(平成23年4月18日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、給与所得者である審査請求人(以下「請求人」という。)が、離婚後、元妻と同居している長男について、扶養控除を適用して確定申告をしたのに対し、原処分庁が、平成18年分については、請求人は長男と生計を一にしているとは認められないとして、また、平成19年分及び平成20年分については、元妻が、請求人に先立って長男を扶養親族とする扶養控除等申告書を勤務先に提出しており、いずれの年分も扶養控除の適用はないとして所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったことから、請求人が、当該各処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成22年7月23日)に至る経緯は別表のとおりである(以下、平成18年分、平成19年分及び平成20年分を「本件各年分」といい、本件各年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をそれぞれ「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」という。)。

(3) 関係法令の要旨

イ 所得税法(平成20年法律第85号による改正前のもの。以下同じ。)第2条《定義》第1項第34号は、扶養親族とは、居住者の親族等でその居住者と生計を一にするもののうち、合計所得金額が38万円以下である者をいう旨規定している。
ロ 所得税法第84条《扶養控除》第1項は、居住者が扶養親族を有する場合には、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額(以下「総所得金額等」という。)からその扶養親族一人につき38万円を控除する旨規定し、同条第2項は、二以上の居住者の扶養親族に該当する者がある場合には、その者は、政令で定めるところにより、これらの居住者のうちいずれか一の居住者の扶養親族にのみ該当するものとみなす旨規定している。
ハ 所得税法第85条《扶養親族等の判定の時期等》第3項は、同法第84条の場合において、その者が居住者の扶養親族に該当するかどうかの判定は、その年12月31日の現況による旨規定している。
ニ 所得税法施行令(平成22年政令第50号による改正前のもの。以下「施行令」という。)第219条《二以上の居住者がある場合の扶養親族の所属》第1項は、所得税法第84条第2項の場合において、同項に規定する二以上の居住者の扶養親族に該当する者をいずれの居住者の扶養親族とするかは、これらの居住者の提出するその年分の施行令第218条《二以上の居住者がある場合の控除対象配偶者の所属》第1項に規定する申告書等(確定申告書又は給与所得者の扶養控除等申告書等をいい、以下「基準申告書等」という。)に記載されたところによる旨規定している。
 また、施行令第219条第2項は、同条第1項の場合において、二以上の居住者が同一人をそれぞれ自己の扶養親族として基準申告書等に記載したとき、その他同項の規定によりいずれの居住者の扶養親族とするかを定められないときは、次に定めるところによる旨規定している。
(イ) その年において既に一の居住者が基準申告書等の記載によりその扶養親族としている場合には、その親族はその居住者の扶養親族とする。(第1号)
(ロ) 第1号の規定によってもいずれの居住者の扶養親族とするかが定められない扶養親族は、居住者のうち総所得金額等の合計額又はその親族がいずれの居住者の扶養親族とするかを判定すべき時におけるその合計額の見積額が最も大きい居住者の扶養親族とする。(第2号)

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 請求人と請求人の元妻(以下「元妻」という。)は、いずれもC社(以下「本件勤務先」という。)に勤務する給与所得者である。
ロ 請求人と元妻は、平成5年6月○日婚姻し、請求人と元妻の間には平成○年○月○日生まれの長男がいる。
ハ 請求人と元妻とは、平成14年7月に別居し、以後、長男は元妻と同居している。
ニ 平成18年3月○日、請求人と元妻との間の離婚等の裁判が確定した。
 上記裁判により、長男の親権者は元妻と定められ、請求人は、元妻に対し、長男の養育費(以下「本件養育費」という。)として、長男が20歳に達するまで1か月6万円を支払うこととされた。
ホ 元妻は、平成18年4月21日、長男を扶養親族とする旨の平成18年分の扶養控除等申告書を本件勤務先に提出した。なお、元妻は、同申告書を提出する前は、扶養親族を「無」とする平成18年分の扶養控除等申告書を平成17年11月18日に本件勤務先へ提出していた。
ヘ 本件勤務先は、元妻が上記ホの扶養控除等申告書を提出したことを受けて、請求人に対し、長男を扶養親族としない旨の扶養控除等申告書の提出を求めた。しかし、請求人がこれに応じなかったため、本件勤務先は、平成18年4月以降に支払った給与等について、請求人及び元妻の双方に長男に対する扶養控除を適用して源泉徴収をするとともに、年末調整を行った。
 なお、請求人は長男を扶養親族とする旨の平成18年分の扶養控除等申告書を平成17年12月2日に本件勤務先へ提出していた。
ト 請求人及び元妻は、長男をそれぞれの扶養親族であるとする平成19年分の扶養控除等申告書を、元妻は平成18年11月15日、請求人は同年12月1日に本件勤務先へ提出したことから、本件勤務先は、請求人及び元妻の双方について、長男を扶養親族として扶養控除を適用し、平成19年分の給与等について源泉徴収をするとともに、年末調整を行った。
チ 請求人は、元妻から本件養育費の支払の請求を受け、元妻に対し本件養育費等を、次表のとおり支払った。

