がある一方、主たる課税処分の全部又は一部がその違法を理由に取り消されれば、本件連帯納付義務が消滅又は減少し得る関係にあるのであるから、徴収法第39条所定の第二次納税義務者と同様に、本件連帯納付義務者も主たる課税処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによってこれを回復すべき法律上の利益を有すると解するのが相当である。
 したがって、本件連帯納付義務者は、本来の納税義務者に対する課税処分については争えないとする原処分庁の主張は採用することができない。
(ロ) 不服申立期間の起算日について
 通則法第77条第1項は、不服申立てについては、原則として処分があったことを知った日(処分に係る通知を受けた場合には、その受けた日)の翌日から起算して2月以内にしなければならない旨規定しているところ、最高裁平成18年判決は、徴収法第39条所定の第二次納税義務者が主たる課税処分に対する不服申立てをする場合における不服申立期間の起算日について、「納付告知があれば、それによって、主たる課税処分の存在及び第二次納税義務が成立していることを確実に認識することになるのであって、少なくともその時点では明確に『処分があったことを知った』ということができる。」として、「国税通則法第77条第1項所定の『処分があったことを知った日』とは、当該第二次納税義務者に対する納付告知(納付通知書の送達)がされた日をいい、不服申立期間の起算日は納付告知がされた日の翌日であると解するのが相当である。」と判示していることから、徴収法第39条所定の第二次納税義務者が主たる課税処分に対する不服申立てをする場合、通則法第77条第1項所定の「処分があったことを知った日」とは、当該第二次納税義務者に対する納付告知(納付通知書の送達)がされた日をいい、不服申立期間の起算日は納付告知がされた日の翌日であると解される。 
 一方、本件連帯納付義務は、第二次納税義務の場合と異なり、主たる納税義務の確定という事実に照応して何らの手続を要せず確定するものであるが、贈与した者において主たる納税義務の確定という事実を当然に了知し得るものでないことは、第二次納税義務の場合と同様である。そして、第二次納税義務者は、通常の場合、納付告知により初めて主たる納税義務の存在を知るものと考えられるところ、本件連帯納付義務者の場合には、本件連帯納付義務の確定を了知させる通知、本件においては本件通知がそれに当たるものと解される。
 したがって、本件連帯納付義務者が主たる納税義務について不服申立てをする際の不服申立期間の起算日については、主たる納税義務の確定を了知させる通知がある以前にそのことを了知し得る状態であったといえない限り、本件連帯納付義務の確定を了知させる通知があった日の翌日と解するのが相当である。
ロ 主たる納税義務の不存在について
(イ) 本件申告について
 本件連帯納付義務者は、上記イの(イ)のとおり、主たる納税義務の税額を確定させた主たる課税処分の無効を主張し得ると解されるところ、請求人は、贈与の事実がないことを理由に本件申告の無効を主張する。
 しかしながら、本件申告は、通則法第75条第1項第1号に規定する国税に関する法律に基づく処分に当たらないことから、本件申告の無効を主張する本件審査請求は不適法である。
(ロ) 本件加算税の賦課決定処分について
 請求人は、本件申告が無効であるから本件加算税の賦課決定処分は取り消されるべきである旨主張する。
 ところで、通則法第75条第3項かっこ書は、審査請求をすることができる場合について、異議申立ての法定の異議申立期間経過後にされたもの等を除外している。
 これを本件についてみると、請求人は、平成20年10月15日に異議申立てをしているところ、当審判所の調査の結果によれば、原処分庁は、請求人に対し、平成20年6月18日に簡易書留で本件通知を発送し、返戻された事実のないことが認められることから、同通知は遅くとも、同年6月中には請求人に送達されたものと推認される。 
 そして、請求人は、仮に本件加算税の賦課決定処分当時その存在を知り得なかったとしても、上記イの(ロ)のとおり、本件通知により、同年6月末までには本件加算税の賦課決定処分の存在を知り得たこととなるから、同年7月1日を不服申立期間の起算日としたとしても、本件異議申立ては処分があったことを知った日から2月を経過した後にされたこととなり、適法な異議申立てを経ていないと認められるため、本件加算税の賦課決定処分に対する本件審査請求は不適法である。

