(平22.5.13、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、○○及び○○機器の製造販売等を業とする審査請求人(以下「請求人」という。)が外国法人との間の契約に基づいて支払った金員について、原処分庁が、当該金員は所得税法第161条《国内源泉所得》第7号イに規定する工業所有権等の使用料に当たるとして源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分等を行ったのに対し、請求人が、当該金員は独占販売権の対価であり、その対価は所得税の源泉徴収の対象とされていないものであるから納税告知処分等は違法であるとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人が1P国の法人であるD社との間の○○機器に関する契約に基づき平成15年11月○日に支払った○○ドルの金員、及び2D社から当該契約の権利義務を譲渡されたQ国の法人であるE社(D社と併せて「本件権利者」という。)に対し平成19年5月○日に支払った○○ドルの金員(以下、D社に支払った金員と併せて「本件払込金」という。)は、いずれも所得税法第161条第7号イに規定する工業所有権等の使用料に該当するとして、平成20年12月9日付で平成15年11月分及び平成19年5月分の源泉所得税について、別表のとおりの各納税告知処分(以下「本件各納税告知処分」という。)及び不納付加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各納税告知処分と併せて「本件各納税告知処分等」という。)をした。
ロ 請求人は、本件各納税告知処分等を不服として、平成21年2月6日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年4月23日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成21年5月22日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙のとおり。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、D社がライセンスを有するFの技術導入に当たり、平成15年10月○日(以下「効力発生日」という。)付でD社との間で、要旨次のとおりの契約(以下「本件原契約」といい、これに係る契約書を「本件原契約書」という。)を締結した。
(イ) 両当事者は、本件原契約に従って、Fを購入、製造及び販売することに合意する。
(ロ) D社は、次のとおり、請求人に対してFに関連する権利等を許諾する。なお、当該許諾は、日本においては独占的なものであり、日本及びR国を除く地域においては非独占的なものである。
A Fを製造、輸入、流通又は販売できる権利及び規制当局の承認を受ける権利
B D社の○○等の供給を受け、Fの製造及び販売を行うライセンス
C Fの製造及び販売、○○試験の実施、規制当局の承認の取得及びその維持、事業計画の選定のほか、本契約で企図されているその他あらゆる目的のために技術情報を使用するライセンス
(ハ) 技術情報とは、D社又はその関連会社が所有又は管理する情報、ノウハウ及びデータのうち、効力発生日の時点で現存しているもの、若しくは本契約の期間中に所有又は管理するもので、G、H、D社のコーティング(Gの上にポリマーを塗布すること。以下同じ。)、D社のJに利用されるものである。
(ニ) 請求人は、地域ごとに次のいずれかの事業計画を選択する。なお、請求人は事業計画の選択後においても、通知により事業計画を変更することができる。
A G1事業計画
 D社が、Gと請求人のKを使ってFを製造し、独占的に請求人に供給する(以下、この事業計画に基づいて製造されたFを「G1」という。)。
B G2事業計画
 請求人が、D社のJの供給を受け、D社の技術情報を利用してFを製造する(以下、この事業計画に基づいて製造されたFを「G2」という。)。
(ホ) 請求人は、D社による独占権許諾の対価として、次のとおり、当初の払込金として、所得税を源泉徴収することなく、合計○○ドルをD社に支払う。なお、請求人は、一定の事由が生じた場合には契約を終了し、払込金の返還を受けることができる。
A 効力発生日から30日以内に○○ドル
B D社のEU域内における規制当局の承認を得るために必要な○○試験が効力発生日の時点で既に開始されていることを条件に、効力発生日から30日以内に○○ドル
C D社の独自のG、G1又はG2について、日本における規制当局の承認を得るために必要な○○試験が開始されてから30日以内に○○ドル
(ヘ) 事業計画のための技術情報が事業計画ごとに定められているが、技術情報はすべて、別途明示しない限りD社及びその関連会社の秘密情報である。
(ト) 請求人は、選択する事業計画に応じて、次の算式により計算した報酬をD社に支払う。

事業計画 対象地域が日本の場合 対象地域が日本及びR国以外の場合
G1事業計画 正味売上高×○○+(購入数量−販売数量)×○○ドル 正味売上高×○○+(購入数量−販売数量)×○○ドル
G2事業計画 正味売上高×○○ 正味売上高×○○

