(平成23年8月2日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、破産手続開始決定を受けたH社(以下「本件滞納法人」という。)の法人税並びに消費税及び地方消費税に係る還付金等を本件滞納法人の未納国税へ充当及び委託納付したところ、本件滞納法人の破産管財人である審査請求人(以下「請求人」という。)が、当該充当及び委託納付は破産法に定められた支払順位を覆す違法なものであるとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

イ 本件滞納法人の破産
 本件滞納法人は、○○を目的として平成○年○月○日に設立されたが、平成21年3月○日にL地方裁判所に対して破産手続開始の申立てを行い、同裁判所は、同年4月○日に破産手続開始の決定をし、破産管財人として弁護士Jを選任した。
ロ 未納国税の存在
 原処分庁は、本件滞納法人が納付すべきこととなっている別表1記載の未納国税について、国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、平成21年3月○日から平成22年9月15日まで順次、M税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
 なお、別表1記載の各未納国税は、不納付加算税を除いて破産法第148条《財団債権となる請求権》第1項第3号に規定する財団債権に該当する。
ハ 課税処分等の経緯と還付の引継ぎ
(イ) 課税処分等の経緯
A 消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について
 平成19年1月1日から平成19年12月31日まで、平成20年1月1日から平成20年12月31日まで、平成21年1月1日から平成21年4月○日まで及び平成21年4月○日から平成21年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成19年12月課税期間」、「平成20年12月課税期間」、「平成21年4月課税期間」及び「平成21年12月課税期間」という。)の消費税等の課税処分等の経緯については、別表2−1から2−4までに記載のとおりであり、平成19年12月課税期間及び平成20年12月課税期間の各消費税等については、M税務署長による納付すべき税額を減少させる更正処分(以下「減額更正処分」という。)により、それぞれ○○○○円及び○○○○円が減少することとなり、平成21年4月課税期間及び平成21年12月課税期間の各消費税等については、確定申告によりそれぞれ○○○○円及び○○○○円が還付すべき税額となった。
B 法人税について
 平成19年1月1日から平成19年12月31日まで及び平成20年1月1日から平成20年12月31日までの各事業年度(以下、順次「平成19年12月期」及び「平成20年12月期」という。)の法人税の課税処分等の経緯については、別表3−1及び3−2記載のとおりであり、M税務署長による減額更正処分により、平成19年12月期の法人税については○○○○円が、平成20年12月期の法人税については○○○○円がそれぞれ減少することとなった。
(ロ) 還付の引継ぎ(通則法第56条《還付》第2項)
A 平成19年12月課税期間の消費税等について
 M税務署長は、減額更正処分により発生した本税○○○○円とこれに対応する納付済延滞税○○○○円の還付金及び過誤納金(以下、還付金及び過誤納金を併せて「還付金等」という。)に還付加算金○○○○円を加算した合計○○○○円について、平成22年8月9日付で、未納消費税等の本税、延滞税及び無申告加算税への委託納付をしたが、そのうち延滞税○○○○円及び無申告加算税○○○○円に係る委託納付を同月27日付で取り消した。原処分庁は、この取消しに係る還付金等(別表4の順号6、7及び8)について、平成22年9月16日付でM税務署長から還付の引継ぎを受けた。
B 平成20年12月課税期間の消費税等について
 M税務署長は、減額更正処分により減少することとなった○○○○円のうち、まる1○○○○円については、既に原処分庁が徴収の引継ぎを受けていた別表1の順号2記載の未納本税を減額するための処理を行い、まる2残りの本税○○○○円とこれに対応する納付済延滞税○○○○円の還付金等に還付加算金○○○○円を加算した合計○○○○円については、平成22年8月9日付で当初その一部○○○○円につき未納消費税等の無申告加算税への委託納付をしたが、同月27日付でこの委託納付を取り消し、原処分庁が、同年9月16日付で合計○○○○円(別表4の順号4、5及び9)について、M税務署長から還付の引継ぎを受けた。
C 平成21年4月課税期間の消費税等について
 M税務署長は、確定申告により発生した○○○○円の還付金等のうち、○○○○円について、通則法第57条《充当》第1項の規定に基づき、平成22年8月9日付で、未納消費税等の本税に対する充当処分を行い、残りの○○○○円(別表4の順号1)については、原処分庁が、同年9月16日付でM税務署長から還付の引継ぎを受けた。
D 平成21年12月課税期間の消費税等について
 原処分庁は、確定申告により発生した○○○○円の還付金等(別表4の順号2)について、平成22年9月16日付でM税務署長から還付の引継ぎを受けた。
E 平成19年12月期の法人税について
 原処分庁は、減額更正処分により発生した本税○○○○円とこれに対応する納付済延滞税○○○○円の合計○○○○円の還付金等(別表4の順号3)について、平成22年9月16日付でM税務署長から還付の引継ぎを受けた。
F 平成20年12月期の法人税について
 M税務署長は、減額更正処分により減少することとなった○○○○円のうち、○○○○円について、既に原処分庁が徴収の引継ぎを受けていた別表1の順号1記載の未納本税を減額するための処理を行い、残りの○○○○円の還付金等(別表4の順号10)については、原処分庁が、平成22年9月16日付でM税務署長から還付の引継ぎを受けた。
ニ 原処分庁の処理
 原処分庁は、上記ハ(ロ)のとおりM税務署長から還付の引継ぎを受けた別表4記載の各還付金等に通則法所定の還付加算金を加算して、それぞれ平成22年9月28日付で、まる1別表5−1から5−3までに記載のとおり、通則法第57条第1項の規定に基づきそれぞれ充当処分を行い(以下、これらの充当処分を併せて「本件各充当処分」という。)、また、まる2別表6−1から6−6までに記載のとおり、それぞれ委託納付をした(以下、これらの委託納付を併せて「本件各委託納付」という。)。
ホ 審査請求
 請求人は、本件各充当処分及び本件各委託納付を不服として平成22年10月5日に審査請求をした。