(2) 争点2 請求人が本来の納税義務者に対し贈与をした事実があるか否か。

イ 法令解釈
 相続税法第1条の4《贈与税の納税義務者》第1項第1号は、贈与により財産を取得した個人で当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有する者については贈与税を納める義務がある旨規定しているが、この「贈与」の意義について同法には規定がなく、民法における「贈与」と同じ用語が使用されながらその定義規定がないことからすれば、相続税法における「贈与」は、民法と異なる意義をもって使用されていると解釈すべき特段の事由のない限り、民法上使用されている「贈与」と同一の意義を有する概念として使用されていると解するのが相当である。
 そして、民法第549条は、「贈与」は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる旨規定しており、「贈与」は、贈与者から受贈者に対して無償で財産を与えることを目的とする諾成契約であって書面によらなければならないものではないと解される。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人らの実父であるJは、被相続人の死亡の直後、本件滞納者に対して電話をして、「被相続人は自分たちとは関係のない人間であり、遺産はいらないので、あなたにあげる。請求人らには相続させない。」旨の申出をした。
(ロ) 一方、請求人らは、上記1の(2)のロのとおり、被相続人と長期間交流がなく、Jが被相続人の遺産を請求人らが相続することに反対し、被相続人には負債があることも見込まれたことから、被相続人の財産について調査をすることなく相続放棄をすることを決め、上記1の(2)のロのとおり相続放棄の申述をした。 
(ハ) 上記(イ)の申出を受けた本件滞納者は、L弁護士に対し、本件相続財産を取得するための手続の代理を依頼した。
(ニ) 本件滞納者は、被相続人方において、M郵便局、N銀行Q支店、R銀行S支店及びT銀行U支店に対する預貯金等(以下「本件預貯金」という。)に係る預貯金通帳等を発見し、これをL弁護士に手渡した。 
(ホ) 請求人は、以下の状況の下で、上記1の(2)のロのとおり、相続放棄を取りやめる旨の相続放棄申述書の補正書をG家庭裁判所H支部に提出した。
A 請求人らは、被相続人が土地を所有していたということを伝え聞き、このまま全員が相続放棄すれば、被相続人の遺産は国庫に帰属することになるため、これを避けたい思いを抱いていた。
B そのころ、L弁護士は、本件滞納者の代理人として、請求人に対し、本件預貯金が存在することを知らせた上、請求人ら全員が相続放棄をすると、Jの申出のように被相続人の遺産を本件滞納者が取得できないので、相続人の一人が相続放棄を取り下げて、その相続人から本件滞納者が遺産を受け取ることにしたい旨申し出た。
(ヘ) その後、L弁護士は、請求人に対し、平成17年2月24日付で、本件預貯金の解約手続(以下「本件解約手続」という。)等に関する委任状、解約請求書などの金融機関提出書類を同封の上、本件解約手続に関する連絡文書を送付し、同書類に署名・なつ印して返送するよう依頼した。 
(ト) 請求人は、平成17年3月25日付でL弁護士に対して、委任状以外の上記(ヘ)の書類に署名・なつ印の上、「D死亡による遺産相続の件について」と題する文書を同封して送付した。 
 なお、請求人は同文書に、本件滞納者と被相続人とのかかわりについて納得できる説明を受けるまでは委任状の送付はしない旨及び請求人らが安心し、納得の上で遺産を贈与できるような返答を待つ旨記載した。
(チ) 請求人らは、平成17年5月28日、P市に所在するVホテルにおいて、本件滞納者、本件滞納者の妹のX、被相続人の兄嫁のY及びL弁護士を交えて本件相続財産の処分について話合いをした(以下、この話合いを「本件話合い」という。)。
 本件話合いにおいて、L弁護士から、土地については請求人が相続により取得し、本件預貯金については本件滞納者が取得することにしたいとの申出があり、請求人らにおいて異議を唱える者はなかった。 
(リ) 請求人は、その後、本件解約手続及び本件預貯金の解約金(以下「本件解約金」という。)の受領等をL弁護士に委任する旨を記載した平成17年3月30日付の委任状に署名・なつ印して、これを同弁護士に交付した。 