ロ Fを販売する場合には、日本における○○の承認を、欧州においてはCEマーク(EU域内で販売される指定製品に貼付を義務付けられている安全マークをいう。以下同じ。)の取得を、それぞれ得なければならないとされており、請求人は、本件原契約に基づき提供される技術情報が日本での○○への承認申請、欧州でのCEマークの申請及びこれらの申請に不可欠な○○試験に必要なものであることから、平成15年11月○日以降、技術情報の開示請求を行い、D社から技術情報の開示を受けた。
ハ 請求人は、D社が効力発生日においてFについてCEマーク取得のために必要な○○試験を既に開始していたため、平成15年11月○日にD社に対し、上記イの(ホ)のA及びBの金額を合計した○○ドルを支払った。
ニ 請求人は、平成16年11月にD社に対し本件原契約に定めるG2事業計画を申し入れた。
ホ 請求人及びD社は、D社からの申入れに基づき、平成17年4月○日、同月○日、同年6月○日に本件原契約の内容の一部を修正することに合意した。
 なお、これら修正した契約のうち平成17年4月○日付の修正契約(以下「本件修正契約」といい、これに係る契約書を「本件修正契約書」という。)の要旨は、次のとおりである。
(イ) 本件原契約における最初の頭金○○ドルは、1請求人又はD社のいずれかによる日本及びR国を除く地域におけるFに係るCEマーク申請の完了までの期間、又は2日本におけるFに係る請求人の○○試験の開始までの期間のD社による技術情報の提供のための頭金であり、これに係る払戻条項は、上記1又は2のいずれか早い方の時点で無効となる。
(ロ) 本件原契約における残りの頭金○○ドルは、請求人の日本におけるFに係る請求人の○○試験の開始までの期間のD社による技術情報の提供のための頭金であり、これに係る払戻条項は、請求人が当該○○試験を開始した時点で無効となる。
ヘ 請求人は、自社ブランドでCEマークを取得することを目的に、平成17年5月にP国において「○○○」の製品名で○○を開始し、同月○日にS国の担当部局にCEマークの取得申請を行い、平成20年1月○日にCEマークを取得した。
ト D社は、平成18年12月7日に本件原契約(その後の修正契約による修正内容を含む。)に基づくすべての権利義務をE社に譲渡した。
チ 請求人は、平成19年3月○日に○○に対して、○○届出書を提出し、平成19年4月○日に○○開始がみなす承認され、日本において○○を開始したため、同年5月○日にE社に対し、上記イの(ホ)のCの○○ドルを支払った。
リ 請求人は、Fの○○までの間において、本件権利者から請求人に提供されるFのサンプル品の対価を除き、本件権利者に対し本件払込金以外に金員を支払っていない。
ヌ 本件権利者は、使用料に係る所得税の限度税率を10%とする「所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国政府とP国政府との間の条約(以下「日P租税条約」という。)第○条第○項」及び「所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国とQ国との間の条約(以下「日Q租税条約」という。)第○条第○項」の適用を受けるために、平成20年12月○日にそれぞれ租税条約に関する届出書(使用料に対する所得税の軽減・免除)を請求人を通じて原処分庁に提出した。

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2 争点

 本件の争点は、本件払込金が所得税法第161条第7号イに規定する工業所有権等の使用料に該当するか否かである。

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3 主張

(1) 原処分庁

 本件払込金は、次の理由により、所得税法第161条第7号イに規定する「工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの」の使用料に該当することから、本件各納税告知処分はいずれも適法である。
イ 本件原契約は、請求人に対しFの日本での製造、輸入、流通又は販売できるライセンスを独占的に付与する旨定めており、販売だけではなく製造に関しても定めていることからすれば、本件原契約における独占権とは、販売に係るものだけでなく製造に係るものも含むものであり、また、請求人は事業計画の選択権を有しているところ、本件原契約ではFを購入、製造及び販売することに合意する旨定めており、請求人は本件払込金及びロイヤリティを支払うことにより製造及び販売を許諾されたものであると認められることから、本件払込金は、所得税基本通達161−23で定める「技術等の実施、使用、採用、提供に係る実施権の設定、許諾の承諾につき支払を受ける対価の一切」に該当する。
ロ 本件原契約では、選択した事業計画に応じて技術情報が提供されることになっているが、実際には、請求人が事業計画を選択する前から製造情報を含む全般の技術情報がほとんど開示されており、事業計画の選択にかかわりなく技術情報の開示が行われていることからすれば、本件払込金は、この技術情報の開示を受けたことに係る対価であるとも認められるから、所得税基本通達161−22に定める「技術的価値を有する知識」に対する対価に該当する。

