(平成23年8月2日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の関連会社が、請求人の各役員に支払った金員について、原処分庁が、当該金員は請求人が支払うべき給与であり、これを関連会社が支払ったことにより請求人に受贈益が生じたなどとして法人税の更正処分等をするとともに、当該各役員に対する給与の源泉徴収に係る所得税の納税告知処分等をしたのに対して、請求人が、その認定に違法があるとして更正処分等については一部の取消しを、納税告知処分等については全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 法人税の処分について
(イ) Z税務署長は、Y国税局長所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査(以下「本件調査」という。)に基づき、平成18年5月1日から平成19年4月30日まで及び平成20年5月1日から平成21年4月30日までの各事業年度(以下「平成19年4月期」などと略称し、各事業年度を併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、平成22年6月29日付で、別表1の「更正処分等」欄記載のとおりの各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各更正処分等」という。)をした。
(ロ) 請求人は、これらの各処分を不服として国税通則法(以下「通則法」という。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定により、平成22年8月23日に審査請求をした。
ロ 源泉徴収に係る所得税の処分について
(イ) Z税務署長は、平成19年4月及び平成21年4月の各月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について、平成22年6月29日付で、別表2記載のとおりの各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分(以下「本件各納税告知処分等」という。)をした。
(ロ) 請求人は、これらの各処分を不服として、平成22年8月27日に、異議申立てをした。
(ハ) 異議審理庁は、本件各納税告知処分等に対する異議申立てについて、通則法第89条《合意によるみなす審査請求》第1項の規定により審査請求として取り扱うことを適当と認めて請求人に同意を求めたところ、請求人は平成22年9月29日に同意したので、同日審査請求がされたものとみなされた。
ハ そこで、これらの審査請求について併合審理する。

(3) 関係法令

 別紙2のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、○○及び経営に関するコンサルテーション並びに○○○の研究開発及び製造販売等を目的として平成2年3月○日に設立され、G社、X及び同人の親族が全株式を保有する同族会社であり、代表取締役はXである。なお、G社は、X及び同人の親族が全株式を保有する同族会社である。
ロ H社は、○○○及び○○○の製造、○○用機械の製造販売等を目的とし、G社が全株式を保有する同族会社であり、本件各事業年度において、XとJがともに代表取締役を務めていたが、平成22年4月16日にJは代表取締役を退任するとともに取締役も辞任した。
ハ K社は、○○○及び○○○の製造販売などを業とし、請求人が全株式を保有する同族会社であり、代表取締役はXである。
ニ L社(以下、H社及びK社と併せて「本件各関連会社」という。)は、○○○の運営並びに○○○及び○○の研究開発及び販売等を目的とし、主として○○○などを業とし、Xの親族が資本金の全額を出資するM社が100%出資する同族会社であり、取締役はNである。なお、L社の顧客の大半は請求人の取引先である。
ホ 請求人及び本件各関連会社は、Xの長男であるPが全株式を保有し、代表取締役を務めるQ社との間で、Q社に対し、営業事務、経理事務及びその他これらに付帯する一切の業務を委託する業務委託契約を締結している。
ヘ H社は、平成19年4月23日に、請求人の取締役兼業務本部長でありK社の取締役でもあるRに対して、源泉所得税を含んだ額(以下「税込金額」という。)で1,000,000円(以下「第一金員」という。)を支払った。
 なお、H社は、第一金員の支払について、賞与の支払とする経理処理を行っているところ、同社の平成19年8月期の総勘定元帳の賞与勘定の摘要欄には、「褒賞金」と記載されている。
ト L社は、平成21年4月21日に、請求人の取締役兼営業二部部長であり請求人のc営業所に在籍するSに対して、税込金額で1,000,000円(以下「第二金員」という。)を、同月28日にRに対して、税込金額で500,000円(以下「第三金員」という。)をそれぞれ支払った。
 なお、L社は、第二金員及び第三金員の支払について、賞与の支払とする経理処理を行っているところ、同社の平成21年4月期の総勘定元帳の賞与勘定の摘要欄には、それぞれ「S 永年勤続賞金」及び「R 褒賞金」と記載されている。
チ K社は、平成21年4月21日に、請求人の取締役兼営業本部長であり請求人のd営業所に在籍するT(以下、R及びSと併せて「本件各取締役」という。)に対して、税込金額で1,000,000円(以下「第四金員」といい、第一金員、第二金員及び第三金員と併せて「本件各金員」という。)を支払った。
 なお、K社は、第四金員の支払について、賞与の支払とする経理処理を行っているところ、同社の平成21年4月期の総勘定元帳の賞与勘定の摘要欄には、「T 永年勤続賞金」と記載されている。
リ 請求人は、本件調査時には提出していない次の書類を審査請求書に添付して、当審判所に提出した。
(イ) L社とSの記名押印がされた、「商品開発および販売等に関するアドバイザリー業務合意書」と題する平成17年1月20日付の、Sが、L社に対して、アドバイザー業務を行い、L社がSに対して、その貢献によって得た実績数値により、10,000円から1,000,000円の委託料を一時金、賞与として支払う旨の書面、L社とRの記名押印がされ、当事者の表記がSからRに代わった以外は上記書面と同一の内容の書面、及び、当事者の表記がK社とTに代わり、その両名の記名押印がされている以外は上記各書面と同一の内容の書面(以下、上記3通の書面を「本件各合意書」という。)。
 なお、上記のL社の記名には、代表取締役としてNの名が記されている。
(ロ) 第一金員に関するRの記名押印がある平成22年7月30日付の陳述書(以下「R7月30日付陳述書」という。)及びJの記名押印がある同日付の陳述書(以下「J陳述書」という)。
 これらの各陳述書には、第一金員は、平成18年から19年にかけて、毎月2回、RがJに同行して営業指導を行ったことに対する対価である旨の記載がある。
(ハ) 第二金員に関するSの署名押印がある平成22年7月30日付の陳述書(以下「S陳述書」という)。
 同陳述書には、第二金員は、○○○に使う○○について、SがL社に情報提供したことに対する対価である旨の記載がある。
(ニ) 第三金員に関するRの署名押印がある平成22年7月29日付の陳述書(以下「R7月29日付陳述書」という)。
 同陳述書には、第三金員は、○○○業務の法令、○○などについて、RがL社に情報提供したことに対する対価である旨の記載がある。
(ホ) 第四金員に関するTの署名押印がある平成22年7月28日付の陳述書(以下「T陳述書」という)。
 同陳述書には、第四金員は、○○○について、TがK社に情報提供したことに対する対価である旨の記載がある。