(ヌ) L弁護士は、請求人とともに、平成17年7月1日に上記(ニ)の金融機関に赴き、本件解約手続を行い、本件解約金をすべてL弁護士の預貯金口座に振込入金した。
 請求人は、その際、上記の本件解約手続の状況をすべて見ており、R銀行S支店分を除く本件解約金の合計が35,000,000円以上であることを把握した。 
 なお、L弁護士は、本件解約手続終了後にL弁護士の事務所において、本件解約手続に協力してもらった謝礼として請求人に現金50,000円を渡し、請求人はこれを受け取った。 
(ル) 本件解約金の総額は○○○○円で、その金融機関別の内訳は、M郵便局7,228,589円、N銀行Q支店14,218,870円、R銀行S支店○○○○円及びT銀行U支店14,060,689円であった。 
(ヲ) L弁護士は、平成17年7月26日、本件滞納者に対し、本件解約金○○○○円から弁護士報酬等1,780,300円を控除した○○○○円を、本件滞納者のR銀行Z支店の普通預金口座に送金した。 
(ワ) L弁護士は、請求人に対し、平成17年7月26日付で、上記(ル)及び(ヲ)の事実を記載した文書を送付した。 
(カ) Fは、本件滞納者及びL弁護士に対し、平成17年9月ごろに、Eが生活に困っているので10,000,000円を渡してほしい旨を申し出た。 
(ヨ) 本件滞納者は、平成20年2月上旬、請求人に対し、本件滞納者が贈与税を納付することとなったこと、また、請求人も贈与税を支払わなければならないことがある旨を記載した文書を送付した。 
(タ) 請求人は、L弁護士に対し、平成20年5月8日になって初めて本件預貯金全額の返還を求め、その旨の書面を送付した。 
(レ) 請求人は、平成20年7月24日に、本件滞納者とL弁護士に対し、受け取った金銭の返還を求める損害賠償請求訴訟(以下「本件訴訟」という。)をa地方裁判所に提起した。 
ハ 判断
(イ) 贈与の合意及びこれに基づく本件解約金の取得
 本件連帯納付義務は、贈与税徴収の確保を図るため、贈与者に課した特別の責任であり、本件連帯納付義務の確定は、受贈者の納税義務の確定という事実に照応して法律上当然に生じるものであると解されるが、本件においては、贈与の事実の有無が争点となっていることから、本件連帯納付義務が確定しているとするためには、請求人が贈与の合意をしたこと及びこれにより本件滞納者が請求人から財産を取得したことがその要件になると解される。
 本件においては、上記1の(2)の基礎事実及び上記ロの認定事実、すなわち、被相続人と本件滞納者及び請求人らとの関係、請求人がいったん相続放棄の申述をし、その後これを取りやめるに至った経緯、本件話合いの内容、これを受けて、請求人が本件解約手続及び本件解約金の受領を委任する旨の委任状を本件滞納者の代理人であるL弁護士に交付したこと、請求人はL弁護士とともに金融機関に赴き、本件解約手続を行い、本件預貯金が35,000,000円以上あり、本件解約金が本件滞納者の代理人であるL弁護士の預金口座に振り込まれるのを認識していたこと、請求人はL弁護士から本件解約手続に協力したことの謝礼として金員を受け取っていること、請求人自身はL弁護士から本件滞納者に本件解約金を交付したことを知らされていながら、2年半以上その返還を求めることなく、請求人にも贈与税の納税義務があることを知らされてから初めてその返還を求めるに至っていることに加え、本件滞納者が請求人から金銭の贈与を受けたとして、本件申告をしていることを総合して考慮すれば、本件話合いにおいて請求人と本件滞納者との間で、本件解約金を贈与する旨の合意があったこと及びこれに基づき請求人が本件滞納者の代理人であるL弁護士に本件解約金を支払い、これにより本件滞納者において本件解約金を取得したことを認めるのが相当である。
(ロ) 請求人の主張に対する判断
 これに対し、請求人は、請求人には贈与の意思がなく、本件解約金を本件滞納者が取得したことについても、請求人の意思によるものではなく、L護士が請求人の意向を無視して勝手に引き渡したものであって、贈与の履行の事実もなく、本件連帯納付義務を負うものではないことから本件督促処分は違法である旨主張するので、以下、検討する。
A 贈与の意思及びその履行の有無について
 請求人は、贈与の意思はなく、本件解約金はL弁護士が勝手に本件滞納者へ引き渡したものである旨主張し、その根拠として、1贈与に関する書面が作成されていないこと、2L弁護士には本件解約手続及び本件解約金の管理のみを委任したこと、3請求人は上記ロの(ワ)の通知により本件解約金の金額を具体的に把握したのであって、このような高額な金銭を無権利者に贈与する個人などあり得ないこと、4上記ロの(タ)及び(レ)のとおり本件滞納者及びL弁護士に対し本件解約金の返還を求め、その後本件訴訟を提起したことを挙げている。 
