(平22.11.29裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が行った外国為替証拠金取引により生じた本邦通貨である円と取引対象の外国通貨間における金利差を基に受払を合意し算出した額(以下「本件スワップポイント」という。)に係る収入金額について、原処分庁が、雑所得の総収入金額に算入して所得税の更正処分等を行ったのに対して、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人の審査請求(平成21年12月2日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。
 なお、以下においては、平成21年7月9日付でされた平成18年分の所得税の更正処分及び平成19年分の所得税の更正処分(ただし、平成19年分の所得税の更正処分については、平成21年11月6日付でされた異議決定によりその一部が取り消された後のもの。以下同じ。)を併せて「本件各更正処分」という。

(3) 関係法令

 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、L社との間で、同社に証拠金を預託した上で外国通貨間又は外国通貨と本邦通貨の交換又は売買を委託し、転売又は買戻しによる差金決済をする通貨証拠金取引(後に外国為替証拠金取引と改称する。以下「FX取引」という。)に関する契約を締結し、L社に通貨証拠金取引口座(後に外国為替証拠金取引口座と改称する。以下「本件取引口座」という。)を開設した。
 請求人は、平成15年6月25日からL社との間で外国通貨と本邦通貨との売買取引を開始し、平成18年及び平成19年において、L社との間で、同社の商品である「M」、「N」及び「P」の取引(以下、これらの商品を併せて「本件FX商品」といい、また、本件FX商品に係る取引を「本件FX取引」という。)を行った。
ロ L社は、請求人の1万Q国ドル当たりの保有ロットと保有日数に応じて計算した本件スワップポイントの1か月分の合計額を、平成18年5月分までは「売買・取引口座明細報告書」に、平成18年6月分からは様式及び名称変更した「残高照合通知書」にそれぞれ表示して、請求人に翌月初めに通知した。

(5) 争点

 本件スワップポイントに係る収入金額を雑所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき時期はいつか。

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2 主張

原処分庁 請求人
 本件スワップポイントに係る収入金額を算入すべき時期は、次の理由により、本件スワップポイントが月末において本件取引口座に反映された時である。  本件スワップポイントに係る収入金額を算入すべき時期は、次の理由により、本件FX取引が決済された時である。
(1) 本件スワップポイントは、日々計算され本件取引口座に反映された後、当該1か月分の合計額が、翌月10日に請求人名義の預金口座に振り込まれている。 (1) 日々計算される本件スワップポイントは、計算上の未実現評価損益と同様であり、日々確定しているものではない。
(2) L社が作成した「各商品お取引概要」のPの商品説明には、1日当たりのスワップポイントの額及びスワップポイントを毎月受領できる旨記載されている。 (2) L社から請求人への支払は、本来差し入れておく必要のない余剰の証拠金の返還であり、スワップポイントの支払ではない。
(3) 本件FX取引に係る決済取引と本件スワップポイントに係る取引とは、それぞれ別の取引であるため、その収入の確定時期は異なることになる。 (3) スワップポイントに係る利益損失は、FX取引が取引証拠金の数倍の取引を行うことができる上、為替レートの変動が激しいため、当該FX取引が決済された時でなければ確定しない。