(5) 争点

 本件各金員は、請求人が支払うべき本件各取締役に対する給与を本件各関連会社が支払ったものであるか否か。

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2 主張

(1) 原処分庁

イ 本件各金員は、次の理由から、請求人が支払うべき永年勤続賞金等の本件各取締役に対する給与を、本件各関連会社が負担したものと認められるから、請求人には受贈益が生じたものと認められる。
(イ) Rは、請求人の役員でありH社及びL社の役員又は従業員ではないところ、H社及びL社は第一金員及び第三金員について賞与とする経理処理を行っていた。また、S及びTも、請求人の役員でありL社又はK社の役員又は従業員ではないところ、L社又はK社は、第二金員又は第四金員について賞与とする経理処理を行っていた。
(ロ) 本件調査において、本件調査担当職員は、本件各金員の支払根拠となる資料の提示を再三にわたり依頼したにもかかわらず、請求人及び本件各関連会社からは具体的な資料の提出はなく、Xは曖昧な回答に終始した上、本件各合意書が存在することなどの説明もしなかった。
(ハ) 第二金員について、L社の総勘定元帳には「S 永年勤続賞金」と記載され、第四金員について、K社の総勘定元帳には「T 永年勤続賞金」と記載されていた。他方、これらの金員の支払に関して、請求人の平成21年4月期の「経費請求書」つづりにも、永年勤続賞(20年)の役員の部として、S及びTに対してそれぞれ1,000,000円を支払う旨が記載された紙がつづられていた。
(ニ) Xは、本件調査担当職員に対して、請求人ではなく本件各関連会社が本件各金員を支払った理由について「請求人が支払うと役員賞与になると聞いたからである。」旨返答した。
(ホ) Rが、H社に対して営業指導等の役務の提供等をした旨の主張は本件調査時において全くなかったことから、そうした事実もなかったというべきであり、また、仮に本件各合意書による合意があったとしても、本件各関連会社と本件各取締役がそのような契約を締結する合理的な理由はなく、本件各取締役には、本件各関連会社での従業員等としての勤務実態はなかったというべきである。
ロ 請求人の所得金額の計算上、本件各金員は、いったん役員給与として損金の額に算入されるものの、まる1定期同額給与、まる2事前確定届出給与及びまる3利益連動給与のいずれにも該当しないため、法人税法第34条第1項の規定により損金の額に算入されない。
ハ 源泉所得税については、請求人から本件各取締役に対して給与を支給したことになるから、本件各納税告知処分等は適法である。また、本件各関連会社が納付した本件各金員に係る源泉所得税については、還付手続を行った。

(2) 請求人

イ 本件各金員は、次のとおり、本件各関連会社が負担すべきものであるから、原処分庁が請求人の受贈益及び給与とした認定は誤りである。
(イ) 本件各金員の支払理由
A 第一金員は、Rが、当時H社の代表取締役であったJの依頼を受け、Jに同行して営業指導を行ったことに対する対価である。
B 第二金員は、SがL社に○○の情報提供を行った対価であり、第三金員は、RがL社に○○業務の法令、○○などの情報提供を行った対価であり、第四金員は、TがK社に○○○の情報提供を行った対価であり、いずれも本件各合意書による合意に基づく支払である。
 なお、本件各合意書については、本件調査時に提示要求されなかったため、提示しなかっただけである。
(ロ) L社若しくはK社の総勘定元帳又は請求人の「経費請求書」つづりにある「永年勤続賞金」若しくは「永年勤続賞」の記載は、経理担当者の記帳ミスである。
(ハ) 第二金員、第三金員及び第四金員は、本件各合意書による合意に基づく支払であり、同合意は、業務全般に対する無形のアドバイスを中核とするものであるから、その具体的な内容を証するのは困難である。
(ニ) 原処分庁の上記(1)イ(ニ)の主張は、請求人及び本件各関連会社は、役員に対し賞与を支払うことはなく、役員の業績貢献に対しては、翌年の役員報酬改訂時に前期の貢献度を考慮して報酬額を増減させることにしている旨の説明を、都合のいい部分だけを抜き出したものである。本件各金員の支払の決定主体は本件各関連会社である。
(ホ) 本件各取締役と本件各関連会社との間には雇用契約がなく、第一金員は営業指導を行ったことに対する対価であり、第二金員、第三金員及び第四金員は、本件各合意書による合意に基づくものであるから、原処分庁の上記(1)イ(ホ)の主張は、理由を欠く。
(ヘ) Rは、請求人及びK社の役員を兼務しているところ、原処分庁は何を根拠として第一金員及び第三金員がK社ではなく、請求人に対する寄附金と判断したのかを明らかにしていない。
ロ 本件各金員に係る源泉所得税について、本件各関連会社に対して源泉所得税の還付手続がなされるまでは二重課税の状態となったことから、本件各納税告知処分等は不当である。

