(平22.6.25、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、有料老人ホーム施設として関係法人に賃貸した建物の賃貸収入を課税売上げと非課税売上げとに区分して課税売上割合を計算して申告したところ、原処分庁が、当該建物の大部分は、入居者の円滑な日常生活を送るために必要な部分であり住宅の貸付けに該当するからその賃貸収入は非課税となり、請求人の計算した課税売上割合の計算には誤りがあるとして、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)と法人税の更正処分等をしたのに対し、請求人が、非課税とされた部分の一部は住宅の貸付けに該当しないとして、当該更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成19年6月1日から平成20年4月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税については、青色の確定申告書に別表1−1の「確定申告」欄のとおり記載し、また、平成19年6月1日から平成20年4月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税等については、別表1−2の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成21年6月30日付で、本件事業年度の法人税について、別表1−1の「更正処分」欄のとおりの更正処分(以下「本件法人税更正処分」という。)をするとともに、本件課税期間の消費税等について、別表1−2の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件消費税等更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件法人税更正処分及び本件消費税等更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をし、本件更正処分等に係る各通知書を請求人に対し、いずれも平成21年7月3日に送達した。
ハ 請求人は、本件更正処分等を不服として、平成21年8月31日に本件法人税更正処分について審査請求をし、本件消費税等更正処分及び本件賦課決定処分については異議申立てをした。
ニ 異議審理庁は、上記ハの異議申立てについて、国税通則法第89条《合意によるみなす審査請求》第1項の規定により審査請求として取り扱うことが適当であると認め、平成21年10月20日付で請求人に同意を求めたところ、請求人は同年11月4日に同意したことから、同日、審査請求がされたものとみなされた。
 そこで、これらの審査請求について併合審理をする。

(3) 関係法令等の要旨

イ 消費税法第6条《非課税》は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるものには、消費税を課さない旨規定し、同法別表第一(第6条関係)第13号は、住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているものに限るものとし、一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)を掲げている。
ロ 消費税法基本通達6−13−7《転貸する場合の取扱い》は、住宅用の建物を賃貸する場合において、賃借人が自ら使用しない場合であっても、当該賃貸借に係る契約において、賃借人が住宅として転貸することが契約書その他において明らかな場合には、当該住宅用の建物の貸付けは、住宅の貸付けに含まれる旨定めている。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、不動産の賃貸等を目的として平成7年6月○日に設立された法人である。
ロ 請求人は、平成19年11月11日にP市p町○−○に所在する地上4階建の建物(以下「本件建物」という。)を取得し、同年12月19日に、本件建物を介護付有料老人ホームとしてD社(請求人の関係法人)に賃貸した。
ハ D社は、介護付有料老人ホームの入居者(以下「本件入居者」という。)との間で入居契約書を取り交わし、本件建物において、本件入居者に対して入浴、排せつ若しくは食事の介護、食事の提供又はその他の日常生活上必要な便宜の供与(以下「介護サービス」という。)を行っている。
ニ 本件建物の構成、床面積及び使用状況は、次の1から8のとおりである。なお、本件建物の総床面積合計は、3,864.13平方メートルである。
1 専用個室及び居間・食堂、静養室、健康管理室、浴室、階段(3,337.26平方メートル。以下「個室及び居間・食堂等」という。)
 それぞれの入居者(以下「専用個室入居者」という。)が居住用及び福利厚生用施設として使用。
2 医療関係者を誘致するために設置した施設(140.41平方メートル。以下「診療所」という。)
 医療関係者の診療所として貸し付けられるために設置されたものであり、外部の患者を中心に利用。
3 地域住民の交流のための施設(47.11平方メートル。以下「会議室」という。)
 地域住民が交流施設として使用。
4 事務室(59.12平方メートル。以下「事務室」という。)
 入居者に対する介護サービスを提供するためにD社が配置した職員(以下「介護職員」という。)が介護サービスに関する事務を行うために使用。
5 宿直室、書庫、相談室及び更衣室(77.20平方メートル。以下「宿直室等」という。)
 介護職員が夜間に本件入居者の求めに応じて介護サービスを提供するために使用。
6 厨房及び食品庫(119.01平方メートル。以下「厨房等」という。)
 専用個室入居者及び介護職員の給食のために使用。
7 スタッフステーション及び倉庫(69.30平方メートル。以下「スタッフステーション等」という。)
 介護職員が本件入居者の介護サービスを行うための詰所として使用。
8 会議室前の廊下、便所及び給湯室(14.72平方メートル。以下「会議室前の廊下等」という。)
 会議室の利用者、介護職員等が使用。
ホ なお、請求人は、平成19年12月28日付で建築工事設計業を営むE社に上記ニの4の事務室の一部を貸し付けており、E社の職員は当該事務室において同社の設計業務に従事し、介護サービスは全く行っていない。また、平成20年4月末日において事務室内で勤務していたのは、D社の職員4人、E社の職員2人であった。
ヘ 請求人は、D社に対する本件課税期間に係る本件建物の家賃収入合計○○○○円を、本件入居者がD社に対して支払う利用料のうち家賃に相当する金額と管理費に相当する金額との比によりあん分し、非課税売上げ○○○○円及び課税売上げ○○○○円として消費税等の確定申告をした。原処分庁は、当該非課税売上げと課税売上げは本件建物の本件入居者の居住用に供されている部分(非課税の適用を受ける部分)の床面積(以下、床面積を単に「面積」という。)とそれ以外の部分(課税の適用を受ける部分)の面積の比により当該家賃収入合計額をあん分すべきであるとして本件更正処分等をした。
 なお、当該家賃収入合計額を非課税の適用を受ける部分の面積と課税の適用を受ける部分の面積の比によりあん分して非課税売上額と課税売上額とに区分すべきことについて争いはない。

