(平22.9.2裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が自らの営む事業を簡易課税制度に係る事業区分の第三種事業に該当するとして計算した控除対象仕入税額について、原処分庁が、請求人の営む事業は「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業」に該当するから第四種事業に該当するとして消費税及び地方消費税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

 平成17年10月1日から平成18年9月30日まで、平成18年10月1日から平成19年9月30日まで及び平成19年10月1日から平成20年9月30日までの各課税期間(以下、請求人の各課税期間について「平成18年9月課税期間」のようにいい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)についての審査請求(平成21年9月15日請求)に至る経緯等は、別表のとおりである。
 なお、以下、平成21年5月29日付でされた本件各課税期間の消費税等の各更正処分を「本件各更正処分」、過少申告加算税の各賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」という。

(3) 関係法令等

 関係法令等の要旨については、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、平成15年11月28日に原処分庁に対し、消費税法第37条第1項の規定の適用を受ける旨の届出書(消費税簡易課税制度選択届出書)を提出している。
 なお、請求人の本件各課税期間のそれぞれの基準期間における課税売上高は、いずれも50,000,000円以下である。
ロ 請求人の営む事業(以下「本件事業」という。)は、H社との契約に基づき、セキュリティシステムの施工等を請け負うものである。
ハ 請求人は、本件各課税期間に係る消費税等について、本件事業が消費税法施行令第57条第1項第3号に規定する第三種事業に該当するとし100分の70のみなし仕入率(消費税法第37条第1項及び消費税法施行令第57条第1項に規定する率をいう。以下同じ。)を適用し、別表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告をした。
ニ 原処分庁は、本件事業は第四種事業に該当するとし100分の60のみなし仕入率を適用して、別表の「更正処分等」欄のとおり、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分をした。

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2 争点

 本件事業は、消費税法施行令第57条第5項第3号かっこ書に規定する「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業」に該当するか否か。

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3 主張

原処分庁 請求人
 本件事業は、H社との契約に基づき、請求人がJ社の顧客の事務所や住宅などに赴いて、セキュリティ機器の設置、機器の取替え、機器の取り外し等を行い、セキュリティシステムが正常に稼動するようにセキュリティ工事を行うものである。
 そして、請求人とH社が取り交わした継続取引基本契約書(以下「本件契約書」という。)の第2条第2項の(4)において、H社が請求人に対して無償で支給するものの品名及び数量を発注書に明示する旨定められているところ、請求人への発注書にはセンサー等のセキュリティ機器が記載されているものの、H社から請求人に対して、センサー等のセキュリティ機器の代金が請求されていないことからすれば、H社から請求人に対してセキュリティ機器が無償により支給されたものと認められる。
 そうすると、本件事業の主要な原材料はセキュリティ機器であるところ、その工事に伴うコードケーブル等の補助材料については請求人が有償により調達しているものの、請求人は主要な原材料であるセキュリティ機器をJ社から無償により支給を受けて本件事業を行っていることから、本件事業は、「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業」に該当する。
 本件事業は、請求人がH社との契約に基づき、J社の顧客の建物にJ社が所有しているセキュリティ機器を取り付け、配線工事を行うもので、時間的観点からいえば、セキュリティ工事のうち、配線工事の占める割合が90%を超えていることから、配線工事が主である。
 セキュリティ機器は、H社の親会社であるJ社から無償により支給されているものではなく、あくまでも、J社所有のものであり、請求人はJ社から預かったものをただ取り付けているだけである。
 他社が調達した資材を使用した場合は、消費税法施行令第57条第5項第3号かっこ書の「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業」に該当し、第四種事業に該当するものと思われるが、請求人は、施工に必要とされるコードケーブル等の資材は全部調達して配線工事を行っている。
 したがって、本件事業は、「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業」には該当しない。

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4 判断

(1) 法令解釈

イ 消費税法施行令第57条第5項は、簡易課税制度上の第一種事業から第五種事業までの事業区分について規定しているところ、同項第3号かっこ書の規定が、第三種事業から「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業」を除外し、同項第5号の規定によってこれを第四種事業とした趣旨は、他の者の原料若しくは材料又は製品等(以下「原材料等」という。)に加工等を加えるなど、専ら労力や技術等の提供を行う事業は、原材料等に係る仕入れそのものがなく、自ら調達した原材料等に加工等を施す事業よりも課税資産の譲渡等に係る消費税額のうちに課税仕入れ等の税額の通常占める割合が一般に低いことによるものと解される。
ロ また、消費税法基本通達13−2−7は、消費税法施行令第57条第5項第3号かっこ書の「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供」の意義について、対価たる料金の名称のいかんを問わず、他の者の原材料等に加工等を施して、当該加工等の対価を受領する役務の提供又はこれに類する役務の提供をいう旨定めているところ、当該通達の定めは、上記イの趣旨からみて、当審判所においても相当と認められる。