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3 判断

(1) 第一金員について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ) 本件各事業年度において、請求人とH社との間には立替金の支払やその精算が存在するのみで直接の取引はなかった。
(ロ) J陳述書は、A4の紙を横長にして横書きで印字されたもので、左上にあて名、その下に1行分の空白を空けて、あて名と行頭をそろえた位置に、「陳述書」との題名が記載され、Rに第一金員を支払った旨、源泉徴収後の金額を送金した旨、RがJに同行して営業指導をした旨、第一金員が請求人の仕事と関係のない旨の記載があり、具体的には「直接100万円のお金(一時金報酬)を支払いました。」「100万円は、営業指導の代償として会社からJさんへ支払いしたものです。」との表現が用いられ、最後に「平成22年7月30日 H社 社長 J」との印字及び押印が左下にある。
(ハ) R7月30日付陳述書は、A4の紙を横長にして横書きでJ陳述書と同じ書体で印字されたもので、第一金員の支払を受けた旨、受領した金額が源泉徴収後のものであった旨、RがJに同行して営業指導をした旨、第一金員が請求人の仕事と関係のない旨の記載があり、具体的には「直接100万円のお金(一時金報酬)を頂きました。」との表現が用いられ、J陳述書と同じ位置にあて先、題名及び記名が配置されている。
(ニ) 本件調査時に原処分庁に提出された、Jの記名押印がある「一時金(賞与)支払いについて」と題する書面には、H社が第一金員を支払った理由として「H社の業績向上に多大な貢献をした」のみが記載されている。
(ホ) Rは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A H社は、○○○を販売しているが、売上げが減少していたので新規の取引先を開拓する必要があった。そこで、長年営業の仕事をしていた自分が、Jから営業の同行指導を依頼され、月に1、2回の割合で新規の○○○に営業を行った結果、5社ほどの新規の取引先を開拓することができた。第一金員は、この営業の同行指導に対する報酬である。
B 営業の同行指導の際に受領した取引先の名刺は、平成19年頃にJに引き継いだため、持っていない。
C 請求人において取締役業務本部長を務めているが、K社でも業務本部長として仕事をしており、K社の業務も請求人のa市の事務所で行っており、K社の仕事は全体の3割程度である。
(ヘ) Xは、本件調査担当職員に対し、本件各関連会社が本件各金員を支払う理由について、本件各取締役が本件各関連会社に対して貢献をしたので、本件各関連会社が支払うべき費用である旨回答し、その旨記載された資料を提出した。
 また、Xは、本件調査担当職員に対し、平成22年4月26日に、本件各金員について、前回までに資料を提出し説明しているので他に資料といわれても提出できる資料はない、本件各関連会社の拡販や業績向上に貢献した功績に対して本件各関連会社が支払った旨説明したほか、本件各金員に関する具体的な功績についての質問に対し、内容は先日提出した資料のとおりであり、第一金員、第二金員及び第三金員については、R及びSが業務として作業や手伝いを行ったから業績が向上した旨、第四金員については、Tが拡販をし業績を伸ばしてくれた旨説明したところ、本件調査担当職員から、本件各金員は、請求人では受贈益及び役員給与、本件各関連会社では寄附金となる旨を説明された。
 本件調査担当職員は、平成22年5月17日に、請求人の関与税理士から再度原処分庁の考え方について説明を求められたことから、上記と同様の説明を行い、さらに、同年6月15日に、同様の説明を行い、原処分を行う旨を説明したところ、Xから、後記(2)イ(ホ)のL社の代表者が第二金員及び第三金員について説明する書面を基に、同書面と同内容の説明がされた。
(ト) 当審判所は、H社に対し、営業指導の事実が確認できる証拠資料の提出を求めたところ、H社は、証拠資料は保存されていないとして、何らの資料も提出しなかった。
(チ) H社は、青色申告の承認を受け、継続的に青色の確定申告書を提出している。
ロ 判断
(イ) 第一金員に係る役務の提供について
A 上記イ(チ)のとおり、H社は、青色申告法人であるから、第一金員がRに対して何らかの役務提供の対価として支払われたのであれば、保存が義務付けられている帳簿書類にその旨を表す資料や記載が存在するはずであるのに、上記イ(ト)によれば、H社には営業指導の事実が確認できる資料は保存されておらず、上記1(4)ヘによれば、第一金員については、賞与や褒賞金であるなど支給相手が従業員や役員たる地位にあることを前提としてH社の経理処理がされ、これがRによる役務提供の対価であることをうかがわせる記載はない。また、仮にRがH社に対して何らかの役務の提供をしたのであれば、税務調査を受けている者としてはその旨を具体的に説明するのが通常であるところ、上記イ(ニ)及び(ヘ)のとおり、H社の代表者でもあるX及びH社は、第一金員の支払理由について、本件調査時には「H社の業績向上に多大な貢献をした」などの抽象的な説明をするにとどまっており、上記イ(ヘ)のとおり、本件調査担当職員から3回にわたって第一金員が請求人からの給与となる旨の説明を受けたのであるから、請求人にとってRの役務提供について具体的に説明する必要性が生じたといえ、かつ、説明の機会があったにもかかわらず、RがJに同行して営業指導したなどの具体的な役務の内容について説明していない。また、上記イ(イ)のとおり、請求人とH社との間に直接的な取引関係がない以上、Rが請求人の業務としてH社に対し何らかの役務提供をしたということも考えがたい。
 以上のH社に保管されている資料の状況、本件調査時のX及びH社の説明状況並びに請求人とH社の取引関係などの事実は、RがH社に対して何らかの役務提供をしていないことを示すものということができる。
B この点について、RがH社に対して営業指導という役務を提供した旨を内容とするJ陳述書、R7月30日付陳述書及び上記イ(ホ)のRの答述がある。
 しかしながら、J陳述書、R7月30日付陳述書及び上記イ(ホ)のRの答述は、いずれも、上記Aの客観的状況に整合しないから、そのまま信用することはできない。
 これに加えて、上記イ(ロ)のとおり、J陳述書には、第一金員について「会社からJさんへ支払いした」旨の記載があるが、第一金員は、H社からRに支払われているのであるから、この記述は「会社からRさんに支払した」などと記載すべきものを誤ったものと考えられるところ、この誤りは、陳述書を記載したJ本人が、自分の名前とRの名前を取り違えた上、自分の名前に敬称をつけたという、J自身の意思や認識に基づいて作成したのであれば通常発生し得ない不自然な表現ということができる。また、上記イ(ロ)のとおり、J陳述書には「平成22年7月30日 H社 社長 J」と記載されているが、上記1(4)ロによれば、Jは、平成22年4月16日にはH社の代表取締役を退任し取締役も辞任しているのであるから、この記載は、客観的事実に反する記載ということができる。以上のとおり、J陳述書には、作成名義人自身の意思や認識に基づいて作成されたのであれば通常起こり得ない、不自然な表現や客観的事実に反する記名がされているのであるから、この点からも、これをそのまま信用することはできないということができる。
 そして、上記イ(ロ)及び(ハ)に照らすと、R7月30日付陳述書は、用紙の使い方、文章の構成や表現、文字の書体、あて先、題名及び記名欄の配置等について、信用できないJ陳述書と酷似しているのであるから、この点からもやはりこれをそのまま信用することはできないということができる。
C 以上によれば、Rは、H社に対して何らかの役務を提供していないと推認することができる。
(ロ) 第一金員を負担すべき者について
 上記1(4)ヘのとおり、Rは、請求人及びK社の取締役であり、上記1(4)イからハまでのとおり、請求人、K社及びH社の代表者がいずれもXであることからすると、第一金員は、Rが請求人又はK社の取締役の地位にあることを理由に支払われた可能性があるものの、第一金員が、請求人又はK社の指示に基づいて支払われたことを認めるに足りる証拠はなく、上記イの認定事実など請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によって認定できる一切の事実をもってしてもRが取締役の地位にあることを理由に支払われたとまでいうことはできず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
 よって、第一金員については、何らかの役務提供の対価や請求人又はK社の役員の給与としてではなくH社からRに支払われたというべきであって、請求人が支払うべきRに対する給与をH社が負担したと認めることはできないから、請求人に受贈益が生じたとする原処分庁の主張は採用できない。

