(平22.5.24、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、プレハブ住宅の施工及び販売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、請求人の子会社の資産状態が著しく悪化し、当該子会社の株式の価額が著しく低下したとして損金の額に算入した有価証券評価損並びに請求人が法人税法第34条《役員給与の損金不算入》第1項第2号に規定する給与(以下「事前確定届出給与」という。)に該当するとして損金の額に算入した役員給与及び使用人兼務役員に対する賞与について、原処分庁が、当該子会社の資産状態は悪化していないこと、また、当該役員給与は事前確定届出給与に該当せず、使用人兼務役員に対する賞与としても使用人としての職務に対する賞与には該当しないことを理由にいずれも損金の額に算入することができないとして、法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことに対し、請求人が、原処分庁の事実認定等に誤りがあり原処分は違法であるとしてその一部の取消しを求めた事案であり、争点は次の2点である。
争点1 平成20年3月期に確定申告書において評価損を計上した子会社株式について、子会社の資産状態が著しく悪化したため、当該子会社株式の価額が著しく低下した事実が生じていたか否か。
争点2 当該役員給与は、事前確定届出給与に該当するとして損金の額に算入できるか否か。また、当該役員給与のうち使用人兼務役員に対する給与は、使用人としての職務に対する賞与として損金の額に算入できるか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

 原処分庁がした処分は、平成18年4月1日から平成19年3月31日までの事業年度(以下「平成19年3月期」という。)及び平成19年4月1日から平成20年3月31日までの事業年度(以下「平成20年3月期」という。)の法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分であり、審査請求(平成21年6月1日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。

(3) 関係法令

 関係法令等の要旨は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
(有価証券評価損関係)
イ 子会社株式の帳簿価額
 請求人は、請求人が販売する住宅を施工する子会社であるH社の発行済株式の全部を保有しており、平成19年3月期の期首における保有株式数は600株で、1株当たりの帳簿価額は50,000円であった。
ロ H社の再建計画
 請求人は、平成19年3月26日に取締役会(以下「本件取締役会」という。)を開催し、第6号議案「H社の増資並びに減資に関する件」を承認可決した(以下、当該議案に係る説明資料「H社の再建対策について」における再建計画を「本件再建計画」という。)。
ハ H社の増資
 請求人は、上記ロの承認可決に基づき、H社の増資(以下「本件増資」という。)において、発行株式1,000株のすべてを1株当たり50,000円で引き受け、平成19年3月○日に50,000,000円を払い込んだ。その結果、請求人は、H社の発行済株式のすべての株式を保有しており、保有株式数は1,600株(帳簿価額の合計は、80,000,000円。)、その1株当たりの帳簿価額は増資前と同じ50,000円であった。
ニ 請求人の経理処理
(イ) 平成19年3月期
 請求人は、平成19年3月期において、上記ハのH社の増資に伴う株式の払込日と同日である平成19年3月○日付で、関係会社事業支援損失金として関係会社株式の帳簿価額から上記ハの増資と同額の50,000,000円を減額したが、平成19年3月期の法人税の確定申告書においては、同額を所得の金額に加算することにより、平成19年3月期の所得の金額の計算上、損金の額に算入しなかった。
(ロ) 平成20年3月期
 請求人は、平成20年3月期の法人税の確定申告書において、上記(イ)により所得の金額に加算した50,000,000円のうち平成20年3月期末におけるH社の資本金の額と純資産価額との差額に相当する金額35,415,613円を、請求人が保有するH社の株式に係る有価証券評価損(以下「本件株式評価損」という。)として帳簿価額の評価換えし、平成20年3月期の所得の金額の計算上、損金の額に算入した。
(役員給与関係)
ホ 事前確定届出書の記載及び提出
 請求人は、事前確定届出書(以下「本件届出書」という。)を平成18年6月30日にR税務署長に提出した。その要旨は、別表2ないし4のとおりであった(以下、別表3の「事前確定届出給与対象者の氏名(役職名)」として記載した役員を「本件届出役員」といい、別表4の事前確定届出給与対象者以外の役員の「氏名(役職名)」欄に記載した役員を「本件使用人兼務役員」という。また、本件届出役員と本件使用人兼務役員とを併せて「本件役員」という。)。
 なお、本件使用人兼務役員は、法人税法第34条第5項に規定する使用人としての職務を有する役員である。
ヘ 役員給与の計上
 請求人は、平成19年3月31日(平成19年3月期末)に未支給の役員給与を計上した。
 計上金額は、別表5の「年俸額の内訳」、「期末報酬業務評価分(25%)」欄の「合計」欄の○○○○円であり、各人別の明細は同表の「年俸額の内訳」、「期末報酬業務評価分(25%)」欄のとおりである。
 また、平成19年3月期の法人税の確定申告書において、別表5の「評価査定」、「期末報酬の決定額」欄の「合計」欄の請求人が評価査定した役員給与(以下「本件役員給与」という。)の合計金額○○○○円と請求人が未支給の役員給与として計上した上記○○○○円との差額○○○○円を未払計上による役員給与の過大額として平成19年3月期の所得金額に加算した。なお、本件役員給与の内訳は、別表5の「評価査定」、「期末報酬の決定額」欄の「小計(本件届出役員分金額)」欄の本件届出役員に対する給与の合計金額○○○○円(以下「本件届出役員給与」という。)と、同表の「評価査定」、「期末報酬の決定額」欄の「小計(本件使用人兼務役員分金額)」欄の本件使用人兼務役員に対する給与の合計金額○○○○円(以下「本件使用人兼務役員給与」という。)である。
ト 役員給与の支給
 請求人は、平成19年5月1日に本件届出役員に対して本件届出役員給与を、また、同日に本件使用人兼務役員に対しても本件使用人兼務役員給与をそれぞれ実際に支給した。

トップに戻る

2 主張

(1) 争点1 平成20年3月期に確定申告書において評価損を計上した子会社の株式について、「子会社の資産状態が著しく悪化したため、当該子会社株式の価額が著しく低下した」事実が生じていたか否か。

