(平成23年5月30日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の法人税について、原処分庁が、請求人に寄附された土地の価額は、当該寄附のあった事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入されるとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該土地は、定款変更の方法により社団である医療法人で持分の定めのあるものから持分の定めのないものに組織変更した際に贈与を受けたもので、医療法人の設立について贈与を受けたものであるから、法人税法施行令第136条の4第1項の規定により、当該土地の価額は益金の額に算入されないとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成20年4月1日から平成21年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、審査請求(平成22年6月9日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。
 なお、以下、平成22年2月26日付でされた本件事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を、それぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。

(3) 関係法令

イ 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第2項は、別段の定めがあるものを除き、無償による資産の譲受けに係る収益の額は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入する旨規定している。
ロ 法人税法第65条《各事業年度の所得の金額の計算の細目》は、同法第22条から第64条の4までに定めるもののほか、各事業年度の所得の金額の計算に関し必要な事項は、政令で定める旨規定し、同法施行令第136条の4第1項は、医療法人がその設立について贈与を受けた資産の価額は、その医療法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しない旨規定している。
ハ 医療法施行規則第30条の39《持分の定めのある医療法人から持分の定めのない医療法人への移行》第1項は、社団である医療法人で持分の定めのあるものは、定款を変更して、社団である医療法人で持分の定めのないものに移行することができる旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 請求人の概要
(イ) 請求人は、昭和30年6月○日に設立され、a市b町○−○に主たる事務所を置く、病院及び介護老人保健施設等を経営し、医療を普及することを目的とする社団である医療法人である。
(ロ) 請求人の理事長には、平成19年4月1日からH(平成22年5月28日退任)が、平成22年6月1日からFが就任している。
(ハ) 請求人は、医療法第42条の2第1項に規定する社会医療法人の認定は受けておらず、また、法人税法上、内国法人である普通法人に該当する。
ロ 請求人が土地の寄附を受けるまでの経緯等
(イ) H並びに請求人の理事であったJ及びKは、平成21年1月3日、請求人に対し、「土地の寄贈申し出書」を提出し、別表2の各土地(以下「本件各土地」という。)の寄附を申し出た(以下、当該申出を「本件申出」という。)。
 なお、別表2の順号1から9までの各土地(以下「本件A土地」という。)は別表3の順号1の建物の敷地として、別表2の順号10の土地(以下「本件B土地」という。)は別表3の順号2の建物の敷地として、別表2の順号11から13までの各土地(以下「本件C土地」という。)は駐車場として、別表2の順号14の土地(以下「本件D土地」という。)は別表3の順号3の建物の敷地として、別表2の「所有者又は共有者」欄に記載した者から請求人に賃貸されていた。
(ロ) 請求人は、平成21年1月3日、臨時社員総会において、社団である医療法人で持分の定めのあるものから持分の定めのないものへ移行することについて、医療法施行規則第30条の39第1項の規定に基づき、定款を変更する決議を行った。
(ハ) 請求人は、平成21年1月5日、N県知事に対し、定款変更の認可申請を行い、N県知事は、○月○日、当該申請を認可し、請求人の組織は、社団である医療法人で持分の定めのないものとなった。
(ニ) 請求人は、平成21年1月24日、臨時社員総会において、本件申出を受け入れることを決議し、同月25日、臨時評議員会において、同様の決議をした。
(ホ) 請求人は、本件申出を受けて、P不動産鑑定事務所に本件各土地の鑑定評価を依頼していたところ、同社のP不動産鑑定士(以下「P鑑定士」という。)は、平成21年3月1日時点の本件各土地の価額を168,937,000円(別表4の「鑑定評価額(正常価格)」欄の「合計」欄の金額)と評価する同月9日付の鑑定評価書(以下「本件鑑定評価書」という。)を作成し、これを請求人に提出した。
(ヘ) 請求人は、平成21年3月27日、本件各土地について、同日寄附を原因として所有権移転登記を経由した。
ハ 本件事業年度の法人税の確定申告及び本件更正処分
(イ) 請求人は、平成21年3月31日、本件各土地の受贈について、本件各土地の価額168,937,000円(上記ロの(ホ)の価額)を土地勘定の借方及び資本準備金勘定の貸方にそれぞれ計上する経理処理を行い、本件事業年度の法人税の確定申告に当たり、本件各土地の価額168,937,000円を益金の額に算入しなかった。
(ロ) これに対し、原処分庁は、原処分に係る調査を行い、請求人が寄附により本件各土地を受け入れたことは、無償による資産の譲受けに該当するとして、本件各土地に係る受贈益の額(本件各土地の価額)を168,937,000円と認定した上で、これを益金の額に算入して本件更正処分を行った。