(2) 請求人

 本件払込金は、次の理由により、独占販売権の取得の対価であって、技術情報の対価ではなく、所得税法第161条第7号イに規定する「工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの」の使用料に該当しないことから、本件各納税告知処分はいずれも違法である。
イ 本件原契約において、D社は請求人に対し日本における独占販売権を付与する旨定め、請求人はその対価として本件払込金を支払い、ロイヤリティについては、別途、販売実績に応じて支払うこととされていることから、独占権とは日本における独占販売権を意味する。また、請求人は、本件原契約締結時点で仕入販売を行う事業計画であるG1事業計画を選択しており、その事業計画の下で請求人が日本において有する独占的な権利は、独占販売権だけである。
ロ 本件原契約において、販売実績額に応じて支払うこととなるロイヤリティの料率は、いずれの事業計画を選択した場合であっても、日本の方がそれ以外の地域(R国を除く。)より○○%低く定められている一方、日本における独占販売権が終了した後(○○年後)においては、販売実績額に応じて支払うこととなるロイヤリティの料率は、日本及びそれ以外の地域(R国を除く。)とで、同一となっていることから、日本における独占販売権は存在し価値のあるものといえる。
ハ 本件払込金は、いずれの事業計画を選択するかにかかわらず同額となっている一方、これらの事業計画において必要な技術情報や特許の使用権は、同一のものではない。また、本件払込金が技術情報等の対価の一部であるとすると、本件払込金はどこかの時点で支払うべきロイヤリティに充当される必要があるが、本件原契約にはそのような条項はない。これらのことから、本件払込金は技術情報等の対価の一部ではない。
ニ 1本件原契約において、請求人は所得税を源泉徴収することなく本件払込金をD社に支払うとしており、本件払込金が技術情報等の対価ではないことを前提としていること、また、2請求人は本件修正契約書の「技術情報の提供のための頭金である」との文言と本件原契約における「独占権の対価である」との文言については、双方に誤りがあったとして、平成20年11月○日付で「本件原契約書と本件修正契約書に関する確認書」と題する書面(以下「本件確認書」という。)を作成し、契約当事者間で本件払込金は独占販売権の対価であると合意していることから、本件原契約における独占権とは独占販売権を意味する。