(2) 証拠

イ 本件契約書には、要旨次のとおり記載されている。
(イ) H社は、請求人に業務(セキュリティ工事)を発注するときは、H社が定める発注書及び図面・仕様書・業務指示書その他必要な図書並びに当該業務に必要な機器及び材料のうち、H社が支給すべきものを請求人に交付する。(第1条、第2条第1項)
(ロ) H社は、上記(イ)の発注書に次の事項を明示する。(第2条第2項)
A 業務請負代金
B 業務着手の時期及び業務完了の時期
C 業務対象物の数量と実施すべき業務の種別
D 当該業務に必要な機器と材料のうち、H社が無償で支給するものの品名及び数量
E 業務提供先に関する貸与品
(ハ) セキュリティ工事とは、J社の営業に伴う警備システム・防災システム・その他各種機器の設置・撤去・移設工事(これらに付帯する関連工事を含む。)とする。(第101条)
(ニ) 請求人は、第2条第1項の機器及び材料について、自己の責任と費用負担において、これを当該工事先に運搬する。
 請求人は、第2条第1項の機器及び材料について、その交付を受けた時から工事の全部をH社が完成したと認めるときまで、善良な管理者の注意をもってこれを維持管理する。(第102条)
ロ 上記イの(ロ)のDに関する照会につきH社が当審判所に提出した「回答書」には、H社が無償で支給する機器とは、顧客とセキュリティ契約を交わしたJ社から支給される機器であり、法人向け警備、家庭向け警備、入退出管理、防犯カメラ等のシステムだけでも50〜60種に及び、例としては、コントローラやセンサーがある旨記載されている。
ハ H社の発注書の「機器明細」欄には、コントローラ、マグネットセンサー、煙感知器及び熱感知器等の機器名が記載されている。
ニ H社が請求人に送付する発注書には、発注金額の内訳として、まる1標準工事料、まる2特殊工事料、まる3高所作業費、まる4その他工事料等が記載されており、この点に関する照会に対しH社が当審判所に提出した「回答書」には、まる1標準工事料は、標準的な工事一式(配線工事、機器設置工事、機器調整)の作業に対する対価である、まる2特殊工事料は、様々な環境の中での工事や顧客からの多種多様な要望に応える必要があり、これらの標準的な工事として扱えないものを特殊工事料として加算する、まる3高所作業費は、機器設置工事箇所や配線工事箇所が床面より3.5メートル以上の高所作業の場合、安全を確保しながらの作業を行う必要があるものについて加算する、まる4その他工事料は、まる1からまる3までに含まれない内容がある場合に加算することがある旨記載されている。
ホ 請求人の代表取締役Gは、当審判所に対して、要旨次のとおり答述した。
(イ) 請求人は、H社一社からセキュリティ工事を請け負っており、当該工事は外注に出すことはなく、請求人の従業員がすべて施工している。
(ロ) セキュリティ機器とは、主装置であるコントローラと端末機器であり、端末機器の中には、人感センサー、マグネットセンサー、煙感知器及び熱感知器がある。
(ハ) 本件事業は、J社の顧客の事務所や住宅などに赴いて、まる1セキュリティ機器本体を設置する場所を決めて、分電盤から電源を引き、まる2電話の保安器からケーブルを引き、まる3火災盤までの配線、各部屋ごとにセンサーを設置する場所までの配線、すべての窓及び出入口までの配線をし、まる4すべてのセンサーと配線とのジョイント、まる5セキュリティ機器本体の壁等への取付け及び結線、まる6最後に各センサーの稼働状況のチェックまでを行うものである。
(ニ) 請求人はセキュリティ機器を仕入れることはなく、また、セキュリティ機器はすべてJ社で管理されており、請求人の所有ではない。
(ホ) 請求人の施工に従事する者については、各現場で、電気工事士2種以上、電話工事担任者及び消防設備士甲4類の各資格が必要である。