(2) 第二金員及び第三金員について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ) L社の資本金の全額を出資しているM社は、Xの長女が代表者であり、Xの3人の娘によって資本金の全額が出資されている。
 また、L社の取締役として、gが登記されているほか、Nが平成17年1月31日に就任した旨が同年2月16日付で登記されている。
(ロ) 請求人の平成21年4月期の「経費請求書」つづりには、次の記載がある書面がつづられている(●は文字の判別できない部分である。)。

●成21年度出陣式表彰者
特別表彰      
●別功労賞並びに永年勤続賞(20年) 役員の部 T 1,000,000
  S 1,000,000
●労賞 永年勤続賞(20年) 社員の部 U 100,000
  V 100,000

 また、当該書面には、「●労賞」の印字の上に重ねて二重線が引かれているほか、「4/23支払済」と記載されている。
 なお、請求人からT及びSに対して、上記の金員が支払われた事実はない。
(ハ) L社は、請求人に対し、特定の商品の売上高に応じた業務委託手数料を支払っており、その額は、L社の各期の売上高のおおよそ4割から6割程度である。
(ニ) L社は、同社の平成21年4月期において、K社に対する○○及び原料の品質管理業務の対価として毎月100,000円を業務委託手数料として、また、同社に対する品質チェックに使用する器具、試験用薬剤などの消耗品代として毎月50,000円を研究委託料として経費に計上している。
(ホ) 本件調査時に原処分庁に提出された平成22年5月26日付L社代表取締役N作成名義の書面には、要旨次の記載がある。
A L社は、業務委託手数料を毎月請求人に支払っている。これは、請求人が、L社の仕事(○○○を除く。)である、まる1○○○の保管管理、まる2○○○の配達、まる3伝票発行及びまる4代金の回収を行ったことに対する対価である。
B L社は、請求人との間の約束事として、報奨金、作業服代及び必要な経費などを請求人の社員に直接支払うことを認めている。
(ヘ) Nの署名がある平成21年4月1日付の「一時金(賞与)支払いについて」と題する2通の書面には、第二金員及び第三金員をL社が支払った理由について、SとRが、それぞれ「L社の業績向上に多大な貢献をした功労者」である旨が記載されている。
(ト) Nの記名がある平成22年7月30日付の「一時金(賞与)支払理由について」と題する書面には、第二金員をL社が支払った理由について、「業績向上に多大な貢献をした功労一時金(賞与)として」である旨が記載されている。
(チ) Nは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 自分は、6、7年前に請求人に入社し、請求人の従業員であったが、グループ内の各法人の総務及び人事関係の仕事を担うQ社に転籍となった。平成23年1月現在は、L社の代表取締役であり、Q社の総務部長でもある。
B L社は、○○でなければ作ることができない○○○を製造している。
C 請求人とL社との間に業務委託契約があるのに、R及びSとアドバイザリー契約をした理由は、両取締役がベテランで業務をよく分かっているからである。
D Sに第二金員を支払った理由は、同人の貢献によりL社が販売する○○の売上げが増えたことを評価したものである。
E Rは、原材料の仕入れや法令関係に詳しいので、原材料の購入時期や価格の情報及び○○法等の改正に関する情報等を提供してもらっている。
F 平成17年1月20日付のアドバイザリー契約書に自分の名前が代表取締役として記載されているところ、法人登記上取締役になったのが平成17年1月31日であるのは、登記手続上の問題と思う。
(リ) Sは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 請求人に入社したのは、平成2年の6月か7月頃である。
B 平成17年頃、d県にある大口取引先から○○○に関し様々な要望があった。その要望に答えるため、L社の業務に従事することが増えたことから、合意書を作成することとなった。
C S陳述書にある「○○についての情報提供」とは、○○方法の情報を提供するということではなく、○○○を見てどのような症状なのかを○○に報告するといったことである。
 ○○の診断が必要な病気が発生した場合には、L社の○○の手配をする。
D L社の仕事は、○○○を回るという請求人の業務の中で発生するものであり、請求人の許可をとって行うというものではない。
(ヌ) Rは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
 L社には従業員がいないので、常に請求人の社員が業務を手伝っている。L社が請求人に支払う業務委託手数料は、このような日常のルーティン的な業務に対するものである。他方、自分がアドバイザリー契約に基づき、L社に関して行う業務は、法令、○○などの情報提供といった非ルーティンの業務である。具体的には、年数回開催される講習会に参加し、そこで得た法令、○○などの情報をL社の業務に従事するT、S及びNなどに教えるというようなものである。
(ル) Xは、当審判所に対し、要旨次の内容の書面を提出した。