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3 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人とL社との間の取引約款等の内容について
(イ) 請求人がL社と取引を開始した際の「FX○○―通貨証拠金取引約款―」には、要旨次のとおりの定めがある。
A 請求人(以下「甲」という。)は、L社(以下「乙」という。)に通貨証拠金取引口座を開設することを申し込み、乙の審査を受けることを了解し、乙は甲の適格性を判断し、これを妥当と認める場合は、甲に対し口座を設定した旨の通知を行うことにより、通貨証拠金取引に関する契約を締結したものとする(第1条第1項)。
 乙は通貨証拠金取引口座設定を行い、甲が証拠金の預託を行った後でなければ本取引における委託の取次ぎは受けないものとする(第1条第2項)。
B 甲が乙と行う取引において、取引証拠金、また建玉の転売若しくは買戻しによる最終決済を行った場合の確定差損益金(反対売買により発生した差損益金をいい、スワップ金利、手数料及び手数料に係る消費税を含む。)、その他授受する金銭は、すべて通貨証拠金取引口座で処理する(第3条)。
C 「通貨証拠金取引」とは、外国通貨間若しくは外国通貨と本邦通貨の売買契約に伴い、当該通貨の売買代金を授受する取引をいう。ただし、本取引は当該通貨の売買代金を授受せず、甲の指示により転売又は買戻しによる差金決済により取引を行う(第4条)。
D FX○○とは証拠金を預託することによって第4条(上記C)にいう「通貨証拠金取引」を行うもので、二国間通貨金利差によるスワップ金利を用いて為替直物の受渡し期日を翌日に1日間ローリング(繰り延べ)することができ、反対売買により決済するまで自動的に建玉の継続を可能にした為替直物取引をいう(第5条)。
E 甲は、乙の建玉に対して、毎営業日に帳入値段を用いて値洗いを行い、計算によって生じる未確定差損益金(同約款において「帳入値段により算出される建玉の差損益金」をいう。)、スワップ金利、手数料等が共に取引口座内において、日々計算され、累積される(第20条)。
 なお、同約款上、上記の「甲は、乙の建玉に対して、毎営業日に帳入値段を用いて値洗いを行い、」との記載があるが、「乙は、甲の建玉に対して、毎営業日に帳入値段を用いて値洗いを行い、」が正しいことは明らかである。
F スワップ金利は、甲が本邦通貨より高い金利の取引通貨を売付ける場合、その金利差を基に算出される額を乙に支払うものとし、甲が買付ける場合においては、乙からその金利差を基に算出(される)額を受領することができる。また、甲が本邦通貨より低い金利の取引通貨を売付ける場合は、その金利差を基に算出される額を乙から受領することができ、甲が買付ける場合においては、その金利差を基に算出される額を乙に支払うものとする(第21条第2項)。
G 乙に預託されている預り証拠金額が、預託すべき取引証拠金の額を超過する場合において、甲から当該超過する額の全部又は一部の返還請求があったときは、乙はその請求があった日から起算して4営業日以内に当該額を甲に返還する(第28条第1項)。
H 確定差損益金(帳尻金)の累積が毎月末に甲の益勘定になった場合、甲は1乙に累積している利益金を原資として、乙が任意に預り証拠金に振り替えることを了解するか、あるいは2甲が乙の指定する銀行口座に翌月25日までに当該利益金を振り込むかの一方を選択する旨翌月20日までに乙に申し出るものとする。この別段の申出が期日までにない場合は、乙は1の処理を行うこととし、甲はこれに異議を唱えないものとする(第28条第2項、第3項)。
 なお、同約款上、上記2については「甲が乙の指定する銀行口座に」との記載があるが、「乙が甲の指定する銀行口座に」が正しいことは明らかである。
(ロ) L社は、上記(イ)の「FX○○−通貨証拠金取引約款−」を平成18年3月15日に一部改訂した「外国為替保証金取引約定書」を、また、平成19年8月15日に同じく「外国為替証拠金取引約款」(以下、「FX○○−通貨証拠金取引約款−」、「外国為替保証金取引約定書」及び「外国為替証拠金取引約款」を併せて「本件各約款」という。)を作成したが、「FX○○−通貨証拠金取引約款−」とは異なり、「外国為替保証金取引約定書」及び「外国為替証拠金取引約款」についてはスワップ金利に関する記載はない。