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4 判断

(1) 法令解釈

イ 所得税法第161条第7号イ
(イ) 所得税法第161条第7号イは、国内において業務を行う者から受ける工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるものの使用料で当該業務に係るものは国内源泉所得に該当する旨規定している。
(ロ) 所得税法第161条第7号イに規定する特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるものとは、所得税基本通達161−22のとおり、工業所有権の目的にはなっていないが、生産その他業務に関し繰り返し使用し得るまでに形成された創作、すなわち、特別の原料、処方、機械、器具、工程によるなど独自の考案又は方法を用いた生産についての方式、これに準ずる秘けつ、秘伝その他特別に技術的価値を有する知識及び意匠等も含むと解することが当審判所においても相当と認められる。
(ハ) 所得税法第161条第7号イに規定する使用料とは、所得税基本通達161−23のとおり、技術等に係る実施権若しくは使用権の設定、許諾若しくはその譲渡の承諾につき支払を受ける対価の一切をいうものと解され、同基本通達のとおり、これらの使用料には、契約を締結するに当たって支払を受ける頭金、権利金等のほか、これらのものを提供し、伝授するために要する費用に充てるものとして支払を受けるものを含むと解することが当審判所においても相当と認められる。
ロ 日P租税条約第○条及び日Q租税条約第○条
日P租税条約第○条第○項ないし第○項及び日Q租税条約第○条第○項ないし第○項は、特許権、秘密方式若しくは秘密工程の使用若しくは使用の権利の対価として受け取るすべての種類の支払金については、それが生じた国において、その対価の額の10%を限度として課税することができる旨それぞれ規定している。
 日P租税条約及び日Q租税条約はいずれも、ここにいう特許権、秘密方式若しくは秘密工程の使用若しくは使用の権利の対価として受け取るすべての種類の支払金については定義を置いていないが、両租税条約は、いずれもそれぞれの第○条第○項において、この条約を適用する場合にはこの条約において特に定義されていない用語は、この条約が適用される租税に関するその国の法令上有する意義を有するものとする旨規定していることからすれば、両租税条約におけるこれら特許権等の用語は、国内法である所得税法第161条第7号イに規定する技術等の使用料と同じ意義を有するものと解される。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ ○○及び○○機器(以下「T」という。)に係るライセンス契約については、一般に次のとおりであると認められる。
(イ) ライセンス契約は、ライセンスを有する者(以下「ライセンサー」という。)が排他的に有する、特許等で保護された○○・○○(以下、併せて「U」という。)の開発、製造、販売権等を許諾することを目的に締結するものである。
(ロ) 上記(イ)の開発とは、Uについての○○試験の開始から規制当局の許認可の取得までにおける、Uの商品化に向けて行う行為のすべてをいい、規制当局に対する○○計画の届出、販売承認を得るに十分な○○を収集するための数年間にわたる○○試験の実施、○○試験結果の分析、規制当局に対する販売承認申請等も開発行為に含まれる。
(ハ) Tを販売しようとする者は、自ら規制当局の許認可を得なければならないため、規制当局に対する○○の届出、販売承認を得るに十分な○○を収集するための○○試験の実施、○○試験結果の分析、規制当局に対する販売承認申請等の開発行為を行わなければならない。
 このため、○○のTについて将来の販売権の取得を目的として、ライセンスの許諾を受ける者(以下「ライセンシー」という。)は、開発権の許諾も受けることが必要となる。
(ニ) Tの販売承認を得るために必要な○○試験、○○試験、○○試験などのデータは、○○メーカーが長期間膨大な資金を投入して初めて得られたものであり、○○メーカーの許可がなければ一定期間利用すべきでない知的財産と評価される。
 このため、ライセンサーが無償で技術情報を提供し、それに使用許諾を与えることは、特殊な事情がない限りあり得ず、ライセンシーが○○か否かにかかわりなく、相応の対価を一般的に求めている。
(ホ) ライセンスの許諾の対価は、許認可を得られる確率が低いという特殊性があるほか、ライセンス対象のUの発見・発明に膨大な費用がかかるという特殊性があることから、一般的に1契約調印時に支払われる契約頭金、2開発進ちょく状況に応じて段階的に支払われる中間金、及び3販売開始後に販売実績額に対し一定の料率をもって支払われるランニングロイヤリティの3つから構成されている。
ロ 本件原契約は、上記1の(4)のイのとおりであり、本件原契約によりライセンシーである請求人には、1Fを製造、輸入、流通又は販売する権利が許諾されたほか、2規制当局の承認を取得する権利、3Fの製造及び販売、○○試験の実施、規制当局の承認の取得及びその維持等のほか、原契約書で企図されているその他あらゆる目的のために技術情報を使用する権利が許諾されたものと認められる。
ハ 請求人における開発の状況について
(イ) 請求人は、本件原契約締結後、本件権利者に対し本件原契約に基づき、欧州及び日本において承認申請のために必要な技術情報の開示を要求し(上記1の(4)のロ)、H等のほか次に掲げるものを含む技術情報の提供を受け、Fの商品化のための開発などに着手するとともに、本件権利者から提供を受けた技術情報を使用して○○試験を実施し、EUにおいてCEマークの申請を行い(上記1の(4)のヘ)、また、日本国内においても○○試験を開始した(上記1の(4)のチ)ものと認められる。
A ポリマーコーティングしたGを○○に○日間及び○日間使用した際の安全性試験結果並びにLをコーティングしたGを○○に○日間○○した比較試験結果(○○試験成績結果)
B ○○の○○製法の伝授
(ロ) 請求人が現実に提供を受けた技術情報のうち、上記(イ)のAは、○○情報を含んだ○○試験結果である。また、上記(イ)のBは、Jの製造工程等に係るLと呼ばれる○○、Jをはじめ、Lを○○させる独自の技術及び技法すべてである。
ニ 請求人と本件権利者との間で、本件確認書で言及されている文言の不整合を排除するための契約の修正等が行われた事実はない。

