(平成23年3月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、調剤薬局等の事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、消費税及び地方消費税の確定申告について、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第2項第1号の規定により、医薬品の課税仕入れに係る消費税額は、課税資産の譲渡等と課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等に共通して要するものに区分して、請求人の営む事業全体に係る課税売上割合を乗じて算定すべきところ、課税仕入れの都度、課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するものに区分した上で、決算修正により、課税期間の末日における医薬品のみに係る課税売上げを基に課税資産の譲渡等にのみ要するものと課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するものとに区分して、納付すべき消費税及び地方消費税の額を過大に算定する誤りがあったとして、更正の請求をしたところ、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったのに対し、請求人が、その取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 確定申告
 請求人は、平成19年9月1日から平成20年8月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、別表1の「確定申告」欄のとおり法定申告期限までに確定申告をした。
ロ 更正の請求
 請求人は、上記イの確定申告に係る消費税等の税額計算に消費税法第30条第2項第1号の規定に従っていない誤りがあったとして、平成21年7月21日に別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
ハ 処分
 原処分庁は、上記ロの更正の請求に対し、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成21年10月29日付で、更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
ニ 異議申立て及び異議決定
 請求人は、上記ハの通知処分を不服として、平成21年12月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成22年3月25日付で、別表1の「異議決定」欄のとおり、当該処分の一部を取り消す異議決定をした。
ホ 審査請求
 請求人は、上記ニの異議決定を経た後の更正をすべき理由がない旨の通知処分になお不服があるとして、国税通則法(以下「通則法」という。)第10条《期間の計算及び期限の特例》第2項の規定により審査請求の期限とみなされる平成22年4月26日に、審査請求をした。

(3) 関係法令等

イ 通則法第23条《更正の請求》
 第1項第1号は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大である場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。
ロ 消費税法
(イ) 第6条《非課税》
 第1項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるものには、消費税を課さない旨規定し、同表第6号は、健康保険法、国民健康保険法、船員保険法、国家公務員共済組合法、地方公務員等共済組合法又は私立学校教職員共済法等(以下、これらを併せて「健康保険法等」という。)の規定に基づく療養の給付等を掲げている。
(ロ) 第30条
A 第1項
 事業者が、国内において行う課税仕入れについては、国内において課税仕入れを行った場合に当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定している。
B 第2項
 第1項の場合において、同項に規定する課税期間における課税売上割合(当該課税期間中に国内において行った資産の譲渡等の対価の額の合計額のうちに当該課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の占める割合をいう。以下同じ。)が100分の95に満たないときは、同項の規定により控除する課税仕入れに係る消費税額(以下「控除対象仕入税額」という。)は、同項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める方法により計算した金額とする旨規定し、第1号は、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れにつき、課税資産の譲渡等にのみ要するもの(以下「課税売上対応分」という。)、課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するもの(以下「非課税売上対応分」という。)及び課税資産の譲渡等と課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等に共通して要するもの(以下「共通売上対応分」という。)にその区分(以下、課税売上対応分、非課税売上対応分及び共通売上対応分の各区分を「各用途区分」という。)が明らかにされている場合には、控除対象仕入税額は、課税売上対応分の税額の合計額に、共通売上対応分の税額の合計額に課税売上割合を乗じて計算した金額を加算する方法(以下、この方法を「個別対応方式」という。)を規定している。
ハ 消費税法基本通達(平成7年12月25日課消2-25、課所6-13、課法3-17、徴管2-70、査調4-3国税庁長官通達)
(イ) 11-2-18《個別対応方式の適用方法》
 個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合には、その課税期間中において行った個々の課税仕入れについて、必ず、上記ロの(ロ)のBのとおり、各用途区分に区分しなければならず、例えば、課税仕入れの中から課税売上対応分を抽出し、それ以外のものをすべて共通売上対応分に該当するものとして区分することは認められないのであるから留意する旨定めている。
(ロ) 11-2-19《共通用の課税仕入れ等を合理的な基準により区分した場合》
 共通売上対応分に該当する課税仕入れであっても、例えば、原材料、包装材料、倉庫料、電力料等のように生産実績その他の合理的な基準により課税売上対応分と非課税売上対応分とに区分することが可能なものについて当該合理的な基準により区分している場合には、当該区分したところにより個別対応方式を適用することとして差し支えない旨定めている。
(ハ) 11-2-20《課税仕入れ等の用途区分の判定時期》
 課税仕入れの用途区分は、課税仕入れを行った日の状況により行うこととなるのであるが、課税仕入れを行った日において、当該区分が明らかにされていない場合で、その日の属する課税期間の末日までに、当該区分が明らかにされたときは、その明らかにされた区分によって個別対応方式を適用することとして差し支えない旨定めている。