A 請求人及び本件各関連会社の間では、それぞれの役員及び従業員が、日常的にグループ内の各法人の業務を手伝っている。手伝った従業員等が立て替えて支払った費用等(例えば、交通費、実験の経費等)については、その従業員等が、手伝いをした先の会社に請求し、それぞれの会社が、その従業員等に支払っている。このような精算方法については、特に、書面で取り決めているということではなく、グループ内の各法人間の合意により継続してそのような取扱いをしてきた。
B L社には、社長のほか○○2名しかいないため、日常的に請求人の役員及び従業員がその業務を手伝っている。これらの業務に係る報酬及び経費等の支払について、請求人とL社との間に業務委託契約書や合意書などはないが、L社が設立された平成12年から、ずっとそのようにやってきた。
C 本件調査時に本件各取締役と本件各関連会社との間に合意があることは説明したが、本件各合意書があることまでは説明しなかった。
ロ 判断
(イ) 第二金員について
A 第二金員に係る役務の提供について 
 上記イ(ハ)、(ホ)、(ヌ)及び(ル)によれば、請求人の役員及び従業員は、日常的にL社の○○○以外の業務を手伝い、これに対してL社は、毎月請求人に多額の業務委託手数料を支払ってきたというのであるから、請求人とL社との間には、○○○以外の業務について包括的な業務委託契約があったというべきである。なお、上記イ(ホ)及び(ヌ)のとおり、L社が請求人に委託していた業務内容が限定的なものである旨のN作成の書面と、L社の請求人に対する業務委託が日常のルーティン業務に関するものである旨のRの答述があるが、上記イ(ル)Bによれば、L社には代表者のほか○○が2名在籍するのみであって、○○○でない限り、ルーティン業務であるか否かにかかわらず業務全般を他者に委託しなければ経営できない状況にあったといえ、かかる状況下で請求人に業務委託をしたというのであるから、上記の業務委託契約が、ルーティン業務か否かなど委託する業務をしゅん別して特定の業務を委託したものである旨のNの書面及びRの答述は信用できず、かかる証拠があっても、上記判断は左右されない。
 そして、L社との関係でSが行ったことは、上記イ(リ)C及びDによれば、請求人の業務として○○○を回る中で、○○○を見て、○○の症状などをL社の○○に報告するというものであり、さらに、○○○が必要な事態が生じたときにはL社の○○を手配するというものであると認められる。すなわち、SがL社に対して提供した役務は、○○○を回るというSが担当する請求人の日常の営業業務の中でなされた○○○に対する○○○行為の要否の判断材料を取得し、必要があれば○○の手配をするというL社の業務の範囲内の行為であるから、上記の包括的な業務委託契約の対象となる業務といえ、Sが個人として行ったものではなく、請求人の業務として行ったものであると認められ、L社は、請求人に支払うべき業務委託手数料とは別にSに対して報酬を支払う特段の理由は認められないのであり、第二金員を支払うことに合理的な理由はないというべきである。
B 第二金員を負担すべき者について
 上記1(4)トのとおり、L社の平成21年4月期の総勘定元帳の賞与勘定には「平成21年4月21日 S 永年勤続賞金 1,000,000」などの記載があり、上記イ(ロ)のとおり、請求人の「経費請求書」つづりにも、平成21年4月にSに対して勤続20年の永年勤続賞として1,000,000円を支払う旨の記載がある書面がつづられていることからすると、第二金員は、Sに対する永年勤続賞として支払われたものであることがうかがわれる。そして、上記2(2)イ(ホ)のとおり、SとL社との間に雇用関係のないことは争いがなく、上記Aによれば、Sの行ったL社に関する業務については、同社との包括的な業務委託契約に基づく請求人の業務であることからすると、L社の総勘定元帳の記載をもってSがL社の従業員であるとはいえないから、L社がSに給与を支払う理由は認められない。一方、上記イ(リ)Aによれば、Sは平成2年頃請求人に採用されたのであり、第二金員の支払時の平成21年にはSの請求人における勤務が20年目に入ることが認められるところ、上記イ(ロ)のとおり、請求人がSに対して勤続20年の永年勤続賞の金員を支払った事実はない。これに加えて、上記イ(イ)のとおり、L社は、請求人の代表者であるXの親族が資本金の全額を出資している法人の100%出資法人であり、また、上記イ(チ)Aのとおり、L社の取締役は、請求人から転籍し請求人及び本件各関連会社の総務及び人事などの主要な任務を担うNである。これらのことを併せて考慮すると、第二金員は、Sの請求人における勤続20年を原因として支払われた給与であり、請求人がSに支払うべき給与をL社に支払わせたと認めるのが相当である。
 そうすると、第二金員については、請求人が支払うべき給与をL社が負担したことにより、請求人には受贈益が生じたものと認められる。
C 請求人の主張について
(A) これに対し、請求人は、第二金員はL社とSとの間の合意に基づく役務の提供の対価の支払であって請求人に係る支払ではないなどと主張し、これに沿う証拠として本件各合意書及びS陳述書等を提出する。
(B) しかしながら、上記1(4)リ(イ)によれば、L社とSとの間で取り交わされたとする平成17年1月20日付の合意書には、L社の代表取締役としてNの記名がされているところ、上記イ(イ)によれば、同人は、平成17年1月31日にL社の取締役に就任したことが認められ、取締役就任の前に代表取締役の名称を用いて合意文書を取り交わしたことになり不自然であって、この点に関する上記イ(チ)FのNの説明は合理的なものではない。