原処分庁 請求人
イ 増資払込み後における株式の評価損の適否
 請求人は、H社の向こう3か年の本件再建計画に基づいて、本件増資を引き受けており、本件再建計画の3年を経過した後において有価証券の評価減を行うべきか否かを判断して、株式の評価損の計上を検討するべきである。
 したがって、本件株式評価損は、平成20年3月期の損金の額に算入することができない。
イ 増資払込み後における株式の評価損の適否
 本件再建計画は、目標達成と業績評価を目的とする管理会計的なものであり、本件再建計画の実現には多くの不確実性が伴うので、本件再建計画をもって回復可能性の判断をするのは誤りである。
 本件株式評価損は、本件増資の後1年を経過した時点において判断しており、翌期も業績の回復が見込めないことが確実であったことから評価損を計上したものであり、平成20年3月期の損金の額に算入されるべきである。
ロ 有価証券を発行する法人の資産状態の著しい悪化
 法人税法施行令第68条第1項第2号ロ前段の「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化した」かどうかについて、法人税基本通達9−1−9の定めに基づき判断すると、平成20年3月期の終了の日におけるH社の1株当たりの純資産価額14,658円は、本件増資のあった平成19年3月○日における同社の増資後の1株当たりの純資産価額13,108円(本件増資前の株式(以下「旧株」という。)1株当たりの取得価額50,000円に本件増資による株式(以下「新株」という。)の取得直前の旧株1株当たりの純資産価額△(マイナス)9,026円(債務超過額)に旧株1株当たりの新株数1.666を乗じた金額(△15,037円)を加算した額(34,963円)に対して旧株1株当たりの新株の数1.666に1を加えた2.666(増資後の株数)で除した金額)と比較すると、1株当たりの純資産価額は増加しており、同通達が定める1株当たりの純資産価額がおおむね50%以上下回ることとなった旨の基準に該当しない。
 そうすると、H社については、平成20年3月期末に、「資産状態が著しく悪化した」事実は認められない。
ロ 有価証券を発行する法人の資産状態の著しい悪化
 通達は、行政実務上、法律の内容を明らかにし、法律適用の統一を図るという趣旨に基づき、法律の解釈等を示すものにすぎないものであり、通達によって法律の明文にない要件が追加されたり、納税者が拘束されたりするものではないが、仮に、法人税基本通達9−1−9の定めに当てはめて判断するとしても、H社の平成20年3月期の終了の日の同社の1株当たりの純資産価額14,658円は、平成19年3月○日の増資の後である平成19年3月期末における1株当たりの純資産価額27,841円と比較して47.4%の下落があり、おおむね50%の下落があるといえる。
ハ 有価証券の価額の著しい低下
 法人税法施行令第68条第1項第2号ロ後段の「その価額が著しく低下したこと」の事実は、その前提として上記ロのとおり「資産状態が著しく悪化した」ことが要件となるが、H社においては、この要件に該当しないことから、判断するまでもない。
ハ 有価証券の価額の著しい低下
 平成20年3月期終了の日における同社の1株当たりの純資産価額は14,658円であり、同価額は、平成19年3月期の終了の日におけるH社の1株当たりの帳簿価額は50,000円であり、同価額と比較して、70.68%の下落がある。この事実は、法人税法施行令第68条第1項第2号ロに規定する「その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価格が著しく低下したこと」に該当する。
ニ 複数回取得した場合の有価証券の区分評価
 H社の株式の価額につき、本件増資前の旧株の評価額と本件増資に係る新株の評価額が異なるということはあり得ないことから、増資前の旧株のみを区分して有価証券評価損を計上することは認められない。
ニ 複数回取得した場合の有価証券の区分評価
 H社の株式評価損が認められる事実の有無及びその程度について、原処分庁の主張するように本件増資払込み直後の株式の評価額を基に判断するのであれば、本件増資前の旧株と本件増資に係る新株とを区分して、本件増資前の旧株に係る有価証券評価損については認めるべきである。

(2) 争点2 当該役員給与(本件役員給与)は、事前確定届出給与として損金の額に算入できるか否か。また、当該役員給与のうち使用人兼務役員に対する給与(本件使用人兼務役員給与)は、使用人としての職務に対する賞与として損金の額に算入できるか否か。

原処分庁 請求人
イ 平成19年3月期の課税処理について
 本件役員給与は、12006年度年俸決定通知書(以下「年俸通知書」という。)において期末に支払うとする記載があるものの、その支払うべき評価査定が4月に行われることから、実質的に支給時期の定めがなく、また、請求人は、本件役員給与の支給時期を平成19年3月期の終了の日までに定めた事実がないことから、同日において支給時期が到来しているとは認められないこと、2年俸通知書には、支給金額の範囲が決められているにすぎず、また、請求人は、本件役員給与の支給金額を平成19年3月期の終了の日までに定めた事実がなく、同日において支給金額が決定していたとは認められないことから、平成19年3月期の終了の日には債務が確定していたとはいえず、事前確定届出給与に該当するか否かを判断するまでもなく、平成19年3月期の所得金額の計算上、損金の額に算入されない。
イ 平成19年3月期の課税処理について
 年俸制の役員給与は、年俸の決定通知などの契約行為をもって年間報酬の金額が確定することになるが、年俸制の役員給与の期末報酬分である本件役員給与は、年俸通知書により通知を行った時点で債務が確定したといえる。
 本件役員給与は、親会社であるJ社の給与制度に従ったものであり、平成18年3月13日付で年間報酬の金額及び期末報酬の金額についてJ社の専務執行役員を兼ね、請求人の会長兼社長であるe(以下「e社長」という。)の決裁を受けていることから、この時点で支払金額が確定しているとみるべきであるが、仮に同日に確定していないとしても、平成18年4月1日付で年俸通知書により確定金額を通知していることから、遅くとも、通知時点で支払金額が確定しているとみるべきである。
 また、年俸通知書には、支給時期として期末に支給する旨記載されてあり、当該給与制度では、決算期末から1か月以内に支給することが周知の事実である。
 したがって、平成19年3月期の終了の日には、債務が確定していた。
 なお、請求人は、本件届出書を所轄の税務署長に対し届出期限までに提出していることから、本件役員給与は事前確定届出給与に該当し、平成19年3月期の所得金額の計算上、損金の額に算入することは認められるべきである。
ロ 平成20年3月期の課税処理について
 本件届出役員給与は、本件届出書に記載された事項のうち、1支給金額については、上記イのとおり年俸通知書により支給金額の範囲が決められているに過ぎず、その金額が決定していたとは認められないこと、及び、2支給時期については、本件届出書に記載した平成19年6月29日に支払われていないことから、所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給したものとは認められないので、事前確定届出給与には該当しない。
 なお、本件届出役員給与は、法人税法第34条第1項第1号に規定する定期同額給与及び同項第3号に規定する利益連動給与のいずれにも該当しないことから、平成20年3月期の損金の額に算入することはできない。
ロ 平成20年3月期の課税処理について
 仮に、平成19年3月期において債務が確定していないとしても、本件届出役員給与は、上記イのとおり、年俸通知書に期末報酬の金額を確定額として記載し、支給時期についても期末に支給する旨を記載して通知しており、また、本件届出書は平成18年6月30日に提出していることから、本件役員に実際に支給した事業年度である平成20年3月期には、事前確定届出給与として損金の額に算入されるべきである。
ハ 本件使用人兼務役員給与について
 本件使用人兼務役員給与は、他の役員と同様の方法により、役員に対するインセンティブとして支払金額が決定されていることから、使用人兼務役員の使用人としての職務に相当する賞与に該当せず、また、本件届出書に事前確定届出給与対象者としての提出もなく、法人税法第34条第1項各号に規定するいずれの給与にも該当しないから、損金の額に算入されない。
 仮に、本件使用人兼務役員給与が、使用人としての職務に対するものであったとしても、他の使用人に対する賞与の支給時期と異なる時期に支給していることから、法人税法施行令第70条第3号に規定する過大な役員給与の額に該当し、損金の額に算入することは認められない。
ハ 本件使用人兼務役員給与について
 本件使用人兼務役員給与は、親会社であるJ社の給与制度である年俸制のもと、年俸通知書に記載した給与の差額を支払ったものであり、通常の使用人に対する賞与に該当するものではない。
 よって、本件使用人兼務役員給与は、法人税法施行令第70条第3号に規定する損金の額に算入できない使用人兼務役員の使用人としての職務に対する賞与に該当しないので、損金の額に算入すべきである。