(5) 争点

 定款を変更して組織変更した請求人が寄附を受けた本件各土地の価額は、法人税法施行令第136条の4第1項に規定する「医療法人がその設立について贈与を受けた資産の価額」に該当するか否か。

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2 主張

原処分庁 請求人
 定款を変更して組織変更した請求人が寄附を受けた本件各土地の価額は、以下の理由により、法人税法施行令第136条の4第1項に規定する「医療法人がその設立について贈与を受けた資産の価額」に該当しない。
(1) 請求人は、定款変更の方法により、社団である医療法人で持分の定めのあるものから持分の定めのないものへ組織変更しているところ、実際に法人の解散、設立という手続を行っていないし、また、当該組織変更前後の請求人の事業内容から見ても、従前の法人格が継続しているものと認められる。
(2) 法人税法上、定款変更の方法により社団である医療法人で持分の定めのあるものから持分の定めのないものへ組織変更した場合、持分の定めのある医療法人が清算され、持分の定めのない医療法人が新たに設立されたとみなす規定はない。
(3) このように、請求人がした組織変更により新たに医療法人が設立されたとはいえないから、請求人が寄附を受けた本件各土地の価額は、医療法人がその設立について贈与を受けた資産の価額には該当しない。
 定款を変更して組織変更した請求人が寄附を受けた本件各土地の価額は、以下の理由により、法人税法施行令第136条の4第1項に規定する「医療法人がその設立について贈与を受けた資産の価額」に該当する。
(1) 大蔵省(現財務省)、国税庁及び厚生省(現厚生労働省)との間で交わされた昭和39年12月28日付の「租税特別措置法第67条の2の適用を受けるための社団法人たる医療法人の組織変更について」と題する覚書(以下「三者覚書」という。)には、「租税特別措置法第67条の2の適用を受けるためには、既設の出資持分の定めのある社団たる医療法人は、その組織を変更しなければならない。その組織変更については、既往出資持分の定めのある社団たる医療法人について清算の手続をなすべきものであるが、その変更後の医療法人が租税特別措置法第40条及び第67条の2の承認を受ける各要件に該当しているものに限り、定款の変更によることを認める。」旨記載されている。
 この記載内容からすれば、請求人が定款を変更して組織変更し、社団である医療法人で持分の定めのあるものから持分の定めのないものになったことは、事実上、持分の定めのある医療法人が清算され、持分の定めのない医療法人として請求人が設立されたものといえる。
(2) 上記(1)のとおり、請求人は、組織変更により、事実上、新たな医療法人として設立されたといえるから、請求人が寄附を受けた本件各土地の価額は、医療法人がその設立について贈与を受けた資産の価額に該当する。