年月日 金額 摘要
平成19年4月2日 1,429,416円 平成18年1月分ないし平成19年3月分
(慰謝料及び遅延損害金529,416円を含む)
平成19年5月24日 120,000円 平成19年4月分及び同年5月分
平成19年8月1日 120,000円 平成19年6月分及び同年7月分
平成19年10月22日 120,000円 平成19年8月分及び同年9月分
平成19年11月26日 60,000円 平成19年10月分
平成20年1月23日 120,000円 平成19年11月分及び同年12月分
平成20年5月8日 240,000円 平成20年1月分ないし同年4月分
平成20年7月29日 180,000円 平成20年5月分ないし同年7月分
平成20年10月27日 180,000円 平成20年8月分ないし同年10月分

リ 請求人及び元妻は、長男をそれぞれの扶養親族であるとする平成20年分の扶養控除等申告書を、元妻は平成19年11月15日、請求人は同月30日に本件勤務先へ提出したことから、本件勤務先は、請求人及び元妻の双方について、長男に対する扶養控除を適用して平成20年分の給与等について源泉徴収をした。
ヌ 平成18年4月21日に、元妻が長男を扶養親族とする旨の平成18年分の扶養控除等申告書を本件勤務先へ提出した後、上記へのとおり、請求人は、長男を扶養親族としない旨の扶養控除等申告書の提出に応じなかったため、本件勤務先は、請求人及び元妻に対し、再三にわたり、長男をどちらか一方の扶養親族として決定するよう要請したが、お互いに自己の扶養親族であると主張して、これに応じなかった。
ル 本件勤務先は、扶養控除の重複適用を解消するため、平成20年12月頃、請求人及び元妻に対し、長男を双方の扶養親族からはずす旨通知した上、双方ともに長男に対する扶養控除を適用せずに、平成18年分及び平成19年分の年末調整の再調整並びに平成20年分の年末調整を行った。
ヲ 請求人は、上記ルの本件勤務先の処理を受け、平成21年3月6日に本件各年分について、いずれも長男を扶養親族として扶養控除を適用した確定申告書を提出した。

(5) 争点

 請求人の本件各年分の所得税の計算上、長男を扶養親族として扶養控除の適用があるか否か。
イ 平成18年分(長男は、請求人と生計を一にしていたか。)
ロ 平成19年分及び平成20年分(施行令第219条第2項第1号が適用されるか。)

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2 主張

(1) 原処分庁

イ 平成18年分(長男は、請求人と生計を一にしていたか。)について
 扶養親族の判定の時期(平成18年12月31日)の現況によれば、請求人と長男とは同居しておらず、かつ、請求人が長男に係る本件養育費を送金した事実も認められない。したがって、長男は、請求人と生計を一にしていたとは認められないことから、請求人の扶養親族に該当せず、扶養控除は適用されない。
ロ 平成19年分及び平成20年分(施行令第219条第2項第1号が適用されるか。)について
 請求人の元妻は、請求人よりも先に基準申告書等を本件勤務先に提出しているから、施行令第219条第2項第1号の規定により、長男は元妻の扶養親族に該当することとなる。したがって、請求人の所得税の計算において、長男を扶養親族とする扶養控除の適用は認められない。

(2) 請求人

イ 平成18年分(長男は、請求人と生計を一にしていたか。)について
 請求人は、扶養親族の判定の時期(平成18年12月31日)には、○○裁判所の判決(平成18年3月○日)により、長男に係る本件養育費の支払債務を負うことが確定していた。
 したがって、扶養親族の判定の時期までに、本件養育費を送金していなくとも、長男は、請求人と生計を一にしていたといえるから、請求人の扶養親族に該当し、扶養控除が適用される。
ロ 平成19年分及び平成20年分(施行令第219条第2項第1号が適用されるか。)について
 施行令第219条第2項第1号は、居住者同士に意思の連絡がある場合を前提にした規定である。請求人と元妻は離婚し、相互に意思の連絡がないから、同号は適用されず、同項第2号を適用すべきである。したがって、長男は、総所得金額等が多い請求人の扶養親族に該当し、請求人の所得税の計算において扶養控除が適用されるべきである。