トップに戻る

3 判断

(1) 争点1 平成20年3月期に確定申告書において評価損を計上した子会社の株式について、「子会社の資産状態が著しく悪化したため、当該子会社株式の価額が著しく低下した」事実が生じていたか否か。

イ 法令解釈等
(イ) 有価証券の評価損の損金不算入
 法人税法第33条第1項は、原則として、資産の評価損は、各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定し、同条第2項は、内国法人の有する資産につき災害による著しい損傷その他の政令で定める事実が生じたことにより、当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなった場合に、法人が当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、その減額した部分の金額のうち、その評価換えの直前の当該資産の帳簿価額とその評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額は、第1項の規定にかかわらず損金の額に算入する旨規定している。
 ここでいう政令で定める事実について、法人税法施行令第68条第1項第2号ロは、上場有価証券等以外の有価証券の場合には、「その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したこと」とする旨規定しているが、当該規定は、1「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」及び2「有価証券の価額が著しく低下したこと」の二つの要件を満たす必要があると解するのが相当である。
(ロ) 有価証券の評価損の損金算入を認める場合
A 有価証券の評価損の損金算入を認める場合の具体的な判断基準
 法人税法施行令第68条第1項第2号ロにおける有価証券の評価損の損金算入を認める場合の規定は、有価証券の評価損の損金算入を認めるべき特定の事実については一般的、抽象的に表現され、上記(イ)の2つの要件のうち「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」については、その具体的判断基準として法人税基本通達9−1−9ないし同通達9−1−12が定められている。
 すなわち、「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」について、法人税基本通達9−1−9の(1)において、当該有価証券の発行法人における特別清算開始の命令等の形式的な事実が生じたことがこれに該当する旨定めているほか、法人税基本通達9−1−9の(2)において、当該事業年度終了の日における当該有価証券の発行法人の1株当たりの純資産価額が、当該有価証券を取得した時の当該発行法人の1株当たりの純資産価額に比しておおむね50%以上下回ることとなったことである旨定めている。
 さらに、その注書において、当該有価証券の取得が2回以上にわたって行われている場合等には、その取得等があった都度、その増加又は減少した当該有価証券の数及びその取得等の直前における1株当たりの純資産価額を加味して当該有価証券を取得した時の1株当たりの純資産価額を修正し、これに基づいてその比較を行う旨、また、当該発行法人が債務超過の状態にあるため1株当たりの純資産価額が負(マイナス)であるときは、当該負の金額を基礎としてその比較を行う旨定められており、当審判所においても、いろいろな増資形態を一律に規制する必要上これを相当と認める。
 また、有価証券の価額の低下をもたらす原因事実である、有価証券を発行する法人の資産状態の悪化については、それが一時的なもので、回復する見込みがないとはいえないような場合には、その結果としての有価証券の価額の低下も固定的でなく、回復する見込みがないとはいえないことになるから、有価証券を発行する法人の資産状態の悪化について、その悪化が固定的で回復する見込みがない状態にある場合に初めて著しく悪化したと解するのが相当である。
 なお、上記(イ)の他の要件である「有価証券の価額が著しく低下したこと」については、法人税基本通達9−1−11は、同通達9−1−7を準用し、当該有価証券の当該事業年度終了の時における純資産価額がその終了時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないことをいうものとする旨定められており、当審判所においても、特段の事情のない限りこれを相当と認める。
B 有価証券の評価損の損金算入を認める場合の取扱いについて
 法人税法においては、資産の評価損の損金算入を原則として認めていないことから、その例外である資産の評価損の損金算入を認める場合を規定する法人税法第33条第2項及び同法施行令第68条の取扱いについては、これを限定的に解すべきであり、また、評価損の損金計上を認める場合の例示として災害による著しい損傷を挙げていることからすると、政令で定める事実については、これと同程度ないしはそれに準ずる程度の資産価値の減少が生じていることを要すると解される。
 さらに、法人税法は、資産の評価益の益金算入を原則認めていないので、有価証券の価額の低下が、一時的あるいは回復可能性がないとはいえないような場合に評価損の損金算入を認めると、その後、仮にその価額が回復したとしても法人税法上益金としてとらえることができないことになるから、有価証券の評価損の損金算入を認めるような価額の減少は、その状態が、一時的又は回復の見込みがないとはいえない状態ではなく、固定的で回復の見込みがない状態にあることを要すると解される。
(ハ) 増資払込み後における株式の評価損
 法人税基本通達9−1−12は、有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したことに関して、親会社が赤字の子会社の再建のために、その増資に応じて株式の割当てを受け、その払込みをするような場合は、親会社が当該赤字の子会社の業績の回復を期し、また、その可能性があるとする判断がその前提とされ、さらに、通常そのような増資を行うことによってその再生の期待、可能性も客観的に高まるものであることから、そのような判断が子会社の客観的な状況からみて明らかに不合理であるというような特段の事情がない限り、その時点においては、同子会社の資産状態の悪化が固定的なものではないと判断すべきである旨を定めているものと解される。