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3 判断

(1) 争点について

イ 法令解釈
 上記1の(3)のロのとおり、法人税法施行令第136条の4第1項は、医療法人がその設立について贈与を受けた資産の価額は、その医療法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しない旨規定しているところ、これは、従来、社団である医療法人で持分の定めのないものがその設立について贈与を受けた金銭の額又は金銭以外の資産の価額は資本金等の額とされ(平成20年政令第156号により廃止される前の法人税法施行令第8条第1項第14号)、当該贈与は資本等取引に当たるとして、当該贈与を受けた資産の価額は所得の金額の計算上益金の額に算入しないこととされていたものを、平成18年法律第84号により医療法が改正され、平成19年4月1日以降、新設医療法人については、社団である医療法人で持分の定めのあるものの設立が認められなくなったことを踏まえ、平成20年政令第156号により、法人税法施行令第136条の4第1項の規定を新設し、同項に規定する贈与を受けた資産の価額について益金の額に算入しないという取扱いを明確化するとともに、従来、資本金等の額を構成するとしていた同項に規定する贈与を受けた資産の価額について、同令第9条《利益積立金額》第1項第1号ヘの規定を新設し、これを利益積立金額とする取扱いにしたものである。
 このように、法人税法施行令第136条の4第1項が、平成19年4月1日以降、社団である医療法人で持分の定めのあるものの設立ができなくなったことを前提として新設されたものであり、また、同項が「医療法人がその設立について」と規定していることからすれば、同項は、医療法人(社団である医療法人については、持分の定めのない医療法人)の新設に際し贈与を受けた場合の課税関係について定めた規定であると解される。
ロ 判断
(イ) 上記1の(4)のロの(ロ)及び(ハ)のとおり、請求人は、社団である医療法人で持分の定めのあるものから持分の定めのないものへの組織変更に際し、請求人を解散して、新たに社団である医療法人で持分の定めのないものを設立するという方法をとらず、医療法施行規則第30条の39第1項の規定に基づき、定款変更の方法により、社団である医療法人で持分の定めのあるものから持分の定めのないものへ移行したことが認められる。
 ところで、本来、社団である医療法人で持分の定めのあるものから持分の定めのないものへ組織変更するに当たって、解散、設立という手続をとる場合には、持分の定めのある医療法人を解散して清算手続に入り、債権債務の清算、各出資者に対する残余財産の引渡しなどを経て清算結了し、新たに社団である医療法人で持分の定めのないものを設立することが必要となるところ、このような手続を経た場合には、従前の医療法人の法人格は消失し、新たな医療法人の設立とともに別の法人格を取得することになる。
 しかし、医療法施行規則第30条の39第1項の規定に基づき、定款変更により、社団である医療法人で持分の定めのあるものから持分の定めのないものに組織変更した場合には、従前の医療法人の解散、清算に係る上記各手続を経た上で新たな医療法人を設立するものではないから、組織変更の前後を通じて法人格は同一であり、また、上記各手続の際に発生する課税面の問題も発生しないのであるから、定款変更により組織変更がされたとしても、社団である医療法人で持分の定めのないものが新設されたということはできない。
 以上からすれば、請求人がした定款変更による組織変更により、社団である医療法人で持分の定めのあった医療法人が解散し、持分の定めのない医療法人が新設されたものとはいえないから、請求人が寄附を受けた本件各土地の価額は、法人税法施行令第136条の4第1項に規定する「医療法人がその設立について贈与を受けた資産の価額」に該当しない。
(ロ) これに対し、請求人は、上記2の「請求人」欄のとおり、定款変更による組織変更は、事実上、社団である医療法人で持分の定めのあるものが解散され、持分の定めのないものが設立されたといえるから、請求人が寄附を受けた本件各土地の価額は、法人税法施行令第136条の4第1項に規定する「医療法人がその設立について贈与を受けた資産の価額」に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、法人税法施行令第136条の4第1項の規定は、社団である医療法人については、持分の定めのない医療法人の新設に際し贈与を受けた場合の課税関係について定めた規定であると解されるところ、請求人がした定款変更による組織変更により、社団である医療法人で持分の定めのないものが新設されたものといえないことは、上記(イ)で述べたとおりである。
 なお、請求人は、三者覚書の記載内容をその主張の根拠としているので、この点について、以下検討する。
 三者覚書は、その前段において、「租税特別措置法第67条の2の適用を受けるためには、既設の出資持分の定めのある社団たる医療法人は、その組織を変更しなければならないが、その組織変更については、次によることとする。」と記載され、組織変更の方法について、「組織の変更については、既往出資持分の定めのある社団たる医療法人について清算の手続きをなすべきものであるが、その変更後の医療法人が租税特別措置法第40条及び第67条の2の承認を受ける各要件に該当しているものに限り、定款の変更の方法によることを認める。」と記載されているところ、三者覚書が、租税特別措置法第67条の2の規定を適用する際の組織変更に関する覚書であり、持分の定めのある医療法人から持分の定めのない医療法人への組織変更は、本来、既設の医療法人の清算手続をなすことが必要となると明言した上で、組織変更後の医療法人が上記各要件に該当する場合に限って定款変更による組織変更を容認していることからすれば、三者覚書は、旧大蔵省、国税庁及び旧厚生省が、租税特別措置法第67条の2の規定の適用上、便宜的に、清算、設立という手続によらず、定款変更による組織変更を認めるという取扱いを定めたものと認めるのが相当であり、定款変更による組織変更がされた場合は、社団である医療法人で持分の定めのあるものが清算され、社団である医療法人で持分の定めのないものが新設されたということはできないから、三者覚書は、請求人の主張の根拠となるものとはいえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 本件更正処分について