 この点について、L社の元代表取締役R(以下「R」という。)は、当審判所に対して、「FX○○−通貨証拠金取引約款−」には、スワップ金利に関する事項を記載していたが、「外国為替保証金取引約定書」への改訂後は約款にスワップ金利について記載するのをやめて、「お取引ガイド」で説明するようにした旨、約款変更後も約款の基本的な内容については同一であり「FX○○−通貨証拠金取引約款−」の内容そのものに変更があったわけではない旨、また、スワップ金利は金利ではないので、言葉を正確にするためにスワップポイントという言葉を用いた旨、それぞれ答述した。
(ハ) L社が作成した「お取引ガイド」には、スワップポイントの発生について、「外貨と円との金利差が生じるため、為替レートの変化とは関係なくスワップポイントが生じます。例:高金利の米国ドルを低金利の円で買うと通貨間の金利差が生じ、この金利差がお客様の口座に積み立てられていきます。(米国ドル売りの場合は逆にお客様のお支払となります。)」と記載されていた。
(ニ) L社が作成した「外国為替取引ガイド」には、スワップポイントの発生について、上記(ハ)と同一の文言が記載されている。また、スワップポイントについて、「お客様が米国ドル買いのお取引を始められた場合には、低金利の円で高金利の米国ドルを買うという形になりますので、為替の変動とは関係なく、お客様の取引口座には買いポジション数に応じた『米国ドル金利−円金利』の金利差額が毎日積み立てられていきます。」と記載され、さらにはスワップポイントの発生メカニズムについて、「米国ドル買」の建玉ポジションの場合に関し、円の金利を0.25%、米国ドルの金利を1.75%と仮定し、1万ドルの取引において「一年分の金利額は150米国ドルということになります。これを1ドル125円と仮定して円換算すれば18,750円、更に一年365日の割合で1日当たりに直しますと、約50円、この金利をスワップポイントと呼び、お客様が建玉ポジションをご決済される迄の間、毎日50円がお客様の口座に積み立てられるのです。」と記載されているとともに、同様の場合での「米国ドル売」の建玉ポジションの場合についても記載されていた。
ロ L社の外国為替証拠金取引商品の内容について
(イ) L社の取扱商品について
 L社が作成した「各商品お取引概要」では、同社が取り扱う商品として、電話取引口座において行われるものと、オンライン取引口座において行われるものとを区分し、前者の商品として、1T、2P、3U、4Vがあり、後者の商品として、1S、2Zがあると記載されていた。
(ロ) 本件FX商品に関するパンフレットの記載内容
A L社が作成した「安定指向外貨運用をご提案します。」と題するパンフレットには、「高金利通貨(Q国ドル・W国通貨)でのリスクをおさえた安定重視の運用です。」と記載され、「N」については、「毎日500円のスワップ金利がつきます。」と記載されている上、「特徴」と題して「11か月ぶんのスワップ金利が翌月10日にお客様の口座に振り込まれます。2スワップ金利は先払いされますが、決済取引をしないので課税の対象になりません。」と記載されていた。
B また、L社が作成した「P」と題するパンフレットには、「Pの特徴」と題して「スワップ金利・手数料がダンゼンお得 高金利で大人気のQ国ドルの運用で、スワップ金利は1日1,100円(1口10万Q国ドルの場合)」、「日々の値動きを気にしなくてOK Pなら、ゆとりを持った証拠金で安心運用!多少の値動きに左右されずにスワップ金利でじっくり増やせます。」、「決済無しで毎月スワップ分を受け取れる Pなら、決済まで待たなくても、増えたスワップ金利を毎月受け取る事ができます。※振込手数料はお客様ご負担です。」などと記載されている上、「お取引の詳細」について「スワップ金利(スワップポイント) 1万Q国ドルあたり 110円/日(土日祝日にもスワップ金利は適用されます)10万Q国ドルの場合、1年間で・・・1,100円×365日=401,500円が受け取れます。(手数料除く)」、「その他 決済を待たずにスワップ金利を毎月、日本円で受け取る事ができます。」と記載されていた。
C さらに、L社が作成した「ニーズに合わせて選べるFXのさまざまな運用手法!」と題するパンフレットには、「高金利スワップを毎月受け取れる!」として「リスクをできるだけ低くして安定した収益を希望する人におすすめしたいのが、『P』。高金利通貨として人気のQ国ドルにターゲットを絞り、有利なスワップポイントを着実に積み重ねていく預貯金感覚の運用商品だ。日々の為替の変動に左右されることなく安定した運用が行なえるとともに、増えたスワップポイントが、決済なしで毎月口座に振り込まれる点も投資家にはありがたい。」と記載されている上、「P」のスワップポイント受取例として次表のとおり記載されていた。