 ただし、法人税基本通達9−1−12のただし書は、その増資払込後相当期間を経過してもなお業況が回復せず、むしろ悪化しているというような事情が明らかになった場合には、その時点で改めて評価減を行う余地があることが明らかにされており、この場合における「相当期間」は、増資払込後においてその業況等の推移を見る期間ということであるから、通常少なくとも1〜2年を要すると考えられるが、例外的には客観的に明確な事情があれば、1年未満となる翌期においても評価減を認める場合もあり得ると考えられる。
(ニ) 複数回取得した場合の有価証券の区分評価
 同一銘柄の株式は、常に発行法人の財務状態及び経営状態等を具現化しているものであり、すべて同一の価額で取引される代替性を有しているものであるから、同一銘柄の株式を取得の時期により区分して評価することは相当ではなく、株式の評価損の損金算入の可否の判断においても、事業年度終了の時に有する同一銘柄の株式のすべてについて、株式の評価換え直前の帳簿価額への回復可能性をも含め評価換えの直前の帳簿価額と事業年度終了の時の時価とを比較して判断するべきであるから、法人税基本通達9−1−12の取扱いに当たっても事業年度終了の時に有する同一銘柄の株式のすべてを対象としなければならないものと解される。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人等の設立等の経緯
A 請求人について
 請求人は、平成8年10月○日にK社の商号で設立され、その後、平成12年○月○日にL社から、プレハブ住宅部門の営業譲渡を受け、同日にM社に商号変更するとともに、当該営業譲渡に伴い、L社からN社の発行済株式の全株式600株を帳簿価格(1株当たり帳簿価額50,000円)で取得した。
 さらに、平成14年4月○日に請求人の全株式がP社からJ社に譲渡されたことに伴い、同日、請求人は、M社の名称からJ社の子会社として現在のQ社に商号変更した。
B H社について
 H社は、L社が100%出資(株数600株、資本金30,000,000円)し、同社が販売する住宅の施工子会社として、平成7年2月○日にN社の商号で設立された。その後、上記Aのとおり、平成12年○月○日にL社のプレハブ住宅部門が請求人に営業譲渡されたことに伴い、請求人がN社の発行済株式の全株式を取得したことから同社は、請求人の100%出資の子会社となった。
 さらに、平成14年4月○日に請求人の全株式がP社からJ社に譲渡されたことに伴い、同日N社の名称をH社に商号変更をした。
 なお、請求人が、上記AのL社からの営業譲渡によってN社の株式を取得した日の前日である平成12年○月○日現在の同社の貸借対照表によると、資産の部が96,527,652円、負債の部が60,531,784円であったので、同社の純資産価額は35,995,868円(1株当たりの純資産価額は59,993円。)であった。
(ロ) H社の各期末の純資産価額
 H社の純資産価額は、平成19年3月期の終了の日現在では44,584,387円(1株当たりの純資産価額は27,865円。)、平成20年3月期の終了の日現在では23,453,528円(1株当たりの純資産価額は14,658円。)であった。
(ハ) 本件増資の経緯
A 請求人は、上記1の(4)のロのとおり、平成19年3月26日の本件取締役会において、本件増資に係る議案を承認可決したが、その際の本件再建計画は、要旨次のとおりである。
(A) 再建対策として、建方工事については、建方工事から本体工事への人員シフトによる原価の低減及び施工力の向上、請求人と協力した一定の仕事量の確保、及び、出向者1名の削減による販管費の削減をする。また、本体工事については、請求人からH社へ一定の発注量を確保及び建方工事部門の人員2名を本体工事の専任監督員としてシフトするなどの改善策を講じる。
(B) H社の財務体質を健全化し、事業を継続するために、平成19年3月期末における請求人に対する未払費用の支払資金として42,135,000円及び本体工事施工(月4〜5棟)のための運転資金として17,500,000円(1棟発注単価3,500,000円×5棟分)の資金を確保する必要がある。
(C) これらの再建対策による2006年度(平成19年3月期)の決算見込金額は、売上高は469,055,000円であり、税引前利益は△(マイナス)7,215,000円であるのに対し、3年後の2009年度(平成22年3月期)においては、それぞれ、売上高は766,160,000円及び税引前利益は17,050,000円に改善できる見込みである。
B 上記Aを受けて、H社は、平成19年3月27日の取締役会において、本件増資に係る臨時株主総会を同日に招集する旨決議した上で臨時株主総会を同日に開催し、本件増資について決議した。
ハ 判断
(イ) 増資払込み後における評価損の計上の適否
 原処分庁は、本件株式評価損を損金の額に算入できないことの理由として、本件再建計画の3年を経過した後に本件株式評価損の計上を検討すべきである旨主張し、請求人は本件増資の後1年を経過した平成20年3月期においても有価証券の評価換えとして、本件株式評価損の損金の額への算入がなされるべきである旨主張している。
 法人税基本通達9−1−12は、原則として親会社が子会社に増資をした場合、法人税法施行令第68条第1項第2号のロに掲げる事実はないものとする旨定め、この場合には有価証券評価損の計上を認めないとしており、本件増資は上記イの(ハ)のとおり、原則として計上が認められない場合に当たる。しかし、同通達は、ただし書において「増資から相当の期間を経過した後において」法人税法施行令第68条第1項第2号のロに該当する事実が生じたと認められる場合はこの限りでないと定め、評価換えによる帳簿価額の減算額について有価証券評価損の計上を認めることとしていて、上記イの(ハ)によれば「相当の期間」とは、増資払込後においてその業況等の推移を見る期間ということであるから、通常少なくとも1〜2年を要すると考えられるが、例外的には客観的に明確な事情があれば、1年未満となる翌期でも評価減が認められる場合もあり得ると考えられる。
 そして、上記1の(4)のニの(イ)及び(ロ)のとおり、平成20年3月期の損金計上時期は本件増資から1年が経過していること、またH社は、その資産の状況が悪化し、翌期も業績の回復が見込めないとして本件再建計画を見直したこと、上記1の(4)のニの(イ)及び(ロ)の事実からすると平成20年3月末に評価換えしたとみられることなどの事情によれば、本件においては、必ずしも本件再建計画の3年を経過した後でなければ本件株式評価損の計上を検討できないとするのは相当ではなく、請求人が損金算入した平成20年3月期において法人税法施行令第68条第1項第2号のロの各要件が存在するかなどを検討して本件株式評価損の損金の額の算入の可否を検討することができるというべきである。