イ 本件各土地の価額
 上記1の(4)のハの(ロ)のとおり、原処分庁は、本件更正処分に当たり、本件各土地の価額を168,937,000円と認定し、当該価額を寄附に係る受贈益の額として益金の額に算入しているので、当該価額の妥当性について、以下検討する。
(イ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
A 本件A土地、本件B土地及び本件D土地に係る賃貸借契約
 請求人は、上記1の(4)のロの(イ)のとおり、本件各土地の寄附を受けるまで、H、J及びKから本件各土地を賃借していたところ、本件A土地、本件B土地及び本件D土地に係る賃貸借契約等の状況は、以下のとおりである。
(A) 請求人とJとの間で作成された平成13年4月1日付の土地賃貸借契約書によれば、請求人は、本件A土地のうち別表2の順号3から9までの各土地及びa市b町○−○の土地(本件各土地とは別の土地)を別表3の順号1の建物の敷地として、本件B土地を別表3の順号2の建物の敷地として、本件D土地を別表3の順号3の建物の敷地として、月額賃借料334,500円でJから賃借したことが認められる。
 なお、別表3の順号1の建物は平成6年3月15日に、別表3の順号2の建物は昭和55年10月2日に、別表3の順号3の建物は平成9年4月2日に、いずれも請求人を権利者として所有権保存登記が経由されている。
(B) 請求人とHとの間で作成された平成13年4月1日付の土地賃貸借契約書によれば、請求人は、本件A土地のうち別表2の順号1及び2の各土地を別表3の順号1の建物の敷地として、本件D土地を別表3の順号3の建物の敷地として、月額賃借料144,000円でHから賃借したことが認められる。
(C) 請求人とKとの間で作成された平成13年4月1日付の土地賃貸借契約書によれば、請求人は、本件D土地を別表3の順号3の建物の敷地として、月額賃借料44,300円でKから賃借したことが認められる。
B 本件鑑定評価書
 P鑑定士は、本件鑑定評価書において、以下のとおり本件各土地の価額を算定したことが認められる。
(A) P鑑定士は、別表4の「地目(種別)」欄のとおり、本件鑑定評価書において、本件A土地、本件B土地及び本件D土地をいずれも建付地として評価し、本件C土地を更地として評価した。
(B) P鑑定士は、本件各土地の更地価額を算定するに当たり、標準画地比準方式を採用し、本件各土地の近隣地域(評価対象地の存する地域で、ある特定の用途に供されることを中心としてまとまりを示している地域。以下同じ。)に標準画地(間口約15メートル、奥行約20メートル、面積約300平方メートルの長方形の画地で、以下「本件標準画地」という。)を想定し、実際の取引事例の価額、地価公示標準地等の価格などから本件標準画地の価格を求め、本件標準画地と本件各土地との個別的要因を比較して、本件各土地の価額を算定する方法を採用した。
(C) そして、P鑑定士は、本件標準画地について、まる1取引事例比較法による比準価格、まる2収益還元法による収益価格、まる3N県基準地の標準価格を基にした規準価格を算定し、具体的には、別表5の「(1)取引事例比較法による1平方メートル当たりの比準価格」欄、「(2)収益還元法による1平方メートル当たりの収益価格」欄及び「(3)地価公示価格等を基準として算定した1平方メートル当たりの規準価格」欄のとおり、それぞれの価格を51,000円、22,800円及び49,000円と算定し、これらの比較を行った上で、別表5の「(4)本件標準画地の価格(更地価格)の決定」欄のとおり、本件標準画地の更地価格を15,000,000円(1平方メートル当たり50,000円)と算定した。
(D) P鑑定士は、上記(C)のとおり算定した1平方メートル当たりの本件標準画地の価格50,000円を基に、別表6のまる2欄のとおり、本件標準画地と本件各土地との個別的要因の格差を補正し、別表6のまる4欄のとおり、本件A土地、本件B土地及び本件D土地について、建付地であるとして建付減価の補正を行った上で、別表6のまる7欄のとおり、本件A土地、本件B土地、本件C土地及び本件D土地の価額を、それぞれ96,894,000円、11,127,000円、20,878,000円及び40,038,000円と算定した。
(ロ) 本件各土地の価額
A 本件標準画地の価額について
 上記(イ)のBの(B)及び(C)のとおり、P鑑定士は、本件各土地の価額を算定するに当たり、取引事例比較法、収益還元法及び地価公示価格等を基準とする方法により本件標準画地の価格を算定しているところ、取引事例比較法による比準価格、収益還元法による収益価格及び地価公示価格等を基にした規準価格はいずれも不動産鑑定士としての専門的知見に基づいて算定されたものであり、当審判所の調査によっても、その合理性を疑わせるような事情は認められないから、これらの価格を比較して算定された本件標準画地の価格(1平方メートル当たり50,000円)は合理的であり、当審判所においても相当と認められる。
B 本件各土地の更地価額について
 上記(イ)のBの(D)のとおり、P鑑定士は、本件標準画地の価格(1平方メートル当たり50,000円)を基に、本件標準画地と本件各土地との個別的要因を比較して算出した各格差率(別表6のまる2欄の格差率)による補正を行い、1平方メートル当たりの本件各土地の更地価格を算定しているところ、その補正はいずれも不動産鑑定士としての専門的知見に基づいて行われており、当審判所の調査によっても、その合理性を疑わせるような事情は認められないから、このように算定された1平方メートル当たりの本件各土地の更地価格(別表6のまる3欄の価格)は、当審判所においても相当と認められる。