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2 争点

 請求人がD社に賃貸した本件建物のうち、消費税法上の「家屋のうち人の居住の用に供する部分」(非課税の適用を受ける部分)に該当するのはどの部分か。

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3 主張

(1) 原処分庁

 以下のとおり本件建物の総床面積合計3,864.13平方メートルのうち非課税部分となる面積の合計は3,669.96平方メートルであり、課税部分となる面積の合計は194.17平方メートルである(別表2の「原処分庁主張」欄)。したがって、当該面積の比により当該家賃収入合計額をあん分すべきである。
 上記1の(4)のニの1については、入居者の居住の用に供される部分であることから住宅の貸付けに該当し、同4ないし7については、D社の職員が本件入居者に対するサービスを提供するために使用する部分であり、本件入居者の円滑な日常生活を送るために必要な部分であることから、住宅部分の貸付けに該当する。また、同8については、D社の職員のほか、会議室の利用者も使用していることから、住宅と住宅以外の共用部分に該当する。
 なお、同2及び3については、入居者の居住の用に供されていないことから住宅以外の貸付けに該当する。

(2) 請求人

 次のとおり本件建物の総床面積合計3,864.13平方メートルのうち非課税部分の面積の合計は3,337.26平方メートルであり、課税部分の面積の合計は526.87平方メートルである(別表2の「請求人主張」欄)。
イ 本件建物のうち、上記1の(4)のニの1が住宅の貸付けに該当し、また、同2及び3が住宅以外の貸付けに該当することは、原処分庁の主張と同様である。
ロ しかしながら、同4ないし8の事務室、宿直室等、厨房等、スタッフステーション等及び会議室前の廊下等については、いずれも本件入居者が使用する場所ではないことから、住宅以外の貸付けに該当する。