 よって、原処分庁の当該主張はこの限りで採用することができない。
(ロ) 「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化した」ことについて
A 請求人は、上記ロの(イ)のAのとおり、平成12年○月○日にL社から営業譲渡を受けたことに伴いH社の発行済株式の全株式600株を取得した。H社の同日の純資産価額は、上記ロの(イ)のBのとおり、その前日である同年○月○日の純資産価額35,995,868円が、同株式を取得した同年○月○日の純資産価額と同額と認められ、同法人の1株当たりの純資産価額は、59,993円となる。
B また、請求人は、上記1の(4)のハのとおり、平成19年3月○日に50,000,000円を払い込んでH社の本件増資に係る全株式1,000株を取得した。H社の平成19年3月○日の本件増資直前の純資産価額については、同日から同年3月31日までの期間が極めて近接しており特に純資産価額に影響を与えるような取引は認められないことから、同年3月31日の純資産価額から本件増資による払込金額を控除した価額であると認められる。
 そうすると、増資直前のH社の純資産価額は、平成19年3月31日の純資産の部が上記ロの(ロ)のとおり、44,584,387円であるので、同金額から本件増資による払込金額50,000,000円を差し引いた△(マイナス)5,415,613円と認められ、平成19年3月○日の同法人の1株当たりの純資産価額は△9,026円となる。
C 請求人が取得した時のH社1株当たりの純資産価額は、上記イの(ロ)のAに基づき、取得の都度、修正することになるので、本件増資に係る株式取得直後においては、別表6「H社株式の1株当たりの純資産価額等の計算」のとおり、旧株の取得時の1株当たりの純資産価額59,993円に新株取得直前の旧株1株当たりの純資産価額△9,026円に旧株1株当たりの新株数1.666を乗じた金額(△15,037円)を加算し、その合計額(44,956円)を旧株1株当たりの新株の数1.666に1を加えた2.666(増資後の株数)で除した金額である16,862円と認められる。
D 平成20年3月期の終了の日の純資産の額は、上記ロの(ロ)のとおり、23,453,528円であり、発行株式総数は1,600株であるから、同日における1株当たりの純資産価額は、14,658円となる。
E 以上のとおり、平成20年3月期の終了の日におけるH社の1株当たりの純資産価額14,658円は、請求人が株式を取得した時の同法人の1株当たりの純資産価額の本件増資直後における金額である16,862円を約13.1%下回っていることとなり、資産状態が著しく悪化したことの具体的判断基準である「おおむね50%相当額」を下回っていない。したがって、H社について、その「資産状態が著しく悪化した」事実が生じていたと認めることはできない。
(ハ) 請求人の主張
A 有価証券を発行する法人の資産状況の著しい悪化
 請求人は、H社の平成19年3月○日における増資後の1株当たりの純資産価額は、平成19年3月31日の純資産価額である44,584,387円を本件増資後の発行済株式総数である1,600株で除して1株当たりの純資産価額を計算すると27,841円となり、同価額は、平成20年3月期の終了の日の同社の1株当たりの純資産価額14,658円と比較して47.4%の下落があり、おおむね50%の下落があると主張する。しかしながら、上記イの(ロ)のAのとおり、「発行法人の資産状態が著しく悪化した」かどうかは、その有価証券の取得後、相当期間を経過した後にその発行法人について、特別清算開始の命令等の事実が生じたことだけで形式基準によって発行法人の資産状態が著しく悪化したものと判断する方法もあるが、本件全証拠によっても、H社において特別清算開始の命令等の事実が生じたことを認めるに足りないので、本件においては、発行法人の1株当たりの純資産価額を基準として判定する方法により、期末におけるその発行法人の1株当たりの純資産価額が、その有価証券を取得した時のその発行法人の1株当たりの純資産価額のおおむね50%相当額を下回る場合には、発行法人についてその資産状態が著しく悪化したものと判定することになる。
 また、当該有価証券の取得が複数回にわたって行われている場合には、その取得の都度、その増加した当該有価証券の数及びその取得の直前における1株当たりの純資産価額を加味して当該有価証券を取得した時の1株当たりの純資産価額を修正し、これに基づいてその比較を行うこととなる。つまり、株式を複数回にわたって取得した場合は、それぞれ取得の割合を加味して、取得した時の1株当たりの純資産価額を平均化することにより期末におけるその発行法人の1株当たりの純資産価額と比較を行うこととなる。なお、増資により取得した場合においても、増資直前における1株当たりの純資産価額によるのである。
 そこで、請求人がH社の株式を取得した時の1株当たりの純資産価額は、本件増資のあった平成19年3月○日時点においては、上記(ロ)のCのとおり、16,862円となるから、法人税基本通達9−1−9の(2)が定める基準、すなわち、事業年度終了時の1株当たりの純資産価額が株式取得時の同価額をおおむね50%以上下回ることとなったことに該当しないため、同社について、上記イの(ロ)のとおり、有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したとはいえず、請求人の主張はこれを採用することはできない。
B 複数回取得した場合の有価証券の区分評価
 請求人は、H社の株式を本件増資前の旧株式と本件増資に係る新株式とを区分して、増資前の旧株式に係る有価証券評価損については、これを認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ニ)のとおり、株式の評価損の損金算入の可否は、事業年度終了の時に有する同一銘柄の株式のすべてについて、発行法人の資産状態の悪化や価額の回復可能性をも含めた株式の時価を評価換え直前の帳簿価額と比較して判断するのが相当であるから、請求人の主張はこれを採用することができない。
(ニ) 結論
 以上のとおり、請求人が評価損を計上した平成20年3月期において有価証券の発行会社であるH社には資産状態の著しい悪化の事実は生じていないことから、その価額が著しく低下したことにつき判断するまでもなく、平成20年3月期の所得の金額の計算上、本件株式評価損は損金の額に算入されない。