トップに戻る

2 本件各委託納付の取消しを求める審査請求の適法性について

 通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項に規定する「国税に関する法律に基づく処分」とは、国税局長又は税務署長(以下「税務署長等」という。)の公権力の行使に当たる行為で、かつ、これにより直接国民の権利義務に影響を及ぼす法律上の効果を生ずるものをいうと解される。
 ところで、委託納付とは、納税者が、税務署長等に対し、その受領すべき還付金等により未納の国税等の納付を委託したものとみなされ、この委託に基づき税務署長等が当該還付金等を当該未納国税等に収納する手続を行うことをいい、これにより、法律上当然にその委託納付に相当する額の還付及び納付があったものとみなされる(地方税法附則第9条の10《譲渡割に係る充当等の特例》第1項から第4項まで)。
 そうすると、委託納付の効果は、法律上擬制される納税者自らの委託に基づくものであって、税務署長等による公権力の行使によるものではないから、本件各委託納付は「国税に関する法律に基づく処分」には該当しない。したがって、本件各委託納付に対する審査請求は不適法なものである。

トップに戻る

3 本件各充当処分について

(1) 関係法令

 別紙のとおりである。

(2) 主張

イ 原処分庁
 通則法第57条第1項に規定する充当は、相殺に類似する効力を有するところ、破産法は、第67条第1項において、破産債権を自働債権とする相殺を認め、破産財団が財団債権の総額を弁済するのに足りないことが明らかになった場合(以下「財団不足の場合」という。)でも相殺の担保的機能を保護しており、また、第100条第2項第2号において、破産債権である租税に対する還付金等の充当を無条件で認めている。そして、財団債権が破産債権に先立って弁済を受ける地位にあることが破産法第2条第7項に規定されていることから判断すれば、財団債権者は財団債権を自働債権、破産財団所属の債権を受働債権として相殺できると解され、破産財団に所属の還付金等も破産手続によらず財団債権である未納の国税に充当することができると解される。
 本件各充当処分に係る未納国税は、すべて財団債権に当たることから、通則法第57条第1項の規定に従って行った本件各充当処分は適法である。
ロ 請求人
 本件のように、財団不足の場合で、財団債権者へのあん分弁済が確実な事案においては、通則法第57条が、破産法の例外規定であることの具体的な明示(規定)がない以上、原処分庁は、破産法第148条及び第152条に定められた支払優先順位に従って充当しなければならない。
 すなわち、通則法第57条の規定は、破産法第148条に規定する最優先の財団債権である破産手続費用、破産管財人報酬の全額支払が確実になり、各財団債権者へのあん分支払額が確定するまで、原処分庁が還付を留保し、その後破産管財人からあん分支払額が通知されてから、その通知額に従い充当処理を行い、その他の還付金等を破産管財人へ支払うと解釈すべきである。したがって、原処分は、通則法第57条の解釈を誤り、破産法第148条及び第152条を無視した違法な処分である。