(C) また、本件各合意書は、本件調査時において存在したのであれば、調査を受ける者としては自らの正当性を主張するために提出するのが通常であるのに、上記(1)イ(ヘ)のとおり、Xは、提出した資料のほかに提出できる資料はない旨説明して提出せず、さらに、上記(1)イ(ヘ)及び上記(2)イ(ル)Cのとおり、3回にわたり請求人の主張に反する調査結果が開示されたという状況下においては、本件調査担当職員から提出要求がなくとも、請求人に受贈益が存在しないことを示すために本件各合意書を提出するのが通常であり、3回の説明の間にある程度の期間があった以上、これが容易に提出し得るものであり、提出する機会もあったといえるにもかかわらず提出していないから、本件調査時において、本件各合意書が存在していたことに疑問がある。以上によれば、本件調査時における本件各合意書の存在又は成立に疑義があるというべきであり、信用できない。S陳述書については、上記1(4)リ(ハ)のとおり、自己の業務を情報提供であると抽象的にしか説明せず、上記Aの同契約の内容やSの役務の内容といった客観的状況に整合しないのであるから、これをそのまま信用することはできない。そして、上記イ(ヘ)及び(ト)のNの署名又は記名のある各書面にも第二金員を支払った理由が記載されているが、上記Aの客観的状況に照らすと、これをもって上記Bの判断が左右されるものではない。
 これらのことを併せて判断すると、請求人の主張は採用できない。
 また、請求人は、L社の総勘定元帳などに永年勤続賞金などと記載されていることについては担当者の記載ミスである旨主張するが、上記Bのとおり、総勘定元帳等の資料にされた第二金員が永年勤続賞金として支払われた旨の記載はSの勤務実績に沿っているのであるから、これが担当者の記載ミスであるとは考え難く、この点に関する請求人の主張も採用できない。
(ロ) 第三金員について
A 第三金員に係る役務の提供について
 上記イ(チ)E及び(ヌ)によれば、RがL社との関係で行った業務は、○○法等の法令改正の情報、材料の価格に関する情報等の提供であったと認められ、上記1(4)ニ及び上記イ(チ)Bによれば、L社が○○○等の製造を業務の一つとしていることが認められることを併せて考えると、上記Rの業務は○○○等の製造に不可欠な準備行為であって、L社の通常業務の一つであり、上記(イ)Aの包括的な業務委託契約の対象となる業務であるというべきである。そして、上記(1)イ(ホ)Cのとおり、Rが請求人において業務本部長として請求人の業務全般を担当していることを併せて考慮すると、RがL社との関係で行った業務は、包括的な業務委託契約を離れてL社の業務に従事したというものではなく、包括的な業務委託契約に基づいて行われた請求人の業務であると認められる。
 そして、上記イ(ハ)によれば、L社は、包括的な業務委託契約に基づく業務委託手数料を支払っている以上、Rの提供した役務の対価がL社から請求人に対して支払済みであるということができるから、第三金員はRの提供した役務の対価ではなく、L社が請求人に支払うべき業務委託手数料とは別にRに対して報酬を支払う特段の理由はないのであって、第三金員を支払うことに合理的な理由はないというべきである。
 なお、上記イ(ニ)のとおり、L社とK社との間にも業務委託契約などがあったと認められるが、その業務内容は、○○の品質管理などといった特定の業務に係るものであって、Rが行ったとされる○○法等の法令改正の情報、材料の価格に関する情報の提供等とは内容を異にするものであるから、Rが提供した役務がK社との業務委託契約に基づく業務として行われたものとはいえない。
B 第三金員を負担すべき者について
 以上のとおり、第三金員はRの提供した役務の対価ではなく、L社の支払うべき金員ではないところ、上記1(4)ヘのとおり、Rは請求人及びK社の取締役であり、上記イ(イ)のとおり、L社は、請求人の代表者であるXの親族が資本金の全額を出資している法人の100%出資法人であり、また、上記イ(チ)Aのとおり、L社の取締役は、請求人から転籍し請求人及び本件各関連法人の総務及び人事などの主要な任務を担うNであることからすると、第三金員は、Rが請求人又はK社の取締役の地位にあることを理由に支払われた可能性が高い。
 そして、上記(イ)Aのとおり、請求人とL社との間には包括的な業務委託契約があり、上記Aのとおり、Rがその契約に基づき請求人の業務としてL社に対して役務を提供しているのに対し、RはK社の業務としてはL社に対して役務を提供していない。こうしたL社に対するRの役務の提供における請求人とK社の差異に上記のL社の出資者や取締役の状況を併せて考慮すると、第三金員は、請求人がRに支払うべき給与をL社に支払わせたと認めるのが相当である。
 そうすると、第三金員については、請求人が支払うべき給与をL社が負担したことにより、請求人には受贈益が生じたものと認められる。
C 請求人の主張について
 これに対し、請求人は、上記1(4)リのとおり、本件調査時には提出していない本件各合意書やR7月29日付陳述書を提出するなどして、第三金員はL社とRとの間の合意に基づく役務の提供の対価の支払であって請求人に係る支払ではないなどと主張するが、上記1(4)リ(ニ)によれば、R7月29日付陳述書もS陳述書と同様の内容を有するものであるから、請求人の主張を採用できないことは、上記(イ)Cと同様である。

