(平成23年1月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、会社員である審査請求人(以下「請求人」という。)が、勤務の傍ら個人的に行った取引に係る事業所得があるとして、所得税の期限後申告書を提出したところ、原処分庁が、国税通則法第68条《重加算税》第2項に規定する隠ぺい又は仮装と同視し得る行為があったとして、重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、重加算税の賦課要件を満たさないとして、原処分のうち無申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人の審査請求(平成22年7月21日請求)に至る経緯は、別表のとおりである。

(3) 関係法令

 国税通則法(以下「通則法」という。)第68条第2項は、同法第66条《無申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額の100分の40の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、コンピュータ及びコンピュータ関連商品等の販売を業とするC社に勤務し、同社のD営業所長の地位にあった者である。C社のD営業所に勤務する従業員は請求人のみであり、請求人は、同社から、同営業所におけるすべての業務を一任されていた。
ロ 請求人は、C社のD営業所における週ごとの売上げに関する明細書を作成し、週に1回、本社あてに電子メールで送信していた(以下、この明細書を「本件請求書明細」という。)。
ハ 請求人は、D営業所の業績が良好であるにもかかわらず、C社から支払われる給与が減額されたことなどに不満を感じ、平成18年8月から平成21年9月までの間、本社が定めた同営業所の売上年間計画を達成するように業績を管理する一方で、請求人個人としてもコンピュータ関連商品を仕入れ、これをC社の取引先等に販売する取引を行って、事業所得を得ていた(以下、この取引を「本件個人取引」という。)。
ニ 請求人は、本件個人取引の大部分を、C社の取引先であり、コンピュータ及びコンピュータ関連商品の販売を業とするE社との間で行っていた。
ホ 請求人は、本件個人取引を行うに当たって、C社が使用する請求書とは別の、請求人個人名義の請求書を使用し、代金の振込先として、F銀行に開設した請求人名義の口座(以下「本件個人取引等管理口座」という。)を指定するなど、本件個人取引を、請求人個人の実名で行っていた。
 なお、請求人は、本件個人取引に係る仕入代金を、本件個人取引等管理口座から支払っていた。
ヘ 請求人は、E社との間で本件個人取引を行う都度、E社の従業員で同社側の窓口となっていたGに対し、取引金額のおおむね1%に相当する金額をリベートとして、同人名義の銀行口座に振り込んで支払っていた(以下、この振り込んだ金員を「本件リベート」という。)。
ト 請求人は、本件個人取引のすべてについて、本件個人取引に係る販売価格、仕入価格、本件リベートの金額、粗利及び粗利累計の額を記録した表(以下「本件粗利集計表」という。)をパソコンの表計算ソフトを用いて作成し、管理していた。
チ H税務署長は、平成21年9月、C社に対する法人税調査を行い、本件個人取引の存在を把握した。請求人は、H税務署長に対し、平成21年9月11日付で、本件個人取引は請求人が個人的に行ったもので、C社及びC社代表取締役とは無関係であること、並びに本件個人取引に係る事業所得については、請求人個人の所得として納税することを記載した「申述書」と題する書面を提出した。また、請求人は、C社の関与税理士に対し、平成21年10月5日付で、本件個人取引に係る事業所得を、請求人個人の所得として原処分庁に申告する準備をしていることを記載した「経過説明書」と題する書面を提出した。
リ 請求人は、平成18年分、平成19年分及び平成20年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、確定申告書を提出していなかったところ、原処分庁は、平成21年12月7日、請求人に対する所得税調査(以下「本件調査」という。)を実施した。
ヌ 請求人は、本件調査において、本件個人取引の事実を認め、本件粗利集計表を原処分庁に提示するとともに、平成22年1月18日、本件調査の結果に基づき、本件各年分の期限後申告書を原処分庁に提出した。

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2 争点

 請求人が、本件各年分の所得税の確定申告書を法定申告期限後に提出したことについて、通則法第68条第2項に規定する隠ぺい又は仮装行為があったか否か。

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3 主張

(1) 原処分庁

 納税者が、当初から所得を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づいて法定申告期限までに申告をしなかった場合には、重加算税の賦課要件である隠ぺい又は仮装行為に該当すると解すべきところ、請求人は、本件個人取引に係る事業所得を申告しなければならないことを十分認識していたにもかかわらず、C社等に本件個人取引が発覚することを懸念し、申告しないことを当初から確定的に意図し、申告しなかった。
 そして、請求人は、C社等に本件個人取引が露見しないようにするため、Gに対して本件リベートを支払ったこと、及び本件請求書明細に本件個人取引を記載せず、本社に報告していたことによって、C社等に本件個人取引及びこれに係る事業所得を秘匿しているから、これらの行為は、上記特段の行動に当たる。
 よって、本件は、重加算税の賦課要件を満たすから、原処分は適法である。