(3) 本件各納税告知処分について

イ 本件払込金が所得税法第161条第7号イに規定する使用料に該当するか否かについて
(イ) 本件原契約締結の時点は、本件権利者であるD社が欧州でCEマーク取得のための○○試験を開始した○○の段階であることから(上記1の(4)のハ)、請求人が○○するためには、上記(2)のイの一般的なライセンス契約と同様、自ら規制当局の許認可を得るため、請求人はライセンサーである本件権利者から開発権の許諾を受け、相応の対価を支払った上で価値ある技術情報の提供を受ける必要があるものと認められる。
(ロ) 本件についてみると、請求人には、本件原契約において本件権利者であるD社から、Fを製造等又は販売する権利や規制当局の承認を取得する権利、並びに、Fの製造及び販売、○○試験の実施、規制当局の承認の取得等のために技術情報を使用する権利が許諾されているところ(上記(2)のロ)、請求人は、1平成15年11月以降、実際にD社から技術情報の開示を受け始め、本件権利者が独自に有する○○を○○させる技術についての情報を含む有用な情報についても提供を受け、これを使用してCEマークの申請等を行っていること(上記(2)のハの(イ))、及び2本件権利者から請求人に対して提供された情報には、本件権利者が独自に有する公開されていない価値ある秘密情報が含まれていること(上記(2)のハの(ロ))が認められる。
 そうすると、請求人は、ライセンサーである本件権利者から開発権の許諾を受け、技術情報の提供を受けるための対価として本件払込金を支払っていたものとみるのが相当である。
(ハ) そして、請求人に提供された技術情報には、Fの製造工程についての独自に開発された情報や特別に技術的価値を有する知識が含まれていることからすると、この技術情報は、所得税法第161条第7号イに規定する「特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの」に該当し、さらに、請求人は本件権利者から開発権の許諾に基づき技術情報の提供を受けて、当該技術情報を使用しているものと認められることから、本件払込金は「技術等に係る実施権若しくは使用権の設定、許諾」の対価と認められる。
 したがって、本件払込金は、所得税法第161条第7号イに規定する使用料に該当すると認められる。
ロ 請求人の主張について
 請求人は、1本件原契約上で本件払込金が独占販売権の対価であると定められ、その対価として本件払込金を支払っていること、2請求人が当初選択したG1事業計画では、請求人が有する権利は日本における独占販売権だけであり、日本における独占販売権は存在し、本件払込金は技術情報等の対価の一部ではないこと、3本件確認書で本件払込金は独占販売権の対価であると合意していることから、本件原契約における独占権とは日本における独占販売権を意味し、本件払込金は独占販売権の対価である旨主張する。
 しかしながら、請求人は本件原契約に基づき本件権利者から技術情報の提供を受け、○○のため開発行為を行っているところ、本件払込金が、技術等に係る実施権若しくは使用権の設定、許諾の対価に当たると認められることは、上記イのとおりであり、請求人が、○○には本件権利者に対し本件払込金以外にいかなる支払も行っておらず、G2事業計画を選択した際に何らの対価も支払っていないこと(上記1の(4)のリ)からすれば、G1事業計画を選択した場合に支払うことになる対価とG2事業計画を選択した場合のそれをまとめて本件原契約締結時に支払ったものと認められること、また、本件確認書についてみると請求人が現実に受けた役務提供の内容と相違しており、契約の修正等も行われておらず、むしろ、本件修正契約における「技術情報の提供に対する頭金」の文言が本件原契約における本件払込金の性格の実体を示すものであると解するのが相当であると認められることから、請求人の主張にはいずれも理由がない。
ハ 以上のことから、本件払込金は、所得税法第161条第7号イ並びに日P租税条約第○条及び日Q租税条約第○条に規定する技術等の使用料に該当し、国内源泉所得として所得税法第212条《源泉徴収義務》の規定により源泉徴収すべきこととなり、源泉所得税の額を算出すると本件各納税告知処分の額と同額となるから、本件各納税告知処分はいずれも適法である。

(4) 本件各賦課決定処分について

 上記(3)のとおり、本件各納税告知処分はいずれも適法であり、本件各納税告知処分に係る源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項の規定に基づき行われた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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