(3) 第四金員について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ) K社の売上高のうち請求人に対するものは、約6割から7割である。また、K社から請求人に対する業務委託料の支払はない。
(ロ) 本件調査時に原処分庁に提出された、Xの署名がある平成21年4月1日付の「一時金(賞与)支払いについて」と題する書面には、K社が第四金員を支払った理由として、「長年にわたり、K社製品の拡販に多大な貢献をした功労者」のみが記載されている。
(ハ) 当審判所に提出された、Xの記名がある「T様設計○○○」と題する書面には、「K社 W商品 20年5月〜21年4月 販売数 131t 売上金額 3944万円 粗利額 ○○○○万円」と記載されている。
(ニ) Tは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 請求人に入社したのは平成2年の7月か8月頃である。
B K社に対しては、年に数回程度○○○の成分に関してアドバイスをしてきた。
 W商品は、既存の製品から良い成分を抽出し、さらに内容に変更を加えて設計したものである。また、○○の専門家ではないが、これまで培ったノウハウで成分の配合割合が分かるので、その割合等のデータも提供した。
 そのほか大学の先生から○○○に係る情報をもらい、この情報をK社に提供したこともある。
C W商品の設計以外にも、もろもろ助言したことがあるし、自分以外の営業所の各職員も助言はしていると思う。
(ホ) Xは、当審判所に対し、要旨次の内容の書面を提出した。
 ○○の現場でどのような○○○が必要とされているかなどの情報は、e県では分からないため、現場にいるTがそのような情報を収集しK社に提供している。これにより、K社の売上げが増加したので、これを評価して、第四金員が支払われたものである。
ロ 判断
(イ) 第四金員に係る役務の提供について
A 上記1(4)ハ及び上記イ(イ)のとおり、請求人とK社との関係をみると、請求人はK社の親会社であり、同社の○○○や○○○を仕入れてこれを販売しているところ、K社の売上げの大半は請求人に対するものである。また、上記(2)イ(ル)A並びに上記イ(ニ)B及びCのとおり、Tだけでなく請求人の従業員からもK社に対しては日常的に製品に関する情報の提供等が行われていると認められる。以上からすれば、請求人とK社との関係は、販売会社と系列メーカーとの関係にあるということができる。
B そして、販売会社と系列メーカーという関係においては、一般に、販売会社が系列メーカーに対して顧客のニーズ等の様々な情報等を伝え、系列メーカーの商品開発に資する等のことは、新たに開発された商品を販売会社において販売し、その業績向上につながることであるから、特段の業務提携契約や業務委託契約を締結するまでもなく、販売会社の業務の一つというべきである。これを踏まえ、第四金員に関してTが行った業務が、上記1(4)リ(ホ)並びに上記イ(ニ)B及びCのとおり、○○の成分の配合に関する情報の提供であって、必ずしも○○の専門家でなくともある程度のノウハウがあればできるというものであり、また、請求人の営業所の各職員も日常的に各種の助言等をしていることを考えると、TからK社にされた役務の提供は、請求人の業務として行われたというべきである。
C そうすると、K社は、Tに対して報酬を支払う特段の理由は認められないのであり、第四金員を支払うことに合理的な理由はないというべきである。
(ロ) 第四金員を負担すべき者について
 上記1(4)チのとおり、平成21年4月期のK社の総勘定元帳の賞与勘定には「平成21年4月21日 T 永年勤続賞金 1,000,000」との記載があり、上記(2)イ(ロ)のとおり、請求人の「経費請求書」つづりにも、平成21年4月にTに対して勤続20年の永年勤続賞として1,000,000円を支払う旨の記載がある書面がつづられていることからすると、第四金員は、Tに対する永年勤続賞として支払われたものであることがうかがえる。そして、上記2(2)イ(ホ)のとおり、TとK社との間に雇用関係のないことは争いがなく、上記(イ)Bによれば、Tの行ったK社に関する業務については、同社と請求人との継続的な取引関係を背景に行われた請求人の業務であることからすると、K社の総勘定元帳の記載をもってTがK社の従業員であるとはいえないから、K社がTに給与を支払う理由は認められない。一方、上記イ(ニ)Aによれば、Tは平成2年頃請求人に採用されたのであり、第四金員の支払時の平成21年には、Tの請求人における勤務が20年目に入ることが認められるところ、上記(2)イ(ロ)のとおり、請求人がTに対して勤続20年の永年勤続賞の金員を支払った事実はない。これに加えて、上記1(4)ハのとおり、K社は、請求人の代表者であるXが代表を務め、請求人が全株式を保有する法人である。これらのことを併せて考慮すると、第四金員は、Tの請求人における勤続20年を原因として支払われた給与であり、請求人がTに支払うべき給与をK社に支払わせたと認めるのが相当である。
 そうすると、第四金員については、請求人が支払うべき給与をK社が負担したことにより、請求人には受贈益が生じたものと認められる。
(ハ) 請求人の主張について
 これに対し、請求人は、第四金員はK社とTとの間の合意に基づく役務の提供の対価の支払であって請求人に係る支払ではないなどと主張し、これに沿う証拠として本件各合意書及びT陳述書等の書面を提出するが、請求人の主張を採用できないことは、上記(2)ロ(イ)C(C)と同様である。また、上記イ(ロ)及び(ハ)の各書面に本件金員を支払った理由等が記載されているが、上記(イ)の客観的状況に照らすと、これをもって上記(ロ)の判断が左右されるものではない。