(2) 争点2 本件役員給与は、事前確定届出給与として損金の額に算入できるか否か及び本件使用人兼務役員給与は、使用人としての職務に対する賞与として損金の額に算入できるか否かについて

イ 法令解釈等
(イ) 未払費用として計上した役員給与
 未払費用として計上した本件役員給与が、平成19年3月期の損金の額に算入されるか否かを判断するに当たっては、法人と役員との間の契約内容及び法的性格等を考慮しつつも、法人税法第22条第3項第2号に規定する「当該事業年度終了の日までに債務の確定しないもの」以外のものであるか否かを考慮しなければならず、ここでいう債務の確定とは、別に定めるものを除き、1当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が成立していること、2当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること、3当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定できるものであることの要件のすべてに該当するものがこれに当たると解すべきであり、当審判所においては、これと同旨の法人税基本通達2−2−12は相当であると認めるので、同通達に従って検討するのが相当である。
(ロ) 事前確定届出給与の届出
 法人税法第34条第1項第2号における所轄税務署長への届出について、法人税法施行令第69条第2項は、事前確定届出給与の定めについての株主総会等の決議をした日(同日がその職務の執行を開始する日後である場合にあっては当該開始する日)から1月を経過する日又は臨時改定事由が生じた日から1月を経過する日を届出期限とする旨規定するとともに、法人税法施行規則第22条の3《確定額による役員給与の届出書の記載事項及び利益連動給与の開示方法》で定められている事項(事前確定届出給与対象者、支給時期及び支給金額等)を記載した書類をもってしなければならない旨規定している。
 この趣旨は、その職務執行の対価として支給される役員給与の支給のし意性を排除するために、その役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨定める時期が最も遅い場合であってもその職務の執行を開始する日から1月を経過する日(職務執行開始後に定めをした場合の届出期限)の前か後かによって損金算入の可否を区別することとしたことから、この事実を確認するために上記の届出期限までに所轄税務署長に対してその定めの内容を届け出ることとされたものと解される。
 したがって、その支給すべき役員給与を法人の業績等により算定する場合や役員の貢献度を加味して事後に決定する場合は、届出期限までに役員給与の額が確定したとはいえず、このような場合には、届出期限後に支給額が定められたものと解される。
(ハ) 事前確定届出給与について
 法人税基本通達9−2−14は、所轄税務署長へ届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合には、事前確定届出給与に該当せず、原則として、その支給額の全額が損金不算入となる旨を、また、同通達9−2−15は、事前確定届出給与の「確定額」には支給額の上限のみを定めたもの及び一定の条件を付すことにより支給額が変動するようなものは、事前確定届出給与に含まれない旨を定めており、当審判所においても、事前確定届出給与の取扱いがそもそも例外的な取扱いであることから、これを相当と認める。
 また、法人税基本通達9−2−16は、「職務の執行を開始する日」とは、定時株主総会において役員に選任された日に就任した者及び定時株主総会の開催日に現に役員である者にあっては、当該定時株主総会の開催日となる旨例示しており、会社法においては、役員の選任やその職務の執行の対価の決定が株主総会の決議により行われることなどと規定されていることなどからすれば、「職務の執行を開始する日」とは、定時株主総会の開催日とすることが相当であると考えられるため、当審判所においても、これを相当と認める。
(ニ) 使用人兼務役員の使用人としての職務に対する賞与
 法人税法第34条第2項は、内国法人がその役員に対して支給する給与の額のうち、不相当に高額な部分の金額として、使用人兼務役員の使用人としての職務に対する賞与で他の使用人に対する賞与の支給時期と異なる時期に支給したものの額を損金の額に算入しない旨規定している。これは、その使用人たる職務に関する限り、その支給時期は、他の使用人の賞与と同一時期に支給することがその実態を表わしているとの趣旨と解される。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人について
  請求人は、平成19年3月期及び平成20年3月期において、J社ほかを株主とする同族会社である。
(ロ) 株主総会の決議
  請求人は平成18年6月○日に開催した定時株主総会において、取締役及び監査役の選任を決議した。なお、同株主総会において、取締役及び監査役の報酬については付議事項とされず、また、同日開催した取締役会においても、取締役及び監査役の報酬に関しては決議されなかった。
(ハ) 本件役員給与に係る支給の経過
A 役員年俸についての社長決裁
 請求人は、平成18年3月13日に「2006年度役員年俸額の内訳明細」と題する文書により、e社長の決裁を了した。
B 親会社への役員年俸についての資料の提出
 請求人は、平成18年3月31日に「Q社2006年度プロパー役員年俸について」と題する資料を作成し、J社に提出した。
C 年俸通知書の交付
 請求人は、平成18年4月1日にf取締役ほか2名の使用人兼務役員を含む10名の役員に年俸通知書を交付した。その年俸通知書には、次のとおりの内容(要旨)が記載されていた。
 なお、記載された年俸額は、上記各役員ごとに、別表5の「年俸額」及び「年俸額の内訳」欄のとおりであり、当該役員ごとに「Q社2006年度プロパー役員年俸について」記載の金額と一致する。
(A) 当該役員の年俸の金額
(B) 月額報酬(年俸額の75%を12分割した金額)の金額
(C) 期末報酬(年俸額から月額報酬額に12を乗じた金額を差し引いた金額を期末に支給する)の金額
 ただし、期末報酬額は、今年度の目標を100%達成した場合の確定額であり、達成度により金額は0倍〜2.0倍の範囲内で変動する。
D 役員年俸の追加訂正に係るe社長の承認
 請求人は、平成18年6月16日に、上記Aの「2006年度役員年俸額の内訳明細」に、新たに常務取締役から専務取締役に昇任するg及び新たに取締役に就任するh(常務取締役)とjに係る役員給与を追加訂正して、e社長の承認を得た。なお、追加訂正された年俸額は、上記各役員ごとに、別表5の「年俸額」及び「年俸額の内訳」欄のとおりであり、当該役員ごとに、追加訂正後の「2006年度役員年俸額の内訳明細」記載の金額と一致する。
E 年俸通知書の再交付
 請求人は、専務取締役g及び使用人兼務役員である取締役jに対して、平成18年6月26日付で上記Cと同旨の内容の年俸通知書を交付した。なお、h(常務取締役)に対しては年俸通知書を交付していない。
F 役員年俸に係るe社長の査定、承認及び支給
 請求人は、平成19年4月25日に支給時期を同年5月1日とする本件役員給与を別表5の「評価査定」欄のとおり査定し、e社長の承認を得て、同年5月1日に支給した。
G 使用人に対する賞与の支払