 1口の場合(200万円で5万Q国ドルの取引の場合)
1日のスワップポイント =550円
1カ月預けると・・・ 550円×30日=16,500円
1年間預けると・・・ 550円×365日=200,750円
3年間預けると・・・ 200,750円×3年=602,250円

(ハ) 本件FX商品に関する「各商品お取引概要」の記載内容
 L社が作成した「各商品お取引概要」には、「P」について、「高金利通貨のQ国ドルを長期保有し、スワップ金利で安定した収益をあげることを目的とした、低リスク型安定志向商品です。毎月のスワップ金利を決済なしで受け取ることもできます。」と、また、当該スワップ金利について、「1万Q国ドル当たり110円/日(土日祝日にもスワップ金利は適用されます)、5万Q国ドルの場合、1年間で550円×365日=200,750円が受け取れます(手数料除く)、スワップ金利を毎月、日本円で受け取ることができます。」と、記載されていた。
(ニ) 本件FX商品に関するRの答述
 「M」、「N」及び「P」の各商品は、高金利通貨のQ国ドルを長期保有し、スワップポイントで安定した収益をあげることを目的とした、低リスク型安定指向商品であり、スワップポイントは変更になっているが、当該各商品とも名前が変更になっただけで同じ取引形態である。当該各商品は、スワップポイントが為替変動や金利変動等によって大きく変動しない限り変更しない固定スワップポイント(固定リスク調整金と言い換えてもよい。)の商品であり、スワップポイントを変更する場合には、商品名を改正する。
ハ 本件スワップポイントの計算及びL社から請求人への振込み
(イ) 本件FX取引は、高金利通貨であるQ国ドルを運用してスワップポイントで安定した収益をあげることを目的とし、本件スワップポイントは、1万Q国ドルにつき1日当たり、それぞれMは70円、Nは100円、Pは110円を基に計算され、その1か月分の合計額は別表2の通知金額欄のとおりである。
 なお、平成18年12月分及び平成19年7月分の本件スワップポイントの合計額については、当審判所の調査の結果によっても、「残高照合通知書」の記載内容が確認できないものの、当該各月分の前後の取引状況並びに請求人の1万Q国ドル当たりの保有ロット及び保有日数から、別表2のとおりであると認められる。
(ロ) L社は、毎月10日(休日の場合はその翌営業日)にX銀行Y支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)に別表3の振込金額欄のとおりの金額を振り込んだ。
ニ L社から請求人への通知内容
(イ) 上記1の(4)のロの「売買・取引口座明細報告書」には、当月分の「未決済スワップ金利返還分」の金額が記載されており、その金額は、上記ハの(ロ)の請求人名義の普通預金口座に振り込まれた金額(振込手数料を控除する前の金額)と一致する。
(ロ) 上記1の(4)のロの「残高照合通知書」には、「当月精算済スワップ」の金額が記載されており、その金額は、上記ハの(ロ)の請求人名義の普通預金口座に振り込まれた金額(振込手数料を控除する前の金額)と一致する。
ホ スワップポイント相当金額の支払についてのL社の会計処理
(イ) L社は、スワップポイントに相当する金額を損益科目である為替差損益勘定において、損金の額に算入する会計処理を月末に行っていた。 
(ロ) Rは、当審判所に対し要旨次のとおり答述した。
A 「M」、「N」及び「P」の各商品は、未決済でも毎月1か月分の返還可能額(本来差し入れておく必要のない余剰の証拠金)の返還を自動的に受けることができる商品で(勿論返還可能額が存在すればのことであるが。)、口座開設時に受取方法を顧客が選択する。その選択方法に係る規定は、約款ではなくパンフレットに記載がある。返還可能額がある場合にこれを毎月受け取る方法を選択すれば、顧客から再投資をする等の特段の申出がない限り、返還可能額が自動的に毎月払いになる。
B L社におけるスワップポイントに係る会計処理は、決済前に支払をする場合は帳簿上先払いとしたが、「先払い」ではなく「返還可能額返還」というような勘定科目とすべきであった。顧客の預り証拠金の剰余金を返還するものであるので、この段階では、会社の経理上、経費は発生しない。決済された時に、会社の経理上、スワップ金利の額が経費として発生する。
 会計上は、必要差入れ証拠金額を超える外国為替証拠金取引口座内の金額は、預り金となるのであるから、返還可能額の返還は貸借取引であり、返還可能額の返還をしても会社の経理上の経費とは関係がない。
 スワップポイント相当額の支払は、余剰の証拠金の返還として処理した。これは、支払時に必要な証拠金を超える証拠金がある場合は、その超える証拠金は返還できるからである。上記(イ)について、余剰の証拠金の返還は貸借取引であるから損益勘定で会計処理したことは誤りであった。