(4) 役員給与の損金不算入について

イ 法令解釈
 法人税法第34条第1項は、役員に対して支給する給与(使用人としての職務を有する役員(以下「使用人兼務役員」という。)に対して支給する当該職務に対するものを除く。)のうち、一定の要件に該当しないものの額は損金の額に算入しない旨規定していることからすると、使用人兼務役員に対して支給する給与については、使用人と同一の基準で算出されるなど使用人としての職務に対する給与と認められるものについては損金の額に算入できるものの、使用人の職務に対して支給する給与ではなく、役員の職務に対して支給する給与については損金の額に算入できないと解される。
ロ 判断
 上記(2)ロ(イ)B及び(ロ)B並びに上記(3)ロ(ロ)のとおり、第二金員、第三金員及び第四金員は、請求人が支払うべき給与と認められるところ、これらの金員が損金の額に算入できるか否かについて、以下、判断する。
(イ) 本件各取締役は、上記1(4)へからチまでのとおり、Rは取締役兼業務本部長、Sは取締役兼営業第二部長及びTは取締役兼営業本部長であり、それぞれ使用人としての職制上の地位を有していることから使用人兼務役員に該当すると認められる。
(ロ) ところで、上記(2)イ(ロ)によれば、平成21年4月に、本件各取締役以外の純然たる使用人にも第二金員、第三金員及び第四金員と同様の性質を有する金員を支払っていることがうかがわれるところ、役員に対して支給する額と従業員に支給する額との間には格差がある上、役員分と使用人分についての算定根拠も明らかでないなどこれが使用人と同一の基準で算出されたと認めるに足りる証拠がないことからすれば、第二金員、第三金員及び第四金員は、使用人としての職務に対する給与と認めることはできない。
(ハ) そうすると、第二金員、第三金員及び第四金員は、本件各取締役の役員としての地位に基づいて支給されたというべきであるところ、法人税法第34条第1項に定めるいわゆる定期同額給与、事前確定届出給与及び利益連動給与のいずれにも該当しないと認められることからすると、その他の点については判断するまでもなく、その全額が損金の額に算入されない。

(5) 本件各更正処分等について

イ 平成19年4月期
 上記(1)ロ(ロ)のとおり、第一金員は、請求人が支払うべきRに対する給与をH社が負担したと認めることはできないから、平成19年4月期の法人税の更正処分は、その全部を取り消すべきである。なお、この結果、繰越欠損金額が1,000,000円増加する。
ロ 平成21年4月期
 上記(2)ロ(イ)B及び(ロ)B並びに上記(3)ロ(ロ)のとおり、第二金員、第三金員及び第四金員については、請求人に受贈益が生じたところ、上記(4)ロ(ハ)のとおり、その全額が損金の額に算入できない。
 しかしながら、上記イのとおり、平成19年4月期の繰越欠損金額が1,000,000円増加することに伴い、平成21年4月期の欠損金の当期控除額が1,000,000円増加する。その結果、平成21年4月期の法人税額及び過少申告加算税の額は原処分の額を下回るから、いずれもその一部を別紙1の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(6) 本件各納税告知処分等について

イ 平成19年4月分の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分について
 上記(1)ロ(ロ)のとおり、第一金員については、請求人からRに対して支給すべき給与とは認められないから、平成19年4月分の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分はその全部を取り消すべきである。
ロ 平成21年4月分の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分について
 上記(2)ロ(イ)B及び(ロ)B並びに上記(3)ロ(ロ)のとおり、第二金員、第三金員及び第四金員は、請求人が支払うべき給与と認められるから、これを前提として行われた平成21年4月分の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分は適法である。
ハ 請求人の主張について
 請求人は、本件各関連会社は本件各金員に係る源泉所得税を納付しているところ、本件各関連会社が納付した源泉所得税が還付されるまでは、一時的にも二重課税の状態になっているから、本件各納税告知処分等が不当である旨主張する。
 しかしながら、第二金員、第三金員及び第四金員に係る納税告知処分が適法であることは上記ロのとおりであるところ、本件各関連会社が納付した源泉所得税の還付の手続は、本件各納税告知処分等とは別個の手続であり、還付の要否や還付手続の遅延の有無は、本件各納税告知処分等の適法性及び正当性の判断に影響を及ぼすものではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 なお、本件各関連会社が納付した源泉所得税の還付の手続は、平成22年7月28日までに終了している。

(7) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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