(3) 認定事実

 上記(2)によれば、次の事実が認められる。
イ 上記(2)のイの(ハ)のとおり、セキュリティ工事とは、J社の営業に伴う警備システム・防災システム・その他各種機器の設置・撤去・移設工事とすると定められているところ、同ホの(イ)から(ハ)までのGの答述によれば、本件事業の内容は、セキュリティ機器の主装置であるコントローラや端末機器を設置し、設置場所と分電盤との電気配線、電話の保安器との配線並びにすべての窓、出入口及び各部屋へのセンサーの設置・配線を行い、各センサーをコントローラに接続し、最後に各センサーの稼働状況をチェックし、セキュリティシステムが正常に稼動するように工事を行うものであることが認められる。
ロ そして、上記(2)のイの(イ)及び(ロ)のとおり、H社が請求人に業務を発注するときは、当該業務に必要なセキュリティ機器及び材料のうち、H社が無償で支給するものの品名及び数量を発注書に明示すると定められ、同イの(ニ)のとおり、当該セキュリティ機器等は、その交付を受けたときから工事の全部をH社が完成したと認めるときまで、請求人が善良な管理者の注意をもってこれを維持管理することとされていること、また、同ロ及び同ハのとおり、H社が請求人に無償支給する機器は、H社がJ社から支給されるセキュリティ機器を指すものであることが認められること、さらに、同ホの(ニ)のとおり、Gが、請求人はセキュリティ機器を仕入れることはなく、セキュリティ機器はすべてJ社で管理されており、請求人の所有ではない旨答述していることからすれば、本件事業において設置するセキュリティ機器は、請求人が自ら調達するのではなく、H社から提供されていることが認められる。
ハ また、上記(2)のホの(ホ)のとおり、本件事業は、電気工事士2種以上、電話工事担任者及び消防設備士甲4類の各資格保持者の技術を提供するものであること、かつ、同イの(ロ)及び同ニのとおり、請求人が受領する工事代金が配線工事、機器設置工事、機器調整等の作業に対する対価であると認められることからすれば、請求人が受領する工事代金は、人的役務の提供に対する対価であると認めるのが相当である。

(4) 本件への当てはめ

 上記(3)の各事実を上記(1)に照らして判断すると、次のとおりである。
イ 本件事業は、上記(3)のイ及びロのとおり、H社からセキュリティ機器の提供を受け、当該機器の設置、配線、調整等を行い、セキュリティシステムを正常に稼動させるまでの工事を行うものであり、また、同ハのとおり、その工事代金は、人的役務の提供に対する対価であると認められることからすると、本件事業は、他の者の原材料等に加工等を施して、当該加工等の対価を受領する役務の提供又はこれに類する役務の提供に該当し、消費税法施行令第57条第5項第3号かっこ書の「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業」に該当する事業というべきである。
 したがって、本件事業は、消費税法施行令第57条第5項第5号に規定する第四種事業に該当するものと認められる。
ロ これに対し、請求人は、本件事業は、時間的観点からいえば、セキュリティ工事のうち配線工事が主であり、また、施工に必要とされるコードケーブル等の資材は、請求人が全部調達して配線工事を行っているから、本件事業は、第四種事業には該当しない旨主張するが、上記イのとおり、本件事業は、H社からセキュリティ機器の提供を受け、当該機器の設置、配線、調整等を行うもので、他の者の原材料等に加工等を施して、当該加工等の対価を受領する役務の提供又はこれに類する役務の提供にほかならず、第四種事業に該当すると認められることから、本件事業は第四種事業に該当しない旨の請求人の主張は採用できない。

(5) 本件各更正処分について

 以上のとおり、本件事業は第四種事業に該当することから、本件各課税期間に係る控除対象仕入税額を100分の60のみなし仕入率を適用して、これに基づき本件各課税期間の消費税等の納付すべき税額を計算すると、平成18年9月課税期間及び平成20年9月課税期間の消費税等の納付すべき税額は、別表の「更正処分等」欄の額と同額となる。
 なお、平成19年9月課税期間の控除対象仕入税額については、当審判所で計算すると○○○○円となるところ、原処分においては○○○○円とされているが、この点については転記誤りと認められることから、当審判所の計算による納付すべき消費税額及び納付すべき地方消費税額は、それぞれ○○○○円及び○○○○円となり、原処分を上回る額となる。
 したがって、本件各課税期間の消費税等の納付すべき税額はいずれも本件各更正処分の額と同額又は上回る額となるから、その範囲内でされた本件各更正処分はいずれも取り消すべき違法はない。

(6) 本件各賦課決定処分について

 本件各更正処分は、上記(5)のとおり適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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