(2) 法令解釈

 所得税法第36条第1項は、雑所得を含む各種所得の金額の計算上、総収入金額等に算入すべき金額について、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とするとしており、ここにいう「収入すべき金額」とは、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして上記権利が確定した時期の属する年分の課税所得を計算するという、いわゆる権利確定主義を採用しているものと解されるところ、これは、課税に当たって常に現実収入のときまで課税することができないとしたのでは、納税者のし意を許し、課税の公平を期し難いので、徴税政策上の技術的見地から、収入の原因となる権利の確定した時期をとらえて課税することとしたものであると解される。

(3) 本件スワップポイントに係る合意内容及びその収入の確定時期について

イ 上記(1)のイの(イ)のA及びBのとおり、請求人はL社との間で、「FX○○−通貨証拠金取引約款−」に係る合意をし、本件取引口座をL社に開設し、これにより、請求人とL社間の取引において、取引証拠金、建玉の転売若しくは買戻しによる最終決済を行った場合の確定差損益金(スワップ金利、手数料及び手数料に係る消費税を含む。)、その他授受する金銭は、本件取引口座で処理されることとなり、上記(1)のイの(イ)のHのとおり、本件取引口座において、確定差損益金(帳尻金)の累積が毎月末に、請求人の益勘定となった場合は、原則として、1預り証拠金に振り替えるか、2請求人の指定する銀行口座に当該利益金を振り込むかを請求人が選択することとなっていたと認められる。
ロ しかしながら、上記(1)のイの(イ)及び(ロ)のとおり、スワップ金利ないしはスワップポイントの取扱いに関する定めは「FX○○−通貨証拠金取引約款−」にはあるものの、「外国為替保証金取引約定書」及び「外国為替証拠金取引約款」にはなく、上記(1)のイの(ハ)及び(ニ)のとおり、本件各約款を受けた「お取引ガイド」及び「外国為替取引ガイド」に定めがあるところ、これらによれば、スワップポイントは、外貨と円との金利差により生じるものであり、この金利差額が本件取引口座に積み立てられていたと認められる。
ハ 「P」は、上記(1)のロのとおり、スワップポイントが一定の割合で固定された商品であり、「M」及び「N」との関係では、スワップポイントの変更に伴い商品名を改正したものであるから、これらも「P」と同様の内容のものであると判断されるところ、上記(1)のロの(ロ)の記載によれば、これら本件FX商品は「高金利通貨でのリスクをおさえた」商品であり、スワップポイントが、70円(Mの場合)、100円(Nの場合)、110円(Pの場合)とされ、決済をすることなく、1か月分のスワップポイントが翌月10日に顧客の口座に振り込まれることが宣伝されていたことが認められる。
ニ 実際にも、上記1の(4)のロ及び上記(1)のハのとおり、保有ロットと保有日数に応じて計算された本件スワップポイントの1か月分の合計額が、「売買・取引口座明細報告書」又は「残高照合通知書」に表示の上、請求人に定期的に通知され、さらに、上記(1)のニのとおり、本件スワップポイントの1か月分の合計額から振込手数料の金額を控除した残額が請求人名義の普通預金口座に振り込まれており、これらの事実は、上記(1)のロの商品取引概要やパンフレットに記載された内容と合致することが認められる。
ホ 以上のことからすると、請求人がL社と合意した本件FX取引に係る内容は、請求人がL社との間で外国通貨について証拠金取引を行い、その際、1日当たり一定の割合の本件スワップポイントの受払を合意し、保有ロットと保有日数に応じて計算され本件取引口座に累積された本件スワップポイントの1か月分の合計額が、請求人に対して通知された後、請求人名義の銀行預金口座に振り込まれることを主たる内容とする契約であるとみることが相当である。これによれば、本件スワップポイントに係る収入は、日々計算され本件取引口座に累積された時に確定的に生じたものであると認めるのが相当である。
 なお、上記(1)のロの(ロ)のAのとおり、L社作成の「N」についてのパンフレットには、「スワップ金利は先払いされる」旨記載され、また、上記(1)のニの(イ)のとおり、L社から請求人に通知された「売買・取引口座明細報告書」では本件スワップポイントが「未決済スワップ」と記載されているが、この「先払い」とは、建玉を決済する前に支払われるものであることを意味し、また、「未決済スワップ」とは、その月分のスワップポイントに係る金員の支払が「売買・取引口座明細報告書」の作成時点では未了であることを意味するものであると解されるから、これらの記載は、上記の認定を覆すものではない。