(4) 基礎事実

イ 請求人の概要
 請求人は、平成7年9月○日に薬局の経営等を目的として設立され、本店を肩書地に置く法人であり、その店舗として、一般消費者向けの医薬品及び日用雑貨等を販売する本店のほか、a市b町p-○に所在する調剤薬局(以下「G店」という。)、同町q-○に所在する調剤薬局(以下「H店」といい、G店と併せて「本件各調剤薬局」という。)及び同町r-○に所在する一般書籍のほか教科書の販売を行う書店を有している。
ロ 本件課税期間の確定申告における消費税等の税額を算定する基礎となる金額の算出内容及び控除対象仕入税額の計算内容
 請求人は、本件課税期間の消費税等の確定申告における消費税等の税額を算定するに当たり、別表2のとおり、課税売上げ及び課税仕入れの金額を算出し、控除対象仕入税額の計算を行った。
ハ 本件各調剤薬局における医薬品の売上げに係る課税売上げ及び非課税売上げの構成
 本件各調剤薬局における医薬品の売上げは、ほとんど健康保険法等が適用される医師の診察に基づく処方せんに係る売上げであるため非課税売上げであるが、ごく一部健康保険法等が適用されない自費診療に係る販売や近隣薬局に対する販売等に係る売上げがあるため課税売上げとなる部分がある。
ニ 本件各調剤薬局における医薬品の課税仕入れの各用途区分
 請求人の課税売上割合は、上記ハのとおり、従前から95パーセント未満であることが明らかであったことから、請求人は、本件課税期間以前から継続して、本件各調剤薬局における医薬品の課税仕入れの各用途区分に係る経理処理を、次のとおり行った。
 なお、本件課税期間における課税売上割合は、別表2の(1)の「課税売上げ」欄の「合計」欄の金額○○○○円を、「資産の譲渡等の対価の額」欄の「合計」欄の金額○○○○円で除した割合であり、19.76パーセント(端数切捨て)となる。
(イ) 医薬品を仕入れた日における経理処理
 本件各調剤薬局が医薬品を仕入れた日においては、それぞれ暫定的に非課税売上対応分の課税仕入れの金額として経理処理をした。
(ロ) 各課税期間(本件課税期間以前の各年9月1日から8月31日までの期間をいう。以下同じ。)の末日における経理処理(決算修正)
 請求人は、各課税期間の末日において、まる1G店で販売した医薬品については、保管された処方せん及び近隣薬局に対する販売に係る領収書控えにより課税売上げ分に係る医薬品名及び数量を抽出し、当該医薬品の各仕入単価を当該医薬品ごとの各売上数量に乗じた各金額を集計する方法(以下「個別仕入単価集計方式」という。)により、また、まる2H店で販売した医薬品については、保管されたレシートの控え及び近隣薬局に対する販売に係る領収書控えにより課税売上げ分に係る売上金額を算定し、これにH店におけるすべての医薬品の仕入原価(各課税期間中の仕入金額の合計額に期首棚卸高を加え期末棚卸高を差し引いた金額)を売上金額で除した原価率を乗じる方法(以下「原価率方式」という。)により、本件各調剤薬局の医薬品の仕入れに係る課税売上対応分の金額をそれぞれ算出し、これらを上記(イ)の課税仕入れの金額として経理処理した各総額から差し引いて非課税売上対応分の金額をそれぞれ算出した上で、医薬品の課税仕入れの総額を課税売上対応分と非課税売上対応分とに区分した(以下、この区分を「本件各用途区分」という。)。
ホ 上記ニ以外の課税仕入れの各用途区分
 請求人は、上記ニ以外の課税仕入れについて、当該課税仕入れがされた日において、各用途区分に区分した。
ヘ 各課税期間における課税売上対応分及び共通売上対応分の消費税額並びに控除対象仕入税額の算出方法
 請求人は、各課税期間の消費税等の各確定申告において、本件各調剤薬局が各課税期間ごとに行った医薬品の各課税仕入れを本件各用途区分により区分し、医薬品の各課税仕入れ以外の各課税期間中の課税仕入れを各用途区分に区分した上で、各用途区分ごとの消費税額をそれぞれ算出し、課税売上対応分の消費税額と共通売上対応分の消費税額に課税売上割合を乗じた消費税額の合計額を各課税期間の控除対象仕入税額として算出した。
 なお、本件課税期間の消費税等の確定申告において、課税売上対応分及び共通売上対応分の消費税額は、別表2の(2)のとおり、○○○○円及び○○○○円であり、控除対象仕入税額は、同表の(3)のとおり、○○○○円である。