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3 判断

(1) 平成18年分(長男は、請求人と生計を一にしていたか。)について

イ 法令解釈
 所得税法第2条第1項第34号に規定する「生計を一にするもの」の意義について、所得税基本通達2−47《生計を一にするの意義》は、勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等(以下「生活費等」という。)の送金が行われている場合には、これらの親族は生計を一にするものとする旨定めている。
 この、「生計を一にするもの」とは、必ずしも同居していることを要するものでなく、一般に親族が同一の生活共同体に属して日常生活の資を共通にしていることをいうものと解され、当審判所においても、当該通達の取扱いは相当であると認められる。
ロ あてはめ
 これを本件についてみると、上記1の(4)のハのとおり、請求人は、扶養親族の判定時期である平成18年12月31日において長男と同居しておらず、また、上記1の(4)のニのとおり、本件養育費について1か月につき6万円を支払う義務が確定したが、上記1の(4)のチのとおり、請求人が平成18年1月分ないし同年12月分の本件養育費を支払ったのは平成19年4月2日(なお、支払は平成18年1月分ないし平成19年3月分まで一括払いである。)であり、平成18年中に本件養育費の送金は行われていない。
 したがって、長男は、請求人と「生計を一にするもの」には該当せず、請求人は、長男を扶養親族として扶養控除を適用することはできない。
ハ 請求人は、裁判により本件養育費の債務を負うことが確定していることから、扶養親族の判定の時期までに送金がなくても「生計を一にするもの」に該当すると主張するが、「生計を一にするもの」とは、上記イのとおり、常に生活費等の送金が行われている場合のように、日常生活の資を共通にしているものをいうと解すべきところ、請求人が本件養育費を送金していない以上、長男が請求人と日常生活の資を共通にしているとはいえないから、請求人の主張には理由がない。

(2) 平成19年分及び平成20年分(施行令第219条第2項第1号が適用されるか。)について

イ 法令解釈
 扶養控除は、所得のうち扶養親族の最低限度の生活を維持するのに必要な部分は担税力を持たないと考えられることから、自己と生計を一にする扶養親族を有する納税者に対して扶養親族の人数に応じた所得控除を認めたものであると解される。
 そして、このような趣旨からすると、二以上の居住者の扶養親族に該当する者がある場合に、重複して扶養控除を認める理由はないことから、所得税法第84条第2項、施行令第219条により、いずれか一の居住者の扶養親族に該当するものとみなすこととされている。
 施行令第219条第1項は、二以上の居住者の扶養親族に該当する者があるときは、その所属は原則として居住者の自由な選択にゆだね、基準申告書等に一方の居住者の扶養親族に所属させる旨の記載があればそれによることとしており、同項によっていずれの居住者の扶養親族であるか定まらない場合には同条第2項第1号により、また、同号によっても定まらない場合には同項第2号により、いずれの居住者の扶養親族であるかを決することとしている。
ロ あてはめ
 これを本件についてみると、請求人は、上記1の(4)のチのとおり、平成19年中及び平成20年中において本件養育費を送金しており、また、元妻は、上記1の(4)のハのとおり、長男と同居してこれを養育していることから、長男は、請求人及び元妻の双方と「生計を一にするもの」に該当するということができる。
 そして、請求人及び元妻は、上記1の(4)のト及びリのとおり、本件勤務先に対し、いずれも長男を扶養親族とする旨の平成19年分及び平成20年分の扶養控除等申告書を提出していることから、長男が、請求人又は元妻のいずれの扶養親族であるかは、施行令第219条第2項第1号により決せられることになる。
 そうすると、上記1の(4)のト及びリのとおり、平成19年分及び平成20年分とも、元妻が、請求人より先に、本件勤務先に対し、長男を扶養親族とする旨の扶養控除等申告書を提出しているから、長男は元妻の扶養親族に該当する。
 したがって、請求人の平成19年分及び平成20年分の所得税の計算上、長男を扶養親族とする扶養控除の適用はない。
ハ 請求人の主張について
 請求人は、上記2の(2)のロのとおり主張するが、施行令第219条第2項第1号には、居住者同士に意思の連絡がある場合に適用する旨の規定は存在しないから、同号は、同条第1項によりいずれの居住者の扶養親族であるか定められないすべての場合に適用されると解するのが相当であり、二以上の居住者の間に意思の疎通があるか否かによって適用が左右されるものではない。
 そして、同項第2号の規定は、同項第1号の規定によってもいずれの居住者の扶養親族であるか定められないことが前提要件であるところ、本件では、上記ロのとおり、同項第1号により、長男は元妻の扶養親族に該当することとなるから、同項第2号が適用される余地はない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(3) 本件各更正処分について

 上記(1)及び(2)のとおり、長男は請求人の扶養親族には該当せず本件各年分について扶養控除の適用がないところ、本件各年分の所得税の納付すべき税額を計算すると、本件各更正処分の額と同額となるので、本件各更正処分はいずれも適法である。

(4) 本件各賦課決定処分について

 本件各更正処分は上記(3)のとおりいずれも適法であり、これにより納付すべき税額の基礎となった事実が、本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由が認められない。

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