(4) 請求人の主張について

イ 請求人は、L社から請求人への支払は、本来差し入れておく必要のない余剰の証拠金の返還であり、スワップポイントの支払ではないと主張し、上記(1)のホの(ロ)のとおり、Rもこれに沿う答述をする。
 しかしながら、Rの答述内容は、L社の会計処理の根本的誤りをいうものであるが、その答述内容を裏付ける客観的証拠を欠き、かつ、「お取引ガイド」、「外国為替取引ガイド」、本件FX商品に関するパンフレット、更には「各商品お取引概要」のいずれの記載内容にも反するものであって、信用できず、当該支払が余剰の証拠金の返還であると認めることはできない。
ロ また、請求人は、日々計算される本件スワップポイントは、計算上の未実現評価損益と同様であり、日々確定しているものではないと主張するとともに、スワップポイントに係る利益損失は、FX取引が取引証拠金の数倍の取引を行うことができる上、為替レートの変動が激しいため、当該FX取引が決済された時でなければ確定しないと主張する。
 確かに、一般にFX取引は、為替相場の変動を利用して、各国の通貨(ただし、現実の通貨ではない。)の買い注文又は売り注文とこれを清算する反対注文を行うことにより、為替差益の獲得を目的としたものであるが、その他にも、異なる通貨を交換した後、それを保有する間の金利差調整分であるスワップポイントの獲得が可能なものである。そして、為替レートの変動が激しいことは、為替差損益には大きく影響するが、今まで述べてきたとおり、本件スワップポイントは1万Q国ドルにつき70円、100円あるいは110円という固定の割合による金額が日々確定的に発生するものであって、本件スワップポイントが為替差損益と全く異なる性格のものであることについては上述のとおりであるから、これを為替差損益における未実現評価損益と同視することはできず、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。

(5) 本件各更正処分について

 以上のとおり、本件スワップポイントについては、日々計算され本件取引口座に累積された時に収入の原因たる権利が確定したというべきであり、本件スワップポイントに係る収入金額を雑所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき時期は、日々計算され本件取引口座に累積された時であると認めるのが相当である。
 したがって、本件各更正処分において、雑所得の金額の計算上、別表2の通知金額欄記載の金額の合計額を総収入金額に算入したことは、所得税法第36条第1項の規定に照らして適法であり、また、当審判所の調査の結果によれば、本件各更正処分に係る金額は、適正に算定されていると認められる。

(6) 賦課決定処分について

 平成19年分の所得税の更正処分は、上記(5)のとおり適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づきされた平成19年分の所得税に係る過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、平成21年11月6日付でされた異議決定によりその一部が取り消された後のもの。)は適法である。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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