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2 争点

 請求人が本件各用途区分に基づき本件課税期間の控除対象仕入税額を算出したことについて、申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定(本件の場合は、消費税法第30条第2項第1号の規定)に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、納付すべき税額が過大となる場合に更正の請求を認めるとする通則法第23条第1項第1号の規定の適用があるか否か。

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3 主張

請求人 原処分庁
 請求人は、本件各調剤薬局が本件課税期間に行った医薬品の課税仕入れ(以下「本件医薬品課税仕入れ」という。)について、消費税法第30条第2項第1号に規定する共通売上対応分として区分し、その消費税額に課税売上割合を乗じて控除対象仕入税額を算出すべきであったところ、前記1の(4)のハのとおり、仕入れた医薬品の売上げは課税売上げ又は非課税売上げとなるが、仕入れを行った日においてはどちらとなるか分からないことから、共通売上対応分として区分することができないと錯誤し、本件各用途区分に区分し、そのうち課税売上対応分に係る消費税額を算出し、当該税額を控除対象仕入税額の対象とした。
 したがって、本件各用途区分に基づき控除対象仕入税額を算出したことについて、申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定(本件の場合は、消費税法第30条第2項第1号の規定)に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、納付すべき税額が過大となる場合に更正の請求を認めるとする通則法第23条第1項第1号の規定の適用がある。
 請求人が、本件医薬品課税仕入れについて、前記1の(4)のニのとおり、本件各用途区分に区分したことは、合理的な基準に基づいており、消費税法第30条第2項第1号の規定に従っていなかったとは認められないので、本件各用途区分に基づき控除対象仕入税額を算出したことについて、申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定(本件の場合は、消費税法第30条第2項第1号の規定)に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、納付すべき税額が過大となる場合に更正の請求を認めるとする通則法第23条第1項第1号の規定は適用されない。