 しかしながら、まず、上記1については、上記イのとおり、贈与は必ずしも書面によらなければならないわけではなく、実際、本件解約金についてはL弁護士を通じて本件滞納者が取得していることのほか、上記(イ)において説示した各事実にかんがみると、贈与に関する書面の作成がないことのみをもって、贈与の意思がなかったということはできない。
 次に、上記2については、確かに上記ロの(リ)及び(ヌ)のとおり、本件解約金の受領についてはL弁護士に委任し、その後、L弁護士とともに本件解約手続を行っていることが認められるが、そもそも、本件相続財産を取得するために本件滞納者から依頼を受け、その旨を請求人に申し出たL弁護士に対し、本件解約金の管理を委任すること自体不自然であり、また、請求人が本件解約金の管理をL弁護士に委任しているのであれば請求人がL弁護士に対して弁護士報酬を支払うべきところ、反対に、上記ロの(ヌ)のとおり、請求人がL弁護士から謝礼を受け取っているなど、請求人は本件解約金の管理をL弁護士に委任していることとは矛盾する行動をとっており、さらに当審判所の調査の結果によっても、請求人とL弁護士との間で本件解約手続及び本件解約金の受領等のほかに請求人のために本件解約金を管理することを委任する旨の書面を作成した事実も認められないなど、本件解約金の管理をL弁護士に委任したと認めるに足りる証拠もない。
 さらに、上記3については、上記ロの(ヌ)のとおり、本件解約手続の際に、請求人は、本件解約金が少なくとも35,000,000円以上は存在することを把握していたことが認められることから、本件解約手続の時点において高額な預金残高があることは認識していたはずであり、当該通知があるまで本件解約金の正確な金額を把握していなかったとしても、そのことをもって贈与の意思がなかったことの根拠とはなり得ないものである。
 最後に、上記4についてみると、確かに上記ロの(タ)及び(レ)のとおり、請求人はL弁護士に対して本件解約金の返還を求め、さらに本件訴訟を提起しているものではあるが、その時期は、上記ロの(ヨ)のとおり、本件滞納者から請求人も贈与税を支払わなければならないことがある旨知らされた平成20年2月以後のことであり、それまで、本件解約金の総額をすべて本件滞納者が受領していることを知りながら、2年半以上にわたって何らの請求をしていないことに照らすと、請求人指摘の事実があるからといって、請求人に贈与の意思があったという上記認定を左右するものとは言い難い。
 なお、上記ロの(カ)のとおり、請求人の兄のFが、平成17年9月ごろに本件滞納者及びL弁護士に10,000,000円の支払を求めていたことが認められるが、このことは請求人自身が関与して行われたものと認め難い上、贈与の無効を前提として、本件解約金の全額の返還を求めたものとも認め難いのであるから、この事実によっても請求人に贈与の意思があったという上記認定を左右することはできない。
 また、請求人が、本件解約金全額の返還を求め、本件訴訟を提起したことは、上記ロの(ヨ)のとおり本件滞納国税に係る本件連帯納付義務の存在を知ったことを契機として、原処分庁によるその追及を回避するために行ったという可能性を否定することができない。
 以上のとおり、請求人主張の上記1ないし4の根拠は、その事実自体が認められないか、認められるとしても贈与の意思がなかった等とする請求人の主張を根拠付けるものにはならないというべきである。
B 本件督促処分について
 本件督促処分についてみると、当審判所の調査の結果によれば、本件申告に係る申告書に重大かつ明白な瑕疵はなく、また、本件加算税の賦課決定処分も適法になされており、本件督促処分がなされた平成20年8月27日現在において、原処分庁による減額更正処分等がなされた事実もないなど、本件督促処分の効果に影響を及ぼすような事実は存在しないことが認められる。
 また、本件滞納国税が取り消され若しくは完納となった事実も存在せず、本件督促処分は適法である。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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