C 本件A土地、本件B土地及び本件D土地の底地の価額について
 上記(イ)のBの(D)のとおり、P鑑定士は、本件A土地、本件B土地及び本件D土地について、建付地であるとして建付減価の補正を行っているところ、上記(イ)のAのとおり、請求人が、本件A土地、本件B土地及び本件D土地の所有者との間で、それぞれ建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約を締結し、これらに基づいて当該各土地上に建物を所有していることからすれば、当該各土地は借地権の付着した土地であると認められるから、当該各土地について、建付減価の補正をすることは妥当ではない。
 そこで、当審判所が本件各土地の価額を算定する。
 一般に、借地権の付着した土地(いわゆる底地)を評価するに当たって、借地権の価額が合理的に算定できる場合には、当該土地の更地価額及び付着している借地権の価額を算定し、その更地価額から合理的に算定した借地権の価額を控除した残額をもって底地の価額とすることは、底地の価額の算定方法として十分合理性が認められる。
 このような借地権の価額について、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56、直審(資)17の国税庁長官通達)27《借地権の評価》は、「借地権の価額は、その借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に、当該価額に対する借地権の売買実例価額、精通者意見価格、地代の額等を基として評定した借地権の価額の割合(以下「借地権割合」という。)がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める割合を乗じて計算した金額によって評価する。」と定めており、これを受けて、Q国税局長は、平成21年分の財産評価基準書において、借地権の取引慣行のある地域において上記各項目を基として評定した借地権割合を定め、本件各土地が存する地域の借地権割合を50%と定めている。
 上記通達の定めは普通借地権に係る相続税法上の時価に関する定めであるが、当審判所の調査によれば、借地権割合は、借地権の取引慣行のある地域について、不動産鑑定士(精通者)の意見を基に実際の売買事例や都市計画法上の用途地域にも配慮して、その割合や適用地域の範囲を定めたものと認められるから、このような手順を踏んで評定された借地権割合には十分合理性が認められる。
 したがって、本件A土地、本件B土地及び本件D土地の底地の価額を算定するに当たっては、当該各土地について、上記財産評価基準書で定めた借地権割合50%に相当する各借地権の価額を算定し、当該各土地の更地価額から各借地権の価額を控除した残額をもって、当該各土地の底地の価額とするのが相当である。
D 本件各土地の価額について
 以上を前提として、当審判所が本件各土地の価額を算定すると、別表7のとおり、本件A土地、本件B土地及び本件D土地の価額は、当該各土地の更地価額(別表7のまる3欄の各金額)から各借地権の価額(別表7のまる5欄の各金額)を控除して計算した金額で、それぞれ53,758,062円、6,182,000円及び22,243,500円(別表7のまる6欄の各金額)となり、本件C土地の価額は20,878,560円(別表7のまる6欄の金額)となる。
ロ 本件更正処分
 上記(1)のロの(イ)のとおり、請求人が寄附を受けた本件各土地の価額は、法人税法施行令第136条の4第1項に規定する「医療法人がその設立について贈与を受けた資産の価額」に該当せず、請求人が受けた寄附は、法人税法第22条第2項に規定する無償による資産の譲受けに該当するから、本件各土地の価額は本件事業年度の益金の額に算入されることになる。
 そして、上記イの(ロ)のDのとおり、本件各土地の価額は、本件A土地の価額53,758,062円、本件B土地の価額6,182,000円、本件C土地の価額20,878,560円及び本件D土地の価額22,243,500円を合計した金額103,062,122円となるから、これを前提に本件事業年度の所得金額を算定すると○○○○円となり、この金額は、本件更正処分のそれを下回るから、本件更正処分は、その一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(3) 本件賦課決定処分について

 上記(2)のロのとおり、本件更正処分はその一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の基礎となる税額は○○○○円となるところ、この税額の計算の基礎となった事実については、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があると認められる場合には該当しない。
 そして、国税通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づいて過少申告加算税の額を算定すると○○○○円となり、この金額は、本件賦課決定処分のそれを下回るから、本件賦課決定処分は、その一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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