 請求人は、使用人に対して、請求人に勤務する社員の勤務条件、服務規律及びその他就業に関する基本的事項を定めた就業規則第35条(賞与)に基づき、平成19年3月期は平成18年6月30日と同年12月8日、平成20年3月期は、平成19年6月29日と同年12月10日に賞与を支払った。
ハ 判断
(イ) 平成19年3月期における本件役員給与の取扱いについて
A 判断
 請求人が平成19年3月期において未払費用として計上した本件役員給与について、原処分庁は、平成19年3月期の終了の日には債務が確定しておらず、平成19年3月期の所得金額の計算上、損金の額に算入されないと主張し、これに対し、請求人は、請求人が年俸通知書により通知をした時点で、本件役員給与に関する債務は確定しており、平成19年3月期の所得金額の計算上、損金の額に算入されると主張するので、平成19年3月期の終了の日に本件役員給与についての債務が確定していなかったといえるか否かについて検討する。
(A) 本件役員給与の金額の確定
 取締役等の役員の報酬に関し、会社法にその金額等法定の事項は、定款に定めがない限り株主総会の決議によって定めるとされているところ、上記ロの(ロ)のとおり、請求人が平成18年6月○日に開催した定時株主総会においては、取締役及び監査役の選任を決議したものの、その報酬は付議事項とされなかったものであるが、仮に、請求人が、上記ロの(ハ)のA及びDのとおり、平成18年3月13日及び同年6月16日にe社長が決裁を了した「Q社2006年度プロパー役員年俸について」及びその追加訂正である「2006年度役員年俸額の内訳明細」を前提に、上記ロの(ロ)のとおり、平成18年6月○日開催の定時株主総会において取締役及び監査役の選任を決議したことにより、役員の職務執行の対価について、別表5の「年俸額」、「年俸額の内訳」欄のとおり定めたと解する余地があるとしても、上記ロの(ハ)のCの(C)及び同Eのとおり、請求人が各役員に交付した平成18年4月1日付及び同年6月26日付の年俸通知書には、期末に支給する旨及び期末報酬である本件役員給与の金額の記載のほか、「期末報酬額は、今後の目標を100%達成した場合の確定額であり、達成度により金額は0倍〜2.0倍の範囲内で変動する」旨の記載があり、この記載は、請求人において、達成度に基づく報酬額の評価査定を後日行うことを前提とするものにほかならない。そして、現に、上記ロの(ハ)のF及び別表5のとおり、kほか2名の役員の期末評価額である業務評価分は、平成19年4月25日に行われた評価査定により年俸通知書に記載された金額から減額されて支給されている。これらのことからすると、上記の定時株主総会の決議は、これにより期末報酬である本件役員給与の金額を確定的に定めたものではなく、後日予定している達成度に基づく報酬額の評価査定を行ってはじめて確定する旨定めたものであるというべきである。
 そうすると、平成19年3月期の終了の日の時点では、いまだ上記の評価査定は行われていないのであるから、同日までに本件役員給与の金額が確定していたということはできず、評価査定がなされていない以上、同日までに本件役員給与の金額を合理的に算定することができるものであるともいえない。
(B) 本件役員給与の支払時期の確定
 支給時期についてみても、上記(A)のとおり、上記の定時株主総会の決議が、後日予定している達成度に基づく報酬額の評価査定を行ってはじめて期末報酬である本件役員給与の金額を確定させる旨定めたものであるとみる以上、上記の定時株主総会の決議において、支給時期を定めていたとしても、これは、飽くまでも、その支給時期までに、後日予定している達成度に基づく報酬額の評価査定を行うことを前提条件とするものであり、支給時期までに達成度に基づく報酬額の評価査定を行わない限り、支給時期を定めたことにならないというべきである。
 そして、請求人においては、上記(A)のとおり、平成19年3月期の終了の日の時点では、いまだ上記の評価査定は行われていないのであるから、支給時期を定めたと評価することはできない。
(C) 債務の確定の有無
 以上のとおりであり、金額及び支給時期のいずれの点から見ても、平成19年3月期の終了の日に本件役員給与についての債務は確定していなかったということができる。
B 請求人の主張について
 請求人は、上記1の(4)のホのとおり、本件届出書を提出しており、平成19年3月期の終了の日までに債務が確定しているので、本件役員給与は事前届出給与に該当することから損金の額に算入すべきとして、債務の確定につき以下の(A)から(C)のとおり主張する。
(A) 年俸制の役員給与は、年俸の決定通知などの契約行為をもって年間報酬額が確定するから、平成18年4月1日付の年俸通知書により通知を行った時点で債務が確定している。
(B) 年間報酬額及び期末報酬額は、平成18年3月13日にe社長の決裁を受けた時点で確定したとみるべきであるが、仮に、同日に確定していないとしても、同年4月1日付の年俸通知書により確定金額を通知していることから、いずれにしても当該通知により債務が確定したとみるべきである。
(C) また、年俸通知書には、支給時期として期末に支給する旨記載されているが、請求人における給与制度では、決算期末から1か月以内に支給することが周知の事実であり、平成19年3月期の終了の日には、債務が確定している。
(D) しかしながら、上記ロの(ハ)のC及びEのとおり、支給時期については、請求人が平成18年4月1日付及び同年6月26日付で交付した年俸通知書において期末に支給する旨記載されているものの、現実には、上記ロの(ハ)のFのとおり、e社長は平成19年4月25日に別表5のとおり役員3名については年俸通知書に記載の期末報酬額より減額された額を承認し、当該承認に基づき、同年5月1日に本件役員給与を支払っており、また、本件確定給与届出書には別表3のとおり本件役員給与の支給時期を平成19年6月29日とするなど決算期末から1か月以内に支給することとする規定と合致しないことなどから、支給時期及び支給金額が確定したのは平成19年4月25日以後であり、平成19年3月期の終了の日までに債務が確定していたとは認められない。したがって、上記Aのとおり、事前確定届出給与についての判断をするまでもなく、請求人の主張はこれを採用することができない。
(ロ) 平成20年3月期における本件役員給与の取扱いについて
上記(イ)のAのとおり、本件役員給与は、平成19年3月期末までに債務が確定しているとは認められず、平成19年3月期において損金の額に算入することはできないが、平成19年5月1日に実際に支給されていることから、平成20年3月期に支給された役員給与として損金の額に算入することができるか否かを次において検討する。
A 本件届出役員給与
 法人税法第34条第1項は、内国法人がその役員に対して支給する給与は、1定期同額給与、2事前確定届出給与及び3利益連動給与のいずれにも該当しないときは各事業年度の損金の額に算入しないこととされているので、請求人が支給した本件届出役員給与が、いずれかに該当するか否かを検討する。
(A) 定期同額給与
 定期同額給与は、法人税法第34条第1項第1号に規定されているとおり、1月以内の一定期間ごとに支給するものであり、本件届出役員給与は平成19年5月1日のみに支給されたものであることから、定期同額給与には該当しない。
(B) 事前確定届出給与