(2) 請求人

 請求人は、本件個人取引に係る事業所得を申告しなければならないという認識は持っていたが、長年サラリーマンであったことから、給与所得以外の所得があった場合の申告の方法が分からず、申告しないままになっていたものであり、その動機は、税のほ脱を意図したものではない。
 本件リベートは、本件個人取引を継続してもらいたいとの趣旨の下、Gに対して支払った謝礼、小遣いであり、本件個人取引を秘匿してもらうために支払ったものではなく、また、本件請求書明細は、C社のD営業所の売上げを本社に報告するためのものであり、C社の売上げと本件個人取引の売上げは別であるから、本件請求書明細に本件個人取引を記載しなかったのは当然である。
 請求人は、本件個人取引に係る事業所得を申告しないことを当初から確定的に意図していたわけではなく、上記の行為は、本件個人取引及びこれに係る事業所得を秘匿するためにした行為ではないから、所得を申告しないことの意図を外部からうかがい得る特段の行動には当たらない。また、ほかに隠ぺい又は仮装行為もない。
 よって、本件は、重加算税の賦課要件を満たさないから、原処分のうち、無申告加算税相当額を超える部分は違法である。

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4 判断

(1) 積極的な隠ぺい又は仮装行為の有無について

 通則法第68条第2項に規定する「事実を隠ぺいする」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実について、これを隠匿又は故意に脱漏することをいい、「事実を仮装する」とは、所得、財産又は取引上の名義等に関し、あたかもそれが事実であるかのように装う等、事実をわい曲することをいうものと解されるところ、請求人は、上記1の(4)のホ及びトのとおり、本件個人取引を実名で行い、請求人名義の本件個人取引等管理口座により売上代金及び仕入代金を決済し、また、本件個人取引に係る売上げ及び仕入れ等の明細を記録、保存しており、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な隠ぺい又は仮装行為があったとは認められない。

(2) 原処分庁の主張について

 原処分庁は、請求人が、申告しないことを当初から確定的に意図し、Gに対して本件リベートを支払ったこと、及び本件請求書明細に本件個人取引を記載せずに本社に報告していたことは、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たるから、本件は、重加算税の賦課要件を満たすと主張するので、以下、この点について検討する。
イ 本件リベートについて
 請求人は、当審判所に対し、本件個人取引がC社に発覚しなければそれに越したことはないと考えていたものの、同社には個人取引を禁止する就業規則はないから、それ以上積極的に、Gに対して本件個人取引をC社に伝えないよう口止めした事実はなく、本件リベートは、E社の複数ある取引先から自分を選んでもらいたいという趣旨で支払った謝礼である旨答述している。この点、Gも、請求人から本件リベートの趣旨を聞いたことはないが、謝礼又は小遣いであると認識していた旨、また、請求人から口止めされたことはなく、E社のほかの従業員も本件個人取引の存在を認識していた旨、請求人の答述に沿う答述をしており、両名の答述は信用することができる。
 以上によれば、本件リベートは、E社の複数の取引先の中から請求人を選んでもらう趣旨で支払われた謝礼であったと認められ、本件個人取引を秘匿することを意図して支払われた口止め料であったとはいえない。
ロ 本件請求書明細について
 本件請求書明細は、C社のD営業所の売上げを本社に報告するためのものであるところ、本件個人取引は、上記1の(4)のハ及びホのとおり、仕入れも販売も、請求人が、C社とは無関係に個人で行った取引であって、その売上げは、C社のD営業所の売上げではないから、請求人が主張するとおり、本件個人取引の売上げを本件請求書明細に記載しないことは当然である。

(3) 以上によれば、Gに対して本件リベートを支払ったこと及び本件請求書明細に本件個人取引を記載せずにC社の本社に報告したことが、上記特段の行動に該当し、本件で重加算税の賦課要件を満たすとの原処分庁の主張は採用することができず、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、ほかに請求人が本件個人取引及びこれに係る事業所得を隠ぺい又は仮装したと評価すべき事実は認められない。
 したがって、請求人には、通則法第68条第2項に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装行為があったとは認められないから、重加算税の賦課要件を満たさない。

(4) 以上によれば、本件は、重加算税を賦課することは相当でないと認められるところ、本件各年分の期限後申告書の提出は、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合に該当しないので、無申告加算税の賦課要件は満たしていることとなるから、本件における重加算税の各賦課決定処分は、別紙1ないし別紙3「取消額等計算書」のとおり、無申告加算税相当額を超える部分の金額につきそれぞれ取り消すのが相当である。

(5) 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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