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4 判断

(1) 法令解釈

 建物等の賃貸に係る取引については、消費税法上、課税取引となるのであるが、住宅の貸付けについては、特別の政策的配慮から非課税とされている。
 そして、この場合の住宅とは、住宅賃借人が日常生活の用に供する場所を指すものと解されるから、住宅の貸付けの範囲の判定に当たっては、住宅賃借人が日常生活を送るために必要な場所と認められる部分は、すべて住宅に含まれると解するのが相当である。
 なお、消費税法基本通達6−13−7は、賃貸借に係る契約において、賃借人が住宅として転貸することが契約書その他において明らかな場合には、当該住宅用の建物の貸付けは、住宅の貸付けに含まれる旨定めているところ、上記の住宅の貸付けが非課税とされている趣旨に照らせば、当該通達の取扱いは当審判所においても相当であると認められる。

(2) 当てはめ

イ 消費税法上、非課税となる住宅の貸付けの範囲の判定に当たっては、上記(1)のとおり住宅に係る賃借人が日常生活を送るために必要な場所と認められる部分はすべて住宅に含まれると解するのが相当であるから、本件建物のように、本件入居者の居住の用とそれ以外の用に供されている場合においては、貸付けの対価の額を日常生活を送るために必要と認められる部分の面積とそれ以外の部分の面積との比により、非課税部分と課税部分にあん分するのは合理的である。
 そして、介護付有料老人ホームは、入居した老人が、入浴、排せつ、食事などに係る介護を受けながら日常生活を送る場所であるところ、その建物が介護付有料老人ホームの用に供されている場合にあっては、単に寝食の場ということではなく、入居した老人が介護等のサービスを受けながら日常生活を営む場であるというべきであるから、介護付有料老人ホーム用建物の内部に設置された介護サービスを提供するための施設は、入居した老人が日常生活を送る上で必要不可欠な場所であるというべきであり、住宅に含まれると判断するのが相当である。
ロ 本件建物の各部分が、本件入居者が日常生活を送る上で必要と認められる部分(以下「非課税対象部分」といい、これ以外の部分を「課税対象部分」という。)に該当するか否かは次のとおりである。
(イ) 個室及び居間・食堂等(3,337.26平方メートル
 個室及び居間・食堂等は、本件入居者が、生活を営む場として使用しており、非課税対象部分と認められる。
(ロ) 診療所及び会議室(187.52平方メートル
 本件入居者の居住の用に供されておらず、また、本件入居者に介護サービスを提供するための施設にも該当しないことから、課税対象部分と認められる。
(ハ) 事務室(59.12平方メートル
A D社の職員4名とE社の職員2名の合計6名で使用されている。D社の業務は、介護付有料老人ホームの管理・運営であり、同社の職員4名は、本件入居者のための介護サービスに関する事務を行うために事務室を使用していることから、これらの職員4名が使用している部分は、本件入居者が日常生活を送るために必要と認められる部分に該当するが、当該事務室は、上記の6名により共用されていることから、それぞれの事務に従事する人数の割合で非課税対象部分を算出するのが合理的と考えられる。
B そうすると、当該事務室の面積59.12平方メートルのうち、39.41平方メートル(59.12平方メートルに6分の4を乗じて算出される面積)がD社の職員4名により使用されている部分として非課税対象部分となる。
(ニ) 宿直室等(77.20平方メートル
 宿直室等は、介護職員が夜間に本件入居者の求めに応じて介護サービスを提供するために宿泊するものであり、本件入居者が日常生活を送る上で必要な部分と認められることから、非課税対象部分に該当する。
(ホ) 厨房等(119.01平方メートル
 本件入居者に食事の提供等をするために使用する場所であり、本件入居者が日常生活を送る上で必要な部分と認められることから、非課税対象部分に該当する。
(ヘ) スタッフステーション等(69.30平方メートル
 スタッフステーション等は、介護職員が本件入居者の介護サービスを行うための詰所として使用するものであり、本件入居者が日常生活を送る上で必要な部分と認められることから、非課税対象部分に該当する。
(ト) 会議室前の廊下等(14.72平方メートル
 会議室の利用者、事務室の職員(D社及びE社)が使用するものであるが、D社の職員の使用については本件入居者の介護サービスを行うためのものであり、本件入居者が日常生活を送る上で必要な部分と認められる。
 これら共用部分の非課税対象部分と課税対象部分との区分については、会議室の利用者等が一定でないことから、本件建物の非課税対象となる部分の合計面積(次のA)と課税対象となる部分の合計面積(次のB)の比であん分するのが最も合理的と考えられる。
 そうすると、14.00平方メートルが非課税対象部分となり、0.72平方メートルが課税対象部分になると認められる。
A 非課税対象となる部分の合計面積3,642.18平方メートル(上記(イ)、(ハ)のB、(ニ)、(ホ)及び(ヘ)の面積の合計)。
B 課税対象となる部分の合計面積187.52平方メートル(上記(ロ)の面積)。
ハ 上記ロによれば、本件建物のD社に対する貸付床面積は、本件建物の総床面積3,864.13平方メートルからE社が事務室を賃借している部分の面積19.71平方メートル(事務室の面積59.12平方メートルから上記ロの(ハ)のBのD社が使用している部分39.41平方メートルを差し引いた面積)を除いた3,844.42平方メートルとなり、当該面積のうち非課税部分の面積及び課税部分の面積の合計はそれぞれ3,656.18平方メートル及び188.24平方メートルとなる(別表2の「審判所認定」欄のとおり。)。
 そうすると、D社から収受した本件建物の家賃収入○○○○円は次のとおり非課税売上額○○○○円と課税売上額○○○○円(消費税等抜きの金額)とに区分される(別表3の「審判所認定額」欄の「D社からの家賃収入」欄)。
(イ) 非課税売上額
 ○○○○円=○○○○円×(3,656.18平方メートル÷3,844.42平方メートル
(ロ) 課税売上額
 ○○○○円=○○○○円×(188.24平方メートル÷3,844.42平方メートル)×(100÷105)