(3) 争点

 財団不足の場合に、破産手続によらないで財団債権である国税債権に還付金等を充当することができるか否か。

(4) 判断

イ 通則法第57条の規定による充当の機能
 通則法第57条第1項及び第2項の規定による充当は、納税者に還付すべき還付金等がある場合において、当該納税者につき納付すべきこととなっている国税があるときに、同法第56条第1項の規定による還付に代えて、当該還付金等を当該国税に充当するものであって、その効果は、充当をするのに適することとなった時にその還付金等に相当する額の国税の納付があったものとみなされるのであるから、その機能の面で、債権の一般的清算方法として民法に規定されている相殺と異なるところはないと解される(最高裁平成5年(行ツ)第22号平成6年4月19日第三小法廷判決・判例時報1513号94ページ参照)。
ロ 破産債権となる租税債権への還付金等の充当の可否について
 破産法第100条第1項は、破産債権は、破産法に特別の定めがある場合を除き、破産手続によらなければ、行使することはできない旨規定しながら、同条第2項第2号は、租税等の請求権についての徴収の権限を有する者による還付金等の充当については、同条第1項の規定を適用しない旨規定している。これは、破産法が破産債権である私債権について、それが優先的破産債権であるか劣後的破産債権であるかを問わず、原則として、相殺を制限しないこととしているところ(破産法第67条第1項)、租税債権が公法上の債権であるがゆえに私債権よりも不利益に取り扱われるべき理由はないことから、民法に規定されている相殺と同様の機能を営む還付金等の充当についても、還付金等が充当される租税債権が優先的破産債権であるか劣後的破産債権であるかを問わず、制限しないこととしたものと解される。そして、財団不足の場合には破産法第100条第2項第2号の規定を適用しない旨の規定はないから、財団不足の場合であるか否かを問わず、破産債権となる租税債権に還付金等を充当することができることとなる。
ハ 財団債権となる租税債権への還付金等の充当の可否について
 上記ロのとおり、破産債権となる租税債権への還付金等の充当の可否については、破産法第100条第2項第2号がこれを認め、財団不足の場合にその適用を制限する規定はないから、財団不足の場合であるか否かを問わず、破産債権となる租税債権に還付金等を充当することができるが、財団債権となる租税債権への還付金等の充当については、破産法は特に規定を置いていないため、その可否が問題となる。
 ところで、破産債権は、破産法に特別の定めがある場合を除き、破産手続によらなければ行使することができない(破産法第100条第1項)が、財団債権は、破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権であり(同法第2条第7項)、破産債権に先立って弁済されるものである(同法第151条)から、破産債権に優先して満足を受けられる債権である。これに、上記ロのとおり、財団不足の場合であるか否かを問わず、破産債権となる租税債権に還付金等を充当することができることを併せて考えると、財団債権となる租税債権に還付金等を充当できると解するのが相当である。
ニ 請求人の主張について
 請求人は、本件のように、財団不足の場合に還付金等の充当をすることは、財団債権者間の優先順位を変更することとなるので、最優先の財団債権である破産手続費用、破産管財人報酬の全額支払が確実になり、各財団債権者へのあん分支払額が確定するまで還付を留保し、その後、破産管財人からあん分支払額が通知されるのを待って、その通知額に従い充当処理を行うべきである旨主張する。
 しかしながら、財団不足の場合であるか否かを問わず、破産債権となる租税債権に還付金等を充当することができることは破産法の規定から明らかである。また、破産法第152条の規定は、現実に破産財団に組み入れられた又は組み入れられるべき財産の換価代金について適用されるものと解されるところ、破産債権者による相殺を許容する同法第67条第1項及び破産債権となる租税債権への還付金等の充当を許容する同法第100条第2項第2号の規定からすれば、破産者の破産債権者に対する債権が破産財団を構成するとしても、当該債権を取り立てた金員が現実に破産財団に組み入れられることは予定されておらず、当該債権が破産手続費用や破産管財人報酬の原資となることを破産法は予定していないと解するのが相当である。そして、財団債権が破産債権に優先して満足を受けるべき債権である以上、財団不足の場合であるか否かを問わず、財団債権となる租税債権に還付金等を充当することができると解するのが相当であって、この場合も、当該還付金等が現実に破産財団に組み入れられることを破産法は予定していないと解される。さらに、破産法第152条第1項本文及び第2項は、財団不足の場合に特定の財団債権については優先的に、その他の財団債権については債権額の割合により「弁済する」と規定しており、その文言に照らすと破産管財人の弁済方法について規定するものであって、還付金等の充当を制限するものではないと解するのが相当である。
 したがって、請求人の主張は採用できない。

(5) 以上のとおり、原処分には、争点についてこれを取り消すべき理由はない。
 また、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

トップに戻る