 上記1の(4)のホのとおり、本件届出役員は、本件届出書で事前確定届出給与対象者として届出されているが、本件届出役員給与が事前確定届出給与に該当するには法人税法施行令第69条第2項に規定されているとおり、株主総会等の決議により、役員の職務について、所定の時期に確定額を支給する旨の定めをした場合には、その決議をした日(同日がその職務の執行を開始する日後である場合には、当該開始する日)から1月を経過する日(届出期限)までに所定の届出をしなければならないとともに、最も遅い場合であっても、役員がその職務の執行を開始する日から1月を経過する日までに、株主総会等の決議により、役員給与を支給すべき確定時期及び確定額を定めておくことが要件となると解される。以下、本件届出役員給与が、この要件を満たしているといえるか否かについて検討する。
a 職務の執行を開始する日
上記イの(ハ)のとおり、定時株主総会で選任された役員に係る職務の執行を開始する日は、定時株主総会の開催の日とすることが相当であることから、職務執行の開始の日は、請求人の定時株主総会の開催された平成18年6月○日と認められる。
b 支給すべき確定時期についての定め
上記ハの(イ)のAのとおり、本件において株主総会等の決議があるとしても、これを、後日予定している達成度に基づく報酬額の評価査定を行ってはじめて期末報酬である本件届出役員給与の金額を確定させる旨定めたものであるとみる以上、上記定時株主総会の決議において、支給時期を定めていたとしても、これは、飽くまでも、その支給時期までに、後日予定している達成度に基づく報酬額の評価査定を行うことを前提条件とするものであり、確定的な支給時期の定めであるということはできない。そして、現に、1上記ロの(ハ)のCの年俸通知書には期末(平成19年3月31日)に支給する旨記載されているものの、2実際の支給時期は、上記ロの(ハ)のFのとおり、平成19年4月25日の報酬査定を受けてe社長による承認がなされた後の同年5月1日であり、3請求人が提出した本件届出書に記載された本件届出役員に対する支給時期は、別表3のとおり平成19年6月29日であるなど、支給時期についての定めが不明確なままであったというべきであり、本件届出役員がその職務の執行を開始する日から1月を経過する日までに請求人において支給すべき確定時期を定めたとは認められない。
c 支給すべき確定額についての定め
 上記ハの(イ)のAのとおり、本件において役員報酬に関して株主総会等の決議があると見られるとしても、その決議は、これにより期末報酬である本件届出役員給与の金額を確定的に定めたものではなく、後日予定している達成度に基づく報酬額の評価査定を行ってはじめて確定する旨定めたものであるというべきである。そして、本件全証拠によっても、本件届出役員がその職務の執行を開始する日から1月を経過する日までに請求人において報酬額の評価査定を行ったことは認められないから、同日までに支給すべき確定額を定めたことにはならない。
d 小括
 よって、上記b及びcのとおり、役員がその職務の執行を開始する日から1月を経過する日までに、株主総会の決議等により、役員給与の支給すべき確定額及び確定時期を定めたとはいえず、本件届出役員給与は、事前確定届出給与には該当しない。
(C) 利益連動給与
 利益連動給与は、法人税法第34条第1項第2号の規定から同族会社に該当しない法人が支給するものであるところ、請求人は、上記ロの(イ)のとおり、平成20年3月期において同族会社であることから、本件届出役員給与は、利益連動給与に該当しない。
(D) 結論
 以上のとおり、本件届出役員給与は、定期同額給与、事前確定届出給与及び利益連動給与のいずれにも該当しないことから、請求人が本件届出役員に対して支給した本件届出役員給与は、平成20年3月期の損金の額に算入することはできない。
B 本件使用人兼務役員給与
(A) 事前確定届出給与等
 本件使用人兼務役員給与は、上記Aの(A)及び(C)と同様に定期同額給与及び利益連動給与に該当しない。また、本件使用人兼務役員は、別表4のとおり、本件届出書において、事前確定届出給与対象者以外の役員として届出がされていることから、本件使用人兼務役員給与は事前確定届出給与に該当しない。
(B) 使用人としての職務に対する給与
 本件使用人兼務役員給与は、上記ロの(ハ)のAないしEのとおり、本件届出役員給与と同様の経緯で支給時期及び支給金額が決定された。そして、請求人は、実際に上記ロの(ハ)のFのとおり、本件使用人兼務役員給与を、本件届出役員給与の支給日と同じ平成19年5月1日に支払っているが、上記ロの(ハ)のGのとおり、他の使用人に賞与を支払った日とは異なっており、本件の全証拠によっても平成19年5月1日に他の使用人に賞与を支払った事実も認めるに足りない。
(C) 結論
 以上のとおり、本件使用人兼務役員給与は、定期同額給与、事前確定届出給与及び利益連動給与のいずれにも該当せず、また、他の使用人に対する賞与の支給時期と異なる時期に支給していることから、上記イの(ニ)のとおり、法人税法第34条第2項に基づく同法施行令第70条3号に規定する過大な役員給与の額に該当する。よって、本件使用人兼務役員給与は、平成20年3月期の損金の額に算入することはできない。
C 請求人の主張について
(A) 本件届出役員給与
 請求人は、本件届出役員給与は、上記ロの(ハ)のC及びEのとおり、年俸通知書に期末報酬の金額を確定額として記載し、支給時期についても期末に支給する旨記載して通知しており、また、本件届出書を届出期限内の平成18年6月30日に提出していることから、平成20年3月期には、事前確定届出給与として損金に算入されるべきである旨を主張する。
 しかしながら、上記イの(ロ)のとおり、事前確定届出給与は支給すべき確定時期及び確定金額ともに、最も遅い場合であっても、本件届出役員がその職務の執行を開始する日から1月を経過する日までに定められていることが必要であるところ、上記Aの(B)のbのとおり職務執行の開始の日から1月を経過する日である平成18年7月○日までに支給時期が確定していたとは認められない。
 また、支給金額についても、上記Aの(B)のcのとおり、職務の執行を開始する日から1月を経過する日までにその確定額が定められていたとは認められない。
 以上のとおり、本件届出書に記載の支給時期及び支給金額とも本件届出役員のその職務の執行を開始する日から1月を経過する日までに定められていたとは認められず、したがって、本件届出役員給与は事前確定届出給与に該当しないので、請求人の主張はこれを採用することはできない。
(B) 本件使用人兼務役員給与
 請求人は、本件使用人兼務役員給与は、親会社であるJ社の給与制度に基づく年俸制によって毎月の給与の差額を支払ったものであり、通常の使用人としての職務に対する賞与に該当するものであるから、法人税法施行令第70条第3号に規定する損金の額に算入できない場合に該当しないので、損金の額に算入することができると主張する。
 しかしながら、上記Bの(B)のとおり、本件使用人兼務役員給与を支払った平成19年5月1日において他の使用人に賞与を支払った事実を認めるに足りないことから、請求人の主張を採用することはできない。

(3) 以上のとおり、上記の各争点について原処分に違法はない。
 また、過少申告加算税の賦課決定処分を含む原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る