(3) 本件消費税等更正処分について

 以上のことから、本件における、課税売上額、非課税売上額、課税売上割合及び本件建物の取得等に係る消費税のうち控除できる税額は、それぞれ次のとおりとなる(別表3の「審判所認定額」欄のとおり)。
イ 課税売上額     ○○○○円
ロ 非課税売上額    ○○○○円
ハ 課税売上割合   約18.6057933%
ニ 仕入税額控除の額  ○○○○円
 この結果、請求人の本件課税期間における還付金の額に相当する税額は、別表4の「審判所認定額」欄のとおり○○○○円となり、本件消費税等更正処分における還付金の額に相当する税額○○○○円を下回るものであることから、本件消費税等更正処分は適法である。

(4) 本件賦課決定処分について

 上記(3)のとおり、本件消費税等更正処分は適法であるところ、当該処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行われた本件賦課決定処分については適法である。

(5) 本件法人税更正処分について

 上記(3)に伴い、請求人の確定申告における欠損金額○○○○円に対して、以下のとおり加算、減算する。
イ 請求人が、当初、D社からの家賃収入に係る仮受消費税として計上した消費税等相当額○○○○円のうち、上記(2)のハの(ロ)の課税売上○○○○円に係る消費税相当額○○○○円を超える部分の金額○○○○円は、請求人の家賃収入の計上漏れとして、請求人の所得金額に加算する。
ロ 上記(3)のハのとおり、課税売上割合が申告時の約57.6648386%から約18.6057933%となったことに伴い、控除対象外消費税等のうち損金の額に算入される金額は○○○○円となり、請求人が、当初、控除対象外消費税等のうち損金の額に算入した金額○○○○円との差額○○○○円を、請求人の所得金額から減算する。
 以上の結果、請求人の本件事業年度における欠損金額は、別表5の「審判所認定額」欄のとおり○○○○円となり、本件法人税更正処分における欠損金額○○○○円を下回るものであることから、本件法人税更正処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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