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4 判断

(1) 法令解釈等

イ 個別対応方式が適用される場合の各用途区分に区分する方法
 消費税法第30条第2項第1号は、課税売上割合が100分の95に満たない事業者に対して、個別対応方式による課税仕入れに係る消費税額の控除が認められるための要件として、課税仕入れの各用途区分が明らかにされていることを規定しているものの、どの程度まで、どのような方法で、それぞれの区分を明らかにしておくのかについて、同号に限らず現行法上明記されている規定はない。そして、同号の適用についての消費税法基本通達11-2-18、同11-2-19及び同11-2-20の定めは、いずれも個別対応方式が適用される際の実務的な対応について、合理的な取扱いを定めたものであり、当審判所においても相当と認められ、これらの定めによれば、個別対応方式が適用される場合に、課税仕入れがされた日において課税売上対応分又は非課税売上対応分のいずれかに区分することができない場合であっても、当該課税仕入れが、課税期間の末日までに、当該課税仕入れと対応する売上実績等の合理的な基準により課税売上対応分と非課税売上対応分とに区分され、当該区分が明らかにされれば、その明らかにされた区分によることができると解するのが相当である。
ロ 通則法第23条第1項第1号の趣旨及び上記イの区分の誤りについて同項が適用される場合
 通則法第23条第1項第1号は、納付すべき税額が過大となる場合に更正の請求が認められる事由を「当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」の2つの事由に限定して規定しており、ここでいう「国税に関する法律の規定に従っていなかったこと」とは、国税に関する法律の解釈適用についての誤りがあった場合であり、「当該計算に誤りがあったこと」とは、法律の解釈適用は正しくされているがその計算過程に誤りがあった場合であると解されるので、申告当時において上記のいずれかの誤りが生じていたことによって、納付すべき税額が過大となる場合に同項の適用が認められると解するのが相当である。
 そして、個別対応方式が適用される場合に、上記イの各用途区分に誤りがあったとして、通則法第23条第1項第1号が適用される場合とは、消費税法第30条第2項第1号に規定する各用途区分に区分する方法について、申告当時に納税義務者が採用した区分の方法に合理性がなく、合理性のない区分の方法を採ることによって、納付すべき消費税等の税額が過大となる場合をいい、他の合理的な方法を採っていた場合と比較して単に納付すべき消費税等の税額が過大となる場合をいうものではないと解するのが相当である。

(2) 結論

イ 課税売上対応分
 請求人は、本件医薬品課税仕入れの課税売上対応分の金額について、前記1の(4)のニの(ロ)のとおり、本件課税期間の末日に、G店においては個別仕入単価集計方式により、H店においては原価率方式により、それぞれ算出したところ、上記(1)のイによれば、これらの方法は、いずれも本件医薬品課税仕入れについて、その課税売上対応分を個別に把握可能な課税売上げに係る医薬品名及び数量又は金額を基準として、売上実績に基づいて区分する方法であり、いずれも合理性があるものと認められる。
 なお、本件各調剤薬局ごとに個別仕入単価集計方式又は原価率方式という異なる計算方式を採用していたとしても、それぞれの計算方式に合理性がある以上、異なる計算方式を併用することをもって、本件各用途区分の合理性を否定する根拠とはならない。
ロ 非課税売上対応分
 請求人は、本件医薬品課税仕入れの非課税売上対応分の金額について、前記1の(4)のニの(ロ)のとおり、本件医薬品課税仕入れの総額から課税売上対応分の金額を控除して算出したところ、この方法は、非課税売上げに係る売上実績を基準として区分する方法ではないものの、前記1の(4)のハのとおり、本件各調剤薬局の医薬品のように課税売上対応分と非課税売上対応分のみに区分される場合には、上記イのとおり合理的に算出した課税売上対応分の金額を基に、確定した金額である本件医薬品課税仕入れの総額を課税売上対応分と非課税売上対応分とに区分したものであり、合理性があるものと認められる。
ハ まとめ
 上記(1)のロによれば、個別対応方式が適用される場合において各用途区分に区分する方法に誤りがあったとして、通則法第23条第1項第1号が適用される場合とは、消費税法第30条第2項第1号に規定する各用途区分に区分する方法について、申告当時に納税義務者が採用した区分の方法に合理性がなく、合理性のない区分の方法を採ることによって、納付すべき消費税等の税額が過大となる場合をいうのであるから、上記イ及びロのとおり、本件各用途区分は、いずれも合理性があるものと認められる以上、国税に関する法律の解釈適用についての誤りがあった場合には該当せず、また、当審判所が請求人の納付すべき消費税等の税額を算出したところ、当該税額は、別表1の「異議決定」欄の「合計税額」欄と同額となるので、その計算過程に誤りがあった場合にも該当しない。
 したがって、請求人が本件各用途区分に基づき控除対象仕入税額を算出したことについて、申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定(本件の場合は、消費税法第30条第2項第1号の規定)に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、納付すべき税額が過大となる場合に更正の請求を認めるとする通則法第23条第1項第1号の規定の適用はなく、請求人の主張には理由がない。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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